(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142839
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】多重巻線モータの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20220926BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20220926BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P21/22
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043066
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE35
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA05
5H505HA08
5H505HA16
5H505HB02
5H505HB05
5H505JJ28
5H505JJ29
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505MM03
5H505MM13
(57)【要約】
【課題】簡単な構成により、動作が不安定になったり、システム損失が増加することなく回生電力を制御することができる多重巻線モータの制御装置を提供する。
【解決手段】巻数の異なる複数の巻線群5-1,5-2を有した永久磁石同期モータ5の、各巻線群に各々接続された複数のインバータ4-1,4-2と、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧(Vdc)を超えることが想定されるインバータ4-1の直流側に設けられた回生電流阻止用ダイオード3P,3Nと、前記モータ5に対するトルク指令Trq
*を、例えば巻線群5-1,5-2の巻線のターン数の比に応じて、前記各インバータ4-1,4-2が分担する分担トルク指令(Trq1
*、Trq2
*)に分担し、該各分担トルク指令とモータの回転速度検出情報ωに基づいて、各インバータの電流指令を生成して出力する電流指令生成部8と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻数の異なる複数の巻線群を有した多重巻線モータの、各巻線群に各々接続された複数のインバータと、
前記モータに対するトルク指令を、前記モータおよび複数のインバータの損失が小さくなる分担トルク指令であり、前記各インバータが分担する分担トルク指令に分担し、該各分担トルク指令とモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記各インバータの出力電流を、前記生成された各インバータの電流指令に追従させる電圧指令を各々演算する電流制御部と、
前記電流制御部により演算された各インバータの電圧指令と各インバータ毎に位相の異なるキャリア信号によって、各インバータのゲート指令信号を生成し、各インバータに出力するPWM制御部と、を備えたことを特徴とする多重巻線モータの制御装置。
【請求項2】
前記電流指令生成部は、前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を正の値に制限するリミッタと、前記リミッタにより制限がかけられた分担トルク指令とリミッタによる制限がかけられる前の分担トルク指令との偏差を、前記モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータ以外のインバータの分担トルク指令に加算する加算器と、を有していることを特徴とする請求項1に記載の多重巻線モータの制御装置。
【請求項3】
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定されるインバータの直流側に設けられた、回生電流流入阻止用の回生電流阻止用ダイオードを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の多重巻線モータの制御装置。
【請求項4】
前記電流指令生成部は、前記各巻線群の巻数比に応じて各分担トルク指令に分担することを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の多重巻線モータの制御装置。
【請求項5】
前記電流指令生成部は、前記モータに対するトルク指令の大きさ毎の、モータの回転数と各分担トルク指令の関係がテーブル化されたテーブルであって、モータに対するトルク指令とモータの回転数に応じて、モータの損失およびインバータの損失の和が最も小さくなる分担トルク指令を出力するトルク分担テーブルを有していることを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の多重巻線モータの制御装置。
【請求項6】
前記電流指令生成部で分担された分担トルク指令が零のとき、当該分担トルク指令が零である側のインバータの運転停止要求を出力するインバータ停止要求部を備えたことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の多重巻線モータの制御装置。
