(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142601
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】3次元積層造形体の作製方法、サポート材および物品
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20220922BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20220922BHJP
B29C 64/336 20170101ALI20220922BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220922BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20220922BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/40
B29C64/336
B33Y10/00
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042832
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 良孝
(72)【発明者】
【氏名】横田 耕三
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL24
4F213WL62
4F213WL93
(57)【要約】 (修正有)
【課題】材料押出法による3次元積層造形体の作製において、脱脂・焼成時に3次元積層造形体を適切に支持することができながらも、作製コストを削減することができ、サポート材の回収・再利用が可能な、3次元積層造形体作の作製方法、サポート材および物品を提供する。
【解決手段】3次元積層造形体1を材料押出法により造形する際に、3次元積層造形体1の下部において3次元積層造形体1を支持するサポート材2を形成する、3次元積層造形体1の作製方法であって、サポート材2として、焼成時に3次元積層造形体1の収縮に追随して収縮する、セラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から、収縮緩和層と、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを混合したフィラメント材料から構成され、焼成後に3次元積層造形体1から剥離可能な自己崩壊層と、を形成する、3次元積層造形体の作製方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元積層造形体の材料押出法による造形プロセス中に、前記3次元積層造形体の下部において前記3次元積層造形体を支持するサポート材を形成する、3次元積層造形体の作製方法であって、
前記サポート材として、焼成時に前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層と、を形成する、3次元積層造形体の作製方法。
【請求項2】
前記3次元積層造形体は、セラミックス造形体であり、セラミックス粉末を含有するセラミックス材料を用いて造形され、
前記収縮緩和層は、セラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から形成される、請求項1に記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項3】
前記収縮緩和層を形成するフィラメント材料は、前記セラミックス粉末の含有量が30体積%以上である、請求項2に記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項4】
前記自己崩壊層も、焼成時に前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮するが、前記収縮緩和層よりも焼成時の収縮率が小さい、請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項5】
前記自己崩壊層を形成するフィラメント材料は、前記高融点無機フィラーの含有量が30体積%以上である、請求項1ないし4のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項6】
前記高融点無機フィラーは、前記3次元積層造形体の焼成温度より100℃以上高い溶融温度を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項7】
前記高融点無機フィラーは、平均粒子径が1μm以上40μm以下であり、かつ、焼成前後の平均粒子径の増加率が150%以下である、請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記収縮緩和層および/または前記自己崩壊層を形成するフィラメント材料は、造形温度における粘度が20~500Pa・sである、請求項2ないし7のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項9】
前記自己崩壊層は、焼成後の圧縮強さが5MPa以下である、請求項1ないし8のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項10】
前記サポート材は、前記自己崩壊層の構成比率が5%以上60%以下である、請求項1ないし9のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【請求項11】
前記サポート材は、
脱脂時の熱変形の割合が10%以内であり、
焼成時における前記サポート材と前記3次元積層造形体との収縮率の差が4%以内である、請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記3次元積層造形体は、オーバーハング形状またはブリッジ形状に造形される造形体である、請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
3次元積層造形体の材料押出法による造形プロセス中に、前記3次元積層造形体の下部において前記3次元積層造形体を支持するサポート材であって、
焼成中の前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、
高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から形成され、前記3次元積層造形体と前記収縮緩和層との固着を防止する、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層と、を有する、サポート材。
【請求項14】
前記3次元積層造形体が、オーバーハング形状またはブリッジ形状の造形体である、請求項13に記載のサポート材。
【請求項15】
前記材料押出法が、3次元積層造形技術(Additive Manufacturing,AM)における可塑性を有する材料をノズルより押出し積層することで造形物を作製する工法である、請求項13または14に記載のサポート材。
