(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142285
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器及び塗布型容器セットとそれを用いた紙含有立体構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B43K 8/02 20060101AFI20220922BHJP
B43K 8/03 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B43K8/02
B43K8/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042407
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】393000881
【氏名又は名称】株式会社マルアイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重宗 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】岡明 周作
(72)【発明者】
【氏名】毛利 英希
(72)【発明者】
【氏名】石川 直人
(72)【発明者】
【氏名】生松 萌
(72)【発明者】
【氏名】武井 勝士
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350GA06
2C350HA14
2C350HA15
(57)【要約】
【課題】インキの塗布により気軽に紙を曲げることができ、安定した書き心地が得られる、紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器及び塗布型容器セットとそれを用いた紙含有立体構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の塗布型容器は、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートに対して、その一方の面にインキを塗布し、この塗布した部位のインキを乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面を内側にして前記紙含有シートを自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器であって、前記インキは水及び増粘剤を含有することを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートに対して、その一方の面にインキを塗布し、この塗布した部位のインキを乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面を内側にして前記紙含有シートを自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器であって、
前記インキは水及び増粘剤を含有する塗布型容器。
【請求項2】
前記一方の面にインキを塗布することにより、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させ、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製し、
前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製する請求項1に記載の塗布型容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗布型容器と、
紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートであって、その一方の面に前記塗布型容器よりインキを塗布し、この塗布した部位のインキを乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面を内側にして自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製可能な紙含有シートとを有する、紙含有立体構造体の作製用塗布型容器セット。
【請求項4】
紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートが折り曲げられて構成された、紙含有立体構造体の製造方法であって、
前記紙含有シートに対して、その一方の面に水及び増粘剤を含有するインキを有する塗布型容器を用いて前記インキを塗布することにより、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させ、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製する工程(A)と、
前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製する工程(B)とを含む、紙含有立体構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器及び塗布型容器セットとそれを用いた紙含有立体構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
折り紙技術は、1枚の紙を折ることによって、多様な立体構造を形成できる利点を有しており、折り曲げのパターンを工夫することによって、展開と収納の機能の繰り返し利用が可能となったり、機械的強度が比較的高い構造体の形成が可能となることから、種々の分野での応用が期待されている。例えば、3次元電子デバイスの製造、軽量かつ安価な衝撃緩衝材の製造、シートの折り畳みによる省スペース化等に、折り紙技術の適用が想定される。
【0003】
このような中、紙に対して、その外部から何らかの働きかけを行うことにより、紙が自ら折れ曲がるようにする、自律的な紙の折り曲げ技術が注目されており、このような技術は“self-foldeing”(自己折り畳み)という用語で語られることもある。このような紙の自律的な折り曲げ技術の開発によって、上記のような折り紙の特性の利用が大きく進展することが期待される。
【0004】
このような折り曲げ技術としては、紙に、その外部からの刺激に対して応答する材料を配置しておき、刺激を加えたときにこの材料の応答を利用することで、紙を自律的に折り曲げる技術が、これまでに報告されている。ここで刺激としては、電流、熱等が挙げられる。
【0005】
しかし、このような折り曲げ技術では、電流、熱等の、何らかのエネルギーの供給が必要であるため、利用環境が制限される可能性があるという問題点があり、更に、紙も特殊な材料で修飾する必要があるため、高コストであるという問題点があった。
【0006】
