(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142279
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】リフトアップ装置およびこれを備えた建築物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042399
(22)【出願日】2021-03-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】503032795
【氏名又は名称】株式会社ホリ・コン
(71)【出願人】
【識別番号】319001776
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 稔
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA07
2E139AB16
2E139AC04
2E139AD01
2E139AD03
2E139AD08
(57)【要約】
【課題】単純な構造で、建物本体を安定に昇降させることができるリフトアップ装置およびこれを備えた建築物を提供する。
【解決手段】出水時に建物本体12をリフトアップさせるリフトアップ装置13であって、基礎11上に固定される下部水平リンク31と建物本体12が載置される上部水平リンク32との間に渡したXリンク33を、動作機構部34により開閉脚動作させるXリンク機構21の一対を、平行に対峙させて成り、各動作機構部34は、一方の半部側に右雄ネジ37aを形成し他方の半部側に左雄ネジ37bを形成したリードネジ37と、リードネジ37に螺合すると共に、Xリンク33の両上端部が回動自在に連結された右雌ネジ部材41および左雌ネジ部材42と、を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と建物本体との間に介設され、出水時に前記建物本体をリフトアップさせるリフトアップ装置であって、
前記基礎上に固定される下部水平リンクと前記建物本体が載置される上部水平リンクとの間に渡したXリンクを、動作機構部により開閉脚動作させて前記下部水平リンクに対し前記上部水平リンクを昇降させるXリンク機構の一対を、相互に平行に対峙させて成り、
前記各動作機構部は、
前記上部水平リンクに添設され、延在方向の一方の半部側に右雄ネジを形成し他方の半部側に左雄ネジを形成したリードネジと、
前記リードネジの前記右雄ネジおよび前記左雄ネジに螺合すると共に、前記Xリンクの両上端部が回動自在に連結された右雌ネジ部材および左雌ネジ部材と、を有することを特徴とするリフトアップ装置。
【請求項2】
一対の前記動作機構部を駆動させる単一の駆動モータと、
前記駆動モータの回転動力を分岐し、一対の前記リードネジに伝達する動力伝達機構と、を有することを特徴とする請求項1に記載のリフトアップ装置。
【請求項3】
出水時における前記建物本体と水面との距離を検出する水位センサーと、
前記駆動モータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記水位センサーの検出結果に基づいて、前記建物本体の下端と水面との距離が所定の距離となるように前記駆動モータを制御することを特徴とする請求項2に記載のリフトアップ装置。
【請求項4】
前記上部水平リンク同士を連結すると共に、前記建物本体が載置される水平載置ベースと、
前記水平載置ベースと前記建物本体との間に介設され、前記建物本体への地震動を減衰する免震装置と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のリフトアップ装置。
【請求項5】
前記水平載置ベースに添設され、出水時に、前記水平載置ベースを介して一対の前記上部水平リンクに浮力を付与するフロートを、備えたことを特徴とする請求項4に記載のリフトアップ装置。
【請求項6】
前記上部水平リンクおよび前記下部水平リンクの一方に設けられた凹ブロックと他方に設けられた凸ブロックとから成り、前記上部水平リンクが下降端位置に達した状態で接合する着座ブロックを、備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のリフトアップ装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のリフトアップ装置の複数台と、
複数台の前記リフトアップ装置が固定された前記基礎と、
複数台の前記リフトアップ装置に載置された前記建物本体と、を備えたことを特徴とする建築物。
【請求項8】
前記建物本体の平面視コーナー部の屋内側および屋外側のいずれか一方に配設され、前記建物本体の前記リフトアップをガイドする複数のガイド支柱を、備えたことを特徴とする請求項7に記載の建築物。
【請求項9】
建築設備用の複数種の設備配管を備え、
前記各設備配管は、前記基礎側の屋外配管と前記建物本体側の屋内配管とを繋ぐ繋ぎ配管を有し、
前記繋ぎ配管は、略「く」字状に深く屈曲する定常時の屈状態と、浅く屈曲するリフトアップ時の伸状態との間で変形可能に構成されていることを特徴とする請求項7または8に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎と建物本体との間に介設され、出水時に建物本体をリフトアップするリフトアップ装置およびこれを備えた建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリフトアップ装置として、津波用の避難装置に適用したものが知られている(特許文献1参照)。
