(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142441
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】トンネル掘削機およびカッタビット
(51)【国際特許分類】
E21D 9/087 20060101AFI20220922BHJP
E21B 10/46 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
E21D9/087 E
E21B10/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042608
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 大助
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】谷川 大地
【テーマコード(参考)】
2D054
2D129
【Fターム(参考)】
2D054BA04
2D054BB05
2D129AA08
2D129AB05
2D129BA19
2D129GA09
2D129GB05
2D129GB09
2D129GB14
2D129GB17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】母材からの掘削チップの脱落を防止することが可能なトンネル掘削機およびカッタビットを提供する。
【解決手段】トンネル掘削機は、掘削チップ5と、掘削チップ5が接合された母材4とを含むカッタビット3と、カッタビット3が前面に設置され、回転に伴い掘進するカッタヘッドと、を備え、母材4は、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの半径方向に沿って延びるとともに、掘削チップ5を支持する第1支持壁41と、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの周方向に沿って延びるとともに、掘削チップ5を支持する第2支持壁42と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削チップと、前記掘削チップが接合された母材とを含むカッタビットと、
前記カッタビットが前面に設置され、回転に伴い掘進するカッタヘッドと、を備え、
前記母材は、
前記カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、前記カッタヘッドの半径方向に沿って延びるとともに、前記掘削チップを支持する第1支持壁と、
前記カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、前記カッタヘッドの周方向に沿って延びるとともに、前記掘削チップを支持する第2支持壁と、を有する、トンネル掘削機。
【請求項2】
前記第2支持壁は、前記第1支持壁と略直交するように、前記第1支持壁に接続されている、請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記第1支持壁は、前記カッタヘッドの周方向に沿って並ぶように複数設けられ、
前記第2支持壁は、隣り合う一方の前記第1支持壁と他方の前記第1支持壁とを接続している、請求項1または2に記載のトンネル掘削機。
【請求項4】
前記掘削チップは、
前記第2支持壁に対して、前記カッタヘッドの半径方向の内周側に配置される内周チップと、
前記第2支持壁に対して、前記カッタヘッドの半径方向の外周側に配置される外周チップと、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項5】
前記母材は、前記第1支持壁および前記第2支持壁を、前記カッタヘッドの掘進方向の後方側から保持する基部をさらに有し、
前記基部は、
前記第1支持壁を後方側から保持する第1基部と、
前記カッタヘッドの半径方向において前記第1基部よりも小さく形成されるとともに、前記第1基部よりも前記カッタヘッドの掘進方向の前方側に配置され、前記第1支持壁および前記第2支持壁を後方側から保持する第2基部と、を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項6】
前記第2基部は、前記カッタヘッドの掘進方向の前方側から、前記掘削チップに覆われている、請求項5に記載のトンネル掘削機。
【請求項7】
掘削チップと、
前記掘削チップが接合された母材と、を備え、
前記母材は、
前記母材の短手方向に沿って延びるとともに、前記掘削チップを支持する第1支持壁と、
