(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142372
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】過電流保護回路、スイッチ装置、電子機器、車両
(51)【国際特許分類】
H02H 9/02 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
H02H9/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042521
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宅間 徹
(72)【発明者】
【氏名】村岡 憲司
【テーマコード(参考)】
5G013
【Fターム(参考)】
5G013AA02
5G013BA01
5G013CA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】過電流検出値と過電流制限値とのずれが小さい過電流保護回路及びこれを用いたスイッチ装置、電子機器並びに車両を提供する。
【解決手段】半導体集積回路装置(スイッチ装置)において、半導体集積回路装置の各種異常を検出する異常保護部の過電流保護回路71は、電源端子T1と出力端子T2との間に接続されたスイッチ素子10に流れる出力電流Ioが第1過電流検出値を上回ったときに、スイッチ駆動信号G1を制御して出力電流Ioに制限を掛けるように構成された制限部(21a、23a、711、712、714、715、717及び35~37)と、出力電流が第1過電流検出値よりも小さい第2過電流検出値を上回ったときにスイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成された制御部(21b、23b、711、713、717、718、719及び31L)を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源端子と出力端子との間に接続されたスイッチ素子に流れる出力電流が第1過電流検出値を上回ったときにスイッチ駆動信号を制御して前記出力電流に制限を掛けるように構成された制限部と、
前記出力電流が前記第1過電流検出値よりも小さい第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成された制御部と、
を有する、過電流保護回路。
【請求項2】
前記制御部は、前記スイッチ素子の両端間電圧が設定値と一致するように前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる、請求項1に記載の過電流保護回路。
【請求項3】
前記制限部は、前記スイッチ駆動信号により前記スイッチ素子と同期駆動されて前記出力電流に応じた第1センス電流を生成するように構成された第1センストランジスタと、前記第1センス電流に応じた第1センス電圧を生成するように構成された第1センス抵抗と、前記第1センス電圧と基準電圧を比較して第1信号を生成するように構成された第1コンパレータと、前記スイッチ素子の制御端と前記出力端子との間に接続されて前記第1信号により駆動されるように構成された過電流制限トランジスタと、を含む、請求項1または2に記載の過電流保護回路。
【請求項4】
前記制御部は、前記スイッチ駆動信号により前記スイッチ素子と同期駆動されて前記出力電流に応じた第2センス電流を生成するように構成された第2センストランジスタと、前記第2センス電流に応じた第2センス電圧を生成するように構成された第2センス抵抗と、前記第2センス電圧と前記基準電圧を比較して第2信号を生成するように構成された第2コンパレータと、前記第2信号に応じて前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成されたロジックとを含む、請求項3に記載の過電流保護回路。
【請求項5】
前記制御部は、前記出力端子に現れる出力電圧が閾値よりも高くかつ前記出力電流が前記第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる、請求項1~4のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項6】
前記制御部は、周囲温度が閾値よりも低くかつ前記出力電流が前記第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる、請求項1~5のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項7】
前記制御部は、前記スイッチ素子の制御端に流し込まれるソース電流及び前記制御端から引き抜かれるシンク電流の少なくとも一方を制御して前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる、請求項1~6のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項8】
スイッチ素子と、
前記スイッチ素子に流れる出力電流を監視対象とする請求項1~7のいずれか一項に記載の過電流保護回路と、
を有する、スイッチ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のスイッチ装置と、
前記スイッチ装置に接続される負荷と、
を有する、電子機器。
【請求項10】
請求項9に記載の電子機器を有する、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、過電流保護回路、及び、これを用いたスイッチ装置、電子機器並びに車両に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、車載IPD[intelligent power device]などのスイッチ装置に関してこれまでに数多くの新技術を提案している(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスイッチ装置では、その過電流保護機能について、更なる改善の余地(例えば過電流検出値と過電流制限値とのずれ)があった。
【0005】
本明細書中に開示されている発明は、本願の発明者らにより見出された上記の課題に鑑み、過電流検出値と過電流制限値とのずれが小さい過電流保護回路、及び、これを用いたスイッチ装置、電子機器並びに車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、本明細書中に開示されている過電流保護回路は、電源端子と出力端子との間に接続されたスイッチ素子に流れる出力電流が第1過電流検出値を上回ったときにスイッチ駆動信号を制御して前記出力電流に制限を掛けるように構成された制限部と、前記出力電流が前記第1過電流検出値よりも小さい第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成された制御部と、を有する。
【0007】
なお、その他の特徴、要素、ステップ、利点、及び、特性については、以下に続く発明を実施するための形態及びこれに関する添付の図面によって、さらに明らかとなる。
【発明の効果】
【0008】
