(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142779
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】赤潮防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/03 20090101AFI20220922BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220922BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20220922BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
A01N65/03
A01N25/00 101
A01N25/08
A01P13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040446
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021042190
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521110965
【氏名又は名称】奥西 将之
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】奥西 将之
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AD02
4H011BA01
4H011BB22
4H011BC19
4H011DA02
4H011DC05
4H011DC08
4H011DD07
4H011DG07
4H011DH09
4H011DH14
(57)【要約】
【課題】散布しやすく、またある程度の時間的幅を持って除放性を調整でき、更に長期の保存に耐え赤潮防除剤。
【解決手段】
乾燥したアオサを海中での除放性に対応した濃度の増粘剤成形した赤潮防除剤である。前記増粘剤の濃度は0~25w%(0を含まない)であり、乾燥アオサと増粘剤の混合物に対して、成形できる程度の水を添加して成形した後、40~60℃で6~24時間乾燥させ、水分を完全に除去する。尚、増粘剤の下限値は、増粘剤で乾燥アオサが形状を維持できる量であり、増粘剤の種類に依存することになる。これにより、増粘剤の量をコントロールすることによって、海水中での溶けやすさ(徐放性)をコントロールすることができ、赤潮の種類や発生状況に応じた赤潮除去剤を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥アオサに海中での除放性に対応した濃度の増粘剤を加えて成形し、加熱乾燥したことを特徴とする赤潮防除剤。
【請求項2】
前記増粘剤がでんぷん、ゼラチン、寒天、コラーゲンペプチドあるいはキサンタンガムの内の少なくとも一種である請求項1に記載の赤潮防除剤。
【請求項3】
前記増粘剤の濃度が0~25w%(0を含まない)であり、水分を添加して成型後、40~60℃で6~24時間乾燥させた請求項1または2に記載の赤潮防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤潮防除剤に関し、特に、徐放性を備えた赤潮防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤潮は水産動物の斃死を引き起こし、特に養殖業界では大きな問題となっている。
【0003】
赤潮が発生した場合、餌止めをして被害を最小限に止める、あるいは養殖の生け簀を赤潮海域から赤潮が発生していない海域に移動させる等の対症療法的な処置が採られている。この処置は過大な労力を必要とし、費用も多大である。
【0004】
発生した赤潮に対してUV照射、薬剤散布や粘土散布などの物理化学的手法や、殺藻菌やウイルスによる生物化学的処理が試みられてきたが、実施規模やコスト、環境への影響から殆ど実用化には至っていない。
【0005】
一方、海藻類は、一般的にアレロバシー作用と呼ばれる他者を排除する化学物質を含有していることが多いが、本発明で使用するアオサ類も微細藻類に対して殺藻性を示すことが従来より知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
なし
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Effects of macroalgae Ulva pertusa (Chlorophyta) and Gracilaria lemaneiformis (Rhodophyta) on growth of four species of bloom-forming dinoflagellates, You Wang, Zhiming Yu, Xiuxian Song, Xuexi Tang, Shandong Zhang, Aquatic Botany, 86, 2007, 139-147
【非特許文献2】The green macroalga, Ulva lactuca, inhibits the growth of seven common harmful algal bloom species via allelopathy, Ying Zhong Tang, Christopher J. Gobler, Harmful Algae, 10, 2011, 480-488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、餌止めやいけすの移動等の対症療法的な方法は、現状では最も現実的で、現状多くの場合に採用されている手法であるがコスト、時間ともに莫大となる欠点がある。
【0009】
一方、前記UV照射等の物理化学的手法や、殺藻菌やウイルスによる生物化学的処理は、実施規模やコスト、環境への影響から殆ど実用化には至っていない。
【0010】
一方前記したように、アオサが殺藻性を備えていることは周知の事実ではある。従って、生のアオサを直接赤潮汚染されている海域に投入する方法も当然採用し得るが、水分を大量に含んだアオサを扱うとなると、相当の労力を必要とし、また保存性に劣る欠点がある。