この避難装置における第1実施形態のものでは、X字形に連結したリンク組を含む昇降機構と、油圧シリンダを含み昇降機構を駆動する昇降駆動手段と、を備えている。昇降機構は、避難者を収容するための避難収容体が設けられた昇降台を昇降するものであり、昇降台に取り付けた上固定支点軸および上ガイドレールと、基盤上に設置した下固定支点軸および下ガイドレールと、これらを連結するX字形のリンク組とを有している。リンク組の一方の上端部は上固定支点軸に回動自在に、他方の上端部はローラーを介して上ガイドレールに移動自在に支持されている。同様に、リンク組の一方の下端部は下固定支点軸に回動自在に、他方の下端部はローラーを介して下ガイドレールに移動自在に支持されている。一方、油圧シリンダは基盤に固定され、その先端部が下ガイドレールに設けたローラーに連結されている。油圧シリンダを駆動し、下ガイドレールに沿ってローラーを移動させると、リンク組が、上固定支点軸および下固定支点軸側に寄りながら閉脚動作する。これにより、昇降台が上昇し避難収容体が持ち上げられる。
第2実施形態のものでは、上ガイドレールを兼ねる昇降台の前後中間位置にガイド支柱が設けられ、昇降台がガイド支柱に案内されて昇降するようになっている。また、リンク組の両上端部は、それぞれローラーを介して上ガイドレールに移動自在に、両下端部も、それぞれローラーを介して下ガイドレールに移動自在に支持されている。そして、油圧シリンダは、リンク組の下端部間に掛け渡すように設けられている。油圧シリンダを駆動すると、各ローラーがガイド支柱に向かって水平に移動し、リンク組が閉脚動作する。これにより、昇降台がガイド支柱に案内されて上昇し、避難収容体が持ち上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の避難装置における第1実施形態のものでは、X字形のリンク組による昇降台(避難収容体)の前後方向の支持中心が、開閉脚動作に伴って移動するため、避難収容体の支持が不安定になるおそれがあった。また、第2実施形態のものでは、昇降台(避難収容体)の前後方向の支持中心が移動しないようにガイド支柱を設けており、構造が複雑になる問題があった。しかも、油圧シリンダを動力源としているため、設備が大掛かりとなる問題があった。
【0005】
本発明は、単純な構造で、建物本体を安定に昇降させることができるリフトアップ装置およびこれを備えた建築物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリフトアップ装置は、基礎と建物本体との間に介設され、出水時に建物本体をリフトアップさせるリフトアップ装置であって、基礎上に固定される下部水平リンクと建物本体が載置される上部水平リンクとの間に渡したXリンクを、動作機構部により開閉脚動作させて下部水平リンクに対し上部水平リンクを昇降させるXリンク機構の一対を、相互に平行に対峙させて成り、各動作機構部は、上部水平リンクに添設され、延在方向の一方の半部側に右雄ネジを形成し他方の半部側に左雄ネジを形成したリードネジと、リードネジの右雄ネジおよび左雄ネジに螺合すると共に、Xリンクの両上端部が回動自在に連結された右雌ネジ部材および左雌ネジ部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、下部水平リンクに対し上部水平リンクを昇降させるXリンクの開閉脚動作は、右雄ネジおよび左雄ネジを形成したリードネジにより為される。例えば、リードネジを右回転させれば、右雄ネジに螺合する右雌ネジ部材と左雄ネジに螺合する左雌ネジ部材とが相互に近接移動して、Xリンクが閉脚動作し、左回転させれば、右雌ネジ部材と左雌ネジ部材とが相互に離間移動して、Xリンクが開脚動作する。このXリンクの開閉脚動作は、Xリンクの回転待遇を中心に為されるため、昇降動作中において、上部水平リンクおよび下部水平リンクは、Xリンクを介して、常に左右対称となる2点で建物本体を支持することとなる。このため、建物本体が載置される上部水平リンクは、ガイドを必要とすることなく、鉛直方向に安定に平行移動する。したがって、単純な構造で、建物本体を安定に昇降させることができる。また、ネジ機構により建物本体を昇降させる構造であるため、昇降を効率良く行うことができると共に、リードネジの回転停止時にXリンクの開閉脚が自動的にロックされるため、停止ロックのための機構等を必要としない。
【0008】
この場合、一対の動作機構部を駆動させる単一の駆動モータと、駆動モータの回転動力を分岐し、一対のリードネジに伝達する動力伝達機構と、を有することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、単一の駆動モータにより、一対のリードネジを同時に且つ同方向に回転させることができる。すなわち、一対のXリンク機構を同期させて昇降動作させることができ、この点でも、単純な構造で、建物本体を安定に昇降させることができる。また、動力伝達機構により、駆動モータの回転を十分に減速してリードネジに伝達することができるため、駆動モータの負荷を軽減することができる。
【0010】
この場合、出水時における建物本体と水面との距離を検出する水位センサーと、駆動モータを制御するコントローラと、を備え、コントローラは、水位センサーの検出結果に基づいて、建物本体の下端と水面との距離が所定の距離となるように前記駆動モータを制御することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、建物本体を、出水時の水位に見合った位置に、自在にリフトアップすることができる。また、所定の距離を勘案すれば、出水時に動作機構部等の駆動系が水没するのを防止することができる。なお、言うまでもないが、駆動モータやコントローラ等も水没しないように配置することが好ましい。
【0012】
