(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142542
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/80 20060101AFI20220922BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220922BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20220922BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20220922BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20220922BHJP
B28B 11/12 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C04B41/80 Z
B01J35/04 301M
B01J35/04 301F
B01J37/34 ZAB
C04B41/88 C
C04B35/622
B28B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042748
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 佑人
【テーマコード(参考)】
4G055
4G169
【Fターム(参考)】
4G055AC10
4G055BA63
4G055BB13
4G169AA01
4G169AA08
4G169CA03
4G169DA06
4G169EA19
4G169EA26
4G169EE03
4G169FA01
4G169FB58
4G169FB80
(57)【要約】
【課題】ハニカム構造体の内部において軸方向に垂直なスリットを、良好な精度で形成することができる、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法を提供する。
【解決手段】外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向の断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、セル内に一方の端面から他方の端面まで通るようにワイヤーを配置し、スリット形成前のハニカム構造素体及び/又はワイヤーを移動させながら隔壁を切断することで、スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向の断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
前記セル内に前記一方の端面から前記他方の端面まで通るようにワイヤーを配置し、スリット形成前のハニカム構造素体及び/又は前記ワイヤーを移動させながら前記隔壁を切断することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記スリットを形成する工程において、前記ハニカム構造素体又は前記セルに配置したワイヤーを、軸方向に垂直な方向に移動させることで前記隔壁を切断する、請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記スリットを形成する工程において、前記ワイヤーを、セルA内の前記一方の端面から前記他方の端面まで、前記他方の端面のセルAから前記他方の端面のセルBまで、及び、前記セルB内の前記他方の端面から前記一方の端面まで通るように配置する工程と、
前記セルA及び前記セルBの前記一方の端面側から伸びるワイヤーの端部同士を同時に引っ張る、及び/又は、前記ハニカム構造素体を前記一方の端面から前記他方の端面に向かう方向に移動させる、ことで前記隔壁を切断する工程と、を有する請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向の断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
切削工具に超音波振動を加えて、スリット形成前のハニカム構造素体の一方の端面から他方の端面に向かって前記隔壁を切削することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記超音波振動を、周波数20~40kHz、出力30~1000Wの条件で行う、請求項4に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記切削工具が、前記ハニカム構造素体の一方の端面から軸方向に平行な方向に進むように前記切削工具または前記ハニカム構造素体を移動させて前記隔壁を切削する、請求項4または5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記切削工具が、前記ハニカム構造素体の一方の端面から軸方向に交差する方向に進むように前記切削工具または前記ハニカム構造素体を移動させて前記隔壁を切削する、請求項4または5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記切削工具の先端の、切削方向と平行な方向における断面が傾斜した形状を有している、請求項6または7に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記スリットを形成する工程を、ハニカム乾燥体を作製した後、または、ハニカム焼成体を作製した後に行う、請求項1~8のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
前記ハニカム構造体は、前記スリットを複数本有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記複数本のスリットが、前記ハニカム構造体の断面において交差するスリット、及び/または、前記ハニカム構造体の断面においてスリットの延伸方向に沿って分割したスリットである、請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
