(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142877
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61N 1/05 20060101AFI20220926BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61N1/05
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043126
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】榎本 加央里
(72)【発明者】
【氏名】江指 慶春
(72)【発明者】
【氏名】新美 大志
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053CC10
(57)【要約】
【課題】鼻腔内から翼口蓋神経節に繋がる神経枝を刺激できる医療デバイスを提供する。
【解決手段】鼻腔内を刺激するための医療デバイス10であって、鼻孔から挿入され、鼻腔内で拡張する挿入部22と、挿入部22に配置される刺激部26と、刺激部26を制御する制御部24と、を有し、挿入部22は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部33を有する医療デバイス10である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔内を刺激するための医療デバイスであって、
鼻孔から挿入され、鼻腔内で拡張する挿入部と、
前記挿入部に配置される刺激部と、
前記刺激部を制御する制御部と、を有し、
前記挿入部は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部を有する医療デバイス。
【請求項2】
前記挿入部は、前記凸部の山部と該山部間に形成される谷部とに沿う骨格部材を有し、
前記骨格部材は、前記刺激部を有し、
前記骨格部材間には、柔軟なシート部材が設けられる請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記挿入部は、隣接する前記骨格部材間に設けられ伸長方向に付勢された弾性部材を有する請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記挿入部は、前記挿入部の挿入方向と直交する幅方向における両端部の前記骨格部材に連結され、前記幅方向に開閉自在な開閉部材を有し、
前記開閉部材は、該開閉部材を開閉させる操作部材と連結されている請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記挿入部は、前記挿入部の挿入方向と直交する幅方向における一端部の前記骨格部材に連結される第1開閉部材と、前記幅方向における他端部の前記骨格部材に連結される第2開閉部材と、を有し、
前記第2開閉部材は、前記第1開閉部材に回動可能に支持されている請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記挿入部は、前記凸部の山部と該山部間に形成される谷部とを有するシート部材で形成され、
前記シート部材は、前記刺激部を有する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記挿入部は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側に位置して前記凸部と対向する対向面部を有し、
前記凸部と前記対向面部との間には、吸水により膨張する膨潤部を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記挿入部は、少なくとも一部がシース部材内に収納されるワイヤ部材で形成され、
前記ワイヤ部材は、前記刺激部を有すると共に、前記シース部材から露出することで自己拡張して前記凸部を形成する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記挿入部は、内部に流体を注入することで拡張するバルーンで形成され、
前記バルーンの表面に前記刺激部が配置される請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記バルーンは、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方側を形成し拡張時に前記凸部を形成する第1バルーン部材と、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側を形成する第2バルーン部材と、を接合して形成されている請求項9に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記挿入部は、棒状の基部と、該基部のうち挿入方向と直交する平面において一方側に配置される複数の前記凸部とを有し、
