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  • 特開-正極及び蓄電素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142312
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】正極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220922BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220922BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220922BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220922BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20220922BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20220922BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01G11/24
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042446
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】田邊 森人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA62
5E078BA67
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA01
5H050EA12
5H050FA19
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる正極を提供する。
【解決手段】正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質粒子及び誘電体を含有し、上記正極活物質粒子が、実質的に一次粒子のみからなる、又は上記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子径に対する上記メジアン径の比が5以下である蓄電素子用の正極である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を備え、
上記正極活物質層が正極活物質粒子及び誘電体を含有し、
上記正極活物質粒子が、実質的に一次粒子のみからなる、又は上記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である蓄電素子用の正極。
【請求項2】
上記誘電体がチタン化合物を含む請求項1の正極。
【請求項3】
上記正極活物質粒子がα-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、
上記リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方とを含む請求項1又は請求項2の正極。
【請求項4】
上記正極活物質粒子の上記メジアン径及びBET比表面積の積が4.0[μm・m/g]以下である請求項3の正極。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項の正極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、非水電解質以外の電解質が用いられた蓄電素子等も広く普及している。
【0003】
蓄電素子に用いられる正極活物質には、一次粒子が凝集した状態の二次粒子のものと、一次粒子が凝集せずに分散した状態の単粒子のものとが知られている。単粒子の正極活物質として、特許文献1には、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる1種の元素とリチウムとを主成分とする単分散の一次粒子の粉体状のリチウム複合酸化物である非水系二次電池用正極活物質の発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-355824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子である正極活物質粒子と比べて、実質的に凝集していない一次粒子の状態で存在している正極活物質粒子、及び比較的少数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子である正極活物質粒子は、粒界が少ないため、割れ等が生じ難い。このため、これらの粒子が用いられた蓄電素子は、充放電サイクルに伴う容量維持率の低下が小さい等といった利点を有する。以下、「実質的に一次粒子のみからなる正極活物質粒子、又は比較的少数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子である正極活物質粒子」を「単粒子系の正極活物質粒子」とも称する。しかしながら、単粒子系の正極活物質粒子が用いられた正極及び蓄電素子は、初期の直流抵抗が高い場合がある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質粒子及び誘電体を含有し、上記正極活物質粒子が、実質的に一次粒子のみからなる、又は上記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である蓄電素子用の正極である。
【0008】
本発明の他の一側面は、当該正極を備える蓄電素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面に係る正極によれば、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される正極及び蓄電素子の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面は、正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質粒子及び誘電体を含有し、上記正極活物質粒子が、実質的に一次粒子のみからなる、又は上記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である蓄電素子用の正極である。
【0013】
当該正極においては、正極活物質層が単粒子系の正極活物質粒子及び誘電体を含有する。当該正極は、正極活物質層が単粒子系の正極活物質粒子を含有する場合であっても、誘電体を組み合わせることで蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。多数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子からなる正極活物質粒子は、各々の一次粒子と電解質との接触面積が十分に大きい。一方、実質的に凝集していない一次粒子、又は比較的少数の一次粒子が凝集した二次粒子の状態で存在している単粒子系の正極活物質粒子は、粒界が存在しないか比較的粒界が少ないために電解質との接触面積が小さい。そのため、単粒子系の正極活物質粒子は、二次粒子からなる正極活物質粒子に比べて初期の直流抵抗が高くなるおそれがある。当該正極の正極活物質層に含有される誘電体は、単粒子系の正極活物質粒子と比べてリチウムイオン等のイオンの溶媒和を促進する効果が高い。従って、単粒子系の正極活物質粒子と誘電体とを含む当該正極は蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できると推測される。電解質に対して十分な接触面積を有する二次粒子からなる正極活物質粒子と誘電体とを組み合わせても、初期の直流抵抗を低減する効果は小さいが、電解質との接触面積が小さい単粒子系の正極活物質粒子と誘電体とを組み合わせることで、初期の直流抵抗を低減する効果が顕著に発現すると考えられる。また、上記正極活物質粒子の一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下であることにより、正極活物質粒子の割れ等が生じ難いため、蓄電素子の充放電サイクルに伴う容量維持率の低下に対する抑制効果が高い等の単粒子系の正極活物質粒子の利点を有するとともに、上記本願発明の効果を発揮することができる。
