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特開2022-142565磁性ナノ粒子、複合磁性材料および電子部品
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  • 特開-磁性ナノ粒子、複合磁性材料および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142565
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】磁性ナノ粒子、複合磁性材料および電子部品
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20220922BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20220922BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20220922BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20220922BHJP
   B22F 9/30 20060101ALN20220922BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220922BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20220922BHJP
【FI】
B22F1/02 E
H01F1/20
H01F1/26
B22F3/00 B
B22F9/30 A
C22C38/00 303S
C22C19/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042777
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】具志 俊希
(72)【発明者】
【氏名】金田 功
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA03
4K017BA06
4K017BB06
4K017CA08
4K017EK06
4K017FB02
4K018BA13
4K018BB05
4K018BC22
4K018BC28
4K018BC29
4K018BD01
4K018CA11
4K018KA32
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA05
5E041BB05
5E041BD12
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】高い磁化と、高い共鳴周波数と、耐酸化性とを両立できる磁性ナノ粒子、および、当該磁性ナノ粒子が適用された複合磁性材料、当該複合磁性材料を含む電子部品を提供すること。
【解決手段】鉄コバルト合金粒子からなるコア部と、コア部の表面の少なくとも一部を覆いコバルトからなるシェル部と、を有する磁性ナノ粒子である。シェル部の平均厚さが1nm以上18nm以下であることが好ましい。コア部の平均粒子径が5nm以上30nm以下であることが好ましい。コア部の平均粒子径をdとし、磁性ナノ粒子の平均粒子径をDとした時に、dおよびDが0.10<(d/D)<0.50である関係を満足することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄コバルト合金粒子からなるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆いコバルトからなるシェル部と、を有する磁性ナノ粒子。
【請求項2】
前記シェル部の平均厚さが1nm以上18nm以下である請求項1に記載の磁性ナノ粒子。
【請求項3】
前記コア部の平均粒子径が5nm以上30nm以下である請求項1または2に記載の磁性ナノ粒子。
【請求項4】
前記コア部の平均粒子径をdとし、前記磁性ナノ粒子の平均粒子径をDとした時に、dおよびDが0.10<(d/D)<0.50である関係を満足する請求項1から3のいずれかに記載の磁性ナノ粒子。
【請求項5】
請求項1から4に記載の磁性ナノ粒子と、絶縁材料と、を有する複合磁性材料。
【請求項6】