前記凸部は、前記基部の表面に対して角度可変に立設されている請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記挿入部の近傍に撮像部が配置される請求項1~11のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記撮像部の近傍に照明部が配置される請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記挿入部の近傍に開口する管状の吸引シャフトが設けられ、該吸引シャフトは吸引装置に接続される請求項1~13のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記挿入部から手元部側に延びるワイヤ束を有し、
前記ワイヤ束は、鼻孔に嵌合する栓部材に挿通される請求項1~14のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記刺激部は複数設けられ、
前記制御部は、それぞれの前記刺激部の通電の有無から生体に対する接触状態を判別し、生体に接触している前記刺激部にのみ電圧を印加する請求項1~15のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記制御部は、神経または脳の活動状態を検知するセンサ部から得られる情報に基づき、前記刺激部から付与する刺激の強度を調節する請求項1~16のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔内を刺激する医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
脳血流を増加させる治療の一つとして、翼口蓋神経節を刺激する方法が知られている。翼口蓋神経節は、上顎の奥に位置しているので、口腔内を切開して電極を埋め込み、外部から電極に給電することで、翼口蓋神経節を刺激するデバイスが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口腔内は細菌が多いため、口腔内を切開して電極を埋め込む手法では、感染症罹患リスクを生じる。このため、生体を切開することなく神経を刺激するデバイスが望まれる。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、鼻腔内から翼口蓋神経節に繋がる神経枝を刺激できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、鼻腔内を刺激するための医療デバイスであって、鼻孔から挿入され、鼻腔内で拡張する挿入部と、前記挿入部に配置される刺激部と、前記刺激部を制御する制御部と、を有し、前記挿入部は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した医療デバイスは、生体を切開することなく鼻腔内の神経を刺激することができるので、合併症発生のリスクを低くすることができる。また、凸部により鼻腔内の生体表面に刺激部を確実に接触させて、神経に刺激を与えることができる。
【0008】
前記挿入部は、前記凸部の山部と該山部間に形成される谷部とに沿う骨格部材を有し、前記骨格部材は、前記刺激部を有し、前記骨格部材間には、柔軟なシート部材が設けられるようにしてもよい。これにより、骨格部材により凸部の形状を確実に形成でき、挿入部を鼻腔内に確実に当接させることができる。
【0009】
前記挿入部は、隣接する前記骨格部材間に設けられ伸長方向に付勢された弾性部材を有するようにしてもよい。これにより、鼻腔内において挿入部を自己拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0010】
前記挿入部は、前記挿入部の挿入方向と直交する幅方向における両端部の前記骨格部材に連結され、前記幅方向に開閉自在な開閉部材を有し、前記開閉部材は、該開閉部材を開閉させる操作部材と連結されているようにしてもよい。これにより、操作部材の操作によって挿入部を簡単に拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0011】
前記挿入部は、前記挿入部の挿入方向と直交する幅方向における一端部の前記骨格部材に連結される第1開閉部材と、前記幅方向における他端部の前記骨格部材に連結される第2開閉部材と、を有し、前記第2開閉部材は、前記第1開閉部材に回動可能に支持されているようにしてもよい。これにより、第1開閉部材と第2開閉部材の回動操作によって挿入部を簡単に拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0012】
前記挿入部は、前記凸部の山部と該山部間に形成される谷部とを有するシート部材で形成され、前記シート部材は、前記刺激部を有するようにしてもよい。これにより、挿入部がシート部材のみで形成されるので、挿入部をより柔軟にして、鼻腔内の形状に合わせて拡張させやすく、刺激部を確実に生体表面に接触させることができる。
【0013】
前記挿入部は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側に位置して前記凸部と対向する対向面部を有し、前記凸部と前記対向面部との間には、吸水により膨張する膨潤部を有するようにしてもよい。これにより、挿入部にクッション性を付与し、凸部を生体表面に対してより確実に接触させることができる。
