(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142908
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B25J15/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043177
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝統
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET08
3C707EU17
3C707EV12
3C707EV24
3C707EW04
3C707GU03
3C707KS04
3C707KT02
3C707KT04
3C707KT18
(57)【要約】
【課題】把持対象物の姿勢を精度よくかつ速く調整できるロボットハンドを提供する。
【解決手段】把持対象物2を挟む一対のアーム5,6と、アーム5,6を移動させる駆動装置8と、アーム5,6から突出する突出量が変化する第1~第8の押圧体14a~14hとを備える。駆動装置8の動作を制御するとともに第1~第8の押圧体14a~14hの突出量をそれぞれ独立して制御する制御装置13と、把持対象物2の姿勢を検出する第1および第2のカメラ11,12(検出装置)とを備える。第1~第8の押圧体14a~14hは、把持対象物2の姿勢変化に寄与する位置にそれぞれ配置されている。制御装置13は、検出装置によって検出された把持対象物2の姿勢が予め定めた目標とする姿勢と一致するように第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を統合して制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象物を挟むように位置する一対のアームと、
前記一対のアームを互いに接近あるいは離間する方向に移動させる機能を有し、かつ前記一対のアームを前記把持対象物が設置された位置から移動させる機能を有する駆動装置と、
前記一対のアームにおける前記把持対象物と対向する位置にそれぞれ設けられ、外部から加えられた動力によって動作して前記アームから突出する突出量が変化する複数の押圧体と、
前記駆動装置の動作を制御する機能および前記複数の押圧体の前記突出量を前記押圧体毎に制御する機能を有する制御装置と、
前記複数の押圧体のみと接触する状態で前記一対のアームに把持されて持ち上げられた前記把持対象物の姿勢を検出する検出装置とを備え、
前記押圧体は、前記把持対象物の姿勢変化に寄与する位置にそれぞれ配置され、
前記制御装置は、前記検出装置によって検出された前記把持対象物の姿勢が予め定めた目標とする姿勢と一致するように前記押圧体の前記突出量を制御することを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
請求項1記載のロボットハンドにおいて、
前記把持対象物は、長手方向を有するものであり、
前記一対のアームは、前記長手方向とは直交する方向から前記把持対象物を挟むように構成され、
前記複数の押圧体は、前記アームにおける前記長手方向の一端側の複数の位置と、前記長手方向の他端側の複数の位置とに設けられていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のロボットハンドにおいて、
前記押圧体は、弾性材によって形成されて空気の圧力で膨らみかつ圧力を開放することにより収縮する風船状に形成されていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載のロボットハンドにおいて、
前記押圧体は、電力によって連続的に移動する移動体を有するアクチュエータによって構成されていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一つに記載のロボットハンドにおいて、
前記制御装置は、個々の前記押圧体の前記突出量と前記把持対象物の姿勢との関係を記録した補正データを有し、前記押圧体の前記突出量を前記補正データに基づいて制御することを特徴とするロボットハンド。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一つに記載のロボットハンドの動作を制御するロボットハンドの制御方法であって、
前記一対のアームをそれぞれ前記把持対象物に接近させる接近ステップと、
前記把持対象物を前記一対のアームによって把持し、前記把持対象物が前記押圧体によって支えられる状態で前記一対のアームによって前記把持対象物を持ち上げる把持ステップと、