本明細書中に開示されている発明によれば、過電流検出値と過電流制限値とのずれが小さい過電流保護回路、及び、これを用いたスイッチ装置、電子機器並びに車両を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、半導体集積回路装置の基本構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ゲート制御部の一構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、過電流保護回路の比較例を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例における過電流保護動作の第1例を示す図である。
【
図5】
図5は、比較例における過電流保護動作の第2例を示す図である。
【
図6】
図6は、過電流保護回路の第1実施形態を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態における過電流保護動作の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、トランジスタのVg-Id特性を示す図である。
【
図9】
図9は、過電流保護回路の第2実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、過電流保護回路の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<半導体集積回路装置(基本構成)>
図1は、半導体集積回路装置の基本構成を示す図である。本構成例の半導体集積回路装置1は、ECU[electronic control unit]2からの指示に応じて電源電圧VBBの印加端と負荷3との間を導通/遮断する車載用ハイサイドスイッチLSI(=車載IPDの一種)である。
【0011】
なお、半導体集積回路装置1は、装置外部との電気的な接続を確立するための手段として、外部端子T1~T4を備えている。外部端子T1は、不図示のバッテリから電源電圧VBB(例えば12V)の供給を受け付けるための電源端子(VBBピン)である。外部端子T2は、負荷3(バルブランプ、リレーコイル、ソレノイド、発光ダイオード、または、モータなど)を外部接続するための負荷接続端子ないしは出力端子(OUTピン)である。外部端子T3は、ECU2から外部制御信号Siの外部入力を受け付けるための信号入力端子(INピン)である。外部端子T4は、ECU2に状態報知信号Soを外部出力するための信号出力端子(SENSEピン)である。なお、外部端子T4と接地端との間には、外部センス抵抗4が外付けされている。
【0012】
また、半導体集積回路装置1は、NMOSFET10と、出力電流監視部20と、ゲート制御部30と、制御ロジック部40と、信号入力部50と、内部電源部60と、異常保護部70と、出力電流検出部80と、信号出力部90と、を集積化して成る。
【0013】
NMOSFET10は、ドレインが外部端子T1に接続されてソースが外部端子T2に接続された高耐圧(例えば42V耐圧)のパワートランジスタである。このように接続されたNMOSFET10は、電源電圧VBBの印加端から負荷3を介して接地端に至る電流経路を導通/遮断するためのスイッチ素子(ハイサイドスイッチ)として機能する。なお、NMOSFET10は、ゲート駆動信号G1がハイレベルであるときにオンし、ゲート駆動信号G1がローレベルであるときにオフする。
【0014】
また、NMOSFET10は、オン抵抗Ronが数十mΩとなるように素子を設計すればよい。ただし、NMOSFET10のオン抵抗Ronが低いほど、外部端子T2の地絡(=接地端ないしはこれに準ずる低電位端への短絡異常)が発生したときに過電流が流れやすくなり、異常発熱を生じやすくなる。従って、NMOSFET10のオン抵抗Ronを下げるほど、後述する過電流保護回路71及び温度保護回路73の重要性が高くなる。
【0015】
出力電流監視部20は、NMOSFET21及び22と、センス抵抗23とを含み、NMOSFET10に流れる出力電流Ioに応じたセンス電圧Vs(=センス信号に相当)を生成する。
【0016】
NMOSFET21及び22は、いずれもNMOSFET10と同期駆動されるセンストランジスタであり、出力電流Ioに応じたセンス電流Is及びIs2を生成する。NMOSFET10とNMOSFET21及び22とのサイズ比は、m:1(ただしm>1)である。従って、センス電流Is及びIs2は、出力電流Ioを1/mに減じた大きさとなる。NMOSFET21及び22は、NMOSFET10と同様、ゲート駆動信号G1がハイレベルであるときにオンし、ゲート電圧G1がローレベルであるときにオフする。
【0017】
センス抵抗23(抵抗値:Rs)は、NMOSFET21のソースと外部端子T2との間に接続されており、センス電流Isに応じたセンス電圧Vs(=Is×Rs+Vo、ただし、Voは外部端子T2に現れる出力電圧)を生成する電流/電圧変換素子である。
【0018】
ゲート制御部30は、ゲート制御信号S1の電流能力を高めたゲート駆動信号G1を生成してNMOSFET10(並びにNMOSFET21及び22)のゲートに出力することにより、NMOSFET10のオン/オフ制御を行う。なお、ゲート制御部30は、過電流保護信号S71に応じて出力電流Ioを制限するようにNMOSFET10を制御する機能を備えている。
【0019】
制御ロジック部40は、内部電源電圧Vregの供給を受けてゲート制御信号S1を生成する。例えば、外部制御信号Siがハイレベル(=NMOSFET10をオンさせるときの論理レベル)であるときには、内部電源部60から内部電源電圧Vregが供給されるので、制御ロジック部40が動作状態となり、ゲート制御信号S1がハイレベル(=Vreg)となる。一方、外部制御信号Siがローレベル(=NMOSFET10をオフさせるときの論理レベル)であるときには、内部電源部60から内部電源電圧Vregが供給されないので、制御ロジック部40が非動作状態となり、ゲート制御信号S1がローレベル(=GND)となる。また、制御ロジック部40は、各種の異常保護信号(過電流保護信号S71、オープン保護信号S72、温度保護信号S73、及び、減電圧保護信号S74)を監視している。なお、制御ロジック部40は、上記した異常保護信号のうち、過電流保護信号S71、オープン保護信号S72、及び、温度保護信号S73の監視結果に応じて出力切替信号S2を生成する機能も備えている。
【0020】
信号入力部50は、外部端子T3から外部制御信号Siの入力を受け付けて制御ロジック部40及び内部電源部60に伝達するシュミットトリガである。なお、外部制御信号Siは、例えば、NMOSFET10をオンさせるときにハイレベルとなり、NMOSFET10をオフさせるときにローレベルとなる。
【0021】
内部電源部60は、電源電圧VBBから所定の内部電源電圧Vregを生成して半導体集積回路装置1の各部に供給する。なお、内部電源部60の動作可否は、外部制御信号Siに応じて制御される。より具体的に述べると、内部電源部60は、外部制御信号Siがハイレベルであるときに動作状態となり、外部制御信号Siがローレベルであるときに非動作状態となる。
【0022】
