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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142281
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】介助用装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/14 20060101AFI20220922BHJP
   A61G 5/14 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
A61G7/14
A61G5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042401
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000125967
【氏名又は名称】株式会社がまかつ
(74)【代理人】
【識別番号】100107825
【弁理士】
【氏名又は名称】細見 吉生
(72)【発明者】
【氏名】桑原 博
(72)【発明者】
【氏名】神谷 典誠
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】福元 正伸
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040HH01
4C040JJ02
4C040JJ09
(57)【要約】
【課題】 水平移動のための軌道等を設けなくとも、車イスと他の生活設備との間を移動するときの被介助者の介助を適切に行うことができる、構造がシンプルで操作も簡単な介助用装置を提供する。
【解決手段】 介助用装置1は、車イスWと便器C等との間を移動する被介助者Aの身体を、室内上部から下方へ向けて設けられたパイプ30(支持具)によって支える装置である。室内上部に水平回転可能なように回転支持部材10が取り付けられ、パイプ30の上部が、回転支持部材10の一部であって上記水平回転の中心から離れた偏心位置に取り付けられていることを特徴とする。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車イスと他の生活設備との間を移動する被介助者の身体を、室内上部から下方へ向けて設けられた支持具によって支える介助用装置であって、
室内上部に水平回転可能なように回転支持部材が取り付けられ、上記支持具の上部が、上記回転支持部材の一部であって上記水平回転の中心から離れた偏心位置に取り付けられている
ことを特徴とする介助用装置。
【請求項2】
上記回転支持部材は、複数の角度位置において水平回転がロックされ得るものであり、上記支持具が、車イスに乗って上記室内に進入した時点の被介助者を支えるに適した向きにあるときと、上記他の生活設備を利用する時点の被介助者を支えるに適した向きにあるときとの各角度位置において、水平回転がロックされることを特徴とする請求項1に記載の介助用装置。
【請求項3】
上記回転支持部材の水平回転が、90°おき、45°おき、または30°おきにロックされ得ることを特徴とする請求項1または2に記載の介助用装置。
【請求項4】
上記回転支持部材が、上記室内の天井部分に取り付けられ、または、上記室内の床面上に自立させた支持フレームの上部に取り付けられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の介助用装置。
【請求項5】
上記支持具が繊維強化樹脂製の2本のパイプであり、各パイプの上部が上記回転支持部材の上記偏心位置に取り付けられ、各パイプの下部が、被介助者の胴部に装着される胴部支持具における左右各側に連結されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の介助用装置。
【請求項6】
上記各パイプの上部は、上記回転支持部材に対し、少なくとも一方向へは角度変位ができず、また、角度変位する方向について変位可能な角度範囲が制限されているという拘束状態で取り付けられていること、
および、上記のパイプが、長さ変更の可能なテレスコピック構造のものであり、そのパイプの中に、上記胴部支持具を引き上げるための牽引用部材が通されていること
を特徴とする請求項5に記載の介助用装置。
【請求項7】
上記各パイプの上部が、上記回転支持部材における上記水平回転の中心から5cm~50cmだけ離れた偏心位置に取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の介助用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や障害者の介助に使用することができる介助用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者や障害者がたとえばトイレで用を足すことを介助するための装置は、下記の特許文献1・2等に記載がある。