このような問題点を解決できる手法として、インクジェットプリンターを用いて、2-プロパノールを含有する水溶液を紙に吐出し、乾燥させる手法が開示されている(非特許文献1参照)。この手法では、電流、熱等のエネルギーの紙への供給も不要であり、紙を特殊な材料で修飾する必要もないため、実用性が高いという利点を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroki Shigemune, Shingo Maeda, Yusuke Hara, and Shuji Hashimoto.“Design of paper mechatronics:Towards a fully printed robot” Proceedings of 2014 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS 2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1で開示されている手法は、これまでのその他の手法の問題点を解決できる点で有用であるが、実用的な立体構造体へと適用するために、さらなる改良が望まれる。また、このような折り曲げ技術は、紙だけでなく、紙と他の材料を併用した複合紙へも適用できれば、有用性が更に高まる。
【0009】
気軽に紙を曲げること、気軽に使用できることといった目的の商品化を検討した場合、インクジェット印刷に比べてペンによる塗布の方がより簡易的で、楽しみがある。しかしながら、非特許文献1の技術ではインクジェット印刷に適した溶液の粘度が低いインキであるため、ペン容器に適用するとペン先から液漏れ等があり、安定して塗布することができない。インキへ水以外の成分を添加した場合、紙の自律形成に影響する可能性があるが、紙の自律形成に支障をきたすことなくペンで安定して塗布できる技術が望まれていた。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、インキの塗布により気軽に紙を曲げることができ、安定した書き心地が得られる、紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器及び塗布型容器セットとそれを用いた紙含有立体構造体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の塗布型容器は、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートに対して、その一方の面にインキを塗布し、この塗布した部位のインキを乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面を内側にして前記紙含有シートを自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製するための塗布型容器であって、前記インキは水及び増粘剤を含有することを特徴としている。
【0012】
この塗布型容器における好ましい態様では、前記一方の面にインキを塗布することにより、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させ、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製し、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製する。
【0013】
本発明の紙含有立体構造体の作製用塗布型容器セットは、前記塗布型容器と、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートであって、その一方の面に前記塗布型容器よりインキを塗布し、この塗布した部位のインキを乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面を内側にして自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製可能な紙含有シートとを有することを特徴としている。
【0014】
本発明の紙含有立体構造体の製造方法は、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートが折り曲げられて構成された、紙含有立体構造体の製造方法であって、
【0015】
前記紙含有シートに対して、その一方の面に水及び増粘剤を含有するインキを有する塗布型容器を用いて前記インキを塗布することにより、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させ、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製する工程(A)と、
前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において自律的に折り曲げて紙含有立体構造体を作製する工程(B)とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、折り紙技術を利用して、インキの塗布により気軽に紙を曲げることができ、安定した書き心地が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法のうち、工程(A)の一例を模式的に説明するための斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法のうち、工程(A)の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法のうち、工程(A)の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法のうち、工程(B)の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図5】本発明の塗布型容器として使用可能な種類の一例を示した図である。
【
図6】本実施形態で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体との一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】本実施形態における、水の濃度勾配が作製された紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図8】本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位が作製された紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図9】本実施形態で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体との一例を模式的に示す斜視図である。
【
図10】比較例1~6の結果を示す、幅方向と流れ方向にインキを塗布後の紙の折れ曲がり状態を示す写真(左)とインキ供給時のペン先の写真(右)である。(a)はインキに水を用いた比較例1~3、(b)はインキに水とアルコールの混合液を用いた比較例4~6の結果を示す。
【
図11】実施例1~6、比較例7、8の結果を示す、幅方向と流れ方向にインキを塗布後の紙の折れ曲がり状態を示す写真(上)とインキ供給時のペン先の写真(下)である。(a)はインキに水と増粘剤を用いた比較例7及び実施例1~3、(b)はインキに水とアルコールの混合液と増粘剤を用いた比較例8及び実施例4~6の結果を示す。
【
図12】実施例7~10、比較例9~12の結果を示す、幅方向と流れ方向にインキを塗布後の紙の折れ曲がり状態を示す写真(上)とインキ供給時のペン先の写真(下)である。(a)はバルブ式ペンについて、ペン先の太さを変更した比較例9、10及び実施例7、8、(b)はペン容器の種類を変更した比較例11、12及び実施例9、10の結果を示す。