前記一対のアームに把持された前記把持対象物の姿勢を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された前記把持対象物の把持状態の姿勢と予め定めた目標とする姿勢とが一致するように前記押圧体の前記突出量を制御する補正ステップとを有することを特徴とするロボットハンドの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持対象物を一対のアームで把持するロボットハンドおよびこのロボットハンドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つのワークを組み合わせる作業として、一方のワークの凹部に他方のワークの凸部を嵌め合わせる作業がある。この作業をロボットによって行う場合は、例えば特許文献1に記載されているように、凹部を有する一方のワークをステージに支持させ、凸部を有する他方のワークをロボットハンドに把持させて行うことが多い。
【0003】
凹部に凸部を嵌め込む作業を行うときに部品どうしが無理な力で衝突したり接触すると、部品表面に傷が付いたり、部品表面が損傷し易い。このため、従来のロボットハンドで凹部に凸部を押し込む作業を行う場合は、水平方向(凹部が開口する方向とは垂直な方向)の位置決めに加えて、いわゆる「芯出し」と呼ばれる作業を行う必要がある。「芯出し」とは、凹部が開口する方向に合わせて凸部の角度を補正する作業である。特許文献1に示す従来のロボットハンドで組付けられる凹部と凸部とには、組付け(嵌め合い)性を考慮してテーパーが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すロボットハンドでは、凹部に対する凸部の角度を精度よくかつ速く合わせることが難しいという問題があった。この理由は、把持対象物を把持したロボットハンドを移動量が微細となるよう動作させることは難しいからである。また、このように動作させることができたとしても、ロボットハンドの支持系に振動が生じることがある。このような場合は、この振動が収束するまで待機してから凸部を凹部に嵌め合わせなければならないために、作業時間が長くなる。
【0006】
本発明の目的は、把持対象物の姿勢を精度よくかつ速く調整できるロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明に係るロボットハンドは、把持対象物を挟むように位置する一対のアームと、前記一対のアームを互いに接近あるいは離間する方向に移動させる機能を有し、かつ前記一対のアームを前記把持対象物が設置された位置から移動させる機能を有する駆動装置と、前記一対のアームにおける前記把持対象物と対向する位置にそれぞれ設けられ、外部から加えられた動力によって動作して前記アームから突出する突出量が変化する複数の押圧体と、前記駆動装置の動作を制御する機能および前記複数の押圧体の前記突出量を前記押圧体毎に制御する機能を有する制御装置と、前記複数の押圧体のみと接触する状態で前記一対のアームに把持されて持ち上げられた前記把持対象物の姿勢を検出する検出装置とを備え、前記押圧体は、前記把持対象物の姿勢変化に寄与する位置にそれぞれ配置され、前記制御装置は、前記検出装置によって検出された前記把持対象物の姿勢が予め定めた目標とする姿勢と一致するように前記押圧体の前記突出量を制御するものである。
【0008】
本発明は、前記ロボットハンドにおいて、前記把持対象物は、長手方向を有するものであり、前記一対のアームは、前記長手方向とは直交する方向から前記把持対象物を挟むように構成され、前記複数の押圧体は、前記アームにおける前記長手方向の一端側の複数の位置と、前記長手方向の他端側の複数の位置とに設けられていてもよい。
【0009】
本発明は、前記ロボットハンドにおいて、前記押圧体は、弾性材によって形成されて空気の圧力で膨らみかつ圧力を開放することにより収縮する空圧用チューブによって構成されていてもよい。
【0010】
本発明は、前記ロボットハンドにおいて、前記押圧体は、電力によって連続的に移動する移動体を有するアクチュエータによって構成されていてもよい。
【0011】
本発明は、前記ロボットハンドにおいて、前記制御装置は、個々の前記押圧体の前記突出量と前記把持対象物の姿勢との関係を記録した補正データを有し、前記押圧体の前記突出量を前記補正データに基づいて制御するものであってもよい。
【0012】
