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特開2022-142731高分子電解質膜およびこれを含む燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142731
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】高分子電解質膜およびこれを含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1053 20160101AFI20220922BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220922BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20220922BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20220922BHJP
   H01M 8/1058 20160101ALI20220922BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20220922BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220922BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
H01M8/1053
H01M8/10 101
H01M8/1018
H01M8/1039
H01M8/1058
H01M8/1069
H01B1/06 A
C08J7/00 A CEW
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215182
(22)【出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】10-2021-0034254
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】507098483
【氏名又は名称】ヒュンダイ・モービス・カンパニー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】519368459
【氏名又は名称】タングク ユニバーシティ チョナン キャンパス インダストリー アカデミック コーポレイション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホ・ピルウォン
(72)【発明者】
【氏名】リ・ソンチョル
(72)【発明者】
【氏名】カン・ウンヒ
(72)【発明者】
【氏名】チェ・スンキュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・キヨン
(72)【発明者】
【氏名】リ・チャンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク・インキ
【テーマコード(参考)】
4F073
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4F073AA04
4F073AA17
4F073BA15
4F073BB01
4F073BB04
4F073EA11
4F073EA34
4F073EA55
4F073EA57
5G301CD01
5G301CE01
5H126AA05
5H126BB06
5H126HH01
5H126HH03
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】本発明は、高分子電解質膜に関する。
【解決手段】本発明は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第2イオン伝導性高分子層とを含み、前記第1イオン伝導性高分子層は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%である高分子電解質膜、その製造方法、これを含む膜電極組立体および燃料電池に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第2イオン伝導性高分子層とを含み、
前記第1イオン伝導性高分子層は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、
前記第2イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、
前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%である、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記第2イオン伝導性高分子層は、
前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第3イオン伝導性高分子層と、前記第3イオン伝導性高分子層の一面に形成された第4イオン伝導性高分子層とを含み、
前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、
前記第4イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記第3イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%であり、
前記第4イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%である、請求項2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のカルボン酸基およびスルホン酸基が濃度勾配を有する、請求項2に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記第3イオン伝導性高分子層は、
カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のカルボン酸基が、第1イオン伝導性高分子層から第4イオン伝導性高分子層まで、厚さ方向に対して濃度が増加する濃度勾配を有し、
カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のスルホン酸基が、第1イオン伝導性高分子層から第4イオン伝導性高分子層まで、厚さ方向に対して濃度が減少する濃度勾配を有する、請求項4に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記高分子電解質膜は、
第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の一面に形成された第2イオン伝導性高分子層とを含み、
前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記高分子電解質膜は、
第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の両面にそれぞれ形成された複数の第2イオン伝導性高分子層とを含み、
前記複数の第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、それぞれ、1%~40%である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記高分子電解質膜の厚さは、10μm~100μmである、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子は、フッ素系高分子、炭化水素系高分子および部分フッ素系高分子からなる群から選択される1種以上の高分子がスルホン化している、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
前記第1イオン伝導性高分子層は、多孔性支持体を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
高分子電解質膜は、タイムラグ法(Time-lag method)で測定された水素透過度が、70℃で、18.5Barrer以下である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項12】
