(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142878
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】医療デバイスシステムおよび処置方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3205 20060101AFI20220926BHJP
A61F 2/958 20130101ALI20220926BHJP
A61F 2/95 20130101ALI20220926BHJP
【FI】
A61B17/3205
A61F2/958
A61F2/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043127
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】北原 洋子
(72)【発明者】
【氏名】早川 浩一
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C160EE12
4C160MM36
4C267AA07
4C267AA28
4C267AA44
4C267AA53
4C267AA55
4C267AA56
4C267BB10
4C267BB40
4C267CC09
4C267CC19
4C267EE01
4C267GG22
4C267GG23
4C267GG24
4C267GG50
(57)【要約】
【課題】経皮的に血管内に挿入されて血栓を除去する医療デバイスシステムにおいて、少ないデバイス数で手技にかかる工数を削減できる医療デバイスシステムおよび処置方法を提供する。
【解決手段】生体管腔内に挿入されて、当該生体管腔内の物体を破砕して体外へ除去するための医療デバイスシステムであって、生体管腔内に挿入される第1管体20を有するシースデバイス12と、第1管体20に挿通される第2管体30を有し、第2管体30の外周面に破砕部33を有する破砕デバイス14と、第2管体30に挿通される第3管体40を有し、第3管体40の先端部には径方向に拡張可能な留置部材43が搭載された送達デバイス16と、を有し、破砕デバイス14の破砕部33は、送達デバイス16により生体管腔内に送達され拡張した留置部材43の内側に位置する医療デバイスシステムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内に挿入されて、当該生体管腔内の物体を破砕して体外へ除去するための医療デバイスシステムであって、
前記生体管腔内に挿入される第1管体を有するシースデバイスと、
前記第1管体に挿通される第2管体を有し、該第2管体の外周面に破砕部を有する破砕デバイスと、
前記第2管体に挿通される第3管体を有し、該第3管体の先端部には径方向に拡張可能な留置部材が搭載された送達デバイスと、を有し、
前記破砕デバイスの前記破砕部は、前記送達デバイスにより前記生体管腔内に送達され拡張した前記留置部材の内側に位置する医療デバイスシステム。
【請求項2】
前記送達デバイスは、前記第3管体の先端部にバルーンを有し、該バルーンに前記留置部材が搭載されている請求項1に記載の医療デバイスシステム。
【請求項3】
前記送達デバイスには、前記第3管体の先端部に前記留置部材が搭載されており、
前記留置部材は、径方向に自己拡張可能である請求項1に記載の医療デバイスシステム。
【請求項4】
前記破砕デバイスは、前記シースデバイスの基端部に係合する係合部を有し、該係合部で前記シースデバイスに係合した状態で前記第2管体が回転可能であると共に、前記破砕部が前記留置部材の内側に位置する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイスシステム。
【請求項5】
前記留置部材は、径方向に拡張した状態で内周側に向かう刃部を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイスシステム。
【請求項6】
前記留置部材は、生分解性を有する材料で形成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の医療デバイスシステム。
【請求項7】
前記第2管体は、先端部から基端部まで長さ方向に沿って前記破砕部が形成されている請求項1~6のいずれか1項に記載の医療デバイスシステム。
【請求項8】
請求項1に記載の医療デバイスシステムを使用して生体管腔内の物体を破砕し体外へ除去するための処置方法であって、
前記シースデバイスと前記送達デバイスを前記生体管腔内に挿入する第1ステップと、