【請求項7】
巻数の異なる複数の巻線群を有した多重巻線モータの、各巻線群に各々接続された複数のインバータを備えた多重巻線モータの制御方法であって、
電流指令生成部が、前記モータに対するトルク指令を、前記モータおよび複数のインバータの損失が小さくなる分担トルク指令であり、前記各インバータが分担する分担トルク指令に分担するトルク分担ステップと、
電流指令生成部が、前記トルク分担ステップで分担された各分担トルク指令およびモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成する電流指令生成ステップと、
電流制御部が、前記各インバータの出力電流を、前記電流指令生成ステップにより生成された各インバータの電流指令に追従させる電圧指令を各々演算する電流制御ステップと、
PWM制御部が、前記電流制御ステップにより演算された各インバータの電圧指令と各インバータ毎に位相の異なるキャリア信号によって、各インバータのゲート指令信号を生成し、各インバータに出力するステップと、を備えことを特徴とする多重巻線モータの制御方法。
【請求項8】
前記電流指令生成ステップは、
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を正の値に制限する制限ステップと、
前記制限ステップにより制限がかけられた分担トルク指令と制限がかけられる前の分担トルク指令との偏差をとる減算ステップと、
前記減算ステップで得られた分担トルク指令の偏差分を、前記モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータ以外のインバータの分担トルク指令に加算する加算ステップと、
前記制限ステップにより制限がかけられた分担トルク指令、前記加算ステップにより加算された分担トルク指令およびモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成するステップと、を有していることを特徴とする請求項7に記載の多重巻線モータの制御方法。
【請求項9】
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定されるインバータの直流側に設けられた、回生電流流入阻止用の回生電流阻止用ダイオードを備えたことを特徴とする請求項7又は8に記載の多重巻線モータの制御方法。
【請求項10】
前記トルク分担ステップは、前記各巻線群の巻数比に応じて各分担トルク指令に分担することを特徴とする請求項7又は8又は9に記載の多重巻線モータの制御方法。
【請求項11】
前記モータに対するトルク指令の大きさ毎の、モータの回転数と各分担トルク指令の関係がテーブル化されたテーブルであって、モータに対するトルク指令とモータの回転数に応じて、モータの損失およびインバータの損失の和が最も小さくなる分担トルク指令を出力するトルク分担テーブルを備え、
前記トルク分担ステップは、モータに対するトルク指令およびモータの回転数に基づいて、前記トルク分担テーブルを参照して各インバータが分担する分担トルク指令を出力することを特徴とする請求項7又は8又は9に記載の多重巻線モータの制御方法。
【請求項12】
インバータ停止要求部が、前記トルク分担ステップにより分担された分担トルク指令が零のとき、当該分担トルク指令が零である側のインバータの運転停止要求を出力するインバータ停止要求ステップを備えたことを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の多重巻線モータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重巻線PMモータの制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻数の異なる複数の巻線群を有した多重巻線モータを、各巻線群に各々接続した複数のインバータによって駆動する装置は、従来、例えば特許文献1~4に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6160563号公報
【特許文献2】特許第5428445号公報
【特許文献3】特開2013-121222号公報
【特許文献4】特開2019-140725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、複数の巻線群を有する3相多重巻線モータの各巻線群をそれぞれインバータで制御して駆動する技術が記載されている。各巻線を別々のインバータで駆動するため、1台のインバータに異常が生じてももう一方のインバータだけでモータを駆動できるため、冗長性が向上するという利点がある。
【0005】
また、特許文献2では、複数の巻線群を全部使用せず、動作条件に応じてシステム損失が最小となるように、通電する巻線を切り替える方式が提案されている。
【0006】