【
図13】実施例11~13の結果を示す、幅方向と流れ方向にインキを塗布後の紙の折れ曲がり状態を示す写真(上)とインキ供給時のペン先の写真(下)である。(a)は増粘剤の種類を変更した実施例11、(b)はインキに染料を添加しない実施例12及び染料を添加した実施例13の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。なお、以降の説明に用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1~
図4は、本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法の一例を、模式的に説明するため図であり、
図1は斜視図、
図2~
図4は断面図である。
【0020】
図1に示す本実施形態の塗布型容器1は、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シート3に対して、その一方の面3aにインキ2を塗布し、この塗布した部位のインキ2を乾燥させることにより、前記塗布した部位で前記一方の面3aを内側にして紙を自律的に折り曲げ、
図4に示すような紙含有立体構造体5を製造するための塗布型容器である。インキ2は、水及び増粘剤を含有している。
図1~
図4では、塗布型容器1の一例としてペンを用いた場合を示している。
紙含有立体構造体5の製造は、より具体的には、次の工程(A)及び工程(B)を含む。
【0021】
工程(A)では、紙含有シート3に対して、その一方の面3aに水及び増粘剤を含有するインキ2を有する塗布型容器1を用いてインキ2を塗布することにより、紙含有シート3に対して、その一方の面3aから水2aを浸透させ、紙含有シート3の厚さ方向に水2aの濃度勾配を有する部位4を、紙含有シート3に1又は2以上作製する。
【0022】
工程(B)では、水の濃度勾配を有する状態の紙含有シート3を乾燥させることにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4’において自律的に折り曲げて紙含有立体構造体5を作製する。
<工程(A)>
図1~
図3は、本発明の一実施形態に係る塗布型容器を用いた紙含有立体構造体の製造方法のうち、工程(A)の一例を模式的に説明するための図である。
【0023】
工程(A)においては、
図1に示すように、紙含有シート3に対して、その一方の面3aに水及び増粘剤を含有するインキ2を有する塗布型容器1を用いてインキ2を塗布する。
図1の例では、筆記型塗布具であるペンを用い、インキ2はペン容器1aに充填されペン先1bから紙含有シート3の一方の面3aに塗布している。
図1において、インキ2は、紙含有シート3の前記一方の面3aに対して平行な方向(換言すると表面方向)に、直線状に塗布している。すなわち、ここに示すインキ2は、紙含有シート1の一方の面1aに対して平行な方向に、一繋がりとなって塗布されている。
【0024】
これにより、
図2(a)に示すように、紙含有シート3の一方の面3aに、インキ2(及びそれに含まれる水2a)を付着させ、
図2(b)に示すように、紙含有シート3に対して、その一方の面3aから水2aを浸透させる。
【0025】
このとき、紙含有シート3の厚さT
1を考慮して、過剰量とはならない適切な量のインキ2(水2a)を、紙含有シート3の一方の面3aに付着させることにより、
図2(b)又は
図2(c)に示すように、紙含有シート3に対して、その一方の面3aから水2aを浸透させることができる。
図2(b)は、紙含有シート3が、その一方の面3aが凸状となるように反った状態であり、典型的には、このような状態を経た後、
図2(c)に示すように、反りが解消された状態となる。
【0026】
図2(b)に示すように、紙含有シート3が反る理由は、紙含有シート3の一方の面3aから、他方の面3bへ向けて、水2aが浸透していく過程で、紙含有シート3の一方の面3a側が、他方の面3b側よりも、水2aの濃度が高く(含有量が多く)なることによって、紙含有シート3の一方の面3aが膨張するためである。時間の経過とともに、この水2aの濃度差が小さくなるにしたがって、紙含有シート3の膨張の影響が緩和され、
図2(c)に示すように、紙含有シート3の反りが解消される。
水2aは、例えば、インキ2の供給により、水滴として、紙含有シート3の一方の面3aに付着させる(塗布する)ことができる。
【0027】
本実施形態では、インキ2が増粘剤を含有している。これによりインキ2は適度な粘度を持ち、ペン容器1aに充填されたインキ2は、ペン先2bを押し込んでも液漏れすることがなく、塗布した線状部位はペン先2bのサイズに応じた均一な塗布幅となり、安定して塗布することができる。インキ2が増粘剤を含有しても紙含有シート3は工程(B)を経て折り曲げられ紙含有立体構造体5を形成することができ、安定した幅の水の濃度勾配を有する部位4によって所望の紙含有立体構造体5を形成することができる。
【0028】
工程(A)においては、紙含有シート3に対して、その一方の面3aから水2を浸透させることにより、
図2(b)又は
図2(c)に示すように、紙含有シート3の厚さT
1方向に水の濃度勾配を有する部位4を、紙含有シート3に1又は2以上作製する。
図2では、水の濃度勾配を有する部位4を、便宜上、1だけ示している。
【0029】
本明細書において、紙含有シートが、その厚さ方向に水の濃度勾配を有する、とは、紙含有シートが、その両面を最短距離で結ぶ方向において、単位面積あたりの水の含有量(水の濃度)が異なる領域を有する、ということを意味する。
図2(b)及び
図2(c)においては、紙含有シート3の一方の面3aから他方の面3bへ向かって、紙含有シート3の水2の含有量が徐々に少なくなっていく状態を示している。本実施形態においては、通常はこのように、水2の浸透方向、すなわち、紙含有シート3の水2を付着させた面(前記一方の面3a)から、その反対側の面(前記他方の面3b)へ向かう方向において、紙含有シート3中の水2の量が減少していく。ただし、ここに示すのは、紙含有シート3中での水2の量の変化の一例である。
【0030】
工程(A)においては、紙含有シート3の厚さT1を考慮して、過剰量とはならない適切な量のインキ2(水2a)を、紙含有シート3の一方の面3aに付着させることにより、このような水2aの濃度勾配を容易に形成できる。
【0031】
図2(b)及び
図2(c)では、紙含有シート3に浸透させた水2aは、紙含有シート3の他方の面3bには到達していないが、工程(A)においては、上記のように水2aの濃度勾配が生じていれば、例えば、
図3に示すように、紙含有シート3に浸透させた水2aは、紙含有シート3の他方の面3bに到達していてもよい。
【0032】
工程(A)においては、このような水の濃度勾配を有する部位4を、紙含有シート3に1又は2以上作製する。
【0033】
水の濃度勾配を有する部位4は、紙含有シート3の折り曲げたい箇所に作製する。例えば、紙含有シート3を、その前記一方の面3a側の上方から見下ろして平面視したときの、水の濃度勾配を有する部位4の形状、大きさ及び数は、目的とする紙含有立体構造体に応じて決定する。
【0034】
工程(A)において、紙含有シート3に浸透させる水2aの量(付着量)は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、インキ2の塗布量で0.5~50g/m2とすることが好ましく、5~25g/m2とすることがより好ましい。浸透させる水2aの量を、紙含有シート3の単位面積あたり、このような範囲とすることで、紙含有シート3をより効率的に折り曲げることができる。