前記高分子電解質膜は、タイムラグ法(Time-lag method)で測定された酸素透過度が、70℃で、4.0Barrer未満である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項13】
スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子膜を準備するステップ(S10)と、
前記第1イオン伝導性高分子膜の少なくとも一面で5分~30分間塩素化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、スルホン酸基が部分塩素化して形成された塩素化イオン伝導性高分子層を含む第2イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S20)と、
前記第2イオン伝導性高分子膜でニトリル化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、塩素化イオン伝導性高分子層の塩素がニトリル基で置換されて形成されたニトリル化イオン伝導性高分子層を含む第3イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S30)と、
前記第3イオン伝導性高分子膜で加水分解反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、ニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル基がカルボン酸基で置換されて形成された第2イオン伝導性高分子層を含む第4イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S40)と、
前記第4イオン伝導性高分子膜をカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度±10℃で熱処理して、高分子電解質膜を製造するステップ(S50)とを含み、
前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%である、高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
前記(S20)ステップの塩素化反応は、第1イオン伝導性高分子膜を塩酸および塩化アンモニウムを含む塩素化反応溶液に浸漬して実施される、請求項13に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項15】
負極と、正極と、負極と正極との間に介在された高分子電解質膜とを含み、
前記高分子電解質膜は、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の高分子電解質膜である、膜電極接合体。
【請求項16】
請求項15に記載の膜電極接合体を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜に関し、より詳細には、反応ガス遮断性が優れた燃料電池用高分子電解質膜、その製造方法、これを含む膜電極組立体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素、メタノールなど燃料を電気化学的に酸化させて、燃料の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。特に、高分子電解質膜燃料電池(PEFC、Polymer Electrolyte membrane Fuel Cell)は、イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用いて、固体酸化物燃料電池(SOFC、Solid Oxide Fuel Cell)などの高温運転燃料電池と比較して、低温運転が可能であり、簡単なシステムの実現が可能であり、車両および建物などの電源として使用されている。
【0003】
高分子電解質膜燃料電池が固体高分子電解質膜に対して主に求められる特性として、物理的耐久性のための機械的物性、性能実現のための高い水素イオン伝導性および燃料電池効率と化学的耐久性の向上のための反応ガス遮断性が挙げられる。
【0004】
ここで、固体高分子電解質膜に欠陥がある場合または微細気孔が存在する場合には、反応ガス透過性が微量存在し、かかる水素および空気などのガスの透過は、化学的ラジカル(例えば、ヒドロキシルラジカル)を生成し、ラジカルによる固体高分子電解質の構造分解を促進する問題がある。これは、燃料電池の運転中に固体高分子電解質膜の薄化(thinning)を引き起こし、ピンホール(pinhole)が発生および拡大され、燃料電池の膜電極接合体の寿命を短縮する直接な原因になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】KR10-2016-0090381 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高分子電解質膜の反応ガス遮断性を向上させることである。
【0007】
したがって、本発明は、表面が改質されて反応ガス遮断性が向上した高分子電解質膜、その製造方法、これを含む膜電極組立体および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第2イオン伝導性高分子層とを含み、前記第1イオン伝導性高分子層は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%である高分子電解質膜を提供する。
【0009】
また、本発明は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子膜を準備するステップ(S10)と、前記第1イオン伝導性高分子膜の少なくとも一面で5分~30分間塩素化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、スルホン酸基が部分塩素化して形成された塩素化イオン伝導性高分子層を含む第2イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S20)と、前記第2イオン伝導性高分子膜でニトリル化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、塩素化イオン伝導性高分子層の塩素がニトリル基で置換されて形成されたニトリル化イオン伝導性高分子層を含む第3イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S30)と、前記第3イオン伝導性高分子膜で加水分解反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、ニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル基がカルボン酸基で置換されて形成された第2イオン伝導性高分子層を含む第4イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S40)と、前記第4イオン伝導性高分子膜をカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度±10℃で熱処理して、高分子電解質膜を製造するステップ(S50)とを含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%である高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、負極と、正極と、負極と正極との間に介在された高分子電解質膜とを含み、前記高分子電解質膜は、前記高分子電解質膜である膜電極接合体を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による高分子電解質膜は、高い水素イオン伝導性を有し、且つ反応ガス遮断性に優れるという効果がある。
【0013】
また、本発明による高分子電解質膜を含む膜電極組立体は、反応ガス遮断性に優れるという効果がある。
【0014】
また、本発明による膜電極組立体を含む燃料電池は、反応ガスの透過による高分子電解質膜の構造分解から発生する薄化(thinning)およびピンホール(pinhole)の発生を防止し、寿命に優れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態で使用された高分子電解質膜のイオン伝導性高分子が含むイオン伝導性基の種類(スルホン酸基およびカルボン酸基)による動的機械分析(dynamic mechanical analysis)結果をともに図示したグラフである。
