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特開2022-142283熱間プレス成形装置及び熱間プレス成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142283
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】熱間プレス成形装置及び熱間プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20220922BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20220922BHJP
   B21D 22/26 20060101ALN20220922BHJP
【FI】
B21D22/20 H
B21D24/00 M
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042405
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】西尾 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】堀 順哉
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA01
4E137AA11
4E137AA17
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137DA03
4E137EA01
4E137EA23
4E137EA35
4E137EA36
4E137EA40
4E137GA03
4E137GB03
4E137HA10
(57)【要約】
【課題】製造コストの増加を抑制しつつ、冷却通路による冷却を補完する冷却を行い、部分的に焼入れが不十分となる箇所が生じることを抑制できる熱間プレス成形装置及び熱間プレス成形方法を提供すること。
【解決手段】熱間プレス成形装置10は、固定型である下型11と、可動型である上型12とを有し、上型12が下型11から離間して両型11,12の間に形成された型間空間17にミストを噴霧するミスト噴霧部61,62を備えている。ミスト噴霧部61,62は、上下両型11,12とは別に設けられ、上型12の上下動と干渉しないように、下型11の外方に設置されている。ミスト噴霧部61は、下型11の成形部25に向けてミスト噴霧する第1噴霧部61と、上型12の成形部26に向けてミストを噴霧する第2噴霧部とを有している。ミストが蒸発する際の気化熱が吸収されることにより、各成形部25,26が冷却される。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された金属板材を金型によってプレス成形する熱間プレス成形装置であって、
相対移動する上型及び下型と、
前記上型と前記下型とが離間して両型の間に形成された型間空間にミストを噴霧するミスト噴霧部と、
を備え、
前記ミスト噴霧部は、前記上型及び前記下型とは別に、前記上型及び前記下型の相対移動と干渉しない位置に設置されている、熱間プレス成形装置。
【請求項2】
前記ミスト噴霧部は、前記上型及び前記下型の相対移動方向から見た場合に前記上型及び前記下型を挟んだ両側にそれぞれ設置されている、請求項1に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項3】
固定された前記下型に向けて前記上型を移動させる上型駆動機構を有し、
前記ミスト噴霧部は、
前記上型が離間した前記下型の成形部に向けてミストを噴霧する第1噴霧部と、
前記下型から離間した前記上型の成形部に向けてミストを噴霧する第2噴霧部と、
を備え、
前記第2噴霧部はミスト噴射方向が斜め上に向けられている、請求項1又は2に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項4】
前記下型及び前記上型は、
成形部に設けられた突条部と、
前記突条部に沿って設けられた冷却通路と、
をそれぞれ備えている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項5】
前記ミスト噴霧部からミストを噴霧している間、前記型間空間にエアを送る送風装置を備えている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項6】
