(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142298
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】シーラントフィルム及びその製造方法、並びに、積層フィルム、包装容器、及び包装体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220922BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220922BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220922BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20220922BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C08L101/00
B32B27/20 Z
C08K3/22
C08L23/00
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042429
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵介
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雅文
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AC07
3E086AD02
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3E086DA08
4F100AA25A
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4F100AH06A
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4F100AK01B
4F100AK03A
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4F100AK06A
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4J002AA001
4J002BB011
4J002DE106
4J002FD016
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れるシーラントフィルムを提供すること。
【解決手段】酸化亜鉛粒子を含有し、一方面10A側の方が他方面10B側よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が高く、一方面10Aで検出される、酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m
2以下である、シーラントフィルム10を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子を含有し、
一方面側の方が他方面側よりも前記酸化亜鉛粒子の含有比率が高く、
前記一方面で検出される、前記酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である、シーラントフィルム。
【請求項2】
前記一方面側に前記酸化亜鉛粒子を含有する樹脂層と、前記他方面側に前記樹脂層よりも前記酸化亜鉛粒子の含有比率が少ないシール層と、を備える、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
酸化亜鉛粒子を含有する樹脂層と、前記樹脂層よりも前記酸化亜鉛粒子の含有比率が少ないシール層と、を備え、
前記樹脂層側の主面で検出される、前記酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である、シーラントフィルム。
【請求項4】
前記シール層の厚みに対する前記樹脂層の厚みの比が1.5~5である、請求項2又は3に記載のシーラントフィルム。
【請求項5】
前記樹脂層における前記酸化亜鉛粒子の含有比率が0.2~45質量%である、請求項2~4のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項6】
前記樹脂層における前記酸化亜鉛粒子の面濃度が0.1g/m2以上である、請求項2~5のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項7】
前記酸化亜鉛粒子は、表面に疎水化処理が施されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項8】
シーラントフィルム全体における前記酸化亜鉛粒子の含有比率が0.1~25質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項9】
前記酸化亜鉛粒子の一次粒子径が20~280nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項10】
ポリオレフィン樹脂を含み、前記酸化亜鉛粒子が前記ポリオレフィン樹脂中に分散している、請求項1~9のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項11】
分散剤を実質的に含有しない、請求項1~10のいずれか一項に記載のシーラントフィルム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のシーラントフィルムと、バリア層と、紙と、をこの順に備える、積層フィルム。
【請求項13】
積層フィルムの一部同士を貼り合わせて構成される本体部を備える包装容器であって、
前記積層フィルムは、最内層として請求項1~12のいずれか一項に記載のシーラントフィルムをそれぞれ備え、前記シーラントフィルム同士が対向するように貼り合わされて構成される包装容器。
【請求項14】
硫黄化合物を生じる被包装物の包装用である、請求項13に記載の包装容器。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の包装容器と、前記包装容器の中に収容される被包装物と、を備える包装体。
【請求項16】
前記被包装物はエタノールを含む、請求項15に記載の包装体。
【請求項17】
