(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142499
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、成形体及びエアバック収納カバー
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220922BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220922BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20220922BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220922BHJP
B60R 21/215 20110101ALI20220922BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08K5/14
C08J3/24 Z CES
B60R21/215
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042690
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 誠司
【テーマコード(参考)】
3D054
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
3D054BB22
3D054FF04
3D054FF17
4F070AA13
4F070AA15
4F070AB08
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4F070AE08
4F070GA05
4F070GB08
4J002BB05X
4J002BB12W
4J002BB14W
4J002BP02W
4J002BP02X
4J002EA038
4J002ED086
4J002EH078
4J002EH108
4J002EK017
4J002EK037
4J002EK057
4J002EK066
4J002ES008
4J002ES018
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD158
4J002GT00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外観、射出成形性、低温耐衝撃性、エアバッグ収納カバーとしたときの展開性能に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)~(D)を含む混合物を動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):特定の有機過酸化物
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
(R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基。Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基。Zは一価の有機基。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む混合物を動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物
【化1】
(上記式中のR
1、R
2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R
3、R
4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R
3とR
4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
【化2】
(上記式中のR
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【請求項2】
更に下記成分(E)を含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
成分(E):架橋助剤
【請求項3】
前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体及び/又はエチレン・α-オレフィンブロック共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(B)のα-オレフィンが1-ブテン又は1-オクテンである、請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記成分(A)のメルトフローレート(230℃、荷重21.18N)が0.1~200g/10分である、請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた射出成形品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いたエアバッグ収納カバー。
【請求項9】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む混合物を動的熱処理する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物
【化3】
(上記式中のR
1、R
2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R
3、R
4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R
3とR
4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
【化4】
(上記式中のR
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観、射出成形性、低温耐衝撃性に優れた熱可塑性エラストマー組成物とその製造方法に関する。また、本発明は、この熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形体及びエアバッグ収納カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアバッグシステムは自動車等の衝突の際に運転手や搭乗者を保護するシステムであり、衝突の際の衝撃を感知する装置とエアバッグ装置とからなる。このエアバッグ装置は、ステアリングホイール、助手席前方のインストルメントパネル、運転席及び助手席のシート、フロント及びサイドピラー等に設置される。
【0003】
エアバッグ装置におけるエアバッグ収納カバーは、エアバッグ膨脹時にそれを収納しているカバーの破壊による破片の飛散やカバー取り付け部の破壊によるカバーの飛散が懸念される。このため、カバーが異常な破壊をして飛散するのを防止することを目的として、その構造や材質において種々の提案がなされている。
エアバッグ収納カバーの主要な材料の1つとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物が用いられている。
【0004】
オレフィン系熱可塑性エラストマーからなるエアバッグ収納カバーとして例えば、特許文献1において、特定のポリプロピレン系重合体、エチレン・オクテン共重合体、スチレン・共役ジエンブロック共重合体、炭化水素系ゴム用軟化剤を有機過酸化物の存在下で動的熱処理してなる熱可塑性エラストマー組成物からなるものが開示されている。また、特許文献2においてはプロピレン系樹脂、特定のエチレン・αーオレフィンブロック共重合体を特定量含む熱可塑性エラストマー組成物からなるものが開示されている。また、特許文献3においては、特定のポリプロピレンブロック共重合体、エチレン・αーオレフィン共重合体を有機過酸化物の存在下で動的処理してなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/070179号