【請求項16】
前記サポート材の材料が、収縮緩和層はセラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物であり、自己崩壊層は高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物である、請求項13ないし15のいずれかに記載のサポート材。
【請求項17】
焼結温度で最終部品を形成するための焼結可能なセラミックス粉末材料を含む造形材料で押出法により造形された、該粉末材料を最終部品に緻密化する前に、該粉末材料をネットシェイプの物体に保持する1つ以上の樹脂バインダーを含むセラミックス3次元積層造形体と、前記セラミックス3次元積層造形体の表面に隣接して配置されて、該造形体の脱脂および焼結のうち少なくとも1つの間に前記セラミックス3次元積層造形体の下部でそれを支持する、セラミックス3次元積層造形体のためのサポート材であって、請求項13ないし16のいずれかに記載の焼成中の造形体の収縮に追随する収縮緩和層と焼成中の前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、前記3次元積層造形体と前記収縮緩和層の固着を防止する、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層とを併せ持つ複合サポート材と、を含む、物品。
【請求項18】
前記サポート材が、収縮緩和層のセラミックス粉末あるいは自己崩壊層の高融点無機フィラーと、熱可塑性樹脂とを含む混合物からなる材料であって、かつ、収縮緩和層のセラミックス粉末あるいは自己崩壊層の高融点無機フィラーの含有率が30体積%以上の混合物であり、これら混合物の顆粒あるいはこれらコンパウンドをストランド状にしたフィラメントが、造形時の加熱温度において、粘度が20~500Pa・sの流動性を有する材料のものである、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
自己崩壊層の高融点無機フィラーは、造形体の所望の焼結温度より100℃以上高い溶融温度を有し、平均粒子径が1μm以上40μm以下であり、焼成工程においてサポートを除去する際のセラミックス造形体の相対密度が50%以上とし、その際の自己崩壊層の圧縮強さが5MPa以下で、自己崩壊層である無機フィラーの焼き付き度合いが、焼成前の平均粒子径の変化が150%以下になる回収しリサイクルできるものである、請求項17または18に記載の物品。
【請求項20】
複合サポート材中の自己崩壊層の構成比率は、5%以上60%以下であり、複合サポート材の脱脂時の熱変形が10%以下、焼成時のセラミックス造形体と複合サポートの収縮率の差が4%以内なるセラミックス造形用複合サポート材である請求項17ないし19のいずれかに記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元積層造形体を材料押出法による造形プロセス中に、3次元積層造形体の下部において、3次元積層造形体を支持するサポート材を用いた3次元積層造形体の作製方法、サポート材および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元積層造形技術(Additive Manufacturing、以下、AMともいう)は、3次元CADデータなどをもとに付加加工により立体形状を作製する技術である。AMは大別して7種類の工法があるが、その一種である材料押出法は、可塑性を有する材料をノズルより押出し積層することで造形物を作製する工法であり、材料として、熱により溶融する熱可塑性樹脂を用いて造形物を製作することが一般的に知られている。また、材料押出法において、造形体の下部に造形体を支持する部材がない形状(たとえばオーバーハング形状やブリッジ形状)を造形する場合、造形体を支持するためのサポート材を用いて、造形体を造形する技術が知られている。
【0003】
その際、サポート材を、造形体と同じ材料で構成した場合、脱脂・焼成後に、サポート材と造形体とが溶着してしまい、サポート材を造形体から除去できなくなってしまう問題があった。そこで、サポート材を、造形体との融着を防止するためのインターフェース層(剥離層)と、造形体の脱脂・焼成工程における収縮を吸収するためのサポート材本体とから構成し、サポート材本体と造形体との間にインターフェース層を介在させて焼成することで、焼成後に、サポート材を造形体から除去しやすくする方法が開示されている(たとえば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-522105公報
【特許文献2】特開2020-501022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記インターフェース層は、造形体から剥離しやすいように、造形体で使用される材料とは異なる材料で構成され、また、造形体と同程度に収縮しないため、造形体の収縮を吸収するために、インターフェース層を薄層とし、造形体と同じ材料(造形体と同程度の収縮率を有する材料)から構成されるサポート材本体を厚くする構成が採用されていた。しかし、造形体をジルコニアセラミックスなどの高価な材料で形成する場合、サポート材本体も造形体と同じ高価な材料で形成することとなるため、インターフェース層を薄層としてしまうと、その分、サポート材本体を厚く形成しなくてはならず、造形体の作製コストが高くなってしまうという問題があった。さらに、サポート材は、焼成後に廃棄されるため、大量の廃材が生じ、環境上の問題も生じていた。
【0006】
本発明は、材料押出法による3次元積層造形体の作製において、脱脂・焼成時において3次元積層造形体を適切に支持することができながらも、作製コストを削減することができ、サポート材の回収・再利用が可能な、3次元積層造形体作の作製方法、サポート材および物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記(1)ないし(12)の3次元積層造形体の作製方法を要旨とする。
(1)3次元積層造形体の材料押出法による造形プロセス中に、前記3次元積層造形体の下部において前記3次元積層造形体を支持するサポート材を形成する、3次元積層造形体の作製方法であって、前記サポート材として、焼成時に前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層と、を形成する、3次元積層造形体の作製方法。
(2)前記3次元積層造形体は、セラミックス造形体であり、セラミックス粉末を含有するセラミックス材料を用いて造形され、前記収縮緩和層は、セラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から形成される、上記(1)に記載の3次元積層造形体の作製方法。
(3)前記収縮緩和層を形成するフィラメント材料は、前記セラミックス粉末の含有量が30体積%以上である、上記(2)に記載の3次元積層造形体の作製方法。