前記ハニカム構造体の中心軸を挟んで、前記外周壁の外面上において、前記セルの流路方向に帯状に延びるように一対の電極部を形成する工程を更に有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法で製造されたハニカム構造体の前記一対の電極部のそれぞれに、金属電極を電気的に接続する工程を備えた、電気加熱式担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排気ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは、例えば、導電性セラミックスからなる柱状のハニカム構造体に金属電極を接続し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、エンジン始動前に触媒の活性温度まで昇温できるようにしたものである。
【0003】
EHCは、ハニカム構造体の通電経路を遮断しないため、また、ハニカム構造体の脱落を防ぐために、排気ガス温度の変化に対してクラックが発生し難い、良好な耐熱衝撃性を備える構造を有することが好ましい。
【0004】
特許文献1には、ハニカム構造体の外周部と電極部にスリットを設けることにより、耐熱衝撃性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ハニカム構造体の一部の隔壁を除去することで、セルを連結させたスリットを形成し、これによって電流集中に伴なって発生する応力を低減させ、ハニカム体のセル破断を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-198296号公報
【特許文献2】特開平8-273805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハニカム構造体の内部において軸方向に垂直なスリットの形成については、従来、目標とする隔壁のみを除去することが容易ではなく、ハニカム構造体内で除去する予定の無い隣接する隔壁まで除去してしまう虞があり改善の必要がある。また、ハニカム構造体の内部において軸方向に垂直なスリットを形成したとしても、その加工精度の面で課題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、ハニカム構造体の内部において軸方向に垂直なスリットを、良好な精度で形成することができる、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向の断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
前記セル内に前記一方の端面から前記他方の端面まで通るようにワイヤーを配置し、スリット形成前のハニカム構造素体及び/又は前記ワイヤーを移動させながら前記隔壁を切断することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
(2)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向の断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
切削工具に超音波振動を加えて、スリット形成前のハニカム構造素体の一方の端面から他方の端面に向かって前記隔壁を切削することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
(3)前記ハニカム構造体の中心軸を挟んで、前記外周壁の外面上において、前記セルの流路方向に帯状に延びるように一対の電極部を形成する工程を更に有する、(1)または(2)に記載のハニカム構造体の製造方法。
(4)(3)に記載の方法で製造されたハニカム構造体の前記一対の電極部のそれぞれに、金属電極を電気的に接続する工程を備えた、電気加熱式担体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハニカム構造体の内部において軸方向に垂直なスリットを、良好な精度で形成することができる、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るハニカム構造体の外観模式図である。
【
図2】(A)~(H)は、ハニカム構造体の端面におけるスリットの形状の具体例を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
【
図4】ワイヤーによってスリットを形成する方法を説明するための模式図である。
【
図5】(A)及び(B)は、それぞれワイヤーによってスリットを形成する方法を説明するための模式図である。
【
図6】切削工具によってスリットを形成する方法を説明するための模式図である。
【
図7】(A)及び(B)は、それぞれ切削工具によってスリットを形成する方法を説明するための模式図である。
【
図8】(A)及び(B)は、それぞれ切削工具によってスリットを形成する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<1.ハニカム構造体>
図1は、本発明の実施形態におけるハニカム構造体10の外観模式図である。ハニカム構造体10は、ハニカム構造部11と、電極部13a、13bとを備えている。なお、電極部13a、13bは設けなくてもよい。
【0014】
(1-1.ハニカム構造部)
ハニカム構造部11は、セラミックス製の柱状の部材であり、外周壁12と、外周壁12の内側に配設され、一方の端面15から他方の端面16まで延びる流路を形成する複数のセル18を区画形成する隔壁19とを有する。柱状とは、セル18の延伸方向(ハニカム構造体の軸方向)に厚みを有する立体形状と理解できる。ハニカム構造体の軸方向長さとハニカム構造体の端面の直径又は幅との比(アスペクト比)は任意である。柱状には、ハニカム構造体の軸方向長さが端面の直径又は幅よりも短い形状(偏平形状)も含まれていてよい。
【0015】
