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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142621
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】回転機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/04 20060101AFI20220922BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042864
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】北野 洋平
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505DD03
5H505EE41
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ25
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】補正テーブル等を予め求めることなく、回転機のトルクリップルを精度良く抑制可能な制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置1は、電流指令Irefと、モータ2のモデルである回転機モデル20の出力及び回転機モデル20に対して駆動用電力の信号を出力するインバータモデル30の出力とに基づいて、インバータモデル30に入力されるモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefを生成するモデル用駆動制御部11と、回転機モデル20の出力と、モータ2の出力及びモータ2に駆動用電力を供給するインバータ3の出力とに基づいて、インバータ3に入力される実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成する実機用駆動制御部12と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の駆動を制御する制御装置であって、
電流指令と、前記回転機のモデルである回転機モデルの出力及び前記回転機モデルに対して駆動用電力の信号を出力するインバータモデルの出力とに基づいて、前記インバータモデルに入力されるモデル用電圧指令を生成するモデル用駆動制御部と、
前記回転機モデルの出力と、前記回転機の出力及び前記回転機に駆動用電力を供給するインバータの出力とに基づいて、前記インバータに入力される実機用電圧指令を生成する実機用駆動制御部と、
を有する、回転機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転機の制御装置において、
前記実機用駆動制御部は、
前記回転機モデルの出力トルクを用いてトルク指令補正値を算出し、前記トルク指令補正値から補正電流指令を求める補正部と、
前記回転機の出力及び前記インバータの出力を用いて、前記回転機に流れる電流の予測値を求める電流予測部と、
前記電流予測部によって求められた前記電流予測値と、前記補正部によって求められた前記補正電流指令とに基づいて、前記実機用電圧指令を生成する実機用電圧指令生成部と、
を有する、回転機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転機の制御装置において、
前記補正部は、
前記回転機モデルの出力トルクからトルク補正量を求めるトルク補正量算出部と、
前記トルク補正量及びトルク指令からトルク指令補正値を求めるトルク指令補正値算出部と、
前記トルク指令補正値から前記補正電流指令を求める電流換算部と、
を有する、回転機の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の回転機の制御装置において、
前記インバータが有する回路基板に実装されている、回転機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の駆動を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車及び航空機等の電動化に伴って、モータの大容量及び高出力化が求められている。一般的に、永久磁石モータなどのモータでは、回転子の回転位置によってトルクが変動するトルクリップルが生じる。
【0003】
これに対し、モータの実機のデータに基づいてテーブルデータ等を生成し、該テーブルデータ等を用いてトルクリップルを抑制する方法が提案されている。このようにトルクリップルを抑制する装置として、例えば特許文献1には、軸トルク検出値に基づいて、トルク脈動を抑制するためのトルク脈動補償電流を学習してテーブル化し、そのテーブルを用いてトルク脈動補償制御を行うトルク脈動抑制システムが開示されている。
【0004】
詳しくは、前記トルク脈動抑制システムは、前記軸トルク検出値からトルク脈動周波数成分を抽出し、これを基にトルク脈動補償電流を学習してテーブル化するコントローラを有する。
【0005】