前記送達デバイスに搭載された前記留置部材を前記第1管体の先端から露出させて拡張させる第2ステップと、
前記破砕デバイスを前記生体管腔内に挿入し、前記破砕部を前記第1管体の先端から露出させて、拡張した前記留置部材の内側に配置する第3ステップと、
前記破砕デバイスの第2管体を回転させて、前記留置部材の内側に位置する前記破砕部により前記生体管腔内の物体を破砕すると共に、前記第1管体の内腔を通じて破砕した前記物体を吸引する第4ステップと、
を有する処置方法。
【請求項9】
前記第1ステップにおいて、前記第1管体の先端部まで前記第3管体を挿通した状態で前記生体内腔内に挿入する請求項8に記載の処置方法。
【請求項10】
前記送達デバイスは、前記第3管体の先端部にバルーンを有し、該バルーンに前記留置部材が搭載されており、
前記第2ステップにおいて、前記留置部材およびバルーンは、先端側の一部を前記シースデバイスの先端から露出させた状態で拡張させることで、前記留置部材に前記第1管体の先端から先端側に向かって拡径する拡径部を形成する請求項8または9に記載の処置方法。
【請求項11】
前記第4ステップの後、前記留置部材の全長を前記第1管体から露出させて拡張させ、前記留置部材を前記生体管腔に留置したまま前記シースデバイスと前記破砕デバイスおよび前記送達デバイスを抜去する第5ステップを有する請求項10に記載の処置方法。
【請求項12】
前記破砕デバイスは、前記シースデバイスの基端部に係合する係合部を有し、
前記第3ステップにおいて、前記破砕デバイスの係合部を前記シースデバイスに係合させることで、前記破砕部を前記留置部材の内側に配置する請求項8~11のいずれか1項に記載の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内の血栓を除去するための医療デバイスシステムおよび処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓や大動脈壁などに形成された血栓が遊離して末梢の下肢動脈が閉塞すると、急性下肢虚血(ALI:Acute limb ischemia)が生じる。急性下肢虚血の治療方法として、経カテーテル的直接血栓溶解療法(CDT:Catheter-directed thrombolysis)、経皮的機械的血栓除去術(PMT:Percutaneous mechanical thrombectomy)、経皮的吸引血栓除去術(PAT:Percutaneous aspiration thrombectomy)などが知られている。しかしながら、血栓の寸法が大きい場合や、血栓が硬い場合には、皮膚から血管を穿刺して行う経皮的な方法では、血栓を除去することが困難である。したがって、血栓の寸法が大きい場合や、血栓が硬い場合には、フォガティー(登録商標)カテーテル(Fogarty catheter)などのバルーンを有するカテーテルによる血栓除去術が有効である。この方法では、外科的に皮膚を切開し、大腿動脈を露出させる。次に、大腿動脈を切開して血管内にカテーテルを挿入し、血栓による閉塞部(または狭窄部)を通過させた後にバルーンを拡張させる。この後、バルーンを近位側に引っ張ることで、血栓を血管の切開部まで移動させ、切開部から体外に除去する。しかし、この方法は、外科的な技術を要するため、医師の技術的習熟度に依存する。このため、患者への身体的負担が大きく、治療後の感染のリスクが高い。
【0003】
そのため、例えば特許文献1には、皮膚を切開せずに、切削刃を有する血栓除去デバイスを含む数種類のデバイスからなる医療デバイスシステムを経皮的に血管に挿入して、血栓を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
経皮的に血管に挿入される医療デバイスシステムは、血管内に挿入すべきデバイスの数が多いため、構造が複雑であると共に、挿入および抜去の工数が多く、手技に手間と時間を要する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、経皮的に血管内に挿入されて血栓を除去する医療デバイスシステムにおいて、少ないデバイス数で手技にかかる工数を削減できる医療デバイスシステムおよび処置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスシステムは、生体管腔内に挿入されて、当該生体管腔内の物体を破砕して体外へ除去するための医療デバイスシステムであって、前記生体管腔内に挿入される第1管体を有するシースデバイスと、前記第1管体に挿通される第2管体を有し、該第2管体の外周面に破砕部を有する破砕デバイスと、前記第2管体に挿通される第3管体を有し、該第3管体の先端部には径方向に拡張可能な留置部材が搭載された送達デバイスと、を有し、前記破砕デバイスの前記破砕部は、前記送達デバイスにより前記生体管腔内に送達され拡張した前記留置部材の内側に位置する。