また、上部水平リンク同士を連結すると共に、建物本体が載置される水平載置ベースと、水平載置ベースと建物本体との間に介設され、建物本体への地震動を減衰する免震装置と、を備えることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、基礎から一対のXリンク機構に伝達された地震動(地震力)は、水平載置ベースと建物本体との間に介設され免震装置により減衰されて、建物本体に伝達される。これにより、建物本体を出水から守る水害対応の構造に加え、建物本体を地震動から守る震災対応の構造を併せ持たせることができる。なお、免震装置は、地震動に倣うスライダの機能と、地震動を減衰するダンパーの機能とを有するのが好ましい。
【0014】
この場合、水平載置ベースに添設され、出水時に、水平載置ベースを介して一対の上部水平リンクに浮力を付与するフロートを、備えることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、出水時に、一対の動作機構部を駆動させて、水平載置ベースおよび一対の上部水平リンクを上昇させるが、浮力を受けたフロートにより、この上昇力を補完(アシスト)することができる。特に、ネジ機構により水平方向の力を垂直方向の力に変換するXリンク機構では、上昇開始時に大きな力が必要となるが、フロートにより上昇力を補完することができるため、比較的低出力の動力源により、建物本体を円滑にリフトアップすることができる。
【0016】
一方、上部水平リンクおよび下部水平リンクの一方に設けられた凹ブロックと他方に設けられた凸ブロックとから成り、上部水平リンクが下降端位置に達した状態で接合する着座ブロックを、備えることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、上部水平リンクの下降端位置において、凹ブロックと凸ブロックとが接合した状態となる。すなわち、定常時における一対のXリンク機構は、着座ブロックを介して上部水平リンクと下部水平リンクとが連結され、高い剛性を持って建物本体を支持することとなる。これにより、台風による風や地震による揺れに耐え得るよう、建物本体を安定に支持することができる。
【0018】
本発明の建築物は、上記したリフトアップ装置の複数台と、複数台のリフトアップ装置が固定された基礎と、複数台のリフトアップ装置に載置された建物本体と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、出水時において、リフトアップ装置により建物本体をリフトアップすることができ、建物本体を水害から適切に守ることができる。また、リフトアップ装置をユニット化(汎用化)し、工場生産可能とすれば、リフトアップ装置のコストダウンおよび施工性の向上を図ることができる。
【0020】
この場合、建物本体の平面視コーナー部の屋内側および屋外側のいずれか一方に配設され、建物本体のリフトアップをガイドする複数のガイド支柱を、備えることがこのましい。
【0021】
この構成によれば、リフトアップ装置による建物本体のリフトアップを安定に行うことができる。また、出水時において、流れ来る「がれき」等による建物本体の損傷を抑制することができる。
【0022】
また、建築設備用の複数種の設備配管を備え、各設備配管は、基礎側の屋外配管と建物本体側の屋内配管とを繋ぐ繋ぎ配管を有し、繋ぎ配管は、略「く」字状に深く屈曲する定常時の屈状態と、浅く屈曲するリフトアップ時の伸状態との間で変形可能に構成されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、基礎側の屋外配管と建物本体側の屋内配管とを繋ぐ繋ぎ配管は、定常時において、略「く」字状に深く屈曲する屈状態となっている。この状態から建物本体が上昇(リフトアップ)すると、繋ぎ配管は、略「く」字状に浅く屈曲して伸状態となる。また、出水が治まって建物本体が下降すると、元の屈状態に復帰する。このため、出水時に建物本体が数メートル上昇しても、繋ぎ配管の変形により、各設備配管は、屋外配管と屋内配管との間で断続させる必要がない。したがって、出水に対し、建物本体側のインフラも適切に対処させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る戸建て住宅の立面図である。
【
図2】第1実施形態に係る戸建て住宅のリフトアップ状態の立面図である。
【
図3】第1実施形態に係る戸建て住宅の床下廻りの平面図である。
【
図4】定常状態におけるリフトアップ装置の動作説明図である。
【
図5】リフトアップ状態におけるリフトアップ装置の動作説明図である。
【
図6】リフトアップ装置の平面図(a)、および水平載置ベースを取り去った状態のリフトアップ装置の平面図(b)である。
【
図7】リフトアップ前後におけるガイド支柱と嵌合リングとの関係を表した説明図であって、定常時の図(a)、リフトアップ開始直後の図(b)、リフトアップ途中の図(c)である。
【
図8】繋ぎ配管廻りの図であって、定常状態の平面図(a)、定常状態の側面図(b)およびリフトアップ状態の側面図(c)である。
【
図9】第2実施形態に係る戸建て住宅の部分立面図であって、定常状態の図(a)およびリフトアップ状態の図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るリフトアップ装置および建築物を適用した戸建て住宅について説明する。この戸建て住宅は、出水(洪水、津波、高潮等)および地震に対する防災を考慮して設計されたものである。具体的には、出水時にあっては、建物本体をリフトアップして、その浸水や流失を防止し、地震時にあっては、免震構造により建物本体の揺れを極力減衰するようにしている。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る戸建て住宅の立面図であり、
図2は、リフトアップ状態の戸建て住宅の立面図であり、
図3は、戸建て住宅の床下廻りの平面図である。これらの図に示すように、戸建て住宅10は、べた基礎11と、べた基礎11上に設置された建物本体12と、べた基礎11と建物本体12との間に介設された2台のリフトアップ装置13と、建物本体12の四隅に配設した4本のガイド支柱14と、を備えている。