【特許文献2】国際公開第2014/046139号
【特許文献3】特開2018-141092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の詳細な検討によれば、特許文献1~2に記載されているような樹脂組成物においてはエアバッグ収納カバーのような成形体としたときの外観、特にエアバッグ収納カバーのティアライン部(エアバッグ展開時にエアバッグカバーを開裂させるために設けられたエアバッグカバーの薄肉部)の表面意匠側に艶むらが発生するために外観が損なわれる問題があり、意匠性向上のためには塗装工程が必須であった。
特許文献3では意匠性向上が図られていたが、十分な外観改良結果が得られなかった。
また、ティアライン部以外でエアバッグカバーが開裂・飛散しないよう、特に寒冷地での使用にも耐えうるように高い低温衝撃性の両立が求められるが、本発明者の詳細な検討によれば、前記特許文献1~3に記載されているような従来のエアバッグ収納カバー向けの材料においては、外観と低温耐衝撃性の両立が不十分であることが見出された。
【0007】
本発明は上記のような従来技術の問題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、外観、射出成形性、低温耐衝撃性、エアバッグ収納カバーとしたときの展開性能に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供すること、並びに該熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形体及びエアバッグ収納カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、特定の有機過酸化物を2種類含む混合物を動的熱処理してなる熱可塑性エラストマー組成物が、外観、射出成形性、低温耐衝撃性、エアバッグ収納カバーとしたときの展開性能に優れることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨は以下の[1]~[9]に存する。
【0009】
[1] 下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む混合物を動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物
【0010】
【0011】
(上記式中のR1、R2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R3とR4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
【0012】
【0013】
(上記式中のR5、R6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【0014】
[2] 更に下記成分(E)を含む、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
成分(E):架橋助剤
【0015】
[3] 前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[4] 前記成分(B)が、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体及び/又はエチレン・α-オレフィンブロック共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[5] 前記成分(B)のα-オレフィンが、1-ブテン又は1-オクテンである、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[6] 前記成分(A)のメルトフローレート(230℃、荷重21.18N)が0.1~200g/10分である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0019】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた射出成形品。
【0020】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いたエアバッグ収納カバー。
【0021】
[9] 下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む混合物を動的熱処理する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物
【0022】
【化3】
(上記式中のR
1、R
2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R
3、R
4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R
3とR
4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
【0023】
【0024】
(上記式中のR5、R6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形外観、射出成形性、低温耐衝撃性に優れたものである。このため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常の射出成形機を用いて成形を行うことができ、エアバッグ収納カバーに好適である。特に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いたエアバッグ収納カバーは無塗装であっても十分な外観を有しており、また、エアバッグの展開性能にも優れた有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例において、成形外観を評価するための成形体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0028】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む混合物を動的熱処理して得られる。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物
【0029】
【0030】
(上記式中のR1、R2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R3とR4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
成分(D):下記式(5)で表される有機過酸化物
【0031】
【0032】
(上記式中のR5、R6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【0033】
<メカニズム>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバー等の成形体は、成分(A)と成分(B)を2種の有機過酸化物である成分(C)と成分(D)の存在下で動的熱処理することで得られる。
【0034】
成分(C)の有機過酸化物からは、動的熱処理プロセスの中で、アルコキシラジカルが生じると同時に、中間ラジカルとして水素引き抜き能が低い第一級アルキルラジカルも生じる。ここで、第一級アルキルラジカルは自己反応や他のラジカルと再結合などを生じやすく、架橋効率が低くなる傾向にあると考えられる。一方で、成分(D)の有機過酸化物から生じるラジカルは、末端にフェニル基等の芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を有するため、第一級アルキルラジカルと比較して、安定であり架橋効率が良好であると推測される。