(4)前記自己崩壊層も、焼成時に前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮するが、前記収縮緩和層よりも焼成時の収縮率が小さい、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(5)前記自己崩壊層を形成するフィラメント材料は、前記高融点無機フィラーの含有量が30体積%以上である、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(6)前記高融点無機フィラーは、前記3次元積層造形体の焼成温度より100℃以上高い溶融温度を有する、上記(1)または(5)に記載の3次元積層造形体の作製方法。
(7)前記高融点無機フィラーは、平均粒子径が1μm以上40μm以下であり、かつ、焼成前後の平均粒子径の増加率が150%以下である、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(8)前記収縮緩和層および/または前記自己崩壊層を形成するフィラメント材料は、造形温度における粘度が20~500Pa・sである、上記(2)ないし(7)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(9)前記自己崩壊層は、焼成後の圧縮強さが5MPa以下である、上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(10)前記サポート材は、前記自己崩壊層の構成比率が5%以上60%以下である、上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のサポート材。
(11)前記サポート材は、脱脂時の熱変形の割合が10%以内であり、焼成時における前記3次元積層造形体との収縮率の差が4%以内である、上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
(12)前記3次元積層造形体は、オーバーハング形状またはブリッジ形状に造形される造形体である、上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の3次元積層造形体の作製方法。
【0008】
また、本発明は下記(13)ないし(16)のサポート材を要旨とする。
(13)3次元積層造形体の材料押出法による造形プロセス中に、前記3次元積層造形体の下部において前記3次元積層造形体を支持するサポート材であって、焼成中の前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物のフィラメント材料から形成され、前記3次元積層造形体と前記収縮緩和層との固着を防止する、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層と、を有する、サポート材。
(14)前記3次元積層造形体が、オーバーハング形状またはブリッジ形状の造形体である、上記(13)に記載のサポート材。
(15)前記材料押出法が、3次元積層造形技術(Additive Manufacturing,AM)における可塑性を有する材料をノズルより押出し積層することで造形物を作製する工法である、上記(13)または(14)に記載のサポート材。
(16)前記サポート材の材料が、収縮緩和層はセラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物であり、自己崩壊層は高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物である、上記(13)ないし(15)のいずれかに記載のサポート材。
【0009】
さらに、本発明は下記(17)ないし(20)の物品を要旨とする。
(17)焼結温度で最終部品を形成するための焼結可能なセラミックス粉末材料を含む造形材料で押出法により造形された、該粉末材料を最終部品に緻密化する前に、該粉末材料をネットシェイプの物体に保持する1つ以上の樹脂バインダーを含むセラミックス3次元積層造形体と、前記セラミックス3次元積層造形体の表面に隣接して配置されて、該造形体の脱脂および焼結のうち少なくとも1つの間に前記セラミックス3次元積層造形体の下部でそれを支持する、セラミックス3次元積層造形体のためのサポート材であって、上記(13)ないし(16)のいずれかに記載の焼成中の造形体の収縮に追随する収縮緩和層と焼成中の前記3次元積層造形体の収縮に追随して収縮する収縮緩和層と、前記3次元積層造形体と前記収縮緩和層の固着を防止する、焼成後に前記3次元積層造形体から剥離可能な自己崩壊層とを併せ持つ複合サポート材と、を含む、物品。
(18)前記サポート材が、収縮緩和層のセラミックス粉末あるいは自己崩壊層の高融点無機フィラーと、熱可塑性樹脂とを含む混合物からなる材料であって、かつ、収縮緩和層のセラミックス粉末あるいは自己崩壊層の高融点無機フィラーの含有率が30体積%以上の混合物であり、これら混合物の顆粒あるいはこれらコンパウンドをストランド状にしたフィラメントが、造形時の加熱温度において、粘度が20~500Pa・sの流動性を有する材料のものである、上記(17)に記載の物品。
(19)自己崩壊層の高融点無機フィラーは、造形体の所望の焼結温度より100℃以上高い溶融温度を有し、平均粒子径が1μm以上40μm以下であり、焼成工程においてサポートを除去する際のセラミックス造形体の相対密度が50%以上とし、その際の自己崩壊層の圧縮強さが5MPa以下で、自己崩壊層である無機フィラーの焼き付き度合いが、焼成前の平均粒子径の変化が150%以下になる回収しリサイクルできるものである、上記(17)または(18)に記載の物品。
(20)複合サポート材中の自己崩壊層の構成比率は、5%以上60%以下であり、複合サポート材の脱脂時の熱変形が10%以下、焼成時のセラミックス造形体と複合サポートの収縮率の差が4%以内なるセラミックス造形用複合サポート材である上記(17)ないし(19)のいずれかに記載の物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料押出法による3次元積層造形体の作製において、脱脂・焼成時に3次元積層造形体を適切に支持することができた上で、作製コストも削減することができ、サポート材の回収・再利用が可能である、3次元積層造形体作の作製方法、サポート材および物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るセラミックス造形体の作製方法を説明するための図である。
【
図2】脱脂・焼成前後におけるセラミックス造形体1およびサポート材2の状態を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係るサポート材の構成を示す概要図である。
【
図4】自己崩壊層に使用したシリカ粉末の平均粒子径と、自己崩壊層の加熱による熱変形率との関係を示すグラフである。
【
図5】自己崩壊層における、シリカ粉末の平均粒子径と、焼成温度と焼成後の圧縮強さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図に基づいて、本発明の実施形態について説明する。なお、以下においては、本発明に係る3次元積層造形体の好ましい一例として、セラミックス材料から構成されたセラミックス造形体を例示して説明するが、材料押出法により3次元積層造形体を作製することが可能な材料を用いて造形した造形体であれば、セラミックス造形体に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本実施形態に係るセラミックス造形体1の作製方法を説明するための図であり、