請求項5に記載の複合磁性材料を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性ナノ粒子、複合磁性材料および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や携帯情報端末等の無線通信機器の利用周波数帯の高周波化が進行し、GHz帯のような高周波領域が利用されている。このような高周波領域で使用される電子部品として、高周波領域においても透磁率が比較的大きい磁性材料を適用したインダクタを搭載したフィルタ、ダイプレクサ等の高周波デバイスが使用されている。
【0003】
このような高周波デバイスのインダクタのコア材料として、渦電流損失が小さく、形状自由度および寸法精度が高い等の理由から、ナノメートルスケールの磁性粒子を絶縁性の樹脂中に分散させた複合磁性材料が開発されている。
【0004】
たとえば、特許文献1は、FeまたはFe-Co合金からなる磁性金属粒子と、磁性金属粒子の表面を覆うFe-Ni合金またはFe-Co-Ni合金からなる合金層と、合金層の表面を覆うFe-Ni合金またはFe-Co-Ni合金の酸化物からなる酸化物層とからなるコアシェル型磁性ナノ粒子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-125901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の磁性ナノ粒子のように、シェルに酸化物やニッケルまたはニッケルを含む合金を適用すると、耐酸化性は良好であるものの、磁性ナノ粒子としての磁化は低くなり、さらに、共鳴周波数が低く高周波領域において磁気損失が大きくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、高い磁化と、高い共鳴周波数と、耐酸化性とを両立できる磁性ナノ粒子、および、当該磁性ナノ粒子が適用された複合磁性材料、当該複合磁性材料を含む電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は以下の通りである。
[1]鉄コバルト合金粒子からなるコア部と、コア部の表面の少なくとも一部を覆いコバルトからなるシェル部と、を有する磁性ナノ粒子である。
【0009】
[2]シェル部の平均厚さが1nm以上18nm以下である[1]に記載の磁性ナノ粒子である。
【0010】
[3]コア部の平均粒子径が5nm以上30nm以下である[1]または[2]に記載の磁性ナノ粒子である。
【0011】
[4]コア部の平均粒子径をdとし、磁性ナノ粒子の平均粒子径をDとした時に、dおよびDが0.10<(d/D)<0.50である関係を満足する[1]から[3]のいずれかに記載の磁性ナノ粒子である。
【0012】
[5][1]から[4]に記載の磁性ナノ粒子と、絶縁材料と、を有する複合磁性材料である。
【0013】
[6][5]に記載の複合磁性材料を有する電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い磁化と、高い共鳴周波数と、耐酸化性とを両立できる磁性粒子、および、当該磁性粒子が適用された複合磁性材料、当該複合磁性材料を含む電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態に係る磁性ナノ粒子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.磁性ナノ粒子
2.磁性ナノ粒子の製造方法
3.複合磁性材料
4.電子部品
【0017】
(1.磁性ナノ粒子)
本実施形態に係る磁性ナノ粒子は、通常、複数の磁性ナノ粒子を含む粉末の形態で取り扱われる。複数の磁性ナノ粒子を含む粉末の平均粒子径は、用途に応じて選択すればよい。本実施形態では、当該粉末の平均粒子径は5~30nmの範囲内であることが好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る磁性ナノ粒子は、鉄コバルト(FeCo)合金粒子の表面の少なくとも一部が、金属コバルト(Co)により覆われている構成を有している。すなわち、図1に示すように、本実施形態に係る磁性ナノ粒子1は、鉄コバルト合金粒子をコア部2とし、コバルトをシェル部10とするコアシェル型粒子である。本実施形態では、図1に示すように、シェル部10は、コア部2の表面の全部を覆っていることが好ましい。
【0019】
鉄コバルト合金は、磁化が大きく透磁率を高めやすい。一方、鉄コバルト合金の磁気異方性は弱いため、共鳴周波数が低くなってしまう。また、鉄ほどではないが、酸化しやすいため、酸素との接触が短時間であっても酸化が進行してしまう。
【0020】