ハニカム構造部11の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造部11の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0016】
ハニカム構造部11の材質としては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスからなる群から選択することができる。また、炭化珪素-金属珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部11の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするセラミックスを含有していることが好ましい。ハニカム構造部11の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部11が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造部11の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部11が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0017】
ハニカム構造部11が、珪素-炭化珪素複合材を含んでいる場合、ハニカム構造部11に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。
【0018】
セル18の延伸方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点から、四角形及び六角形が好ましい。
【0019】
セル18を区画形成する隔壁19の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.1~0.2mmであることがより好ましい。本発明において、隔壁19の厚みは、セル18の延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル18の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁19を通過する部分の長さとして定義される。
【0020】
ハニカム構造部11は、セル18の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排気ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度は、外周壁12部分を除くハニカム構造部11の一つの端面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0021】
ハニカム構造部11の外周壁12を設けることは、ハニカム構造部11の構造強度を確保し、また、セル18を流れる流体が外周壁12から漏洩するのを抑制する観点で有用である。具体的には、外周壁12の厚みは好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上、更により好ましくは0.15mm以上である。但し、外周壁12を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁19との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下すること、および外周壁12の厚みを大きくしすぎると、熱容量が増加し、外周壁12の外周側と内周側の間で温度差が大きくなり、耐熱衝撃性が低下することから、外周壁12の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁12の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁12の箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁12の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0022】
ハニカム構造部11の隔壁19の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0023】
隔壁19は多孔質としてもよい。多孔質とする場合、隔壁19の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0024】
ハニカム構造体10は、セラミックス製であり、導電性を有することが好ましい。ハニカム構造体10は、通電してジュール熱により発熱可能である限り、体積抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmであることがより好ましい。本発明において、ハニカム構造体10の体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0025】
(1-2.電極部)
ハニカム構造部11の中心軸を挟んで、外周壁12の外面上において、セル18の流路方向に帯状に延びるように、一対の電極部13a、13bが設けられている。一対の電極部13a、13bがこのように設けられていることで、ハニカム構造体10の均一発熱性を高めることができる。電極部13a、13bは、ハニカム構造体10の両端面間の80%以上の長さに亘って、好ましくは90%以上の長さに亘って、より好ましくは全長に亘って延びていることが、電極部13a、13bの軸方向へ電流が広がりやすいという観点から望ましい。
【0026】
電極部13a、13bの厚みは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより均一発熱性を高めることができる。電極部13a、13bの厚みは、厚みを測定しようとする箇所をセル18の延伸方向に垂直な断面で観察したときに、電極部13a、13bの外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0027】