疎水化処理が施された酸化亜鉛粒子を含有する第一樹脂組成物と、前記第一樹脂組成物よりも前記酸化亜鉛粒子の含有比率が少ない第二樹脂組成物と、の共押出によってシーラントフィルムを得る工程を有する、シーラントフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記第一樹脂組成物を用いて形成される一方面において検出される、前記酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である、請求項17に記載のシーラントフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シーラントフィルム及びその製造方法、並びに、積層フィルム、包装容器、及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
被包装物の包装に用いられる包装材料は、被包装物の品質劣化を抑制する機能を有することが求められる。包装材料としては、一対の積層フィルムを貼り合わせて構成される包装容器が知られている。このような包装容器は、被包装物の漏洩及び劣化を防ぐために、優れた密封性を有することが求められる。
【0003】
被包装物の例としては、食料品が挙げられる。食料品のうち、肉製品、及び卵製品などの含硫アミノ酸を含む食品をボイル殺菌又はレトルト殺菌すると、特有の臭気が発生することがある。この臭気は、含硫アミノ酸の加水分解によって発生する硫化水素などの硫黄化合物に起因する。そこで、特許文献1では、シーラント層と基材フィルムとを接着する接着層に酸化亜鉛粒子を分散させ、この酸化亜鉛粒子によって硫黄化合物を吸着することによってレトルト臭を低減する技術が提案されている。
【0004】
一方、酸化亜鉛粒子としては、種々の表面処理を施されたものが知られている。例えば、特許文献2では、アルキルアルコキシシランを用いた疎水化処理によって、疎水性、透明性及び紫外線遮蔽性に優れた酸化亜鉛粒子を得る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-94533号公報
【特許文献2】特開2013-241318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
包装容器で包装される被包装物からは、含有成分に起因して種々の臭気が発生する。このうち嫌気を引き起こす臭気(嫌気臭)の要因となる硫黄化合物として、H2Sのみならず、様々な硫黄化合物が生じ得る。このような様々な硫黄化合物を十分に低減するためには、酸化亜鉛粒子を、なるべく包装容器の内側にあるシーラント層に高い均一性で分散させることが好ましいと考えられる。一方で、酸化亜鉛粒子をシーラント層に含有させると、凹凸が生じてシーラント層のシール性が損なわれることが懸念される。
【0007】
そこで、本開示は、嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れるシーラントフィルム及びその製造方法、並びに積層フィルムを提供する。また、本開示は、臭気の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減し、且つ密封性に優れる包装容器及び包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一つの側面において、酸化亜鉛粒子を含有し、一方面側の方が他方面側よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が高く、一方面で検出される、酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である、シーラントフィルムを提供する。このようなシーラントフィルムは、包装容器の最内層に配置することができる。このため、被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することができる。そして、他方面側よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が高い一方面側においても0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である。このように、粗大な凝集粒子を含有することが抑制されているため、凹凸が生じ難く優れたシール性を有する。このため、例えば、他方面がヒートシール面となるように用いれば、包装材用として好適に用いることができる。ただし、用途は包装材に限定されない。
【0009】
上記シーラントフィルムは、一方面側に酸化亜鉛粒子を含有する樹脂層と、他方面側に樹脂層よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が少ないシール層と、を備えていてもよい。これによって、硫黄化合物の吸着性能とシール性とを高い水準で両立できるシーラントフィルムとすることができる。
【0010】
本開示は、一つの側面において、酸化亜鉛粒子を含有する樹脂層と、樹脂層よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が少ないシール層と、を備え、樹脂層側の主面で検出される、酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である、シーラントフィルムを提供する。このようなシーラントフィルムは、包装容器の最内層に配置することができる。このため、被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することができる。そして、シール層よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が高い樹脂層側の主面においても0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下である。このように、粗大な凝集粒子を含有することが抑制されているため、凹凸が生じ難い。このため、例えば、樹脂層側をヒートシール面とすることによって、十分に優れたシール性も実現することができる。したがって、硫黄化合物の吸着性能とシール性とを高い水準で両立できるシーラントフィルムとすることができる。このようなシーラントフィルムは、包装材用として好適に用いることができる。ただし、用途は包装材に限定されない。
【0011】
上記シール層の厚みに対する樹脂層の厚みの比は1.5~5であってよい。これによって、嫌気臭を吸着する酸化亜鉛粒子の量を十分に確保しつつ、シール性を高い水準に維持することができる。また、樹脂層における酸化亜鉛粒子の含有比率が0.2~45質量%であってもよい。これによって、硫黄化合物の吸着性能とシール性を高い水準で両立することができる。
【0012】
上記樹脂層における酸化亜鉛粒子の面濃度は0.1g/m2以上であってよい。このような高い面濃度を有することによって、硫黄化合物の吸着性能を十分に高くすることができる。なお、本開示における「面濃度」は、主面(一方面)1m2当たりの樹脂層における酸化亜鉛粒子の含有比率であり、1m2当たりの樹脂層の質量(g)に含有比率(質量%)を乗算することによって求めることができる。