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る処置方法は、医療デバイスシステムを使用して生体管腔内の物体を破砕し体外へ除去するための処置方法であって、前記シースデバイスと前記送達デバイスを前記生体管腔内に挿入する第1ステップと、前記送達デバイスに搭載された前記留置部材を前記第1管体の先端から露出させて拡張させる第2ステップと、前記破砕デバイスを前記生体管腔内に挿入し、前記破砕部を前記第1管体の先端から露出させて、拡張した前記留置部材の内側に配置する第3ステップと、前記破砕デバイスの第2管体を回転させて、前記留置部材の内側に位置する前記破砕部により前記生体管腔内の物体を破砕すると共に、前記第1管体の内腔を通じて破砕した前記物体を吸引する第4ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した医療デバイスシステムおよび処置方法は、第1管体の先端部で留置部材を拡張させ、その内側で破砕部を回転させて血栓を破砕することができるので、血管の内壁を留置部材で保護しつつ、破砕部で血栓を確実に破砕できる。また、留置部材で血管を保護するため、医療デバイスシステムのデバイス数及び構造を簡単にし、手技の工数も少なくすることができる。
【0010】
前記送達デバイスは、前記第3管体の先端部にバルーンを有し、該バルーンに前記留置部材が搭載されているようにしてもよい。これにより、バルーンの拡張により留置部材を径方向に確実に拡張させることができる。また、バルーンは血栓の移動にも使用できるので、デバイス数を削減できる。
【0011】
前記送達デバイスには、前記第3管体の先端部に前記留置部材が搭載されており、前記留置部材は、径方向に自己拡張可能であるようにしてもよい。これにより、送達デバイスの構造を簡単にすることができる。
【0012】
前記破砕デバイスは、前記シースデバイスの基端部に係合する係合部を有し、該係合部で前記シースデバイスに係合した状態で前記第2管体が回転可能であると共に、前記破砕部が前記留置部材の内側に位置するようにしてもよい。これにより、第1管体と第2管体との軸方向における位置関係を固定した状態で、第2管体を回転させることができる。
【0013】
前記留置部材は、径方向に拡張した状態で内周側に向かう刃部を有するようにしてもよい。これにより、血栓を効率的に破砕することができる。
【0014】
前記留置部材は、生分解性を有する材料で形成されているようにしてもよい。これにより、留置部材を留置後に、生体内で消失させることができる。
【0015】
前記第2管体は、先端部から基端部まで長さ方向に沿って前記破砕部が形成されているようにしてもよい。これにより、破砕した血栓を第1管体の基端側に誘導することができる。
【0016】
前記第1ステップにおいて、前記第1管体の先端部まで前記第3管体を挿通した状態で前記生体内腔内に挿入するようにしてもよい。これにより、第1管体を血管内に挿入しやすく、手技を円滑に進めることができる。
【0017】
前記送達デバイスは、前記第3管体の先端部にバルーンを有し、該バルーンに前記留置部材が搭載されており、前記第2ステップにおいて、前記留置部材およびバルーンは、先端側の一部を前記シースデバイスの先端から露出させた状態で拡張させることで、前記留置部材に前記第1管体の先端から先端側に向かって拡径する拡径部を形成するようにしてもよい。これにより、破砕された血栓を第1管体に引き込まれやすくすることができる。また、拡径部の部分における留置部材の網目が小さくなるため、破砕された血栓が留置部材の外部に漏出することを防止できる。
【0018】
前記第4ステップの後、前記留置部材の全長を前記第1管体から露出させて拡張させ、前記留置部材を前記生体管腔に留置したまま前記シースデバイスと前記破砕デバイスおよび前記送達デバイスを抜去する第5ステップを有するようにしてもよい。これにより、留置部材を血管に確実に固定した状態で留置することができる。
【0019】
前記破砕デバイスは、前記シースデバイスの基端部に係合する係合部を有し、前記第3ステップにおいて、前記破砕デバイスの係合部を前記シースデバイスに係合させることで、前記破砕部を前記留置部材の内側に配置するようにしてもよい。これにより、破砕デバイスとシースデバイスの軸方向における位置関係を固定し、破砕部を留置部材の内側に確実に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る医療デバイスシステムの正面図である。