【0014】
前記挿入部は、少なくとも一部がシース部材内に収納されるワイヤ部材で形成され、前記ワイヤ部材は、前記刺激部を有すると共に、前記シース部材から露出することで自己拡張して前記凸部を形成するようにしてもよい。これにより、挿入部を簡易な構造で構成できる。
【0015】
前記挿入部は、内部に流体を注入することで拡張するバルーンで形成され、前記バルーンの表面に前記刺激部が配置されるようにしてもよい。これにより、挿入部を流体の注入により確実に拡張させて、刺激部を生体表面に接触させることができる。
【0016】
前記バルーンは、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方側を形成し拡張時に前記凸部を形成する第1バルーン部材と、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側を形成する第2バルーン部材と、を接合して形成されているようにしてもよい。これにより、一方側のみに凸部が形成されるバルーンを容易に形成できる。
【0017】
前記挿入部は、棒状の基部と、該基部のうち挿入方向と直交する平面において一方側に配置される複数の前記凸部とを有し、前記凸部は、前記基部の表面に対して角度可変に立設されているようにしてもよい。これにより、鼻孔や鼻腔の形状に合わせて、凸部が基部に対する角度を変えながら挿入されるので、挿入部を容易に挿入し、鼻腔では刺激部を生体表面に確実に接触させることができる。
【0018】
前記挿入部の近傍に撮像部が配置されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内の状態を確認しながら挿入部を挿入できる。
【0019】
前記撮像部の近傍に照明部が配置されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内の視認性を向上できる。
【0020】
前記挿入部の近傍に開口する管状の吸引シャフトが設けられ、該吸引シャフトは吸引装置に接続されるようにしてもよい。これにより、鼻汁を吸引しながら刺激部による刺激を継続できる。
【0021】
前記挿入部から手元部側に延びるワイヤ束を有し、前記ワイヤ束は、鼻孔に嵌合する栓部材に挿通されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内に留置した挿入部の位置が患者の体動等でずれることを防止できる。
【0022】
前記刺激部は複数設けられ、前記制御部は、それぞれの前記刺激部の通電の有無から生体に対する接触状態を判別し、生体に接触している前記刺激部にのみ電圧を印加するようにしてもよい。これにより、刺激部で生体に対して確実に刺激を与えることができる。
【0023】
前記制御部は、神経または脳の活動状態を検知するセンサ部から得られる情報に基づき、前記刺激部から付与する刺激の強度を調節するようにしてもよい。これにより、より効果的に生体に対して刺激を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】挿入部の拡張前後の形状を表す平面図であって、(a)は挿入部がシース部材に収納された状態を、(b)は挿入部がシース部材から露出した状態を、それぞれ示した図である。
【
図3】医療デバイスのうち挿入部付近の拡大正面図である。
【
図4】挿入部を鼻腔内で拡張させた状態における正面図であって、生体を断面で表した図である。
【
図6】変形例に係る拡張機構を有する挿入部の正面図であって、(a)は挿入部の拡張前を、(b)は挿入部の拡張後を、それぞれ示した図である。
【
図8】変形例に係るシース部材とそのルーメンに収納された挿入部の平面図である。
【
図9】吸引シャフトを設けた場合の、挿入部を鼻腔内で拡張させた状態における正面図である。
【
図10】栓部材の斜視図であって、(a)は円筒状の周面を有する栓部材、(b)はテーパ状の周面を有する栓部材の図である。
【
図11】鼻孔に栓部材を固定した場合の、挿入部を鼻腔内で拡張させた状態における正面図である。
【
図12】挿入部に膨潤部を設けた場合の側面図であって、(a)は膨潤部の膨潤前の状態を、(b)は膨潤部の膨潤後の状態を、それぞれ表した図である。
【
図13】第2変形例に係る拡張機構を有する挿入部の正面図であって、(a)は挿入部の拡張前を、(b)は挿入部の拡張後を、それぞれ示した図である。
【
図14】第2実施例に係る挿入部の正面図であって、(a)は挿入部がシース部材に収納された状態を、(b)は挿入部がシース部材の外部に露出した状態を、それぞれ示した図である。
【
図15】第3実施例に係る挿入部の正面図であって、(a)は挿入部の拡張前の状態を、(b)は挿入部の拡張後の状態を、それぞれ示した図である。
【
図17】第4実施例に係る挿入部が拡張した状態の図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。本明細書では、医療デバイス10を鼻腔内に挿入する側を先端あるいは先端側、医療デバイス10の手元側を基端あるいは基端側と称する。
【0026】