【0013】
上記酸化亜鉛粒子は、表面に疎水化処理が施されていてもよい。これによって、シーラントフィルムに含まれる酸化亜鉛粒子の分散性が向上し、硫黄化合物の吸着性能及びシール性を一層向上することができる。また、硫化水素以外の硫黄化合物も十分に吸着することができる。
【0014】
シーラントフィルム全体における酸化亜鉛粒子の含有比率は0.1~25質量%であってよい。これによって、硫黄化合物の吸着性能とシール性を高い水準で両立することができる。酸化亜鉛粒子の一次粒子径は20~280nmであってよい。このようなサイズの酸化亜鉛粒子は、凝集し易いが市販品で入手可能であるうえに、硫黄化合物の吸着性能に十分に優れる。
【0015】
上記シーラントフィルムは、ポリオレフィン樹脂を含み、酸化亜鉛粒子が当該ポリオレフィン樹脂中に分散していてもよい。これによって、ヒートシール性を十分に高くしつつ、酸化亜鉛粒子の凝集を抑制して高い分散性で酸化亜鉛粒子を含有することができる。
【0016】
上記シーラントフィルムは分散剤を実質的に含有しなくてよい。これによって、例えば飲食品を包装する場合に、信頼性を一層向上することができる。なお、粗大な凝集粒子を含有することが抑制されているため、分散剤を実質的に含有しなくても凝集を十分に抑制することができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかのシーラントフィルムと、バリア層と、紙と、をこの順に備える積層フィルムを提供する。このような積層フィルムは、上記シーラントフィルムを備えることから、嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れる。このため、例えば、包装材用として好適に用いることができる。ただし、用途は包装材に限定されない。
【0018】
本開示は、一つの側面において、積層フィルムの一部同士を貼り合わせて構成される包装容器であって、積層フィルムは、最内層として上述のいずれかのシーラントフィルムをそれぞれ備え、シーラントフィルム同士が対向するように貼り合わされて構成される包装容器を提供する。この包装容器は、最内層として上記シーラントフィルムを備える積層フィルムの一部同士を、シーラントフィルム同士が対向するように貼り合わされて構成される。このため、被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減することができ、密封性にも優れる。このため、嫌気臭となる硫黄化合物が発生する被包装物の包装用として好適である。
【0019】
上記包装容器は、硫黄化合物を生じる被包装物の包装用であることが好ましい。被包装物から生じた硫黄化合物を、包装容器における積層フィルムが十分に吸着することができる。
【0020】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの包装容器と、当該包装容器の中に収容される被包装物と、を備える包装体を提供する。この包装体は、上述のいずれかの包装容器を備えることから、被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減することができ、密封性にも優れる。被包装物はエタノールを含んでもよい。
【0021】
本開示は、一つの側面において、疎水化処理が施された酸化亜鉛粒子を含有する第一樹脂組成物と、第一樹脂組成物よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が少ない第二樹脂組成物と、の共押出によってシーラントフィルムを得る工程を有する、シーラントフィルムの製造方法を提供する。この製造方法では、疎水化処理が施された酸化亜鉛粒子を含有する第一樹脂組成物を用いているため、酸化亜鉛粒子を高い均一性で分散させることができる。また、硫化水素以外の硫黄化合物も十分に吸着することができる。したがって、嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れるシーラントフィルムを製造することができる。このため、例えば、包装材用として好適に用いることができる。ただし、用途は包装材に限定されない。
【0022】
上述の製造方法で得られるシーラントフィルムにおいて、第一樹脂組成物を用いて形成される一方面において検出される、酸化亜鉛粒子で構成される0.5mm以上の粒子径を有する凝集粒子の個数が5個/m2以下であってもよい。これによって、粗大な凝集粒子を含有することが抑制され、凹凸を低減してシール性を向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れるシーラントフィルム及びその製造方法、並びに積層フィルムを提供することができる。また、臭気の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減し、且つ密封性に優れる包装容器及び包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るシーラントフィルムの模式断面図である。
【
図2】
図2は、シーラントフィルムの一方面で検出される酸化亜鉛粒子の凝集粒子の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る積層フィルムの断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る包装容器の斜視図である。
【
図5】
図5は、実施例1のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図5(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図5(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【
図6】
図6は、実施例2のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図6(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図6(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【
図7】
図7は、実施例3のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図7(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図7(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【