そこで、本実施形態では、鉄コバルト合金粒子の表面を覆うシェル部をコバルトで構成している。コバルトの磁気異方性は、鉄コバルト合金の磁気異方性よりも強く、また、コア部とシェル部との界面において鉄コバルト合金とコバルトとが交換結合することにより、磁性ナノ粒子全体での共鳴周波数を高くすることができる。
【0021】
さらに、コバルトは鉄コバルト合金よりも耐酸化性に優れているので、コバルトが鉄コバルト合金粒子の表面を覆うことにより、磁性ナノ粒子の酸化の進行を抑制することができる。
【0022】
したがって、磁性ナノ粒子の構造を上記のコアシェル構造とすることにより、磁性ナノ粒子の酸化に伴う磁化の低下を抑制し、共鳴周波数を高めることができる。さらに、十分な磁気異方性を有しているので、磁気損失正接を低減することができる。
【0023】
本実施形態では、コア部の平均径、すなわち、鉄コバルト合金粒子の平均粒子径は5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。平均粒子径が上記の範囲内であることにより、磁性ナノ粒子が超常磁性となり磁気異方性が失われることを防ぎ、コア部の磁化も高く維持できる。
【0024】
一方、鉄コバルト合金粒子の平均粒子径は30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が上記の範囲内であることにより、コア部の磁化が中心までシェル部の磁化と交換結合し、共鳴周波数を高く保つことができる。
【0025】
また、本実施形態では、シェル部の平均厚さは1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましく、2nm以上であることがさらに好ましい。コバルトが上記の範囲内で、鉄コバルト合金粒子の表面を覆うことにより、磁性ナノ粒子の耐酸化性が十分に確保される。
【0026】
一方、シェル部の平均厚さは18nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。コバルトは鉄コバルト合金よりも磁化が小さいので、シェル部の平均厚さを制限することにより、磁性ナノ粒子としての磁化の低下を抑制することができる。その結果、磁性ナノ粒子の透磁率の低下を抑制することができる。
【0027】
さらに、本実施形態では、鉄コバルト合金粒子の平均粒子径をdとし、磁性ナノ粒子の平均粒子径をDとした時に、dおよびDが、0.10<(d/D)<0.50の関係を満足することが好ましく、0.30≦(d/D)≦0.50の関係を満足することがより好ましい。上記の関係は、磁性ナノ粒子に占めるコア部の体積割合を示している。コアの体積が小さすぎると、磁性ナノ粒子としての磁化が低くなってしまい、鉄コバルト合金の高い磁化を有効活用できない傾向にある。一方、コアの体積が大きすぎると、シェルの強い磁気異方性よりも、コアの磁気異方性が支配的になるので、共鳴周波数が低くなり、磁気損失正接も大きくなる傾向にある。本実施形態では、磁性ナノ粒子の平均粒子径Dは、鉄コバルト合金粒子の平均粒子径dに、シェル部の平均厚さの2倍を足した数値とする。
【0028】
なお、シェル部が磁性酸化物から構成される場合、耐酸化性は向上するものの、磁性酸化物の異方性磁界はコバルトの異方性磁界より低く、共鳴周波数を高くすることができない。むしろ、共鳴周波数が低下することもある。
【0029】
また、シェル部が金属ニッケル(Ni)またはニッケルを含む合金から構成される場合、ニッケルおよびニッケルを含む合金の異方性磁界はコバルトよりも低く、磁気損失正接が悪化する傾向にある。
【0030】
鉄コバルト合金において、鉄とコバルトとの合計100mol%中、鉄の含有割合が、50mol%以上90mol%以下であることが好ましく、60mol%以上80mol%以下であることがより好ましい。鉄の含有割合が上記の範囲内である場合、磁化の大きい鉄コバルト合金が得られやすい。
【0031】
また、鉄コバルト合金は、本発明の効果が得られる範囲内において、鉄およびコバルト以外の元素を含んでもよい。具体的には、鉄コバルト合金100mol%中、鉄およびコバルト以外の元素の含有割合が合計で5mol%以下であることが好ましく、2mol%以下であることがより好ましい。鉄およびコバルト以外の不純物元素としては、クロム、マンガン、ニッケル、炭素、酸素、窒素、硫黄、リン等が例示され、これらの元素は通常不可避的不純物として含有される。
【0032】
また、コバルトは、本発明の効果が得られる範囲内において、コバルト以外の元素を含んでもよい。具体的には、コバルト100mol%中、コバルト以外の元素の含有割合が合計で3mol%以下であることが好ましく、2mol%以下であることがより好ましい。コバルト以外の元素としては、炭素、酸素、窒素、塩素、リン等が例示され、これらの元素は通常不可避的不純物として含有される。