図2は、脱脂・焼成前後におけるセラミックス造形体1およびサポート材2の状態を説明するための図である。サポート材2は、
図1に示すように、セラミックス造形体1を、セラミックス造形体1の下部に支えがない形状(たとえば、
図1に示すブリッジ形状や、図示しないオーバーハング形状など)に造形する際に、脱脂・焼成時においてセラミックス造形体1が変形しないように、セラミックス造形体1を支持するためのものである。ここで、セラミックス造形体1は、造形後に脱脂・焼成を行うことで、最終製品のセラミックス造形体1として作製される。セラミックス造形体1を脱脂・焼成する場合、
図2に示すように、セラミックス造形体1は、脱脂・焼成前と比べて、脱脂・焼成後に収縮する。そのため、サポート材2には、
図2に示すように、脱脂・焼成時に、溶倒する(熱変形で倒れる)ことなく、かつ、セラミックス造形体1の収縮に合わせて収縮することで、セラミックス造形体1を継続的に支持できるものであることが望まれる。また、セラミックス造形体1の焼成後は、セラミックス造形体1からサポート材2を除去する必要があるため、サポート材2は、焼成後にセラミックス造形体1から容易に除去できる部材であることが望まれる。このような特性を備えるため、本実施形態に係るサポート材2は、以下のような構成を有する。
【0014】
図3は、本実施形態に係るサポート材2の構成を示す概要図である。本実施形態に係るサポート材2は、
図3に示すように、収縮緩和層10と、自己崩壊層20とを有する。また、本実施形態では、
図3に示すように、セラミックス造形体1に接するサポート材2の両端が自己崩壊層20により構成され、セラミックス造形体1に接しない、自己崩壊層20に挟まれた位置に収縮緩和層10が構成される。
【0015】
収縮緩和層10は、脱脂・焼成工程においてセラミックス造形体1と同程度の比率で収縮する材料から形成されることが好ましく、セラミックス造形体1と同じ材料で形成することができる。たとえば、セラミックス造形体1の材料として、ジルコニアセラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物を用いる場合、収縮緩和層10の材料としても、ジルコニアセラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを含む混合物を用いることができる。このように、収縮緩和層10をセラミックス造形体1と同じ材料で構成することで、収縮緩和層10は、焼成時にセラミックス造形体1と同程度の比率で収縮することができ、その結果、焼成時におけるセラミックス造形体1とサポート材2との収縮率の差を小さくすることができる。
【0016】
本実施形態では、ジルコニアセラミックス粉末と熱可塑性樹脂とを、セラミックス造形体1と同じ組成で混合したフィラメント材料は、フィラメントとして押出ヘッドへ挿入され、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位から連続的に押し出され積層することで、収縮緩和層10が構成される。収縮緩和層10のフィラメント材料においては、セラミックス粉末の含有率を30体積%以上とすることが好ましい。セラミックス粉末の含有率を30%以下未満とした場合、セラミックス造形体1と収縮率の差が大きくなりすぎてしまう(セラミックス造形体1に比べて焼成収縮が大きくなりすぎてしまう)とともに、支持体としての機能を失う(溶倒する)支障がありうる。また、収縮緩和層10のフィラメント材料を、造形温度における粘度が20~500Pa・sとなるように調整することが好ましい。フィラメント材料の粘度の調整は、セラミックス粉末の含有率の他に樹脂の種類などによって調整することができる。
【0017】
また、収縮緩和層10とセラミックス造形体1とを、異なる材料や異なる配合で形成してもよい。収縮緩和層10およびセラミックス造形体1の材料を、異なる材料とする場合は、焼成時における収縮挙動がほぼ同じ(たとえば収縮率の差が4%以内)の材料とすることが好ましい。また、収縮緩和層10とセラミックス造形体1の材料を、同じ原料を用いるとともに、その原料の配合比率を変える構成とすることもできる。
【0018】
自己崩壊層20は、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを含む混合物からなるフィラメント材料を押し出して積層することで形成される。特に、自己崩壊層20において使用される高融点無機フィラーは、セラミックス造形体1の焼成後も再利用できるように、セラミックス造形体1の予定焼結温度よりも100℃以上高い溶融温度を有することを特徴とする。たとえば、セラミックス造形体1の材料としてジルコニアセラミックスを用いる場合、セラミックス造形体1が変形しないように、セラミックス造形体1の相対密度が50%以上となる1150℃で焼成が行われることが多い。この場合、自己崩壊層20の高融点無機フィラーとして、1250℃以上の融点を有するシリカ粉末(融点は1650℃)を用いることができる。
【0019】
自己崩壊層20で用いられる高融点無機フィラーの粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。高融点無機フィラーの平均粒子径を1μm未満とした場合、後述するように、焼成後の自己崩壊層20の圧縮強さが高くなってしまい、セラミックス造形体1からサポート材2を容易に除去することができなくなるおそれがあるためである。また、高融点無機フィラーの粒子径は、平均粒子径が40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。後述するように、高融点無機フィラーは、平均粒子径が大きくなるほど脱脂時における自己崩壊層20の熱変形が大きくなる傾向にあり、平均粒子径が40μmを超えてしまうと、サポート材2が溶倒し、サポート材2でセラミックス造形体1を支持できないおそれが生じるためである。
【0020】
また、本実施形態に係るサポート材2では、自己崩壊層20に含まれる高融点無機フィラーを回収し、再利用できることも特徴としている。ここで、高融点無機フィラーを回収して再利用する場合、再利用する高融点無機フィラーの粒子径のバラツキが大きいと、再利用時に、脱脂工程における自己崩壊層20の熱変形、および、焼成工程における自己崩壊層20の収縮を制御することが困難となる。そのため、自己崩壊層20に含まれる高融点無機フィラーにおいて、焼成前後における平均粒子径の増加率が150%以下となるように、セラミックス造形体1が作製される。具体的には、サポート材2を焼成する温度が所定温度以上となると、焼成後の高融点無機フィラーの平均粒子径が大きくなる傾向にある。そのため、たとえば、シリカ粉末を高融点無機フィラーとして用いた自己崩壊層20を有するサポート材2では、サポート材2の焼成温度を1400℃未満とすることで、焼成前後におけるシリカ粉末の平均粒子径の増加率を概ね150%以下に抑えることができる。
【0021】