図8】
図8は、比較例1のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図8(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図8(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
図1は、本実施形態のシーラントフィルムの模式断面図である。シーラントフィルム10は、酸化亜鉛粒子を含有する樹脂層11と、樹脂層11よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が少ないシール層12とを備える。このため、樹脂層11で構成されるシーラントフィルム10の一方面10A側の方が、他方面10B側よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が高くなっている。なお、シーラントフィルムは二層構造に限定されるものではなく、樹脂層11とシール層12の間に一つ又は複数の中間層を備えるものであってもよい。また、一方面10Aから他方面10Bに向かって酸化亜鉛粒子の含有比率が低くなるように当該含有比率が傾斜していてもよい。
【0027】
シーラントフィルム10の厚みは、包装材として適したシール性と柔軟性を兼ね備えるようにする観点から、20~150μmであってよく、35~120μmであってもよい。樹脂層11の厚みは、15~100μmであってよく、25~80μmであってもよい。シール層12の厚みは、5~50μmであってよく、10~40μmであってもよい。シール層12の厚みに対する樹脂層11の厚みの比は、1.5~5であってよく、2~4であってもよい。これによって、嫌気臭となる硫黄化合物を吸着する酸化亜鉛粒子の量を十分に確保するとともに、シール性を十分に高い水準に維持することができる。
【0028】
樹脂層11とシール層12は、例えば、共押出によって製造される積層フィルムであってよい。樹脂層11における酸化亜鉛粒子の含有比率は、例えば0.2~45質量%であってよい。当該含有比率の下限は、硫黄化合物の吸着量を十分に大きくする観点から、0.5質量%であってよく、1質量%であってよく、2質量%であってもよい。当該含有比率の上限は、シール性を十分に高くする観点から、40質量%であってよく、30質量%であってもよい。
【0029】
樹脂層11における酸化亜鉛粒子の面濃度は、例えば0.1g/m2以上であってよく、0.1~20g/m2であってもよい。当該面濃度の下限は、硫黄化合物の吸着量を十分に大きくする観点から、0.3g/m2であってよく、0.45g/m2であってよく、1g/m2であってもよい。当該面濃度の上限は、シール性を十分に高くする観点から、16g/m2であってよく、12g/m2であってもよい。
【0030】
樹脂層11に含まれる酸化亜鉛粒子の一次粒子径Dは、20~280nmであってよく、20~200nmであってよく、20~100nmであってもよい。酸化亜鉛粒子の一次粒子径Dは、レーザー回折・散乱法によって測定される粒度分布において頻度の累積が50%となるメジアン径(D50)である。このようなサイズの酸化亜鉛粒子は市販品として入手が容易である。このようなナノレベルの酸化亜鉛粒子は凝集し易い傾向にあるが、本実施形態のシーラントフィルムでは、一方面10A(樹脂層11側のシーラントフィルム10の主面)で検出される0.5mm以上の粒子径Rを有する酸化亜鉛粒子の凝集粒子の個数が5個/m2以下である。
【0031】
図2は、シーラントフィルム10の一方面10Aで検出される酸化亜鉛粒子の凝集粒子の一例を示す模式図である。凝集粒子20は、5つの酸化亜鉛粒子21a,21b,21c,21d,21e(21)が凝集して構成される。酸化亜鉛粒子21が凝集して構成される凝集粒子20の粒子径Rは、凝集粒子20に外接する外接円20Aの直径として求められる。粒子径Rは、一方面10Aにおいて目視で検出される凝集粒子20を光学顕微鏡で撮影し、撮影した写真から測定することができる。凝集粒子20の個数の測定は、0.05m
2以上の面積において行うことが好ましい。1m
2未満の面積で測定する場合には、当該面積で検出される凝集粒子20の個数を1m
2当たりの個数に換算すればよい。
【0032】
微細な酸化亜鉛粒子21の凝集を抑制することによって、酸化亜鉛粒子21の吸着性能を十分に発揮させることができる。また、凝集によるシール性の低下が抑制されるため、シーラントフィルム10は十分に優れたシール性を有する。硫黄化合物の吸着性能、及びシール性を一層向上する観点から、一方面10Aで検出される0.5mm以上の粒子径Rを有する凝集粒子20の個数は、2個/m2以下であってよく、0.5個/m2以下であってよく、0個であってもよい。なお、凝集粒子20の個数が0.5個/m2とは、一方面10Aのうち2m2の領域において凝集粒子20が1個検出される場合である。
【0033】
硫黄化合物の吸着性能、及びシール性を高く維持しつつ、製造を容易にする観点から、一方面10Aで検出される0.3mm以上且つ0.5mm未満の粒子径Rを有する凝集粒子20の個数は3~150個/m2であってよく、4~100個/m2であってよく、5~50個/m2であってよく、7~40個/m2であってもよい。なお、凝集粒子20の個数は少ない方が好ましいものの、上述の範囲よりも少なくするためには、酸化亜鉛粒子21の含有比率を低くしたり、酸化亜鉛粒子21の一次粒子径Dを大きくしたりすることが必要となり、却って硫黄化合物の吸着性能が低下する傾向にある。このため、上記下限値よりも大きくてよい。
【0034】
シール層12は、酸化亜鉛粒子を含有してもよく、含有していなくてもよい。シール層12における酸化亜鉛の含有比率は、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよく、0.1質量%以下であってもよい。酸化亜鉛粒子の含有比率を低くすることによって、他方面10B(シール層12側のシーラントフィルム10の主面)の凹凸が低減されシール性を十分に高くすることができる。
【0035】
シーラントフィルム10全体における酸化亜鉛粒子の含有比率は、例えば0.1~25質量%であってよい。当該含有比率の下限は、硫黄化合物の吸着量を十分に大きくする観点から、0.3質量%であってよく、0.6質量%であってよく、1質量%であってもよい。当該含有比率の上限は、シール性を十分に高くする観点から、20質量%であってよく、15質量%であってもよい。
【0036】