【0014】
正極活物質粒子の「メジアン径」とは、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。具体的には以下の方法による測定値とすることができる。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」)、測定制御ソフトとしてWing SALD-2200を用いて測定する。散乱式の測定モードを採用し、測定試料が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%にあたる粒子径をメジアン径(D50)とする。なお、上記測定に基づくメジアン径は、SEM画像から、極端に大きい粒子及び極端に小さい粒子を避けて100個の粒子を抽出して測定するメジアン径とほぼ一致することが確認されている。
【0015】
正極活物質粒子が「実質的に一次粒子のみからなる」とは、正極活物質層をSEMで観察したとき、あるいは、正極活物質層から正極活物質粒子を採取し、バインダを除去した状態で正極活物質粒子をSEMで観察したとき、複数の一次粒子が凝集せずに独立して存在していること、あるいは、一次粒子と他の一次粒子とが、おおむね直接結合していないことをいう。なお、正極活物質粒子の「一次粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)において観察される正極活物質粒子を構成する任意の50個の一次粒子における各粒子径の平均値である。一次粒子の粒子径は、次のようにして求める。一次粒子の最小外接円の中心を通り最も短い径を短径とし、上記中心を通り短径に直交する径を長径とする。長径と短径との平均値を粒子径とする。最も短い径が2本以上存在する場合、直交する径が最も長いものを短径とする。
【0016】
上記誘電体は、チタン化合物を含むことが好ましい。上記誘電体がチタン化合物を含むことで、蓄電素子の初期の直流抵抗の低減効果が向上する。
【0017】
上記正極活物質粒子がα-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方と、を含むことが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすることなどができる。また、これらの正極活物質粒子は、一般的に多数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子の形態で製造され、使用される場合が多い。このため、当該正極が、単粒子系の正極活物質粒子としてこれらの正極活物質を用いることで、これらの正極活物質粒子が有する高いエネルギー密度等の利点に加え、単粒子系の粒子であることによる充放電サイクルに伴う容量維持率の低下に対する高い抑制効果、及び誘電体と組み合わせて用いることによる初期の直流抵抗低減効果を得ることができる。
【0018】
上記正極活物質粒子の上記メジアン径及びBET比表面積の積が4.0[μm・m/g]以下であることが好ましい。単粒子系の正極活物質粒子は、活物質粒子を構成する一次粒子の数が1又は比較的少数のため、表面に凹凸が少ない球体と考えることができる。この場合、正極活物質粒子のメジアン径とBET比表面積の関係は、次の式によって表される。
BET比表面積(m/g)=4π×(メジアン径(μm)/2)/{(4π/3)×(メジアン径(μm)/2)×真密度(g/cm)}
上記式の変形により、次の式が導かれる。
BET比表面積(m/g)×メジアン径(μm)=6/真密度(g/cm
ここで、α-NaFeO型結晶構造を有し、ニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方と、を含むリチウム遷移金属複合酸化物の真密度は約4.7(g/cm)であるから、BET比表面積とメジアン径の積は、約1.3となる。実際には、単粒子系の正極活物質粒子であっても、表面に微細な凹凸やクラックを有するため、上記BET比表面積とメジアン径の積は1.3よりも大きなものとなるが、かかる積が4.0[μm・m/g]以下の正極活物質粒子を誘電体と組み合わせた場合に、初期の直流抵抗を低減する効果がより発揮される。
【0019】
上記「BET比表面積」は、液体窒素中に浸し、窒素ガスを供給することにより粒子表面に窒素分子が物理吸着することを基にその時の圧力と吸着量を測定することにより求められる。具体的な測定手法としては、一点法により、試料に対する窒素吸着量(m)を求める。得られた窒素吸着量を、試料の質量(g)で除した値をBET比表面積(m/g)とする。
【0020】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、当該正極を備える蓄電素子である。当該蓄電素子は当該正極を備えるので、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る正極の構成、蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、正極の製造方法及び蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<正極>
本発明の一実施形態に係る正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0023】
(正極基材)
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0024】
(中間層)
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0025】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質粒子及び誘電体を含有する。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0026】
当該正極は、上記正極活物質粒子が、実質的に一次粒子のみからなる、又は上記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である。当該正極は、電解質との接触面積が小さい単粒子系の正極活物質粒子と誘電体とを組み合わせることで、初期の直流抵抗を低減する効果が顕著に発現すると考えられる。
【0027】
上記正極活物質粒子は、SEMにおいて観察される任意の50個の正極活物質粒子中、凝集せずに独立して存在している1個の一次粒子で構成されている正極活物質粒子、すなわち単粒子の数が、25個超であることが好ましく、30個以上であることがより好ましく、40個以上であることがさらに好ましい。
【0028】
所定の粒子径を有する単粒子系の正極活物質粒子は、公知の方法により製造することができ、一次粒子径等は製造条件によって制御することができる。また、所定の粒子径を有する単粒子系の正極活物質粒子は、市販品を用いてもよい。活物質の製造工程において、焼成温度を高温にしたり焼成時間を長時間にしたりするなどして、複数の一次粒子を成長させて粒子径を大きくすることが可能である。あるいは、二次粒子を解砕することにより一次粒子とすることが可能である。正極活物質粒子を所定の粒径で得るためには、例えば粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0029】