特許文献1には、チェーンブロック等の昇降手段の下に連結されたワイヤやロープを、被介助者の脇の下に掛けるベルトと結び付けて使用する装置が示されている。その昇降手段は、軌道に沿って走行する走行手段を上部に有し、被介助者を吊り上げるとともに走行手段によって前後へ水平移動することにより、車イスと便座との間で被介助者を移動させる。
【0003】
特許文献2には、被介助者の臀部と背中を支える支持面を有していて、被介助者を乗せた状態で居室(ベッド)からトイレや浴室、食堂等へ搬送することのできる装置が開示されている。被介助者は、装置に乗せられ、天井部分に設けられたレールに沿って装置が移動することにより、たとえばトイレまで運ばれ、上記の支持面が臀部等から抜き出されることによって便座上に腰かけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-17486号公報
【特許文献2】特開2014-223131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1・2に記載された例は、室内上部に設けた軌道(レール)に沿って装置が水平に移動(スライド)するものである。しかし、家屋内に軌道を設けることは、構造的にもコストの面でも容易ではない。軌道に沿って装置を水平に移動させて適切な位置で停止させるためには、装置自体の構成が複雑になるとともに、その操作も難しくなり被介助者の家族にとって負担になることが多い。
【0006】
本件出願に係る発明は上記の課題を考慮したもので、水平移動のための軌道等を設けなくとも、車イスと他の生活設備との間を移動するときの高齢者や身障者など被介助者の介助を適切に行うことができる、構造がシンプルで操作も簡単な介助用装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明による介助用装置は、車イスと他の生活設備(便器、浴槽、またはベッド等をさす)との間を移動する被介助者の身体を、室内上部から下方へ向けて設けられた支持具(チェーン、ロープ、支柱、または後述するパイプ等を含む)によって支える介助用装置であって、
・ 室内上部に水平回転可能なように回転支持部材が取り付けられ、上記支持具の上部が、上記回転支持部材の一部であって上記水平回転の中心から離れた偏心位置に取り付けられていることを特徴とするものである。
発明による介助用装置の一例を図1図2等に示す。図中の符号10が回転支持部材であり、支持具であるパイプ30の上部が、回転支持部材10の支軸12(回転中心)から離れた偏心位置(図2参照)に取り付けられている。
【0008】
被介助者の身体を支える支持具が、上記のとおり回転支持部材における偏心位置に取り付けられていると、その支持具は、回転支持部材とともに水平回転するとき、偏心量すなわち回転中心から支持具の取付け位置までの寸法に応じて、水平方向にも所定の距離を移動する。車イスと便器(便座)や浴槽、ベッド等の生活設備との間を移動する際の水平距離は、長くても1~2mであるため、上記のような水平回転時の偏心に基づく移動によってもその移動を実現することが可能である。
とくに、車イスと便器等との間で被介助者が移動する際には、身体の向きを変える(水平回転する)とともに身体の位置を前後方向に移動させる必要があるため、発明による上記の介助用装置がきわめて適している。すなわち、回転支持部材とその偏心位置に取り付けられた支持具とによって水平回転と水平移動とを同時に実現する本発明の装置は、被介助者の動きに沿った適切なサポートを提供することができる。それは、軌道に沿って走行手段により水平移動するとともに別の回転手段を用いて向きを変える従来の装置よりも明らかに合理的であり、軌道と走行手段とが不要であるために構成がシンプルになることに加え、装置の操作が簡単になるというメリットをもたらすといえる。
【0009】
上記発明の介助用装置において、
・ 回転支持部材は、複数の角度位置において水平回転がロックされ得るものであり、
・ 上記支持具(のたとえば前面)が、車イスに乗って上記室内に進入した時点の被介助者を支えるに適した向きにあるときと、上記他の生活設備を利用する時点の被介助者を支えるに適した向きにあるときとの各角度位置において、回転支持部材の水平回転がロックされる、といったものであるのが好ましい。
生活設備を利用する時点の被介助者を支えるに適した支持具の向きとは、たとえば便座に腰掛けたりそれから立ち上がったりするときの被介助者を支えるための向きをいい、図4図5(a)・図5(b)に示したYの向きなどをさす。一方、車イスに乗って室内に進入した時点の被介助者を支えるに適した支持具の向きとは、たとえば、車イスでトイレ等の中に入り、またはそこから出るときの被介助者を支えるための向きをいい、図4におけるX1の向き、図5(a)におけるX2の向き、または図5(b)におけるX3の向きなどをさす。