本発明に係るロボットハンドの制御方法は、前記ロボットハンドの動作を制御するロボットハンドの制御方法であって、前記把持対象物が前記押圧体によって支えられる状態で前記一対のアームによって前記把持対象物を把持して持ち上げる把持ステップと、前記一対のアームによって把持された前記把持対象物の姿勢を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出された前記把持対象物の把持状態の姿勢と予め定めた目標とする姿勢とが一致するように前記押圧体の前記突出量を制御する補正ステップとを有する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、押圧体の突出量を変えて把持対象物の姿勢を変えるから、把持対象物の姿勢を変えるにあたってロボットハンドの一対のアームを動作させる必要はない。したがって、把持対象物の姿勢を精度よくかつ速く調整できるロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るロボットハンドの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、一対のアームで把持対象物を把持している状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、一対のアームの上部の断面図である。
【
図5】
図5は、一対のアームの下部の断面図である。
【
図6】
図6は、制御系の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、傾斜した把持対象物を説明するための図である。
【
図8】
図8は、補正データを説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、ロボットハンドの制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、ロボットハンドの動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法の一実施の形態を
図1~
図10を参照して詳細に説明する。
(ロボットハンドの概略の説明)
図1に示すロボットハンド1は、
図1において右側の端部に位置する把持対象物2をハンド部3によって把持して搬送するものである。把持対象物2は、電子部品や機械部品あるいは加工用のワークなどであり、載置台4の上に載置されている。この実施の形態においては、ロボットハンド1の構成を理解し易いように、円柱からなる把持対象物2を用いて説明する。この把持対象物2は、長手方向が鉛直方向と平行になる姿勢で載置台4上に用意され、ロボットハンド1によって把持された状態で載置台4から搬送されて図示していない他の部品の穴に嵌合されるものである。他の部品の穴は、上方に向けて開口する、開口形状が円形の穴である。
【0016】
(ハンド部の説明)
ハンド部3は、把持対象物2を水平方向の両側から挟む(把持対象物2の長手方向とは直交する方向から挟む)ように位置する一対のアーム5,6と、これらのアーム5,6を移動自在に支持するスライドガイド7とを有している。これらのアーム5,6は、スライドガイド7に支持された状態で互いに接近あるいは離間する方向に移動する。以下においては、一対のアーム5,6のうち、
図1において左側に位置する一方のアームを左側アーム5といい、
図1において右側に位置する他方のアームを右側アーム6という。また、以下において、ロボットハンド1の各部品の構成を説明するうえで方向を示すにあたっては、アーム5,6が並ぶ方向を左右方向といい、左右方向とは直交する水平方向を前後方向という。
図1は、把持対象物2を前方から見た状態で描いてある。
【0017】
スライドガイド7には駆動装置8が接続されている。駆動装置8は、一対のアーム5,6を互いに接近あるいは離間する方向に移動させる把持機能を有しているとともに、一対のアーム5,6とスライドガイド7とを把持対象物2が設置された位置から移動させる搬送機能を有している。この実施の形態によるスライドガイド7には、本発明でいう検出装置を構成する第1のカメラ11(
図6参照)と第2のカメラ12とが設けられている。これらの第1および第2のカメラ11,12は、左側アーム5と右側アーム6とによって把持されて持ち上げられた把持対象物2を撮像する。第1のカメラ11は、把持対象物2を例えば前後方向の一方から撮像し、第2のカメラ12は、把持対象物2を例えば左右方向の一方から撮像する。撮像により得られた画像データは、後述する制御装置13に送られる。
【0018】
(押圧体の説明)
左側アーム5と右側アーム6における把持対象物2と対向する位置には、
図2(A),(B)および
図3に示すように、それぞれ凹部5a,6aが形成されているとともに、複数の押圧体14がそれぞれ設けられている。
図2(A)は、左側アーム5の把持対象物2と対向する部分を示す斜視図、
図2(B)は、右側アーム6の把持対象物2と対向する部分を示す斜視図である。凹部5a,6aは、左側アーム5と右側アーム6の上端から下端まで延びるように形成されている。凹部5a,6aの傾斜した壁面に押圧体14が突設されている。
【0019】
押圧体14は、左側アーム5と右側アーム6とによって把持対象物2を把持する際に把持対象物2と接触する部品である。この実施の形態による押圧体14は、柔軟性を有する弾性材によって風船状に形成されている。押圧体14は、空気が供給されることにより空気の圧力で膨らみ、かつ空気の供給が絶たれることにより収縮する。押圧体14に供給される空気の圧力が増減することにより、押圧体14の左側アーム5、右側アーム6から突出する突出量が増減する。この実施の形態においては、空気圧が本発明でいう「外部から加えられた動力」に相当する。