図2】本発明の実施例2で製造された高分子電解質膜の水素イオンをナトリウムイオンで置換した後、高分子電解質膜の断面をSEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いて、ラインスキャン(line scan)法で撮影および分析した写真である。
図3】本発明の実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で製造された高分子電解質膜のタイムラグ法(Time-lag method)で測定された温度別の水素透過度を図示したグラフである。
図4】本発明の実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で製造された高分子電解質膜のタイムラグ法(Time-lag method)で測定された温度別の酸素透過度を図示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0018】
本発明において、用語「高分子」は、1種の単量体が重合された単独重合体および2種以上の共単量体が共重合された共重合体をすべて含む意味である。
【0019】
本発明において、用語「イオン伝導性高分子」は、高分子の主鎖にイオン伝導性基を含む高分子は言うまでもなく、高分子の主鎖にイオン伝導性基を付与するための反応の中間体もすべて含む意味である。したがって、本発明に記載の高分子電解質膜の製造方法に記載されている塩素化イオン伝導性高分子層の塩素化イオン伝導性高分子と、ニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル化イオン伝導性高分子の場合、イオン伝導性基を含まないとしても、イオン伝導性高分子を製造するための反応の中間体として、イオン伝導性高分子の範囲に含まれる。
【0020】
本発明において、用語「第1」、「第2」、「第3」および「第4」などの数字は、構成の区分を容易にするために任意に記載した数字であって、各構成に対して特別な意味を付与するものではない。
【0021】
本発明は、高分子電解質膜を提供する。前記高分子電解質膜は、燃料電池用高分子電解質膜であり得、具体的な例として、高分子電解質膜燃料電池(PEFC、Polymer Electrolyte membrane Fuel Cell)用高分子電解質膜であり得る。
【0022】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第2イオン伝導性高分子層とを含み、前記第1イオン伝導性高分子層は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%であるものであり得る。
【0023】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第2イオン伝導性高分子層を含むことで、カルボン酸基からsp2混成構造と水素結合による二合体を形成することが可能であり、架橋結合構造を示すことができ、また、アイオノマー電極の塗布、および膜電極接合体の膜表面層として適用するときに、加湿および低湿条件で高い機械的物性を示すことが可能であり、また、化学的安定性を確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性を向上させることができる。しかし、カルボン酸基は、スルホン酸基に比べてイオン伝導度が低いため、高分子電解質膜のすべてのスルホン酸基をカルボン酸基で置換または改質する場合には、前記のような機械的物性および化学的安定性を向上させることはさておき、高分子電解質膜自体としての水素イオン伝導機能が失われる問題がある。したがって、本発明の高分子電解質膜において、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保するためには、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節することが非常に重要である。かかる観点で、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、または20%以上であり得、また、80%以下、60%以下、50%以下、45%以下、または40%以下であり得る。
【0024】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、後述する高分子電解質膜の製造方法により製造されたものであり得る。具体的な例として、前記第2イオン伝導性高分子層は、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面の改質によって形成されたものであり得る。したがって、第2イオン伝導性高分子層は、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面で、スルホン酸基の一部がカルボン酸基で改質されたイオン伝導性高分子を含む第3イオン伝導性高分子層と、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面で、スルホン酸基の全部がカルボン酸基に改質されたイオン伝導性高分子を含む第4イオン伝導性高分子層を同時に含むことができる。
【0025】
換言すれば、前記第2イオン伝導性高分子層は、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第3イオン伝導性高分子層と、前記第3イオン伝導性高分子層の一面に形成された第4イオン伝導性高分子層とを含むものであり得、前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含み、前記第4イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含むものであり得る。
【0026】
すなわち、本発明の一実施形態による前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成された第3イオン伝導性高分子層と、前記第3イオン伝導性高分子層の一面に形成された第4イオン伝導性高分子層とを含むものであり得る。
【0027】
本発明の一実施形態によると、上述の第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節することと同じ観点で、前記第3イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。具体的な例として、前記第3イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%以上、2.5%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上であり得、また、40%以下、30%以下、25%以下、または20%以下であり得る。
【0028】
本発明の一実施形態によると、上述の第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節することと同じ観点で、前記第4イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。具体的な例として、前記第4イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%以上、2.5%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上であり得、また、40%以下、30%以下、25%以下、または20%以下であり得る。
【0029】
本発明の一実施形態によると、前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のカルボン酸基およびスルホン酸基が濃度勾配を有するものであり得る。ここで、濃度勾配は、辞書的な定義によって濃度自体が勾配されることを限定するものではなく、カルボン酸基およびスルホン酸基のモル比または重量比が互いに相互間の勾配を示すことを意味する。
【0030】