酸化亜鉛粒子21は、表面に疎水化処理が施されていることが好ましい。これによって、シーラントフィルム10に含まれる酸化亜鉛粒子21の凝集が抑制されて分散性が向上し、硫黄化合物の吸着性能及びシール性を一層向上することができる。疎水化処理としては、ポリシロキサン、アルキルシラン、アルキルアルコキシシラン及びアクリルシリコンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いる処理が挙げられる。このような処理を行うことによって、酸化亜鉛粒子21の表面が疎水化され、樹脂層11における分散性を向上することができる。疎水化処理が施された酸化亜鉛粒子21は、表面にポロシロキサン層を有していてよく、例えば、ハイドロゲンメチコン層を有していてもよい。
【0037】
シーラントフィルム10は、ポリオレフィン樹脂を含み、酸化亜鉛粒子が当該ポリオレフィン樹脂中に分散していてもよい。樹脂層11及びシール層12は、同じポリオレフィン樹脂を含んでいてよく、互いに異なるポリオレフィン樹脂を含んでいてもよい。ポリオレフィン樹脂は、ヒートシール性向上の観点から無延伸のものであってよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンープロピレン共重合体(EPR)、ポリメチルペンテン(TPX)等が挙げられる。これによって、シーラントフィルム10のヒートシール性を十分に高くすることができる。
【0038】
シーラントフィルム10は分散剤を実質的に含有しなくてよく、全く含有しなくてもよい。ここで、「実質的に含有しない」とするのは、不純物レベルで分散剤が混入すること、又はシーラントフィルム10の性能に影響しない程度の分散剤を含有することを許容する趣旨である。これによって、例えば飲食品を包装する場合に、信頼性をさらに向上することができる。分散剤は、シーラントフィルムを成形する際に樹脂組成物の配合される成分であり、酸化亜鉛粒子等の固形分を分散させる作用を有するものである。例えば、スチレンアクリル樹脂共重合体、多価アルコール脂肪酸エステル、ノニオン界面活性剤、及び脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0039】
一実施形態に係るシーラントフィルムの製造方法は、疎水化処理が施された酸化亜鉛粒子を含有する第一樹脂組成物と、第一樹脂組成物よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が少ない第二樹脂組成物と、の共押出によってシーラントフィルムを得る工程を有する。第一樹脂組成物から樹脂層11を、第二樹脂組成物からシール層12をそれぞれ形成して、シーラントフィルム10を得てもよい。酸化亜鉛粒子は、疎水化処理が施されているため、高い均一性で樹脂組成物中に分散することができる。このため、シール層12よりも酸化亜鉛粒子の含有比率が多い樹脂層11側の一方面10Aにおいて検出される凝集粒子20を低減することができる。一方面10Aにおいて検出される凝集粒子20の個数の範囲は上述したとおりである。
【0040】
第一樹脂組成物のMFR(メルトフローレート)は1~8g/10minであってよい。これによって、押出成形時の円滑性を損なうことなく、酸化亜鉛粒子を十分に高い均一性で分散させることができる。第二樹脂組成物のMFRも1~8g/10minであってよい。
【0041】
シーラントフィルム10は、包装容器の最内層用に好適である。最内層に用いることによって、被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することができる。また、粗大な凝集粒子を含有することが抑制されているため、優れたシール性を有する。シーラントフィルム10は、分子量が120以下であり、硫化水素とは異なる硫黄化合物を生じる被包装物の包装用であってよい。このような硫黄化合物は、エタノールを含む飲食品を包装した場合に生じやすい傾向にある。このため、シーラントフィルム10は、エタノールを含む飲食品の包装材用として特に有用である。
【0042】
図3は、一実施形態に係る積層フィルムの断面図である。
図3の積層フィルム50は、シーラントフィルム10と、シーラントフィルム10の一方面10A側に、バリア層30と、中間層32と、紙34と、外層36とをこの順に備える。シーラントフィルム10の他方面10B側と、外層36の一方の表面が、外部に露出している。積層フィルム50を用いて包装容器を作製する場合、シーラントフィルム10のシール層12が最内層となり、外層36が最外層となってよい。
【0043】
中間層32及び外層36は、樹脂フィルムで構成されてよい。樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリスチレンフィルム;6,6-ナイロン等のポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリアクリロニトリルフィルム、及びポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0044】
中間層32及び外層36の材質は同じであってよく、異なっていてもよい。中間層32及び外層36は、上記樹脂フィルムの一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。中間層32及び外層36、同種の樹脂フィルムを複数積層することによって構成されてもよい。樹脂フィルムは、延伸及び未延伸のどちらであってもよい。少なくとも一つの延伸フィルムと少なくとも一つの未延伸フィルムとが積層されているものであってもよい。中間層32及び外層36は、二軸方向に任意に延伸されたフィルムを有することによって、機械強度及び寸法安定性を向上することができる。
【0045】
中間層32及び外層36の厚みは、特に制限されず、例えば、3~100μmであってもよく、6~50μmであってもよい。樹脂フィルムは、フィラー、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、及び酸化防止剤等から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有してもよい。
【0046】
紙34は、例えば、液体用紙容器に使用する板紙であってよい。紙34の秤量は、例えば、200~500g/m2であってもよく、300~400g/m2であってもよい。紙34の外層36側の面上に、必要に応じて適宜印刷層を設けてもよい。印刷層は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、又はゴム系などの従来から用いられているバインダー樹脂に、各種顔料、可塑剤、乾燥剤、及び安定剤などを添加してなるインキにより構成される層である。この印刷層によって、文字、絵柄などを表示することができる。印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法を用いることができる。
【0047】