【0035】
上記したとおり、比較的架橋効率の低い成分(C)と比較的架橋効率の高い成分(D)を含む混合物の存在下で動的熱処理することで、部分的に架橋度の高いゴム部と架橋度の低いゴム部を生じさせ、これらを均一化させることで、幅広い架橋度の分布を持ったゴムドメインを作ることができ、これにより外観、射出成形性、低温耐衝撃性に優れる組成物が得られると推測される。
【0036】
なお、本発明において、「エアバッグ収納カバー」とは、エアバッグを収納する容器全般を意味するものであり、例えば、エアバッグが収納されている容器において、エアバッグが展開する際の開口部、又はこの開口部と一体となっている容器全体が該当するものである。
【0037】
<成分(A)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)は射出成形性、剛性に寄与する。
【0038】
本発明に用いる成分(A)は全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%よりも多いプロピレン系重合体である。成分(A)のプロピレン系重合体におけるプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が上記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。一方、プロピレン単位の含有率の上限については特に制限されず、通常、100質量%である。なお、プロピレン系重合体のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0039】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、その種類は特に制限ざれず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。これらの中でもプロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体が好ましく、プロピレンブロック共重合体が特に好ましい。
また、成分(A)としては、これらのうちの1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
成分(A)がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等を例示することができる。また、成分(A)がプロピレンブロック共重合体である場合、例えば、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0041】
成分(A)の230℃、荷重21.18Nでのメルトフローレート(MFR)は通常、0.1g/10分以上であり、流動性、外観の観点から好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは5g/10分以上であり、更に好ましくは10g/10分以上である。一方、成分(A)のMFRは通常、200g/10分以下であり、成形性、低温衝撃性の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは80g/10分以下、更に好ましくは70g/10分以下である。
成分(A)のMFRは、JIS K7210(1999年)に従い、測定温度230℃、測定荷重21.18N(2.16kgf)の条件で測定される。
【0042】
成分(A)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた重合法を挙げることができる。この重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
【0043】
また、成分(A)のプロピレン系重合体は市販の該当品を用いることも可能である。市販のプロピレン系重合体としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。
入手可能な市販品としては、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、Hi fax(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0044】
本発明において、成分(A)としてのプロピレン系重合体は1種のみを用いてもよく、物性や共重合成分の種類、組成等の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0045】
<成分(B)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(B)は、エチレン・α-オレフィン共重合体である。具体的には、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体、エチレン・α-オレフィンブロック共重合体が使用でき、より好ましくは、エチレン・α-オレフィンブロック共重合体が用いられる。
【0046】
エチレン・α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンとしては、1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等を例示することができるが、コモノマー分岐鎖が短いものが均一分散性の観点から好ましく、従って、1-プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3~8のα-オレフィンが好ましく、特に1-ブテン、1-オクテンが好ましい。即ち、成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体はエチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体であることが好ましい。
成分(B)におけるα-オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。
【0047】
成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体のエチレン単位の含有率は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有率は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形したときの低温衝撃性を向上させるためには多いほうが好ましく、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形したときの外観の観点では少ない方が好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有率は、より好ましくは25~75質量%であり、更に好ましくは30~70質量%である。
【0048】
なお、成分(B)におけるエチレン単位の含有率、1-ブテン等のα-オレフィン単位の含有率は、それぞれ赤外分光法により求めることができる。
【0049】
成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、通常10g/10分未満であり、強度の観点から、好ましくは8g/10分以下であり、より好ましくは5g/10分以下であり、更に好ましくは3g/10分以下である。また、成分(B)のMFRは、通常0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上であり、より好ましくは0.10g/10分以上である。