モータが、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期モータ(PMモータ)である場合、この通電する巻線を切換える方式では、通電しない巻線に、モータが回転することで生じる誘起電圧が発生するため、インバータの直流電圧よりも誘起電圧が高くなる場合には、通電しないインバータに電力が回生してしまい、動作が不安定となったり、システム損失が増加するといった問題が生じる。
【0007】
この問題に対して、特許文献2では、使用しない巻線群の電流経路を遮断できるような機構を備えている。また、多重巻線の構成ではないが、同様の問題の対応として特許文献3、4も、同様に電流経路を遮断する機構を設けている。しかしながら、この電流経路の遮断機構はON/OFF切替を必要とするため、この遮断機構にIGBTなどの半導体素子を用いる場合には、この半導体素子を動作させるドライバ回路が必要になり、半導体素子を用いずに電磁接触器などの機械式の物を使用しても、接点操作用の電源や配線が必要となるといったデメリットがある。
【0008】
また、特許文献2において、多重巻線モータの通電する巻線の決定の仕方に関しては記載があるが、各巻線を全部通電する場合のように複数の巻線に通電する場合の各巻線のトルクの分担に関しては記載がない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、簡単な構成により、インバータ、モータのシステム損失の増加を抑え、高効率で駆動できる範囲を広げることが可能な多重巻線モータの制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の多重巻線モータの制御装置は、
巻数の異なる複数の巻線群を有した多重巻線モータの、各巻線群に各々接続された複数のインバータと、
前記モータに対するトルク指令を、前記モータおよび複数のインバータの損失が小さくなる分担トルク指令であり、前記各インバータが分担する分担トルク指令に分担し、該各分担トルク指令とモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記各インバータの出力電流を、前記生成された各インバータの電流指令に追従させる電圧指令を各々演算する電流制御部と、
前記電流制御部により演算された各インバータの電圧指令と各インバータ毎に位相の異なるキャリア信号によって、各インバータのゲート指令信号を生成し、各インバータに出力するPWM制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の多重巻線モータの制御装置は、請求項1において、
前記電流指令生成部は、前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を正の値に制限するリミッタと、前記リミッタにより制限がかけられた分担トルク指令とリミッタによる制限がかけられる前の分担トルク指令との偏差を、前記モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータ以外のインバータの分担トルク指令に加算する加算器と、を有していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の多重巻線モータの制御装置は、請求項1又は2において、
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定されるインバータの直流側に設けられた、回生電流流入阻止用の回生電流阻止用ダイオードを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の多重巻線モータの制御装置は、請求項1又は2又は3において、
前記電流指令生成部は、前記各巻線群の巻数比に応じて各分担トルク指令に分担することを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載の多重巻線モータの制御装置は、請求項1又は2又は3において、
前記電流指令生成部は、前記モータに対するトルク指令の大きさ毎の、モータの回転数と各分担トルク指令の関係がテーブル化されたテーブルであって、モータに対するトルク指令とモータの回転数に応じて、モータの損失およびインバータの損失の和が最も小さくなる分担トルク指令を出力するトルク分担テーブルを有していることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の多重巻線モータの制御装置は、請求項2から5のいずれか1項において、
前記電流指令生成部で分担された分担トルク指令が零のとき、当該分担トルク指令が零である側のインバータの運転停止要求を出力するインバータ停止要求部を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の多重巻線モータの制御方法は、
巻数の異なる複数の巻線群を有した多重巻線モータの、各巻線群に各々接続された複数のインバータを備えた多重巻線モータの制御方法であって、
電流指令生成部が、前記モータに対するトルク指令を、前記モータおよび複数のインバータの損失が小さくなる分担トルク指令であり、前記各インバータが分担する分担トルク指令に分担するトルク分担ステップと、
電流指令生成部が、前記トルク分担ステップで分担された各分担トルク指令およびモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成する電流指令生成ステップと、