【
図4】留置部材の模式的断面図であって、(a)は製造時、(b)は拡張時を表した図である。
【
図5】医療デバイスシステムの各デバイスを組み立てた状態の正面図である。
【
図6】血管内にガイドワイヤを挿入した状態の血栓付近の断面図である。
【
図7】血栓の近傍まで医療デバイスシステムを挿入した状態の説明図である。
【
図8】血管内における留置部材付近の拡大図であって、(a)はバルーンを拡張させた状態を、(b)はバルーンの拡張後、収縮させた状態を、それぞれ表す図である。
【
図9】破砕部を留置部材の内側に配置すると共に、バルーンを血栓より先端側で拡張した状態の説明図である。
【
図10】血栓を留置部材の内側に引き込んだ状態の説明図である。
【
図11】破砕部で血栓を破砕しつつ吸引している状態の拡大図である。
【
図12】バルーンで留置部材を完全に拡張させた状態の拡大図である。
【
図13】医療デバイスシステムを抜去した状態の拡大図である。
【
図14】変形例に係る医療デバイスシステムを構成する送達デバイスの正面図であって、(a)は留置部材を搭載した送達デバイス全体の図であり、(b)は留置部材を搭載する前の状態の送達デバイス先端部の図である。
【
図15】変形例に係る医療デバイスシステムにおいて、シース部材と送達部材とを血栓の近傍まで挿入した状態の説明図である。
【
図16】変形例に係る医療デバイスシステムにおいて、留置部材を拡張させた状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。本明細書では、デバイスの血管に挿入する側を「先端側」、操作する手元側を「基端側」と称することとする。
【0022】
本発明の実施形態に係る医療デバイスシステムは、動脈内の血栓を破砕して体外に除去するために用いられる。
【0023】
医療デバイスシステムは、
図1に示すように、シースデバイス12と破砕デバイス14および送達デバイス16とを有している。破砕デバイス14は、シースデバイス12の内部に挿通することができる。また、送達デバイス16は、破砕デバイス14の内部に挿通することができる。
【0024】
シースデバイス12は、長尺な第1管体20と、第1管体20の基端部に設けられるハブ21とを有している。ハブ21は、第1管体20の内部と連通し、基端側に開口していると共に、内腔と連通する分岐管部22を有している。
【0025】
破砕デバイス14は、長尺な第2管体30と、第2管体30の基端部に設けられる基部31とを有している。第2管体30は、先端部から基端部まで外周面に螺旋状の破砕部33を有している。
図2に示すように、破砕部33はアースドリルのような形状を有している。なお、破砕部33は、第2管体30の先端部のみ設けられていてもよい。基部31は、第2管体30を第1管体20に挿入した際に、シースデバイス12のハブ21の基端部に係合できる係合部32を有している。破砕デバイス14は、係合部32がシースデバイス12のハブ21に係合した状態で、シースデバイス12に対して回転することができる。
【0026】
送達デバイス16は、長尺な第3管体40と、第3管体40の基端部に設けられるハブ41とを有している。第3管体40の先端部には、径方向に拡縮できるバルーン42が設けられる。第3管体40は、ガイドワイヤ18を挿通できると共に、バルーン42に拡張用流体を送出できるように、二重管の構成を有している。バルーン42の表面には、バルーン42と共に径方向に拡張可能な留置部材43が搭載されている。ハブ41は、Y字状に分岐するバルーン拡張ポート45を有している。バルーン拡張ポート45には、バルーン42を拡張させるための流体を注入するシリンジ等の供給部を接続できる。また、バルーン拡張ポート45には、逆止弁46が設けられている。逆止弁46は、拡張用流体を注入後に供給部をバルーン拡張ポート45から抜去しても、バルーン42内の圧力を維持するために設けられている。
【0027】
図3に示すように、留置部材43は、金属製の細線を網状としたステントである。
図4(a)に示すように、留置部材43は、ワイヤ状の金属部材を周方向複数箇所で径方向に分割して形成される。このため、留置部材43には、内周側に鋭角状の刃部43aが形成される。
図4(b)に示すように、留置部材43が径方向に拡張した際にも、刃部43aは内周側に向かっている。
【0028】
シースデバイス12の第1管体20の長さは、適宜設定されるが、例えば80~800mmである。第1管体20の外径は、適宜設定されるが、例えば2.0~5.0mmである。第1管体20の内径は、適宜設定されるが、例えば1.5~4.5mmである。
【0029】