加熱された金属板材を金型によってプレス成形するプレス成形工程と、
前記金型を型開きして、前記プレス成形工程によって成形された成形品を前記金型から搬出する搬出工程と、
前記金型の型開きによって形成された型間空間にミストを噴霧するミスト噴霧工程と、
ミストを噴霧した後に、前記型間空間に前記金属板材を投入する板材投入工程と、
を備えた熱間プレス成形方法。
【請求項7】
前記ミスト噴霧工程では、前記金型を挟んだ両側からミストを噴霧する、請求項6に記載の熱間プレス成形方法。
【請求項8】
前記ミスト噴霧工程では、前記金型を構成する可動上型の成形部に向けて斜め上にミストを噴霧する、請求項6又は7に記載の熱間プレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス成形装置及び熱間プレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱された金属板材をプレス成形することで、プレスと同時に金属板材を急冷、焼入れしてその強度を向上させる熱間プレス成形が知られている。熱間プレス成形によって得られる成形品として代表的なものが、オーステナイト変態する900~1000℃まで加熱した鋼板を金型でプレス成形してマルテンサイト変態させたダイクエンチ鋼板である。
【0003】
熱間プレス成形では、金型の成形部に金属板材の熱が伝わるため、成形後に成形部の温度が高まる。そこで、金型による焼入れを行うため、プレス成形後に金型の成形部を冷却することが必要となる。この場合、自然冷却だけでは冷却に時間がかかりすぎるため、生産性を向上させるべく、金型には水等の冷却媒体を流通させる冷却通路を形成し、冷却媒体によって金型の成形部の冷却を促進している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-182081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金型の成形部には、成形品の形状に合わせて凹凸が形成されている。そして、冷却通路はドリル等の工具を用いて金型を加工することにより、直線状をなすように形成される。そのため、形成部の凹凸に合わせた複雑な冷却通路を設けることは、加工の難しさや金型の製造コストの増加を理由に困難となる。そのような場合、成形部の表面と冷却通路との間の距離が不均一となり、成形部の冷却が不十分な箇所が部分的に出てくる。冷却が不十分な部分でプレスされた箇所では十分な焼入れができず、必要な硬さや曲げ強度が部分的に得られない成形品となってしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製造コストの増加を抑制しつつ、冷却通路による冷却を補完する冷却を行い、部分的に焼入れが不十分となる箇所が生じることを抑制できる熱間プレス成形装置及び熱間プレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明の熱間プレス成形装置は、
加熱された金属板材を金型によってプレス成形する熱間プレス成形装置であって、
相対移動する上型及び下型と、
前記上型と前記下型とが離間して両型の間に形成された型間空間にミストを噴霧するミスト噴霧部と、
を備え、
前記ミスト噴霧部は、前記上型及び前記下型とは別に、前記上型及び前記下型の相対移動と干渉しない位置に設置されている。
【0008】
第2の発明では、前記ミスト噴霧部は、前記上型及び前記下型の相対移動方向から見た場合に前記上型及び前記下型を挟んだ両側にそれぞれ設置されている。
【0009】
第3の発明では、固定された前記下型に向けて前記上型を移動させる上型駆動機構を有し、
前記ミスト噴霧部は、
前記上型が離間した前記下型の成形部に向けてミストを噴霧する第1噴霧部と、
前記下型から離間した前記上型の成形部に向けてミストを噴霧する第2噴霧部と、
を備え、
前記第2噴霧部はミスト噴射方向が斜め上に向けられている。
【0010】
第4の発明では、前記下型及び前記上型は、
成形部に設けられた突条部と、
前記突条部に沿って設けられた冷却通路と、
をそれぞれ備えている。
【0011】
第5の発明では、前記ミスト噴霧部からミストを噴霧している間、前記型間空間にエアを送る送風装置を備えている。
【0012】
第6の発明の熱間プレス成形方法では、
加熱された金属板材を金型によってプレス成形するプレス成形工程と、
前記金型を型開きして、前記プレス成形工程によって成形された成形品を前記金型から搬出する搬出工程と、