本発明の一実施形態によると、前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を同時に含むイオン伝導性高分子を含むが、第3イオン伝導性高分子層に含まれるイオン伝導性高分子内にカルボン酸基およびスルホン酸基が同一または均一な濃度で分布されているものではなく、カルボン酸基およびスルホン酸基が互いに濃度勾配を有して分布されるものであり得る。これは、本発明の高分子電解質膜が、後述する高分子電解質膜の製造方法により製造されることで実現されることができ、このように、イオン伝導性高分子のカルボン酸基およびスルホン酸基が濃度勾配を有するイオン伝導性高分子を含む第3イオン伝導性高分子層を含む場合、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子層と、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第4イオン伝導性高分子層とが、直接界面を形成して当接している場合に比べて、高分子電解質膜のイオン伝導性の低下を防止し、且つ反応ガス遮断性をより向上させる効果がある。
【0031】
本発明の一実施形態によると、前記第3イオン伝導性高分子層は、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のカルボン酸基が、第1イオン伝導性高分子層から第4イオン伝導性高分子層まで、厚さ方向に対して濃度が増加する濃度勾配を有し、カルボン酸基およびスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のスルホン酸基が、第1イオン伝導性高分子層から第4イオン伝導性高分子層まで、厚さ方向に対して濃度が減少する濃度勾配を有するものであり得る。
【0032】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の一面に形成された第2イオン伝導性高分子層を含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~40%であるものであり得る。すなわち、前記高分子電解質膜は、「第1イオン伝導性高分子層/第2イオン伝導性高分子層」を含む積層構造を含むものであり得る。
【0033】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜が、第1イオン伝導性高分子層の一面に形成された第2イオン伝導性高分子層を含む場合、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、1%以上、2.5%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上であり得、また、40%以下、30%以下、25%以下、または20%以下であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。
【0034】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の一面に形成された第3イオン伝導性高分子層と、前記第3イオン伝導性高分子層の一面に形成された第4イオン伝導性高分子層とを含むものであり得る。すなわち、前記高分子電解質膜は、「第1イオン伝導性高分子層/第3イオン伝導性高分子層/第4イオン伝導性高分子層」を含む積層構造を含むものであり得る。この際、前記第3イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%~20%であり得、前記第4イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%~20%であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。この際、具体的な例として、前記第3イオン伝導性高分子層の厚さおよび前記第4イオン伝導性高分子層の厚さは、それぞれ、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%以上、1.25%以上、2.5%以上、3.75%以上、または5%以上であり得、また、20%以下、15%以下、12.5%以下、または10%以下であり得る。
【0035】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の両面にそれぞれ形成された複数の第2イオン伝導性高分子層とを含み、前記複数の第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、それぞれ、1%~40%であるものであり得る。すなわち、前記高分子電解質膜は、「第2イオン伝導性高分子層/第1イオン伝導性高分子層/第2イオン伝導性高分子層」を含む積層構造を含むものであり得る。
【0036】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜が、第1イオン伝導性高分子層の両面にそれぞれ形成された複数の第2イオン伝導性高分子層を含む場合、前記複数の第2イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、それぞれ、1%~40%であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。この際、具体的な例として、前記複数の第2イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、それぞれ、1%以上、2.5%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上であり得、また、40%以下、30%以下、25%以下、または20%以下であり得る。
【0037】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の両面にそれぞれ形成された複数の第3イオン伝導性高分子層と、前記複数の第3イオン伝導性高分子層のそれぞれの一面に形成された第4イオン伝導性高分子層とを含むものであり得る。すなわち、前記高分子電解質膜は、「第4イオン伝導性高分子層/第3イオン伝導性高分子層/第1イオン伝導性高分子層/第3イオン伝導性高分子層/第4イオン伝導性高分子層」を含む積層構造を含むものであり得る。この際、前記それぞれの第3イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%~20%であり得、前記それぞれの第4イオン伝導性高分子層の厚さは、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%~20%であり得、この範囲内で、高分子電解質膜のイオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保することができ、高分子電解質膜の反応ガス遮断性が特に優れるという効果がある。この際、具体的な例として、前記それぞれの第3イオン伝導性高分子層の厚さおよび前記それぞれの第4イオン伝導性高分子層の厚さは、それぞれ独立して、高分子電解質膜の厚さに対して、0.5%以上、1.25%以上、2.5%以上、3.75%以上、または5%以上であり得、また、20%以下、15%以下、12.5%以下、または10%以下であり得る。
【0038】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜の厚さは、10μm~100μm、20μm~80μm、または40μm~60μmであり得、この範囲内で、燃料電池の高分子電解質膜としての使用に適し、且つイオン伝導性、機械的物性および化学的安定性を確保できる効果がある。上述の%は、前記高分子電解質膜の厚さでの%であり得る。
【0039】
本発明の一実施形態によると、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子は、フッ素系高分子、炭化水素系高分子および部分フッ素系高分子からなる群から選択される1種以上の高分子がスルホン化したものであり得、この場合、水素イオン伝導性および反応ガス遮断性に優れるという効果がある。
【0040】
本発明の一実施形態によると、前記スルホン化フッ素系高分子は、ポリ(パーフルオロスルホン酸)、ポリ(パーフルオロカルボン酸)およびスルホン酸基を含むテトラフルオロエチレンとフルオロビニルエーテルの共重合体からなる群から選択される1種以上であり得る。
【0041】
本発明の一実施形態によると、前記スルホン化炭化水素系高分子は、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルベンズイミダゾール、スルホン化ポリアリレンエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリエーテルケトンケトンおよびスルホン化ポリアリールエーテルベンズイミダゾールからなる群から選択される1種以上であり得る。
【0042】