【0033】
なお、コバルト100mol%中、鉄およびニッケルの含有割合は合計で3mol%以下であることが好ましく、1mol%以下であることがより好ましい。
【0034】
以上より、所望の磁気特性を高めるために、磁性ナノ粒子を構成する鉄コバルト合金およびコバルトの純度が高い方が好ましい。
【0035】
磁性ナノ粒子は上述したコア部およびシェル部を有していればよく、たとえば、シェル部の表面に、自然酸化に起因する酸化物膜が形成されていてもよい。
【0036】
(2.磁性ナノ粒子の製造方法)
続いて、磁性ナノ粒子を製造する方法について説明する。本実施形態では、液相合成法である金属カルボニル化合物の熱分解反応を利用して磁性ナノ粒子を製造する。
【0037】
まず、コア部となる鉄コバルト合金粒子を作製する。原料として、鉄カルボニル化合物およびコバルトカルボニル化合物を準備する。鉄カルボニル化合物としては、たとえば、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))、ノナカルボニル二鉄(Fe(CO))が例示される。本実施形態では、ペンタカルボニル鉄が好ましい。コバルトカルボニル化合物としては、たとえば、オクタカルボニル二コバルト(Co(CO))、テトラコバルトドデカカルボニル(Co(CO)12)が例示される。本実施形態では、オクタカルボニル二コバルトが好ましい。
【0038】
次に、液相を構成する溶媒および分散剤を準備する。溶媒としては、液状の金属カルボニル化合物と良好に混合され、かつ固形状の金属カルボニル化合物を良好に溶解できるものが挙げられる。また、溶媒は、融点が室温以下で、沸点が金属カルボニル化合物の分解温度以下である必要がある。さらに、溶媒が金属カルボニル化合物および生成した金属ナノ粒子と反応しない必要がある。このような溶媒としては、有機溶媒が例示され、本実施形態では、たとえば、ケロシン、ジクロロベンゼン、1-オクタデセン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンが例示される。
【0039】
分散剤としては、金属カルボニル化合物の熱分解を促進し、生成した鉄コバルト合金粒子が凝集せずに良好に分散できるものであれば特に制限されない。本実施形態では、このような分散剤として、オレイルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、トリオクチルアミン、トリベンジルアミンが例示される。
【0040】
準備した溶媒および分散剤を反応容器内で混合し、混合溶液を加熱する。加熱する温度は、金属カルボニル化合物の熱分解が進行する温度であればよい。本実施形態では、150~300℃の範囲内であることが好ましい。
【0041】
また、鉄カルボニル化合物とコバルトカルボニル化合物と溶媒とを混合し、原料混合溶液を得る。ここで、原料混合溶液中の金属カルボニル化合物の濃度により鉄コバルト合金粒子の粒子径を制御できる。たとえば、原料混合溶液中の金属カルボニル化合物の濃度を高くすると、粒子径の小さい鉄コバルト合金粒子が得られやすい。また、鉄カルボニル化合物中の鉄と、コバルトカルボニル化合物中のコバルトとのモル比を調整することにより、得られる鉄コバルト合金粒子中の鉄とコバルトとの組成比を調整することができる。
【0042】
得られた原料混合溶液を、溶媒と分散剤との加熱混合溶液に注入し、金属カルボニル化合物の熱分解反応を生じさせる。反応時間は熱分解反応が十分に進行するのに要する時間よりも長ければ特に制限されないが、本実施形態では、15分~4時間程度である。なお、原料混合溶液の注入速度により鉄コバルト合金粒子の粒子径を制御できる。たとえば、注入速度を遅くすると、粒子径の大きい鉄コバルト合金粒子が得られやすい。
【0043】
原料混合溶液が加熱混合溶液に注入されると、金属カルボニル化合物は分散剤の存在下で熱分解し、鉄とコバルトとが原子レベルで混合して結合し、ナノメートルスケールの鉄コバルト合金粒子が生成する。
【0044】
生成した鉄コバルト合金粒子と溶液とを固液分離して、鉄コバルト合金粒子を得る。本実施形態では、遠心分離により固液分離を行う。
【0045】
次に、生成した鉄コバルト合金粒子にコバルトからなるシェル部を形成して、磁性ナノ粒子を製造する。
【0046】