また、簡易な構成によって、回転機のトルクリップルを抑制可能な制御装置として、例えば、特許文献2に開示されている回転機の制御装置が知られている。この制御装置は、制御周期ごとに、次の制御周期で前記回転機に流れる電流の予測値を求める電流予測部と、前記制御周期ごとに、次の制御周期における前記回転機の電気角予測値を求める電気角予測部と、入力されるトルク指令、前記電流予測値及び前記電気角予測値を用いて、前記回転機のトルクリップルを低減する電流指令を生成する電流指令生成部と、を有する。
【0006】
前記電流指令生成部は、前記回転機のモデルを用いたシミュレーションにより得られる、電気角とトルクとの関係から、前記電気角予測値を用いて電流補正信号を生成する補正信号生成部と、前記電流予測値を考慮して、前記電流補正信号からトルク指令を補正する前記電流指令補正値を生成する指令補正値生成部と、前記トルク指令に前記電流指令補正値を考慮することにより前記電流指令を生成する指令信号生成部と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-50118号公報
【特許文献2】特開2020-202643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の特許文献2に開示されている構成では、回転機のモデルを用いたシミュレーションにより得られる、電気角とトルクとの関係から、電気角予測値を用いて電流補正信号を生成する必要がある。そのため、制御対象の回転機が変わると、回転機の制御を行う前に、その回転機のモデルを用いてシミュレーションを行って、電気角とトルクとの関係を補正テーブルとして求める必要がある。
【0009】
また、前記補正テーブルに含まれないデータについては、線形補間等によって補正値を求める必要がある。このように補間された補正値は、精度があまり高くないため、トルクリップルを精度良く抑制できない可能性がある。
【0010】
これに対し、上述のような補正テーブル等を予め求めることなく、回転機のトルクリップルを精度良く抑制可能な制御装置が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、補正テーブル等を予め求めることなく、回転機のトルクリップルを精度良く抑制可能な制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係る回転機の制御装置は、回転機の駆動を制御する制御装置である。制御装置は、電流指令と、前記回転機のモデルである回転機モデルの出力及び前記回転機モデルに対して駆動用電力の信号を出力するインバータモデルの出力とに基づいて、前記インバータモデルに入力されるモデル用電圧指令を生成するモデル用駆動制御部と、前記回転機モデルの出力と、前記回転機の出力及び前記回転機に駆動用電力を供給するインバータの出力とに基づいて、前記インバータに入力される実機用電圧指令を生成する実機用駆動制御部と、を有する(第1の構成)。
【0013】
このように、回転機モデルに対して駆動用電力の信号を出力するインバータモデルにモデル用電圧指令を入力して得られる前記回転機モデルの出力と、実機である回転機の出力及び前記回転機に対して駆動用電力を供給するインバータの出力とに基づいて、前記インバータに入力される実機用電圧指令を生成することにより、補正テーブル等を予めモデルから得ることなく、回転機のトルクリップルを抑制することができる。
【0014】
しかも、上述の構成により、トルクリップル抑制のための学習を行う必要がないため、学習機能を有する制御装置のように高性能なハードウェアが不要である。よって、学習制御を行う場合に比べて、簡易な構成によって、回転機のトルクリップルを抑制することができる。
【0015】
前記第1の構成において、前記実機用駆動制御部は、前記回転機モデルの出力トルクを用いてトルク指令補正値を算出し、前記トルク指令補正値から補正電流指令を求める補正部と、前記回転機の出力及び前記インバータの出力を用いて、前記回転機に流れる電流の予測値を求める電流予測部と、前記電流予測部によって求められた前記電流予測値と、前記補正部によって求められた前記補正電流指令とに基づいて、前記実機用電圧指令を生成する実機用電圧指令生成部と、を有する(第2の構成)。
【0016】
これにより、回転機モデルの出力トルクに基づいて得られるトルク指令補正値から補正電流指令を算出し、前記補正電流指令と、実機の回転機に流れる電流の予測値とに基づいて、実機用電圧指令を生成することができる。よって、上述の第1の構成を容易に実現することができる。
【0017】
前記第2の構成において、前記補正部は、前記回転機モデルの出力トルクからトルク補正量を求めるトルク補正量算出部と、前記トルク補正量及びトルク指令からトルク指令補正値を求めるトルク指令補正値算出部と、前記トルク指令補正値から前記補正電流指令を求める電流換算部と、を有する(第3の構成)。
【0018】
これにより、回転機モデルの出力トルクを用いてトルク補正量を求めて、該トルク補正量からトルク指令補正値を求めることができる。よって、上述の第1の構成を容易に実現することができる。