異常保護部70は、半導体集積回路装置1の各種異常を検出する回路ブロックであり、過電流保護回路71と、オープン保護回路72と、温度保護回路73と、減電圧保護回路74と、を含む。
【0023】
過電流保護回路71は、センス電圧Vsの監視結果(=出力電流Ioの過電流異常が生じているか否か)に応じた過電流保護信号S71を生成する。なお、過電流保護信号S71は、例えば、異常未検出時にローレベルとなり、異常検出時にハイレベルとなる。
【0024】
オープン保護回路72は、出力電圧Voの監視結果(=負荷3のオープン異常が生じているか否か)に応じたオープン保護信号S72を生成する。なお、オープン保護信号S72は、例えば、異常未検出時にローレベルとなり、異常検出時にハイレベルとなる。
【0025】
温度保護回路73は、半導体集積回路装置1(特にNMOSFET10周辺)の異常発熱を検出する温度検出素子(不図示)を含み、その検出結果(=異常発熱が生じているか否か)に応じた温度保護信号S73を生成する。なお、温度保護信号S73は、例えば、異常未検出時にローレベルとなり、異常検出時にハイレベルとなる。
【0026】
減電圧保護回路74は、電源電圧VBBないしは内部電源電圧Vregの監視結果(=減電圧異常が生じているか否か)に応じた減電圧保護信号S74を生成する。なお、減電圧保護信号S74は、例えば、異常未検出時にローレベルとなり、異常検出時にハイレベルとなる。
【0027】
出力電流検出部80は、不図示のバイアス手段を用いて、NMOSFET22のソース電圧と出力電圧Voとを一致させることにより、出力電流Ioに応じたセンス電流Is2(=Io/m)を生成して信号出力部90に出力する。
【0028】
信号出力部90は、出力切替信号S2に基づいてセンス電流Is2(=出力電流Ioの検出結果に相当)と固定電圧V90(=異常フラグに相当、本図では明示せず)の一方を外部端子T4に選択出力する。センス電流Is2が選択出力された場合には、状態報知信号Soとして、センス電流Is2を外部センス抵抗4(抵抗値:R4)で電流/電圧変換した出力検出電圧V80(=Is2×R4)がECU2に伝達される。出力検出電圧V80は、出力電流Ioが大きいほど高くなり、出力電流Ioが小さいほど低くなる。一方、固定電圧V90が選択出力された場合には、状態報知信号Soとして、固定電圧V90がECU2に伝達される。なお、状態報知信号Soから出力電流Ioの電流値を読み取る場合には、状態報知信号SoをA/D[analog-to-digital]変換してやればよい。一方、状態報知信号Soから異常フラグを読み取る場合には、固定電圧V90よりもやや低い閾値を用いて状態報知信号Soの論理レベルを判定してやればよい。
【0029】
<ゲート制御部>
図2は、ゲート制御部30の一構成例を示す図である。本図のゲート制御部30は、ゲートドライバ31と、オシレータ32と、チャージポンプ33と、クランパ34と、NMOSFET35と、抵抗36(抵抗値:R36)と、キャパシタ37(容量値:C37)と、ツェナダイオード38と、を含む。
【0030】
ゲートドライバ31は、チャージポンプ33の出力端(=昇圧電圧VGの印加端)と外部端子T2(=出力電圧Voの印加端)との間に接続されており、ゲート制御信号S1の電流能力を高めたゲート駆動信号G1を生成する。なお、ゲート駆動信号G1は、ゲート制御信号S1がハイレベルであるときにハイレベル(=VG)となり、ゲート制御信号S1がローレベルであるときにローレベル(=Vo)となる。
【0031】
オシレータ32は、所定周波数のクロック信号CLKを生成してチャージポンプ33に出力する。なお、オシレータ32の動作可否は、制御ロジック部40からのイネーブル信号SAに応じて制御される。
【0032】
チャージポンプ33は、クロック信号CLKを用いてフライングキャパシタを駆動することにより、電源電圧VBBよりも高い昇圧電圧VGを生成してゲートドライバ31に供給する昇圧部の一例である。なお、チャージポンプ33の動作可否は、制御ロジック部40からのイネーブル信号SBに応じて制御される。
【0033】
クランパ34は、外部端子T1(=電源電圧VBBの印加端)とNMOSFET10のゲートとの間に接続されている。外部端子T2に誘導性の負荷3が接続されるアプリケーションでは、NMOSFET10をオンからオフへ切り替える際、負荷3の逆起電力により、出力電圧Voが負電圧(<GND)となる。そのため、エネルギー吸収用にクランパ34(いわゆるアクティブクランプ回路)が設けられている。
【0034】
NMOSFET35のドレインは、NMOSFET10のゲートに接続されている。NMOSFET35のソースは、外部端子T2に接続されている。NMOSFET35のゲートは、過電流保護信号S71の印加端に接続されている。また、NMOSFET35のドレイン・ゲート間には、抵抗36とキャパシタ37が直列に接続されている。
【0035】
ツェナダイオード38のカソードは、NMOSFET10のゲートに接続されている。ツェナダイオード38のアノードは、NMOSFET10のソースに接続されている。このように接続されたツェナダイオード38は、NMOSFET10のゲート・ソース間電圧(=VG-Vo)を所定値以下に制限するクランプ素子として機能する。
【0036】
本構成例のゲート制御部30において、過電流保護信号S71がハイレベルに立ち上げられると、ゲート駆動信号G1が定常時のハイレベル(=VG)から所定の時定数τ(=R36×C37)で引き下げられていく。その結果、NMOSFET10の導通度が徐々に低下していくので、出力電流Ioに制限が掛けられる。一方、過電流保護信号S71がローレベルに立ち下げられると、ゲート駆動信号G1が所定の時定数τで引き上げられていく。その結果、NMOSFET10の導通度が徐々に上昇していくので、出力電流Ioの制限が解除される。
【0037】
このように、本構成例のゲート制御部30は、過電流保護信号S71に応じて出力電流Ioを制限するようにゲート駆動信号G1を制御する機能を備えている。
【0038】
<過電流保護回路(比較例)>
図3は、過電流保護回路71の一比較例(後述する種々の実施形態と対比される回路構成の一例)を示す図である。本比較例の過電流保護回路71は、NMOSFET10に流れる出力電流Ioに制限を掛ける回路ブロックであり、NMOSFET711及び712と、電流源714及び715と、基準抵抗717と、を含む。
【0039】
なお、以下では、説明の便宜上、既出のNMOSFET21、センス抵抗23、NMOSFET35、抵抗36及びキャパシタ37についても、過電流保護回路71の構成要素として取り扱う。
【0040】
電流源714及び715それぞれの第1端は、いずれも、昇圧電圧VGの印加端に接続されている。電流源714の第2端は、NMOSFET711のドレインに接続されている。電流源715の第2端は、NMOSFET712のドレインに接続されている。NMOSFET712のドレインは、過電流保護信号S71の出力端としてNMOSFET35のゲートに接続されている。NMOSFET711及び712それぞれのゲートは、いずれもNMOSFET711のドレインに接続されている。なお、電流源714及び715は、いずれも基準電流Irefを生成する。
【0041】