電極部13a、13bの電気抵抗率をハニカム構造部11の体積抵抗率より低くすることにより、電極部13a、13bに優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がセル18の流路方向及び周方向に広がりやすくなる。電極部13a、13bの体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の体積抵抗率の差が大きくなりすぎると、対向する電極部の端部間に電流が集中してハニカム構造部11の発熱が偏ることから、電極部13a、13bの体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極部13a、13bの体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0028】
電極部13a、13bの材質は、導電性セラミックス、金属、又は金属及び導電性セラミックスとの複合材(サーメット)を使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられる。金属及び導電性セラミックスとの複合材(サーメット)の具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。
【0029】
(1-3.スリット)
ハニカム構造体10の軸方向の断面において、スリット21が設けられている。また、当該スリット21は、ハニカム構造体10の内部において軸方向に垂直に、より具体的には、ハニカム構造体10の一方の端面から他方の端面まで貫通するように形成されている。このような構成によれば、ハニカム構造体10の発熱時に、スリット21によって応力緩和が機能するため、ハニカム構造体10内の熱膨張差の発生によるクラックの発生を良好に抑制することができる。
【0030】
スリット21のハニカム構造体10の断面における形状及び数は特に限定されず、適宜設計することができる。例えば、スリット21はハニカム構造体10の断面において、1本であっても、2本以上であってもよく、それぞれ互いに交差しないように形成されていてもよく、少なくとも一部が交差するように形成されていてもよい。また、ハニカム構造体10の断面におけるスリット21の長さ及び幅は特に限定されない。ハニカム構造体10の断面におけるスリット21の幅はセル18の幅と同程度に形成してもよく、スリット21の幅を、セル18の幅より小さく、または大きく形成してもよい。ハニカム構造体10の断面における、各スリット21の長さは、特に限定されないが、2~80セルであってもよい。各スリット21の幅は、特に限定されないが、1~5セルであってもよい。ハニカム構造体10の断面における、各スリット21の長さ及び幅は、ハニカム構造体10の大きさ、材質、用途、及び、スリット21の本数等によって適宜設計することができる。
【0031】
スリット21は、ハニカム構造体10の断面におけるスリット21の延伸方向に沿って分割して設けられていてもよい。このとき、ハニカム構造体10の断面において、同程度の長さのスリットに分割されていてもよく、長さの異なるスリットに分割されていてもよい。スリット21を、ハニカム構造体10の断面において分割して形成することで、ハニカム構造体10におけるクラックの発生をより良好に制御することができる。当該スリット21の分割数は特に限定されず、2つ、3つ、または、4つ以上に分割して形成されていてもよい。また、分割して形成されたスリットと、分割していないスリットとの混合による、複数本のスリットが設けられていてもよい。
【0032】
図1では、ハニカム構造体10の断面におけるスリット21が1本である形態について模式的に示している。スリット21は、
図1に示すように、ハニカム構造体10の断面における中心を通るように延びていてもよく、中心を通らなくてもよい。また、スリット21が複数形成されている形態について、
図2(A)~(H)に具体例を示す。なお、
図2(A)~(H)では、ハニカム構造体10の一方の端面15の外径と、スリット21の形状のみを模式的に示している。なお、いずれもハニカム構造体10の一方の端面における形態を示しており、これらのスリット21は、ハニカム構造体10の断面において同様の形態を維持しており、ハニカム構造体10の他方の端面まで軸方向に延びて貫通するように形成されている。
【0033】
スリット21は、
図2(A)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、それぞれ中心で交差し、両側の外周壁の内周端まで延びる3本のスリットであってもよい。また、
図2(B)に示すように、
図2(A)で示した3本のスリットが、それぞれ外周壁まで到達する長さに形成されていてもよい。
【0034】
スリット21は、
図2(C)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、
図2(A)で示した3本のスリットがそれぞれ外周壁の内周端に到達しない長さに形成されていてもよい。また、
図2(D)に示すように、
図2(A)で示した3本のスリットが、それぞれ延伸方向に沿って分割されたスリットであってもよい。
【0035】
スリット21は、
図2(E)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、互いに平行に延びる3本のスリットであってもよい。また、
図2(F)に示すように、
図2(E)で示した3本のスリットが、それぞれ延伸方向に沿って分割されたスリットであってもよい。
【0036】
スリット21は、
図2(G)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、3本のスリットであって、それらが頂点で交わらない略三角形を形成していてもよい。また、
図2(H)に示すように、4本のスリットであって、それらが頂点で交わらない略四角形を形成していてもよい。
スリット21には、充填材が充填されていてもよい。充填材は、スリット21の空間の少なくとも一部に充填されていることが好ましい。充填材は、スリット21の空間の50%以上に充填されていることが好ましく、スリット21の空間の全部に充填されていることがより好ましい。