バリア層30は、バリア性を有する層である。バリア層30としては、例えば、無機物からなる蒸着フィルム、金属箔、樹脂フィルム、及び樹脂フィルムに蒸着層を積層したもの等が挙げられる。具体的には、シリカ等の無機蒸着フィルム、アルミ蒸着フィルム、アルミニウム箔、アルミニウム箔積層PETフィルム、並びに、ナイロン系バリアフィルム及びエチレンビニルアルコール系のバリアフィルムなどの各種バリアフィルムが挙げられる。これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0048】
バリア層30の厚みは特に限定されない。バリア層30が蒸着層からなる場合、その厚みは、例えば5~100nmであってよい。バリア層30がアルミニウム箔からなる場合、その厚みは例えば7~9μmであってよい。バリア層30は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)、ドライラミネート法、エクストルージョンラミネート法等によって形成することができる。
【0049】
本開示の積層フィルムは、
図3の構造に限定されない。例えば、積層フィルム50の各構成層の間に、任意の中間層又は接着層を設けてもよい。接着層を構成する接着剤成分としては、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ系接着剤、及びイソシアネート系接着剤などの公知の接着剤が挙げられる。
【0050】
図4は、一実施形態に係る包装容器の斜視図である。包装容器100は、被包装物を収容可能に構成される本体部60と、被包装物を本体部60内に充填する充填口に取り付けられるキャップ62と、を備える。包装容器100に被包装物を収容すると、包装体120が得られる。包装体120からキャップ62を取り外して開封すれば、包装容器100(本体部60)に収容されている被包装物を充填口から注ぎ出すことができる。このように、充填口は注出口としての機能も兼ね備える。
【0051】
包装容器100の本体部60は、積層フィルム50の一部同士を貼り合わせて構成される。積層フィルム50は、シーラントフィルム10のシール層12が最内層になるように加工されている。このため、シーラントフィルム10のシール層12同士、すなわち他方面10B同士が対向するようにシール部64において貼り合わされて、包装容器100が構成されている。
図4では、シール部64は包装容器100の上部のみに示されているが、包装容器100の側部及び底部にも、シール部を有していてよい。シール層12は優れたシール性を有するため、包装容器100は、被包装物を安定的に保管することができる。
【0052】
また、保管時間の経過に伴って被包装物から生じる嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減することができる。被包装物が焼酎及び日本酒等のエタノールを含む飲食品であると、経時的に、嫌気臭の要因となる硫黄化合物が発生する場合がある。このような場合であっても、包装容器100は、嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減することができる。このため、焼酎及び日本酒等のエタノールを含む飲食品の品質を長期間に亘って良好に維持することができる。
【0053】
被包装物は、硫化水素に加えて、硫化水素とは異なる硫黄化合物を含有していてもよい。このような硫黄化合物を、シーラントフィルム10が十分に吸着することができる。これによって、嫌気臭を低減することができる。硫化水素とは異なる硫黄化合物の分子量は、120以下であってよい。シーラントフィルム10は、このような硫化水素化合物を十分に吸着することができる。
【0054】
積層フィルム50、これを用いて包装容器100及び包装体120を製造する手順を以下に説明する。例えば共押出によって製造したシーラントフィルム10の一方面10Aとバリア層30とを対向させ、接着剤を用いて接着する。その後、バリア層30の上に、中間層32、紙及び外層36を、接着剤を用いて積層する。このようにして積層フィルム50を得る。積層フィルム50を切断して所定の形状に加工する。その後、積層フィルム50の一部同士を、シール層12同士が対向するようにして重ねてヒートシールする。このようにして包装容器100の本体部60が得られる。本体部60の上部に設けられた充填口にキャップ62を取り付ければ包装容器100が得られる。
【0055】
次に、充填口からキャップ62を取り外し、本体部60の上部に設けられた充填口から被包装物を充填する。充填後、キャップ62を取り付けて充填口を封止すれば、包装体120が得られる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、シーラントフィルムは3層以上で構成されてもよい。例えば、樹脂層を第一樹脂層と第二樹脂層の二層で構成し、どちらか一方又は双方の酸化亜鉛粒子の含有比率がシール層よりも高ければよい。包装容器の形状は、
図4のような三角屋根の形状に限定されるものではなく、箱型形状又は円柱状であってもよい。また、袋状(包装袋)であってもよい。包装袋は、二方袋、三方袋、四方袋、合掌袋又はスタンディングパウチ形状であってもよい。
【実施例0057】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[酸化亜鉛粒子の分散性の評価]
(実施例1)
<樹脂組成物の製造>
低密度ポリエチレン樹脂(旭化成株式会社製、商品名:サンテックL2170E)と、ポリシロキサンを用いて疎水化処理されている酸化亜鉛粒子(堺化学工業株式会社製、商品名:FINEX-30S-LPT、一次粒子径D:35nm、酸化亜鉛含有比率:98質量%)とを、90:10の質量比で配合し、第一樹脂組成物を調製した。この第一樹脂組成物のMFRは4.9g/10minであり、密度は1.01g/cm3であった。低密度ポリエチレン樹脂(旭化成株式会社製、商品名:サンテックL2170E)を第二樹脂組成物として準備した。この第二樹脂組成物のMFRは5.3g/10minであり、密度は0.921g/cm3であった。分散剤は、第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物のいずれにも用いなかった。
【0059】
<シーラントフィルムの製造>
第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物を、共押出製膜機を用いて製膜し、第一樹脂組成物で構成される樹脂層(厚み:45μm)と、第二樹脂組成物で構成されるシール層(厚み:15μm)の2層構造を有するシーラントフィルムを製造した。
【0060】
<シーラントフィルムの評価>
製造したシーラントフィルムを一方面側(樹脂層側の主面)から目視で観察した。1m