【0027】
べた基礎11は、建物本体12の下面全域に対応するように打設されている。べた基礎11上には、アンカーボルト等により2台のリフトアップ装置13が固定され、この2台のリフトアップ装置13の上に建物本体12が載置固定されている。この場合の建物本体12は、平屋或いは2階建の木造或いは軽量鉄骨造の構造物で構成されている。
【0028】
建物本体12の下端部には、土台を兼ねると共に鉄骨材を縦横に組んで構成した建物ベース17が設けられている。詳細は後述するが、各リフトアップ装置13の上端部には、免震装置18が組み込まれており、建物ベース17はこの免震装置18に連結固定されている。そして、このリフトアップ装置13および免震装置18により、戸建て住宅10(建物本体12)は、水害対策および地震対策を有する設計となっている。
【0029】
なお、
図1中の符号19は、可撓性を有するプラスチック製の防塵カバーである。防塵カバー19は、建物ベース18に四周に亘って且つべた基礎11の位置まで垂れ下がるように取り付けられている。これにより、リフトアップ装置13が設置された建物ベース17の床下空間が覆われ、床下内への塵埃等の侵入が防止される。
【0030】
[リフトアップ装置]
図4、
図5および
図6に示すように、リフトアップ装置13は、主体を為す一対のXリンク機構21と、一対のXリンク機構21の上端部間に渡した水平載置ベース22と、一対のXリンク機構21の下端部間に渡した水平連結ベース23と、一対のXリンク機構21の動作中心となる通し軸24と、各Xリンク機構21の定常時の姿勢を安定させる着座ブロック25とを備えている。また、リフトアップ装置13は、水平載置ベース22に搭載した複数の免震装置18と、一対のXリンク機構21を動作させる動力部27と、動力部27を制御するコントローラ28(
図1参照)と、一対のXリンク機構21の昇降動作をアシストするフロート29と、を備えている。
【0031】
本実施形態のリフトアップ装置13は、一対のXリンク機構21を平行に対峙させ、これらを水平載置ベース22および水平連結ベース23により連結して、一体化したものであり、これに動力部27や免震装置18等を組み込んで汎用のユニットを構成している。すなわち、このリフトアップ装置13は、同一形態のものを工場で製造し、現場に搬入して据付ける形態のものであり、1台のリフトアップ装置13は、10~15トンの耐荷重を目安に設計されている。このため、実施形態の戸建て住宅10では、2台のリフトアップ装置13を用いるようにしている(
図3参照)。
【0032】
各Xリンク機構21は、べた基礎11に固定される下部水平リンク31と、建物本体12が載置される上部水平リンク32と、下部水平リンク31と上部水平リンク32との間に渡したXリンク33と、Xリンク33を開閉脚動作させる動作機構部34と、有している。この場合、リフトアップ装置13における一対の下部水平リンク31とこれらを連結する水平連結ベース23とにより、べた基礎11にリフトアップ装置13を据え付けるための矩形枠状の構造部が形成されている。また、一対の上部水平リンク32とこれらを連結する水平載置ベース22(の一部)とにより、建物本体12を載置するための矩形枠状の構造部が形成されている。
【0033】
上部水平リンク32および下部水平リンク31は、チャンネル材等で形成されており、上部水平リンク32同士および下部水平リンク31同士は、開放部分が相互に内向きとなるように配設されている。一方、Xリンク33は、
図4および
図5において単なる線で表現されているが、各リンク片33aは所定の幅および厚みを有する鋼材で形成されている(
図6(b)参照)。各Xリンク33は、これが連結される上部水平リンク32および下部水平リンク31の内側に添うように配設され、一対のXリンク33は上記の通し軸24に軸支され、それぞれ通し軸24を中心に開閉脚動作する(
図4および
図5参照)。
【0034】
各上部水平リンク32の内側には、複数個所に軸受36が取り付けられ、この軸受36にはリードネジ37が軸支されている。また、上部水平リンク32に添設するよう配設したリードネジ37には、延在方向の一方の半部側に右雄ネジ37aが形成され他方の半部側に左雄ネジ37bが形成されている。そして、リードネジ37の右雄ネジ37aには右雌ネジ部材41が螺合し、左雄ネジ37bには左雌ネジ部材42が螺合している。
【0035】
一方、各Xリンク33の一方のリンク片33aの上端部が、右雌ネジ部材41に回動自在に連結され、他方のリンク片33aの上端部が、左雌ネジ部材42に回動自在に連結されている。Xリンク33の一方のリンク片33aの下端部および他方のリンク片33aの下端部には、それぞれローラー43が設けられており、この両ローラー43が下部水平リンク31の内側に転動可能に係合している。
【0036】
リードネジ37を右回転させると、上部水平リンク32内において、右雌ネジ部材41および左雌ネジ部材42が相互に近接する方向に移動する。また同時に、下部水平リンク31内において、2つのローラー43が相互に近接する方向に移動する。これにより、Xリンク33(2つのリンク片33a)が、通し軸24を中心に閉脚動作し、下部水平リンク31に対し上部水平リンク32が上昇するように平行移動する(
図5参照)。
【0037】
この状態から、リードネジ37を左回転させると、上部水平リンク32内において、右雌ネジ部材41および左雌ネジ部材42が相互に離間する方向に移動する。また同時に、下部水平リンク31内において、2つのローラー43が相互に離間する方向に移動する。これにより、Xリンク33(2つのリンク片33a)が、通し軸24を中心に開脚動作し、下部水平リンク31に対し上部水平リンク32が下降するように平行移動する(
図4参照)。
【0038】