前記母材の長手方向に沿って延びるとともに、前記掘削チップを支持する第2支持壁と、を含む、カッタビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削機およびカッタビットに関し、特に、掘削チップおよび掘削チップが接合された母材を備えるトンネル掘削機およびカッタビットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、掘削チップおよび掘削チップが接合された母材を備えるカッタビットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、チップと、チップが接合された母材とを備えるカッタビットが開示されている。カッタビットは、地山を掘削する掘削機のカッタフェイスに設けられている。カッタビットの母材は、チップを支持する複数の支持壁を有している。複数の支持壁は、掘削機の掘進方向の前方側から見て、カッタフェイスの半径方向に延びるとともに、カッタフェイスの周方向に並んでいる。すなわち、母材は、カッタフェイスの半径方向に延びる櫛歯状に形成されている。カッタビットは、櫛歯状の母材により、チップを支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のカッタフェイスの半径方向に延びる櫛歯状のカッタビットでは、カッタフェイスの半径方向に延びる支持壁だけによりチップが支持されている。このため、掘削時にチップに対して支持壁に沿ったカッタフェイスの半径方向を向く土砂などの力が加わった場合に、チップが母材から脱落することがあり、従来よりカッタビットの母材からのチップの脱落を防止することが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、母材からの掘削チップの脱落を防止することが可能なトンネル掘削機およびカッタビットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明のトンネル掘削機は、掘削チップと、掘削チップが接合された母材とを含むカッタビットと、カッタビットが前面に設置され、回転に伴い掘進するカッタヘッドと、を備え、母材は、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの半径方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第1支持壁と、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの周方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第2支持壁と、を有する。
【0008】
この発明のトンネル掘削機では、上記のように、母材に、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの半径方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第1支持壁と、カッタヘッドの掘進方向の前方側から見て、カッタヘッドの周方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第2支持壁と、を設ける。これによって、カッタビットに対してカッタヘッドの周方向を向く力が加わった場合に、第1支持壁により掘削チップを支持することができることに加えて、カッタビットに対してカッタヘッドの半径方向を向く力が加わった場合に、カッタヘッドの周方向に沿って延びる第2支持壁により掘削チップを支持することができる。すなわち、母材からの掘削チップの脱落を防止することができる。また、第1支持壁だけではなく、第1支持壁に加えて、第2支持壁によっても掘削チップを支持することができるので、母材に掘削チップが接合されたカッタビットの強度を向上させることができる。
【0009】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、第2支持壁は、第1支持壁と略直交するように、第1支持壁に接続されている。このように構成すれば、第1支持壁と略直交する第2支持壁が、第1支持壁に接続されるので、第2支持壁に加わった力を第1支持壁にも効果的に分散させることができる。その結果、母材からの掘削チップの脱落を防止しながら、母材に掘削チップが接合されたカッタビットの強度を向上させることができる。
【0010】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、第1支持壁は、カッタヘッドの周方向に沿って並ぶように複数設けられ、第2支持壁は、隣り合う一方の第1支持壁と他方の第1支持壁とを接続している。このように構成すれば、カッタヘッドの周方向において、第2支持壁の両端が第1支持壁に接続されるので、第2支持壁に加わった力を第1支持壁に、より効果的に分散させることができる。その結果、母材からの掘削チップの脱落を防止しながら、母材に掘削チップが接合されたカッタビットの強度をより向上させることができる。