本発明の一実施形態によると、前記スルホン化部分フッ素系高分子は、スルホン化ポリ(アリレンエーテルスルホン-コ-ビニリデンフルオライド)、スルホン化トリフルオロスチレン-グラフト-ポリ(テトラフルオロエチレン)およびスチレン-グラフトスルホン化ポリビニリデンフルオライドからなる群から選択される1種以上であり得る。
【0043】
本発明の一実施形態によると、前記第1イオン伝導性高分子層は、多孔性支持体を含むものであり得る。具体的な例として、前記第1イオン伝導性高分子層が多孔性支持体を含む場合、前記第1イオン伝導性高分子層は、多孔性強化膜を、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含むコーティング層形成溶液で含浸した後、乾燥および熱処理ステップを経て製造された第1イオン伝導性高分子膜から製造されたものであり得る。このように、第1イオン伝導性高分子層が多孔性強化膜から形成された多孔性支持体を含む場合、高分子電解質膜の機械的物性をより向上させる効果がある。
【0044】
本発明の一実施形態によると、前記第1イオン伝導性高分子層が多孔性支持体を含む場合、前記第1イオン伝導性高分子層は、多孔性支持体と、前記多孔性支持体の両面に形成されたコーティング層とを含み、前記多孔性支持体は、気孔がスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子で充填されており、前記コーティング層は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含むものであり得る。具体的な例として、前記第1イオン伝導性高分子層が多孔性支持体を含む場合、前記第1イオン伝導性高分子層は、「スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子層/気孔がスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子で充填された多孔性支持体/スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子層」を含む積層構造を含むものであり得る。
【0045】
本発明の一実施形態によると、前記多孔性支持体は、多孔性強化膜から形成されたものであり得、前記多孔性強化膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルジフルオロエチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される1種以上であり得る。他の例として、前記多孔性強化膜は、延伸多孔性強化膜であり得、前記延伸多孔性強化膜は、延伸ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリビニルジフルオロエチレン、延伸ポリエチレンおよび延伸ポリプロピレンからなる群から選択される1種以上であり得る。
【0046】
本発明の一実施形態によると、高分子電解質膜は、タイムラグ法(Time-lag method)で測定された水素透過度が、70℃で、18.5Barrer以下、1Barrer~18.5Barrer、10Barrer~18.5Barrer、14Barrer~18.5Barrer、または14.5Barrer~18.5Barrerであり得、この範囲内で、水素ガスに対する反応ガス遮断性に優れることが認められる。
【0047】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜は、タイムラグ法(Time-lag method)で測定された酸素透過度が、70℃で、4.0Barrer未満、1Barrer~3.9Barrer、2Barrer~3.8Barrer、または3Barrer~3.8Barrerであり得、この範囲内で、酸素ガスに対する反応ガス遮断性に優れることが認められる。
【0048】
また、本発明は、前記高分子電解質膜を製造するための高分子電解質膜の製造方法を提供する。前記高分子電解質膜の製造方法は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子膜を準備するステップ(S10)と、前記第1イオン伝導性高分子膜の少なくとも一面で5分~30分間塩素化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、スルホン酸基が部分塩素化して形成された塩素化イオン伝導性高分子層を含む第2イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S20)と、前記第2イオン伝導性高分子膜でニトリル化反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、塩素化イオン伝導性高分子層の塩素がニトリル基で置換されて形成されたニトリル化イオン伝導性高分子層を含む第3イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S30)と、前記第3イオン伝導性高分子膜で加水分解反応を実施して、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、ニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル基がカルボン酸基で置換されて形成された第2イオン伝導性高分子層を含む第4イオン伝導性高分子膜を製造するステップ(S40)と、前記第4イオン伝導性高分子膜をカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度±10℃で熱処理して、高分子電解質膜を製造するステップ(S50)とを含み、前記第2イオン伝導性高分子層の厚さが、高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%であるものであり得る。
【0049】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜の製造方法に記載のすべての構成は、特に断らない限り、上述の高分子電解質膜において記載した構成がそのまま適用される。
【0050】
本発明の一実施形態によると、前記(S10)ステップは、第1イオン伝導性高分子膜を準備するためのステップであり、前記第1イオン伝導性高分子膜は、高分子電解質膜を製造するために、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に第2イオン伝導性高分子層を形成する前に、第1イオン伝導性高分子層は言うまでもなく、続けて記載するステップにより形成される第2イオン伝導性高分子層を形成するための基本膜であり得る。
【0051】
本発明の一実施形態によると、前記第1イオン伝導性高分子膜は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子膜自体であり得、他の例として、前記第1イオン伝導性高分子膜は、多孔性強化膜を準備するステップ(S11)と、多孔性強化膜に、イオン伝導性高分子を含むコーティング層形成溶液を含浸させるステップ(S12)と、コーティング層形成溶液が含浸された多孔性強化膜を乾燥および/または熱処理するステップ(S13)とにより製造された多孔性支持体を含むものであり得る。
【0052】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップは、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、スルホン酸基が部分塩素化して形成された塩素化イオン伝導性高分子層を含む第2イオン伝導性高分子膜を製造するステップであり、第1イオン伝導性高分子膜の少なくとも一面で、5分~30分間、塩素化反応により実施されることができる。
【0053】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜の製造方法により製造される高分子電解質膜は、イオン伝導性は基本的に維持しながら、機械的物性および化学的安定性を同時に確保する必要がある。そのため、本発明による高分子電解質膜は、前記(S50)ステップの熱処理ステップを必ず含む。
【0054】