成分(B)のMFRは、JIS K7210(1999年)に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18N(2.16kgf)の条件で測定される。
【0050】
また、成分(B)の密度は低温耐衝撃性の観点から、0.88g/cm3以下であり、好ましくは0.87g/cm3以下である。一方、その下限については特に制限されないが、0.85g/cm3以上であることが好ましい。成分(B)の密度は、JIS K6760に準拠して測定される値であるが、市販品についてはカタログ値を採用することもできる。
【0051】
成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、オレフィン重合用触媒として、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いることができ、重合方法としてはスラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
また、成分(B)としては市販の該当品を用いることも可能である。市販の該当品としては例えば、三井化学社製のタフマー(登録商標)、ダウ・ケミカル社製のEngage(登録商標)、SK社製Solumer(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0052】
本発明において、成分(B)としてのエチレン・α-オレフィン共重合体は1種のみを用いてもよく、物性や共重合成分の種類、組成等の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0053】
<成分C>
成分(C)の有機過酸化物は、動的熱処理において成分(B)の架橋剤として作用し、より架橋効率の高い成分(D)と併用することにより、成分(B)の架橋密度に分布を生じさせ動的熱処理による均一分散を行い、本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバー等の成形品の外観性能が特に良好なものとすることができる。
【0054】
成分(C)は、下記式(1)で表されるパーオキシケタール、下記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド、下記式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステル、並びに下記式(4)で表されるハイドロパーオキサイドから選ばれる有機過酸化物である。
【0055】
【0056】
(上記式中のR1、R2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R3とR4は結合して環を形成していてもよい。Xは二価の有機基を表す。)
【0057】
上記式中のR1、R2はそれぞれ独立にアルキル基を表し、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは三級アルキル基であり、更に好ましくはt-ブチル基である。
【0058】
R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、R3とR4は結合して環を形成していてもよい。R3、R4は好ましくは炭素数1~20のアルキル基であり、より好ましくはR3とR4が結合して式(1)に示される炭素原子と共にシクロヘキサン環を形成するものである。
【0059】
Xは二価の有機基を表す。
Xは芳香族炭化水素基を有する有機基又は炭素数1~20のアルキレン基であることが好ましく、具体的には1,3-ジイソプロピルベンゼンの2つのイソプロピル基部分に結合手を有する基、2,5-ジメチルヘキシレン基、2,5-ジメチル-3-へキシレン基などがあるがこれらに限定されない。
【0060】
式(1)で表されるパーオキシケタールの具体例としては、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレラートが挙げられる。
式(2-1)又は(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイドの具体例としては、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンが挙げられる。
式(3-1)又は(3-2)で表されるパーオキシエステルの具体例としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-へキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエートが挙げられる。
式(4)で表されるハイドロパーオキサイドの具体例としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシドが挙げられる。
【0061】
これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0062】
これらの有機過酸化物は成分(C)として1種類のみを用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<成分(D)>
成分(D)は、下記式(5)で表される有機過酸化物である。
【0064】
【化8】
(上記式中のR
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を表し、Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基を表し、Zは一価の有機基を表す。)
【0065】
上記式中(5)中のR5、R6は水素原子又はアルキル基であり、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
Yは芳香族炭化水素基を有する一価の有機基、具体的にはフェニル基又はフェニル基を有する有機基であることが好ましいが、これらに限定されない。
Zの一価の有機基としては、芳香族炭化水素基を有する有機基又は炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、具体的にはt-ブチル基又はα,α-ジメチルベンジル基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
成分(D)の有機過酸化物は芳香環を有することにより、発生したラジカルは比較的安定であり、架橋効率としては成分(C)より高いことが推測される。このような成分(D)を成分(C)と併用することで、架橋密度に分布が生じ、成形外観、低温衝撃性を良好なものとすることができる。
【0067】
式(5)で表される有機過酸化物としては、具体的には、クメンハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、クミルパーオキシネオデカノエートが挙げられる。これらの中でもジクミルパーオキシドが好ましい。
【0068】
これらの有機過酸化物は、成分(D)として1種類のみを用いても2種類以上を用いてもよい。
【0069】
<成分(E)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、前記成分(C)及び成分(D)と共に下記成分(E)の存在下で動的熱処理を行ってもよい。
成分(E):架橋助剤
【0070】
成分(E)の架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