このように、リードネジ37、右雌ネジ部材41、左雌ネジ部材42および2つのローラー43により、Xリンク33を開閉脚動作させる動作機構部34が構成されている。なお、リードネジ37、右雌ネジ部材41および左雌ネジ部材42は、下部水平リンク31に組み込むことも可能であるが、本実施形態では、出水時にこれら構成部品が水没しないように、上部水平リンク32に組み込むようにしている。
【0039】
水平載置ベース22は、上部水平リンク32同士を連結する複数の上連結構造材45と、一対の上部水平リンク32と複数の上連結構造材45とに載置固定されたベースプレート46と、を有している。複数の上連結構造材45は、上部水平リンク32の両外端部同士を連結すると共に、適宜中間部を連結している(実施形態のものは、中間部に1つ)。この場合、一対の上部水平リンク32と複数の上連結構造材45により、建物本体12を支持する構造部が形成されている。実際には、この矩形の構造部上にベースプレート46が設けられ、このベースプレート46上に、免震装置18を介して建物本体12が支持されている。
【0040】
水平連結ベース23は、下部水平リンク31同士を連結する複数の下連結構造材47で構成されている。複数の下連結構造材47は、下部水平リンク31の両外端部同士を連結すると共に、適宜中間部を連結している(実施形態のものは、中間部に1つ)。そして、一対の下部水平リンク31および複数の下連結構造材47により矩形の構造部が形成され、この構造部がアンカーボルト等によりべた基礎11に固定(定着)されている。
【0041】
着座ブロック25は、各上部水平リンク32に固定された一対の凹ブロック48と、この一対の凹ブロック48に対応して、各下部水平リンク31に固定された一対の凸ブロック49とを有している。各凹ブロック48は、下向き凹状に形成され、上部水平リンク32の下面に突設するように固定されている。同様に各凸ブロック49は、上向き凸状に形成され、下部水平リンク31の上面に突設するように固定されている。
【0042】
上部水平リンク32が下降し、所定の下降端位置に達したところで、上部水平リンク32の凹ブロック48が下部水平リンク31の凸ブロック49に接合するようになっている(
図4参照)。リフトアップ装置13において、一対の上部水平リンク32が下降端位置にある定常状態では、計4つの着座ブロック25が接合状態となる。これにより、上部水平リンク32と下部水平リンク31とが構造的に一体化した状態となり、定常状態のリフトアップ装置13は、風や地震による揺れに対し、建物本体12を安定に支持する。なお、着座ブロック25は、上部水平リンク32に凸ブロック49を、下部水平リンク31に凹ブロック48を設ける構造であってもよい。
【0043】
免震装置18は、水平載置ベース22と建物本体12との間に介設され、建物本体12への地震動を減衰する。実施形態の免震装置18は、例えば十字状を為すスライド部51と、スライド部51の周囲の空きスペースに配置した4つのダンパー部52と、を方形の下ベース板53および上ベース板54で挟み込むようにして構成されている(
図6(a)参照)。そして、下ベース板53が、水平載置ベース22(ベースプレート46)にボルト止めされ、上ベース板54が、建物本体12の建物ベース17にボルト止めされている。
【0044】
スライド部51は、2つのリニアガイドを背合せに且つ十字状に配置した形態を有している。地震動による揺れが生ずると、揺れに倣ったスライド部51のスライドにより、リフトアップ装置13側の揺れが建物本体12側に伝達され難くい絶縁状態となる。また、各ダンパー部52は、円柱状のゴム等で構成されている。4つのダンパー部52が適宜変形することで揺れが吸収され、且つ揺れが収まってダンパー部52が元の形状に戻ることで、スライド部51が元の状態に落ち着く。このような実施形態の免震装置18では、震度7の地震であっても、建物本体12は震度4程度の揺れで収まるようになっている。
【0045】
動力部27は、上記一対の動作機構部34を駆動させる単一の駆動モータ61と、駆動モータ61の回転動力を分岐し、上記一対のリードネジ37に伝達する動力伝達機構62と、これらを上記の上連結構造材45に支持する支持台63と、を有している。駆動モータ61は、支持台63を介してリードネジ37よりも高い位置に且つ下向きに配設され、また動力伝達機構62は、支持台63を介してリードネジ37と略同位置に配設されている。これにより、出水時に、駆動モータ61および動力伝達機構62が極力水没しないようにしている。
【0046】
動力伝達機構62は、駆動モータ61の主軸に固定したウォーム65aを含むウォーム・ウォームホイール65と、ウォームホイール65bが固定された中間軸66と、中間軸66の両端部と一対のリードネジ37との間に介設した一対のかさ歯車67と、を有している。中間軸66は、支持台63の一対のベアリング68により両持ちで軸支され、同一水平面内において一対のリードネジ37と直交するように配設されている。そして、この直交する2箇所に一対のかさ歯車67が配設されている。
【0047】
駆動モータ61の回転動力は、ウォーム・ウォームホイール65により、大きく減速されて中間軸66に伝達され、中間軸66の両端部から一対のかさ歯車67を介して、一対のリードネジ37に伝達される。これにより、一対のリードネジ37はゆっくりと回転し、一対のXリンク機構21は、ゆっくりと開閉脚動作する。すなわち、水平載置ベース22を介して、建物本体12がゆっくりと昇降する。
【0048】
このような建物本体12をリフトアップさせる駆動モータ61は、バッテリー71と共に建物本体12に設けたコントローラ28によって制御される(
図1および
図2参照)。駆動モータ61は、常用電源またはこのバッテリー71を電源として駆動し、コントローラ28は、駆動モータ61の駆動停止や正逆回転を制御する一方、停電時に駆動モータ61の電源を商用電源からバッテリー電源に切り替える。バッテリー71は、建物本体12の屋根に設けたソーラーパネル72に接続され、常に充電状態を維持している。すなわち、バッテリー71は、停電時の非常電源として機能する。