破砕デバイス14の第2管体30の長さは、第2管体30を第1管体20に挿入して、基部31の係合部32をシースデバイス12のハブ21に係合した状態で、先端部が第1管体20から一定の長さだけ露出する長さに設定される。第2管体30が第1管体20から露出する長さは、留置部材43の長さより短い。このため、第1管体20の先端から留置部材43が露出した状態で、第2管体30の先端は留置部材43の内側に位置する。
【0030】
第2管体30の外径は、第1管体20の内径より小さく、また、第2管体30の内径は、留置部材43を搭載したバルーン42の外径より大きく設定される。送達デバイス16の第3管体40は、第2管体30の内径より小さい外径を有し、破砕デバイス14の全長より長くなるように形成される。
【0031】
第1管体20や第3管体40の構成材料は、可撓性を有する材質であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミドなどが好適に使用できる。
【0032】
第2管体30の構成材料としては、ある程度の強度を備える材質であることが好ましく、例えば、ステンレス、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル、ETFE(テトラクロロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミドなどが好適に使用できる。
【0033】
留置部材43は、金属材料、または、生分解性材料を用いて形成することができる。具体的には、Ni-Ti、SUS316、CoCr、Mg合金、ポリ乳酸等を用いることができる。生分解性材料を用いた場合には、生体内への留置後に、留置部材43の消失が期待できる。
【0034】
次に、医療デバイスシステムを用いて、動脈を閉塞する血栓Tを破砕し除去する方法を説明する。予め、
図5に示すように、シースデバイス12に破砕デバイス14を挿通し、破砕デバイス14に送達デバイス16を挿通した組立体を形成しておく。破砕デバイス14の第2管体30は、第1管体20の中間位置まで挿入する。送達デバイス16の第3管体40は、先端位置が第1管体20の先端より先端側となるように挿入する。この状態で、第3管体40の先端部に設けられた留置部材43は、一部が第1管体20の先端側に露出する。
【0035】
まず、動脈に留置針(図示しない)を穿刺し、留置針からガイドワイヤ18を血管内に挿入する。
図6に示すように、ガイドワイヤ18は、血栓Tより先端側まで挿入される。次に、前述の組立体を、ガイドワイヤ18に沿って血管内に挿入する。
図7に示すように、組立体は、送達デバイス16の先端が血栓Tより基端側の近傍位置に到達するまで挿入される。組立体の挿入時には、送達デバイス16がシースデバイス12の内部に挿通されているため、送達デバイス16をダイレータとして機能させることができる。
【0036】
組立体を挿入したら、ハブ41のバルーン拡張ポート45にシリンジ等の供給部を接続し、拡張用流体をバルーン42に送出することで、送達デバイス16のバルーン42を拡張させて留置部材43を径方向に拡張させる。
図8(a)に示すように、バルーン42と留置部材43は、基端側の一部が第1管体20の内部に位置した状態で、径方向に拡張する。この後、
図8(b)に示すようにバルーン42を収縮させることにより、留置部材43は、第1管体20の先端から先端側に向かって拡径する拡径部43bを形成した状態で、血管に留置される。
【0037】
次に、
図9に示すように、破砕デバイス14を先端側に向かって進入させ、破砕デバイス14の係合部32をシースデバイス12のハブ21に係合させる。この状態では、前述のように、第2管体30の先端は、留置部材43の内側に位置する。破砕部33は第2管体30の先端まで設けられているので、破砕部33は第1管体20から露出し、留置部材43の内側に配置される。
【0038】
また、バルーン42を収縮させた状態で、送達デバイス16を先端側に向かってさらに進入させ、バルーン42を血栓Tより先端側に位置した状態で拡張させる。
【0039】
次に、
図10に示すように、シースデバイス12の分岐管部22にシリンジ19を接続しておき、送達デバイス16を基端側に引くことで、バルーン42を基端側に移動させ、血栓Tを留置部材43の内側に引き込む。この状態で、破砕デバイス14の基部31を回転させることにより、
図11に示すように、留置部材43の内側において、破砕部33が血栓Tを破砕する。それと共に、シリンジ19を引いて第1管体20の内部を吸引する。これにより、破砕部33で破砕された血栓Tが第1管体20の内部に吸引される。
【0040】