【0011】
また、以下に説明するように乾燥したアオサも殺藻効果を備えているが、魚を養殖している生け簀付近で赤潮が出たような場合で、乾燥アオサの粉末を散布する場合、少し風があると目的の海域に均一に投入出来ない欠点がある。
【0012】
また、赤潮が発生して、何等かの赤潮防除剤を使用するにしても、緊急に対処しなければいけない場合や、緊急ではないが、持続性を持った殺藻性が要求される等種々の場合があり、前記赤潮防除剤にはそれぞれの場面に対応した徐放性が要求される。しかしながら、現状では前記の種々の要請に対応することは期待できないと言った欠点がある。
【0013】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、散布しやすく、またある程度の時間的幅を持って除放性を調整でき、更に長期の保存に耐え赤潮防除剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、赤潮防除剤であって、乾燥したアオサを海中での除放性に対応した濃度の増粘剤成形したものである。
【0015】
前記増粘剤の濃度は0~25w%(0を含まない)であり、乾燥アオサと増粘剤の混合物に対して、成形できる程度の水を添加して成形した後、40~60℃で6~24時間乾燥させ、水分を完全に除去する。尚、増粘剤の下限値は、増粘剤で乾燥アオサが形状を維持できる量であり、増粘剤の種類に依存することになる。上限値は特にないが1時間以内の徐放性を得ようとすると25w%である。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、増粘剤の量をコントロールすることによって、海水中での溶けやすさ(徐放性)をコントロールすることができ、赤潮の種類や発生状況に応じた赤潮除去剤を得ることができる。
【0017】
また、上記したように成形、乾燥させることによって、増粘剤の濃度が低い程、水への溶ける速度が速くなり、即効性が要求される場合は増粘剤を加えない場合も考えられる。また、保存期間として、2年程度の殺藻性効果が維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】乾燥アオサをでんぷんで固化した赤潮除去剤を示す写真。
【
図2】Heterosigma akasioに対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図3】Karemia mikimotoiに対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図4】Chatonella marinaに対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図5】Cochlodinium polykrikoides に対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図6】アオサの水溶性溶解画分に対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図7】アオサのメタノール抽出画分に対するアオサの殺藻性を示すグラフ。
【
図8】実際に発生した赤潮に対する本発明の適用例を示グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<試料の準備>
鹿児島県長島町に自生している天然のアナアオサを採取して、濾過海水で洗浄した。
【0020】
試料(1):前記アオサ10gを濾過海水300mLとともに、ミキサーに入れ5秒間裁断したフレッシュアオサ。
【0021】
試料(2):前記フレッシュなアオサを加熱乾燥機を用いて50℃で乾燥させた乾燥アオサ。
【0022】
試料(3):採取したアナアオサ10gを凍結乾燥させ、90mLの蒸留水に浸してスターラで一晩攪拌し、その上澄みを再度凍結乾燥させたものを蒸留水に溶解させた水溶性溶解画分。
【0023】
試料(4):凍結乾燥させたアナアオサをメタノールに浸した後、上澄みを濃縮し再度メタノールに溶解させたメタノール抽出画分。
【0024】
試料(5):乾燥アナアオサ(試料1)にでんぷんを混入し、所定時間乾燥して固化して赤潮防除剤とした(
図1)。尚、詳しくは下記実験3参照。
【0025】
<実験>
上記各試料が赤潮藻類に対して示す殺藻性を検証した。
【0026】
(実験1)
培養した各種赤潮原因プランクトンと試料1(フレッシュアオサ)、試料2(乾燥アオサ)のアナアオサ(Ulva purtusa)を混合培養した。添加量は赤潮原因プランクトンの培養液10mLに対して、前記ミキサーで粉砕したフレッシュアオサ(試料(1))0.1gである。また前記フレッシュアオサの含水率は約90%であるので、乾燥させたアオサ(試料(2))は0.01g添加する。
【0027】
図2にHeterosigma akasiwo に対する殺藻性を示した。
【0028】
アオサを加えないコントロール区(a)では、混合培養から24時間で運動性を示す細胞の数はほとんど変化しないのに比べて、フレッシュアオサ添加区(b)では、添加3時間後から減少傾向を示し、12時間後には運動性を示す細胞の数はほとんど認められないことを示している。この傾向は乾燥アオサ添加区(c)では更に顕著となり、3時間後には運動性を示す細胞の数は、添加前の15%程度、6時間後には略ゼロになっている。
【0029】
図3にkarenia mikimotoiに対する殺藻性を示した。
【0030】
アオサを加えないコントロール区(a)では、Heterosigma akasiwoと同様、混合培養から24時間で運動性を示す細胞の数はほとんど変化しないのに比べて、フレッシュアオサ添加区(b)では、時間経過に伴って緩やかな減少傾向を示した。乾燥アオサ添加区(c)では、3時間後には運動性を示す細胞の数は、添加前10%程度、6時間後には略ゼロになっている。
【0031】
図4にChatonella marinaに対する殺藻性を示した。
【0032】
フレッシュアオサ添加区(b)、乾燥アオサ添加区(c)とも、徐々に運動性を示す細胞の数の減少が進行し、24時間で開始時の半分程度になっていることが理解できる。