【0049】
水平載置ベース22(ベースプレート46)の中心部には、出水時における建物本体12と水面との距離を検出する水位センサー74が設けられており(
図5および
図6(a)参照)、コントローラ28は、この水位センサー74の検出結果に基づいて、駆動モータ61を制御する。すなわち、コントローラ28は、水位センサー74の検出結果に基づいて、建物本体12の下端と水面との距離が所定の距離となるように駆動モータ61を制御する。例えば、水面との距離が所定の距離(目標値)未満となった場合には、水位の上昇が検出され、駆動モータ61の正転により建物本体12を上昇させる。逆に、水面との距離が所定の距離(目標値)を越えることとなった場合には、水位の下降が検出され、駆動モータ61の逆転により建物本体12を下降させる。
【0050】
一方、この所定の距離(目標値)は、例えばXリンク機構21の動作機構部34やこれを駆動する動力部27(特に駆動モータ61)が水没することがなく、且つ後述するフロート29の浮力が水平載置ベース22に十分に作用するように、設定することが好ましい。これにより、建物本体12は、水面との間に安全・安心の距離を維持しつつ、水位の上昇に合わせて上昇し、水位の下降に合わせて下降することとなる。なお、リフトアップ装置13のメンテナンス等を考慮し、コントローラ28において駆動モータ61をマニュアル操作可能としておくことが好ましい。
【0051】
フロート29は、出水時に受ける浮力を、水平載置ベース22を介して建物本体12に作用させ、駆動モータ61の上昇力(出力)をアシストする。フロート29は、下側から水平載置ベース22に添設されており、上記の通し軸24を避けるように分割された2つの分割フロート76で構成されている(
図6(b)参照)。そして、各分割フロート76は、発砲スチロールや発泡ウレタンの樹脂独立発泡体や注入型の樹脂独立発泡体で構成され、或いはFRP(繊維強化プラスチック)製のエアータンク等で構成されている。
【0052】
各分割フロート76は、上部水平リンク32が下降端位置にある状態の、水平載置ベース22とべた基礎11との間の間隙に相当する厚みを有し、適度な浮力を得られる大きさに形成されている(
図4参照)。建物本体12をXリンク33およびネジ機構(リードネジ37)によりリフトアップする構造では、上昇開始初期において駆動モータ61に大きな負荷がかかる。このフロート29はその浮力により、上昇開始初期に作用する駆動モータ61への負荷が、十分に軽減されることとなる。したがって、リフトアップ装置13による建物本体12の昇降は、極めて円滑に行われる。なお、フロート29の分割数は、3以上であってもよい。
【0053】
[ガイド支柱]
図1、
図2および
図3に示すように、戸建て住宅10には、建物本体12の四隅に位置して4本のガイド支柱14が立設されている。4本のガイド支柱14は、リフトアップ装置13による建物本体12の昇降をガイドすると共に、出水時の瓦礫混りの流水からリフトアップ装置13や建物本体12を防護する。
【0054】
各ガイド支柱14は、鉛直方向に延びる支柱本体81と、支柱本体81にスライド自在に装着した摺動子82と、支柱本体81に取り付けられ摺動子82の下動を阻止する摺動ストッパ83と、支柱本体81の先端部に装着したエンドキャップ84と、を有している(
図7参照)。一方、建物本体12の建物ベース17には、支柱本体81が遊嵌されると共に、建物本体12の上昇時に摺動子82に下側から嵌合する嵌合リング86が固定されている。
【0055】
支柱本体81は、鋼管製や鉄筋コンクリート製のものであり、その下端部は、べた基礎11と一体に形成した支柱基礎88に強固に支持されている。この場合の支柱本体81と支柱基礎88とは、出水時の水の流れ(瓦礫を含む)に十分に抗し得るよう設計されている。また、支柱本体81の地上高は、その地域における過去の水害等を考慮して決定されるが、一般的には5~7m程度とすることが好ましい。
【0056】
摺動子82は、金属やプラスチック等の自重のある部材で形成され、支柱本体81に対し、自由状態で下動する程度にスライド自在に装着されている。摺動子82は、支柱本体81にスライド自在に係合した本体摺動部82aと、本体摺動部82aの上側に一体に設けたフランジ部82bとを有している。本体摺動部82aは略円筒状を為し、その外周面は緩いテーパー形状に形成されている。一方、建物ベース17に設けられた嵌合リング86は、その内周面が本体摺動部82aの外周面と相補的形状に形成されている。
【0057】
上動開始直後の嵌合リング86は、その内周面が本体摺動部82aの外周面に嵌合すると共に上端面がフランジ部82bの下面に当接し(
図7(b)参照)、この状態で上動を継続する。詳細は後述するが、この構造は、ガイド支柱14による建物本体12の昇降時の案内を出水時のみとし、定常時では、ガイド支柱14と建物本体12との接触を断って、免震装置18を有効に機能させるものである。なお、実施形態のガイド支柱14は、建物本体12の意匠性を考慮して建物本体12の屋内に隠蔽するように設置しているが、屋外に露出するように設置するものであってもよい。
【0058】
図7は、リフトアップ過程における、ガイド支柱14側の支柱本体81および摺動子82と、建物本体12(建物ベース17)側の嵌合リング86との位置関係を表している。
【0059】
図7(a)は、定常時(非リフトアップ時)の状態を表している。この状態では、嵌合リング86の上方において、支柱本体81にスライド自在に係合している摺動子82が、摺動ストッパ83に載るようにして下動を阻止されている。これにより、嵌合リング86と支柱本体81との間に円環状の十分な間隙が生じ、この間隙が、地震時のべた基礎11に対する建物本体12の相対的な揺れを許容する。すなわち、地震の発生時において、大きく揺れるべた基礎11側の支柱本体81と、免震装置18により揺れが大きく減衰した建物本体12側の嵌合リング86との間隙が、両者の相互の干渉を防止する。