【0035】
工程(A)において、水の濃度勾配を有する部位4を、紙含有シート3に、実線状、点線状等の線状に作製する場合には、線幅は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、1~50mmであることが好ましく、3~30mmであることがより好ましい。前記線幅がこのような範囲であることにより、紙含有シート3の自律的な折り曲げを、より効率的に行うことができる。
【0036】
工程(A)において、水の濃度勾配を有する部位が線状である場合の線幅は、経時と共に変化する可能性がある。本実施形態においては、特に断りのない限り、前記線幅とは、線幅が経時と共に変化しない場合には、その一定値の線幅を意味し、線幅が経時と共に変化する場合には、線幅の最大値を意味する。
【0037】
例えば、
図2(b)に示すように、紙含有シート3が反った状態で、前記線幅が最大となる場合には、
図2(b)に示す線幅W
1が上述の数値範囲であることが好ましい。一方、
図2(c)に示すように、紙含有シート3が反っていない状態で、前記線幅が最大となる場合には、
図1(c)に示す線幅W
1が上述の数値範囲であることが好ましい。
前記線幅は、例えば、紙含有シート3を、その前記一方の面3a側の上方から見下ろして平面視することで、測定できる。
【0038】
工程(A)においては、水の濃度勾配を有する部位4を、紙含有シート3に、実線状、点線状、一点鎖線状などの任意の形態で作製することができる。点線状、一点鎖線状などの場合であっても、水の濃度勾配を有する部位4は、水の濃度勾配を有する個々の局所的な部位が互いに近接し、紙含有シート3の前記一方の面3aに対して平行な方向に、相互に間欠的に繋がりながら設けられていれば、紙含有立体構造体5として折り目を有する、所謂折り紙式のものを容易に製造できる。
【0039】
本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位4は、実線状、点線状、一点鎖線状などの互いに異なる形状又はパターンが2種以上組み合わされて形成されていてもよいし、折り目を形成する部位が複数ある場合等には、これら複数の部位で線幅が異なるようにしてもよい。
【0040】
工程(A)においては、紙含有シート3の前記一方の面3aに対して平行な方向(換言すると表面方向)において、水2aの浸透量が互いに異なる、水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製してもよい。塗布型容器1の種類やペン先、インキ2の組成等の変更によりインキ2の供給の仕方を変更し、紙含有シート3の面3aに付着させる水2aの量を、互いに変えることで、水2aの浸透量が互いに異なる、水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製できる。このように、水2aの浸透量が互いに異なる部位を作製することにより、水2aの浸透量の違いに基づいて、後述する工程(B)において、これら部位での折り曲げの速度に差をつけることができる。そして、このように折り曲げの速度に差をつけることによって、より複雑な形状の紙含有立体構造体5を製造できる。更に、紙含有立体構造体5として、これら部位での折り曲げの角度が互いに異なるものを製造できる。
【0041】
工程(A)において、紙含有シート3にインキ2(水2a)を付着させ、浸透させるときの、環境の圧力、温度、相対湿度、紙含有シート1にインキ2(水2a)を付着させてから、浸透させるときの時間は、条件に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内において任意に設定でき、特に限定されない。室内や屋外の大気圧下で好適に行うことができる。
【0042】
工程(A)において、紙含有シート3に水2aを付着させ、浸透させるときの、環境の圧力は、0~1.0×1012Paであることが好ましく、1.0×102~1.0×109Paであることがより好ましく、1.0×106~1.0×107Paであることが更に好ましく、例えば常圧(大気圧)下であってもよい。このような圧力条件下においては、水2aをより良好に紙含有シート3に浸透させることができる。
【0043】
工程(A)において、紙含有シート3に水2aを付着させ、浸透させるときの温度は、-273.15~1.0×105℃であることが好ましく、-10~1.0×103℃であることがより好ましく、1.0×10-12~100℃であることが更に好ましく、例えば、10~35℃であってもよい。このような温度条件下においては、水2aをより良好に紙含有シート3に浸透させることができる。
【0044】
工程(A)において、紙含有シート3に水2aを付着させ、浸透させるときの相対湿度は、0~100%であることが好ましく、10~80%であることがより好ましく、例えば、20~65%、及び20~40%のいずれかであってもよい。このような相対湿度の条件下においては、水2aをより良好に紙含有シート3に浸透させることができる。
【0045】
工程(A)において、紙含有シート3に水2aを付着させてから、浸透させるときの時間は、このときのその他の条件に応じて、任意に設定でき、特に限定されない。例えば、前記時間は、100000分以内であってもよい。
【0046】
工程(A)においては、紙含有シート3に水2aを付着させてから、浸透させるときの環境の圧力、温度、相対湿度及び時間からなる群より選択される2以上を、上述の条件に設定することが好ましく、紙含有シート3に水2aを付着させてから、浸透させるときの環境の圧力、温度、相対湿度及び時間のすべてを、上述の条件に設定してもよい。
<工程(B)>
【0047】
前記工程(A)の後、前記工程(B)においては、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させる。これにより、例えば、
図4(a)に示すように、紙含有シート3は、その水の濃度勾配を有する部位4において、一方の面3aが凹状となるように、折れ曲がりはじめ、乾燥(換言すると水2aの除去)が進行するとともに、折れ曲がりの角度が大きくなり、例えば、
図4(b)に示すように、乾燥が終了した状態で、目的とする紙含有立体構造体5が形成される。
【0048】
本実施形態においては、このように、水の濃度勾配を有する状態の(換言すると、水の濃度勾配を有する部位4が存在する)紙含有シート3を乾燥させることにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4'において、自律的に折り曲げる。
紙含有シート3中では、当初、セルロース分子同士が水素結合によって結合している。
【0049】
前記工程(A)において、紙含有シート3に塗布型容器1からインク2を塗布し水2aを浸透させると、先の説明のように、その一方の面3aが膨張するが、紙含有シート3中では、水分子がセルロース分子間の水素結合を切断し、セルロース分子間に水分子が介在した状態となり、セルロース分子-水分子-セルロース分子の分子間結合が形成されると推測される。
【0050】