充填材は、ハニカム構造体10の主成分が炭化珪素、又は金属珪素-炭化珪素複合材である場合、炭化珪素を20質量%以上含有することが好ましく、20~70質量%含有することが更に好ましい。これにより、充填材の熱膨張係数を、ハニカム構造体10の熱膨張係数に近い値にすることができ、ハニカム構造体10の耐熱衝撃性を向上させることができる。充填材は、シリカ、アルミナ等を30質量%以上含有するものであってもよい。
【0037】
<2.電気加熱式担体>
図3は、本発明の実施形態における電気加熱式担体30のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。電気加熱式担体30は、ハニカム構造体10と、ハニカム構造体10の電極部13a、13bに電気的に接続された金属電極33a、33bとを備えている。
【0038】
(2-1.金属電極)
金属電極33a、33bは、ハニカム構造体10の電極部13a、13b上に設けられている。金属電極33a、33bは、一方の金属電極33aが、他方の金属電極33bに対して、ハニカム構造部11の中心軸を挟んで対向するように配設される一対の金属電極であってもよい。金属電極33a、33bは、電極部13a、13bを介して電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造部11を発熱させることが可能である。このため、電気加熱式担体30はヒーターとしても好適に用いることができる。印加する電圧は12~900Vが好ましく、48~600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。
【0039】
金属電極33a、33bの材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属電極33a、33bの形状及び大きさは、特に限定されず、電気加熱式担体30の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0040】
電気加熱式担体30に触媒を担持することにより、電気加熱式担体30を触媒体として使用することができる。ハニカム構造体10の複数のセル18の流路には、例えば、自動車排気ガス等の流体を流すことができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される二種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0041】
<3.ハニカム構造体の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るハニカム構造体10の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係るハニカム構造体10の製造方法は、ハニカム成形体を作製する成形工程と、ハニカム乾燥体を作製する乾燥工程と、ハニカム焼成体を作製する焼成工程と、を備える。
【0042】
(成形工程)
成形工程では、まず、導電性のセラミックス原料を含有する成形原料を準備する。成形原料は、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。なお、これは、ハニカム構造体10の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、当該材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0043】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0044】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0045】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0046】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径を指す。
【0047】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。ハニカム成形体は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する。
【0048】
(乾燥工程)
次に、得られたハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製する。乾燥方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。乾燥の条件として、電磁波加熱方式にて、乾燥前の水分量に対して、30~99質量%の水分を除いた後、外部加熱方式にて、3質量%以下の水分にすることが好ましい。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。乾燥温度は、50~120℃とすることが好ましい。
【0049】
次に、ハニカム乾燥体を、スリット形成前の「ハニカム構造素体20」として、当該ハニカム構造素体20にスリットを形成する。なお、スリットは、ハニカム乾燥体に形成しなくてもよく、後述のように、ハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製した後に、当該ハニカム焼成体を「ハニカム構造素体20」として、当該ハニカム構造素体20にスリットを形成してもよい。好ましくは、ハニカム焼成体を「ハニカム構造素体20」として、当該ハニカム構造素体20にスリットを形成することである。また、スリットの形状、本数、交差数、長さ、及び、幅等は、作製するハニカム構造体の所望の特性などに応じてそれぞれ適宜設計することができる。
【0050】
(焼成工程)
次に、ハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製する。上述の通り、ハニカム乾燥体は、スリットが形成されていても、形成されていなくてもよい。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0051】
(実施形態1に係るスリットの形成方法)