【0060】
図7(b)は、リフトアップ開始直後の状態を表している。この状態では、摺動ストッパ83に下動を阻止されている摺動子82に対し、上昇してゆく嵌合リング86が下側から嵌合する。その後、嵌合リング86は、摺動子82を伴って上昇してゆく。これにより、嵌合リング86と共に上昇する摺動子82は、支柱本体81に対しスライドする。すなわち、建物本体12は、ガイド支柱14にガイドされながらリフトアップされてゆく。一方、出水が治まって嵌合リング86が下降してくると、摺動子82は自重で下降するが、摺動ストッパ83に突き当たることで下降を阻止される。一方、嵌合リング86は、摺動子82を置き去りにしつつ、摺動ストッパ83を通過してさらに下降し、元の位置に戻る。
【0061】
図7(c)は、リフトアップが進んだ状態を表している。この状態では、嵌合リング86が摺動子82を伴って上昇してゆく、すなわち、嵌合リング86は、摺動子82を介して支柱本体81にガイドされて上昇してゆく。すなわち、建物本体12は、4本のガイド支柱14に案内され、水位の上昇に合わせて上昇(リフトアップ)してゆく。また、出水が治まるときの建物本体12は、4本のガイド支柱14に案内され、水位の下降に合わせて下降してゆく。
【0062】
出水時において建物本体12の周囲には、瓦礫を含む水の流れが生ずる。4本のガイド支柱14は、この瓦礫に対し建物本体12やリフトアップ装置13をガードする。また、リフトアップ装置13と4本のガイド支柱14とにより、建物本体12の流失が防止される。なお、ガイド支柱14の本数は任意であり、ガード機能を強化する場合には、建物本体12の隅部以外の部分にも適宜配置することが好ましい。
【0063】
ところで、出水により建物本体12が浮上した場合、特に図示しないが、上記のコントローラ28やバッテリー71と同様に、エアコンの屋外機や給湯機等も建物本体12と共に浮上する構成が好ましい。一方で、公共の上水道や下水道に直接接続されている給水管や排水管等の設備配管の出水時対応においては、べた基礎11側の屋外配管と建物本体12側の屋内配管と、を断続することなくフレキシブルに接続しておく必要がある。
【0064】
[繋ぎ配管]
図8は、屋外配管と屋内配管とをフレキシブルに接続する配管形態を表している。
図3および
図8に示すように、本実施形態では、設備配管として給水管91、ガス管92(都市ガス)および排水管93が設備されている(
図3参照)。給水管91は、メーターを介して水道本管に接続された屋外給水管91aと、建物本体12内に配管された屋内給水管91bと、これらを繋ぐ繋ぎ給水管91cとを有している。同様に、ガス管92は、メーターを介してガス本管に接続された屋外ガス管92aと、建物本体12内に配管された屋内ガス管92bと、これらを繋ぐ繋ぎガス管92cとを有している。また、排水管93は、会所マスを介して下水道本管に接続された屋外排水管93aと、建物本体12内に配管された屋内排水管93bと、これらを繋ぐ繋ぎ排水管93cとを有している。
【0065】
繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、2台のリフトアップ装置13の間の空きスペース95において、べた基礎11上に横並びに配管されている。そして、これら繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、略「く」字状に深く屈曲する定常時の屈状態と、浅く屈曲するリフトアップ時の伸状態との間で変形可能に構成されている。ところで、これら繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、管径は異なるものの、その配管形態は同一のものとなる。そこで以下、繋ぎ給水管91cについて具体的に説明し、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cについては説明を省略することとする。
【0066】
繋ぎ給水管91cは、例えば呼び径20Aの樹脂管およびフレキシブル管(フレキシブル継手)を用い、べた基礎11上において平面視Uターン形状に且つ側面視略「く」字状に深く屈曲するように配管されている。具体的には、繋ぎ給水管91cは、長さ5m程度の第1直線管部101と、これに平面視平行に配管された長さ4m程度の第2直線管部102と、第1直線管部101と屋外給水管91aとの間に介設した第1可撓管部103と、第2直線管部102と屋内給水管91bとの間に介設した第2可撓管部104と、第1直線管部101と第2直線管部102との間に介設した第3可撓管部105と、を有している。
【0067】
第1直線管部101および第2直線管部102に対し、第1可撓管部103、第2可撓管部104および第3可撓管部105は、直角に配管されており、フレキシブルなこの第1可撓管部103、第2可撓管部104および第3可撓管部105が、軸線廻りに適宜ねじられることにより、繋ぎ給水管91cは、上記のように屈状態と伸状態との間で変形する(
図8(b)および(c)参照)。なお、図中の符号107は、第3可撓管部105の部分で繋ぎ給水管91cを支持する支持金物である。
【0068】
このように構成された給水管91、ガス管92および排水管93では、出水時に建物本体12が浮上すると、繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cが、建物ベース17の上昇に伴って屈状態から伸状態に変形する(
図8(c)参照)。この繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cの伸び(変形)により、出水時にあっても、給水管91、ガス管92および排水管93の接続状態が維持される。出水が治まると、繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cが逆の手順で伸状態から屈状態に戻る(