【0019】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記制御装置は、前記インバータが有する回路基板に実装されている(第4の構成)。これにより、制御装置はインバータ内に設けられるため、前記制御装置をコンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態に係る回転機の制御装置によれば、回転機モデルの出力と、回転機の出力及びインバータの出力とに基づいて、前記インバータに入力される実機用電圧指令を生成する。これにより、補正テーブル等を予め求めることなく、回転機のトルクリップルを精度良く抑制可能な制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る制御装置を含むモータ制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、電流制御部の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、補正部の概略構成を示すブロック図である。
図4図4は、トルクリップルの一例を示す図である。
図5図5は、本実施形態の制御装置によって駆動されるモータのトルクの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置1を含むモータ制御システムSの概略構成を示す図である。このモータ制御システムSは、制御対象であるモータ2の駆動を制御装置1によって制御するシステムである。モータ制御システムSは、モータ2(回転機)と、モータ2に駆動用電力を供給するインバータ3と、制御装置1とを含む。
【0024】
なお、モータ2の構成は、一般的なモータの構成と同様である。また、インバータ3の構成も、一般的なインバータの構成と同様である。よって、モータ2及びインバータ3の各構成については、詳しい説明を省略する。制御装置1の制御対象は、トルクリップルが生じる回転機であれば、モータ以外の回転機であってもよい。
【0025】
制御装置1は、モータ2に生じるトルクリップルを抑制するように、モータ2の駆動を制御する。具体的には、制御装置1は、電流制御部10と、回転機モデル20と、インバータモデル30とを有する。制御装置1は、例えば、プログラムを実行可能なコンピュータによって実現されてもよいし、基板に形成された回路によって実現されてもよい。本実施形態では、制御装置1は、例えば、プログラム可能な回路(field-programmable gate array)によって構成されている。本実施形態では、制御装置1は、例えば、インバータ3が有する回路基板に実装されている。
【0026】
回転機モデル20は、図示しないプログラムや回路の動作によって、モータ2の動作を模擬したモデルである。回転機モデル20は、モータ2の特性を模擬するように構成されている。回転機モデル20には、インバータモデル30から出力される駆動用電力の模擬信号が入力される。回転機モデル20は、前記模擬信号が入力されることにより、モータ2の回転角度の模擬信号であるモデル回転角度信号θm、モータ2の回転速度の模擬信号であるモデル回転速度信号Nm、及び、モータ2の出力トルクの模擬信号であるモデルトルク信号Tm(回転機モデル20の出力トルク)を出力する。
【0027】
インバータモデル30は、図示しないプログラムや回路の動作によって、モータ2に駆動用電力を供給するインバータ3の動作を模擬したモデルである。インバータモデル30は、インバータ3の特性を模擬するように構成されている。インバータモデル30には、電流制御部10の後述するモデル用駆動制御部11で生成されたモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefが入力される。インバータモデル30は、モデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefが入力されることにより、回転機モデル20に対して駆動用電力の模擬信号を生成して出力する。この模擬信号には、インバータモデル30からモータ2に流れる電流の模擬信号である3相のモデル電流信号Imu,Imv,Imwが含まれる。3相のモデル電流信号Imu,Imv,Imwは、U相のモデル電流信号Imuと、V相のモデル電流信号Imvと、W相のモデル電流信号Imwとを含む。
【0028】
電流制御部10は、モータ2に流れる電流を制御する。本実施形態の電流制御部10は、回転機モデル20の出力を用いて、モータ2に駆動用電力を供給するインバータ3に入力する実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成する。具体的には、電流制御部10は、モデル用駆動制御部11と、実機用駆動制御部12とを有する。図2は、電流制御部10の概略構成を示すブロック図である。
【0029】
図2に示すように、モデル用駆動制御部11は、回転機モデル20に対して駆動用電力の模擬信号を出力するインバータモデル30に対して、モデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefを生成して出力する。モデル用駆動制御部11は、インバータモデル30から出力される駆動用電力の模擬信号に含まれる3相のモデル電流信号Imu,Imv,Imwと、回転機モデル20から出力されるモデル回転角度信号θm及びモデル回転速度信号Nmと、制御装置1に入力されるトルク指令Trefから算出される電流指令Irefと、を用いて、モデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefを生成する。