【0011】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、掘削チップは、第2支持壁に対して、カッタヘッドの半径方向の内周側に配置される内周チップと、第2支持壁に対して、カッタヘッドの半径方向の外周側に配置される外周チップと、を有する。このように構成すれば、カッタヘッドに対して、カッタヘッドの半径方向の内周側を向く力、および、カッタヘッドの半径方向の外周側を向く力のいずれが加わったとしても、内周チップおよび外周チップの両方を第2支持壁により支持することができる。
【0012】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、母材は、第1支持壁および第2支持壁を、カッタヘッドの掘進方向の後方側から保持する基部をさらに有し、基部は、第1支持壁を後方側から保持する第1基部と、カッタヘッドの半径方向において第1基部よりも小さく形成されるとともに、第1基部よりもカッタヘッドの掘進方向の前方側に配置され、第1支持壁および第2支持壁を後方側から保持する第2基部と、を含む。このように構成すれば、第1基部により第2支持壁が支持される場合と比較して、第2基部により第2基部から前方に突出する片持ち状の第2支持壁の前方への突出長さを短くすることができる。このため、カッタヘッドの半径方向の内周側を向く力による第2支持壁の変形を小さくすることができる。その結果、母材に掘削チップが接合されたカッタビットの強度をより向上させることができる。
【0013】
この場合、好ましくは、第2基部は、カッタヘッドの掘進方向の前方側から、掘削チップに覆われている。このように構成すれば、第2基部が掘削チップにより覆われるので、第2基部を摩耗から保護することができる。
【0014】
この発明のカッタビットは、掘削チップと、掘削チップが接合された母材と、を備え、母材は、母材の短手方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第1支持壁と、母材の長手方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第2支持壁と、を含む。なお、母材の「短手方向」および「長手方向」とは、カッタビットがカッタヘッドに設置された状態で、カッタビットが突出する側、すなわちカッタヘッドの前方側からカッタビットを見た場合の母材の短手となる方向、および、母材の長手となる方向である。
【0015】
この発明のカッタビットでは、上記のように、母材に、母材の短手方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第1支持壁と、母材の長手方向に沿って延びるとともに、掘削チップを支持する第2支持壁と、を設ける。これによって、カッタビットに対して母材の長手方向を向く力が加わった場合に、第1支持壁により掘削チップを支持することができることに加えて、カッタビットに対して母材の短手方向を向く力が加わった場合に、母材の長手方向に沿って延びる第2支持壁により掘削チップを支持することができる。すなわち、母材からの掘削チップの脱落を防止することができる。また、第1支持壁だけではなく、第1支持壁に加えて、第2支持壁によっても掘削チップを支持することができるので、母材に掘削チップが接合されたカッタビットの強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、母材からの掘削チップの脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態によるトンネル掘削機の縦断面図である。
【
図2】実施形態によるトンネル掘削機を掘進方向の前方側から見た正面図である。
【
図3】実施形態によるカッタビットの斜視図である。
【
図4】実施形態によるカッタビットの母材をカッタヘッドの内周側から見た斜視図である。
【
図5】実施形態によるカッタビットの母材をカッタヘッドの外周側から見た斜視図である。
【
図6】実施形態によるカッタビットの分解斜視図である。
【
図7】(A)は変形例によるカッタビットの斜視図であり、(B)は変形例によるカッタビットの母材をカッタヘッドの内周側から見た斜視図であり、(C)は変形例によるカッタビットの母材をカッタヘッドの外周側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[実施形態]
図1~
図6を参照して、実施形態のトンネル掘削機100について説明する。
【0020】
(トンネル掘削機の全体構成)
図1に示すように、トンネル掘削機100は、掘削機本体1と、掘削機本体1の掘進方向の先端に設置されるカッタヘッド2と、カッタヘッド2に設置される複数のカッタビット3とを備えている。
【0021】