NMOSFET711のソースは、基準抵抗717(抵抗値:Rref)の第1端に接続されている。NMOSFET712のソースは、NMOSFET21のソース(=出力電流Ioに応じたセンス電流Isの出力端)と共にセンス抵抗23(抵抗値:Rs)の第1端に接続されている。NMOSFET21のドレインは、NMOSFET10のドレインと共に外部端子T1(=電源電圧VBBの印加端)に接続されている。NMOSFET21のゲートは、NMOSFET10のゲートと共にゲート駆動信号G1の印加端に接続されている。基準抵抗717及びセンス抵抗23それぞれの第2端は、いずれも外部端子T2(=出力電圧Voの印加端)に接続されている。
【0042】
本比較例の過電流保護回路71において、NMOSFET711のソースには、基準電圧Vref(=Iref×Rref+Vo)が生成される。一方、NMOSFET712のソースには、センス電圧Vs(=(Iref+Is)×Rs+Vo)が生成される。従って、過電流保護信号S71は、センス電圧Vsが基準電圧Vrefよりも低いときにローレベル(=異常未検出時の論理レベル)となり、センス電圧Vsが基準電圧Vrefよりも高いときにハイレベル(=異常検出時の論理レベル)となる。従って、過電流保護信号S71に応じてNMOSFET35を駆動することにより、出力電流Ioを制限するようにゲート駆動信号G1を制御することができる。
【0043】
<過電流検出値と過電流制限値に関する考察>
図4及び
図5は、それぞれ、
図3の比較例における過電流保護動作の第1例及び第2例を示す図であり、上から順に、電源電圧VBB、外部制御信号Si、出力電圧Vo及び出力電流Ioが描写されている。
【0044】
なお、
図4では、NMOSFET10がオンしている状態で出力電流Ioが増大していき、出力電流Ioに電流制限が掛かる場合の挙動が示されている。従って、本図では、電源電圧VBB(例えば12.5V)が投入済みであり、外部制御信号Siも既にハイレベルに立ち上がっている。
【0045】
一方、
図5では、外部端子T2が地絡またはレアショート(例えば1Ωショート)した状態で外部制御信号Siがハイレベルに立ち上げられた結果、半導体集積回路装置1の起動当初から出力電流Ioに電流制限が掛かっている場合の挙動が示されている。
【0046】
両図を参照しながら、本明細書中における「過電流検出値」及び「過電流制限値」について定義する。「過電流検出値」とは、NMOSFET10がオンしている状態で出力電流Ioが増大して電流制限に入るときの出力電流Ioの電流値(
図4のIocp_detを参照)を指す。また、「過電流制限値」とは、NMOSFET10がオンしている状態で出力電流Ioが過電流検出値Iocp_detに達して電流制限が掛けられた出力電流Ioの電流値(
図4のIocp_lmtを参照)、または、外部端子T2の地絡若しくはレアショートにより半導体集積回路装置1の起動当初から電流制限が掛けられた出力電流Ioの電流値(
図5のIocp_lmtを参照)を指す。
【0047】
図4で示したように、NMOSFET10がオンしている状態で出力電流Ioの電流制限が掛かった場合には、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtがずれる。特に、周囲温度Taが低いとき(例えばTa=-40℃)には、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとのずれが大きくなる。
【0048】
一方、
図5で示したように、外部端子T2の地絡またはレアショートにより半導体集積回路装置1の起動当初から出力電流Ioに電流制限が掛かっている場合には、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとのずれが小さくなる(本図では、Iocp_lmt≒Iocp_det)。
【0049】
以下では、
図4の過電流保護動作について、数式を用いながら詳細に考察する。出力電流Ioの増大に伴ってセンス電流Isが増大すると、センス電圧Vsも上昇していく。そして、センス電圧Vsが基準電圧Vrefよりも高くなると、過電流保護信号S71がハイレベルとなり、出力電流Ioに電流制限が掛けられる。このとき、過電流検出値Iocp_detは、次の(1)式で表される。
【0050】
Iocp_det = Iref × Rref × (Rs + Ron21) / (Rs × Ron10) … (1)
【0051】
なお、Ron10及びRon21は、それぞれ、NMOSFET10及び21それぞれのオン抵抗を示している。特に、(1)式におけるRon10及びRon21は、それぞれ、NMOSFET10及び21それぞれのフルオン状態におけるオン抵抗(例えばRon10は数十mΩ、Ron21及びRsは数百Ω)である。
【0052】
上記(1)式より、出力電流Ioの電流制限が掛かる前には、温度特性を持つ種々のパラメータ(Rs、Ron10、Ron21及びIref)の影響により、過電流検出値Iocp_detの温度特性が大きくなる。
【0053】
一方、出力電流Ioの電流制限が掛かると、ゲート駆動信号G1が引き下げられてオン抵抗Ron10及びRon21が高くなる(Ron21>>Rs)。その結果、過電流制限値Iocp_lmtは、次の(2)式で表される。
【0054】
Iocp_lmt = Iref × Rref × Ron21 / (Rs × Ron10) … (2)
【0055】
上記(2)式より、出力電流Ioの電流制限が掛かった後、過電流制限値Iocp_lmtの温度特性に影響を及ぼすのは、センス抵抗Rs及び基準電流Irefのみとなる。
【0056】
ここで、上記(1)式及び(2)式を比較すると、NMOSFET10がオンしている状態で出力電流Ioの電流制限が掛かった場合には、Iocp_det>Iocp_lmtとなることが分かる。特に、周囲温度Taが低いときには、NMOSFET10のオン抵抗Ron10が低下するので、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtのずれが大きくなる。
【0057】
なお、Iocp_det=Iocp_lmtを実現するためには、電流制限前のオン抵抗Ron21を大きく、かつ、センス抵抗Rsを小さくする必要がある。つまり、(1)式右辺の(Rs+Ron21)において、センス抵抗Rsを無視することができる程度まで、オン抵抗Ron21とセンス抵抗Rsとの差を広げておく必要がある。
【0058】
しかしながら、電流制限前のオン抵抗Ron21を大きくすると、NMOSFET10及びNMOSFET21のサイズ比を調整して、出力電流Ioに対するセンス電流Isの比率を増大する必要が生じる。その結果、センス電流Isが流れる電流経路の配線幅及びセンス抵抗Rsの素子幅が大きくなるので、チップ面積が大きくなってしまう。
【0059】
一方、センス抵抗Rsを小さくすると、配線インピーダンスの影響を受けやすくなるので、過電流検出値Iocp_det及び過電流制限値Iocp_lmtそれぞれのばらつきが大きくなってしまう。
【0060】
なお、Iocp_det=Iocp_lmtを実現するために基準電圧Vrefを引き下げることも考えられる。ただし、基準電圧Vrefを引き下げた場合には、コンパレータの差動入力段(=NMOSFET711及び712)が持つ入力オフセットを無視することができなくなるので、過電流検出精度の低下に繋がるおそれがある。