前記金型の型開きによって形成された型間空間にミストを噴霧するミスト噴霧工程と、
ミストを噴霧した後に前記型間空間に前記金属板材を投入する板材投入工程と、
を備えている。
【0013】
第7の発明では、前記ミスト噴霧工程では、前記金型を挟んだ両側からミストを噴霧する。
【0014】
第8の発明では、前記金型を構成する可動上型の成形部に向けて斜め上にミストを噴霧する。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、型間空間に噴霧されたミストが蒸発する際の気化熱が吸収されることにより、当該空間が冷却され、それに伴って上下両型の成形部が冷却される。これにより、成形部に凹凸があって冷却媒体の流通だけでは不十分となる冷却を補完し、部分的に焼入れが不十分な箇所が生じることを抑制できる。また、ミスト噴霧部が上下両型とは別にその両者の相対移動と干渉しない位置に設置されているため、ミスト噴霧の構成を金型に施す場合と比べて製造コストの増加を抑制できる。
【0016】
第2の発明によれば、両側のミスト噴霧部から型間空間に噴霧されたミスト同士がその型間空間において衝突するため、型間空間でのミストの滞留が促進され、ミスト濃度が濃くなる。これにより、上下両型の成形部の冷却効果が高められる。
【0017】
第3の発明によれば、下型及び上型のそれぞれの成形部に向けてミストが噴霧されるため、各成形部にミストが直接かかり、ミストが成形部上で蒸発して吸熱する。これにより、成形部の冷却効果が高められる。また、いったん第2噴霧部から上型の成形部に向けて噴霧されたミストがその自重によって降下しようとしても、第2噴霧部から後続して噴霧されるミストが衝突して巻き上げられる。そのため、ミスト噴霧中、ミストを型間空間の上部で濃度を高めた状態で滞留させることができる。これにより、上型の成形部の冷却効果を高めることができる。
【0018】
第4の発明における下型及び上型では、冷却通路が突条部に沿って設けられているため、当該冷却通路を流通する冷却媒体では突条部の中央部ほど冷却効果が低下する。そのため、上下両型の突条部によって成形される部分では、その中央部ほど焼き入れが不十分となる。その場合でも、ミスト噴霧部を有することにより、下型及び上型の間の型間空間にミストが噴霧され、そのミストが蒸発する際の気化熱が吸収される。これによって突条部が冷却されるため、冷却媒体の流通だけでは不十分となる冷却を補完し、部分的に焼入れが不十分な箇所が生じることを抑制できる。
【0019】
第5の発明によれば、送風によってミストの蒸発が促進されるため、冷却時間が短縮され、熱間プレス成形による成形品の生産性を向上させることができる。
【0020】
第6の発明によれば、型間空間に噴霧されたミストによって金型の成形部が冷却された後に新たな金属板材が金型に投入されるため、冷却媒体の流通だけでは不十分となる冷却を補完し、部分的に焼入れが不十分な箇所が生じることを抑制できる。
【0021】
第7の発明によれば、金型を挟んだ両側から噴霧されたミスト同士が型間空間において衝突するため、型間空間でのミストの滞留が促進され、ミスト濃度が濃くなる。これにより、金型の成形部の冷却効果が高められる。
【0022】
第8の発明によれば、可動上型の成形部に向けて噴霧されたミストがその自重によって降下しようとしても、後続して噴霧されるミストが衝突して巻き上げられる。そのため、ミスト噴霧中、ミストを型間空間の上部で濃度を高めた状態で滞留させることができる。これにより、可動上型の成形部の冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】熱間プレス成形装置を示す概略図。
図2】ドアインパクトビームを示す平面図。
図3図2におけるA-A断面図。
図4】上型及び下型のそれぞれの入れ子型を示す断面図。
図5】ミスト噴霧部の配置を示す平面図。
図6】型間空間にミストが噴霧された様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、熱間プレス成形装置の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示すように、熱間プレス成形装置10は、下型11と上型12とを有する金型13と、上型12を駆動する上型駆動機構14とを備えている。なお、上型12は可動上型に相当する。
【0026】