<配合割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の原料の配合割合について以下に説明する。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(A)の含有率は、成分(A)と成分(B)の合計に対し、柔軟性の観点から通常10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。また、成形加工性の観点から、通常90質量%以下であり、好ましくは85質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(B)の含有率は、成分(A)と成分(B)の合計量に対し、成形加工性の観点から10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。また、柔軟性の観点から通常90質量%以下であり、好ましくは85質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法において、動的熱処理に供する原料混合物中の成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対し、架橋反応を適切に進行させるため、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.03質量部以上であり、更に好ましくは0.05質量部以上である。一方、架橋反応と流動性を制御する観点及び低温耐衝撃性の観点から、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下であり、更に好ましくは3質量部以下である。
【0075】
成分(D)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対し、架橋反応を適切に進行させるため、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.01質量部以上であり、更に好ましくは0.015質量部以上である。一方、架橋反応と流動性を制御する観点及び低温耐衝撃性の観点から、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下であり、更に好ましくは3質量部以下である。
【0076】
また、成分(E)を用いる場合、成分(E)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対し、架橋反応をより効率的に進行させるため、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.03質量部以上であり、更に好ましくは0.05質量部以上である。一方、架橋反応と流動性を制御する観点及び低温耐衝撃性の観点から、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以下であり、特に好ましくは3質量部以下である。
【0077】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を配合することができる。
【0078】
その他の成分としては、例えば、成分(A)、(B)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等の樹脂、酸化防止剤、充填材、熱安定剤、耐候助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
成分(A)、(B)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(だだし、成分(A)又は成分(B)に該当するものを除く。)を挙げることができる。また、成分(A)、(B)以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンを挙げることができる。
【0080】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.01~3.0質量部の範囲で用いられる。
【0081】
充填材としては、例えば、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラックを挙げることができる。充填材を用いる場合、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.1~50質量部で用いられる。
【0082】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)、必要に応じて用いられる成分(E)及びその他の成分等を含む混合物を動的熱処理して製造される。
【0083】
本発明において「動的熱処理」とは成分(C)、成分(D)、必要に応じて成分(E)の存在下で溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための混合混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。この二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
【0084】
動的熱処理を行う際の温度は、通常80~300℃、好ましくは100~250℃である。また、動的熱処理を行う時間は通常0.1~30分である。
【0085】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を二軸押出機により動的熱処理を行う場合においては、二軸押出機のバレル半径R(mm)、スクリュー回転数N(rpm)及び吐出量Q(kg/時)の間に下記式(1)の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(2)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NQ/R3<22.6 …(1)
3.0<NQ/R3<20.0 …(2)
【0086】
二軸押出機のバレル半径R(mm)、スクリュー回転数N(rpm)及び吐出量Q(kg/時)との間の前記関係が上記下限値より大きいことが熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が上記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
【0087】
[熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前述の通り、外観、射出成形性、低温耐衝撃性に優れるものである。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は以下の各物性を満たすものであることが好ましい。
【0088】
1)流動性(MFR)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210に準拠した温度230℃、測定荷重21.18Nでのメルトフローレート(MFR)が、通常0.1g/10分以上であり、エアバッグ収納カバー成形時の流動性の観点から、好ましくは0.5g/10分以上であり、より好ましくは1g/10分以上である。また、メルトフローレートは通常、100g/10分以下であり、エアバッグ収納カバー成形時のヒケやバリを防止する観点から、好ましくは60g/10分以下であり、より好ましくは40g/10分以下であり、更に好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは20g/10分以下である。熱可塑性エラストマー組成物のMFRが上記範囲内であると、射出成形性の観点から好ましい。
【0089】
2)引張破壊試験
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下の引張破壊試験により測定される引張破壊強さが、エアバッグ収納カバーとして用いるための展開性能の観点から、5MPa以上であることが好ましく、引張破壊伸びは300%以上であることが好ましい。