一次粒子径に対するメジアン径の比の上限としては、5であり、4が好ましく、3がより好ましい。一次粒子径に対する上記メジアンの比が上記上限以下であることにより、正極活物質粒子の割れ等が生じ難いため、蓄電素子の充放電サイクルに伴う容量維持率の低下に対する抑制効果が高い等の単粒子系の正極活物質粒子の利点を有するとともに、上記本願発明の効果を発揮することができる。
【0030】
正極活物質粒子の一次粒子径に対するメジアン径の比の下限は、1であってよい。なお、一次粒子径の測定方法とメジアン径の測定方法との違いから、正極活物質粒子の一次粒子径に対するメジアン径の比の下限は、1未満、例えば0.9であってもよい。
【0031】
上記正極活物質粒子のメジアン径としては、例えば1μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上15μm以下がより好ましい。上記正極活物質粒子のメジアン径を上記範囲とすることで、正極活物質層の導電性が向上し、蓄電素子の初期の直流抵抗がより低減される傾向にある。
【0032】
上記正極活物質粒子の一次粒子径としては、例えば0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上7μm以下がより好ましい。上記正極活物質粒子の一次粒子径を上記範囲とすることで、正極活物質層の導電性が向上し、蓄電素子の初期の直流抵抗がより低減される傾向にある。
【0033】
上記正極活物質粒子のBET比表面積としては、0.7m/g以下が好ましい。上記正極活物質粒子のBET比表面積が上記上限以下であることで、正極活物質粒子の保管時や蓄電素子の作製時における正極活物質粒子の吸湿を抑制することができる。
【0034】
なお、上記正極活物質のメジアン径、一次粒子径及びBET比表面積は、次の方法により完全放電状態とした正極活物質について上記方法により測定した値をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした半電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥後、正極活物質粒子を採取する。採取した正極活物質粒子を測定に供する。蓄電素子の解体から正極活物質粒子の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0035】
正極活物質粒子としては、公知の正極活物質粒子の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質粒子としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質粒子としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO,Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
正極活物質粒子としては、上記の正極活物質粒子の中でもα-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方と、を含むことが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすることなどができる。また、当該正極が、単粒子系の正極活物質粒子としてこれらの正極活物質を用いることで、これらの正極活物質粒子が有する高いエネルギー密度等の利点に加え、単粒子系の粒子であることによる充放電サイクルに伴う容量維持率の低下に対する高い抑制効果、及び誘電体と組み合わせて用いることによる初期の直流抵抗低減効果を得ることができる。
【0037】
α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、具体的には下記式(1)で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-α ・・・(1)
式(1)中、Meは、Niと、Coと、Mn又はAlとを含む金属(Liを除く)である。0≦α<1である。
【0038】
式(1)中のMeは、実質的にNi、Co及びMnの三元素、Ni、Co、Mn及びAlの四元素、又はNi、Co及びAlの三元素から構成されていることが好ましく、Ni、Co及びMnの三元素から構成されていることがより好ましい。但し、Meは、その他の金属が含有されていてもよい。
【0039】
電気容量がより大きくなることなどの観点から、式(1)で表される化合物における各構成元素の好適な含有量(組成比)は以下の通りである。なお、モル比は、原子数比に等しい。
【0040】
式(1)中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2、0.3又は0.4がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.9が好ましく、0.8、0.7又は0.6がより好ましい場合もある。
【0041】
式(1)中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の下限としては、0.01が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Co/Me)の上限としては、0.7が好ましく、0.5、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0042】
式(1)中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0であってよく、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.6が好ましく、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0043】
式(1)中、Meに対するAlのモル比(Al/Me)の下限としては、0であってよく、0.01が好ましく、0.02又は0.03がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Al/Me)の上限としては、0.3が好ましく、0.2又は0.1がより好ましい場合もある。
【0044】
式(1)中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)は、1.0であってよく、1.0超(α>0)又は1.1以上が好ましい場合もある。一方、このモル比(Li/Me)の上限としては、1.6が好ましく、1.4又は1.2がより好ましい場合もある。
【0045】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした半電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥後、正極活物質粒子のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。蓄電素子の解体からリチウム遷移金属複合酸化物の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0046】
好適なリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi1/2Co1/5Mn3/10、LiNi1/2Co3/10Mn1/5、LiNi8/10Co1/10Mn1/10、LiNi0.8Co0.15Al0.05等を挙げることができる。
【0047】
上記正極活物質粒子のメジアン径及びBET比表面積の積の上限としては、4.0[μm・m/g]が好ましく、3[μm・m/g]がより好ましい。一方、上記正極活物質粒子のメジアン径及びBET比表面積の積の下限としては、特に限定されないが、例えば1.2[μm・m/g]とすることができる。上記正極活物質粒子のメジアン径及びBET比表面積の積が上記上限以下かつ上記下限以上である場合、正極活物質粒子の割れ等が生じ難いため、蓄電素子の充放電サイクルに伴う容量維持率の低下に対する抑制効果が高い等の単粒子系の正極活物質粒子の利点を有するとともに、上記本願発明の効果を発揮することができる。