これに関して、図1にグラフに図示しているように、本発明の実施形態で使用されている高分子電解質膜のイオン伝導性高分子が含むイオン伝導性基の種類(スルホン酸基およびカルボン酸基)による動的機械分析(dynamic mechanical analysis)結果を参照すると、第1イオン伝導性高分子層に相当するスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子の場合、ガラス転移温度(Ta)が110.54℃であることを確認することができ、第2イオン伝導性高分子層に相当するカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子の場合、ガラス転移温度(Ta)が98.25℃であることを確認することができる。
【0055】
すなわち、本発明の高分子電解質膜の製造方法により製造されるスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子層と、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第2イオン伝導性高分子層は、前記のようにガラス転移温度が相違する。そのため、高分子電解質膜の製造時に、前記(S50)ステップの熱処理ステップを実施する場合、第1イオン伝導性高分子層と第2伝導性高分子層のモルホロジーの変化が発生する。したがって、高分子電解質膜の製造時に、高分子電解質膜の機械的物性は言うまでもなく、反応ガス遮断性を確保するためには、高分子電解質膜の充填密度(packing density)を維持する必要がある。これに関して、本発明の高分子電解質膜の製造方法によると、高分子電解質膜の製造時に、前記(S20)ステップの反応条件の制御により決定される第2イオン伝導性高分子層の厚さと、前記(S50)ステップの熱処理温度を制御することで、高分子電解質膜の充填密度を維持することができる。
【0056】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップの塩素化反応は、5分~30分、10分~30分、または20分~30分間実施されることができ、この範囲内で、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成される第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節できる効果がある。
【0057】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップの塩素化反応は、第1イオン伝導性高分子膜を塩酸および塩化アンモニウムを含む塩素化反応溶液に浸漬して実施されるものであり得る。ここで、前記塩素化反応溶液は、濃塩酸水溶液に塩化アンモニウムを溶解した溶液であり得、具体的な例として、前記塩素化反応溶液は、濃塩酸水溶液60重量%~90重量%、70重量%~90重量%、または75重量%~85重量%および塩化アンモニウム10重量%~40重量%、10重量%~30重量%、または15重量%~25重量%を含むものであり得、この範囲内で、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成される第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節できる効果がある。
【0058】
本発明の一実施形態によると、前記塩酸水溶液は、塩酸の濃度が35重量%以上、35重量%~50重量%、35重量%~40重量%、または35重量%~38重量%であるものであり得、塩化アンモニウムは、純度99.0重量%以上、または99.5重量%以上の固相の塩化アンモニウムであり得、前記塩素化反応溶液は、前記塩酸水溶液に前記固相の塩化アンモニウムが完全に溶解された溶液であり得る。
【0059】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップの塩素化反応は、60℃~100℃、70℃~90℃、または75℃~85℃の温度で実施されることができ、この範囲内で、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に形成される第2イオン伝導性高分子層の厚さを調節できる効果がある。
【0060】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップの塩素化反応は、不活性気体雰囲気下で実施されることができる。
【0061】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップは、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、塩素化イオン伝導性高分子層の塩素がニトリル基で置換されて形成されたニトリル化イオン伝導性高分子層を含む第3イオン伝導性高分子膜を製造するステップであり、前記第2イオン伝導性高分子膜においてニトリル化反応により実施されることができる。
【0062】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップのニトリル化反応は、前記(S20)ステップで製造された、第2イオン伝導性高分子膜の塩素化イオン伝導性高分子層の塩素をすべてニトリル基で置換するように実施されることができる。
【0063】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップのニトリル化反応は、第2イオン伝導性高分子膜を、ニトリル塩を含むニトリル化反応溶液に浸漬して実施されるものであり得る。ここで、前記ニトリル化反応溶液は、ニトリル塩が溶解された反応溶液自体であり得、具体的な例として、カリウムシアニド水溶液であり得、さらに具体的な例として、純度95.0重量%以上、または97.0重量%以上のカリウムシアニドの0.01M~0.10M、0.03M~0.08M、または0.04M~0.06Mの水溶液であり得る。
【0064】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップのニトリル化反応は、1時間~10時間、2時間~6時間、または3時間~5時間実施されることができる。
【0065】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップのニトリル化反応は、70℃~110℃、80℃~100℃、または85℃~95℃の温度で実施されることができる。
【0066】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップのニトリル化反応は、不活性気体雰囲気下で実施されることができる。
【0067】
本発明の一実施形態によると、前記(S40)ステップは、第1イオン伝導性高分子層の少なくとも一面に、ニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル基がカルボン酸基で置換されて形成された第2イオン伝導性高分子層を含む第4イオン伝導性高分子膜を製造するステップであり、前記第3イオン伝導性高分子膜において加水分解反応により実施されることができる。
【0068】
本発明の一実施形態によると、前記(S40)ステップの加水分解反応は、前記(S30)ステップで製造された、第3イオン伝導性高分子膜のニトリル化イオン伝導性高分子層のニトリル基をすべてカルボン酸基で置換するように実施されることができる。
【0069】
本発明の一実施形態によると、前記(S40)ステップの加水分解反応は、第3イオン伝導性高分子膜を沸騰している水に浸漬して実施されるものであり得る。ここで、前記沸騰している水は、加水分解反応を実施するための水が沸点以上に加熱され続ける状態を意味し得、この際、前記水は、イオン交換水または蒸留水であり得る。
【0070】
本発明の一実施形態によると、前記(S40)ステップの加水分解反応は、1時間~10時間、1時間~5時間、または1時間~3時間実施されることができる。
【0071】
本発明の一実施形態によると、前記(S40)ステップの加水分解反応は、大気雰囲気下で実施されることができる。
【0072】
本発明の一実施形態によると、前記(S50)ステップは、高分子電解質膜を製造するためのステップであり、前記第4イオン伝導性高分子膜をカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度±10℃で熱処理して実施されることができる。
【0073】