留置部材43は、第1管体20の先端から先端側に向かって広がる拡径部43bを有するように拡張されているので、破砕された血栓Tが第1管体20に引き込まれやすくすることができる。留置部材43は、拡径部43bが部分的に拡張された状態であるため、完全に拡張した部分より拡径部43bの部分の網目が小さい。これにより、破砕された血栓Tが留置部材43の外部に漏出することを防止できる。
【0041】
また、留置部材43は、前述のように内側に向かう刃部43aを有しており、この刃部43aは、留置部材43によって血栓Tが細かく破断される効果を有する。破砕部33は、第2管体30の基端部まで設けられているので、破砕された血栓Tは、基端側に向かって確実に送出される。
【0042】
血栓Tの吸引が完了したら、第1管体20を基端側に引いて、留置部材43を血管内に完全に露出させる。その上で、バルーン42を留置部材43の内側に配置し、拡張させることにより、
図12に示すように、留置部材43は血管内で全長に渡り拡張する。
【0043】
その後、シースデバイス12と破砕デバイス14および送達デバイス16を抜去することにより、
図13に示すように、留置部材43が血管内に留置された状態となる。留置部材43は、前述のように、生分解性材料で形成することで、時間経過と共に消失する。
【0044】
このように、第1管体20の先端部で留置部材43を拡張させ、その内側で破砕部33を回転させて血栓Tを破砕することにより、血管の内壁を留置部材43で保護しつつ、破砕部33で血栓Tを確実に破砕できる。また、留置部材43で血管を保護するため、医療デバイスシステムのデバイス数及び構造を簡単にし、手技の工数も少なくすることができる。
【0045】
次に、変形例に係る医療デバイスシステムおよび処置方法について説明する。本例におけるシースデバイス12と破砕デバイス14の構成は、先に説明した医療デバイスシステムと同じであるため、説明を省略する。本例における送達デバイス50は、
図14(a)に示すように、第3管体51の基端部にハブ52を有するダイレータで構成されている。第3管体51の先端部には、自己拡張できる留置部材53が搭載されている。
図14(b)に示すように、第3管体51の先端部には、留置部材53を配置するための収容凹部54が形成されている。収容凹部54により、留置部材53を配置するスペースを確保すると共に、基端部の段差により留置部材53の基端部を先端側に押圧し、留置部材53を第1管体20の外部に押し出すことができる。
【0046】
この医療デバイスシステムを使用する際には、予めシースデバイス12に送達デバイス50を挿入した組立体を形成しておく。このとき、留置部材53は第1管体20の内部に位置した状態とする。
【0047】
図15に示すように、前述の組立体を血管内に挿入し、第1管体20の先端を血栓Tの基端側近傍位置まで送達する。この状態から送達デバイス50を先端側に進入させることで、
図16に示すように、留置部材53が第1管体20の外部に露出し、自己拡張して血管に留置される。留置部材53を拡張させたら、送達デバイス50を抜去する。
【0048】
次に、破砕デバイス14を第1管体20に挿入し、先端を留置部材53の内側に位置させる。また、バルーン42を有する送達デバイス16を血管内に挿入して、バルーン42を血栓Tより先端側で拡張させる。その後の手順は、先の医療デバイスシステムと同様である。このように留置部材53を、バルーンを有しない送達デバイス50で第1管体20の先端部に送達してもよい。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイスシステムは、生体管腔内に挿入されて、当該生体管腔内の物体を破砕して体外へ除去するための医療デバイスシステムであって、生体管腔内に挿入される第1管体20を有するシースデバイス12と、第1管体20に挿通される第2管体30を有し、第2管体30の外周面に破砕部33を有する破砕デバイス14と、第2管体30に挿通される第3管体40を有し、第3管体40の先端部には径方向に拡張可能な留置部材43が搭載された送達デバイス16と、を有し、破砕デバイス14の破砕部33は、送達デバイス16により生体管腔内に送達され拡張した留置部材43の内側に位置する。また、本実施形態に係る処置方法は、医療デバイスシステムを使用して生体管腔内の物体を破砕し体外へ除去するための処置方法であって、シースデバイス12と送達デバイス16を生体管腔内に挿入する第1ステップと、送達デバイス16に搭載された留置部材43を第1管体20の先端から露出させて拡張させる第2ステップと、破砕デバイス14を生体管腔内に挿入し、破砕部33を第1管体20の先端から露出させて、拡張した留置部材43の内側に配置する第3ステップと、破砕デバイス14の第2管体30を回転させて、留置部材43の内側に位置する破砕部33により生体管腔内の物体を破砕すると共に、第1管体20の内腔を通じて破砕した物体を吸引する第4ステップと、を有する。このように構成した医療デバイスシステムおよび処置方法は、第1管体20の先端部で留置部材43を拡張させ、その内側で破砕部33を回転させて血栓を破砕することができるので、血管の内壁を留置部材43で保護しつつ、破砕部33で血栓を確実に破砕できる。また、留置部材43で血管を保護するため、医療デバイスシステムのデバイス数及び構造を簡単にし、手技の工数も少なくすることができる。