実施形態1に係るハニカム構造素体20に対するスリットの形成方法は、セル内に一方の端面から他方の端面まで通るようにワイヤーを配置(挿入)し、スリット形成前のハニカム構造素体及び/又はワイヤーを移動させながら隔壁を切断することで、スリットを形成する。このような構成によれば、スリットを形成する必要のない隔壁まで除去することなく、狙った隔壁を精度良く除去することができる。このため、スリットを精度良く形成することができる。また、挿入したワイヤーと隔壁とを相対的に移動させることで隔壁を切断することができるため、スリット形成の工数も少なく、短時間で効率的にスリットを形成することができる。使用するワイヤーは、セラミックス製のハニカム構造素体20の隔壁を切断することができるものであれば、その材質及び大きさ(ワイヤー径)は特に限定されない。セラミックス製のハニカム構造素体20の隔壁を良好に切断することができるワイヤーとしては、例えば、ダイヤモンド砥粒を電着したワイヤーが挙げられる。また、セラミックス製のハニカム構造素体20の隔壁を良好に切断することができるワイヤーの大きさ(ワイヤー径)としては、300~500μmであることが好ましい。
【0052】
ワイヤー22を用いたスリットの形成方法としては、
図4に示すように、セルAに一方の端面から他方の端面までワイヤー22を挿入し、ワイヤー22を自転させつつハニカム構造素体20の軸方向(Y方向)に沿って往復運動または一方向送りさせながら、ハニカム構造素体20又はセルに挿入したワイヤーを、軸方向に垂直な方向(X方向)に移動させることで隔壁を切断してスリットを形成してもよい。ワイヤーの自転速度及び移動速度は特に限定されず、所望の切断効率に応じて適宜調整することができるが、例えば、自転速度は10~100回転/秒とすることができ、移動速度は1~5mm/秒とすることができる。スリットを複数本形成する場合は、セルAに挿入したワイヤー22を、ハニカム構造素体20に対し、一方向に相対的に移動させて1本目のスリットを形成した後、一旦セルから抜き、再度、ハニカム構造素体20の所定の位置の別のセルに挿入し、同様にハニカム構造素体20に対し、一方向に相対的に移動させて2本目のスリットを形成する。これを繰り返して複数本のスリットを形成してもよい。また、複数のセル内に複数のワイヤー22を配置し、ハニカム構造素体20に対し、一方向に相対的に移動させて複数本のスリットを形成してもよい。また、ハニカム構造体の端面において複数本が交差する形態のスリットを形成する場合は、上述のようなスリットの形成方法の他に、セルAに挿入したワイヤー22を、ハニカム構造素体20に対し、一方向に相対的に移動させて1本目のスリットを形成した後、ワイヤー22を抜かずに、そのままスリット内を移動させて所定の位置から2本目のスリットを交差するように形成する。これを繰り返すことで、ハニカム構造体の端面において、複数本が交差した形態のスリットを形成してもよい。
【0053】
ワイヤー22を用いたスリットの形成方法としては、
図5(A)に示すように、ワイヤー22を、セルA内の一方の端面から他方の端面まで、他方の端面のセルAから他方の端面のセルBまで、及び、セルB内の他方の端面から一方の端面まで通るように配置し、セルA及びセルBの一方の端面側から伸びるワイヤーの端部同士を同時に引っ張る(
図5(A)においては下向きに引っ張る)ことで、隔壁を切断してスリットを形成してもよい。または、
図5(A)の状態から、ハニカム構造素体20を一方の端面から他方の端面に向かう方向に移動させることで隔壁を切断してもよい。これによって、
図5(B)に示すように、スリット21がハニカム構造素体20の他方の端面から一方の端面まで徐々に形成される。スリットを複数本形成する場合は、上述のようにセルA及びセルBの一方の端面側から伸びるワイヤーの端部同士を同時に引っ張る、又は、ハニカム構造素体20を一方の端面から他方の端面に向かう方向に移動させることでスリットを形成した後、再度、同様に所定の2つのセルを決め、一方のセルから他方のセルにかけてワイヤーを通し、続いて端面側から伸びるワイヤーの端部同士を同時に引っ張る、又は、ハニカム構造素体20を一方の端面から他方の端面に向かう方向に移動させることで、別のスリットを形成する。これを繰り返すことで、ハニカム構造体の端面において、複数本のスリットを形成してもよい。
【0054】
(実施形態2に係るスリットの形成方法)
実施形態2に係るハニカム構造素体20に対するスリットの形成方法は、切削工具23に超音波振動を加えて、スリット形成前のハニカム構造素体20の一方の端面から他方の端面に向かって隔壁を切削することで、スリットを形成する。このような構成によれば、必要な隔壁まで除去することなく、狙った隔壁を精度良く除去することができる。このため、スリットを精度良く形成することができる。また、切削工具23に超音波振動を加えて、スリット形成前のハニカム構造素体20の一方の端面から他方の端面に向かって隔壁を切削することで隔壁を切断することができるため、スリット形成の工数も少なく、短時間で効率的にスリットを形成することができる。超音波振動を、周波数20~40kHz、出力30~1000Wの条件で行うことが好ましい。このような超音波振動の条件によれば、セラミックス製のハニカム構造素体20の隔壁をより良好に切削することができる。超音波振動の周波数は22~27kHzであるのがより好ましく、出力は50~100Wであるのがより好ましい。切削工具23としては、セラミックス製のハニカム構造素体20の隔壁を良好に切削することができるものであれば特に限定されず、例えば、炭素工具鋼鋼材(SK材)の台金にダイヤモンド砥粒を電着させたものが挙げられる。
【0055】
切削工具23に超音波振動を加えて、スリットを形成する方法としては、