【0061】
また、NMOSFET10のオン抵抗Ron10に見合うように、NMOSFET21のオン抵抗Ron21及びセンス抵抗Rsを設定すれば、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとのずれが生じにくくなる。
【0062】
例えば、NMOSFET10が大電流出力に対応した低オン抵抗品(例えばRon10=45mΩ)である場合には、過電流検出値Iocp_det(延いては過電流制限値Iocp_lmt)をある程度大きい電流値(例えば20A程度)に設定することが望ましい。過電流検出値Iocp_detを引き上げれば、より大きいセンス電流Isが流れるようになるので、センス抵抗Rsを小さくすることができるからである。
【0063】
しかし、セット(ECUなど)の仕様によっては、NMOSFET10が低オン抵抗品であっても、過電流検出値Iocp_det(延いては過電流制限値Iocp_lmt)を小さい電流値(例えば4A程度)に設定したいという要求もある。
【0064】
上記の考察に鑑み、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとのずれを低減することのできる新規な実施形態を提案する。
【0065】
<過電流保護回路(第1実施形態)>
図6は、過電流保護回路71の第1実施形態を示す図である。本実施形態の過電流保護回路71は、先出の比較例(
図3)を基本としつつ、NMOSFET713、電流源716、ロジック718及び第1電圧検出部719をさらに含む。また、先出のNMOSFET21に代えてNMOSFET21a及び21bを含み、先出のセンス抵抗23に代えてセンス抵抗23a及び23bを含む。さらに、本図では、ゲートドライバ31の構成要素として、ソース電流源31H及びシンク電流源31Lが明示されている。
【0066】
電流源714~716それぞれの第1端は、いずれも昇圧電圧VGの印加端に接続されている。電流源714の第2端は、NMOSFET711のドレインに接続されている。電流源715の第2端は、NMOSFET712のドレインに接続されている。NMOSFET712のドレインは、第1過電流保護信号S71a(=第1信号に相当)の出力端としてNMOSFET35のゲートに接続されている。電流源716の第2端は、NMOSFET713のドレインに接続されている。NMOSFET713のドレインは、第2過電流保護信号S71b(=第2信号に相当)の出力端としてロジック718に接続されている。NMOSFET711~713それぞれのゲートは、いずれもNMOSFET711のドレインに接続されている。なお、電流源714~716は、いずれも基準電流Irefを生成する。
【0067】
NMOSFET711のソースは、基準抵抗717(抵抗値:Rref)の第1端に接続されている。NMOSFET712のソースは、NMOSFET21aのソース(=出力電流Ioに応じた第1センス電流Isaの出力端)と共にセンス抵抗23a(抵抗値:Rsa)の第1端に接続されている。NMOSFET713のソースは、NMOSFET21bのソース(=出力電流Ioに応じた第2センス電流Isbの出力端)と共にセンス抵抗23b(抵抗値:Rsb)の第1端に接続されている。NMOSFET21a及び21bそれぞれのドレインは、いずれもNMOSFET10のドレインと共に外部端子T1(=電源電圧VBBの印加端)に接続されている。NMOSFET21a及び21bそれぞれのゲートは、いずれもNMOSFET10のゲートと共にゲート駆動信号G1の印加端に接続されている。基準抵抗717及びセンス抵抗23a並びに23bそれぞれの第2端は、いずれも外部端子T2(=出力電圧Voの印加端)に接続されている。
【0068】
本実施形態の過電流保護回路71において、NMOSFET711のソースには、基準電圧Vref(=Iref×Rref+Vo)が生成される。一方、NMOSFET712のソースには、第1センス電圧Vsa(=(Iref+Isa)×Rsa+Vo)が生成される。従って、第1過電流保護信号S71aは、第1センス電圧Vsaが基準電圧Vrefより低いときにローレベル(=異常未検出時の論理レベル)となり、第1センス電圧Vsaが基準電圧Vrefよりも高いときにハイレベル(=異常検出時の論理レベル)となる。従って、第1過電流保護信号S71aに応じてNMOSFET35を駆動することにより、出力電流Ioを制限するようにゲート駆動信号G1を制御することができる。
【0069】
すなわち、過電流保護回路71に含まれる構成要素のうち、NMOSFET21a、センス抵抗23a、NMOSFET711並びに712、電流源714並びに715、基準抵抗717、及び、NMOSFET35は、出力電流Ioが第1過電流検出値Iocp1を上回ったときにゲート駆動信号G1を制御して出力電流Ioに制限を掛けるように構成された制限部として機能する。
【0070】
構成要素別に述べると、NMOSFET21aは、ゲート駆動信号G1によりNMOSFET10と同期駆動されて出力電流Ioに応じた第1センス電流Isaを生成するように構成された第1センストランジスタに相当する。センス抵抗23aは、第1センス電流Isaに応じた第1センス電圧Vsaを生成するように構成された第1センス抵抗に相当する。NMOSFET711並びに712、電流源714並びに715、及び、基準抵抗717は、第1センス電圧Vsaと基準電圧Vrefを比較して第1過電流保護信号S71aを生成するように構成された第1コンパレータに相当する。NMOSFET35は、NMOSFET10のゲートと外部端子T2との間に接続されて第1過電流保護信号S71aにより駆動されるように構成された過電流制限トランジスタに相当する。
【0071】
また、本実施形態の過電流保護回路71では、NMOSFET713のソースに第2センス電圧Vsb(=(Iref+Isb)×Rsb+Vo)が生成される。従って、第2過電流保護信号S71bは、第2センス電圧Vsbが基準電圧Vrefよりも低いときにローレベル(=ゲート非制限時の論理レベル)となり、第2センス電圧Vsbが基準電圧Vrefよりも高いときにハイレベル(=ゲート制限時の論理レベル)となる。
【0072】
なお、第2センス電圧Vsbは、先出の第1センス電圧Vsaよりも高い電圧値を持つように調整されている。言い換えると、ゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げるか否かの判定に用いられる第2過電流検出値Iocp2(詳細は後述)は、先出の第1過電流検出値Iocp1よりも小さい値に設定されている。
【0073】
ロジック718は、第2過電流保護信号S71bと第1電圧検出信号S11の論理演算(例えば論理積演算)を行うことにより、放電制御信号DISを生成する。例えば、ロジック718は、第2過電流保護信号S71bと第1電圧検出信号S11がいずれもハイレベルであるときに放電制御信号DISをハイレベル(=放電時の論理レベル)とし、第2過電流保護信号S71bと第1電圧検出信号S11の少なくとも一方がローレベルであるときに放電制御信号DISをローレベル(=非放電時の論理レベル)とする。なお、第2過電流保護信号S71bと第1電圧検出信号S11は、いずれも内部電源電圧Vregをハイレベルとし、接地電圧GNDをローレベルとするパルス信号である。一方、放電制御信号DISは、昇圧電圧VGをハイレベルとし、出力電圧Voをローレベルとするパルス信号である。従って、ロジック718は、レベルシフタとしての機能も備えている。