【0048】
正極活物質粒子の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、正極活物質粒子は、上記リチウム遷移金属複合酸化物を、使用する全正極活物質粒子のうち50質量%以上(好ましくは70から100質量%、より好ましくは80から100質量%)の割合で含有することが好ましく、実質的に上記リチウム金属複合酸化物のみからなる正極活物質を用いることがより好ましい。
【0049】
正極活物質層における正極活物質粒子の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質粒子の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0050】
当該正極の正極活物質層は誘電体を含有する。当該正極は、正極活物質層が単粒子系の正極活物質粒子を含有する場合であっても、誘電体を組み合わせることで蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。
【0051】
上記誘電体の比誘電率としては、30以上が好ましく、100以上がより好ましい。上記誘電体の比誘電率が30以上であることで、蓄電素子の初期の直流抵抗の低減効果を向上できる。なお、上記「比誘電率」は、20℃における値とし、JIS-C2138(2007年)に準拠して測定することができる。
【0052】
上記誘電体としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)、二酸化チタン(TiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ビスマスフェライト(BiFeO)、ジルコニア(ZrO)等が挙げられる。これらの中でも、蓄電素子の初期の直流抵抗の低減効果の観点から、上記誘電体はチタン化合物を含むことが好ましい。
【0053】
正極活物質層における誘電体の含有形態としては、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆していてもよく、活物質粒子間に存在していてもよい。正極活物質層における誘電体の含有量としては、例えば0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下がより好ましい。正極活物質層における誘電体の含有量が上記範囲であることで、正極活物質層のイオン伝導性を良好にし、蓄電素子の初期の直流抵抗の低減効果を向上できる。
【0054】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0055】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0056】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0057】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0058】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0059】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0060】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0061】
[正極の製造方法]
正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。正極合剤ペーストには、正極活物質粒子及び誘電体、並びに任意成分である導電剤、バインダ等、正極活物質層を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。分散媒として、有機溶剤が好適に用いられる。正極合剤ペーストの調製に用いられる分散媒である有機溶剤としては、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン等が挙げられる。
【0062】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、電解質と、上記電極体及び電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸された状態で存在する。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0063】
[正極]
当該蓄電素子に備わる正極は、上述したとおりである。当該蓄電素子は当該正極を備えるので、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。
【0064】
[負極]
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0065】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0066】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0067】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0068】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0069】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0071】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0072】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0073】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0074】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0075】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0076】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0077】
[セパレータ]
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0078】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0079】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0080】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0081】
[非水電解質]
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0082】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0083】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0084】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0085】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0086】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0087】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0088】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0089】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0091】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0092】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0093】