【0020】
この実施の形態による押圧体14は、左側アーム5と右側アーム6の両方において、上側の前後2箇所と、下側の前後2箇所とにそれぞれ配置されている。すなわち、複数の押圧体14は、左側アーム5と右側アーム6とにおける把持対象物2の長手方向の一端側の複数の位置と、長手方向の他端側の複数の位置とに設けられている。このように複数の押圧体14が位置付けられることにより、押圧体14が把持対象物2の姿勢変化に寄与する位置にそれぞれ配置されることになる。以下においては、左側アーム5の上部前側に位置する押圧体14を第1の押圧体14aといい、上部後側に位置する押圧体14を第2の押圧体14b、下部前側に位置する押圧体14を第3の押圧体14c、下部後側に位置する押圧体14を第4の押圧体14dという。また、右側アーム6の上部前側に位置する押圧体14を第5の押圧体14e、上部後側に位置する押圧体14を第6の押圧体14f、下部前側に位置する押圧体14を第7の押圧体14g、下部後側に位置する押圧体14を第8の押圧体14hという。
【0021】
これらの第1~第8の押圧体14a~14hは、
図4および
図5に示すように、上方から見て円柱からなる把持対象物2の外周を4等分する位置に接触するように配置されている。
図4は把持対象物2を挟んでいる状態の左側アーム5の上部と右側アーム6の上部とを示し、
図5は、把持対象物2を挟んでいる状態の左側アーム5の下部と右側アーム6の下部とを示している。第1~第8の押圧体14a~14hのうち、上下方向に並ぶ押圧体14は、前後方向において同一位置に位置付けられている。例えば、第1の押圧体14aと第3の押圧体14cは、前後方向の同一位置に位置付けられている。また、第1~第8の押圧体14a~14hのうち前後方向に並ぶ押圧体14は、上下方向において同一位置に位置付けられている。例えば、第1の押圧体14aと第2の押圧体14bは、上下方向の同一位置に位置付けられている。そして、第1~第4の押圧体14a~14dを有する左側アーム5と、第5~第8の押圧体14e~14hを有する右側アーム6は、
図4、
図5中に示す把持対象物2の軸心Cに対して左右方向に対称となるように形成されている。
【0022】
(空気供給系の説明)
第1~第8の押圧体14a~14hには、
図2に示すように、第1~第8の空気供給通路15~22が接続されている。これらの第1~第8の空気供給通路15~22には、
図1および
図6に示すように、第1~第8の圧力センサ28~30と、第1~第8の制御弁31~38とがそれぞれ設けられている。また、第1~第8の空気供給通路15~22は、一つの空気圧源39に接続されている。
【0023】
第1~第8の圧力センサ23~30は、第1~第8の空気供給通路15~22内の空気の圧力を検出し、検出信号として後述する制御装置13に送る。第1~第8の制御弁31~38は、第1~第8の押圧体14a~14hの空気圧を制御する機能と、第1~第8の押圧体14a~14hとの間に空気を密封する機能とを有している。第1~第8の制御弁31~38は、
図6に示すように制御装置13に接続されている。第1~第8の制御弁31~38の動作は制御装置13によって制御される。
【0024】
空気圧源39は、第1~第8の空気供給通路15~22に所定の圧力の空気を供給するように構成されている。空気圧源39から第1~第8の空気供給通路15~22に供給された空気は、第1~第8の制御弁31~38が開くことによって、第1~第8の空気供給通路15~22を通って第1~第8の押圧体14a~14hに供給される。
【0025】
(制御装置の説明)
制御装置13は、駆動装置8の動作を制御する機能と、第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を制御する機能と、左側アーム5と右側アーム6とによって把持された把持対象物2の姿勢を補正する機能とを有している。第1~第8の押圧体14a~14hの突出量の制御は、第1~第8の圧力センサ23~30の検出結果に基づいて第1~第8の制御弁31~38の動作を制御することにより行われる。
【0026】
この実施の形態による制御装置13は、駆動装置8と第1~第8の制御弁31~38とを動作させる際に参照する目標値Aを有している。目標値Aは、メモリ40(
図6参照)に保存され、必要に応じて制御装置13によって読み出される。
目標値Aは、把持対象物2の材質や形状に応じた値で、把持対象物2をロボットハンド1が最適に把持するための、駆動装置8や第1~第8の制御弁31~38の制御アルゴリズムやパラメータなどである。目標値Aには、把持対象物2を左側アーム5と右側アーム6で挟んだ状態で把持できるようになる空気の圧力である目標圧力値も含まれる。