電流制御部が、前記各インバータの出力電流を、前記電流指令生成ステップにより生成された各インバータの電流指令に追従させる電圧指令を各々演算する電流制御ステップと、
PWM制御部が、前記電流制御ステップにより演算された各インバータの電圧指令と各インバータ毎に位相の異なるキャリア信号によって、各インバータのゲート指令信号を生成し、各インバータに出力するステップと、を備えことを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の多重巻線モータの制御方法は、請求項7において、
前記電流指令生成ステップは、
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を正の値に制限する制限ステップと、
前記制限ステップにより制限がかけられた分担トルク指令と制限がかけられる前の分担トルク指令との偏差をとる減算ステップと、
前記減算ステップで得られた分担トルク指令の偏差分を、前記モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータ以外のインバータの分担トルク指令に加算する加算ステップと、
前記制限ステップにより制限がかけられた分担トルク指令、前記加算ステップにより加算された分担トルク指令およびモータの回転速度検出情報に基づいて、各インバータの電流指令を生成するステップと、を有していることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の多重巻線モータの制御方法は、請求項7又は8において、
前記複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定されるインバータの直流側に設けられた、回生電流流入阻止用の回生電流阻止用ダイオードを備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の多重巻線モータの制御方法は、請求項7又は8又は9において、
前記トルク分担ステップは、前記各巻線群の巻数比に応じて各分担トルク指令に分担することを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の多重巻線モータの制御方法は、請求項7又は8又は9において、
前記モータに対するトルク指令の大きさ毎の、モータの回転数と各分担トルク指令の関係がテーブル化されたテーブルであって、モータに対するトルク指令とモータの回転数に応じて、モータの損失およびインバータの損失の和が最も小さくなる分担トルク指令を出力するトルク分担テーブルを備え、
前記トルク分担ステップは、モータに対するトルク指令およびモータの回転数に基づいて、前記トルク分担テーブルを参照して各インバータが分担する分担トルク指令を出力することを特徴としている。
【0021】
請求項12に記載の多重巻線モータの制御方法は、請求項8から11のいずれか1項において、
インバータ停止要求部が、前記トルク分担ステップにより分担された分担トルク指令が零のとき、当該分担トルク指令が零である側のインバータの運転停止要求を出力するインバータ停止要求ステップを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
(1)請求項1~12に記載の発明によれば、多重巻線モータの制御において、効率よくトルクを分担してモータ、インバータのシステム損失の増加を抑え、高効率で駆動できる範囲を広げることが可能である。
(2)請求項2、8に記載の発明によれば、複数のインバータのうち、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧がインバータ直流部の直流電圧を超えることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を正の値に制限しているので、不要に回生トルクが発生することは避けられる。
(3)請求項3、9に記載の発明によれば、回生電流阻止用ダイオードを設けているので、簡単な構成により、巻線に誘起する誘起電圧が、インバータ直流部の直流電圧を超えても、当該巻線に接続されたインバータを介して電力が回生されることを防止することができる。これによって、モータの動作が不安定になったり、システム損失が増加することを防止できる。
【0023】
また、発生した回生電力は、回生電流阻止用ダイオードが設けられていない側のインバータを介して回生することができる。
(4)請求項5、11に記載の発明によれば、最もシステム損失が小さくなるように分担トルク指令が設定されるので、より高効率で運転を行うことができる。
(5)請求項6、12に記載の発明によれば、インバータの無駄な運転を防止することができ、効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態例による多重巻線モータの制御装置の全体構成図。
【
図2】本発明の実施例1による電流指令生成部の構成図。
【
図3】本発明の実施例2による電流指令生成部の構成図。
【
図4】本発明の実施例2におけるトルク分担テーブルの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