硫化物固体電解質としては、例えばLiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12等が挙げられる。
【0094】
[蓄電素子の具体的構成]
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0095】
図1に角型電池の一例としての蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0096】
[蓄電装置の構成]
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0097】
[蓄電素子の製造方法]
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、電解質を準備することと、電極体及び電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、上述の当該正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0098】
電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0099】
当該蓄電素子によれば、当該正極を備えることで、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できる。
【0100】
<その他の実施形態>
なお、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0101】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0102】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0103】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0104】
[実施例1及び比較例2から比較例4]
(正極の作製)
正極活物質粒子として、表1に記載のLiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)の粒子を用いた。誘電体としてチタン酸バリウム、導電剤としてカーボンブラック、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質粒子、誘電体、導電剤及びバインダを含み、分散媒としてN-メチル-ピロリドン(NMP)を含む正極合剤ペーストを作製した。固形分換算の含有量は、誘電体は表1に記載の含有量とし、導電剤は4質量%、バインダは1.5質量%、正極活物質粒子は残部とした。この正極合剤ペーストを、正極基材であるアルミニウム箔の表面に塗布し、乾燥することにより正極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、実施例1及び比較例2から比較例4の正極を得た。
【0105】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛、バインダであるスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を、質量比で98:1:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、負極基材である銅箔の表面に塗布し、乾燥することにより負極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。
【0106】
(蓄電素子の作製)
上記正極及び上記負極を用いた蓄電素子を組み立てた。なお、非水電解質として、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比30:35:35で混合した非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/dmの濃度で溶解させた溶液を用い、セパレータとしてポリオレフィン製微多孔膜を用いた。以上のようにして、実施例1及び比較例2から比較例4の蓄電素子を作製した。
【0107】
[比較例1]
誘電体を用いないこと以外は比較例2と同様にして、比較例1の正極及び蓄電素子を作製した。なお、表1中「-」は、該当する成分を含まないことを示す。
【0108】
[比較例5]
誘電体を用いないこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の正極及び蓄電素子を作製した。
【0109】
[評価]
(初期の直流抵抗)
得られた各蓄電素子について、25℃にて所定の条件にて初期充放電工程を行った後、1.0Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。25℃にて、0.2C、0.5C、1.0Cの電流で30秒間ずつ放電した。各放電終了後には、0.2Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。次に、-10℃の恒温槽に4時間保管した後、同様に、-10℃にて0.1C、0.2C、0.3Cの電流で30秒間ずつ放電した。各放電終了後には、0.05Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。25℃及び-10℃それぞれにおいて、各放電における電流と放電開始後2秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから25℃及び-10℃における初期の直流抵抗(初期DCR)を求めた。そして、誘電体を用いることによる初期の直流抵抗の改善効果を示すため、誘電体を用いていない蓄電素子の初期の直流抵抗を基準とし、初期の直流抵抗の低減率(誘電体無添加に対する初期DCRの低減率(%))を算出した。具体的には、比較例2から比較例4については、比較例2から比較例4の初期の直流抵抗と比較例1の初期の直流抵抗との差を比較例1の初期の直流抵抗で除することにより、誘電体無添加に対する初期DCRの低減率(%)を算出した。また、実施例1については、実施例1の初期の直流抵抗と比較例5の初期の直流抵抗との差を比較例5の初期の直流抵抗で除することにより、誘電体無添加に対する初期DCRの低減率(%)を算出した。誘電体無添加に対する初期DCRの低減率(%)を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例1と比較例5との比較から、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である単粒子系の正極活物質粒子に対して誘電体を組み合わせて用いることで、室温下(25℃)及び低温下(-10℃)における初期の直流抵抗が大きく低減した。これに対し、比較例1と比較例2から比較例4との比較から、単粒子系ではない正極活物質粒子に対して誘電体を組み合わせて用いた場合の初期の直流抵抗の低減効果は非常に小さいことがわかる。従って、初期の直流抵抗が大きく低減されるという効果は、一次粒子径に対するメジアン径の比が5以下である単粒子系の正極活物質粒子と誘電体とを組み合わせた場合に生じる顕著な効果であることが示された。
【0112】
以上の結果、当該正極は、蓄電素子の初期の直流抵抗を低減できることが示された。当該正極は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2