ここで、各図において、トンネル掘削機100の掘進方向の前方をX1方向により示し、その反対方向をX2方向により示す。また、カッタヘッド2の半径方向をRA方向で示す。なお、RA方向のうち内周側から外周側を向く方向をRA1方向により示し、RA方向のうち外周側から内周側を向く方向をRA2方向により示す。また、カッタヘッド2の周方向ROにより示す。また、カッタヘッド2の中心に位置する軸線を中心軸線αにより示す。カッタヘッド2の半径方向は、母材4(カッタビット3)の短手方向でもある。また、カッタヘッド2の周方向は、母材4(カッタビット3)の長手方向でもある。母材4の「短手方向」および「長手方向」とは、カッタビット3がカッタヘッド2に設置された状態で、カッタビット3が突出する側、すなわちカッタヘッド2の前方側からカッタビット3を見た場合の母材4の短手となる方向、および、母材4の長手となる方向である。
【0022】
カッタヘッド2は、掘進方向に延びるカッタヘッド2の中心軸線α回りに回転することに伴い掘進方向の前方に移動して、地山を掘削するように構成されている。なお、カッタヘッド2の回転は、掘削状況などに応じて、正転および逆転を切り換え可能なように構成されている。
【0023】
本実施形態では、トンネル掘削機100を、泥土圧式の掘削機により構成した例を示している。
【0024】
(掘削機本体の構成)
図1に示すように、掘削機本体1は、胴体10と、チャンバ11と、推進ジャッキ12と、排土装置13とを備えている。
【0025】
胴体10は、前胴部10aおよび後胴部10bから構成されている。前胴部10aは、掘進方向の前方の先端にカッタヘッド2が設置されている。後胴部10bは、前胴部10aの掘進に伴って、トンネルの周壁を形成するために、エレクタ(図示せず)によってセグメントSGを壁面に配列しながら進行する部分である。胴体10の内部空間は、掘進方向側のチャンバ11と、チャンバ11の後方の作業空間WSとの2つの空間に、隔壁14によって仕切られている。
【0026】
チャンバ11は、カッタヘッド2の後面側(X2方向側)に設けられている。チャンバ11は、カッタヘッド2、前胴部10aおよび隔壁14によって囲まれた空間(作泥土室)である。チャンバ11内の泥土圧は、地山側からカッタヘッド2に作用する圧力と概ね平衡状態となるように維持される。
【0027】
推進ジャッキ12は、セグメントSGを後方(X2方向)に押圧して胴体10(トンネル掘削機100)を推進させるように構成されている。推進ジャッキ12は、胴体10の周方向に沿って並ぶように複数設けられている。
【0028】
排土装置13は、たとえば、スクリュコンベアにより構成されている。排土装置13の前方端部は、チャンバ11の下方側に連通している。排土装置13は、内部のスクリュ13aを回転させることによって、チャンバ11から土砂を取り込み排土装置13の後方端部の開口まで搬送して、作業空間WSに排出するように構成されている。排土装置13から作業空間WSに排出された土砂は、ベルトコンベアなどの土砂搬送装置(図示せず)により抗外に向けて搬送される。
【0029】
(カッタヘッドの構成)
図2に示すように、カッタヘッド2は、掘進方向から見て円形状に形成されている。カッタヘッド2の前面には、複数のカッタビット3が設置されている。なお、本実施形態におけるカッタビット3とは、いわゆる先行ビットである。
【0030】
カッタヘッド2には、カッタヘッド2の半径方向に放射状に延びる複数(4つ)のカッタスポーク20が設けられている。複数のカッタビット3は、カッタスポーク20に設置されている。複数のカッタビット3は、カッタスポーク20に沿って、直線状に配列されている。すなわち、複数のカッタビット3は、半径方向に並ぶようにカッタスポーク20上に配置されている。
【0031】
なお、複数のカッタビット3は、同一の向きに整列された状態で、カッタヘッド2に設置されている。詳細には、複数のカッタビット3は、カッタヘッド2の掘進方向の前方から見て、カッタビット3の短手方向の向きがカッタヘッド2の半径方向と略一致する状態で、カッタヘッド2に設置されている。また、複数のカッタビット3は、カッタヘッド2の掘進方向の前方から見て、カッタビット3の傾斜面3a(
図3参照)が設けられた側がカッタヘッド2の内周側(中心軸線α)を向く状態で、カッタヘッド2に設置されている。
【0032】
カッタヘッド2には、カッタビット3が設置されたカッタヘッド2に対して、中心軸線α回りの回転力を付与するカッタ駆動源21(
図1参照)が設けられている。カッタ駆動源21は、たとえば、油圧モータにより構成される。
【0033】
(カッタビットの構成)
図3~
図6に示すように、カッタビット3は、母材4と掘削チップ5とを備えている。母材4には、掘削チップ5が接合されている。母材4は、基部40と、第1支持壁41と、第2支持壁42とを含んでいる。
【0034】
カッタビット3には、カッタヘッド2の掘進方向の前方側かつ半径方向の内周側の端部には、カッタビット3の長手方向(RO方向)に延びる傾斜面3a(
図3参照)が設けられている。また、カッタビット3には、カッタヘッド2の掘進方向の前方側かつ周方向の両側の端部には、カッタビット3の短手方向(RA方向)に延びる一対の傾斜面3b(
図3参照)が設けられている。なお、傾斜面がカッタヘッドの掘進方向の前方側かつ半径方向の外周側の端部に設けられてもよい。また、本発明では傾斜面を有したカッタビットを例示しているが、傾斜面を有していなくてもよい。