本実施形態では、シリカ粉末と熱可塑性樹脂の混合物をストランド状にしたフィラメント材料を、材料押出法により積層することで、自己崩壊層20が形成される。自己崩壊層20のフィラメント材料は、シリカ粉末(高融点無機フィラー)の含有率を30体積%以上とすることが好ましい。また、自己崩壊層20のフィラメント材料を積層して自己崩壊層20を形成しやすいように、自己崩壊層20のフィラメント材料を、造形温度における粘度が20~500Pa・sとなるように調整することが好ましい。さらに、本実施形態では、焼成後にサポート材2をセラミックス造形体1から剥離しやすいように、焼成後における自己崩壊層20の圧縮強さが5MPa以下となるように、自己崩壊層20が構成される。なお、後述するように、焼成後における自己崩壊層20の圧縮強さは、焼成温度と自己崩壊層20の高融点無機フィラーの平均粒子径によって調整することができるため、予定焼成温度に応じて、自己崩壊層20の圧縮強さが5MPa以下となるように、高融点無機フィラーの平均粒子径を決定することが好ましい。
【0022】
サポート材2は、脱脂・焼成時においてセラミックス造形体1を継続的に支持できるように、脱脂工程における熱変形が少なく、また、焼成工程においてセラミックス造形体1と同程度に収縮することが望ましい。また、サポート材2は、作製コストを削減しながら、材料の廃棄量を削減できることが望ましい。そのため、本実施形態に係るサポート材2は、脱脂工程における熱変形率が10%以内であり、かつ、焼成工程におけるサポート材2とセラミックス造形体1との収縮率の差が4%以内となるように、収縮緩和層10および自己崩壊層20が構成されている。また、本実施形態に係るサポート材2では、作製コストを削減しながらも、廃材を少なくするために、比較的安価な材料で作製できる自己崩壊層20の構成比率を多くするとともに、自己崩壊層20に使用される高融点無機フィラーが再利用可能となるように構成されている。以下に、本実施形態に係るサポート材2の構成例について説明する。
【0023】
(1)脱脂工程での熱変形量について
脱脂工程は、セラミックス造形体1およびサポート材2に含まれるバインダー樹脂などの有機物を加熱により熱分解、燃焼させて除去する工程である。脱脂工程では、バインダー樹脂の軟化により、セラミックス造形体1およびサポート材2に変形が生じ、変形量の大きいものは、サポート材2として適さない。そのため、本実施形態に係るサポート材2では、脱脂時の熱変形率が、脱脂終了時(多くは600℃)において10%以内となるように構成される。以下においては、脱脂時における熱変形量が10%以内となる、サポート材2の構成について検証した結果を示す。
【0024】
異なる粒子径のシリカ粉末(2~35μm)を用い、これらのシリカ粉末の含有量を40体積%として自己崩壊層20を作製し、熱機械分析装置を用いて、加熱中の各サンプルの熱変形率(%)を測定した。また、比較例として、セラミックス造形体1および収縮緩和層10で用いられるジルコニア(含有量を40体積%とした)を用いたサンプルの加熱中の熱変形率(%)も測定した。
図4に評価の結果を示す。なお、
図4において、(A)は2.3μmのシリカ粉末を用いたサンプルの評価結果を示し、(B)は4.0μmのシリカ粉末を用いたサンプルの評価結果を示す。また、(C)は8.5μmのシリカ粉末を用いたサンプルの評価結果を示し、(D)は34.5μmのシリカ粉末を用いたサンプルの評価結果を示す。さらに、(X)はジルコニアを用いた比較例の評価結果を示す。
【0025】
図4に示すように、自己崩壊層20に、平均粒子径が2~4μmのシリカ粉末を用いた場合、ジルコニアを用いた比較例と比べて、熱変形率の乖離が小さく、脱脂時に変形しにくいことがわかった。特に、2~4μmの平均粒子径のシリカ粉末を用いた場合には、脱脂時の変形率が10%以内となり、サポート材2が熱変形により溶倒するおそれが少なくなり、サポート材2として適することがわかった。一方で、平均粒子径が8~35μmのシリカ粉末を用いた場合は、ジルコニアを用いた比較例と比べて、熱変形率が大きくなることがわかった。
【0026】
ただし、自己崩壊層20に平均粒子径が8~35μmのシリカ粉末を用いる場合も、ジルコニアを用いる収縮緩和層10と、シリカ粉末を用いる自己崩壊層20の構成比率を調整することで、サポート材2の熱変形の影響を軽減することができる。たとえば、自己崩壊層20に含まれるシリカ粉末の平均粒子径が2.3μmまたは4.0μmの場合は、脱脂時の熱変形が小さいため、サポート材2における自己崩壊層20の構成比率を最大で60%まで上げることが可能である。一方で、自己崩壊層20のシリカ粉末の平均粒子径が8.5μmおよび34.5μmの場合は、脱脂工程での熱変形が大きくなるため、サポート材2における自己崩壊層20の構成比率は、最大で20%とされる。このように、本実施形態に係るサポート材2では、自己崩壊層20で使用するシリカ粉末の平均粒子径と、自己崩壊層20の構成比率とを調整することで、脱脂工程におけるサポート材2の熱変形率を10%以内に調整することができる。
【0027】
(2)サポート材2の焼成時の収縮率について
本実施形態では、焼成工程において、サポート材2を、セラミックス造形体1に追随して収縮させるため、収縮緩和層10において、セラミックス造形体1と同じ材料を使用することが好ましい。ここで、セラミックス造形体1および収縮緩和層10において、ジルコニアセラミックスなどのセラミックス材料を使用する場合、ジルコニアセラミックスなどのセラミックス材料は非常に高価なものが多いため、サポート材2における収縮緩和層10の構成比率はできるだけ小さくし、自己崩壊層20の構成比率をできるだけ大きくすることが好ましい。しかしながら、自己崩壊層20の構成比率を大きくしすぎてしまうと、焼成時において、サポート材2が、セラミックス造形体1の収縮に追随できず(セラミックス造形体1の収縮を吸収することができず)、セラミックス造形体1に破壊が生じてしまうおそれがある。したがって、サポート材2の収縮緩和層10と自己崩壊層20との構成比率を、セラミックス造形体1に破壊が生じないようにしながらも、低コスト化が実現可能となる、適切な範囲とすることが望ましい。
【0028】
そこで、本実施形態に係るサポート材2では、サポート材2およびセラミックス造形体1を焼成した場合に、サポート材2の収縮率が、セラミックス造形体1の収縮率と比べて4%以内、好ましくは3%以内となるように調整が行われる。ここで、セラミックス造形体1の焼成工程においては、セラミックス造形体1の相対密度が50%以上に達した段階で、セラミックス造形体1およびサポート材2を焼成炉から取り出し、サポート材2をセラミックス造形体1から除去し回収した後に、再度、セラミックス造形体1のみを目的とする温度まで昇温し焼結することができる。セラミックス造形体1の相対密度が50%未満の場合に、サポート材2を除去すると、その後の焼成工程においてセラミックス造形体1が支持をなくし変形するおそれがあるためである。セラミックス造形体1の材料をジルコニアセラミックスとした場合、相対密度が50%となる焼成温度は約1150℃となる。そのため、セラミックス造形体1の材料をジルコニアセラミックスとした場合、1150℃で焼成するまで、セラミックス造形体1とサポート材2の収縮率の差を4%以内、好ましくは3%以内とすることが望ましい。
【0029】