【0030】
モデル用駆動制御部11は、3相2相変換部111と、モデル用電圧指令生成部112と、2相3相変換部113と、電気角演算部114とを有する。
【0031】
3相2相変換部111は、回転機モデル20から出力されるモデル回転角度信号θmを用いて、インバータモデル30から出力される駆動用電力の模擬信号に含まれる3相のモデル電流信号Imu,Imv,Imwを2相のモデル電流信号Imd,Imqに変換する。
【0032】
モデル用電圧指令生成部112は、3相2相変換部111によって得られた2相のモデル電流信号Imd,Imqと、制御装置1に入力されるトルク指令Trefから算出される電流指令Irefとを用いて、2相のモデル用電圧指令Vmdref,Vmqrefを生成する。なお、2相のモデル電流信号Imd,Imq及び電流指令Irefを用いて、2相のモデル用電圧指令Vmdref,Vmqrefを生成する構成は、従来の電圧指令を生成する構成と同様である。よって、2相のモデル用電圧指令Vmdref,Vmqrefを生成する構成について詳しい説明は省略する。
【0033】
2相3相変換部113は、後述する電気角演算部114によって得られた次の制御周期のモデル電気角信号を用いて、モデル用電圧指令生成部112によって生成された2相のモデル用電圧指令Vmdref,Vmqrefを、3相のモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefに変換する。2相3相変換部113によって変換された3相のモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefは、インバータモデル30に入力される。
【0034】
電気角演算部114は、回転機モデル20から出力されるモデル回転角度信号θm及びモデル回転速度信号Nmを用いて、次の制御周期のモデル電気角信号を生成する。このモデル電気角信号は、2相3相変換部113が2相のモデル用電圧指令Vmdref,Vmqrefを3相のモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefに変換する際に用いられる。
【0035】
実機用駆動制御部12は、モータ2に駆動用電力を供給するインバータ3に対して、実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成して出力する。実機用駆動制御部12は、インバータ3から出力される駆動用電力の信号に含まれる3相の電流Iu,Iv,Iwと、モータ2の回転角度θ及び回転速度Nと、制御装置1に入力されるトルク指令Trefと、回転機モデル20から出力されるモデルトルク信号Tmとを用いて、実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成する。
【0036】
なお、モータ2の回転角度θは、図示しないエンコーダ等の回転角度検出器によって検出された機械角から求められる電気角である。回転速度Nは、前記機械角の時間変化を求めることにより得られる。
【0037】
実機用駆動制御部12は、入力されるトルク指令Tref、回転機モデル20から出力されるモデルトルク信号Tm、モータ2の回転角度θ及び回転速度N、3相の電流Iu、Iv、Iwに基づいて、モータ2のトルクリップルを抑制するような実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成してインバータ3に出力する。具体的には、実機用駆動制御部12は、3相2相変換部121と、電流予測部122と、実機用電圧指令生成部123と、2相3相変換部124と、電気角予測部125と、補正部126とを有する。
【0038】
3相2相変換部121は、モータ2から出力される回転角度θを用いて、インバータ3から出力される駆動用電力の信号に含まれる3相の電流Iu、Iv、Iwを2相の電流Id、Iqに変換する。3相の電流Iu、Iv、Iwは、U相の電流Iuと、V相の電流Ivと、W相の電流Iwとを含む。なお、3相の電流Iu、Iv、Iwは、インバータ3とモータ2との間に位置する図示しない電流センサによって検出される。なお、前記電流センサは、3相の電流Iu、Iv、Iwのうち、2相の電流のみを検出してもよい。この場合には、残りの1相の電流は、検出した2相の電流から求められる。
【0039】
電流予測部122は、3相2相変換部121によって得られた2相の電流Id、Iqと、図示しない現在の電圧指令とを用いて、次の制御周期でモータ2に流れる電流予測値Ida,Iqaを算出する。電流予測部122における電流予測値Ida,Iqaの算出方法は、例えば特開2020―202643号公報に開示されている電流予測値の算出方法と同様である。
【0040】