【0035】
カッタビット3の掘削チップ5と、母材4(第1支持壁41、第2支持壁42および基部40)とは、インサート材Iを介した熱間等方圧加圧処理(Hot Isostatic Pressing処理)により拡散接合されている。
【0036】
(カッタビットの「母材」の構成)
一例ではあるが、カッタビット3の母材4は、機械構造用炭素鋼鋼材(S50C)などの鋼材により形成されている。母材4は、概して直方体形状を有する複数のパーツを組み付けて行われる熱間等方圧加圧処理(Hot Isostatic Pressing処理)により凹凸を有する所定形状に形成されている。なお、熱間等方圧加圧処理を利用することなく、鋼材に対して直接行う機械加工(削り出し)などにより、母材を形成してもよい。
【0037】
(カッタビットの母材の「基部」の構成)
図4および
図5に示す母材4の基部40は、カッタスポーク20に支持されている。基部40は、第1基部40aと第2基部40bとを含んでいる。
【0038】
第1基部40aは、第1支持壁41を後方側(X2方向側)から保持している。第1基部40aは、カッタビット3の周方向が長手方向となり、カッタビット3の半径方向が短手方向となる板状に形成されている。
【0039】
第2基部40bは、第1基部40aよりもカッタヘッド2の掘進方向の前方側(X1方向側)に配置されている。第2基部40bは、第1基部40aにより後方側から保持されている。第2基部40bは、第1基部40aに直接接続されている。第2基部40bは、カッタヘッド2の半径方向において第1基部40aよりも小さく形成されている。詳細には、カッタヘッド2の半径方向において、第2基部40bの長さL1は、第1基部40aの長さL2よりも小さい(
図4参照)。
【0040】
第2基部40bは、カッタヘッド2の周方向における第1支持壁41の両側、および、カッタヘッド2の半径方向における第2支持壁42の両側に複数設けられている。
【0041】
複数の第2基部40bの各々は、直方体状(ブロック状)に形成されている。カッタヘッド2の半径方向において、第1支持壁41の間に位置する第2基部40bの前後方向(X方向)の長さL10は、カッタヘッド2の半径方向において、第1支持壁41の外方に位置する第2基部40bの前後方向(X方向)の長さL11よりも、大きい(
図4参照)。
【0042】
第2基部40bは、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から、掘削チップ5に覆われている。すなわち、第2基部40bは、露出することがないように、カッタヘッド2の内側に配置されている。
【0043】
(カッタビットの母材の「第1支持壁」の構成)
母材4の第1支持壁41は、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から見て、カッタヘッド2の半径方向に沿って延びている。すなわち、第1支持壁41は、カッタヘッド2の掘進方向および前後方向に延びるとともに、カッタヘッド2の周方向を厚み方向とする板状の壁部分である。また、第1支持壁41を含む母材4は、カッタヘッド2の周方向から見て、掘削チップ5の略全体とオーバーラップする形状に形成されている。
【0044】
第1支持壁41は、カッタヘッド2の周方向に沿って並ぶように複数(3つ)設けられている。複数の第1支持壁41は、互いに略同一の形状を有している。
【0045】
第1支持壁41の前方(X1方向)の端面および半径方向(RA方向)の両端面は、掘削チップ5に覆われることなく露出している。
【0046】
(カッタビットの母材の「第2支持壁」の構成)
第2支持壁42は、第1支持壁41と略直交するように、第1支持壁41に接続されている。
【0047】
母材4の第2支持壁42は、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から見て、カッタヘッド2の周方向に沿って延びている。すなわち、第2支持壁42は、カッタヘッド2の周方向および前後方向に延びるとともに、カッタヘッド2の半径方向を厚み方向とする板状の壁部分である。
【0048】
第2支持壁42は、隣り合う一方の第1支持壁41と他方の第1支持壁41との間に配置されている。第2支持壁42は、隣り合う一方の第1支持壁41と他方の第1支持壁41とを接続している。また、隣接する第1支持壁41の間において、第2支持壁42を含む母材4は、カッタヘッド2の半径方向から見て、掘削チップ5の略全体とオーバーラップする形状に形成されている。
【0049】
第2支持壁42の前方(X1方向)の端面は、掘削チップ5に覆われることなく露出している。
【0050】
(カッタビットの「掘削チップ」の構成)
一例ではあるが、
図3および
図6に示す掘削チップ5は、超硬合金により形成されている。掘削チップ5は、概して直方体形状を有する複数のパーツにより構成されている。
【0051】