一方、紙含有シート3は、その製造方法に起因して、外力によってひずみが生じた状態のまま製造されている。このような紙含有シート3に対して、工程(A)に次いで工程(B)を行うと、乾燥によって、紙含有シート3中の水が低減されるに従って、紙含有シート3は、当初の状態よりも、ひずみが低減又は解消されて安定した状態となり、水2aの浸透前よりも収縮すると推測される。このとき生じる収縮力によって、紙含有シート3は、採取的に
図4(b)に示すように、その水の濃度勾配を有していた部位4'において、自律的に折れ曲がると推測される。
【0051】
工程(B)においては、このように、紙含有シート3の両面(すなわち、一方の面3aと他方の面3b)のうち、水2aの濃度が高い側の面(すなわち、一方の面3a)を内向き(すなわち、他方の面3bを外向き)にして、紙含有シート3を自律的に折り曲げる。
【0052】
紙含有シート3を自律的に折り曲げたとき、折り曲げ部位は、必ずしも明瞭な折り目を有するとはいえず、折り曲げ部位の表面は曲面となっていることが多い。紙含有シート3のうち、水の濃度勾配を有していた部位4'との境界から、折り曲げ部位の表面が曲面となっている場合であっても、境界を介した両面が角度を有する場合には折り目を有する。紙含有シート3のうち、水の濃度勾配を有していた部位4'を介した一側の面を基準とし、他側の面が紙含有シート3の塗布面(一方の面3a)を内側として起立した場合には折り目が形成され、その角度は、特に限定されないが、例えば、0°超から、一側の面が他側の面まで折れ曲がる180°までである。
<塗布型容器>
【0053】
本実施形態の塗布型容器1は、インキ2に増粘剤を含有することを特徴としている。増粘剤を含有することで、インキ2は増粘して適度な粘度を持ち、増粘することで液漏れ等がなくなり、安定した書き心地が得られ、気軽に紙含有シート3を曲げられるようになる。また、インキ2の塗布に塗布型容器1を用いることができるようになり、自由にカタスタマイズして書くことができるので、思い描いた様々な塗布形状を気軽に実現できるようになる。
【0054】
本実施形態の塗布型容器1における容器やインク供給部は、塗布型容器として液体のインキ2を必要量塗布でき、紙含有シート3を変形することができるものであれば、その種類は特に限定されず、例えば、従来公知の各種のものを使用できる。具体的には、例えば、バルブ式ペン、中綿式ペン、筆ペン等の筆記型塗布具や、スポンジフィルター付き容器、ローラー容器、判子等の転写型塗布具が挙げられる。
図5にはこれらの一例を示し、(a)はバルブ式ペン、(b)は中綿式ペン、(c)は筆ペン、(d)はスポンジフィルター付き容器、(e)はローラー容器、(f)は判子である。
【0055】
これらの中でも、ペン型のような筆記型塗布具は好ましく使用でき、その中でもバルブ式ペンは、塗布幅が豊富で一定の幅で塗布でき、インキ2の供給量が多い点で好ましい。
【0056】
インキ2に含有する増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、グァーガム、カラギナン、ローストビンガム、アラビアガム等の増粘多糖類やセルロースナノファイバー、ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0057】
インキ2は、塗布型容器1の種類に応じて適した粘度があると考えられるが、インキ供給量が多いバルブ式ペンや筆ペンでは適正な粘度が高めになる傾向があり、ザーンカップで測定した25℃における粘度が60~700cpsであることが好ましく、90~500cpsであることがより好ましい。
【0058】
インキ供給量が少ない中綿式ペンは適正な粘度が低めになる傾向があり、10~80cpsであることが好ましく、10~50cpsであることがより好ましい。
【0059】
インキ2における増粘剤の含有量は、特に限定されないが、上記のような粘度範囲となるよう、水や低級アルコール等のベースとなる液状成分の全量を基準として0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上である。増粘剤の含有量の上限は、上記のとおり塗布型容器1の種類にもよるが、概して1質量%以下が好ましい。
【0060】
インキ2におけるベースとなる液状成分は、水を必須とし、インキの塗れ性を向上させること等を考慮して他の液状成分、例えば水と混和するアルコール等を併用してもよい。アルコールとしては、例えば、2-プロパノールなどの低級アルコール等を挙げることができる。水2aは紙を変形するために必須であるのに対し、アルコールはインキの塗れ性を向上させることができる。水とアルコールの比率は、特に限定されないが、折り曲げ性とインキの塗れ性向上の両立を図る点を考慮すると、質量比で97:3~70:30が好ましい。
【0061】
本実施形態の塗布型容器1において、インキ2には、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記以外の他の成分を添加してもよい。他の成分としては、特に限定されないが、例えば、染料などの着色剤、水の浸透を変化させる塩などの電解質等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<紙含有シート>
【0062】
紙含有シート3は、紙からなるシート(すなわち紙製シート)、又は紙を主成分とするシートであり、主成分としてセルロースを含有する。紙含有シート3を変形させるためには水の濃度勾配が必要となるため、紙含有シート3としては、濃度勾配がつく紙ならば特に限定されない。
前記紙からなるシート(紙製シート)として、具体的には、例えば、トレーシングペーパー等が挙げられる。
紙を主成分とするシートは、紙と、それ以外の他の成分を含有する。
前記他の成分は、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の成分として、具体的には、例えば、樹脂、シリカゲル等が挙げられる。
【0063】
紙を主成分とするシートが含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0064】
紙を主成分とするシートにおいて、このシートの総質量に対する、前記他の成分の含有量の割合([紙を主成分とするシート中の前記他の成分の量(質量部)]/[紙を主成分とするシートの総質量(質量部)]×100)は、40質量%以下であることが好ましく、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、及び5質量%以下のいずれかであってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、紙含有シート3をより効率的に折り曲げることができる。
【0065】
一方、前記割合は0質量%超であり、例えば、1質量%以上であってもよい。前記割合の下限値が大きいほど、前記他の成分を含んでいることにより得られる効果が、より高くなる。
【0066】
紙含有シート(紙からなるシート、紙を主成分とするシート)3は、1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよい。紙含有シートが複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0067】
本明細書においては、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、更に「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0068】