実機用電圧指令生成部123は、電流予測部122で予測された2相の電流予測値Ida、Iqaと、後述する補正部126で求められた補正電流指令Icrefとを用いて、2相の実機用電圧指令Vdref、Vqrefを生成する。実機用電圧指令生成部123は、電流予測部122で予測された2相の電流予測値Ida、Iqaに、補正電流指令Icrefを考慮することにより、回転機モデル20の出力を考慮した2相の実機用電圧用指令Vdref、Vqrefを生成することができる。
【0041】
2相3相変換部124は、後述する電気角予測部125によって得られた電気角予測値θaを用いて、実機用電圧指令生成部123によって生成された2相の実機用電圧指令Vdref、Vqrefを、3相の実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefに変換する。2相3相変換部124によって得られた3相の実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefは、インバータ3に入力される。
【0042】
電気角予測部125は、モータ2から出力される回転角度θ及び回転速度Nを用いて、次の制御周期におけるモータ2の電気角θa(以下、電気角予測値という)を予測する。電気角予測部125における電気角予測値θaの算出方法は、例えば特開2020―202643号公報に開示されている電気角予測値の算出方法と同様である。電気角予測部125で算出された電気角予測値θaは、2相3相変換部124が2相の実機用電圧指令Vdref、Vqrefを3相の実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefに変換する際に用いられる。
【0043】
補正部126は、制御装置1に入力されるトルク指令Trefと、回転機モデル20から出力されるモデルトルク信号Tmとを用いて、補正電流指令Icrefを生成する。具体的には、図3に示すように、補正部126は、トルク補正量算出部50と、トルク指令補正値算出部60と、電流換算部70とを有する。
【0044】
トルク補正量算出部50は、モデルトルク信号Tmから平均値を算出し、その平均値とモデルトルク信号Tmとの差をトルク補正量Tcとして算出する。すなわち、トルク補正量算出部50は、平均値算出部51と、減算器52とを有する。平均値算出部51は、複数のモデルトルク信号Tmを用いて平均値を算出する。減算器52は、前記平均値と各制御周期におけるモデルトルク信号Tmとの差を、トルク補正量Tcとして算出する。
【0045】
トルク指令補正値算出部60は、トルク補正量Tcをトルク指令Trefから減算することにより、トルク指令補正値Tcrefを求める。なお、トルク指令補正値算出部60は、減算器である。
【0046】
電流換算部70は、トルク指令補正値Tcrefを電流換算することにより、補正電流指令Icrefを生成して、実機用電圧指令生成部123に出力する。
【0047】
このように、補正部126は、回転機モデル20から出力されるモデルトルク信号Tmを用いることにより、補正テーブル等を用いることなく、補正電流指令Icrefを容易に生成することができる。すなわち、補正部126は、制御対象であるモータ2が変わった場合でも、その都度、補正テーブル等を予め準備することなく、モータ2のモデルである回転機モデル20の出力を用いて、補正電流指令Icrefを容易に生成することができる。
【0048】
しかも、上述のように補正電流指令Icrefを生成する際に回転機モデル20の出力を用いることにより、補正テーブル等を用いた場合のように該当するデータが存在しない場合の補間処理が不要になるため、補正電流指令Icrefを精度良く生成することができる。
【0049】
図4に、モータ2のトルクリップルの一例を示す。図5に、上述の構成を有する制御装置1によってモータ2を駆動制御した場合のモータ2のトルクの一例を示す。
【0050】
図4及び図5に示すように、本実施形態の制御装置1によってモータ2を駆動制御することにより、例えば、モータ2に生じるトルクリップルの値を半分以下にすることができる。よって、本実施形態の制御装置1の構成により、モータ2のトルクリップルを効果的に低減できる。
【0051】
本実施形態では、制御装置1は、電流指令Irefと、モータ2のモデルである回転機モデル20の出力及び回転機モデル20に対して駆動用電力の信号を出力するインバータモデル30の出力とに基づいて、インバータモデル30に入力されるモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefを生成するモデル用駆動制御部11と、回転機モデル20の出力と、モータ2の出力及びモータ2に駆動用電力を供給するインバータ3の出力とに基づいて、インバータ3に入力される実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成する実機用駆動制御部12と、を有する。
【0052】
このように、回転機モデル20を駆動制御するインバータモデル30にモデル用電圧指令Vmuref,Vmvref,Vmwrefを入力して得られる回転機モデル20の出力と、実機であるモータ2の出力及びモータ2を駆動制御するインバータ3との出力とに基づいて、インバータ3に入力される実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成することにより、補正テーブル等を予め得ることなく、モータ2のトルクリップルを抑制することができる。