【0027】
ロボットハンド1が材質や形状の異なる複数種類の把持対象物2を把持する場合は、目標値Aを把持対象物2毎に用意しておき、把持対象物2が変わったときに目標値Aを切り替えて使用する。把持対象物2の種類を区別して把持対象物2を識別するためには、把持対象物2に貼り付けられたラベルやタグを読み取ったり、作業者が把持対象物2毎の識別情報を入力したり、把持対象物2を特定可能なセンサなどを使用して行うことができる。
【0028】
(姿勢の補正の説明)
把持対象物2の重心位置が左右方向や前後方向に偏った位置にあるような場合には、把持対象物2が左側アーム5と右側アーム6とによって把持された状態で傾斜することがある。制御装置13は、このような傾斜を解消するように構成されている。
【0029】
この実施の形態において、制御装置13による把持対象物2の姿勢の補正は、第1および第2のカメラ11,12から送られた画像データに基づいて把持対象物2の現在の姿勢を検出し、現在の姿勢と予め定めた目標とする姿勢とが一致するように第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を制御して行う。把持対象物2の姿勢を検出するにあたって第1および第2のカメラ11,12を使用する場合、把持対象物2の現在の姿勢は、
図7(A),(B)に示すように、把持対象物2の傾斜角α,βとして検出される。
図7(A)は、第1のカメラ11によって撮像された画像で、把持対象物2を前方から見た状態を示している。
【0030】
図7(A)に示す把持対象物2は、鉛直方向に延びる基準線Lに対して前方から見て時計方向に角度αだけ傾斜している。
図7(B)は、第2のカメラ12によって撮像された画像で、把持対象物2を右方から見た状態を示している。
図7(B)に示す把持対象物2は、鉛直方向に延びる基準線Lに対して、右方から見て時計方向に角度βだけ傾斜している。この実施の形態によるロボットハンド1は、第1~第8の押圧体14a~14hの突出量が変わると把持対象物2の姿勢が変わる現象を利用して、把持対象物2の不必要な傾斜を解消する。
【0031】
詳述すると、制御装置13は、上述した傾斜角αと傾斜角βとがそれぞれ0になるように第1~第8の押圧体14a~14hの突出量をそれぞれ制御する。このときに第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を制御するにあたって、制御装置13は、第1~第8の押圧体14a~14hに供給される空気の圧力が補正データB(
図1参照)に記録された圧力となるように第1~第8の制御弁31~38を制御する。
【0032】
補正データBは、メモリ40(
図6参照)に保存され、必要に応じて制御装置13によって読み出される。この実施の形態による補正データBは、
図8(A)に示すように、補正値A1~F6を左右方向の傾斜角と前後方向の傾斜角とに割り付けたマップとして構成されている。補正値A1~F6は、
図8(B)に示すように、第1~第8の押圧体14a~14hの圧力P1~P8である。圧力P1~P8は、現在の傾斜角α,βが補正されてそれぞれ0になる第1~第8の押圧体14a~14hの圧力で、傾斜角の大きさに対応するように設定されている。圧力P1~P8は、第1~第8の押圧体14a~14hの設計値から演算によって求めたり、傾斜角α,βが0になるように第1~第8の押圧体14a~14hの圧力を上昇あるいは低下させて実験により求めることができる。第1~第8の押圧体14a~14hに供給される空気の圧力が補正値A1~F6に設定された圧力になることによって、把持対象物2の傾斜が解消されるように第1~第8の押圧体14a~14hの突出量が変化する。
【0033】
(ロボットハンドの動作の説明)
次に、制御装置13の動作の説明を含めてこの実施の形態によるロボットハンド1の制御方法を
図9および
図10を参照して説明する。
図10においては、第1~第8の押圧体14a~14hが左側アーム5と右側アーム6の互いに対向する内端部に描いてある。
この実施の形態によるロボットハンド1の制御方法は、
図9のフローチャートで示すように実施される。この制御方法においては、先ず、接近ステップS1が実施される。接近ステップS1においては、最初に制御装置13が第1~第8の制御弁31~38を開き、第1~第8の押圧体14a~14hに空気を供給して第1~第8の押圧体14a~14hを予め定めた初期圧力の空気によって膨らませる(ステップS1A)。
【0034】
第1~第8の押圧体14a~14hが膨らんだ後、第1~第8の制御弁31~38が第1~第8の空気供給通路15~22を閉じ、第1~第8の押圧体14a~14hへの空気の供給が絶たれる。このため、第1~第8の押圧体14a~14hは膨らんだ状態に保たれる。このように第1~第8の押圧体14a~14hが膨らんだ後に、制御装置13が駆動装置8を動作させ、左側アーム5と右側アーム6をそれぞれ把持対象物2に接近する方向に前進させる(ステップS1B)。このため、接近ステップS1においては、