本発明の一実施形態によると、高分子電解質膜の充填密度を維持するためには、上述のように、前記(S50)ステップの熱処理温度を制御する必要がある。そのため、前記(S50)ステップの熱処理は、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度±10℃、±5℃、または±3℃の温度で実施されることができる。他の例として、前記(S50)ステップの熱処理は、90℃~105℃、95℃~105℃、または98℃~102℃で実施されることができる。前記(S50)ステップの熱処理を実施する際に、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度に加え、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度を考慮せずに高すぎる温度で熱処理を実施する場合には、熱処理ステップでスルホン酸基を含むイオン伝導性高分子の物性にまで影響を及ぼし、高分子電解質膜の充填密度が維持されない問題があり、カルボン酸基を含むイオン伝導性高分子のガラス転移温度より過剰に低い温度で熱処理を実施する場合には、熱処理ステップによるカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子の物性に何らの変化がなく、高分子電解質膜の充填密度が維持されない問題がある。
【0074】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜の製造方法は、前記(S40)ステップで製造された第4イオン伝導性高分子膜に対して、前記(S50)ステップの熱処理を実施する前に、第4イオン伝導性高分子膜を乾燥するステップをさらに含むことができる。この際、前記乾燥は、12時間~36時間、18時間~30時間、または21時間~27時間実施されることができる。
【0075】
本発明の一実施形態によると、前記高分子電解質膜の製造方法は、前記(S20)ステップにより、第2イオン伝導性高分子層の厚さを高分子電解質膜の厚さに対して、1%~80%になるように調節するとともに、前記(S50)ステップにより、高分子電解質膜の充填密度を維持することができる。
【0076】
また、本発明は、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。前記膜電極接合体は、負極と、正極と、負極と正極との間に介在された高分子電解質膜とを含み、前記高分子電解質膜は、本発明による高分子電解質膜であり得る。
【0077】
本発明の一実施形態によると、前記膜電極接合体は、水素ガスなどの燃料と酸素を含む空気の電気化学触媒反応が起こる電極および水素イオンの伝達が起こる高分子電解質膜の接合体であり得、負極、正極および負極と正極との間に介在された高分子電解質膜が互いに接着されたものであり得る。
【0078】
本発明の一実施形態によると、前記膜電極接合体は、反応ガスを供給する負極(燃料極または水素極)および正極(酸素極または空気極)の一面に、気体拡散層が導入されたものであり得る。具体的な例として、負極および正極それぞれの一面に導入された気体拡散層の間に、前記膜電極接合体が介在されたものであり得る。
【0079】
本発明の一実施形態によると、前記膜電極接合体は、反応ガスを供給する負極(燃料極または水素極)および正極(酸素極または空気極)の他の一面に触媒層が導入されたものであり得る。具体的な例として、負極および正極それぞれの一面に導入された触媒層の間に、前記高分子電解質膜が介在されたものであり得る。
【0080】
本発明の一実施形態によると、前記膜電極接合体は、負極/高分子電解質膜/正極、気体拡散層/負極/高分子電解質膜/正極、負極/高分子電解質膜/正極/気体拡散層、気体拡散層/負極/高分子電解質膜/正極/気体拡散層、負極/触媒層/高分子電解質膜/正極、負極/高分子電解質膜/触媒層/正極、負極/触媒層/高分子電解質膜/触媒層/正極、気体拡散層/触媒層/負極/高分子電解質膜/正極、気体拡散層/負極/高分子電解質膜/触媒層/正極、気体拡散層/触媒層/負極/高分子電解質膜/触媒層/正極、負極/高分子電解質膜/触媒層/正極/気体拡散層、負極/触媒層/高分子電解質膜/正極/気体拡散層、負極/触媒層/高分子電解質膜/触媒層/正極/気体拡散層、および気体拡散層/触媒層/負極/高分子電解質膜/触媒層/正極/気体拡散層からなる群から選択される1種の積層構成を有する積層体であり得る。
【0081】
本発明の一実施形態によると、前記負極および正極の触媒層は、触媒金属と、触媒金属が担持された導電材とを含むことができる。前記触媒は、水素の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属を含むものであり得、具体的な例として、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウムおよびこれらの合金などであり得る。また、前記導電材は、活性化カーボンであり得る。また、前記負極および正極の触媒層は、電極バインダーとして、前記イオン伝導性高分子と同じイオン伝導性高分子を含むことができる。
【0082】
本発明の一実施形態によると、前記膜電極接合体は、負極と、正極と、負極と正極との間に介在された高分子電解質膜とを互いに密着させた状態で熱圧着などの圧着によって製造されることができる。また、前記膜電極接合体は、高分子電解質膜の一面、または両面に負極と正極の触媒層を形成するための触媒層スラリーを直接塗布および乾燥して製造されることができる。
【0083】
本発明の一実施形態によると、前記気体拡散層は、微細気孔層(Micro-Porous Layer、MPL)と、巨大気孔支持体(Macro-Porous Substrate)の二重層構造で構成されたものであり得る。前記微細気孔層は、アセチレンブラックカーボン(Acetylene Black Carbon)、ブラックパールカーボン(Black Pearls Carbon)などの炭素粉末と、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFE)系の疎水性物質(Hydrophobic Agent)を混合して製造した後、用途に応じて、巨大気孔支持体の一面または両面に塗布されることができる。前記巨大気孔支持体は、炭素繊維およびポリテトラフルオロエチレン系の疎水性物質で構成されることができ、具体的な例として、炭素繊維布(Cloth)、炭素繊維フェルト(Felt)および炭素繊維紙(Paper)型などの炭素繊維が使用されることができる。
【0084】
また、本発明は、前記膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。前記燃料電池は、スタック、燃料供給部および酸化提供給付を含むものであり得る。
【0085】
本発明の一実施形態によると、前記スタックは、前記膜電極接合体を一つまたは二つ以上含むものであり得、膜電極接合体が二つ以上含まれる場合には、これらの間に介在されるバイポーラプレートを含むことができる。前記バイポーラプレートは、外部から供給された燃料および酸化剤を膜電極接合体に伝達するとともに、負極および正極を直列に連結する伝導体の役割を果たす。
【0086】
本発明の一実施形態によると、前記燃料供給部は、燃料を前記スタックに供給するものであり得、燃料を貯蔵する燃料タンクと、燃料タンクに貯蔵された燃料をスタックに供給するポンプとを含むことができる。前記燃料としては、気体または液体状態の水素または炭化水素燃料が使用されることができ、炭化水素燃料の例としては、メタノール、エタノ-ル、プロパノールおよびブタノールなどのアルコール、または天然ガスが挙げられる。
【0087】
本発明の一実施形態によると、前記酸化剤供給部は、酸化剤を前記スタックに供給するものであり得る。前記酸化剤としては、空気が代表的に使用されることができ、酸素または空気をポンプで注入して使用することができる。
【0088】
本発明の一実施形態によると、前記燃料電池は、高分子電解質膜燃料電池、直接液体燃料電池、直接メタノール燃料電池、直接ギ酸燃料電池、直接エタノ-ル燃料電池、または直接ジメチルエーテル燃料電池などであり得る。
【0089】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0090】
実施例
実施例1
<第1イオン伝導性高分子膜の準備>
第1イオン伝導性高分子膜として、厚さ50.8μmのポリ(パーフルオロスルホン酸)の高分子膜であるNafion 212を準備した。
【0091】
<塩素化反応>
37重量%濃度の塩酸水溶液(Sigma Aldrich社製)80重量部に、純度99.5重量%の塩化アンモニウム(Sigma Aldrich社製)20重量部を投入し、80℃で塩化アンモニウムを完全に溶解し、塩素化反応溶液を準備した。
【0092】
前記塩素化反応溶液に前記第1イオン伝導性高分子膜を浸漬し、窒素雰囲気下で、80℃で、5分間還流させながら塩素化反応を実施し、第2イオン伝導性高分子膜を製造した。
【0093】
<ニトリル化反応>