2の一方面において目視で検出された酸化亜鉛粒子の凝集粒子を光学顕微鏡で観察して粒子径Rを測定した。粒子径Rごとの個数の集計結果は表1に示すとおりであった。
図5は、実施例1のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図5(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図5(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。また、シーラントフィルムの樹脂層における酸化亜鉛粒子の面濃度を以下の計算式で算出した。結果は表1に示すとおりであった。
面濃度=樹脂層の密度×酸化亜鉛粒子の含有比率(質量%)×樹脂層の厚み
【0061】
上記計算式の樹脂層の密度は、樹脂層の質量を樹脂層の体積で割って求めた。樹脂層の質量は、シーラントフィルムの質量から、厚みと樹脂密度から求めたシール層の質量を引いて求めた。
【0062】
(実施例2)
低密度ポリエチレン樹脂(旭化成株式会社製、商品名:サンテックL2170E)と、ポリシロキサンを用いて疎水化処理されている酸化亜鉛粒子(堺化学工業株式会社製、商品名:FINEX-50S-LP2、一次粒子径D:20nm、酸化亜鉛含有比率:96質量%)とを、90:10の質量比で配合し、第一樹脂組成物を調製した。この第一樹脂組成物のMFRは4.9g/10minであり、密度は1.00g/cm3であった。
【0063】
この第一樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。そして、実施例1と同様にしてシーラントフィルムの目視検査を行った。集計結果は表1に示すとおりであった。
図6は、実施例2のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図6(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図6(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【0064】
(実施例3)
低密度ポリエチレン樹脂(旭化成株式会社製、商品名:サンテックL2170E)と、表面処理されていない酸化亜鉛粒子(堺化学工業株式会社製、商品名:5Z22、一次粒子径D:280nm、酸化亜鉛含有比率:100質量%)とを、90:10の質量比で配合し、第一樹脂組成物を調製した。この第一樹脂組成物のMFRは5.0g/10minであり、密度は1.00g/cm3であった。
【0065】
この第一樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。そして、実施例1と同様にしてシーラントフィルムの目視検査を行った。集計結果は表1に示すとおりであった。
図7は、実施例3のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図7(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図7(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【0066】
(比較例1)
低密度ポリエチレン樹脂(旭化成株式会社製、商品名:サンテックL2170E)と、含水シリカを用いて親水化処理されている酸化亜鉛粒子(堺化学工業株式会社製、商品名:FINNEX-33W、一次粒子径D:35nm、酸化亜鉛含有比率:91質量%)とを、90:10の質量比で配合し、第一樹脂組成物を調製した。この第一樹脂組成物のMFRは4.6であり、密度は1.00g/cm3であった。
【0067】
この第一樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。そして、実施例1と同様にしてシーラントフィルムの目視検査を行った。集計結果は表1に示すとおりであった。
図8は、比較例1のシーラントフィルムを一方面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図8(A)は、20倍に拡大して撮影した写真であり、
図8(B)は、50倍に拡大して撮影した写真である。
【0068】
【0069】
表1中、「含有比率1」は、樹脂層における酸化亜鉛粒子の含有比率を示し、「含有比率2」は、シーラントフィルム全体に対する酸化亜鉛粒子の含有比率を示している。以下の表2及び表3も同様である。表1及び
図5,
図6に示すとおり、疎水化処理されている酸化亜鉛粒子を用いた実施例1,2のシーラントフィルムでは、0.5mm以上の粒子径Rを有する凝集粒子が検出されず、酸化亜鉛粒子の分散性が極めて良好であることが確認された。このようなシーラントフィルムは、粗大な凝集粒子が低減できることから、シール性に極めて優れる。また、表面処理がなされていない酸化亜鉛粒子を用いた実施例3のシーラントフィルムでは、0.5mm以上の粒子径Rを有する凝集粒子が幾つか検出されたものの、親水化処理されている酸化亜鉛粒子を用いた比較例1のシーラントフィルムよりも酸化亜鉛粒子の分散性がかなり良好であった。
【0070】
[官能試験1]
(実施例1,2,3、比較例1)
実施例1,2,3及び比較例1で作成したシーラントフィルムを、10cm×10cmのサイズにカットして試料とした。試料を入れたバリア袋に、6ppmの硫化水素(H2S)を含有する空気を封入して、24時間経過後、及び72時間経過後において、官能試験(臭気試験)を行った。官能試験は20~40歳代の男性10名及び女性10名の計20名で行った。評価基準は以下のとおりとした。
【0071】
<評価基準>
5・・・全く硫化水素の臭気がない。
4・・・硫化水素の臭気は当初よりも大幅に低減されており、残っている臭気もわずかである。
3・・・硫化水素の臭気は当初よりもかなり低減されているが、未だ臭気が明らかに残っている。
2・・・硫化水素の臭気は当初よりも低減されているが、かなりの臭気が残っている。
0・・・硫化水素の臭気は封入当初とほぼ変わらない。
【0072】
上記20名が上記評価基準に基づいて0~5で採点した。その平均値は表2に示すとおりであった。なお、表2には、ブランク(試料を入れなかった場合)の結果も併せて示した。
【0073】
(実施例2A)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、95:5の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例2と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3、比較例1と同様にして官能試験1を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0074】