図10に示すように、第1~第8の押圧体14a~14hが膨らんだ状態で一対のアーム5とともに把持対象物2に向かって前進するようになる。制御装置13は、接近ステップS1を実施した後、第1~第8の圧力センサ23~30によって検出された圧力が予め定めた判定圧力を上回ったか否かを判定する(ステップS2)。
【0035】
アーム5が前進することにより第1~第8の押圧体14a~14hが把持対象物2に接触する。そして、この接触状態で更にアーム5が前進することにより、第1~第8の押圧体14a~14hが把持対象物2に押し付けられて第1~第8の押圧体14a~14hの形状がつぶれるように変化する。このように第1~第8の押圧体14a~14hの形状が変化すると、この形状の変化に伴って第1~第8の押圧体14a~14h内の空気の圧力が上昇する。この圧力上昇は第1~第8の圧力センサ23~30によって検出される。
【0036】
このように圧力が上昇すると、ステップS2でYESと判定され、次に把持ステップS3が実施される。把持ステップS3においては、先ず、制御装置13がアーム5を停止させ(ステップS3A)、制御装置13が第1~第8の制御弁31~38を開いて第1~第8の押圧体14a~14hに空気を供給する(ステップS3B)。このようにアーム5が停止した状態で第1~第8の押圧体14a~14hが更に膨らむことにより、
図10中に矢印Aで示すように第1~第8の押圧体14a~14hの空気圧が上昇して第1~第8の押圧体14a~14hが把持対象物2に更に強く押し付けられるようになる。
【0037】
制御装置13は、このときに空気の供給が開始された後、第1~第8の圧力センサ23~30によって検出された圧力の値が予め定めた目標圧力値に達したか否かを判定する(ステップS3C)。この判定ステップS3Cで目標圧力値と比較する圧力値は、第1~第8の圧力センサ23~30によって検出された圧力値のうち、最も大きい圧力値を採用することが望ましい。目標圧力値は、第1~第8の押圧体14a~14hによって把持対象物2を把持できる圧力である。
【0038】
第1~第8の押圧体14a~14h内の空気の圧力が目標圧力値に達すると、制御装置13は第1~第8の制御弁31~38を閉じて空気の供給を停止させる(ステップS3D)。
このように空気の供給が停止した後、制御装置13が駆動装置8を制御してハンド部3を上昇させる。ハンド部3が上昇することにより、把持対象物2が左側アーム5と右側アーム6とによって把持された状態で持ち上げられる(ステップS3E)。
【0039】
このように把持ステップS3が実施された後、検出ステップS4が実施される。検出ステップS4においては、先ず、第1のカメラ11と第2のカメラ12とが把持対象物2を撮像し、画像データを制御装置13に送る(ステップS4A)。そして、制御装置13は、第1および第2のカメラ11,12から送られた画像データに基づいて把持対象物2の現在の姿勢を検出する(S4B)。
次に、補正ステップS5に進み、把持対象物2の現在の姿勢が目標とする姿勢と一致するように補正するための補正値を補正データBから読み出す(ステップS5A)。
【0040】
そして、制御装置13は、第1~第8の押圧体14a~14hの圧力が補正データBから読み出した圧力となるように第1~第8の制御弁31~38の動作を制御する。このように第1~第8の制御弁31~38の動作が制御されることにより、第1~第8の押圧体14a~14hの突出量が変わり、第1~第8の押圧体14a~14hによって保持されている把持対象物2の傾斜が補正される(ステップS5B)。
このように把持対象物2の傾斜が解消された後、組付ステップS6が実施される。組付ステップS6においては、制御装置13が駆動装置8を制御してハンド部3を移動させ、把持対象物2を他の部品の穴に嵌合させる。このとき、把持対象物2の姿勢は長手方向が鉛直方向に対して傾斜していない姿勢であるから、把持対象物2が他の部品の穴に正しく嵌合する。
【0041】
(実施の形態による効果の説明)
この実施の形態によれば、把持対象物2が一対のアーム5,6に把持された状態で第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を変えて把持対象物2の姿勢を変えるから、把持対象物2の姿勢を変えるにあたってロボットハンド1の一対のアーム5,6を動作させる必要はない。したがって、把持対象物の姿勢を精度よくかつ速く調整できるロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法を提供することができる。
また、従来の制御方法よりもロボットハンドの補正時の駆動時間を低減させることにより、駆動に必要な電源や油圧に対する省エネルギー効果が期待できる。
【0042】