【0074】
第1電圧検出部719は、出力電圧Voと第1閾値電圧Vth1(=電源電圧VBBから設定値VTHだけ低い電圧)とを比較することにより、第1電圧検出信号S11を生成する。例えば、第1電圧検出信号S11は、Vo>Vth1であるときにローレベルとなり、Vo<Vth1であるときにハイレベルとなる。なお、第1電圧検出部719は、NMOSFET10のドレイン・ソース間電圧Vdsと設定値VTHとを比較するものと理解してもよい。その場合、第1電圧検出信号S11は、Vds<VTHであるときにローレベルとなり、Vds>VTHであるときにハイレベルとなるように理解され得る。
【0075】
ゲートドライバ31は、先にも述べたように、ソース電流源31H及びシンク電流源31Lを含む。ソース電流源31Hは、昇圧電圧VGの印加端とNMOSFET10のゲートとの間に接続されており、NMOSFET10のゲートに流し込まれるソース電流IHを生成する。一方、シンク電流源31Lは、NMOSFET10のゲートと出力電圧Voの印加端との間に接続されており、NMOSFET10のゲートから引き抜かれるシンク電流ILを生成する。なお、ここでは、シンク電流ILがソース電流IHよりも大きい電流値に設定されているものとする。
【0076】
NMOSFET10のオン期間(Si=H)において、放電制御信号DISがローレベルであるときには、ソース電流IHがオンしてシンク電流ILがオフする。従って、NMOSFET10のゲートにソース電流IHが流し込まれることにより、ゲート駆動信号G1が上昇してNMOSFET10がフルオン状態(=オン抵抗Ron10が最も低下した状態)となる。このとき、NMOSFET21a及び21bもフルオン状態(=それぞれのオン抵抗Ron21a及びRon21bが最も低下した状態)となる。
【0077】
一方、NMOSFET10のオン期間(Si=H)において、放電制御信号DISがハイレベルであるときには、ソース電流IHがオンしたままシンク電流IL(>IH)もオンする。従って、NMOSFET10のゲートからソース電流IHとシンク電流ILの差分電流(=IL-IH>0)が引き抜かれることにより、ゲート駆動信号G1がフルオン時の信号値から引き下げられる。その結果、NMOSFET10、21a及び21bそれぞれのオン抵抗Ron10、Ron21a及びRon21bは、いずれも定常時より高められた状態となる。
【0078】
すなわち、過電流保護回路71に含まれる構成要素のうち、NMOSFET21b、センス抵抗23b、NMOSFET711並びに713、電流源714並びに716、基準抵抗717、及び、ロジック718は、出力電流Ioが第1過電流検出値Iocp1よりも小さい第2過電流検出値Iocp2を上回ったときにゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げるように構成された制御部として機能する。
【0079】
構成要素別に述べると、NMOSFET21bは、ゲート駆動信号G1によりNMOSFET10と同期駆動されて出力電流Ioに応じた第2センス電流Isbを生成するように構成された第2センストランジスタに相当する。センス抵抗23bは、第2センス電流Isbに応じた第2センス電圧Vsbを生成するように構成された第2センス抵抗に相当する。NMOSFET711並びに713、電流源714並びに716、及び、基準抵抗717は、第2センス電圧Vsbと基準電圧Vrefを比較して第2過電流保護信号S71bを生成するように構成された第2コンパレータに相当する。ロジック718は、第2過電流保護信号S71bに応じてゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げる手段として機能する。
【0080】
なお、上記では、放電制御信号DISに応じてシンク電流ILのみをオン/オフする例を挙げたが、ゲート駆動信号G1の制限手法は任意であり、ゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げる際には、ソース電流IH及びシンク電流ILの少なくとも一方を制御すればよい。例えば、放電制御信号DISがハイレベルであるときにソース電流IHをオフしてシンク電流ILをオンしてもよい。この場合、シンク電流ILとソース電流IHの大小関係は不問となる。
【0081】
図7は、第1実施形態における過電流保護動作の一例を示す図であり、出力電流Ioの挙動が示されている。
【0082】
時刻t1において、出力電流Ioが第2過電流検出値Iocp2よりも大きくなると、ロジック718によるゲート駆動信号G1の事前制限(=シンク電流ILのオン/オフ)が開始される。具体的に述べると、ロジック718は、NMOSFET10のドレイン・ソース間電圧Vdsが設定値VTHよりも低いときにシンク電流ILをオンしてゲート駆動電圧G1を引き下げる一方、NMOSFET10のドレイン・ソース間電圧Vdsが設定値VTHよりも高くなるとシンク電流ILをオフしてゲート駆動電圧G1の引き下げを停止する。このようなシンク電流ILのオン/オフが繰り返されることにより、NMOSFET10のドレイン・ソース間電圧Vdsが設定値VTHと一致するようにゲート駆動信号G1がフルオン時の信号値から引き下げられる。
【0083】
その後、時刻t2において、出力電流Ioが第1過電流検出値Iocp1よりも大きくなると、第1過電流保護信号S71aに応じてNMOSFET35が駆動されるので、出力電流Ioを制限するようにゲート駆動信号G1が制御される。
【0084】
なお、この時点では、先に述べたゲート駆動信号G1の事前制限により、NMOSFET20aのオン抵抗Ron20aが定常時よりも高められている。言い換えると、出力電流Ioに電流制限が掛けられる前に、予めオン抵抗Ron20aがセンス抵抗23aの抵抗値Rsaに近付けられている。
【0085】
このように、出力電流Ioに電流制限が掛かる時点でNMOSFET10のドレイン・ソース間電圧Vdsが既に開いた状態とすることにより、先出の
図5と等価な状態を意図的に生み出すことができる。従って、先出の比較例(
図3を参照)と比べて、過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとのずれを小さく抑えることが可能となる(本図では、Iocp1=Iocp_det≒Iocp_lmt)。
【0086】
図8は、トランジスタ(ここではNMOSFET)のVg-Id特性を示す図である。なお、横軸はトランジスタに印加されるゲート電圧Vg[V]を示しており、縦軸はトランジスタに流れるドレイン電流Id[A]を示している。
【0087】
本図の領域αで示すように、トランジスタに5~6Vのゲート電圧Vgを印加すると、トランジスタがフルオン状態となり、数十mAのドレイン電流Idが流れる。一方、本図の領域βで示すように、ゲート電圧Vgを2~3Vまで引き下げると、ドレイン電流Idが数mAまで減少する。これは、トランジスタのオン抵抗が10倍程度に引き上げられたことを意味する。
【0088】