本発明の実施形態に係る医療デバイス10は、鼻腔内を刺激することで、脳血流を増加させる治療に用いられるものである。鼻腔内には、左右の鼻腔を隔てる鼻中隔と、鼻中隔と対向する鼻甲介とに、それぞれ翼口蓋神経節から延びる神経枝が走行している。医療デバイス10は、これらの翼口蓋神経節から伸びる神経枝を電気等で刺激する。
【0027】
図1に示すように、医療デバイス10は、鼻孔から挿入され、鼻腔内で拡張する挿入部22と、挿入部22から手元側に延びるワイヤ束21と、挿入部22を収納できる管状のシース部材20と、挿入部22に設けられる刺激部26と、刺激部26に対する電圧印加を制御する制御部24と、を有している。制御部24と刺激部26とは、図示しない配線部によって接続されている。
【0028】
図2(a)に示すように、挿入部22は、シース部材20の内部に収納することができる。挿入部22をシース部材20の内部に収納した状態で、鼻孔から鼻腔内にシース部材20の先端部が挿入され、シース部材20を軸方向に後退させることにより、シース部材20から挿入部22が露出する。
図2(b)に示すように、挿入部22がシース部材20から露出することで、挿入部22は拡張した状態となる。
【0029】
図3に示すように、挿入部22は、基端側から先端側に向かって広がるように配置される複数のワイヤからなる骨格部材30を有し、骨格部材30間にはそれぞれ柔軟なシート部材31が設けられる。骨格部材30の基端部は、導電線に接続されて1本にまとめられてワイヤ束21を形成している。シート部材31は、ゴムまたは樹脂フィルム等の柔軟な材料で形成される。骨格部材30は、挿入方向と直交する平面において、一方側に向かう傾斜角度が、隣接する骨格部材30と異なるように配置されている。このため、挿入部22には、骨格部材30に沿う山部35と谷部36が繰り返された形状が形成される。これによって、挿入部22には挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部33が形成される。また、凸部33と対向する側のシート部材31は、平滑状の対向面部37を形成する。凸部33と対向面部37との間には、空間部38が形成される。
【0030】
骨格部材30は、導電性を有しており、先端部から根元部に渡り全体が、生体に刺激を与える刺激部26となっている。また、骨格部材30が導電性を有さず、骨格部材30の長さ方向に沿って複数の刺激部26が配置されてもよい。刺激部26は、本実施形態においては制御部24からの電流が通電される電極である。ただし、刺激部26による刺激は、通電によるものに限られず、電気や超音波を介して生じさせる微振動による刺激、40℃程度の熱を加える刺激、磁力を用いた神経への刺激など、他の種類の刺激であってもよい。
【0031】
隣接する骨格部材30間には、バネ等の弾性部材34が設けられる。弾性部材34は、伸長方向に付勢されている。このため、挿入部22がシース部材20から露出した際には、弾性部材34の付勢力によって、隣接する骨格部材20同士が離間し、
図4に示すように、鼻腔K内において挿入部22を拡張させることができる。
【0032】
図5に示すように、鼻腔K内において、挿入部22の凸部33は鼻甲介Rに当接し、対向面部37は鼻中隔Pに当接する。鼻中隔Pは概ね平面状であるので、平滑面で形成された対向面部37が当接しやすい。鼻甲介Rは複数の凹凸を有しているので、柔軟な複数の凸部33が当接しやすい。挿入部22が鼻腔K内で鼻中隔Pや鼻甲介Rに当接することで、刺激部26が生体に接触する。この状態で制御部24から刺激部26に電圧を印加することで、隣接する刺激部26間の生体組織に電流を流し、神経を刺激することができる。
【0033】
制御部24は、交流、直流、またはパルス電圧を刺激部26に印加し、各刺激部26間の生体組織に電流を流す。ただし、制御部24は、刺激部26とは独立した神経や脳の活動状態を検知するセンサ部、例えば、運動誘発電位(MEP)、体性感覚誘発電位(SEP)、脳磁図、経頭蓋磁気刺激(TMS)、顔面の筋電図、血中酸素化レベル依存(BOLD)信号、fMRIなどから得られる情報を基に、電圧または電流を調整し、刺激部26から付与する刺激の強度を調節するようにしてもよい。また、制御部24には、外部電源または、内蔵するバッテリーから電力が供給される。
【0034】
制御部24は、挿入部22が鼻腔K内で拡張した状態において、各刺激部26が通電可能か否かを判別してもよい。刺激部26が生体表面に十分接触していないと、刺激部26から生体組織に電流が流れないため、通電不能な刺激部26は、鼻中隔Pや鼻甲介Rに十分には接触していないことを判別できる。この場合、制御部24は、通電可能と確認した刺激部26にのみ電圧を印加し、各刺激部26間の生体組織に電流を流す。
【0035】
このように医療デバイス10は、鼻腔内で拡張する挿入部に刺激部26が設けられているので、生体を切開することなく鼻腔内を走行する翼口蓋神経節およびその枝を刺激することができる。このため、合併症のリスクを低減できる。また、刺激部26は鼻甲介および鼻中隔に接触して神経を刺激するので、内視鏡等を使用しなくても刺激部26を有する挿入部22を送達することができ、手技を簡単にすることができる。さらに、挿入部22は複数の柔軟な凸部33を有しているので、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介により凹凸形状を有する鼻甲介に凸部33が当接しやすく、刺激部26を生体表面に確実に接触させることができる。