【0050】
送達デバイス16は、第3管体40の先端部にバルーン42を有し、バルーン42に留置部材43が搭載されているようにしてもよい。これにより、バルーン42の拡張により留置部材43を径方向に確実に拡張させることができる。また、バルーン42は血栓の移動にも使用できるので、デバイス数を削減できる。
【0051】
送達デバイス16には、第3管体40の先端部に留置部材43が搭載されており、留置部材43は、径方向に自己拡張可能であるようにしてもよい。これにより、送達デバイス16の構造を簡単にすることができる。
【0052】
破砕デバイス14は、シースデバイス12の基端部に係合する係合部32を有し、係合部32でシースデバイス12に係合した状態で第2管体30が回転可能であると共に、破砕部33が留置部材43の内側に位置するようにしてもよい。これにより、第1管体20と第2管体30との軸方向における位置関係を固定した状態で、第2管体30を回転させることができる。
【0053】
留置部材43は、径方向に拡張した状態で内周側に向かう刃部43aを有するようにしてもよい。これにより、血栓を効率的に破砕することができる。
【0054】
留置部材43は、生分解性を有する材料で形成されているようにしてもよい。これにより、留置部材43を留置後に、生体内で消失させることができる。
【0055】
第2管体30は、先端部から基端部まで長さ方向に沿って破砕部33が形成されているようにしてもよい。これにより、破砕した血栓を第1管体20の基端側に誘導することができる。
【0056】
第1ステップにおいて、第1管体20の先端部まで第3管体40を挿通した状態で生体内腔内に挿入するようにしてもよい。これにより、第1管体20を血管内に挿入しやすく、手技を円滑に進めることができる。
【0057】
送達デバイス16は、第3管体40の先端部にバルーン42を有し、バルーン42に留置部材43が搭載されており、第2ステップにおいて、留置部材43およびバルーン42は、先端側の一部をシースデバイス12の先端から露出させた状態で拡張させることで、留置部材43に第1管体20の先端から先端側に向かって拡径する拡径部43bを形成するようにしてもよい。これにより、破砕された血栓を第1管体20に引き込まれやすくすることができる。また、拡径部43bの部分における留置部材43の網目が小さくなるため、破砕された血栓が留置部材43の外部に漏出することを防止できる。
【0058】
第4ステップの後、留置部材43の全長を第1管体20から露出させて拡張させ、留置部材43を生体管腔に留置したままシースデバイス12と破砕デバイス14および送達デバイス16を抜去する第5ステップを有するようにしてもよい。これにより、留置部材43を血管に確実に固定した状態で留置することができる。
【0059】
破砕デバイス14は、シースデバイス12の基端部に係合する係合部32を有し、第3ステップにおいて、破砕デバイス14の係合部32をシースデバイス12に係合させることで、破砕部33を留置部材43の内側に配置するようにしてもよい。これにより、破砕デバイス14とシースデバイス12の軸方向における位置関係を固定し、破砕部33を留置部材43の内側に確実に配置することができる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。上述の実施形態において、破砕部33は螺旋形状を有しているが、留置部材43の内側で血栓Tを破砕できる径状であればよい。例えば、破砕部は、第2管体30の先端部において、細線が箒状に広がった形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 医療デバイス
12 シースデバイス
14 破砕デバイス
16 送達デバイス
18 ガイドワイヤ
19 シリンジ
20 第1管体
21 ハブ
22 分岐管部
25 第1ルーメン
30 第2管体
31 基部
32 係合部
33 破砕部
35 第2ルーメン
40 第3管体
41 ハブ
42 バルーン
43 留置部材
43a 刃部
43b 拡径部