紙含有シート3の厚さT1は、目的に応じて任意に選択できるが、1.0×10-6~1.0×104μmであることが好ましく、1~1000μmであることがより好ましい。T1がこのような範囲であることで、紙含有シート1をより高精度に折り曲げることができる。
【0069】
ここで、「紙含有シートの厚さ」とは、紙含有シート全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる紙含有シートの厚さとは、紙含有シートを構成するすべての層の厚さを意味する。
【0070】
紙含有シート3の形状は、シート状であれば特に限定されず、目的とする紙含有立体構造体の構造、一例としては、
図6~
図9に示すような紙含有立体構造体の構造に応じて、任意に選択できる。
<紙含有立体構造体の作製用塗布型容器セット>
【0071】
塗布型容器1は、紙含有立体構造体の作製用の塗布型容器1として、紙含有シート3と独立した商品として販売することもできるが、本実施形態の塗布型容器1と紙含有シート3は、紙含有立体構造体5の作製用塗布型容器セットとしてもよい。例えば、特定の塗布型容器1と特定の紙含有シート3を関連付けて、紙含有立体構造体5の作製用として商品を販売する態様が挙げられる。より具体的には、特定の塗布型容器1と特定の紙含有シート3を同一商品として販売する場合や、特定の塗布型容器1と特定の紙含有シート3を関連付けて別々に販売し、塗布型容器1のインキ2がなくなれば塗布型容器1もしくは充填するインキ2を購入し、紙含有シート3がなくなれば特定の紙含有シート3を購入し、あるいは別途のシリーズの紙含有シート3を購入して別途の紙含有立体構造体の作製ができるようにする態様が挙げられる。
<紙含有立体構造体の例>
図6は、本実施形態で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体との一例を模式的に示す斜視図である。
図6(a1)に示す紙含有シート3は、その平面形状が矩形状を有しており、中央部にはコ字状の切り込み6が設けられている。
【0072】
紙含有シート3に対して、コ字状の切り込み6の基端部に相当する一方の面3a側の部位に、塗布型容器1を用いてインキ2を塗布し工程(A)を行い、
図6(a1)に示すように、水の濃度勾配を有する部位4を作製することができる。
【0073】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4'において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げる。以上により、
図6(b1)に示すように、コ字状の切り込み6で部分的に切断された紙片が起立した紙含有立体構造体5を製造できる。
【0074】
図6(a2)に示す紙含有シート3は、その平面形状が矩形状を有しており、長手方向一端の辺から中央部にわたり、同一長さの平行な2本の切り込み6が設けられている。
【0075】
紙含有シート3に対して、平行な2本の切り込み6の基端部に相当する一方の面3a側の部位に、塗布型容器1を用いてインキ2を塗布し工程(A)を行い、
図6(a2)に示すように、水の濃度勾配を有する部位4を作製することができる。
【0076】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4'において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げる。以上により、
図6(b2)に示すように、平行な2本の切り込み6で部分的に切断された紙片が起立した紙含有立体構造体5を製造できる。
【0077】
このように、紙含有シート3の一部に切り込み6を入れて部分的に折り曲げる場合、切り込み6は切断部の紙含有シート3同士が触れあうと引っ掛かり折れ曲がりを阻害する。そこで
図6の例では、切り込み6に幅を持たせて切断加工することで、紙含有シート3同士の引っ掛かりがなく容易に折れ曲がるようにしている。切り込み6に幅を持たせて切断加工する手段としては、レーザーによる加工が好ましい。レーザーによる加工は切り込み6の幅を制御でき、切断面が触れ合わないように調節できる。切り込み6の幅は、0.2mm以上あると折れ曲がりを阻害しない点で好ましい。
図7は、本実施形態における、水の濃度勾配が作製された紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
【0078】
図7(a)に示す紙含有シート3は、その平面形状が矩形状であり、塗布型容器1を用いてインキ2を塗布し工程(A)を行うことにより、その一方の面3a側の2箇所に、直線状の水の濃度勾配を有する部位4が作製されており、その他方の面3b側の3箇所にも、直線状の水の濃度勾配を有する部位4が作製されている。
【0079】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その一方の面3a側における水の濃度勾配を有していた部位4'において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げ、その他方の面3b側における水の濃度勾配を有していた部位4'において、前記他方の面3b側に自律的に折り曲げる。
以上により、
図7(b)に示すように、波型の紙含有立体構造体5を製造できる。
【0080】
このように本実施形態においては、紙含有シートの両面(前記一方の面と前記他方の面)側に、それぞれ、1又は2以上の、水の濃度勾配を有する部位を作製してもよい。
【0081】
図8は、本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位が作製された紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
【0082】
図8(a)に示す紙含有シート3は、その平面形状が矩形状であり、塗布型容器1を用いてインキ2を塗布し工程(A)を行うことにより、その一方の面3a側には、直線状の多数の水の濃度勾配を有する部位4が、僅かな隙間を空けて、互いに平行に作製されている。これに対して、紙含有シート3の他方の面3b側には、水の濃度勾配を有する部位は作製されていない。
【0083】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4'において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げる。
【0084】
以上により、紙含有シート3には、水の濃度勾配を有していた部位4'が、水の濃度勾配を有する部位4と同数存在するため、
図8(b)に示すように、半円筒状の紙含有立体構造体5を製造できる。
【0085】
なお、紙含有シート3への水の浸透量、又は水の濃度勾配を有する部位4の幅を調節することで、紙含有シート3の折り曲げの角度を調節できるため、紙含有立体構造体5を半円筒状以外の形状とすることも可能である。例えば、
図8(b)の場合よりも水の浸透量を増やすか、又は水の濃度勾配を有する部位4の幅を広くすることで、円筒状の紙含有立体構造体や、ロール状に巻き取った形状の紙含有立体構造体を製造することが可能である。
【0086】
このように本実施形態においては、紙含有シート中の水の濃度勾配を有する部位の配置と、紙含有シートの自律的な折り曲げ方は、自律的に直線的に折り曲げる場合に限定されない。
【0087】