【0036】
刺激部26は、挿入部22の任意の位置に配置することができ、また、通電する刺激部26も制御部24により任意に選択できるので、鼻腔内の様々な箇所に対して刺激を加える、あるいは加えないようにすることができる。例えば、鼻腔内の一部に傷等があって刺激ができない箇所があった場合に、その箇所を避けて刺激を加えることができる。そのため、幅広い患者群に対し、医療デバイス10を使用できる。また、刺激部26は、線状ではなく、骨格部材30上に点状に設けられてもよい。
【0037】
挿入部22は、弾性部材34以外の手段で拡張されてもよい。
図6(a)に示すように、挿入部22は、挿入部22の挿入方向と直交する幅方向における両端部の骨格部材30、30に連結される開閉部材40を有している。開閉部材40は、2本の棒状の部材からなり、基端部が連結部42に回動可能に支持されている。連結部42から手元部までは、操作部材41がワイヤ束21に沿って延びている。挿入部22を挿入方向に固定したまま操作部材41を手元部から先端側に進行させることにより、
図6(b)に示すように開閉部材40が開いて幅方向両端部の骨格部材30が互いに離隔し、挿入部22を拡張させることができる。
【0038】
挿入部は、骨格部材30を有していなくてもよい。
図7に示すように、挿入部50は、柔軟なシート部材51によって形成されている。シート部材51は、挿入部50の挿入方向と直交する一方に、複数の山部54と谷部55によって複数の凸部53を形成している。また、凸部53と対向する対向面部57も形成される。シート部材51には、山部54や谷部55に沿うように複数の刺激部56が設けられ生体に対する通電を行うことができる。刺激部56は、導電性を有する導線であり、シート部材51の外部に露出していることで、生体組織に接触して電流を流すことができる。また、刺激部56がシート部材51に埋め込まれ、シート部材51が導電性を有することで、刺激部56からシート部材51を介して生体組織に電流を流すようにしてもよい。
【0039】
シース部材は、鼻腔内の状態を観察するための撮像部を有していてもよい。
図8に示すように、シース部材60は、挿入部22を収納するルーメン61を有し、先端には撮像部62と照明部63とが設けられる。これにより、鼻腔内を視認しながら挿入部22を挿入、拡張させることができる。また、照明部63を有していることで、鼻腔内の視認性をより高くすることができる。なお、照明部63は、シース部材60ではなく、挿入部22の先端部に設けられてもよい。
【0040】
医療デバイスは、シース部材の内腔に鼻汁吸引用のシャフトを有していてもよい。
図9に示すように、挿入部22の近傍に開口する管状の吸引シャフト70が設けられる。吸引シャフト70は、手元部において吸引装置(図示しない)に接続されており、挿入部22による処置中に鼻腔内が継続的、あるいは断続的に吸引される。これにより、挿入部22の挿入や刺激部26による刺激に伴って漏出する鼻汁を吸引することができる。
【0041】
医療デバイスは、鼻孔に嵌合させる栓部材を有していてもよい。
図10(a)に示すように、栓部材80は、ワイヤ束21を挿通させる挿通孔81を有する円筒状に形成される。栓部材80は、柔軟で変形可能な材料で形成されるのが望ましい。
図10(b)に示すように、栓部材85は、先端側に向かって径が小さくなるテーパ状の周面を有していてもよい。栓部材85も、挿通孔86を有している。
【0042】
図11に示すように、栓部材80は挿入部22が挿入された鼻腔Kの入口部である鼻孔Hに配置されて嵌合する。これにより、鼻腔K内に留置した挿入部22が、患者の体動などによって動くことがないようにすることができる。
【0043】
挿入部には膨潤部を設けてもよい。
図12(a)に示すように、挿入部22の凸部33と対向面部37との間には、膨潤部90が設けられる。膨潤部90は、ポリエチレン等の可撓性を有する袋体91の内部に、吸水により膨潤する膨潤ゲル92が充填されている。袋体91は、手元部の給水部(図示しない)と連通しており、手元部から水を送ることができる。
図12(b)に示すように、挿入部22が拡張した状態で、膨潤部90に水を送ることにより、膨潤ゲル92が膨潤し、鼻中隔Pと鼻甲介Rとの間に充填された状態となる。これにより、挿入部22にクッション性を付与し、凸部33を生体に対してより確実に接触させることができる。
【0044】
挿入部22を拡張させる構造の変形例について説明する。
図13(a)に示すように、挿入部22は、挿入方向と直交する幅方向における一端部の骨格部材30aに連結される第1開閉部材100と、幅方向における他端部の骨格部材30bに連結される第2開閉部材101とを有している。両端部の骨格部材30a、30bは、ワイヤより剛性の高い棒状の部材で形成される。
【0045】
第2開閉部材101は、第1開閉部材100に対して回動部102において回動可能に支持されている。また、第2開閉部材101は、第1開閉部材100との間に渡される棒状の連係部103を有している。連係部103は、第1開閉部材100に設けられる挿通部104に挿通され、第2開閉部材101が第1開閉部材100との角度を変化させられるように構成されている。