下型11及び上型12は、それぞれ型本体21,22と入れ子型23,24とを有している。本実施の形態では、各型11,12の入れ子型23,24はそれぞれ2つずつ設けられ、一度のプレスで同時に2つの成形品を得ることができる。下型11の入れ子型23はその上面側が重ね合わせ面となり、上型12の入れ子型24はその下面側が重ね合わせ面となっている。それぞれの重ね合わせ面同士が上下に対向している。下型11の入れ子型23の重ね合わせ面と、上型12の入れ子型24の重ね合わせ面とは、凹凸が形成された成形部25,26をそれぞれ有している。図1では成形部25,26の凹凸が単純化されている。
【0027】
図1に示すように、上型駆動機構14は、下型11に対して上型12が離間するように上昇させたり、両型11,12の重ね合わせ面同士が重なり合う下死点まで上型12を下型11に向けて降下させる機構である。上型駆動機構14は公知の技術により構成され、上型12の型本体22にロッド15の先端が連結された油圧シリンダ16を内蔵している。油圧シリンダ16のロッド15が出没することにより、上型12は、下型11から最も離間した上死点と両型11,12の重ね合わせ面同士が重なる下死点との間を移動する。
【0028】
本実施の形態では、金属板材として鋼板Wを用い、車体部品のドアインパクトビーム30を熱間プレス成形装置10によって成形される成形品の一例とする。なお、成形品は、骨格部品や補強部品等の車体部品、例えばバンパーリンフォース、アンダーランプロテクタ、クロスメンバ、フロアーリンフォース、ベルトラインリンフォース、ルーフリンフォース、サイドシル等であってもよい。また、成形品は車体部品に限定されない。
【0029】
ドアインパクトビーム30は、引張強度が1600MPa以上、好ましくは1800MPaとなる高張力鋼板が用いられ、熱間プレス加工によって成形される。図2に示すように、ドアインパクトビーム30は全体として左右方向に延びる長尺状をなし、その長手方向に延びる本体部31を備えている。本体部31は、図2及び図3に示すように、長手方向に延びるハット形状を有しており、一対の膨出部32を有している。膨出部32が設けられた部分では、波形の断面形状を有している。膨出部32が設けられた形状によって、本体部31の強度が高められている。
【0030】
上記ドアインパクトビーム30を成形する金型(入れ子型41,45)は、図4(a)に示すように、成形部42,46を有している。下型11の入れ子型41の成形部42には、一対の突条部43と両突条部43の間の凹条部44とが設けられている。上型12の入れ子型45の成形部46には、一対の凹条部47と両凹条部47の間の突条部48とが設けられている。下型11の突条部43は上型12の凹条部47と、下型11の凹条部44は上型12の突条部48とそれぞれ相対向する。図4(b)に示すように、上型12(入れ子型45)が下死点まで降下して上下両型11,12が重ね合わされると、入れ子型41,45の一方に設けられた突条部43,48が他方に設けられた凹条部44,47に入り込む。これにより、鋼板Wは一対の膨出部32を有する状態に成形される。
【0031】
下型11の入れ子型41と上型12の入れ子型45には、それぞれ冷却通路51,52が形成されている。冷却通路51,52はドリル等の工具を用いて直線状に形成され、下型11について図5に示すように、長手方向に沿って設けられている。熱間プレスのライン稼働中、冷却通路51,52には下型11及び上型12の各短辺部側から導入された冷却媒体が流通する。冷却媒体は一般的に水が用いられるが、機械油等の水以外を用いてもよい。
【0032】
冷却通路51,52は、両型11,12の突条部43,48には内蔵されていない。その主な理由として、ドアインパクトビーム30における膨出部32が有する短手方向の幅では、突条部43,48の内部においてその長手方向全域に冷却通路51,52を設けると、突条部43,38の強度低下を招くからである。そのため、突条部43,48では先端ほど冷却通路51,52から離れ、成形部42,46では冷却効果に部分的な差が生じる。その結果、プレス時に下型11の突条部43と上型12の突条部48とが隣り合う箇所で成形される部位(図示のX部)では、焼入れが不十分となり、必要な硬さや曲げ強度が得られない。なお、成形部42,46に突条部43,48が設けられた場合だけでなく、成形部42,46に凹凸が形成されている場合であれば、このような状態が生じる。コストや強度の観点からすべての凸部分の内部に冷却通路51,52を形成できないため、冷却通路51,52と成形部42,46の表面との距離がバラつくからである。
