(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142758
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】高炉出銑口における横孔発生予測方法及び横孔発生予測装置
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20220922BHJP
C21B 7/24 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C21B7/12 303
C21B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037709
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021042455
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】襟立 育也
(72)【発明者】
【氏名】小橋 啓史
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015KA01
(57)【要約】
【課題】高炉出銑口における横孔の発生の有無を事前に予測可能な高炉出銑口における横孔発生予測方法及び横孔発生予測装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測方法は、高炉の出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度を測定する測定ステップと、測定ステップにおいて測定されたマッド材の充填速度と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する判別ステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定されたマッド材の充填速度と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する判別ステップと、
を含むことを特徴とする高炉出銑口における横孔発生予測方法。
【請求項2】
前記測定ステップは、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方を測定するステップを含み、前記判別ステップは、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の高炉出銑口における横孔発生予測方法。
【請求項3】
高炉の出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度を測定する測定手段と、
前記測定手段によって測定されたマッド材の充填速度と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする高炉出銑口における横孔発生予測装置。
【請求項4】
前記測定手段は、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方を測定し、前記判別手段は、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別することを特徴とする請求項3に記載の高炉出銑口における横孔発生予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉出銑口における横孔発生予測方法及び横孔発生予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の出銑滓作業において高炉の出銑口を開口する際、出銑ラインを閉塞しているマッド材に横孔と呼ばれる小さな孔が発生することがある。出銑口に横孔が発生すると、炉温の低下や減風といったトラブルが発生する可能性がある。このため、出銑口における横孔の発生を事前に予測することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来までに横孔発生時の出銑口の補修方法は提案されているが、出銑口における横孔の発生を事前に予測可能な技術は提供されていない。このため、出銑口における横孔の発生を予測可能な定量的な指標はなく、横孔が発生するか否かの判断は現場作業者の経験や勘に委ねられているのが現状である。なお、出銑口は出銑を繰り返す度に脆くなるため、出銑口を閉塞する際のマッド材の入り具合や出銑口の開口時の穿屈具合に基づいて横孔の発生を予測することもあるが、実際に横孔ができているかどうかは出銑をしてみないとわからない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、高炉出銑口における横孔の発生の有無を事前に予測可能な高炉出銑口における横孔発生予測方法及び横孔発生予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測方法は、高炉の出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度を測定する測定ステップと、前記測定ステップにおいて測定されたマッド材の充填速度と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する判別ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測方法は、上記発明において、前記測定ステップは、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方を測定するステップを含み、前記判別ステップは、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別するステップを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測装置は、高炉の出