【0010】
被介助者が車イスに乗って室内に進入したとき(もしくは室内から退出しようとするとき)、または便器等の生活設備を利用するとき(もしくはその利用を終えるとき)には、被介助者が立ち上がったり座ったりするため、その間にふらついて転倒等することがないよう支持具がその人を支える必要がある。そのようなときに回転支持部材が自由に水平回転するようなら、支持具も不安定に動くため被介助者をしっかりと支えることが難しい。しかし、上記のように回転支持部材がロックされて水平回転しないのであれば、被介助者は、転倒等することがないように支持具によって適切に支えられる。
【0011】
あるいはさらに、
・ 上記回転支持部材の水平回転が、90°おき、45°おき、または30°おきにロック(回転停止)され得るよう構成されるのも好ましい。
図2には回転支持部材10が90°おきにロックされ得る例を示しており、図4図5には45°おきにロックされ得る例を示している。各図において符号14がロックのためのロックピンであり、それが突出して回転駆動装置11のピン挿入孔13内に差し入れられると、回転支持部材10の水平回転がロックされる。
【0012】
被介助者によっては、たとえば、車イスから立ち上がったのち便座に腰掛けるまでの移動と向きの変更を、短時間には行うことができず、途中で動きを止めねばならないことがある。上記のように回転支持部材の水平回転が小刻みにロックされ得るようなら、上記のように途中で動きを止める被介助者を適切に支えることができる。
【0013】
発明の介助用装置については、
・ 回転支持部材が、室内の天井部分に取り付けられ、または、室内の床面上に自立させた支持フレームの上部に取り付けられるとよい。
図1図4には回転支持部材10が天井部分2に取り付けられた例を示している。そして図6には、室内の床面上に自立させることのできる支持フレーム50を例示している。
【0014】
回転支持部材が、トイレや風呂場、寝室等の室内の天井部分に取り付けられると、そこで介助用装置を使用して被介助者が車イスと便器や浴槽、ベッド等との間で移動することを適切にサポートすることができる。また、トイレや風呂場、寝室等の床面上に支持フレームを自立させるとともにその上部に回転支持部材を取り付けることとすれば、それら室内の天井部分に回転支持部材を取り付けるための工事を行わなくとも、被介助者に対して上記と同様のサポートを提供できる。
【0015】
発明の介助用装置は、とくに、
・ 上記支持具が繊維強化樹脂製の2本のパイプであり、各パイプの上部が上記回転支持部材の上記偏心位置に取り付けられ、各パイプの下部が、被介助者の胴部に装着される胴部支持具における左右各側に連結されるものであると好ましい。繊維強化樹脂製のパイプとして、たとえば炭素繊維強化樹脂(CFRP)やガラス繊維強化樹脂(GFRP)、アラミド繊維強化樹脂のパイプが適している。
図1図4に例示した介助用装置1では、上記のとおり繊維強化樹脂製の2本のパイプ30が、胴部支持具40に連結される支持具として使用されている。
【0016】
繊維強化樹脂製のパイプは、釣竿やゴルフクラブ等に使用されるもので、高強度であるうえフレキシブルに撓むことができ、撓むことによって被介助者の動きに柔軟に追従しながらソフトに反発力を発揮することができる。したがって、それが支持具として使用された介助用装置では、被介助者が前後左右のいずれかへふらつくような不安定な動きをしたとき、パイプが撓むことによって被介助者に追従し、かつ、元の位置や姿勢に戻す向きの適度な力を被介助者に及ぼすことができる。
そしてそのために、上記の介助用装置は、被介助者の体重を完全に支えるものとして構成されなくとも、被介助者が自らの残存能力を使って立ったり座ったりすることを補助または支援するよう構成することが可能である。残存能力を活用するのであれば、介助用装置は、介助を通じて、被介助者が体力を維持し身体機能を回復するよう促す作用も発揮することができる。
上記のパイプが2本あり、各パイプの先端部が、被介助者の左右各側において上記の胴部支持具に連結されることから、上記の介助用装置は、被介助者の姿勢をパイプの反発力によって戻しやすいうえ、体の中心回りに回転する動きを戻すための力も発揮することができる。
【0017】
上記のようなパイプを支持具として使用する介助用装置においては、
・ 各パイプの上部は、上記回転支持部材に対し、少なくとも一方向へは角度変位ができず、また、角度変位する方向について変位可能な角度範囲が制限されているという拘束状態で取り付けられ、
