(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014291
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】フッ化ポリエチレンイミン
(51)【国際特許分類】
C08G 73/04 20060101AFI20220112BHJP
B01D 71/60 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C08G73/04
B01D71/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116554
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 泰之
(72)【発明者】
【氏名】森島 淳
【テーマコード(参考)】
4D006
4J043
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MC60
4D006MC79
4D006MC88
4J043PC146
4J043YB18
4J043ZB13
4J043ZB60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規なポリエチレンイミン誘導体を提供する。
【解決手段】フッ化アリール基を有するフッ化ポリエチレンイミン。好ましくは、下記式(3)の構造を有するフッ化ポリエチレンイミン。
(式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、直接結合、又は、2価の炭化水素基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化アリール基を有するフッ化ポリエチレンイミン。
【請求項2】
フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンを含む架橋剤。
【請求項3】
前記フッ化ポリエチレンイミンが下記式(1);
【化1】
(式中、X
1は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有する請求項2に記載の架橋剤。
【請求項4】
前記フッ化ポリエチレンイミンが下記式(2);
【化2】
(式中、X
2は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有する請求項2又は3に記載の架橋剤。
【請求項5】
前記フッ素原子含有基が芳香環を有する請求項3又は4に記載の架橋剤。
【請求項6】
前記フッ化ポリエチレンイミンは、フッ素原子の割合が、フッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して1~100質量%である請求項2~5のいずれかに記載の架橋剤。
【請求項7】
フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミン由来の構造を有する濾過膜。
【請求項8】
前記フッ化ポリエチレンイミンが下記式(1);
【化3】
(式中、X
1は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有する請求項7に記載の濾過膜。
【請求項9】
前記フッ化ポリエチレンイミンが下記式(2);
【化4】
(式中、X
2は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有する請求項7又は8に記載の濾過膜。
【請求項10】
前記フッ素原子含有基が芳香環を有する請求項8又は9に記載の濾過膜。
【請求項11】
前記フッ化ポリエチレンイミンは、フッ素原子の割合が、フッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して1~100質量%である請求項7~10のいずれかに記載の濾過膜。
【請求項12】
フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンを含む原料を反応させる工程を含む濾過膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ポリエチレンイミンに関する。より詳しくは、有機溶媒中で使用可能な濾過膜等の架橋剤に有用なフッ化ポリエチレンイミンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンイミンは、アミンと脂肪族スペーサー(CH2CH2)の繰り返し単位からなるポリマーであり、反応性に富むアミノ基を有することから、洗浄剤、接着剤、水処理剤、化粧品等、種々の用途に好適に用いられている。
例えば、特許文献1には、1個以上の置換基で置換されたポリ(ヒドロカルビルアミン)であって、当該置換基のうち少なくとも1個は、当該ポリ(ヒドロカルビルアミン)のアミン窒素上に置換された、所定の構造で表される置換基である、ポリ(ヒドロカルビルアミン)誘導体を含有する、垂直配向剤が開示されている。特許文献2には、分岐ポリエチレンイミンおよび含フッ素アルカン官能基を含む含フッ素ポリマーであることを特徴とするタンパク質中への含フッ素ポリマーの適用および細胞内への小ペプチドの送達の一種が開示されている。特許文献3には、a.酸素、硫黄、および/または窒素の反応サイトを持つ有機多反応性マトリックス;及びb.ハロカーボン骨格を有する化合物を組み合わせることにより調製された高分子フィルムが開示されている。非特許文献1にはポリエチレンイミンとパーフルオロオクタン酸とを反応させて得られた複合体が開示されている。
【0003】
ところで、有機溶媒中の溶質分を分子レベルで分離できる濾過膜は、従来の蒸留法等のように加熱処理を要しないため、環境への負荷が少なく、大量の有機溶媒を使用する石油化学、食品、医薬等の種々の分野において近年注目されている。このような濾過膜について、非特許文献2には、二層の有機溶媒ナノろ過(OSN:organic solvent nanofiltration)中空繊維膜を、外部選択層としてポリベンズイミダゾール、内部支持層として超分岐ポリエチレンイミン架橋ポリイミドを用いて一段階共押出プロセスによって調製した旨が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-184874号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第108611375号明細書
【特許文献3】国際公開第93/19111号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B レン(Biye Ren)他4名「ラングミュア(Langmuir)」(米国)2004年、第20巻、第24号、p10737-10743