上記を鑑み、先に説明したゲート駆動信号G1の事前制限を行う際には、NMOSFET21aのVg-Id特性を考慮して、ゲート駆動信号G1を適切な信号値まで引き下げることが望ましい。
【0089】
<過電流保護回路(第2実施形態)>
図9は、過電流保護回路71の第2実施形態を示す図である。本実施形態の過電流保護回路71は、先出の第1実施形態(
図6)を基本としつつ、第2電圧検出部71Aをさらに含む。そこで、既出の構成要素については、先出の
図6と同一の符号を付すことで重複した説明を省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について重点的に説明する。
【0090】
第2電圧検出部71Aは、出力電圧Voと第2閾値電圧Vth2とを比較することにより、第2電圧検出信号S12を生成する。例えば、第2電圧検出信号S12は、Vo<Vth2であるときにローレベルとなり、Vo>Vth2であるときにハイレベルとなる。なお、第2電圧検出信号S12は、出力電圧Voが立ち上がっているか否かを判定するための出力モニタ信号として理解される。
【0091】
ロジック718は、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11及び第2電圧検出信号S12の論理演算(例えば論理積演算)を行うことにより、放電制御信号DISを生成する。例えば、ロジック718は、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11及び第2電圧検出信号S12がいずれもハイレベルであるときに放電制御信号DISをハイレベル(=放電時の論理レベル)とし、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11及び第2電圧検出信号S12の少なくとも一つがローレベルであるときに放電制御信号DISをローレベル(=非放電時の論理レベル)とする。
【0092】
すなわち、ロジック718は、出力電圧Voが第2閾値電圧Vth2よりも高く、かつ出力電流Ioが第2過電流検出値Iocp2を上回っているときにのみ、ゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げるように放電制御信号DISを生成する。
【0093】
このような構成であれば、出力電圧Voが立ち上がった半導体集積回路装置1の定常出力時(=過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとの差が大きくなるNMOSFET10のフルオン時)にのみ、先述のゲート制限が掛かるようになる。逆に言えば、出力電圧Voが立ち上がり切っていない半導体集積回路装置1の起動途中には、先述のゲート制限が掛からなくなる。従って、例えば、起動時に大きなラッシュ電流の供給を必要とする負荷3(バルブランプなど)が外部端子T2に接続されている場合にラッシュ電流を不必要に制限することがないので、負荷3の起動を妨げずに済む。
【0094】
<過電流保護回路(第3実施形態)>
図10は、過電流保護回路71の第3実施形態を示す図である。本実施形態の過電流保護回路71は、先出の第2実施形態(
図9)を基本としつつ、温度検出部71Bをさらに含む。そこで、既出の構成要素については、先出の
図9と同一の符号を付すことで重複した説明を省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について重点的に説明する。
【0095】
また、以下の説明では、NMOSFET10、21a及び21bそれぞれのオン抵抗Ron10、Ron21a及びRon21bがいずれも正の温度特性を持つ、すなわち、周囲温度Taが高くなるほどオン抵抗Ron10、Ron21a及びRon21bも高くなるものとする。
【0096】
温度検出部71Bは、周囲温度Taと所定の閾値Tthとを比較することにより、温度検出信号S13を生成する。例えば、温度検出信号S13は、Ta>Tthであるときにローレベルとなり、Ta<Tthであるときにハイレベルとなる。
【0097】
ロジック718は、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11、第2電圧検出信号S12、及び、温度検出信号S13の論理演算(例えば論理積演算)を行うことにより、放電制御信号DISを生成する。例えば、ロジック718は、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11、第2電圧検出信号S12、及び、温度検出信号S13がいずれもハイレベルであるときに放電制御信号DISをハイレベル(=放電時の論理レベル)とし、第2過電流保護信号S71b、第1電圧検出信号S11、第2電圧検出信号S12、及び、温度検出信号S13の少なくとも一つがローレベルであるときに放電制御信号DISをローレベル(=非放電時の論理レベル)とする。
【0098】
すなわち、ロジック718は、出力電圧Voが第2閾値電圧Vth2よりも高く、周囲温度Taが閾値Tthよりも低く、かつ、出力電流Ioが第2過電流検出値Iocp2を上回っているときにのみ、ゲート駆動信号G1をフルオン時の信号値から引き下げるように放電制御信号DISを生成する。端的に言うと、低温下での定常出力時に過電流の予兆が検出されたときには、ゲート駆動信号G1がフルオン時の信号値から引き下げられる。
【0099】
このような構成であれば、周囲温度Taの低下時(=NMOSFET21aのオン抵抗Ron21aが低下して過電流検出値Iocp_detと過電流制限値Iocp_lmtとの差が大きくなるとき)にのみ、先述のゲート制限が掛かるようになる。逆に言えば、周囲温度Taが閾値Tthよりも高くなり、NMOSFET10のオン抵抗Ron10が元々上昇しているときには、先述のゲート制限が掛からなくなる。従って、NMOSFET10の電流供給能力が損なわれ得る高温下で、さらに先述のゲート制限が掛かることはないので、負荷3への電流供給を不必要に阻害せずに済む。
【0100】
なお、本実施形態では、先出の第2実施形態(
図9)を基本としたが、先出の第1実施形態(
図6)を基本としてもよい。つまり、第2電圧検出部71Aは、本実施形態における必須の構成要素ではない。
【0101】
<車両への適用>
図11は、車両の一構成例を示す外観図である。本構成例の車両Xは、バッテリ(本図では不図示)と、バッテリから電力供給を受けて動作する種々の電子機器X11~X18とを搭載している。
【0102】
車両Xには、エンジン車のほか、電動車(BEV[battery electric vehicle]、HEV[hybrid electric vehicle」、PHEV/PHV(plug-in hybrid electric vehicle/plug-in hybrid vehicle]、又は、FCEV/FCV(fuel cell electric vehicle/fuel cell vehicle]などのxEV)も含まれる。
【0103】
なお、本図における電子機器X11~X18の搭載位置については、図示の便宜上、実際とは異なる場合がある。
【0104】
電子機器X11は、エンジンに関連する制御(インジェクション制御、電子スロットル制御、アイドリング制御、酸素センサヒータ制御、及び、オートクルーズ制御など)、または、モータに関する制御(トルク制御、及び、電力回生制御など)を行う電子制御ユニットである。