ここまでは、概ね、紙含有シート中の水の濃度勾配を有する部位として、形状が線状であるものを示しているが、水の濃度勾配を形成可能であれば、水の濃度勾配を有する部位の形状は、例えば、線よりも表面積が明確に大きい何らかの塗り潰し形状(例えば、多角形状、円状、楕円状、及びこれらのいずれにも該当しない不定形状、並びにこれら形状の1種又は2種以上が組み合わされた複合形状等)であってもよい。
【0088】
図9は、本実施形態で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体との一例を模式的に示す斜視図である。
【0089】
図9(a)に示す紙含有シート3は、2辺のうち1辺の長さが長い十字型の形状を有している。
【0090】
紙含有シート3を、同じ大きさの6枚の正方形状のシートの接合体とみなした場合、紙含有シート3に対して、塗布型容器1を用いてインキ2を塗布し工程(A)を行い、
図9(B)に示すように、これら正方形状のシートの接合部に相当する部位に、水の濃度勾配を有する部位4、4、…を作製することができる。このとき、これら水の濃度勾配を有する部位4、4、…は、すべて、紙含有シート3の同じ側の面、すなわち、一方の面3a側から水を浸透させることにより、作製することができる。
【0091】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位4'、4'、…において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げる。
以上により、
図9(c)に示すように、立方体状の紙含有立体構造体5を製造できる。
【0092】
以上に説明した本実施形態の塗布型容器、紙含有立体構造体の作製用塗布型容器セット、及び紙含有立体構造体の製造方法によれば、折り紙技術を利用して、インキの塗布により気軽に紙を曲げることができ、安定した書き心地が得られる。
【0093】
更に、従来とは異なり、紙含有シートへの電流、熱等のエネルギーの供給が不要であり、紙を特殊な材料で修飾する必要もないため、実用性が高いという利点を有する。
このような特性を生かし、本実施形態の製造方法は、知育玩具、ペーパークラフト、装飾品、シートの折り畳み等への適用に有用である。
【実施例0094】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
以下の試験においては、主に、塗布幅が一定であること、液漏れがなく塗布できる増粘効果、かすれがなく一定に塗布できばらつきが小さいことの観点より塗布性を評価し、かつ、紙基材の変形角度や、塗布幅、塗布量、粘度などに対する紙基材の折れ曲がりの変化量より紙基材の折り曲げが可能であるかどうかやその変形特性を評価した。
【0096】
<比較例1~6 増粘剤無添加での評価>
基材にはトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製 坪量65g/m2、95g/m2、135g/m2の3種類)を用いた。
ペン容器には、バルブ式ペン容器C1-10(芯サイズ15mmφ)を用いた。
【0097】
調製した各インキをそれぞれのペン容器に注入し、幅50mmのトレーシングペーパーにおける一方の辺から他方の辺までにペンで直線状に塗布した。直線はトレーシングペーパーの幅方向もしくは流れ方向(繊維方向)に塗布した。
【0098】
その後、各容器での塗布幅(mm、芯サイズに対するサイズ)、塗布量(g/m2、インキ質量から算出)、折れ曲がる角度(変形角度、塗布方向の数点での平均値)を測定し、塗布性と、インキの種類、トレーシングペーパーの厚み、塗布した線の太さに対する折れ曲がりの程度を比較評価した。
【0099】
最初に、非特許文献1において紙の変形要因を検討した際に、インクジェットプリンターのインキとして用いた増粘剤を添加しない低粘度の水性液として、水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用いて試験を行った。アルコールには2-プロパノールを用いた。インキとして水を用いた評価は気温20.0℃、湿度73%で行い、その結果を表1及び
図10(a)に示す。インキとして水とアルコールの混合液を用いた評価は気温20.5℃、湿度65%で行い、その結果を表2及び
図10(b)に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
表1及び
図10(a)より、水のみにおいて紙基材の変形が確認でき、インキペン型にしても非特許文献1の印刷方式(インクジェット)と同様の傾向が確認できた。しかし、塗布幅が安定せず、液漏れや塗布面でのハジキが見られる場合があるためペンには適していなかった。
図10(a)右の写真のように、液供給時のペン先は、ペン先を押し込むと液漏れする。
【0103】
表2及び
図10(b)より、非特許文献1において印刷適性を良くするために使用したアルコールを加えた水性液をインキとした場合を確認したところ、非特許文献1の印刷方式(インクジェット)と同様の傾向が確認できた。
【0104】
しかし、水の場合と同様に塗布幅が安定せず、
図10(b)右の写真のように、液供給時のペン先は、ペン先を押し込むと液漏れが見られるためペンには適していなかった。
【0105】
<実施例1~6、比較例7、8 増粘剤を添加した評価>
水及び水とアルコールでは、ペン先への溶液供給時に供給され過ぎてしまい(インキ粘度が低い)、液漏れを起こしてしまう。粘度調整により安定してペン先からインキを供給できるようになるのではないかと考えられる。そこでインキに増粘剤を添加することで、塗布が安定するか、また増粘剤の添加による折れ曲がりの影響がないかどうかを検討した。
基材には、角度変化を確認し易い坪量135g/m2のトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製)を用いた。
【0106】
インキには、ベースの液として水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用い、増粘剤はキサンタンガムを用いた。キサンタンガムは親水性コロイドとして増粘、懸濁安定、乳化安定など水の系を安定にする働きを持ち、極めて高いシュードプラスティック性を有する。
【0107】
ベースの液を攪拌し、実施例1~6では粘度を調整する増粘剤を所定量となるように添加して、インキを作製した。インキの粘性については、25℃においてザーンカップで測定し、CPS粘度に換算した。
【0108】
上記以外はペン容器、塗布方法等を比較例1~6と同様にして測定を行い、増粘剤を添加しないインキを用いた場合(比較例7、8)と比較して、塗布性とトレーシングペーパーの折れ曲がりの程度を比較評価した。
【0109】
インキとして水に増粘剤を添加した評価は気温21.0℃、湿度30%、乾燥時間10分で行い、その結果を表3及び
図11(a)に示す。インキとして水と2-プロパノールの混合液を用いた評価は気温21.0℃、湿度65%、乾燥時間6分で行い、その結果を表4及び
図11(b)に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
紙基材の変形状態について、表3、4及び
図11(a)、(b)より、増粘剤の添加量による変形角度の差はほとんど確認されなかった。一定量の塗布では増粘剤の影響は少ないので、粘度調整を行いペンでの塗布安定性を上げられることを確認した。