サポート材2においては、収縮緩和層10と自己崩壊層20との構成比率を調整することで、焼成時におけるセラミックス造形体1とサポート材2との収縮率の差を4%以内下に制御することが可能となる。具体的には、自己崩壊層20の構成比率は、5%以上60%以下とすることが好ましく、10%以上50%以下とすることがより好ましい。なお、自己崩壊層20の構成比率を5%以上としたのは、自己崩壊層20の構成比率を5%未満とした場合に、セラミックス造形体1と自己崩壊層20との界面に、若干の焼き付きが発生し、セラミックス造形体1からサポート材2を除去する際に、自己崩壊層20の一部がセラミックス造形体1に融着するとともに、自己崩壊層20に含まれる高融点無機フィラーの回収量が著しく少なくなってしまい、サポート材2の廃棄量が多くなってしまうおそれがあるためである。一方、自己崩壊層20の構成比率を60%より多くした場合、自己崩壊層20は収縮緩和層10と比べて焼成時の収縮率が低いため、サポート材2とセラミックス造形体1との収縮差が大きくなり、焼成亀裂などの欠陥を誘発してしまうおそれがあるためである。
【0030】
また、自己崩壊層20に含まれる高融点無機フィラーの粒子径によっても、自己崩壊層20の構成比率を調整する必要がある。たとえば、セラミックス造形体1および収縮緩和層10にジルコニア粉末を用い、自己崩壊層20にシリカ粉末を用い、焼成温度を1150℃とし、焼成後にサポート材2を除去する場合、セラミックス造形体1とサポート材2の焼成時の収縮率の差を3%以内にするには、シリカ粉末の粒子径が2.3μm、4.0μm、8.5μmの場合、自己崩壊層20の構成比率を60%まで上げることが可能である。一方、シリカ粉末の粒子径が34.5μmの場合、自己崩壊層20の構成比率を50%まで上げることができる。
【0031】
このように、本実施形態に係るサポート材2では、自己崩壊層20の組成(たとえば自己崩壊層20に用いられる高融点無機フィラーの平均粒子径や含有量)や収縮緩和層10と自己崩壊層20の構成比率を調整することで、脱脂時の熱変形の割合を10%以内に制御することができ、また、焼成時におけるサポート材2の収縮率を、セラミックス造形体1の収縮率に対して4%以内、より好ましくは3%以内に制御することができる。その結果、サポート材2が、脱脂工程において溶倒することなく、また、焼成工程においてセラミックス造形体1の収縮に追従して収縮することで、セラミックス造形体1を継続的に支持することができる。
【0032】
(3)サポート材2の回収・再利用に適した焼付き度合および自己崩壊強さ
サポート材2は、焼成後に、セラミックス造形体1から容易に除去できることが望ましい。焼成工程においては、自己崩壊層20に含まれる高融点無機フィラーも焼結するため、焼成後の自己崩壊層20が高い圧縮強さを備えた場合に、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から除去することが困難となる。そのため、本実施形態において、自己崩壊層20の焼成後の圧縮強さが、自己崩壊層20を容易に崩壊、回収が可能な5MPa以下となるように、自己崩壊層20が構成される。
【0033】
図5に、様々な平均粒子径のシリカ粉末(高融点無機フィラー)を用いて作製した自己崩壊層20を、各焼成温度で焼成した場合の圧縮強さを示す。平均粒径2.3μmのシリカ粉末を用いて1400℃で焼成した自己崩壊層20(A)では、自己崩壊層20の圧縮強さが5MPaを超えるため、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から除去することが困難となる。一方、平均粒径4μm以上のシリカ粉末を用いて1400℃で焼成した自己崩壊層20(B)~(D)では、自己崩壊層20の圧縮強さが5MPa以下となるため、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から容易に除去することが可能となる。また、1300℃で焼成した場合も同様に、平均粒径2.3μmのシリカ粉末を用いた自己崩壊層20(E)では、自己崩壊層20の圧縮強さが5MPaを超えてしまい、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から除去することは困難となるが、平均粒径4μm以上のシリカ粉末を用いた自己崩壊層20(F)~(H)では、自己崩壊層20の圧縮強さは5MPa以下となり、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から容易に除去することが可能となる。さらに、
図4に示すように、自己崩壊層20を1200℃で焼成した場合、および、1100℃で焼成した場合には、自己崩壊層20(I)~(L),(M)~(P)の圧縮強さは5MPa以下となり、平均粒径2.3μmのシリカ粉末を用いた場合でも、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から容易に除去することが可能となった。このように、本実施形態に係る自己崩壊層20では、焼成後の圧縮強さを5MPa以下とするために、平均粒径4μm以上のシリカ粉末を用いることが好ましいが、平均粒径4μm未満のシリカ粉末を用いる場合でも、焼成温度を制御することで、焼成後の圧縮強さを5MPa以下とすることができる。
【0034】
また、本実施形態に係るサポート材2では、廃材量を削減するために、自己崩壊層20は回収、再利用に適した材料で構成することが好ましい。ここで、自己崩壊層20を回収、再利用するためには、焼成前後の高融点無機フィラーの粒子径に大きな変化がないことが求められる。焼成後の高融点無機フィラーの粒子径のバラツキが大きくなると、熱変形および焼成収縮の制御が困難となるため、再利用には適さなくなるためである。そのため、本実施形態においては、自己崩壊層20の高融点無機フィラーとして、焼成後の平均粒子径(累積50%)の増加率が150%以下であり、かつ、平均粒子径が40μm以下のものが使用される。
【実施例0035】
本実施例では、セラミックス造形体1および収縮緩和層10のセラミックス粉末として、3molY-ジルコニア粉末(平均粒子径0.71μm)を用い、自己崩壊層20の高融点無機フィラーとしてシリカ粉末(平均粒子径2.3~34.5μm)を用いた。また、樹脂バインダーには、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂およびポリエチレン系樹脂に、滑剤および可塑剤を適量加えたものを用いた。
【0036】
ジルコニア粉末またはシリカ粉末が40体積%となるように、樹脂バインダーを混合し、加圧式ニーダー(トーシン製、TD0.3-3)にて150℃で加熱混練し、押出機 (製品名「Noztek Pro HT」、Noztek社製)を用いて直径3mm程度の棒状に押出すことでジルコニアフィラメント材料およびシリカフィラメント材料を調製した。
【0037】
セラミックス造形体1およびサポート材2の造形は、熱溶解積層方式デスクトップ3Dプリンタ(製品名「MF-2200D」、武藤工業製)を用いて行った。この装置は造形ノズルを2つ有しており、一方のノズル1からセラミックスフィラメント材料を押出すことでセラミックス造形体1および収縮緩和層10を造形することができ、もう一方のノズル2からシリカフィラメント材料を押出すことで自己崩壊層20を造形することができる。