図1は本実施形態例による多重巻線モータの制御装置の全体構成を示している。
【0026】
図1において、1は直流電源部であり、3相交流電源を整流した電源でも良い。直流電源部1には、直流電圧を平滑化するコンデンサ2が並列に接続されている。直流電源部1の正極端には意図しない回生を防ぐための回生電流阻止用ダイオード3Pのアノードが接続され、直流電源部1の負極端には意図しない回生を防ぐための回生電流阻止用ダイオード3Nのカソードが接続されている。
【0027】
回生電流阻止用ダイオード3Pのカソードと3Nのアノードの間には、半導体スイッチング素子U1,V1,W1,X1,Y1,Z1を3相ブリッジ接続したインバータ4-1が接続されている。
【0028】
直流電源部1の正極端および回生電流阻止用ダイオード3Pの共通接続点と、直流電源部1の負極端および回生電流阻止用ダイオード3Nの共通接続点との間には、半導体スイッチング素子U2,V2,W2,X2,Y2,Z2を3相ブリッジ接続したインバータ4-2が接続されている。
【0029】
5は、第1、第2の巻線群5-1,5-2を備えた永久磁石同期モータであり2つの巻線群5-1,5-2の各々は、異なる中性点を有する3相巻線で構成されている。
【0030】
第1の巻線群5-1を構成する各巻線のターン数n1を、第2の巻線群5-2を構成する各巻線のターン数n2よりも大きく(n1>n2)設定している。
【0031】
前記インバータ4-1の交流出力側は第1の巻線群5-1に接続され、インバータ4-2の交流出力側は第2の巻線群5-2に接続されている。
【0032】
前記回生電流阻止用ダイオード3P、3Nは、永久磁石同期モータ5の誘起電圧によりインバータに電流が流れ込むことを防止するものであり、巻線群(5-1,5-2)に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定されるインバータ、例えばインバータ4-1の直流側に設けている。
【0033】
6は、永久磁石同期モータ5の回転子位置を検出して位置情報θを出力する位置検出器であり、7は位置情報θを微分して速度ω(モータの回転速度検出情報)を出力する微分器である。
【0034】
8は、設定される前記モータ5に対するトルク指令Trq*から各インバータ4-1,4-2のdq軸の電流指令id1*,iq1*,id2*,iq2*を生成して出力する電流指令生成部であり、トルク指令Trq*を、前記モータ5およびインバータ4-1、4-2の損失が小さくなる分担トルク指令であり、各インバータの分担トルク指令Trq1*, Trq2*に分担するトルク分担機構と、前記分担トルク指令と前記モータの速度ωに応じてトルク指令から電流指令に変換する機構とを内蔵している。
【0035】
9は、インバータ4-1の3相出力電流iu1,iv1,iw1を計測する電流センサであり、3相のうちどれか2相のみの検出でも良い。10は、インバータ4-2の3相出力電流iu2,iv2,iw2を計測する電流センサであり、3相のうちどれか2相のみの検出でも良い。
【0036】
11は、電流センサ9で計測された3相出力電流iu1,iv1,iw1を、位置検出器6で検出された位置情報θをもとにdq変換してd軸電流id1、q軸電流iq1を出力するuvw/dq変換器である。
【0037】
12は、電流センサ10で計測された3相出力電流iu2,iv2,iw2を、位置検出器6で検出された位置情報θをもとにdq変換してd軸電流id2、q軸電流iq2を出力するuvw/dq変換器である。
【0038】
13は、微分器7から出力される速度ωに基づいて、前記d軸電流id1、q軸電流iq1を、電流指令生成部8で生成された電流指令id1*,iq1*に追従させるようなd軸電圧指令vd1*,q軸電圧指令vq1*を演算し、微分器7から出力される速度ωに基づいて、前記d軸電流id2、q軸電流iq2を、電流指令生成部8で生成された電流指令id2*,iq2*に追従させるようなd軸電圧指令vd2*,q軸電圧指令vq2*を演算し、出力する電流制御部である。
【0039】
前記電圧指令の演算にはPI制御器などを用いる。
【0040】
14は、電流制御部13で演算された、インバータ4-1側のdq軸の電圧指令vd1*,vq1*を、位置検出器6で検出された位置情報θをもとに3相軸(u,v,w相)変換して3相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を出力するdq/uvw変換器である。
【0041】
15は、電流制御部13で演算された、インバータ4-2側のdq軸の電圧指令vd2*,vq2*を、位置検出器6で検出された位置情報θをもとに3相軸(u,v,w相)変換して3相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を出力するdq/uvw変換器である。
【0042】
16は、dq/uvw変換器14により変換された電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を、コンデンサ2の電圧を電圧検出器18で検出した直流電圧Vdcで正規化し、三角波キャリアとの大小比較によりインバータ4-1(INV1)のゲート指令信号を出力するPWM制御部である。