図6に示すように、切削工具23が、ハニカム構造素体20の一方の端面から軸方向に平行な方向に進むように切削工具23またはハニカム構造素体20を移動させて隔壁を切削してスリットを形成してもよい。スリットを複数本形成する場合は、上述のようにしてスリットを1本形成した後、再度、同様に切削工具23が、ハニカム構造素体20の一方の端面から軸方向に平行な方向に進むように切削工具23またはハニカム構造素体20を移動させて隔壁を切削して、別のスリットを形成する。これを繰り返すことで、ハニカム構造体の端面において、複数本のスリットを形成してもよい。なお、スリットの大きさによっては、1本のスリットの形成のために、切削工具23が、ハニカム構造素体20の一方の端面から軸方向に平行な方向に進むように切削工具23またはハニカム構造素体20を移動させて隔壁を切削するだけでは不十分である場合がある。そのような場合は、上述の切削工具23による切削を複数回行うことで、スリットの大きさを広げていき、所望の大きさのスリットを形成してもよい。
【0056】
切削工具23に超音波振動を加えて、スリットを形成する方法としては、
図7(A)に示すように、切削工具23が、ハニカム構造素体20の一方の端面から軸方向に交差する方向に進むように切削工具23またはハニカム構造素体20を移動させて隔壁を切削してスリットを形成してもよい。また、このとき、ハニカム構造素体20の一方の端面から他方の端面まで軸方向に平行なスリットを形成するために、上述の工程を複数回行ってもよい。このような構成によれば、ハニカム構造素体20の端面に対して斜め方向に超音波切削を行うことができるため、切削抵抗が小さくなり、切削効率が向上する。
図7(B)に示すように、切削工具23の、ハニカム構造素体20の一方の端面から軸方向に交差する角度θ
1は特に限定されず、切削工具23及びハニカム構造素体20の大きさ、材質、所望のスリットの大きさ等によって適宜調整することができるが、15~45°であってもよく、20~40°であってもよい。
【0057】
切削工具23は、
図8(A)に示すように、
図6に示す切削工具23の先端の、切削方向と平行な方向における断面が傾斜した形状を有していてもよい。このような構成によれば、ハニカム構造素体20の端面に対して斜め方向に超音波切削を行うことができるため、切削抵抗が小さくなり、切削効率が向上する。また、切削工具23をハニカム構造素体20の軸方向と平行に動かすにもかかわらず、切削抵抗を小さくすることができる。このため、
図7(A)に示すように切削工具23をハニカム構造素体20の軸方向に交差する方向に進むように移動させる必要がないため、製造設備を簡略化し、製造しやすくなる。
図8(B)に示すように、切削工具23の、切削方向と平行な方向における断面の傾斜角度θ
2は、特に限定されず、切削工具23及びハニカム構造素体20の大きさ、材質、所望のスリットの大きさ等によって適宜調整することができるが、15~45°であってもよい。
【0058】
スリットを形成したハニカム焼成体には、充填材を充填してもよい。充填材は、形成したスリットの内部に注入することで充填する。充填方法としては、例えばシリンジ等の治具を用いて圧入によりスリットに充填することができる。
充填材が充填されたハニカム焼成体を加熱することで充填材が充填されたスリットを備えるハニカム構造体を作製する。加熱条件としては、400~700℃で、10~60分加熱することが好ましい。当該加熱(熱処理)は、充填材の化学結合強化のために実施する。加熱の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
また、スリットを形成したハニカム焼成体は、このままハニカム構造体としてもよい。
また、電極部を有するハニカム構造体の製造方法としては、まず、ハニカム乾燥体の側面に、セラミックス原料を含有する電極部形成原料を塗布し、乾燥させて、ハニカム乾燥体の中心軸を挟んで、外周壁の外面上において、セルの流路方向に帯状に延びるように一対の未焼成電極部を形成して、未焼成電極部付きハニカム乾燥体を作製する。次に、未焼成電極部付きハニカム乾燥体を焼成して一対の電極部を有するハニカム焼成体を作製する。これにより、電極部を有するハニカム構造体が得られる。なお、電極部はハニカム焼成体を作製した後に形成してもよい。具体的には、一旦、ハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体上に一対の未焼成電極部を形成し、これを焼成して一対の電極部を有するハニカム焼成体を作製してもよい。
【0059】
電極部形成原料は、電極部の要求特性に応じて配合した原料粉(金属粉末、及び/又は、セラミックス粉末等)に各種添加剤を適宜添加して混練することで形成することができる。電極部を積層構造とする場合、第1の電極部用のペースト中の金属粉末の平均粒子径に比べて、第2の電極部用のペースト中の金属粉末の平均粒子径を大きくすることにより、金属端子と電極部の接合強度が向上する傾向にある。金属粉末の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0060】
電極部形成原料を調合する方法、及び電極部形成原料をハニカム焼成体に塗布する方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極部をハニカム構造部に比べて低い電気抵抗率にするために、ハニカム構造部よりも金属の含有比率を高める、または、金属粒子の粒径を小さくすることができる。
【0061】
未焼成電極部付きハニカム乾燥体を焼成する前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。未焼成電極部付きハニカム乾燥体の焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0062】
<4.電気加熱式担体の製造方法>
本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30の製造方法は一実施形態において、ハニカム構造体10の電極部上に、金属電極を固定する。固定方法としては、例えば、レーザー溶接、溶射、超音波溶接などが挙げられる。より具体的には、ハニカム構造体10のハニカム構造部の中心軸を挟んで、電極部の表面上において、一対の金属電極を設ける。このようにして、本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30が得られる。
【0063】
<5.排気ガス浄化装置>