シェル部の原料として、コバルトカルボニル化合物を準備する。コバルトカルボニル化合物としては、たとえば、オクタカルボニル二コバルト(Co(CO))、テトラコバルトドデカカルボニル(Co(CO)12)が例示される。本実施形態では、オクタカルボニル二コバルトが好ましい。
【0047】
次に、液相を構成する溶媒および分散剤を準備する。溶媒としては、液状の金属カルボニル化合物と良好に混合され、かつ固形状の金属カルボニル化合物を良好に溶解できるものであれば特に制限されない。このような溶媒としては、有機溶媒が例示され、本実施形態では、たとえば、ジクロロベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンが例示される。
【0048】
分散剤としては、金属カルボニル化合物の熱分解を促進し、シェル部が形成された磁性ナノ粒子が凝集せずに良好に分散できるものであれば特に制限されない。本実施形態では、このような分散剤として、オレイルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン、ジオクチルアミンが例示される。
【0049】
まず、作製した鉄コバルト合金粒子と、コバルトカルボニル化合物と、溶媒と、分散剤と、を反応容器内で混合し混合溶液を加熱する。ここで、鉄コバルト合金粒子を構成する鉄およびコバルトと、コバルトカルボニル化合物中のコバルトとのモル比を調整することにより、シェル部の厚さを調整することができる。
【0050】
なお、加熱する温度は、コバルトカルボニル化合物の熱分解が進行する温度であればよい。本実施形態では、150~250℃の範囲内であることが好ましい。
【0051】
混合溶液の加熱によりコバルトカルボニル化合物の熱分解反応が生じて、コバルトが鉄コバルト合金粒子の表面に析出することにより、シェル部が形成された磁性ナノ粒子が生成する。反応時間は所望のシェル部の厚さが得られるのに要する時間よりも長ければ特に制限されないが、本実施形態では、3~60分程度である。
【0052】
生成した磁性ナノ粒子と溶液とを固液分離して、磁性ナノ粒子を得る。本実施形態では、磁気分離により固液分離を行う。
【0053】
なお、鉄コバルト合金粒子および磁性ナノ粒子は、粒子径が非常に小さく、比表面積が大きい。したがって、磁性ナノ粒子を製造する工程は、コア部およびシェル部の酸化を抑制するために、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0054】
(3.複合磁性材料)
本実施形態に係る複合磁性材料は、上記の磁性ナノ粒子と、絶縁材料とを含み、所定の形状(たとえばコア)を有している。このような複合磁性材料としては、上記の磁性ナノ粒子を含む粉末が、絶縁性樹脂中に分散している材料が例示される。絶縁性樹脂としては、たとえば、ポリスチレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が例示される。
【0055】
本実施形態に係る複合磁性材料を得る方法としては、磁性ナノ粒子を含む粉末と樹脂とを混合し、金型に充填してプレス成形する方法が例示される。本実施形態においては、渦電流損失を発生させないために、複合材料中のナノ粒子を樹脂中によく分散することが好ましい。具体的には、まず、樹脂が溶解した溶剤に、所定量秤量した磁性ナノ粒子を含む粉末を添加して分散させた分散液を乾燥させて(溶剤を除去して)固形物を得る。得られた固形物を成形することにより、樹脂中に磁性ナノ粒子が分散した複合磁性材料が得られる。分散の方法としては、超音波ホモジナイザー、シェイカーミキサー、ビーズミル等の分散機、ニーダー等の混錬機、三本ロールなどのいずれかを用いるか、組み合わせて用いればよい。磁性ナノ粒子間の接触をより確実に防ぐために、表面に樹脂をコーティングした磁性ナノ粒子を用いて成形してもよい。
【0056】
(4.電子部品)
本実施形態に係る電子部品は、上記の複合磁性材料を有していれば特に制限されない。たとえば、インダクタのコアに上記の複合磁性材料を適用した電子部品が例示される。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0058】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(鉄コバルト合金粒子の作製)
不活性雰囲気下において、磁性ナノ粒子のコア部となる鉄コバルト合金粒子を以下に示す方法により作製した。鉄コバルト合金粒子の原料として、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))と、オクタカルボニル二コバルト(Co(CO))と、を準備した。また、溶媒としてケロシンを準備し、分散剤としてオレイルアミンを準備した。実施例3の磁性ナノ粒子を以下のようにして製造した。