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度を測定する測定手段と、前記測定手段によって測定されたマッド材の充填速度と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測装置は、上記発明において、前記測定手段は、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方を測定し、前記判別手段は、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高炉出銑口における横孔発生予測方法及び横孔発生予測装置によれば、高炉出銑口における横孔の発生の有無を事前に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、出銑口における横孔の概要を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、マッド材の充填速度の測定結果の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、横孔が発生するか否かを判別するための分類木の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法について説明する。
【0013】
〔横孔の概要〕
まず、
図1を参照して、出銑口における横孔の概要について説明する。
【0014】
図1は、出銑口における横孔の概要を示す図である。
図1に示すように、一般に、高炉の出銑滓作業では、ハンマードリルを回転させながら出銑ラインに送ることにより出銑ラインを閉塞したマッド材を穿孔し、マッド材にあけられた孔から出銑を行う。ところが、この作業の際、マッド材に横孔と呼ばれる小さな孔が発生することがある。マッド材に横孔が発生すると、横孔に溶銑滓が侵入し、通常の穿孔よりも径が小さい横孔が出銑滓のルートとなってしまい出銑速度が遅くなるために高炉内に溶銑滓が残ってしまう。このため、高炉の出銑滓作業の際、出銑口における横孔の発生を事前に予測することが求められる。出銑口における横孔の発生を事前に予測できれば、次回の出銑滓作業時の対策や、二段掘(横孔を避けるためにハンマードリルの径を小さくすること)、出銑タイミング等を工夫することにより、事前に横孔に対する対策を行うことができる。
【0015】
〔横孔発生予測方法〕
次に、
図2及び
図3を参照して、本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法について説明する。
【0016】
本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法では、前回出銑口を閉塞する際に用いたマッドガン(出銑口にマッド材を注入する装置)の操業データを解析することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを予測する。具体的には、本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法では、まず、
図2に示すようなマッドガンが出銑口にマッド材を充填する速度を測定する。なお、マッド材の充填速度は、例えば、所定のサンプリング周期毎に採取されるマッドガンのストローク量に基づき、ストローク量の変化速度とマッド材を入れたシリンダーの径とから単位時間に充填されたマッド材の体積を求め、その体積にマッド材の密度を掛けることにより、求めることができる。このマッド材の充填速度はコンピュータ等の情報処理装置により算出することができる。
【0017】
図3は、マッド材の充填速度の測定結果の一例を示す図である。
図3に示す例では、出銑を行った後のマッド充填時にその充填速度を測定し、その出銑口における次回の開孔、出銑時に横孔が発生したかどうかを観測した。横孔の発生は、出銑時の出銑流が通常操業よりも細く、出銑滓の飛距離が小さい場合に横孔が発生していると推定した。
図3に示すように、次回の出銑滓作業時に横孔が発生する場合には、出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度が速くなる傾向がある。マッド材の充填速度が速くなるのは充填時の抵抗が小さいためで、充填速度が速い場合は充填時のマッド材の充填圧力が低くなる傾向となる。換言すればマッド材の充填圧力が低くなるということは、出銑孔が脆く拡がっており、充填したマッド材が孔壁に接着しづらい状態になっているために、次回の出銑滓作業時に横孔が発生しやすい状態になっていると考えられる。
【0018】
実際、以下の表1に示すように、全体的なデータでもこの傾向は見られる。なお、表1は、マッド材の充填開始後2~10秒間の平均充填速度及び平均充填圧力の一例を示している。このため、横孔が発生しない場合のマッド材の充填速度及び充填圧力の平均値と比較して、マッド材の充填速度が所定割合以上高くなっている場合あるいはマッド材の充填圧力が所定割合以上低くなっている場合は、次回の出銑滓作業時に横孔が発生する可能性があると予測できる。表1に示す例における充填圧力は、マッドガンにおいてマッドを押し出す油圧プランジャーの加圧力であるが、マッドガン内のマッドの圧力を直接測定してもよい。
【0019】
【0020】
そこで、本発明の一実施形態である高炉出銑口における横孔発生予測方法では、次に、コンピュータ等の情報処理装置が、出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度と所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別する。このような方法によれば、高炉の出銑滓作業の際、出銑口における横孔の発生を事前に予測することができる。また、この結果、出銑滓作業時の対策や、二段掘、出銑タイミング等を工夫することにより、事前に横孔に対する対策を行うことができる。なお、出銑口の閉塞作業時におけるマッド材の充填速度と共に、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方を測定し、マッド材の充填量及び充填圧力の少なくとも一方と対応する所定の閾値とを比較することにより、次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別してもよい。また、マッド材の充填速度や充填量及び充填圧力のデータは出銑口毎に特徴を有しているために、横孔が発生するか否かは出銑口毎に評価することが望ましい。