(引張破壊試験)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、引張試験用の試験片(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシート)を成形した後、JIS K6251(1993年)準拠(JIS-3号ダンベル)で打ち抜いた。この打ち抜き試験片について、島津製作所製オートグラフ精密万能試験機「AG-X」により、ISO 37-1Aを参照して、引っ張り速度500mm/min、23℃の雰囲気下にて引張破壊強さと引張破壊伸びを測定する。
【0090】
3)低温耐衝撃試験(アイゾッド衝撃強度)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下の低温耐衝撃試験において、半破壊(P)以上であることが好ましい。
(低温耐衝撃試験)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、アイゾット衝撃強さ用の試験片として、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmに成形する。その後、ダンベルにノッチを入れ(ノッチの寸法と評価方法はISO 180(2000年)に準拠)、温度-40℃、-45℃、-50℃の温度におけるサンプルの破壊状態を以下のように評価する。
P:半破壊
H:ヒンジ破壊
C:完全破壊
(破壊の程度が軽度な順にP→H→Cで、軽度なほど低温衝撃性が優れるものと評価される。)
【0091】
4)曲げ弾性率
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下の方法で測定される曲げ弾性率が、エアバッグ収納カバーとして使用する観点から100~600MPaであることが好ましい。
(曲げ弾性率の測定方法)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、ISO 3167(2002年)準拠の多目的評価用試験片A(長さ180mmのダンベル)を成形し、ダンベルの末端を切り落として曲げ弾性率測定用試験片(厚さ4mm×幅10mm×長さ80mm)を作成する。この試験片について、島津製作所製オートグラフ精密万能試験機「AG-X」により、ISO 178(2010年)従って、2mm/minの速度で曲げ弾性率を測定する。
【0092】
5)光沢度
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下の方法で測定される表面光沢度が、60%未満であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。光沢度が上記上限値未満であると、外観がより良好となる傾向にある。
(光沢度の測定)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、引張試験用の試験片(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシート)を成形した後、日本電色工業株式会社製の光沢計(VG2000)を用いて、入射角、反射角を共に60度としたときの試験片表面の光沢度を測定する。
【0093】
[用途]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は前述の効果を奏するため、エアバッグ収納カバーとして好適であり、運転席用エアバッグ収納カバーとして特に好適である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途はエアバッグ収納カバーに制限されず、エアバッグ収納カバー以外の自動車部品(インストルメントパネル、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、各種パッキン類等)、土木・建材部品(止水材、目地材、窓枠等)、スポーツ用品(ゴルフクラブやテニスラケットのグリップ類等)、工業用部品(ホースチューブ、ガスケット等)、家電部品(ホース、パッキン類等)、医療用部品(医療用容器、ガスケット、パッキン等)、食品用部品(容器、パッキン等)、医療用機器部品、電線、雑貨等の広範な分野で用いることができる。
【0094】
[エアバッグ収納カバー]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、一般に、通常の射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、又は、必要に応じて、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法を用いてエアバッグ収納カバーを成形することができる。特に、エアバッグ収納カバーを射出成形する際の成形条件は以下の通りである。成形温度は一般に150~300℃であり、好ましくは180~280℃である。射出圧力は通常、5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。また、金型温度は通常0~80℃であり、好ましくは20~60℃である。
【0095】
このようにして得られたエアバッグ収納カバーは、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開によって乗員を保護するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適に用いることができる。
本発明のエアバッグ収納カバーは、運転席用エアバッグ収納カバー、助手席用エアバッグ収納カバー、歩行者用エアバッグ収納カバー、ニー・エアバッグ収納カバー、サイド・エアバッグ収納カバー、カーテン・エアバッグ収納カバー等のいずれにも好適に用いることができる。
【実施例0096】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0097】
<原料>
以下の実施例・比較例で使用した原料は以下のとおりである。
【0098】
[成分(A)]
A-1:
プロピレンブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
プロピレン単独重合体の含有率 :84質量%
エチレン・プロピレン共重合体の含有率:16質量%
プロピレン単位の含有率:91.2質量%
エチレン単位の含有率:8.8質量%
MFR(JIS K7210):30g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
A-2:
LyondellBasell社製 プロピレンブロック共重合体 Hi fax CA138A
プロピレン単独重合体の含有率:44質量%
エチレン・プロピレン共重合体の含有率:56質量%(内訳:エチレン単位の含有率:48質量%、プロピレン単位の含有率:52質量%)
プロピレン単位の含有率:73質量%
エチレン単位の含有率:27質量%
MFR(JIS K7210):2.6g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
融解温度:160℃
A-3:
プロピレンブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
プロピレン単独重合体の含有率 :86質量%
エチレン・プロピレン共重合体の含有率:14質量%
プロピレン単位の含有率:93.1質量%
エチレン単位の含有率:6.9質量%
MFR(JIS K7210):2.5g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
A-4:
プロピレンブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