・ 上記のパイプが、長さ変更の可能なテレスコピック構造の(入れ子式の)ものであり、そのパイプの中に、上記胴部支持具を引き上げるための牽引用部材(たとえばワイヤ等の線材もしくは可撓性のある棒材)が通されている、との構成を有するととくに好ましい。
図1等に例示した介助用装置1においても、パイプはそのように取り付けられている。図1(b)におけるパイプ30の上部は、図の左右(被介助者の左右)へは角度変位することができないが、図面と直角の方向(被介助者の前後方向)へは一定範囲(たとえば鉛直下方を中心に±45°)で角度変位可能である。また、パイプ30の内側にワイヤ33を通し、胴部支持具40と上部の巻取機とをそのワイヤ33でつなぎ、モータ23等を含む操作機構によってそのワイヤ33を操作し、胴部支持具40を牽引する。
【0018】
パイプの上部があらゆる方向に自由に角度変位するようでは、被介助者の前後左右への動きを適切に支えることができない。ただし、トイレや風呂場、寝室等において被介助者は特定の方向へは動作するのが通常である(たとえばトイレにおいて立ち居する際には前後方向へ屈んだり体を傾けたりする)。そのため、パイプの基端部が、上記のとおり少なくとも一方向(たとえば左右)へは角度変位ができず、また、別の方向(たとえば前後)へは制限された範囲内で角度変位ができる、という状態に取り付けられているのが、被介助者を支えるうえで適している。
また、上記のパイプが長さ変更の可能なテレスコピック構造のものであり、そのパイプの中に牽引用部材が通されている場合には、被介助者が立ったり座ったりする上下方向への動きを積極的に補助することが可能である。牽引用部材を引き上げる(たとえば線材を巻き上げる)よう操作すると、胴部支持具を引き上げる(そのときパイプはテレスコピックに縮む)ことによって被介助者を立たせるように力を及ぼすことができ、また、牽引用部材を徐々に緩めて逆に下ろす(たとえば線材を巻き出す。そのときパイプはテレスコピックに伸びる)ように操作すると被介助者を座らせるための支援ができる。
【0019】
パイプが特定の方向にのみ一定範囲内で角度変位できる上記の介助用装置では、
・ 上記各パイプの上部が、上記回転支持部材における上記水平回転の中心から5cm以上・50cm以下だけ離れた偏心位置に取り付けられているとよい。
図2の例では、各パイプは、水平回転の中心から約15cm(図示d)だけ離れた位置にある。
【0020】
上記のとおり、支持具であるパイプが特定の方向にのみ一定範囲内で角度変位できる場合には、それらパイプの上部は、回転支持部材の水平回転の中心から5~50cm程度離れた偏心位置にあれば、車イスと生活設備(便器等)との間で移動する被介助者の動きに十分追従することができる。トイレ等に進入して停止した車イスの位置から便器等の位置までの水平距離は1m前後であるが、上記した偏心量に基づいて水平移動し得る距離と、パイプが角度変位することによって水平移動し得る距離とを合わせれば、パイプの下方にある胴部支持具を1m前後だけ水平に移動することが可能だからである。
【発明の効果】
【0021】
発明の介助用装置によれば、回転支持部材とその偏心位置に取り付けられた支持具とによって、水平回転と水平移動とを同時に実現することができる。したがって、水平移動のための軌道等を設けなくとも、車イスと他の生活設備との間を移動するときの被介助者を適切に支えることができる。水平移動のための手段が不要であるため、装置の構造がシンプルになり操作も簡単になる。
回転支持部材が、室内の床面上に自立する支持フレームの上部に取り付けられるようにすると、その室内の天井部分に回転支持部材を取り付けるための工事を行う必要がなくなり、設備コストがさらに低廉になる。
上記支持具が繊維強化樹脂製の2本のパイプであり、各パイプの下部が、被介助者の胴部に装着される胴部支持具の左右各側に連結されるなら、被介助者がふらつくような不安定な動きをしたとき、パイプが撓むことによって被介助者に柔軟に追従し、かつ、元の位置や姿勢に戻す向きの適度な力を被介助者に及ぼすことができる。それにより、介助用装置は、被介助者が自らの残存能力を使って立ったり座ったりすることを補助または支援することができ、被介助者の体力維持または機能回復の作用をも発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)は、発明の実施例としての介助用装置1を示す正面図である。同(b)は、同(a)におけるb部すなわち回転支持部材等の詳細を示す図である。また同(c)は、同(a)において下方のc部に支えられた被介助者Aがトイレ内で側方に傾いたとき、介助用装置1が支える仕組みを示す説明図である。
図2図1の介助用装置1について、回転支持部材10の水平回転の状況を図2(a)~(e)に示し、回転支持部材10が同(a)・(c)・(e)の角度位置にあるときのパイプ(支持具)30と胴部支持具40等の位置(側面図)を同(a’)・(c’)・(e’)に示す。なお、同(a)は同(a’)におけるa-a断面図であり、図(b)~(e)もそれに準じたものである。