【0033】
そこで、本実施の形態の熱間プレス成形装置10では、図1に示すように、下型11と上型12との間の型間空間17にミストを噴霧するミスト噴霧部61,62が設けられている。ミスト噴霧部61は可撓ホースHに接続され、水が供給される。ミスト噴霧部61,62は圧縮空気とともに水滴を放出することで、ザウター平均粒径で例えば10~100μmの微細な粒径のミストを噴霧する(後述する図6参照)。噴霧されたミストが蒸発する際の気化熱が吸収されることにより、型間空間17が冷却され、それに伴い、下型11及び上型12の凹凸ある成形部25,26,42,46が冷却される。
【0034】
ミストの蒸発を促進させるため、熱間プレス成形装置10は、型間空間17に風を送る送風装置63も備えている。なお、図1では送風装置63が簡略化して図示されている。送風装置63の設置箇所や設置数は任意であり、図1に示したものに限定されない。
【0035】
ミスト噴霧部61,62は、下型11の成形部25,42に向けてミストを噴霧する第1噴霧部61と、上型12の成形部26,46に向けてミストを噴霧する第2噴霧部62とを有している。第1噴霧部61及び第2噴霧部62は両者1つずつで一組となり、図5にその設置箇所を具体的に示すように、平面視において矩形状をなす下型11の型本体21の4つの角部であって、平面視における型本体21の外方に、それぞれ一組ずつ設置されている。ミスト噴霧部61,62がこの位置に設置されているため、ミスト噴霧部61,62は上型12の上下動と干渉しない。なお、図5では成形部25,42の凹凸が省略されている。
【0036】
第1噴霧部61と第2噴霧部62は、熱間プレス成形装置10の設置面に設けられた架台(図示略)にそれぞれ設置されている。架台において、第1噴霧部61は、図1に示すように、下型11の成形部25,42よりも設置面からの高さが若干高い位置に設けられ、水平方向又は若干斜め下向きにミストを噴霧するように設置されている。第2噴霧部62は、第1噴霧部61の設置高さと略同じ高さ位置において、上型12の成形部26,46に向けて斜め上向きにミストを噴霧するように設置されている。
【0037】
また、図5に示すように、対角線上に設けられた一対の第1噴霧部61は、一方の第1噴霧部61が他方の第1噴霧部61に向けてミストを噴霧するように、ミストの噴霧方向が設定されている。そのため、一方の第1噴霧部61から噴霧されたミストは、他方の第1噴霧部61から噴霧されたミストと型間空間17において衝突する。同様に、対角線上に設けられた一対の第2噴霧部62は、一方の第2噴霧部62が他方の第2噴霧部62に向けて、斜め上向きにミストを噴霧するように設置されている。そのため、一方の第2噴霧部62から噴霧されたミストは、他方の第2噴霧部62から噴霧されたミストと型間空間17において衝突する。
【0038】
熱間プレス成形装置10の構成は以上のとおりであり、これを用いて鋼板Wから成形品を得る熱間プレス成形方法について次に説明する。熱間プレス成形方法は、プレス成形工程、搬出工程、ミスト噴霧工程、板材投入工程とを有する。
【0039】
図1に示すように、上型12が上死点にある状態で、加熱炉で所定温度まで加熱された鋼板Wを、搬送ロボット等の搬送装置(図示略)を用いて熱間プレス成形装置10に投入する。投入された各鋼板Wは、それぞれ下型11の入れ子型23,41の上に配置される。
【0040】
次いで、プレス成形工程を実施する。プレス成形工程では、上型駆動機構14により油圧シリンダ16のロッド15が突出し、上型12が下型11に向けて降下する。上型12が下死点まで降下して下型11と重ね合わされると、加熱された鋼板Wはプレス成形されて成形品となる。この時、加熱された鋼板Wは、下型11の成形部25,42及び上型12の成形部26,46によって急冷、焼入れされる。
【0041】
続く搬出工程では、上型12を上死点まで上昇させて型開きした後、プレス成形によって鋼板Wが成形された成形品を、搬送ロボット等の搬送装置(図示略)を用いて熱間プレス成形装置10から搬出する。搬出した成形品は、余剰部分をトリミングしてドアインパクトビーム30を得る後工程に送られる。
【0042】