プロピレン単独重合体の含有率 :92質量%
エチレン・プロピレン共重合体の含有率:8質量%
プロピレン単位の含有率:96.4質量%
エチレン単位の含有率:3.6質量%
MFR(JIS K7210):60g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
【0099】
[成分(B)]
B-1:
ダウ・ケミカル社製 Engage(登録商標)7487
エチレン・1-ブテンブロック共重合体
密度:0.860g/cm3
MFR(190℃、荷重21.18N):1.0g/10分
B-2:
ダウ・ケミカル社製 Engage(登録商標)8842
エチレン・1-ブテンブロック共重合体
密度:0.857g/cm3
MFR(190℃、荷重21.18N):1.0g/10分
B-3:
三井化学社製 タフマー(登録商標)A0550S
エチレン・1-ブテンブロック共重合体
密度:0.861g/cm3
MFR(190℃、荷重21.18N):0.5g/10分
B-4:
ダウ・ケミカル社製 Engage(登録商標)8150
エチレン・1-オクテンブロック共重合体
密度:0.868g/cm3
MFR(190℃、荷重21.18N):0.5g/10分
【0100】
[成分(C)]
C-1:
化薬ヌーリオン社製 パーカドックス(登録商標)101-40C
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(下記構造式
(I)で表される式(2-2)で表されるジアルキルパーオキサイド)40質量 %と炭酸カルシウム60質量%の混合物
【0101】
【0102】
C-2:
化薬ヌーリオン社製 トリゴノックス(登録商標)22-40D
1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(下記構造式(II)で
表される、式(1)で表されるパーオキシケタール)40質量%
と炭酸カルシウム60質量%の混合物
【0103】
【0104】
[成分(D)]
D-1:
化薬ヌーリオン社製 パーカドックス(登録商標)BC-40C
ジクミルパーオキサイド(下記構造式(III)で表される、式(5)で表される
有機過酸化化合物)40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物
1分間半減期温度:175℃
【0105】
【0106】
D’-1:
化薬ヌーリオン社製 パーカドックス(登録商標)33
ジベンゾイルパーオキサイド(下記構造式(IV)で表される比較の有機過酸化物)
30質量%とリン酸-水素カルシウム70質量%の混合物
1分間半減期温度:130℃
【0107】
【0108】
[成分(E)]
E-1:
三菱ケミカル株式会社製アクリエステルTMP
トリメタクリル酸トリメチロールプロパン
E-2:
和光純薬工業社製ジビニルベンゼン
ジビニルベンゼン55質量%とエチルビニルベンゼン45質量%の混合物
【0109】
<評価方法>
以下の実施例・比較例における熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
以下の2)~5)の測定には、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、曲げ弾性率の試験片を厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmとした試験片に成形し、アイゾット衝撃強さ用の試験片として、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmに成形した後でダンベルにノッチを入れ(ノッチの寸法と評価方法はISO 180(2000年)に準拠)、光沢度測定用の試験片をシート(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mm)に成形し、引張破壊試験の試験片はシート(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mm)を成形した後にJIS K6251準拠(JIS-3号ダンベル)で打ち抜いて使用した。
6)の成形外観の評価には、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友機械社製「SE180」)にて、射出圧力80MPa、シリンダー温度240℃、金型温度60℃にて、ティア部(厚さ0.7mm)を有する箱状の成形体(
図1参照)に成形して使用した。
【0110】
<物性>
以下1)~5)の評価内容については先に説明したものと同じ条件で測定した。
1)流動性(MFR)
2)引張破壊試験(引張破壊強さ・引張破壊伸び)
3)低温耐衝撃試験(アイゾッド衝撃強度)
4)曲げ弾性率
5)光沢度
【0111】
6)成形外観
射出成形体の外観を目視観察し、ティアライン部の艶むらの状態を以下の基準で評価した。
◎:非常に良好(ティアライン部に艶むらがほとんど確認されなかった。)
○:良好(ティアライン部に目立った艶むらは確認されなかった。)
△:微不良(ティアライン部にわずかに目立つ艶むらが確認された。)
▲:軽不良(ティアライン部にやや目立つ艶むらが確認された。)
×:不良(ティアライン部に目立つ艶むらが確認された。)
××:非常に劣る(ティアライン部に非常に目立つ艶むらが確認された。)
【0112】
<実施例・比較例>
[実施例1]
成分(A-1)を52質量部、成分(B-1)を25質量部、成分(B-2)を23質量部、成分(C-1)を0.14質量部、成分(D-1)を0.08質量部、酸化防止剤(BASFジャパン社製商品名イルガノックス(登録商標)1010)0.075質量部、酸化防止剤(BASFジャパン社製商品名イルガフォス(登録商標)168)0.075質量部、耐候助剤(BASFジャパン社製商品名チヌビン(登録商標)XT855FF)0.2質量部、及び黒色顔料(カーボン濃度40質量%品)1.5重量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドし、同方向2軸押出機(神戸製鋼製「TEX30α」、L/D=45、シリンダブロック数:13)へ20kg/hrの速度で投入し、180~210℃の範囲で昇温させ、溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、前記1)~6)の評価を実施した。得られた評価結果を表-1に示す。
【0113】
[実施例2~12、比較例1~19]
表-1~5に示す配合とした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表-1~5に示す。
【0114】
なお、表-1~5には、酸化防止剤(BASFジャパン社製商品名イルガノックス(登録商標)1010)0.075質量部、酸化防止剤(BASFジャパン社製商品名イルガフォス(登録商標)168)0.075質量部、耐候助剤(BASFジャパン社製商品名チヌビン(登録商標)XT855FF)0.2質量部、及び黒色顔料(カーボン濃度40質量%品)1.5重量部の記載を省略している。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
[考察]
表-1~2により、本発明に該当する実施例1~4に示す成分(C-1)と成分(D-1)を組み合わせた組成物においてアイゾット衝撃強度、光沢度及び成形外観に著しく優れることが分かる。また、成分(E-1),(E-2)の架橋助剤を組み合わせた表-3~5の結果においても、実施例5~12に示す成分(C-1)又は成分(C-2)と成分(D-1)を組み合わせた組成物においてアイゾット衝撃強度、光沢度及び成形外観に著しく優れることが分かる。
これに対して、成分(C-1)又は成分(C-2)と成分(D-1)を併用していない、或いはこれらの成分を用いていない比較例1~19では、これらの特性をすべて満たすことはできていない。