図3図2(a’)におけるIII部の詳細図である。
図4】トイレに設けた介助用装置1により、車イスWと便器Cとの間で移動する被介助者Aを支える状況を示す図であり、図4(a)は側面図、同(b)は平面図である。
図5図5(a)・(b)は、図4の例とは入口と便器Cとの位置関係が異なっているトイレに介助用装置1が設けられた場合について、介助用装置1の動きを示す平面図である。
図6】室内の床面上に自立させ、上部に回転支持部材を取り付けることができる支持フレーム50を示す正面図(透視図)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明による介助用装置について一実施例を図1図6に示す。
図1(a)のように、この介助用装置1は、天井部分2に固定した取付板3に、回転駆動装置11および回転支軸12とともに回転支持部材10を取り付け、その回転支持部材10の下に、操作部20および2本のパイプ(支持具)30を設け、さらにそれらパイプ30の下端部に胴部支持具40を連結したものである。回転支持部材10は、回転駆動装置11の作用により、回転支軸12を回転中心として同支軸12とともに水平回転することができる。パイプ30は、被介助者Aを支える支持具として機能するもので、フレキシブルな炭素繊維強化樹脂(CFRP)でできている。パイプ30のそれぞれは、テレスコピックに伸縮し得るよう、太さの異なる複数の管をつないで1本にしている。それらパイプ30の下端部に、被介助者Aをホールドするための胴部支持具40を連結する。被介助者Aは、胸部付近に胴部支持具40を装着され、パイプ30の下端部32が、その胴部支持具40の背部における左右各箇所にバックル41によって着脱可能に連結される。
【0024】
図1(b)に示すように、パイプ30の内側にはワイヤ33を通しており、その下端をパイプ30の下端部に結び付けている。その一方、ワイヤ33の上部は、パイプ30の上端部から外へ出して、操作部20内に設けた巻取機に巻き付けている。モータ23によって巻取機を回転させると、ワイヤ33を巻き取って胴部支持具40を引き上げることにより被介助者Aを立たせたり、ワイヤ33を巻き出して胴部支持具40の位置を下げることにより被介助者Aを座らせたりすることができる。
【0025】
パイプ30の上端部には、それを挿入・保持する孔を下部に有するとともに中央付近に水平な支持軸を有するディスク状の保持具31を取り付け、それを、操作部20内に設けた支持板21に固定したパイプ支持具22によって支持している。パイプ支持具22は上記の保持具31を、両サイドからはさみ込んだ状態で回転(揺動)可能に保持している。したがって、パイプ30の最上部は、図1の左右へ傾く向きの角度変位をすることができず、図1の紙面と直角の方向へのみ、特定の角度範囲(±45°)内で回転するように角度変位することができる。
【0026】
以上のような構成により、介助用装置1は図1(c)のように、被介助者Aが便器Cの位置で左右いずれかへ(黒い矢印の向きに)ふらついたとき、支持具であるパイプ30がそれに抗する向き(白抜きの矢印の向き)の力を及ぼして、被介助者Aが姿勢を戻す動きを補助することができる。また、モータ23によってワイヤ33を巻き上げると、胴部支持具40を引き上げることにより、被介助者Aが立ち上がる動作をサポートすることができる。
【0027】
図1では明らかでないが、2本のパイプ30の上部は、回転支持部材10(およびそれに取り付けた操作部20)に対し、図2(a)・(a’)等に示すように、回転支軸12とは離れた偏心(オフセット)位置に取り付けている。図に示すそのオフセット量dは、被介助者Aを乗せた車椅子の停止位置と便器等の生活設備との間隔に応じて、通常は5~50cmの範囲で設定する(図示の例では約15cmである)。
【0028】
上記のように回転支持部材10の偏心位置にパイプ30の上部を取り付けると、回転支持部材10を水平回転させるとき、胴部支持具40でホールドした被介助者Aが車イスから便器等の生活設備に移る(移乗する)動作を適切にサポートすることができる。すなわち、図2(a)から同(e)にかけて、および同(a’)から同(e’)へかけて、回転支持部材10が水平回転するに連れてパイプ30と胴部支持具40が向きを変えるとともに水平方向へも移動することにより、介助用装置1は、被介助者Aが身体を前に進めるとともにその向きを変える動作に追従して、被介助者Aを支えることができる。
【0029】
図2の例では、図3に示すロックピン14を使用して、回転支持部材10の水平回転を適当な角度でロックできるようにしている。回転駆動装置11の固定された側面に90°おき(または45°もしくは30°おき)にピン挿入孔13を設けておき、回転支持部材10が角度を変更したとき、電動シリンダ装置15によってロックピン14を突出させてピン挿入孔13に挿し入れる。ロックピン14がいずれかの挿入孔13内に入ると、回転支持部材10の水平回転が停止する。