【0046】
図13(b)に示すように、第2開閉部材101の第1開閉部材100に対する角度を小さくするように操作することで、第1開閉部材100に支持された骨格部材30aと第2開閉部材101に支持された骨格部材30bとがなす角度が大きくなり、挿入部22を拡張させることができる。
【0047】
挿入部の第2実施例につき説明する。
図14(a)に示すように、挿入部112は、弾性及び可撓性を有するリボン状のワイヤ部材113で形成されている。ワイヤ部材113は、線状であってもよいし、平板状であってもよい。収縮時においてワイヤ部材113は、先端部を除いてシース部材110の内部に収納されている。ワイヤ部材113は、シース部材110より先端側の折り返し部113aで基端側に向かって折り返されている。また、ワイヤ部材113の表面には、長さ方向に沿って刺激部114となる導線が配設される
【0048】
図14(b)に示すように、鼻腔内においてワイヤ部材113をシース部材20の先端側に進入させることで、ワイヤ部材113はシース部材110から露出する。ワイヤ部材113は、シース部材110により径方向に拘束されなくなることで自己拡張する。拡張したワイヤ部材113は、挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部116を有する。また、ワイヤ部材113は、凸部116と対向する略直線状の対向部117を有する。凸部116は、鼻腔内において鼻甲介に当接し、対向部117は鼻腔内において鼻中隔に当接する。
【0049】
次に、挿入部の第3実施例につき説明する。
図15(a)に示すように、挿入部122は、管体120の先端部に設けられるバルーン123である。バルーン123の内部は、管体120の内腔と連通しており、管体120から空気等の流体を注入することで、バルーン123は拡張することができる。バルーン123は、挿入方向と直交する平面において一方側の第1バルーン部材125と他方側の第2バルーン部材126とを接合して形成されている。バルーン123の表面に沿って放射状に、導電ワイヤからなる複数の刺激部127が配置されている。刺激部127は、導電性を有するバルーン123の膜内部に埋め込まれていてもよい。
【0050】
図15(b)に示すように、バルーン123を拡張させると、第1バルーン部材125には複数の凸部128が形成される。また、第2バルーン部材126には、凸部128と対向する対向面部129が形成される。凸部128と対向面部129には、それぞれ複数の刺激部127が配置されており、バルーン123の拡張により鼻甲介または鼻中隔に当接することができる。
【0051】
次に、挿入部の第4実施例につき説明する。
図16に示すように、挿入部130は、棒状の基部131と、基部131のうち挿入方向と直交する平面において一方側に配置される複数の凸部132とを有している。凸部132は、柔軟な材料で形成され、基部131の表面に対して角度可変に立設されている。凸部132は、鼻孔の入口など狭い場所では、
図16のように根元から基端側に向かう折り畳まれた状態となる。
【0052】
凸部132が鼻腔内に到達すると、
図17(a)のように根元から先端側に向かうように立ち上がり、鼻甲介に当接することができる。刺激部135は、各凸部132に沿うように設けられる導電ワイヤである。刺激部135は、1つの凸部132に複数設けられてもよい。また、刺激部135は、基部131の凸部132が設けられない他方側にも設けられる。
図17(b)に示すように、凸部132は、拡張状態において基部131の一方側に凸状となるので、凹凸状の表面を有する鼻甲介に凸部132が当接し、刺激部135を接触させることができる。また、基部131の凸部132を有しない側は、鼻中隔に当接し、刺激部135を接触させることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、鼻腔内を刺激するための医療デバイス10であって、鼻孔から挿入され、鼻腔内で拡張する挿入部22と、挿入部22に配置される刺激部26と、刺激部26を制御する制御部24と、を有し、挿入部22は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方に凸状となる複数の凸部33を有する。このように構成した医療デバイス10は、生体を切開することなく鼻腔内の神経を刺激することができるので、合併症発生のリスクを低くすることができる。また、凸部33により鼻腔内の生体表面に刺激部26を確実に接触させて、神経に刺激を与えることができる。
【0054】
また、挿入部22は、凸部33の山部と該山部間に形成される谷部とに沿う骨格部材30を有し、骨格部材30は、刺激部26を有し、骨格部材30間には、柔軟なシート部材31が設けられるようにしてもよい。これにより、骨格部材30により凸部33の形状を確実に形成でき、挿入部22を鼻腔内に確実に当接させることができる。
【0055】
また、挿入部22は、隣接する骨格部材30間に設けられ伸長方向に付勢された弾性部材34を有するようにしてもよい。これにより、鼻腔内において挿入部22を自己拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0056】