成形品が熱間プレス成形装置10から搬出された後、次のミスト噴霧工程を行う。ミスト噴霧工程では、図5及び図6に示すように、すべての第1噴霧部61及びすべての第2噴霧部62から、同時に型間空間17にミストを噴霧する。この時、第1噴霧部61からは下型11の成形部25,42に向けてミストが噴霧され、第2噴霧部62からは上型12の成形部26,46に向けてミストが噴霧される。この場合、各噴霧部61,62でのミストの噴霧時間は2秒~6秒間、噴霧量は20~60L/時間とすることが好ましい。噴霧されたミストが蒸発する際の気化熱が吸収されることにより、型間空間17とが冷却される。併せて、突条部43,48や凹条部44,47を有する凹凸のある成形部25,26,42,46も、その全体が冷却される。ミストの噴霧と同時に送風装置63が駆動され、ミストが噴霧されている間、型間空間17に向けて送風される。この送風によってミストの蒸発が促進され、成形部25,26,42,46の冷却効果がより高まる。
【0043】
図5に示すように、対角線上に設けられた一対の第1噴霧部61のうち一方の第1噴霧部61から噴霧されたミストは、下型11の重ね合わせ面における中央領域やその上方において、他方の第1噴霧部61から噴霧されたミストと衝突する。そのため、当該中央領域で両側から噴霧されたミストが滞留する。対角線上の両側からのミスト噴霧は交差する2方向で行われることも相まって、下型11の重ね合わせ面の中央領域やその上方周辺ではミストの濃度がより高められる。
【0044】
同様に対角線上に設けられた一対の第2噴霧部62のうち一方の第2噴霧部62から噴霧されたミストは、上型12の重ね合わせ面における中央領域やその下方において他方の第2噴霧部62から噴霧されたミストと衝突し、当該中央領域で両側から噴霧されたミストが滞留する。対角線上の両側からのミスト噴霧が交差する2方向で行われることも相まって、上型12の重ね合わせ面の中央領域やその下方周辺ではミストの濃度がより高められる。さらに、いったん第2噴霧部62から噴霧されたミストが自重によって降下しようとしても、第2噴霧部62から連続して噴霧されるミストがそれに衝突して巻き上げられる。そのため、ミスト噴霧中、ミストは型間空間17の上部でその濃度が高められた状態で滞留する。
【0045】
このように、下型11及び上型12では、それぞれの重ね合わせ面の中央領域においてミストの滞留性や濃度が高められ、その領域での冷却性能が高められている。熱間プレスのライン稼働中、冷却通路51,52を流通する冷却水は、上下両型11,12の短辺部側から導入されて長手方向中央部へ流れるため、中央領域では冷却水による冷却効果は低下する。そのような箇所において、ミストによる冷却性能が高められる。
【0046】
その後の板材投入工程では、冷却媒体の流通とミスト噴霧とによって上下両型11,2の成形部25,26,42,46が冷却された状態にある熱間プレス成形装置10に、鋼板Wを再び投入する。その後は、プレス成形工程、搬出工程、ミスト噴霧工程、板材投入工程を再び実施し、これを繰り返す。鋼板Wが搬出されるたびにミスト噴霧によって成形部25,26,42,46の冷却が行われ、十分に冷却された状態の成形部25,26,42,46に鋼板Wが投入されるため、熱間プレス成形を行う際に部分的に焼入れが不十分な箇所が生じることを抑制できる。
【0047】
以上説明した本実施の形態の熱間プレス成形装置10及びそれを用いた熱間プレス成形方法によれば、以下の作用効果が得られる。
【0048】
(1)型間空間17にミストを噴霧するミスト噴霧部61,62が、下型11及び上型12とは別に、上型12の上下動と干渉しない位置に設置されている。型間空間17に噴霧されたミストが蒸発する際の気化熱により、当該型間空間17が冷却され、それに伴って上下両型11,12の凹凸のある成形部25,26,42,46が冷却される。これにより、成形部25,26,42,46に凹凸があって冷却水の流通だけでは不十分となる冷却を補完し、部分的に焼入れが不十分な箇所が生じることを抑制できる。
【0049】
特に、ドアインパクトビーム30を成形する場合のように、下上両型11,12の突条部43,48に冷却通路51,52がないと、冷却通路51,52を流通する冷却水では突条部43,48を十分に冷却できない。そのため、上下両型11,12の突条部43,48同士がプレス時に隣接する部分では、鋼板Wをプレスしても焼き入れが不十分となる。その場合でも、型間空間17に噴霧されたミストが蒸発する際の気化熱が吸収されることにより、突条部43,48が冷却されるため好適となる。
【0050】
(2)ミスト噴霧部61,62は、上下両型11,12とは別に、上型12の上下移動と干渉しない位置に設置されているため、ミスト噴霧の構成を上下両型11,12に施す場合と比べて製造コストの増加を抑制できる。
【0051】