この実施の形態による把持対象物2は、長手方向を有するものである。また、一対のアーム5,6は、把持対象物2の長手方向とは直交する方向から把持対象物2を挟むように構成されている。第1~第8の押圧体14a~14hは、一対のアーム5,6における把持対象物2の長手方向の一端側(上側)の2箇所と、長手方向の他端側(下側)の2箇所とに設けられている。
このため、把持対象物2の長手方向の両端部を第1~第8の押圧体14a~14hで押して把持対象物2の姿勢を変えることができるから、把持対象物2の鉛直方向に対する傾斜角を簡単に変えることができる。
【0043】
この実施の形態による第1~第8の押圧体14a~14hは、弾性材によって形成されて空気の圧力で膨らみかつ圧力を開放することにより収縮する風船状に形成されている。このため、第1~第8の押圧体14a~14hの圧力変化に対して突出量が追従性よく変化するから、把持対象物2の傾斜を解消するにあたって応答性が高くなる。
【0044】
この実施の形態による制御装置13は、第1~第8の押圧体14a~14hの突出量と把持対象物2の姿勢との関係を記録した補正データBを有し、第1~第8の押圧体14a~14hの突出量を予め設定されている補正データBに基づいて制御する。このため、現在の姿勢を補正するためのデータをその都度演算によって求める場合と較べて、姿勢の補正を速やかに行うことができる。
【0045】
(押圧体の変形例)
押圧体は
図11に示すように構成することができる。
図11において、
図1~
図10よって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図11に示す押圧体51は、電動式のアクチュエータ52によって構成されている。
【0046】
アクチュエータ52は、電力によって連続的に移動する移動体53を備えている。移動体53の先端部には、把持対象物2がスリップすることを防ぐために摩擦部材54が設けられている。この押圧体51は、上述した実施の形態と同様に、左側アーム5と右側アーム6の上側の前後2箇所と、下側の前後2箇所とにそれぞれ設けられている。
【0047】
押圧体51を電動式のアクチュエータ52によって構成しても把持対象物2が一対のアーム5,6に把持された状態で個々の押圧体51の突出量を変えて把持対象物2の姿勢を変えることができるから、把持対象物の姿勢を精度よくかつ速く調整できるロボットハンドおよびロボットハンドの制御方法を提供することができる。
【0048】
上述した第1および第2の実施の形態においては、把持対象物2の長手方向の両端部に合計8個の押圧体14,51を備える例を示したが、押圧体14,51の個数は8個に限定されることはない。押圧体14,51は、把持対象物2の長手方向の両端部に加えて中央部を把持する位置にも設けることができる。また、把持対象物2を水平方向において6方向、8方向などから囲む位置にそれぞれ押圧体14,51を設けることもできる。
【0049】
また、上述した実施の形態においては、把持対象物2の姿勢を検出する検出装置として第1および第2のカメラ11,12を用いる例を示した。しかし、本発明は、このような限定にとらわれることはない。把持対象物2の姿勢を検出する検出装置は、図示してはいないが、例えばレーザー計測を行うスキャナを用いて構成することができる。
【0050】
さらに、上述した実施の形態においては、把持対象物2の傾斜を解消するために複数の押圧体14,51の突出量を制御するにあたって、補正データBを使用する例を示した。しかし、本発明は、把持対象物2の姿勢を検出した後に、押圧体14,51の突出量を変えて姿勢を補正するための圧力、電流値を演算によって求め、この演算結果に基づいて第1~第8の制御弁31~38や電流調整器(図示せず)を制御してもよい。
【0051】
加えて、上述した補正データBは、把持対象物2毎に設定することができる。すなわち、把持対象物2が異なる材質や形状である場合に、それぞれ最適化された補正データBを把持対象物2毎に個別に持たせてもよい。
また、補正データBは、実際の稼働実績をもとに更新することができる。このように補正データBを稼働実績に基づいて更新することにより、補正データBの精度を向上させることができる。
さらに、補正データBは、通信手段(図示せず)を用いて遠隔地より更新してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…ロボットハンド、2…把持対象物、5…左側アーム、6…右側アーム、8…駆動装置、14a…第1の押圧体、14b…第2の押圧体、14c…第3の押圧体、14d…第4の押圧体、14e…第5の押圧体、14f…第6の押圧体、14g…第7の押圧体、14h…第8の押圧体、13…制御装置、11…第1のカメラ(検出装置)、12…第2のカメラ(検出装置)、51…押圧体、52アクチュエータ、53…移動体、B…補正データ、S1…接近ステップ、S3…把持ステップ、S4…検出ステップ、S5…補正ステップ。