【0043】
17は、dq/uvw変換器15により変換された電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を、コンデンサ2の電圧を電圧検出器18で検出した直流電圧Vdcで正規化し、三角波キャリアとの大小比較によりインバータ4-2(INV2)のゲート指令信号を出力するPWM制御部である。
【0044】
PWM制御部16と17の三角波キャリアの位相は、互いに180°ずらしている。
【0045】
尚、
図1では、回生電流阻止用ダイオード3P,3Nを、巻線群(5-1,5-2)に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定される、例えばインバータ4-1の直流側に設けているが、本発明はこれに限らず、
図1において回生電流阻止用ダイオード3P,3Nを設けない構成とした場合にも適用される。
【0046】
前記永久磁石同期モータ5に対するトルク指令Trq*を、各インバータ4-1,4-2が分担する分担トルク指令に分担し、各インバータの電流指令id1*,iq1*,id2*,iq2*を生成する電流指令生成部8は、以下の実施例1、実施例2のように構成されている。
【実施例0047】
図2は、実施例1による
図1の電流指令生成部8の構成を示している。
図2において、21は、前記モータ5に対するトルク指令Trq
*に変換ゲインn1/(n1+n2)を乗算してインバータ4-1側のトルク指令Trq1
*を求めるゲイン乗算器であり、22は、前記モータ5に対するトルク指令Trq
*に変換ゲインn2/(n1+n2)を乗算してインバータ4-2側のトルク指令Trq2
*を求めるゲイン乗算器であり、これらゲイン乗算器21,22によって、Trq
*をTrq1
*とTrq2
*に分担している。
【0048】
このトルク分担の比率は、第1の巻線群5-1を構成する各巻線のターン数n1と、第2の巻線群5-2を構成する各巻線のターン数n2を用いて、次の(1)式、(2)式により求められる。
【0049】
【0050】
【0051】
23は、ゲイン乗算器21から出力されるインバータ4-1のトルク指令Trq1*(分担トルク指令)を正の値に制限するリミッタであり、Trq1*が負の値の場合にはゼロが出力される。このリミッタ23は、インバータの直流部に回生電流阻止用ダイオード3P、3Nが接続されているインバータ4-1のトルク指令Trq1*側に設けられる。
【0052】
また、前記回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが設けられていない構成の場合は、モータ回転時に前記巻線群(5-1,5-2)に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定される、例えばインバータ4-1のトルク指令Trq1*側にリミッタ23を設ける。
【0053】
24は、リミッタ23通過前のトルク指令値(Trq1*)からリミッタ23通過後のトルク指令値を減算する減算器である。
【0054】
25は、減算器24の偏差出力を、ゲイン乗算器22から出力されるインバータ4-2のトルク指令Trq2*(分担トルク指令)に加算する加算器である。
【0055】
この加算器25によって、Trq1*をリミッタ23で制限した分のトルク指令がTrq2*に加算されることになる。
【0056】
26は、リミッタ23通過後のトルク指令と、
図1の微分器7から出力されるモータの速度ωから、インバータ4-1のdq軸の電流指令id1
*,iq1
*を出力する電流指令変換テーブルである。
【0057】
27は、加算器25から出力されるトルク指令と、
図1の微分器7から出力されるモータの速度ωから、インバータ4-2のdq軸の電流指令id2
*,iq2
*を出力する電流指令変換テーブルである。
【0058】
これら電流指令変換テーブル26,27は、一般的にはモータのトルクと速度の2次元テーブルとなっており、モータを最も高効率で駆動できるような電流指令を出力する。
【0059】
図1、
図2の構成において、永久磁石同期モータ5の巻線群5-1の各巻線のターン数n1と巻線群5-2の各巻線のターン数n2はn1>n2に設定されており、巻線群5-1の方がターン数が大きいため少ない電流で大トルクを出力できるが、電圧が高くなるので高速回転時などはインバータ出力可能電圧を越えないように弱め界磁電流を多く流す必要がある。
【0060】
一方、巻線群5-2の巻線は大きな電流を流さないとトルクは出力できないが、電圧が低くなるので高速回転時などに弱め磁束電流が小さくてすむ。そのため、モータの動作条件(速度やトルク)に応じて、巻線群5-1だけを使用して駆動するモード1、巻線群5-2だけを使用して駆動するモード2、両方の巻線を使用して駆動するモード3のモードを切り替えて運転することで、インバータ、モータのシステム損失の少ない動作モードで運転することができ、高効率で駆動できる範囲を広げることが可能となる。
【0061】