純度97.0重量%のカリウムシアニド(Sigma Aldrich社製)を用いて、90℃で、0.05Mのカリウムシアニド水溶液を製造し、ニトリル化反応溶液を準備した。
【0094】
前記ニトリル化反応溶液に前記第2イオン伝導性高分子膜を浸漬し、窒素雰囲気下で、90℃で、4時間還流させながらニトリル化反応を実施し、第3イオン伝導性高分子膜を製造した。
【0095】
<加水分解反応>
イオン交換水を100℃の温度で沸騰させ、加水分解反応溶液を準備した。
【0096】
前記加水分解反応溶液に前記第3イオン伝導性高分子膜を浸漬し、大気雰囲気下で、沸騰している水で2時間加水分解反応を実施し、第4イオン伝導性高分子膜を製造した。
【0097】
<乾燥および熱処理>
前記第4イオン伝導性高分子膜を常温で24時間乾燥した後、大気圧、100℃で、1時間熱処理し、高分子電解質膜を製造した。
【0098】
実施例2
前記実施例1で、塩素化反応時に、前記塩素化反応溶液に前記第1イオン伝導性高分子膜を浸漬し、窒素雰囲気下で、80℃で、30分間還流させながら塩素化反応を実施して第2イオン伝導性高分子膜を製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0099】
比較例1
厚さ50.8μmのポリ(パーフルオロスルホン酸)の高分子膜であるNafion 212を高分子電解質膜としてそのまま用いた。
【0100】
比較例2
<イオン伝導性高分子膜の準備>
イオン伝導性高分子膜として、厚さ50.8μmのポリ(パーフルオロスルホン酸)の高分子膜であるNafion 212を準備した。
【0101】
<乾燥および熱処理>
前記イオン伝導性高分子膜を、大気圧、100℃で、1時間熱処理し、高分子電解質膜を製造した。
【0102】
比較例3
前記実施例1で、塩素化反応時に、前記塩素化反応溶液に前記第1イオン伝導性高分子膜を浸漬し、窒素雰囲気下で、80℃で、30秒間還流させながら塩素化反応を実施して第2イオン伝導性高分子膜を製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0103】
比較例4
前記実施例1で、塩素化反応時に、前記塩素化反応溶液に前記第1イオン伝導性高分子膜を浸漬し、窒素雰囲気下で、80℃で40分間還流させながら塩素化反応を実施して第2イオン伝導性高分子膜を製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0104】
実験例
実験例1
前記実施例2で製造された高分子電解質膜に対して、水素イオンをナトリウムイオンで置換した後、高分子電解質膜の断面をSEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いて、ラインスキャン(line scan)法で撮影および分析し、その結果を図2に示した。
【0105】
図2に示されているように、本発明により製造された実施例2の高分子電解質膜は、スルホン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第1イオン伝導性高分子層と、前記第1イオン伝導性高分子層の両面にそれぞれ形成されたカルボン酸基を含むイオン伝導性高分子を含む第2イオン伝導性高分子層を含むことを確認することができ、第2イオン伝導性高分子層の全厚が約40%水準であることを確認することができた。
【0106】
実験例2
前記実施例1および比較例1~4で製造された高分子電解質膜に対して、前記実験例1と同じの方法で第2イオン伝導性高分子層の全厚を確認し、下記表1に記載した。
【0107】
また、前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜に対して、下記の方法で、厚さ、水素透過度、酸素透過度およびイオン伝導度を測定して下記表1にともに記載し、高分子電解質膜に対する第2イオン伝導性高分子層の厚さ比は、前記測定された高分子電解質膜の厚さに対する第2イオン伝導性高分子層の全厚の比率から百分率で換算し、下記表1にともに記載した。
【0108】
また、前記実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で製造された高分子電解質膜の水素透過度および酸素透過度の温度別の測定結果を、図3および図4にグラフでともに示した。
【0109】
*厚さ(μm):ミツトヨ社製(Japan)のVL-50を用いて測定した。
【0110】
*水素透過度(Barrer):前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜の水素透過度をタイムラグ法(Time-lag method)で測定し、70℃での水素透過度を示した。具体的には、前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜で分離し、圧力が相違する2個のチャンバを備えたタイムラグ水素透過度測定装置で、1個のチャンバは0atmの圧力を維持した状態で、他の1個のチャンバが1atmの圧力になるように水素ガスを投入した後、30℃~70℃の温度で2時間以下の時間の間に水素ガスを透過させた後、高分子電解質膜の単位面積、時間および圧力当たり透過された流量に膜厚を乗じた量をBarrer単位に換算して示した(1Barrer=10-10(cm*cm)/(cm*s*cmHg))。
【0111】
*酸素透過度(Barrer):前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜の酸素透過度をタイムラグ法(Time-lag method)で測定し、70℃での酸素透過度を示した。具体的には、前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜で分離し、圧力が相違する2個のチャンバを備えたタイムラグ酸素透過度測定装置で、1個のチャンバは0atmの圧力を維持した状態で、他の1個のチャンバが1atmの圧力になるように酸素ガスを投入した後、30℃~70℃の温度で2時間以下の時間の間に酸素ガスを透過させた後、高分子電解質膜の単位面積、時間および圧力当たり透過された流量に膜厚を乗じた量をBarrer単位に換算して示した(1Barrer=10-10(cm*cm)/(cm*s*cmHg))。
【0112】
*イオン伝導度(S/cm):前記実施例1、2および比較例1~4で製造された高分子電解質膜に対して、80℃の温度、50%の相対湿度で、Naイオン伝導度を測定した。具体的には、Naイオン伝導度は、交流4端子プローブ法(Four point probe AC impedance spectroscopic method)を用いて、オーム抵抗またはバルク抵抗(ohmic resistance or bulk resistance)を測定した後、下記数1で計算して示した。
【0113】
[数1]
σ=L/RS
【0114】
σは、Naイオン伝導度(S/cm)であり、Rは、高分子電解質膜のオーム抵抗(Ω)であり、Lは、電極間の距離(cm)であり、Sは、所定の電流が流れる電解質内の面積(cm)である。
【0115】
【表1】
【0116】
前記表1、図3および図4に示しているように、本発明により製造された高分子電解質膜は、イオン伝導性高分子膜に対して如何なる処理もしていない比較例1と、熱処理ステップのみを実施した比較例2に比べて、同じ水準の厚さおよびイオン伝導度は維持しながら、第2イオン伝導性高分子層が適正な厚さ比で形成され、水素透過度および酸素透過度が低減したことを確認することができ、特に、実施例2の場合、水素透過度および酸素透過度が著しく低減し、反応ガス遮断性が非常に優れていることを確認することができた。
【0117】
一方、高分子電解質膜に対して、塩素化反応など一連のステップを実施しても、塩素化反応時間が非常に短い比較例3の場合、本発明で形成しようとする第2イオン伝導性高分子層が全く形成されず、そのため、水素透過度および酸素透過度に加え、イオン伝導度が比較例1および2と類似した水準に維持されるだけであって、改善していないことを確認することができた。
【0118】
また、高分子電解質膜に対して、塩素化反応など一連のステップを実施しても、塩素化反応時間が実施例2より長い比較例4の場合、高分子電解質膜のほとんどが第2イオン伝導性高分子層で形成され、第1イオン伝導性高分子層の比率が急減することからイオン伝導度が非常に劣っていることを確認することができた。
【0119】
かかる結果から、本発明による高分子電解質膜は、高い水素イオン伝導性を有し、且つ反応ガス遮断性に優れることを確認することができた。
図1
図2
図3
図4