【0060】
まず、ケロシン210mLとオレイルアミン3.75gとを混合した溶液を反応容器に投入して160℃に加熱した。次に、ペンタカルボニル鉄2.19gとオクタカルボニル二コバルト0.48gとケロシン14mLとを混合して原料混合溶液を得た。
【0061】
160℃に加熱した反応容器に原料混合溶液を、注入速度28mL/minで注入し、ペンタカルボニル鉄およびオクタカルボニル二コバルトの熱分解反応を十分に進行させるために1時間保持した。
【0062】
1時間保持した後、反応容器を室温まで冷却し、反応溶液をエタノールで2倍に希釈することでナノ粒子の凝集を促進した後、遠心分離により固液分離を行い、作製された鉄コバルト合金粒子を得た。得られた鉄コバルト合金粒子をエタノールで洗浄した。得られた鉄コバルト合金粒子の平均粒径は11nmであった。
【0063】
なお、鉄コバルト合金粒子の平均粒径は以下のようにして測定した。鉄コバルト合金粒子を透過型電子顕微鏡(TEM,日本電子株式会社製 JEM-2100FCS)により観察し、その観察像を画像処理することにより算出した。
【0064】
(シェル部の形成)
次に、不活性雰囲気下において、得られた鉄コバルト合金粒子の表面にシェル部となる金属または合金を以下に示す方法により形成した。シェル部の原料として、オクタカルボニル二コバルトを準備した。また、溶媒としてジクロロベンゼンを準備し、分散剤としてオレイン酸と、トリオクチルホスフィンオキシドと、オレイルアミンとを準備した。
【0065】
得られた鉄コバルト合金粒子0.193gと、オクタカルボニル二コバルト1.57gと、ジクロロベンゼン150mLと、オレイン酸0.318gと、トリオクチルホスフィンオキシド0.146gと、オレイルアミン4.65gと、を反応容器に投入して180℃に加熱し、オクタカルボニル二コバルトが熱分解しシェルが形成されるように5分保持した。
【0066】
5分保持した後、反応容器を室温まで冷却し、磁気分離により固液分離を行い、鉄コバルト合金粒子(コア部)の表面にシェル部が形成された磁性ナノ粒子を得た。得られた磁性ナノ粒子をエタノールで洗浄した。得られた磁性ナノ粒子のシェル部の平均厚さは3nmであった。
【0067】
なお、シェル部の平均厚さは以下のようにして測定した。シェル部の平均厚さは、磁性ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JEM-2100FCS)の走査型透過電子顕微鏡(STEM)モードで観察した電子エネルギー損失分光(EELS)による元素マッピング像を画像処理することにより算出した。
【0068】
また、磁性ナノ粒子の平均粒径Dは、鉄コバルト合金粒子の平均粒径dに、シェル部の平均厚さの2倍を足した数値とした。
【0069】
実施例3と同様にして、鉄コバルト合金粒子の平均粒径が表1に示す値となるように、鉄コバルト合金粒子を作製し、シェル部の平均厚さが表1に示す値となるように、シェル部を形成して、実施例1、2、4~10および比較例1~5の磁性ナノ粒子を得た。比較例1では、シェル部は形成しなかった。比較例2~5では、シェル部の原料として、オクタカルボニル二コバルトと、ペンタカルボニル鉄と、ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac))と、を準備し、シェル部の組成に応じて用いた。
【0070】
なお、原料混合溶液中のペンタカルボニル鉄、オクタカルボニル二コバルトの濃度および原料混合溶液の注入速度を変更することにより、鉄コバルト合金粒子の平均粒径を調整した。また、鉄コバルト合金粒子を構成する金属と、シェル部の原料に含まれる金属と、のモル比を変更することにより、シェル部の平均厚さを調整した。
【0071】
また、走査透過電子顕微鏡(STEM)により得られた磁性ナノ粒子を観察し、電子エネルギー損失分光法(EELS)による元素分析を行った結果、金属磁性ナノ粒子の中心部(コア部)と表層部(シェル部)とで組成が異なり、コア部が鉄コバルト合金からなり、シェル部が、シェル部の原料に含まれる金属またはこれらの合金からなることが確認できた。
【0072】
さらに、得られた磁性ナノ粒子の磁化σを以下のようにして測定した。グローブボックス中で乾燥させた磁性ナノ粒子を専用のカプセル中に入れパラフィンで封止し、振動試料型磁力計(VSM、株式会社玉川製作所製)を用いて飽和磁化を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(複合磁性材料の作製)