しかし、前記モード2で運転した場合、モータが回転することで、回転子の磁石による鎖交磁束により巻線群5-1の巻線には誘起電圧が生じる。この使用していない巻線群5-1に生じる誘起電圧がインバータの直流部の電圧(Vdc)よりも高くなると、インバータ4-1に電流が流れ込み、回生してしまう。こうなると巻線群5-1には不要に回生トルクが発生してしまうため、モータの動作が不安定となったり、システム損失の増加を招く。
【0062】
そこで、インバータ4-1の直流部に回生電流阻止用ダイオード3P,3Nを追加している。これにより誘起電圧により回生することを防止することが可能となる。ダイオードを追加するだけなので、ドライブ回路や制御用の配線が不要である。しかし、この方式では前記モード1やモード3で駆動する場合、回生動作をさせたい場合には回生電流を流すことができない。そこで、
図1に示すような制御構成を用いてインバータ4-1では回生できない分をインバータ4-2で回生させるようにする。
【0063】
具体的には、
図2のゲイン乗算器21,22を用いて、永久磁石同期モータ5に対するトルク指令Trq
*をモータの巻線のターン数の比率に合わせてインバータ4-1とインバータ4-2のトルク指令Trq1
*、Trq2
*に分担させる。分担の比率はターン数n1,n2を用いて次の(1)式、(2)式で求めることができる。
【0064】
【0065】
【0066】
回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが挿入されているインバータ4-1(又は回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが挿入されていないが、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定される側のインバータ)の方は、
図2に示すように、Trq1
*の後に、Trq1
*を正の値に制限するリミッタ23を設けている。
【0067】
これにより、リミッタ23が設けられた側のインバータに回生動作をさせないようにする。インバータ4-1の分担トルク指令Trq1*がリミッタにかかった場合は、本来出力したいトルク指令Trq*が出力されなくなるので、リミッタ23で制限された分(減算器24の減算出力)を、加算器25においてインバータ4-2の分担トルク指令Trq2*に加算することで、トルク指令Trq*を出力することが可能となる。ただし、巻線群5-2だけで2巻線分の回生トルクは出力できないので、巻線群5-2で出力可能なトルクの範囲で回生することになる。
【0068】
また、2重以上の多重の場合には次の(3)式のトルク分担となる。
【0069】
【0070】
以上のように本実施例1によれば、回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが設けられた側、又は回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが挿入されていないが、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定される側のインバータが分担する分担トルク指令を、リミッタ23により正の値に制限しているので、不要に回生トルクが発生することは避けられる。
【0071】
また、
図2の構成か、又は
図2の構成と回生電流阻止用ダイオード3P,3Nとの構成による、簡単な構成により、巻線に誘起する誘起電圧が、インバータ直流部の直流電圧を超えても、当該巻線に接続されたインバータを介して電力が回生されることを防止することができる。これによって、永久磁石同期モータ5の動作が不安定になったり、システム損失が増加することを防止できる。
【0072】
また、発生した回生電力は、回生電流阻止用ダイオード3P,3Nが設けられていない側のインバータ(4-2)、又は回生電流阻止用ダイオード3P,3Nを設けていない場合は、モータ回転時に前記巻線に生じる誘起電圧が、インバータ直流側の直流電源部1の直流電圧よりも高くなることが想定される側のインバータ以外のインバータを介して回生することができる。
多重巻線モータはインバータのキャリアの位相をずらすことで、モータの電流のキャリアリプルを打ち消して鉄損を低減することが期待できるが、各巻線のターン数を変えているため、各巻線に同じ電流を流しても、キャリアリプルの低減効果があまり得られない場合がある。そこで、本実施例2では、このキャリアリプルの打ち消しによる鉄損低減効果の割合やモータの銅損、インバータの損失も含めて、システム損失が最小となるように各巻線のトルク(電流)の分担をさせるように構成した。
前記比較器31が出力する“0”はインバータ4-1の運転要求、“1”はインバータ4-1の停止要求を意味し、比較器32が出力する“0”はインバータ4-2の運転要求、“1”はインバータ4-2の停止要求を意味し、これら比較器31,32によってインバータ停止要求部を構成している。
例えば、モータの鉄損は考慮できないが、銅損を最小とするようなトルクやdq軸電流は、下記の最適化問題を各トルク指令、回転数の動作条件に応じて解くことにより導出することが可能となる。
永久磁石同期モータ5の鉄損を考慮する場合には、上述した計算では損失最小動作条件を算出できないため、JMAG(電磁界解析ソフトウェア)などの解析ソフトを用いて、各トルク、回転数に応じて損失最小となる動作条件を求める。