【0033】
図5にCohlodinium polykrikoidesに対する殺藻性を示した。
【0034】
フレッシュアオサ添加区(b)では、時間経過に伴って緩やかな現象傾向を示し、3時間後には運動性を示す細胞の数は、培養開始時の65%になり、6時間後には約40%、24時間後には10%程度に減少した。乾燥アオサ添加区(c)では、1時間後には運動性を示す細胞の数は、添加前16%程度、12時間後には略ゼロになっている。
【0035】
以上で乾燥アオサ(試料2)が各種の赤潮原因プランクトンに対して、その種類を問わず殺藻性を示すことが理解できる。
【0036】
(実験2)
試料3(水溶性溶解画分)、試料4(メタノール抽出画分)を用いての、赤潮藻類に対するアオサ抽出画分の殺藻性を検証した。
【0037】
図6は、試料3の水溶性溶解画分を各種赤潮藻類に添加して培養した際の、添加してしてから6時間後の運動性を示す細胞の数をカウントしたきの、添加前の数に対する割合を示すものである。
【0038】
添加量は、赤潮原因プランクトン10mlに対して、前記試料3、試料4とも0.1mlである。
【0039】
Cohlodinium polykrikoides >karenia mikimotoi>Chatonella marinaの順で効果が確認されたが、Heterosigma akasiwoについてはほとんど効果が確認されなかった。
【0040】
一方、
図7は、試料4のメタノール抽出画分を各種の赤潮藻類に添加して培養した場合の運動性を示す細胞の6時間後の数を、添加前の数に対する割合で示したものである。水溶性溶解画分より遥かに大きな効果が得られることが確認できる。
以上でアオサのメタノール抽出画分は各種の赤潮藻類に対して有効に殺藻性を示すことが理解できる。
【0041】
(実験3)
ところで、魚を養殖しているいけす付近で赤潮が出たような場合に、赤潮防除剤として、前記した乾燥アオサを投入する場合を想定すると、アオサを粉末状のままで投入することになる。この場合、少し風があるとうまく(均一に)目的の海域に投入出来ない。この不都合を解決するには、前記乾燥アオサを固形状態に加工することが好ましい。
【0042】
この場合、前記防除剤を所定大きさの粒子となし、取り扱いしやすい形状にすることが好ましい。そこで、試料2(乾燥アオサ)を10w%のでんぷんで、所定大きさの粒子状に固めたて7時間乾燥させて赤潮防除とした(
図1)。この赤潮防除剤を、各種赤潮原因プランクトンの培養液に対して、1w%になるように添加した結果を
図7に示す。
【0043】
H.akashioを除いて、1時間でほぼ運動性を失っており、3時間ではH.akashioも、ほぼゼロになっている。
【0044】
(実験4)
上記で示したアオサを用いた赤潮防除剤は主に培養した赤潮原因微細藻類に対する効果を示したが、実際に沿岸海域で発生した赤潮(シャトネラ アンティカ)に対する効果も確かめた。
【0045】
2021年7月に八代海でシャトネラ アンティカの赤潮が発生した。7月12日には八代海の広い範囲で確認され、熊本県楠浦湾で最高308 cells/mLであった。その後7月15日にはさらに範囲が拡大し、最高密度も熊本県大築島北部で1,889cells/mLに達した。
【0046】
そこで、7月18日に樋島沖の赤潮の発生が確認された地点で表層水を採水し、500L容量のパンライト水槽に200L入れた(船上で確認)。ここに乾燥アオサで作成した赤潮防除剤を海水の1%重量で添加し、5、30、60分後にシャトネラ アンティカの細胞数を計数した。また、同様に0.1%濃度で赤潮防除剤を添加した場合の細胞数の経時変化も調べた。
【0047】
尚、ここで使用した赤潮防除剤は、乾燥アオサを5重量%のでんぷんで固めたものを使用した。
【0048】
くみ上げた海水中のシャトネラ アンティカの細胞密度は3,650 cells/mLであった。
図8に示すように、防除剤添加5分後には細胞密度は400cells/mLになり、30分、60分後の細胞密度はそれぞれ50、100cells/mLであった。
【0049】
つまり、1%濃度でアオサ赤潮防除剤を添加することで、60分で97.9%の赤潮藻類が死滅したことを示した。一方、赤潮防除剤を添加していないコントロール区は実験開始前には1,200cells/mLの細胞密度が、60分後は1,257 cells/mLとほとんど変化はなかった。
【0050】
海水重量に対して0.1%濃度で赤潮防除剤を添加した試験区では添加前の細胞密度1,156 cells/mLが5分後、30分後、60分後の細胞密度はそれぞれ1,400、1,150、956cells/mLであった。60分後に60.3%の細胞が死滅したことになる。
【0051】
このように、添加する濃度が下がると効果を発揮する時間が遅くなるが、実際に発生した赤潮にも十分効果を発揮することを明らかとなった。
【0052】
(実験6)
本発明に適用できる増粘剤としてでんぷんを例示したが、以下に例示する増粘剤も適用できる。但し、以下は例示であって、これ以外の種類の増粘剤の適用を阻害するものではない。
【0053】
乾燥アオサに対して増粘剤の種類を変えて赤潮防除剤を作り、アオサがビーカ内でばらばらになるまでの時間(徐放性に対応)を測定した。増粘剤の量は乾燥アオサに対して5重量%とした結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
もちろん増粘剤を1種に限った場合、添加量によって、前記ばらばらになる時間(除放性)は変化することになり、即効性が要求される場合には増粘剤を、乾燥アオサが固化する範囲で0に近い量を加えた赤潮防除剤を使用することになる。
【0056】
上記においての増粘剤で個化した乾燥アオサは、粒子状態で保存でき2年以上の保存品であっても、上記同様の殺藻性を示すことを確認できた。上限値は特に限定されないが1時間以内の徐放性を得ようとすると、増粘剤の種類にもよるが、25w%である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明は各種の赤潮原因プランクトンに対して殺藻性を示し、また保存もできるので、養殖産業にとって極めて有効である。
【符号の説明】
【0058】
(a) アオサ無し
(b) フレッシュアオサ
(c) 乾燥アオサ