また、挿入部22は、挿入部22の挿入方向と直交する幅方向における両端部の骨格部材30に連結され、幅方向に開閉自在な開閉部材40を有し、開閉部材40は、開閉部材40を開閉させる操作部材41と連結されているようにしてもよい。これにより、操作部材41の操作によって挿入部22を簡単に拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0057】
また、挿入部22は、挿入部22の挿入方向と直交する幅方向における一端部の骨格部材30に連結される第1開閉部材100と、幅方向における他端部の骨格部材30に連結される第2開閉部材101と、を有し、第2開閉部材101は、第1開閉部材100に回動可能に支持されているようにしてもよい。これにより、第1開閉部材100と第2開閉部材101の回動操作によって挿入部22を簡単に拡張させることができ、手技を簡易にすることができる。
【0058】
また、挿入部50は、凸部33の山部と該山部間に形成される谷部とを有するシート部材51で形成され、シート部材51は、刺激部56を有するようにしてもよい。これにより、挿入部50がシート部材51のみで形成されるので、挿入部50をより柔軟にして、鼻腔内の形状に合わせて拡張させやすく、刺激部56を確実に生体表面に接触させることができる。
【0059】
また、挿入部22は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側に位置して凸部33と対向する対向面部37を有し、凸部33と対向面部37との間には、吸水により膨張する膨潤部90を有するようにしてもよい。これにより、挿入部22にクッション性を付与し、凸部33を生体表面に対してより確実に接触させることができる。
【0060】
また、挿入部112は、少なくとも一部がシース部材110内に収納されるワイヤ部材113で形成され、ワイヤ部材113は、刺激部114を有すると共に、シース部材110から露出することで自己拡張して凸部116を形成するようにしてもよい。これにより、挿入部112を簡易な構造で構成できる。
【0061】
また、挿入部122は、内部に流体を注入することで拡張するバルーン123で形成され、バルーン123の表面に刺激部127が配置されるようにしてもよい。これにより、挿入部122を流体の注入により確実に拡張させて、刺激部127を生体表面に接触させることができる。
【0062】
また、バルーン123は、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において一方側を形成し拡張時に凸部128を形成する第1バルーン部材125と、拡張した状態で挿入方向と直交する平面において他方側を形成する第2バルーン部材126と、を接合して形成されているようにしてもよい。これにより、一方側のみに凸部128が形成されるバルーンを容易に形成できる。
【0063】
また、挿入部130は、棒状の基部131と、基部131のうち挿入方向と直交する平面において一方側に配置される複数の凸部132とを有し、凸部132は、基部131の表面に対して角度可変に立設されているようにしてもよい。これにより、鼻孔や鼻腔の形状に合わせて、凸部132が基部131に対する角度を変えながら挿入されるので、挿入部130を容易に挿入し、鼻腔では刺激部135を生体表面に確実に接触させることができる。
【0064】
また、挿入部22の近傍に撮像部62が配置されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内の状態を確認しながら挿入部22を挿入できる。
【0065】
また、撮像部62の近傍に照明部63が配置されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内の視認性を向上できる。
【0066】
また、挿入部22の近傍に開口する管状の吸引シャフト70が設けられ、吸引シャフト70は吸引装置に接続されるようにしてもよい。これにより、鼻汁を吸引しながら刺激部26による刺激を継続できる。
【0067】
また、挿入部22から手元部側に延びるワイヤ束21を有し、ワイヤ束21は、鼻孔に嵌合する栓部材80に挿通されるようにしてもよい。これにより、鼻腔内に留置した挿入部22の位置が患者の体動等でずれることを防止できる。
【0068】
また、刺激部26は複数設けられ、制御部24は、それぞれの刺激部26の通電の有無から生体に対する接触状態を判別し、生体に接触している刺激部26にのみ電圧を印加するようにしてもよい。これにより、刺激部26で生体に対して確実に刺激を与えることができる。
【0069】
また、制御部24は、神経または脳の活動状態を検知するセンサ部から得られる情報に基づき、刺激部26から付与する刺激の強度を調節するようにしてもよい。これにより、より効果的に生体に対して刺激を与えることができる。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 医療デバイス
20 シース部材
22 挿入部
24 制御部
26 刺激部
30 骨格部材
31 シート部材
33 凸部
34 弾性部材
35 山部
36 谷部
37 対向面部
38 空間部