【0113】
塗布性について、表3、4及び
図11(a)、(b)より、比較例7、8は、インク供給時にペン先を押し込むと液漏れが顕著であった。増粘剤0.1質量%添加(粘度50cps)の実施例1、4は、改善したが若干の液漏れが見られた。増粘剤0.25質量%添加(粘度85cps)の実施例2、5は、ペン先は液漏れもなく安定していた。増粘剤0.5質量%添加(粘度300cps以上)の実施例3、6は、液漏れは見られないが、実施例3、6ではバルブ式ペン容器のペン先のフェルトへ浸み込みにくくなる傾向が見られた。
【0114】
<実施例7~10、比較例9~12 ペン先の太さとペン容器の種類の比較評価>
バルブ式ペンについて、ペン先の太さに関係なく粘度調整により安定して塗布できるかを確認した。
【0115】
実施例1~6、比較例7、8と同様に、基材には、角度変化を確認し易い坪量135g/m2のトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製)を用い、インキには、ベースの液として水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用い、増粘剤はキサンタンガムを用いた。粘度は最も安定して塗布できた増粘剤0.25質量%(粘度110cps)の条件とした。
【0116】
ペン容器は、バルブ式ペン容器A1-10(芯サイズ2mmφ)、B1-10(芯サイズ5mmφ)を用いた。
【0117】
上記以外はインキの調製、紙基材への塗布方法等を実施例1~6、比較例7、8と同様にして測定を行い、増粘剤を添加しないインキを用いた場合(比較例9、10)と比較して、塗布性とトレーシングペーパーの折れ曲がりの程度を比較評価した。その結果を表5及び
図12(a)に示す。
【0118】
【0119】
表5及び
図12(a)より、比較例9、10は、インキ供給時にペン先を押し込むと液漏れが顕著であった。増粘剤0.25質量%添加(粘度85cps)の実施例7、8は、ペン先は液漏れもなく安定しており、紙基材の変形も確認できた。このように、ペン先の太さに関係なく、粘度調整をすることで安定して塗布可能であり、紙基材の変形も確認できた。
【0120】
次に、バルブ式とはインキの供給方法が異なる筆ペン及び中綿式容器を用いて塗布性に変化があるか評価を行った。
【0121】
実施例1~6、比較例7、8と同様に、基材には、角度変化を確認し易い坪量135g/m2のトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製)を用い、インキには、ベースの液として水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用い、増粘剤はキサンタンガムを用いた。
【0122】
ペン容器は、中綿式チゼル芯(芯先3mm)、筆ペン容器大(穂先15mm)を用いた。筆ペン容器はペン本体をプッシュしてインキをペン先に供給し、中綿式ペン容器は中綿に浸み込むまで待ってインキをペン先に供給した。幅50mmのトレーシングペーパーにおける一方の辺から他方の辺まで幅方向にペンで直線状に塗布した。直線はトレーシングペーパーの幅方向もしくは流れ方向(繊維方向)に塗布した。筆ペンについては幅が10mmとなるように塗布した。
【0123】
上記以外は、実施例1~6、比較例7、8と同様にして測定を行い、増粘剤を添加しないインキを用いた場合(比較例11、12)と比較して、塗布性とトレーシングペーパーの折れ曲がりの程度を比較評価した。評価は気温21.0℃、湿度40%、乾燥時間6分で行い、その結果を表5及び
図12(a)に示す。
【0124】
【0125】
筆ペンでは、増粘剤を添加しない比較例11では供給量が多く、筆先から液が滲んだ。増粘剤を添加した実施例9は安定して塗布可能であり、紙基材の変形も確認できた。中綿式ペンでは、増粘剤を添加しない比較例12は、塗布はできるが若干塗布性が悪い。増粘剤を添加した実施例10は安定して塗布可能であり、紙基材の変形も確認できた。
【0126】
筆ペン、中綿式ペンにおいても、それぞれの容器に応じた適切な粘度が見られた。筆ペンについては供給量が多いため、バルブ式容器より高い粘度にすることで液漏れしにくくなりより安定して塗布できるようになった。中綿式については若干粘度を高めることで、程よく中綿に染み込み、より安定して塗布できるようになった。ペン容器に関係なく、粘度調整をすることで安定して塗布することができることが確認された。
【0127】
<実施例11~13 増粘剤の種類と、染料を添加した場合の比較評価>
増粘剤の種類に関係なく、増粘することで安定な塗布が可能かどうかについて、増粘剤の種類を変更して評価を行った。
【0128】
増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。CMCは、冷水、温水に溶けて粘ちょうなコロイド溶液となり、味やにおいはほとんどない。低濃度で高い粘性を発揮し、水溶液の粘度は経時変化が少なく、長期間安定であるという特徴がある。
【0129】
実施例1~6、比較例7、8と同様に、基材には、角度変化を確認し易い坪量135g/m2のトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製)を用い、インキには、ベースの液として水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用いた。ベースの液を攪拌し、粘度を調整する増粘剤としてCMCを0.8質量%添加して、インキを作製した。
【0130】
上記以外はペン容器、塗布方法等を実施例1~6、比較例7、8と同様にして測定を行い、塗布性とトレーシングペーパーの折れ曲がりの程度を比較評価した。評価は気温21.0℃、湿度40%で行い、その結果を表7及び
図13(a)に示す。
【0131】
【0132】
インキ供給時のペン先は安定して塗布可能で、紙基材も変形も確認できた。増粘剤の種類に関係なく、増粘することで安定して塗布でき、紙基材の変形も可能である。
【0133】
商品として、インキが着色されている方が塗布した場所が分かりやすく楽しみがある。そこで、着色剤として染料を添加したインキについて、紙の折れ曲がりに影響が見られるか確認した。
【0134】
実施例1~6、比較例7、8と同様に、基材には、角度変化を確認し易い坪量135g/m2のトレーシングペーパー(GLトレーシング 三菱製紙(株)製)を用い、インキには、ベースの液として水、及び水とアルコールの混合液(水90質量%+アルコール10質量%)を用い、増粘剤はキサンタンガムを用いた。染料はKayarus Rose FR(日本化薬(株)製)を用いた。ベースの液を攪拌し、水+アルコール+増粘剤(0.25質量%)の溶液に対して染料を1質量%となるように添加して、インキを作製した。
【0135】
上記以外はペン容器、塗布方法等を実施例1~6、比較例7、8と同様にして測定を行い、染料を添加しないインキを用いた場合(実施例12)と比較して、塗布性とトレーシングペーパーの折れ曲がりの程度を比較評価した。その結果を表8及び
図13(b)に示す。
【0136】
【0137】
インキ供給時のペン先は安定して塗布可能で、紙基材の変形も確認でき、染料を添加することが可能であることが確認された。染料が水の浸透を阻害することで変形角度が小さくなる可能性も示唆された。着色したインキを使用する場合、紙基材の変形を促進するためにはより多くの量を塗布することが考慮される。