(実施例2B)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、80:20の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例2と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3、比較例1と同様にして官能試験1を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0075】
【0076】
表2の結果から、酸化亜鉛粒子が最も凝集していた比較例1のシーラントフィルムは、硫化水素の臭気を十分に低減することができなかった。これに対し、実施例1,2,3のシーラントフィルムは、硫化水素を十分に吸着し臭気を低減することができた。実施例2,2A,2Bの比較から、酸化亜鉛粒子の含有比率が高い方が、硫化水素の吸着率が高くなり臭気が低減できることが示唆されている。これらの結果から、硫黄化合物が生じる被包装物(例えば、エタノールを含む焼酎及び日本酒等)の包装用途(酒用包装材用途)としての各実施例のシーラントフィルムの有用性が確認された。
【0077】
[H2S吸着性の評価]
(実施例1,2,3)
各実施例及び比較例で作成したシーラントフィルムを、10cm×10cmのサイズにカットして試料とした。試料を入れたバリア袋に、所定濃度の硫化水素(H2S)を含有する空気を封入して、硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。硫化水素の発生及び検出には、ガステック社製の硫化水素ガス発生キットを用いた。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0078】
(実施例1A)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、99.2:0.8の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3と同様にして硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。各測定結果は表3に示すとおりであった。
【0079】
(実施例1B)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、99:1の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3と同様にして硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0080】
(実施例1C)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、95:5の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3と同様にして硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0081】
(実施例1D)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、80:20の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。実施例1,2,3と同様にして硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0082】
(実施例1E)
低密度ポリエチレン樹脂と酸化亜鉛粒子とを、70:30の質量比で配合して第一樹脂組成物を調製したこと、この第一樹脂組成物を用いてシーラントフィルムを製造したこと以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを製造した。この第一樹脂組成物のMFRは4.6g/10minであり、密度は1.2g/cm3であった。実施例1,2,3と同様にして硫化水素の残存濃度の経時変化を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0083】
【0084】
表3のブランクは、シーラントフィルムをバリア袋に入れずに硫化水素濃度の経時変化を測定した結果である。各実施例のシーラントフィルムは、硫化水素を十分に吸着できることが確認された。実施例1A,1B,1C,1D,1Eの比較から、酸化亜鉛粒子の含有比率が少ない実施例1B,1Cのシーラントフィルムは硫化水素の吸着速度は遅くなったものの、硫化水素濃度を低減できることが確認された。
【0085】
[官能評価2]
(実施例1,2,3、比較例1)
実施例1,2,3及び比較例1で作成したシーラントフィルムを、20mm×20mmのサイズにカットして試料とした。試料を入れたガラス瓶に、市販の芋焼酎を10ml注入し、24時間経過後、72時間経過後、及び1週間経過後において、官能試験(臭気試験)を行った。官能試験は20~40歳代の男性10名及び女性10名の計20名で行った。評価基準は以下のとおりとした。
【0086】
<評価基準>
5・・・全く硫黄臭がない。
4・・・硫黄臭は当初よりも大幅に低減されており、残っている硫黄臭はわずかである。
3・・・硫黄臭は当初よりもかなり低減されているが、未だ硫黄臭が明らかに残っている。
2・・・硫黄臭は当初よりも低減されているが、かなりの硫黄臭が残っている。
0・・・硫黄臭は封入当初とほぼ変わらない。
【0087】
上記20名が上記評価基準に基づいて0~5で採点した。その平均値は表4に示すとおりであった。なお、表4には、ブランク(試料を入れなかった場合)の結果も併せて示した。
【0088】
【0089】
表4に示すとおり、実施例1~3のシーラントフィルムは、硫化水素以外の種々の硫黄化合物を含む焼酎の硫黄臭を十分に低減できることが確認された。したがって、各実施例のシーラントフィルムは、飲食品を保存した際に発生する嫌気臭の低減に極めて有効であると考えられる。
本開示によれば、嫌気臭の要因となる硫黄化合物を十分に吸着することが可能であり、且つシール性に優れるシーラントフィルム及びその製造方法、並びに積層フィルムが提供される。また、臭気の要因となる硫黄化合物を十分に吸着して嫌気臭を低減し、且つ密封性に優れる包装容器及び包装体が提供される。
10…シーラントフィルム、10A…一方面、10B…他方面、11…樹脂層、12…シール層、20…凝集粒子、20A…外接円、21,21a,21b,21c,21d,21e…酸化亜鉛粒子、30…バリア層、32…中間層、34…紙、36…外層、50…積層フィルム、60…本体部、62…キャップ、64…シール部、100…包装容器、120…包装体。