【0038】
本実施例では、上記熱溶解積層方式デスクトップ3Dプリンタを用いて、収縮緩和層10に上記のジルコニアフィラメント材料を使用し、自己崩壊層20に上記のシリカフィラメント材料を使用し、下記表1に示す構成比率において、収縮緩和層10と自己崩壊層20とを構成することで、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2を作製した。また、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2では、自己崩壊層20を、下記表1に示す平均粒子径のシリカ粉末を使用して構成している。
【表1】
【0039】
次に、上記表1に基づいて、実施例1~8および比較例1~4における、脱脂時におけるサポート材2の熱変形率LD、焼成時におけるサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS、焼成後の自己崩壊層20の圧縮強さ、および、焼成前後の自己崩壊層20の粒径変化率の測定結果について説明する。
【0040】
まず、脱脂時におけるサポート材2の熱変形率LD、焼成時におけるサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LSについて説明する。脱脂時におけるサポート材2の熱変形率LD、焼成時におけるサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LSの測定では、直径1.0mmの造形ノズルを用い、積層ピッチ150μm、造形ノズル温度120℃、造形テーブル温度75℃の条件にて、おおよそ幅3mm×長さ3mm×高さ3mmとなるように、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2を造形した。
【0041】
また、脱脂時における熱変形率LDおよび焼成時におけるサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LSの評価には、熱機械分析装置(製品名「TMA402 F1 Hyperion」、NETZSCH社製)を使用した。具体的には、アルミナ製押し棒を熱機械分析装置に装着し、25℃~600℃の範囲においては、昇温速度5℃/分、窒素雰囲気、荷重5mNの条件とし、600℃~1000℃の範囲においては、昇温速度5℃/分、大気雰囲気、荷重5mNの条件とし、1000℃~1400℃の範囲においては昇温速度1℃/分、大気雰囲気、荷重5mNの条件として、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の長さを測定した。
【0042】
そして、測定した実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の長さに基づいて、下記式(1)により、実施例1~8および比較例1~4の脱脂時のサポート材2の熱変形率LDを算出した。
脱脂時のサポート材2の熱変形率LD(%)=(L1-L0)/L0×100 ・・・(1)
なお、上記式(1)において、L0は室温での実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の試料長さ(μm)であり、L1は25~600℃の範囲において最も変形量が大きいときの実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の試料長さ(μm)である。
【0043】
さらに、下記式(2),(3)により、焼成時のセラミックス造形体1の収縮率LS1と、焼成時のサポート材2の収縮率LS2とを求めることで、焼成時におけるサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS=LS1-LS2)を算出した。
焼成時のセラミックス造形体1の収縮率LS1(%)=(L31-L21)/L21×100 …(2)
焼成時のサポート材2の収縮率LS2(%)=(L32-L22)/L22×100 …(3)
なお、上記式(2)において、L21は、ジルコニアが焼成収縮し始めるときの温度(1000℃)における、セラミックス造形体1の試料長さ(μm)であり、L31は、上記表1に示すサポート材2の回収温度(1150~1400℃)におけるセラミックス造形体1の試料長さ(μm)である。また、上記式(3)において、L22は、ジルコニアが焼成収縮し始めるときの温度(1000℃)における、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の試料長さ(μm)であり、L32は、上記表1に示すサポート材2の回収温度(1150~1400℃)における、実施例1~8および比較例1~4のサポート材2の試料長さ(μm)である。
【0044】
ここで、サポート材2の脱脂時における熱変形率LDは、上記式(1)で求めているが、脱脂工程においてサポート材2を600℃以下で加熱すると、サポート材2内のバインダー樹脂などの有機物が加熱により熱分解、燃焼し、サポート材2は収縮するため、上記表1において、熱変形率LDは、マイナスで表記されることとなる。しかしながら、本発明における「サポート材2の脱脂時における熱変形率」とは、サポート材2が脱脂工程において変形する割合を意味するため、本実施形態では、上記表1の熱変形率LDの絶対値と比較して評価することとする。その場合、上記表1に示すように、実施例1~8では、いずれもサポート材2の脱脂時における熱変形率LDの絶対値が10%以内となることがわかった。また、上記表1に示すように、焼成時のサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS1-LS2)は、サポート材2を除去する回収温度(1150~1200℃)において、4%以内となった。このことから、実施例1~8のサポート材2では、脱脂時の溶倒を抑制することができ、焼成時にセラミックス造形体1に追従して収縮することが可能となり、脱脂・焼成工程においてセラミックス造形体1を継続的に支持することが可能となった。
【0045】
一方、比較例1~4では、サポート材2の脱脂時における熱変形率LDの絶対値が10%を超えるか、または、焼成時のサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS1-LS2)が、サポート材2を除去する回収温度において4%を超えてしまい、脱脂・焼成工程においてセラミックス造形体1を継続的に支持することができないおそれが生じた。すなわち、比較例1~4では、以下の点を除いて、実施例1~8と同様の方法で作製している。具体的には、比較例1では、サポート材2における自己崩壊層20の構成比率を上限の60%を超える80%とし、比較例2および比較例3では、サポート材2の回収温度を1200℃よりも高い1300℃、1400℃とそれぞれし、比較例4ではサポート材2を自己崩壊層20のみで作製した。
【0046】