掘削チップ5は、第2支持壁42に対して、カッタヘッド2の半径方向の内周側に配置される内周チップ5aと、第2支持壁42に対して、カッタヘッド2の半径方向の外周側に配置される外周チップ5bと、を有している。
【0052】
内周チップ5aおよび外周チップ5bは、カッタヘッド2の周方向の両側から第1支持壁41により挟み込まれている。
【0053】
(カッタビットの製造)
カッタビット3の製造について説明する。
【0054】
はじめに、
図4および
図5に示すように、母材4を形成する複数の鋼材のパーツを組み付ける。次に、母材4と掘削チップ5との境界に沿ってインサート材Iを配置する。この際、第2基部40bは、インサート材Iによって覆われる。
【0055】
次に、
図6に示すように、母材4およびインサート材Iに対して、掘削チップ5を形成する複数の超硬合金のパーツを組み付ける。
【0056】
次に、未接合の状態の母材4、インサート材Iおよび掘削チップ5を、熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を行う加熱加圧炉(図示せず)の内部に設置して、加熱および加圧することによって、母材4、インサート材Iおよび掘削チップ5を拡散接合する。加熱加圧炉の内部には、アルゴンガスなどの不活性ガスが充填されている。
【0057】
互いに材質の異なる母材4および掘削チップ5は、インサート材Iを介することにより、母材4および掘削チップ5を直接接合する場合よりも、強固に接合される。なお、熱間等方圧加圧処理(HIP処理)は、熱間静水圧加圧処理とも呼ばれている。
【0058】
カッタビット3の第1支持壁41および第2支持壁42の前方端面と、カッタビット3の前方に位置するすべての掘削チップ5は、前後方向(X方向)に直交する測定面M1を有している。測定面M1は、カッタビット3の後方端面である基準面M2に平行な面である。基準面M2は、カッタビット3の精度を確認するための寸法計測の際にカッタビット3を位置決めするための基準になる面である。
【0059】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
本実施形態では、上記のように、母材4に、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から見て、カッタヘッド2の半径方向に沿って延びるとともに、掘削チップ5を支持する第1支持壁41と、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から見て、カッタヘッド2の周方向に沿って延びるとともに、掘削チップ5を支持する第2支持壁42と、を設ける。これによって、カッタビット3に対してカッタヘッド2の周方向を向く力が加わった場合に、第1支持壁41により掘削チップ5を支持することができることに加えて、カッタビット3に対してカッタヘッド2の半径方向を向く力が加わった場合に、カッタヘッド2の周方向に沿って延びる第2支持壁42により掘削チップ5を支持することができる。すなわち、母材4からの掘削チップ5の脱落を防止することができる。また、第1支持壁41だけではなく、第1支持壁41に加えて、第2支持壁42によっても掘削チップ5を支持することができるので、母材4に掘削チップ5が接合されたカッタビット3の強度を向上させることができる。
【0061】
本実施形態では、上記のように、第2支持壁42は、第1支持壁41と略直交するように、第1支持壁41に接続されている。これによって、第1支持壁41略直交する第2支持壁42が、第1支持壁41に接続されるので、第2支持壁42に加わった力を第1支持壁41にも効果的に分散させることができる。その結果、母材4からの掘削チップ5の脱落を防止しながら、母材4に掘削チップ5が接合されたカッタビット3の強度をより向上させることができる。
【0062】
本実施形態では、上記のように、第1支持壁41は、カッタヘッド2の周方向に沿って並ぶように複数設けられ、第2支持壁42は、隣り合う一方の第1支持壁41と他方の第1支持壁41とを接続している。これによって、カッタヘッド2の周方向において、第2支持壁42の両端が第1支持壁41に接続されるので、第2支持壁42に加わった力を第1支持壁41に、より効果的に分散させることができる。その結果、母材4からの掘削チップ5の脱落を防止しながら、母材4に掘削チップ5が接合されたカッタビット3の強度をより一層向上させることができる。
【0063】
本実施形態では、上記のように、掘削チップ5は、第2支持壁42に対して、カッタヘッド2の半径方向の内周側に配置される内周チップ5aと、第2支持壁42に対して、カッタヘッド2の半径方向の外周側に配置される外周チップ5bと、を有する。これによって、カッタヘッド2に対して、カッタヘッド2の半径方向の内周側を向く力、および、カッタヘッド2の半径方向の外周側を向く力のいずれが加わったとしても、内周チップ5aおよび外周チップ5bの両方を第2支持壁42により支持することができる。
【0064】