図8(b)参照)。
【0069】
なお、地震時における繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、それぞれの第1可撓管部103、第2可撓管部104および第3可撓管部105により、揺れが吸収されることとなる。そして、この場合も、給水管91、ガス管92および排水管93の接続状態が維持される。
【0070】
ところで、繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、上述した形態の他、螺旋形状のものであってもよい(特に図示しない)。すなわち、繋ぎ給水管91c、繋ぎガス管92cおよび繋ぎ排水管93cは、鉛直軸廻りに螺旋状を為すように配管されたものであってもよい。この場合の繋ぎ配管は、建物本体12の昇降に伴ってコイルスプリンク様に伸縮変形する。
【0071】
以上のように、第1実施形態の戸建て住宅10によれば、地震時には、免震装置18が機能して、建物本体12の揺れが十分に抑制される。一方、出水時には、リフトアップ装置13により、水嵩に合わせて建物本体12がリフトアップされるため、建物本体12の浸水が防止されると共に建物本体12の流失が防止される。
【0072】
また、リフトアップ装置13は、Xリンク33の開閉脚動作を右雄ネジ37aおよび左雄ネジ37bを形成したリードネジ37により行うようにしているため、昇降動作中において、上部水平リンク32および下部水平リンク31は、Xリンク33を介して、常に左右対称となる2点で建物本体12を支持することとなる。したがって、単純な構造で、建物本体12を安定に昇降させることができる。また、ネジ機構により建物本体12を昇降させる構造であるため、昇降を効率良く行うことができると共に、停止ロックのための機構等を必要としない。しかも、リフトアップ装置13は、汎用的なユニットとして工場生産することができ、生産性の向上および施工性の向上を図ることができる。
【0073】
[第2実施形態]
次に、
図9を参照して、第2実施形態に係る戸建て住宅10Aについて説明する。同図に示すように、この戸建て住宅10Aでは、上記のガイド支柱14に代えて4本の伸縮支柱15が設けられている。各伸縮支柱15は、支柱基礎88に埋め込まれており、建物本体12の昇降に合わせてタケノコ式で伸縮する。
【0074】
各伸縮支柱15は、支柱基礎88に固定された1段目の支柱片111aを含む3段の支柱片111a,111b,111cから成る支柱本体111と、3段目の支柱片111cの先端部に固定した固定子112と、を有している。一方、第1実施形態と同様に、建物本体12の建物ベース17には、支柱本体111が遊嵌されると共に、建物本体12の上昇時に固定子に下側から嵌合する嵌合リング86が固定されている。この場合の固定子112は、第1実施形態の摺動子82と同様の形状を有しているが、摺動子82と異なり支柱本体(支柱片111c)111に固定されている。また、固定子112が固定された3段目の支柱片111cは、その上部が建物本体12に達するように、1段目および2段目の支柱片111a,111bよりも長く形成されている。
【0075】
図9(a)に示すように、定常時(非リフトアップ時)においては、支柱本体111が収縮した状態にあり、3段目の支柱片111cに固定された固定子112が嵌合リング86の上方に位置している。この場合も、嵌合リング86と支柱本体111(3段目の支柱片111c)との間に円環状の十分な間隙が生じている。リフトアップが開始されると、上昇してゆく嵌合リング86が下側から固定子112に嵌合し、固定子112を伴って3段目の支柱片111cを引き上げてゆく。
【0076】
嵌合リング86が固定子112を伴って更に上昇してゆくと、3段目の支柱片111cが延びきり、嵌合リング86は、3段目の支柱片111cに加えて2段目の支柱片111bを引き上げてゆく(
図9(b)参照)。これにより、建物本体12は、伸長する伸縮支柱15にガイドされながらリフトアップされてゆく。一方、出水が治まって嵌合リング86が下降してくると、支柱本体111は自重で収縮しもとの状態に復帰する。
【0077】
以上のように、第2実施形態の戸建て住宅10Aによれば、第1実施形態と同様に、地震時には、免震装置18が機能して、建物本体12の揺れが十分に抑制される。一方、出水時には、リフトアップ装置13により、水嵩に合わせて建物本体12がリフトアップされるため、建物本体12の浸水が防止されると共に建物本体12の流失が防止される。
【0078】
一方、伸縮支柱15は、第1実施形態のガイド支柱14と同様に、出水時における建物本体12の浮上を適切にガイドする。もっとも、ガイド支柱14と異なり伸縮支柱15は、定常時において主要部分が支柱基礎88内に収納されているため、目立ち難く、且つ建物本体12内に伸縮支柱15用の大きなスペースを必要としない。
【符号の説明】
【0079】
10,10A…戸建て住宅、11…べた基礎、12…建物本体、13…リフトアップ装置、14…ガイド支柱、15…伸縮支柱、17…建物ベース、18…免震装置、21…テープカバー、22…粘着部、25…着座ブロック、27…動力部、28…コントローラ、29…フロート、31…下部水平リンク、32…上部水平リンク、33…Xリンク、34…動作機構部、37…リードネジ、37a…右雄ネジ、37b…左雄ネジ、41…右雌ネジ部材、42…左雌ネジ部材、48…凹ブロック、49…凸ブロック、61…駆動モータ、62…動力伝達機構、74…水位センサー、81…支柱本体、88…支柱基礎、91c…繋ぎ給水管、92c…繋ぎガス管、93c…繋ぎ排水管、101…第1直線管部、102…第2直線管部、103…第1可撓管部、104…第2可撓管部、105…第3可撓管部、