【非特許文献2】S サン(Shi-Peng Sun)他4名「サスティナブルケミストリーアンドエンジニアリング(Sustainable Chemistry & Engineering)」(米国)2015年、第3巻、p3019-3023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来ポリエチレンイミンは種々の用途に用いられているが、ポリエチレンイミン誘導体についてはまだ充分に検討が進んでいるとはいえず、更なるポリエチレンイミン誘導体を開発する余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、新規なポリエチレンイミン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリエチレンイミン誘導体について種々検討したところ、フッ化アリール基を有するフッ化ポリエチレンイミンの合成に成功し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、フッ化アリール基を有するフッ化ポリエチレンイミンである。
【0010】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、フッ素原子の割合が、フッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して1~100質量%であることが好ましい。
【0011】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、フッ素原子の割合が、窒素原子100モル%に対して1~10,000モル%であることが好ましい。
【0012】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、重量平均分子量が200~200,000であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンを含む架橋剤でもある。
【0014】
本発明は更に、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミン由来の構造を有する濾過膜でもある。
【0015】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、下記式(1)
【化1】
(式中、X
1は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有することが好ましい。
【0016】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、下記式(2)
【化2】
(式中、X
2は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有することが好ましい。
【0017】
上記フッ素原子含有基は、芳香環を有することが好ましい。
【0018】
上記フッ化ポリエチレンイミンは、フッ素原子の割合が、フッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して1~100質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明は更に、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンを含む原料を反応させる工程を含む濾過膜の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフッ化ポリエチレンイミンは、上述の構成よりなり、耐溶媒性、耐熱性、機械的強度に優れるためポリマー等の架橋剤等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1で得られたフッ化ポリエチレンイミンのNMR測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0023】
本発明は、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンに関する。フッ化ポリエチレンイミンは、ポリエチレンイミンがフッ素原子を有することにより、優れた耐溶媒性、耐熱性、機械的強度を発揮することができる。
本発明のフッ化ポリエチレンイミン(以下、フッ化ポリエチレンイミン(1)ともいう。)はフッ化アリール基を有するものである。これにより耐溶媒性が顕著に向上する傾向にある。
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)はポリエチレンイミンの炭素原子にフッ化アリール基が結合している形態であっても、ポリエチレンイミンの窒素原子にフッ化アリール基が結合している形態であってもよいが、ポリエチレンイミンの窒素原子にフッ化アリール基が結合している形態が好ましい。
【0024】
本発明においてフッ化アリール基とは、芳香環を構成する炭素原子の少なくとも1つに、少なくとも1つのフッ素原子が直接結合した結合を有する。
上記フッ化アリール基は、単環でも複環であっても良い。
上記フッ化アリール基は、フッ素原子、芳香環の他に、1又は2以上の置換基を有していても良い。
上記フッ化アリール基としては、アリール基、ヘテロアリール基であることがより好ましく、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ピリジル基、ペンタフルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2,3,6-トリフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、2,3,4,6-テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6-テトラフルオロフェニル基、2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6-ノナフルオロ-1,1’-ビフェニル基、フルオロナフチル基等が例示される。上記フッ化アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換された構造を有する基であることが好ましい。フッ化アリール基の含有するフッ素原子の数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。またフッ化アリール基の含有するフッ素原子の数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