本実施形態では、上記のように、母材4は、第1支持壁41および第2支持壁42を、カッタヘッド2の掘進方向の後方側から保持する基部40さらに有し、基部40は、第1支持壁41を後方側から保持する第1基部40aと、カッタヘッド2の半径方向において第1基部40aよりも小さく形成されるとともに、第1基部40aよりもカッタヘッド2の掘進方向の前方側に配置され、第1支持壁41および第2支持壁42を後方側から保持する第2基部40bと、を含む。これによって、第1基部により第2支持壁が支持されるとした場合と比較して、第2基部40bにより第2基部40bから前方に突出する片持ち状の第2支持壁42の前方への突出長さを短くすることができる。このため、カッタヘッド2の半径方向の内周側を向く力による第2支持壁42の変形を小さくすることができる。その結果、母材4に掘削チップ5が接合されたカッタビット3の強度をより向上させることができる。
【0065】
本実施形態では、上記のように、第2基部40bは、カッタヘッド2の掘進方向の前方側から、掘削チップ5に覆われている。これによって、第2基部40bが掘削チップ5により覆われるので、第2基部40bを摩耗から保護することができる。なお、第2基部40bは、第1支持壁41および第2支持壁42の少なくとも一方に接していることが好ましく、第1支持壁41および第2支持壁42の両方に接していることがより好ましい。具体的には、第2基部40bは、カッタビット3の長手方向(RO方向)で第1支持壁41と接し、カッタビット3の短手方向(RA方向)で第2支持壁42と接している。これらの場合、第2基部40bが第1支持壁41および第2支持壁42を支持する役割を担うこととなり、掘削チップ5を支持する片持ち梁としての第1支持壁41および第2支持壁42の前方への突出長さを短くすることができる。このため、第1支持壁41および第2支持壁42の変形を小さくすることができ、その結果、母材4に掘削チップ5が接合されたカッタビット3の強度をより向上させることができる。
【0066】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0067】
たとえば、上記実施形態では、カッタヘッドの半径方向において、隣接する第1支持壁の間のみに第2支持壁を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、カッタヘッドの半径方向において、隣接する第1支持壁に挟まれることのない、第1支持壁の外方にも第2支持壁を設けてもよい。なお、本発明では、母材を、第1支持壁および第2支持壁の一方が第1支持壁および第2支持壁の他方を貫通するように構成してもよいし、第1支持壁と第2支持壁とを一体的に構成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、第1支持壁を3つ設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1支持壁を3つとは異なる数だけ設けてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、母材が第2基部を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、母材が第2基部を備えていなくてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、熱間等方圧加圧処理(HIP処理)により、母材および掘削チップを接合した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ろう付けなどの他の方法により母材および掘削チップの接合を行ってもよい。なお、ろう付けを利用する場合には、
図7(A)~(C)に示すように、カッタビット203の母材204に第2基部を設けることなく、母材204を凹凸の少ない比較的簡易な形状に形成する(実施形態よりも簡易な形状に形成する)。したがって、掘削チップ205の数が比較的少なくなる(実施形態よりも少なくなる)。
【0071】
また、上記実施形態では、本発明のトンネル掘削機を、泥土圧式の掘削機により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、トンネル掘削機を、泥水式の掘削機により構成してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、本発明のカッタビットを、先行ビットにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、カッタビットを、ティースビットなどの先行ビット以外の種類のビットにより構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
2 カッタヘッド
3、203 カッタビット
4、204 母材
5、205 掘削チップ
5a 内周チップ
5b 外周チップ
40 基部
40a 第1基部
40b 第2基部
41 第1支持壁
42 第2支持壁
100 トンネル掘削機