上記表1に示すように、比較例1,4では、脱脂時のサポート材2の熱変形量LDの絶対値が10%より大きくなり、サポート材2が溶倒するおそれが生じた。また、比較例2~4では、焼成時におけるセラミックス造形体1とサポート材2との収縮率の差LS(LS1-LS2)が4%よりも大きくなり、焼成時にセラミックス造形体1を破壊してしまうおそれが生じた。このように、比較例1~4では、サポート材2の脱脂時における熱変形率LDの絶対値が10%を超えるか、または、焼成時のサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS1-LS2)が、サポート材2を除去する回収温度において4%を超えてしまい、脱脂・焼成工程においてセラミックス造形体1を継続的に支持することができないおそれが生じた。
【0047】
次に、サポート材2を構成する、焼成後の自己崩壊層20(実施例1~8および比較例1~4)の圧縮強さ、および、焼成前後の自己崩壊層20の粒径変化率について説明する。焼成後の自己崩壊層20の圧縮強さおよび粒径変化率の評価では、直径1.0mmの造形ノズルを用い、積層ピッチ200μm、造形ノズル温度120℃、造形テーブル温度75℃の条件にて、おおよそ幅3mm×長さ3mm×高さ3mmとなるように自己崩壊層20を造形した。そして、大気雰囲気において、昇温速度1℃/分、所定の温度にて1時間焼成し、焼成後のサポート材2に使用する自己崩壊層20(実施例1~8および比較例1~4)を得た。
【0048】
焼成後のサポート材2に使用する自己崩壊層20の圧縮強さ(MPa)の測定は、万能材料試験機(製品名「5566」、インストロン社製)を用いて、実施例1~8および比較例1~4をクロスヘッド速度0.5mm/minで加圧し、試験片が圧縮破壊するまでの最大荷重を測定することで行った(n=7)。焼成後のサポート材2の圧縮強さは、下記式(4)より算出した。
焼成後のサポート材2の圧縮強さ(MPa)=破壊荷重(N)/試験片の断面積(mm2) …(4)
【0049】
さらに、圧縮強さ測定に用いた実施例1~8および比較例1~4の自己崩壊層20を回収し、自己崩壊層20の高融点無機フィラーの粒子径を測定した。回収した高融点無機フィラーの粒径変化率は、粒度分布測定装置(製品名「マイクロトラックHRA9320」、マイクロトラック・ベル社製)を用い、水を分散媒として、屈折率1.54の条件にて測定した。焼成前後の高融点無機フィラーの粒径変化率(%)は、下記式(5)により算出した。
焼成前後の高融点無機フィラーの粒径変化率(%)=x/x0×100 …(5)
なお、上記式(5)において、x0は高融点無機フィラー原料粉末の平均粒子径(μm)、xは回収後の高融点無機フィラーの平均粒子径(μm)である。
【0050】
上記表1に示すように、実施例1~8では、焼成後の自己崩壊層20の圧縮強さは5MPa以下となった。また、実施例1~8では、回収した高融点無機フィラーの粒径変化率は150%以下となった。このように実施例1~8のサポート材2では、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から容易に除去することができるとともに、自己崩壊層20を適切に回収、再利用にすることもできることがわかった。一方、上記表1に示すように、比較例2では、圧縮強さが5MPaより大きくなり、自己崩壊層20をセラミックス造形体1から容易に除去できないおそれがあった。また、比較例3では、高融点無機フィラーの粒径変化が150%を上回り、再利用に適したサポート材2ではなくなってしまった。
【0051】
次に、実施例9および比較例5について説明する。下記表2に、実施例9および比較例5のサポート材2の構成比率および各物性値を示す。実施例9および比較例5では、寸法が幅14mm×長さ20mm×高さ12mmで、内部に幅10mm×長さ20mm×高さ10mmの空洞をもつ直方体のセラミックス造形体1を、空洞の部分に幅6mm×長さ20mm×高さ10mm、充填率が50%となるようサポート材2を付与しながら造形した。造形条件は、直径1.0mmの造形ノズルを用い、積層ピッチを200μm、造形ノズル温度を120℃、造形テーブル温度を75℃とした。そして、大気雰囲気、昇温速度1℃/分の条件にて、所定の温度まで加熱した後、冷却し、サポート材2を適切に回収できたか、および、サポート材を回収した後の焼成におけるセラミックス造形体1の変形を評価した。
【表2】
【0052】
実施例9では、脱脂時におけるサポート材2の熱変形率LDの絶対値が10%以内となり、また、焼成時のサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS1-LS2)も4%以内となった。さらに、焼成後のサポート材2の圧縮強さも5MPa以下となり、回収した高融点無機フィラーの粒径変化率も150%以下となった。また、実施例9では、サポート材2の回収温度(1150℃)まで加熱した後、室温まで冷却して、サポート材2を容易に回収することができた。さらに、サポート材2を回収した後、セラミックス造形体1を1400℃まで昇温し、1時間保持の条件にて焼成したところ、セラミックス造形体1に変形は認められなかった。
【0053】
これに対して、比較例5でも、セラミックス造形体1およびサポート材2を回収温度(1150℃)まで加熱した後、室温まで冷却し、サポート材2を回収した。比較例5では、脱脂時におけるサポート材2の熱変形率LDの絶対値は10%以内となり、焼成時のサポート材2とセラミックス造形体1の収縮率の差LS(LS1-LS2)も4%以内となった。また、焼成後のサポート材2の圧縮強さも5MPa以下となり、回収した高融点無機フィラーの粒径変化率も150%以下となった。しかしながら、比較例5では、自己崩壊層20の構成比率が5%未満であるため、サポート材2がセラミックス造形体1に焼き付き引っかかりが生じてしまい、サポート材2を綺麗に除去できない結果となった。
【0054】
以上のように、本実施形態では、焼成時にセラミックス造形体1の収縮に追随して収縮する収縮緩和層10と、高融点無機フィラーと熱可塑性樹脂とを混合したフィラメント材料から構成され、焼成後にセラミックス造形体1から剥離可能な自己崩壊層20とを有するサポート材2を用いて、セラミックス造形体1を作製する。特に、本実施形態に係るサポート材2は、脱脂時のサポート材2の熱変形率を10%以内となり、また、焼成時のセラミックス造形体1とサポート材2との収縮率の差LS(LS1-LS2)が、サポート材2を除去する各温度において4%以内となるため、脱脂時におけるサポート材2の溶倒を抑制することができるとともに、焼成時にセラミックス造形体1に追従して収縮することができ、脱脂・焼成工程においてセラミックス造形体1を継続的に支持することができる。その結果、オーバーハング形状およびブリッジ形状などのセラミックス造形体1を適切に作製することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態に係るサポート材2では、焼成後の圧縮強さが5MPa以下とされ、回収した高融点無機フィラーの粒径変化率が150%以下とされる。これにより、焼成後にサポート材2をセラミックス造形体1から容易に除去することができるとともに、自己崩壊層20を効率的に回収し、自己崩壊層20に用いた高融点無機フィラーを再利用することが可能となる。その結果、材料をリサイクルすることができ、環境に配慮しながらも、作製コストの削減を図ることができる。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。