得られた磁性ナノ粒子を用いて複合磁性材料を以下に示す方法により作製した。磁性ナノ粒子と、溶媒としてのメシチレンとを重量比で20:80となるように秤量した。秤量した磁性ナノ粒子をメシチレンに分散させ、磁性スラリーを得た。次に、絶縁材料としてのポリスチレンと、溶媒としてのメシチレンとを重量比で20:80となるように秤量した。秤量したポリスチレンをメシチレンに溶解して樹脂溶液を得た。磁性スラリーと樹脂溶液とを重量比で1:1に秤量し混合した。混合溶液を窒素雰囲気下で100℃30分の条件で乾燥し、メシチレンを揮発させて複合磁性材料を得た。なお、以上の工程は、不活性雰囲気下で行った。
【0074】
得られた複合磁性材料では、磁性ナノ粒子の充填率が10体積%であった。
【0075】
大気中で、得られた複合磁性材料を金型に投入し、成形圧力0.25ton/cm、成形温度100℃の条件で成形を行い、サイズが外径7mm、内径3mm、厚さ1mmであるトロイダル形状の成形体を得た。得られた成形体について以下に示す評価を行った。
【0076】
(磁化の損失)
複合磁性材料(成形体)の磁化σを以下のようにして測定した。振動試料型磁力計(VSM、株式会社玉川製作所製)を用いて複合磁性材料の飽和磁化を測定した。上記で測定した磁性ナノ粒子粉末の磁化σと複合磁性材料の磁化σとから、磁化比率r(=σ/σ)を算出した。また、複合磁性材料の重量と、複合磁性材料に含まれる磁性ナノ粒子粉末の重量とから、複合磁性材料100重量%中、磁性ナノ粒子粉末が占める割合(充填率p)を算出した。
【0077】
複合磁性材料に含まれるポリスチレンの磁化はほぼ0であると見なせるので、理想的には、磁化比率rと充填率pとは一致する。しかしながら、複合磁性材料の成形は大気中で行われ、かつ100℃まで加熱されるので、ポリスチレン中に分散している磁性ナノ粒子が酸化される。すなわち、磁性ナノ粒子を構成する磁化が高い金属の一部が、磁化が低い金属酸化物に転換する。その結果、複合磁性材料の磁化σは、当該複合磁性材料に含まれる磁性ナノ粒子が酸化していない場合に示す磁化よりも低くなり、磁化比率rは理想的な値よりも低くなる。
【0078】
したがって、磁化比率rと充填率pとから、磁化の損失(1-(r/p))が算出され、磁化の損失は、磁性ナノ粒子の酸化の程度を反映している。本実施例では、磁化の損失は低い方が好ましく、磁化の損失が10%以下である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0079】
(複素比透磁率)
複合磁性材料の共鳴周波数、1GHzにおける複素比透磁率および磁気損失正接は以下の方法により測定した。まず、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製 N5222A)を使用した同軸Sパラメータ法により、100MHzから18GHzまで周波数を変化させて上記トロイダル形状の複合磁性材料の複素比透磁率の実部(μ’)および虚部(μ”)を測定した。そして、μ”が示す損失のピークにおいて、μ”が最大になる周波数を共鳴周波数とした。また、周波数が1GHzにおけるμ’を複素比透磁率、同じく1GHzにおける虚部と実部との比であるμ”/μ’を磁気損失正接とした。
【0080】
共鳴周波数は高い方が好ましく、本実施例では、共鳴周波数が2.2GHz以上である試料を良好であると判断した。また、磁気損失正接は小さい方が好ましく、本実施例では、磁気損失正接が15%以下である試料を良好であると判断した。また、複素比透磁率は高い方が好ましく、本実施例では、複素比透磁率が2.0以上である試料を好ましいと判断した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、鉄コバルト合金粒子(コア部)の表面に形成されるシェル部が金属コバルトである場合には、磁化の損失が低く、共鳴周波数および磁気損失正接が良好であることが確認できた。
【0083】
これに対して、シェル部を形成しない場合には、複合磁性材料の成形時に酸化が進行し、磁化の損失が非常に高くなることが確認できた。シェル部が鉄である場合には、複合磁性材料の成形時に酸化が急速に進行し、磁化の損失が非常に高くなることが確認できた。シェル部が金属ニッケルまたはニッケルを含む合金である場合には、酸化は抑制されるものの、共鳴周波数および磁気損失正接のいずれも不十分であることが確認できた。
【符号の説明】
【0084】
1…磁性ナノ粒子
2…コア部
10…シェル部
図1