【0105】
電子機器X12は、HID[high intensity discharged lamp]及びDRL[daytime running lamp]などの点消灯制御を行うランプコントロールユニットである。
【0106】
電子機器X13は、トランスミッションに関連する制御を行うトランスミッションコントロールユニットである。
【0107】
電子機器X14は、車両Xの運動に関連する制御(ABS[anti-lock brake system]制御、EPS[electric power steering]制御、電子サスペンション制御など)を行うボディコントロールユニットである。
【0108】
電子機器X15は、ドアロック及び防犯アラームなどの駆動制御を行うセキュリティコントロールユニットである。
【0109】
電子機器X16は、ワイパー、電動ドアミラー、パワーウィンドウ、ダンパー(ショックアブソーバー)、電動サンルーフ、及び、電動シートなど、標準装備品またはメーカーオプション品として、工場出荷段階で車両Xに組み込まれている電子機器である。
【0110】
電子機器X17は、車載A/V[audio/visual]機器、カーナビゲーションシステム、及び、ETC[electronic toll collection system]など、ユーザオプション品として任意で車両Xに装着される電子機器である。
【0111】
電子機器X18は、車載ブロア、オイルポンプ、ウォーターポンプ、バッテリ冷却ファンなど、高耐圧系モータを備えた電子機器である。
【0112】
なお、先に説明した半導体集積回路装置1、ECU2、及び、負荷3は、電子機器X11~X18のいずれにも組み込むことが可能である。
【0113】
<総括>
以下では、上記で説明した種々の実施形態について総括的に述べる。
【0114】
例えば、本明細書中に開示されている過電流保護回路は、電源端子と出力端子との間に接続されたスイッチ素子に流れる出力電流が第1過電流検出値を上回ったときにスイッチ駆動信号を制御して前記出力電流に制限を掛けるように構成された制限部と、前記出力電流が前記第1過電流検出値よりも小さい第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成された制御部と、を有する構成(第1の構成)とされている。
【0115】
なお、上記第1の構成の過電流保護回路において、前記制御部は、前記スイッチ素子の両端間電圧が設定値と一致するように前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる構成(第2の構成)にしてもよい。
【0116】
また、上記第1または第2の構成の過電流保護回路において、前記制限部は、前記スイッチ駆動信号により前記スイッチ素子と同期駆動されて前記出力電流に応じた第1センス電流を生成するように構成された第1センストランジスタと、前記第1センス電流に応じた第1センス電圧を生成するように構成された第1センス抵抗と、前記第1センス電圧と基準電圧を比較して第1信号を生成するように構成された第1コンパレータと、前記スイッチ素子の制御端と前記出力端子との間に接続されて前記第1信号により駆動されるように構成された過電流制限トランジスタと、を含む構成(第3の構成)にしてもよい。
【0117】
また、上記第3の構成の過電流保護回路において、前記制御部は、前記スイッチ駆動信号により前記スイッチ素子と同期駆動されて前記出力電流に応じた第2センス電流を生成するように構成された第2センストランジスタと、前記第2センス電流に応じた第2センス電圧を生成するように構成された第2センス抵抗と、前記第2センス電圧と前記基準電圧を比較して第2信号を生成するように構成された第2コンパレータと、前記第2信号に応じて前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げるように構成されたロジックと、を含む構成(第4の構成)にしてもよい。
【0118】
また、上記第1~第4いずれかの構成の過電流保護回路において、前記制御部は、前記出力端子に現れる出力電圧が閾値よりも高くかつ前記出力電流が前記第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる構成(第5の構成)にしてもよい。
【0119】
また、上記第1~第5いずれかの構成の過電流保護回路において、前記制御部は、周囲温度が閾値よりも低くかつ前記出力電流が前記第2過電流検出値を上回ったときに前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる構成(第6の構成)にしてもよい。
【0120】
また、上記第1~第6いずれかの構成の過電流保護回路において、前記制御部は、前記スイッチ素子の制御端に流し込まれるソース電流及び前記制御端から引き抜かれるシンク電流の少なくとも一方を制御して前記スイッチ駆動信号をフルオン時の信号値から引き下げる構成(第7の構成)にしてもよい。
【0121】
また、例えば、本明細書中に開示されているスイッチ装置は、スイッチ素子と、上記第1~第7いずれかの構成であり前記スイッチ素子に流れる出力電流を監視対象とする過電流保護回路と、を有する構成(第8の構成)とされている。
【0122】
また、例えば、本明細書中に開示されている電子機器は、上記第8の構成のスイッチ装置と、前記スイッチ装置に接続される負荷とを有する構成(第9の構成)とされている。
【0123】
また、例えば、本明細書中に開示されている車両は、上記第9の構成の電子機器を有する構成(第10の構成)とされている。
【0124】
<その他の変形例>
上記の実施形態では、車載用のハイサイドスイッチLSIを例に挙げたが、本明細書中に開示されている過電流保護回路の適用対象は、何らこれに限定されるものではなく、例えば、その他の車載用IPD(車載用のローサイドスイッチLSI及び電源LSIなど)はもちろん、車載用途以外の半導体集積回路装置(例えば汎用的な電源制御回路)にも広く適用することができる。
【0125】
また、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0126】
1 半導体集積回路装置(スイッチ装置)
2 ECU
3 負荷
4 外部センス抵抗
10 NMOSFET(スイッチ素子)
20 出力電流監視部
21、21a、21b NMOSFET
22 NMOSFET
23、23a、23b センス抵抗
30 ゲート制御部
31 ゲートドライバ
31H ソース電流源
31L シンク電流源
32 オシレータ
33 チャージポンプ(昇圧部)
34 クランパ
35 NMOSFET
36 抵抗
37 キャパシタ
38 ツェナダイオード(クランプ素子)
40 制御ロジック部
50 信号入力部
60 内部電源部
70 異常保護部
71 過電流保護回路
711、712、713 NMOSFET
714、715、716 電流源
717 基準抵抗
718 ロジック
719 第1電圧検出部
71A 第2電圧検出部
71B 温度検出部
72 オープン保護回路
73 温度保護回路
74 減電圧保護回路
80 出力電流検出部
90 信号出力部
T1~T4 外部端子
X 車両
X11~X18 電子機器