上記置換基としては、例えばアルキル基や、アリール基が例示される。置換基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の置換基としては、上記の置換基の他、フッ素原子などであっても良い。
上記フッ化アリール基の炭素数は、5以上、30以下であることが好ましい。フッ化アリール基が置換基を有する場合には、置換基を含めた炭素数が上記範囲であることが好ましい。フッ化アリール基の炭素数としてより好ましくは5~20であり、更に好ましくは5~15であり、特に好ましくは5~10である。
【0025】
本発明のフッ化ポリエチレンイミン(1)は、下記式(3);
【0026】
【0027】
(式中、R1、R2は、同一又は異なって、直接結合、又は、2価の炭化水素基を表す。)で表される構造を有することがより好ましい。
上記R2-Fの結合位置及び結合数は特に制限されず、これらを複数有していてもよい。
上記R2-Fの結合数として好ましくは1~5であり、より好ましくは2~5であり、更に好ましくは3~5であり、最も好ましくは5である。
上記2価の炭化水素基として具体的には上述の炭化水素基から水素原子を1つ引き抜いて得られる基が挙げられ、好ましくは脂肪族アルキレン基である。上記2価の炭化水素基の炭素数として好ましくは1~10であり、より好ましくは1~8であり、更に好ましくは1~5である。
上記R1、R2として好ましくは直接結合である。
【0028】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)として具体的には、ポリエチレンイミンに後述するフッ化アリール基含有化合物が結合したものが挙げられる。
【0029】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)は、フッ素原子の割合が、フッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して1~100質量%であることが好ましい。これにより、耐溶媒性、耐熱性、機械的強度がより向上することとなる。より好ましくは2~95質量%であり、更に好ましくは3~90質量%であり、特に好ましくは4~85質量%である。
【0030】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)は、フッ素原子の割合が、窒素原子100モル%に対して1~10,000モル%であることが好ましい。これにより、耐溶媒性、耐熱性、機械的強度がより向上することとなる。より好ましくは2~9,000モル%であり、更に好ましくは3~8,000モル%であり、特に好ましくは4~7,000モル%である。
【0031】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)は、重量平均分子量が200~200,000であることが好ましい。より好ましくは200~180,000であり、更に好ましくは250~160,000である。なお、上記フッ化ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)、沸点上昇法、粘度法など通常用いられる方法で測定することができる。
【0032】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)は、直鎖状であっても分岐構造を有するものであってもよいが、好ましくは分岐構造を有するものである。
【0033】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)は、ポリエチレンイミン由来の構造、フッ化アリール基以外のその他の構造を有していてもよい。
その他の構造としては特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基等が挙げられる。
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)におけるその他の構造の割合としてはフッ化ポリエチレンイミン100質量%に対して0~20質量%であることが好ましい。これにより、耐溶媒性、耐熱性、機械的強度がより向上することとなる。より好ましくは0~10質量%であり、更に好ましくは0~5質量%であり、特に好ましくは0~1質量%である。
【0034】
<架橋剤>
本発明は、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミン(以下、フッ化ポリエチレンイミン(2)ともいう。)を含む架橋剤でもある。
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)は、耐溶媒性、耐熱性、機械的強度に優れるため、架橋するポリマー等の耐溶媒性、耐熱性、機械的強度を向上させることができる。
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)はフッ素原子(フルオロ基)を有するものである限り特に制限されず、ポリエチレンイミンの炭素原子にフッ素原子又はフッ素原子含有基が結合している形態であっても、ポリエチレンイミンの窒素原子にフッ素原子含有基が結合している形態であってもよいが、ポリエチレンイミンの窒素原子にフッ素原子含有基が結合している形態が好ましい。
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)としては下記式(1)
【0035】
【0036】
(式中、X1は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有することが好ましい。
上記X1におけるフッ素原子含有基は、フッ素原子及びポリエチレンイミンにおけるアミノ基と反応性を有する官能基由来の構造とを有するものであることが好ましく、アミノ基と反応性を有する官能基由来の構造を有する炭化水素基にフッ素原子が結合しているものが好ましい。
上記フッ素原子含有基は、1又は2以上のフッ化アリール基を含有することが好ましい。
1つのフッ素原子含有基におけるフッ素原子の数は特に制限されないが、1~20であることが好ましい。より好ましくは1~15であり、更に好ましくは1~10であり、特に好ましくは1~8である。
【0037】
上記アミノ基と反応性を有する官能基として好ましくはカルボキシル基又はその塩若しくはそのハロゲン化物、エポキシ基、ハロゲノ基等が挙げられる。中でも好ましくはカルボキシル基又はその塩若しくはそのハロゲン化物であり、より好ましくはカルボキシル基のハロゲン化物(カルボン酸ハロゲン化物)であり、更に好ましくはカルボン酸塩化物基である。
上記官能基がカルボキシル基又はその塩若しくはそのハロゲン化物である場合、上記X1におけるフッ素原子含有基は、カルボキシル基又はその塩若しくはそのハロゲン化物に由来するカルボニル基を有することとなる。