なお、上記水平回転については、ピン挿入孔13の位置および数を任意に設定することにより、さらに多くの角度位置で停止できるようにすることができる。また、ロックピンを使用する以外の他の手段(たとえば摩擦式のブレーキ)を用いて、水平回転を任意の角度で停止できるようにするのもよい。
【0030】
図4(a)・(b)に、トイレB1内に設けた介助用装置1を用いて被介助者Aの動作を支援する状況を示す。被介助者Aが、胸に胴部支持具40を装着し車イスWによって入口からトイレB1の室内に入ってきたとする。そのとき介助用装置1を使用すると、たとえば次のような手順で被介助者Aの排泄を支援することができる。
1) 回転支持部材10を回転させてパイプ30等を入口寄りの位置に向けておいた介助用装置1を、介助者(図示省略)が操作して、まずはパイプ30の下部を胴部支持具40に接続する。このとき、支持具である2本のパイプ30の向き(2本の間の中央線(面)の向き)は図4(b)中のX1である。この位置で、ロックピン14により回転支持部材10の回転は停止させておく。
2) 付属のリモコン(図示省略)等により操作部20の機器を操作することにより、前記のワイヤ33を引き上げてパイプ30を縮め、車イスWから被介助者Aを立ち上がらせる。
3) 同様にリモコン等を操作して回転支持部材10を回転させ、胴部支持具40とともに被介助者Aの身体を、180°向きを変えさせながら前方の便器C寄りに移動させる。これにより、支持具である2本のパイプ30の向きを、前記のX1とは逆向きのYの線に沿わせる。
4) 被介助者Aがズボン等を下ろすと、リモコン等を操作してパイプ30を伸長させ、被介助者Aを便器Cの便座に座らせる。この位置でも、ロックピン14によって回転支持部材10の回転は停止させておく。
5) 被介助者Aの尊厳のために介助者はトイレB1を出て、被介助者Aの排泄が終わるのを待つ。胴部支持具40に適切なセンサーを設けておくと、その間に被介助者Aが転倒等しても介助者がそれを知ることができる。
6) 排泄が終わると、介助者がトイレB1内に入り、上記1)~4)と逆の手順で被介助者Aを車イスWに移乗させる。
【0031】
図4のトイレB1とは入口と便器Cとの位置関係が異なる場合の介助用装置1の使用例を、図5(a)・(b)に示す。
図5(a)のトイレB2は、入口の進入方向と便器Cの前後方向とが概ね直角になる例である。支持具である2本のパイプ30が、入口よりトイレB2に進入してきた車イスW上の被介助者Aを支えるための向きは図中のX2であり、便器Cの位置で被介助者Aを支えるためのパイプ30の向きYとは90°の角度差がある。このような例でも、回転支持部材10が回転することにより、パイプ30は、車イスWと便器Cとの間で移乗する被介助者Aの向きの変更と水平移動とに追従して、適切なサポートを行える。回転支持部材10の水平回転は、パイプ30が上記の各向きにあるとき等にロックし得るよう構成されている。
図5(b)のトイレB3では、入口から進入する車イスWが斜め方向から便器Cに向かって接近する。2本のパイプ30が車イスW上の被介助者Aを支えるための向きは図中のX3であり、便器Cの位置で被介助者Aを支えるための向きYとは135°の角度差がある。この場合にも、パイプ30は、車イスWと便器Cとの間を移乗する被介助者Aの動きに追従してその身体を継続的にサポートすることができる。この例では、パイプ30が135°の角度をはさむ図示の2つの向きにあるときを含めて水平回転がロックされるよう構成される。
【0032】
図1図5の例では、回転支持部材10を天井部分2に取り付けているが、図6に示す支持フレーム50の上部に回転支持部材10を取り付けるようにすることもできる。そうすると、家屋の天井部分に回転支持部材10等の取付け工事を行う必要がなくなる。
支持フレーム50は、図6に示すとおり安定的に自立する縦長の枠体であって、最上部の高さが1.8m~4m程度である。直線部分51を炭素繊維強化樹脂で製造し、屈曲部・連結用部分45をアルミ合金等で製造しており、分解・組立も可能である。主要部が炭素繊維強化樹脂製であるために軽量で、連結用部分で分離して複数のパーツに分解したうえ持ち運ぶことも容易である。なお、持ち運ぶことのない支持フレーム50とする場合には、主要部分等を金属製とすることも差し支えない。
【符号の説明】
【0033】
1 介助用装置
10 回転支持部材
12 回転支軸
13 ピン挿入孔
14 ロックピン
20 操作部
30 パイプ(支持具)
33 ワイヤ(牽引用部材)
40 胴部支持具
50 支持フレーム
A 被介助者
C 便座
W 車イス
図1
図2
図3
図4
図5
図6