【0053】
しかも、上述の構成により、トルクリップル抑制のための学習を行う必要がないため、学習機能を有する制御装置のように高性能なハードウェアが不要である。よって、学習制御を行う場合に比べて、簡易な構成によって、モータ2のトルクリップルを抑制することができる。
【0054】
したがって、本実施形態の構成により、補正テーブル等を用いることなく、モータ2のトルクリップルを容易に且つ精度良く抑制可能な制御装置1が得られる。
【0055】
また、本実施形態では、実機用駆動制御部12は、回転機モデル20のモデルトルク信号Tmを用いてトルク指令補正値Tcrefを求めて、トルク指令補正値Tcrefから補正電流指令Icrefを算出する補正部126と、モータ2及びインバータ3の出力を用いて、モータ2に流れる電流の予測値Ida,Iqaを求める電流予測部122と、電流予測部122によって求められた電流予測値Ida,Iqaと、補正部126によって求められた補正電流指令Icrefとに基づいて、実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成する実機用電圧指令生成部123と、を有する。
【0056】
これにより、回転機モデル20の出力トルクに基づいて得られるトルク指令補正値Tcrefから補正電流指令Icrefを算出し、補正電流指令Icrefと、実機のモータ2に流れる電流の予測値Ida,Iqaとに基づいて、実機用電圧指令Vuref,Vvref,Vwrefを生成することができる。よって、上述の制御装置1の構成を容易に実現することができる。
【0057】
また、本実施形態では、補正部126は、回転機モデル20のモデルトルク信号Tmからトルク補正量Tcを求めるトルク補正量算出部50と、トルク補正量Tc及びトルク指令Trefからトルク指令補正値Tcrefを求めるトルク指令補正値算出部60と、トルク指令補正値Tcrefから補正電流指令Icrefを求める電流換算部70と、を有する。
【0058】
これにより、回転機モデル20のモデルトルク信号Tmを用いてトルク補正量Tcを求めて、トルク補正量Tcからトルク指令補正値Tcrefを求めることができる。よって、上述の制御装置1の構成を容易に実現することができる。
【0059】
また、本実施形態では、制御装置1は、インバータ3が有する回路基板に実装されている。これにより、制御装置1はインバータ3内に設けられるため、制御装置1をコンパクトに構成することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0061】
前記実施形態では、実機用駆動制御部12の電流予測部122は、特開2020―202643号公報に開示されている電流予測値の算出方法と同様の方法によって、電流予測値を算出する。しかしながら、電流予測部は、次の制御周期における電流予測値を求めることができる構成であれば、どのような構成を有していてもよい。
【0062】
前記実施形態では、実機用駆動制御部12の補正部126は、制御装置1に入力されるトルク指令Trefと、回転機モデル20から出力されるモデルトルク信号Tmとを用いて、補正電流指令Icrefを生成する。しかしながら、補正部は、実機用電圧指令を補正可能な補正電流指令を生成する構成であれば、どのような構成を有していてもよい。
【0063】
前記実施形態では、制御装置1は、インバータ3が有する回路基板に実装されている。しかしながら、制御装置は、インバータとは別に設けられていてもよい。
【0064】
前記実施形態では、3相のモータ2の駆動を制御する制御装置1の構成について説明したが、この限りではなく、3相以外の複数相のモータを駆動させる制御装置に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、モータの駆動を制御する制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 制御装置
2 モータ
3 インバータ
10 電流制御部
11 モデル用駆動制御部
111 3相2相変換部
112 モデル用電圧指令生成部
113 2相3相変換部
114 電気角演算部
12 実機用駆動制御部
121 3相2相変換部
122 電流予測部
123 実機用電圧指令生成部
124 2相3相変換部
125 電気角予測部
126 補正部
20 回転機モデル
30 インバータモデル
50 トルク補正量算出部
51 平均値算出部
52 減算器
60 トルク指令補正値算出部
70 電流換算部
Imu、Imv、Imw、Imd、Imq モデル電流信号
Iu、Iv、Iw、Id、Iq 電流
Ida、Iqa 電流予測値
ref 電流指令
Icref 補正電流指令
θa 電気角予測値
θm モデル回転角度信号
θ 回転角度
Nm モデル回転速度信号
N 回転速度
Vmuref、Vmvref、Vmwref、Vmdref、Vmqref モデル用電圧指令
Vuref、Vvref、Vwref、Vdref、Vqref 実機用電圧指令
Tm モデルトルク信号(出力トルク)
Tc トルク補正量
ref トルク指令
図1
図2
図3
図4
図5