上述した本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30は、排気ガス浄化装置に用いることができる。当該排気ガス浄化装置は、電気加熱式担体30と、当該電気加熱式担体30を保持する金属製の筒状部材とを有する。排気ガス浄化装置において、電気加熱式担体30は、エンジンからの排気ガスを流すための排気ガス流路の途中に設置される。
【実施例0064】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
端面が直径:100mmの円形、高さ(セルの流路方向における長さ):100mm、セル密度:93セル/cm2、隔壁の厚み:101.6μm、隔壁の気孔率:45%、セル形状:六角形のハニカム焼成体を準備した。
【0066】
このハニカム焼成体のセルに一方の端面から他方の端面までワイヤーを挿入し、ワイヤーを自転させつつ、移動させながら隔壁を切断することで、1本の直線スリットを形成した。具体的には、ハニカム焼成体の端面において一列に並んだ六角形のセル群を規定し、当該セル群で構成する直線に交わる隔壁を切断していくことで、1本の直線スリットを形成した。使用したワイヤーはダイヤモンド砥粒を電着したワイヤーで、ワイヤー径が砥粒部を含め400μmであった。ワイヤーの自転速度は50/秒であり、移動速度は2mm/秒であった。加工するスリットの長さは70mm(63セル)、幅は1セルとした。スリット加工に要する時間は、30秒であった。
【0067】
<実施例2>
超音波工具によりスリットを加工した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。スリット加工に要する時間は、30秒であった。
【0068】
<比較例1>
ヤスリによってスリットを加工した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。スリット加工に要する時間は、10分であった。
【0069】
(加工精度評価)
実施例1、2及び比較例1に係るハニカム構造体の端面のスリット形状を、それぞれ顕微鏡観察することで得られた画像を目視で評価した。
ここで、実施例1、2及び比較例1は、いずれも、上述のようにハニカム構造体の端面において一列に並んだ六角形のセル群を規定し、当該セル群で構成する直線に交わる隔壁を切断していくことで、1本の直線スリットを形成しようとしたものである。
上記画像を評価したところ、実施例1及び2は、当該セル群で構成する直線に交わる隔壁のみが切断されて除去されており、良好な加工精度でスリットを形成することができた。
これに対し、比較例1では、実施例1、2に対してスリット加工に要した時間が長かったにもかかわらず、当該セル群で構成する直線に交わる隔壁を切断していく際、部分的ではあるが、直線スリットを囲う予定の側面の隔壁まで切断してしまうこともあり、加工精度が実施例1、2に比べて劣っていた。
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向に垂直な断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
前記スリット形成前のハニカム構造素体を準備する工程と、
前記セル内に前記一方の端面から前記他方の端面まで通るようにワイヤーを配置し、前記ハニカム構造素体及び/又は前記ワイヤーを移動させながら前記隔壁を切断することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
前記スリットを形成する工程において、前記ハニカム構造素体又は前記セルに配置したワイヤーを、軸方向に垂直な方向に移動させることで前記隔壁を切断する、請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
前記スリットを形成する工程において、前記ワイヤーを、セルA内の前記一方の端面から前記他方の端面まで、前記他方の端面のセルAから前記他方の端面のセルBまで、及び、前記セルB内の前記他方の端面から前記一方の端面まで通るように配置する工程と、
前記セルA及び前記セルBの前記一方の端面側から伸びるワイヤーの端部同士を同時に引っ張る、及び/又は、前記ハニカム構造素体を前記一方の端面から前記他方の端面に向かう方向に移動させる、ことで前記隔壁を切断する工程と、を有する請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する、セラミックス製のハニカム構造体の軸方向に垂直な断面において、スリットを備えたハニカム構造体の製造方法であって、
前記スリット形成前のハニカム構造素体を準備する工程と、
切削工具に超音波振動を加えて、前記ハニカム構造素体の一方の端面から他方の端面に向かって前記隔壁を切削することで、前記スリットを形成する工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。
前記切削工具が、前記ハニカム構造素体の一方の端面から軸方向に平行な方向に進むように前記切削工具または前記ハニカム構造素体を移動させて前記隔壁を切削する、請求項4または5に記載のハニカム構造体の製造方法。
前記切削工具が、前記ハニカム構造素体の一方の端面から軸方向に交差する方向に進むように前記切削工具または前記ハニカム構造素体を移動させて前記隔壁を切削する、請求項4または5に記載のハニカム構造体の製造方法。
前記スリットを形成する工程を、ハニカム乾燥体を作製した後、または、ハニカム焼成体を作製した後に行う、請求項1~8のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
前記複数本のスリットが、前記ハニカム構造体の断面において交差するスリット、及び/または、前記ハニカム構造体の断面においてスリットの延伸方向に沿って分割したスリットである、請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
前記ハニカム構造体の中心軸を挟んで、前記外周壁の外面上において、前記セルの流路方向に帯状に延びるように一対の電極部を形成する工程を更に有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。