【0021】
〔実施例1〕
以下の表2に、マッド材の充填開始後2~10秒間の平均充填速度が12kg/sより大きい場合(実施例1)、マッド材の充填開始後2~10秒間の平均充填圧力が12MPaより小さい場合(実施例2)、及び全開口データ(比較例)の横孔発生率(=(横孔発生件数)/(全開口件数))を示す。表2に示すように、実施例1の横孔発生率は比較例の横孔発生率の2.3倍の大きさになっており、また実施例2の横孔発生率は比較例の横孔発生率の1.4倍の大きさになっている。このことから、マッド材の充填速度及び充填圧力の少なくとも一方に関する指標(基準値)を用いることにより、出銑口における横孔の発生を事前に予測することができることが確認された。
【0022】
この例において、実施例1の平均充填速度の閾値である12kg/sは、表1に示した横孔がない場合の平均充填速度9.8kg/sの1.22倍である。また、表1の横孔がある場合の平均充填速度11.4kg/sは横孔がない場合の平均充填速度の1.16倍である。従って、例えば、平均充填速度が、横孔がない場合の平均充填速度の1.1倍よりも大きくなった場合に横孔が発生する可能性が高くなると判断するように閾値を決めることができる。この判断のための閾値が大きいほど一般に横孔発生を確実に予測できるが、見逃されるケースも増えるため、この閾値は操業上の必要性に応じて適宜決定すればよい。同様に、表2の実施例2の平均充填圧力12MPaは表1の横孔がない場合の平均充填圧力14.7MPaの0.82倍である。また、表1の横孔がある場合の平均充填圧力13.6MPaは横孔がない場合の平均充填圧力の0.92倍である。従って、平均充填圧力が、横孔がない場合の平均充填圧力の0.9倍程度よりも小さくなった場合に横孔が発生する可能性が高くなると判断できる。この平均充填圧力の閾値についても平均充填速度の場合と同様に操業上の必要に応じて適宜決めることができる。また、平均充填速度や平均充填圧力を求める時間範囲も、装置特性や操業の状況によって変わりうるため、ある時間範囲について求めた平均充填速度や平均充填圧力と、横孔発生有無や発生率との相関に基づいて、好適な範囲を定めることができる。平均充填速度及び平均充填圧力を測定する時間は、横孔がある場合とない場合でのデータの違いが大きい時間として定めることができる。あるいは、横孔発生率と得られたデータとの相関に基づいて相関が大きくなるように定めてもよい。また、平均値以外の代表値(最大値、最小値、中央値等)を採用してもよい。
【0023】
【0024】
〔実施例2〕
本実施例では、マッド材の平均充填速度、充填量、及び平均充填圧力のうちの一つで次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した場合と、マッド材の平均充填速度、充填量、及び平均充填圧力の組み合わせにより次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した場合について、横孔ありと判別できた割合(横穴あり判別率)及び横孔なしと判別できた割合(横穴なし判別率)を評価した。なお、マッド材の平均充填速度、充填量(計算充填マッド量)、及び平均充填圧力(平均充填油圧)の組み合わせによる判別は、
図4に示す分類木により行った。評価結果を以下の表3~5及び
図4に示す。
【0025】
表3は、平均充填速度13.3kg/sを閾値(閾値未満:横孔なし、閾値以上:横孔あり)として、マッド材の平均充填速度により次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した結果を示す。表3に示すように、この場合、横孔あり判別率は100%(=2/2)、横孔なし判別率は93%(=205/221)であった。
【0026】
【0027】
表4は、充填量130kgを閾値(閾値未満:横孔なし、閾値以上:横孔あり)として、マッド材の充填量により次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した結果を示す。表4に示すように、この場合、横孔あり判別率は8%(=17/215)、横孔なし判別率は88%(=7/8)であった。
【0028】
【0029】
表5は、充填圧力19.5MPaを閾値(閾値未満:横孔あり、閾値以上:横孔なし)として、マッド材の充填圧力により次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した結果を示す。表5に示すように、この場合、横孔あり判別率は8%(=17/207)、横孔なし判別率は94%(=15/16)であった。
【0030】
【0031】
以上のように、マッド材の充填量又は充填圧力で次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した場合、横孔なし判別率は高いが、横孔あり判別率が低くなることが確認された。これに対して、
図4に示すように、マッド材の平均充填速度、充填量、及び充填圧力の組み合わせにより次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別した場合、横孔あり判別率及び横孔なし判別率の両方が高くなることが確認された。以上のことから、マッド材の平均充填速度、又は、マッド材の平均充填速度、充填量、及び充填圧力の組み合わせにより次回の出銑滓作業時に横孔が発生するか否かを判別することにより、高炉出銑口における横孔の発生の有無を精度よく予測できることが確認された。
【0032】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。