(3)ミスト噴霧部61,62は、上型12の移動方向に見て下型11を挟んだ両側にそれぞれ設置され、当該両側からそれぞれ噴霧されたミスト同士が衝突するようにミストを噴霧している。両側のミスト噴霧部61,62から噴霧されたミスト同士が衝突することによりミストの滞留が促進され、ミスト濃度が濃くなって冷却効果がより高められる。
【0052】
そして、ミストが滞留するのは、両側のミスト噴霧部61,62同士の間となる。この領域は入れ子型23,24,41,45の成形部25,26,42,46が設けられ、加熱された鋼板Wとプレス時に接触して特に高温となる。また、上下両型11,12の内部を流通する冷却水は、短辺部の側部から長手方向の中央部に流通するため、中央領域ほど冷却媒体による冷却効果が低下する。そのため、上下両型11,12では重ね合わせ面の中央領域ほど高温となりやすい。そのような高温となりやすい箇所でミストが滞留するため、成形部25,26、42,46の冷却効果が高められる。
【0053】
(4)ミスト噴霧部61,62は第1噴霧部61と第2噴霧部62とを有し、第1噴霧部61は下型11の成形部25,42に向けてミストを噴霧し、第2噴霧部62は上型12の成形部26,46に向けてミストを噴霧する。第1噴霧部61及び第2噴霧部62は平面視における下型11の外方に設けられ、第1噴霧部61は水平又は若干斜め下向きに、第2噴霧部62は斜め上向きにミストを噴霧する。
【0054】
上下両型11,12の各成形部25,26,42,46に向けてミストが噴霧されるため、各成形部25,26,42,46にミストが直接かかり、ミストが成形部25,26,42,46の上で蒸発するため、冷却効果が高められる。また、いったん第2噴霧部62から上型12の成形部26,46に向けて噴霧されたミストがその自重によって降下しようとしても、下側にある第2噴霧部62から後続して噴霧されるミストが衝突して巻き上げられる。そのため、ミスト噴霧中、ミストを型間空間17の上部で濃度を高めた状態で滞留させることができる。これにより、上型12の成形部26,46の冷却効果を高めることができる。
【0055】
(5)第1噴霧部61及び第2噴霧部62は、それぞれ下型11の型本体21の4つの角部であって、平面視における型本体21の外方に設けられている。そして、対角線上の両側からのミスト噴霧が交差する2方向で行われる。これにより、対角線が交差する中央領域では、一方の対角線上で噴霧されたミストと他方の対角線上で噴霧されたミストとが衝突する。そのため、両側からのミスト噴霧が平行に行われる場合と比較して、上下両型11,12の成形部25,26,42,46の中央領域ではよりミストが滞留しやすくなっている。これにより、中央領域での冷却効果をより高めることができる。
【0056】
(6)ミスト噴霧部61,62からミストを噴霧している間、型間空間17にエアを送る送風装置63を備えている。これによりミストの蒸発が促進されるため、冷却時間が短縮され、プレスのサイクルを短くすることができる。これにより、熱間プレス成形による成形品の生産性を向上させることができる。
【0057】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0058】
(a)上記実施の形態では、ミスト噴霧部61,62は、下型11の4つの角部に設けられている。ミスト噴霧部61,62の設置箇所は、上型12の上下動と干渉しない任意の位置に設置できる。例えば、下型11の短辺部分の外方や長辺部分の外方にミスト噴霧部61,62を設置したり、架台の高さを高くして、上型12の側や型間空間17の上下中央部等にミスト噴霧部61,62を設置したりしてもよい。
【0059】
(b)上記実施の形態では、上下両型11,12について入れ子型23,24,41,45を有する構造としたが、下型11及び上型12は入れ子式でない構造であってもよい。
【0060】
(c)上記実施の形態では、下型11を固定型とし、上型12を可動型としたが、固定型と可動型を上下逆にしてもよい。下型11及び上型12は相対移動する。
【符号の説明】
【0061】
10…熱間プレス成形装置、11…下型、12…上型(可動上型)、14…上型駆動機構、17…型間空間、25,42…成形部、26,46…成形部、43,48…突条部、51,52…冷却通路、61…第1噴霧部(ミスト噴霧部)、62…第2噴霧部(ミスト噴霧部)、63…送風装置、W…鋼板(金属板材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6