【0038】
上記フッ素原子含有基における炭化水素基としては特に制限されないが、脂肪族アルキル基、脂環式アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。中でも好ましくは脂肪族アルキル基、アリール基であり、より好ましくはアリール基である。フッ素原子含有基が芳香環を有する形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記炭化水素基の炭素数としては1~30であることが好ましい。より好ましくは1~20であり、更に好ましくは1~15であり、一層好ましくは1~10であり、特に好ましくは1~8である。
【0039】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基、i-プロピル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、i-アミル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、t-アミル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、t-オクチル基、分岐したノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、イコシル基等の脂肪族アルキル基;シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基(C7)、アダマンチル基(C10)、シクロペンチルエチル基等の脂環式アルキル基が挙げられる。
【0040】
上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
上記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ドデシニル基、オクタデシニル基、イコシニル基等が挙げられる。
【0041】
アリール基としては、例えば、フェニル基;ナフチル基;ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、スチリル基(Ph-CH=C-基)、シンナミル基(Ph-CH=CHCH2-基)、1-ベンゾシクロブテニル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル基等のアラルキル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基である。
【0042】
上記フッ素原子含有基において、アミノ基と反応性を有する官能基がカルボキシル基又はその塩若しくはそのハロゲン化物である場合、フッ化ポリエチレンイミンは、エチレンイミン由来の窒素原子とフッ素原子含有基とがアミド結合を介して結合する構造を有する。
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)は、下記式(2);
【0043】
【0044】
(式中、X2は、フッ素原子含有基を表す。)で表される構造を有することが好ましく、このような形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0045】
上記X2におけるフッ素原子含有基は、フッ素原子を有するものであれば特に制限されないが、炭化水素基にフッ素原子が結合しているものが好ましい。上記フッ素原子含有基は、1又は2以上のフッ化アリール基を含有することが好ましい。
すなわち、本発明の架橋剤が本発明のフッ化ポリエチレンイミン(1)を含む形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記炭化水素基、1つのフッ素原子含有基におけるフッ素原子の数は、X1において述べたとおりである。
【0046】
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)は、上記式(3)で表される構造を有することがより好ましい。
【0047】
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)として具体的には、ポリエチレンイミンに後述するフッ素原子含有化合物が結合したものが挙げられる。
【0048】
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)におけるフッ素原子の割合、重量平均分子量、その他の構造及びその割合は、上記フッ化ポリエチレンイミン(1)におけるフッ素原子の割合、重量平均分子量、その他の構造及びその割合と同様である。
【0049】
本発明の架橋剤で架橋するポリマー等としては特に制限されないが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等が挙げられる。中でも好ましくはポリイミドである。
【0050】
本発明は、フッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造を有する架橋ポリマーでもある。
上記架橋ポリマーにおけるフッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造の割合は特に制限されないが、架橋ポリマー100質量%に対して0.01~50質量%であることが好ましい。より好ましくは0.02~40質量%であり、更に好ましくは0.03~30質量%である。
【0051】
<フッ化ポリエチレンイミン(1)及び(2)の製造方法>
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)及び(2)の製造方法は特に制限されないが、ポリエチレンイミンとフッ素原子含有化合物とを反応させることにより製造することができる。
本発明は、ポリエチレンイミンとフッ素原子含有化合物とを反応させる工程を含むフッ化ポリエチレンイミンの製造方法でもある。
【0052】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)及び(2)の製造に用いられるポリエチレンイミンは特に制限されず、直鎖状であっても分岐構造を有するものであってもよいが、分岐構造を有するものが好ましい。
【0053】
上記ポリエチレンイミンの重量平均分子量としては、200~200,000であることが好ましい。より好ましくは200~180,000であり、更に好ましくは250~160,000である。なお、上記ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)、沸点上昇法、粘度法など通常用いられる方法で測定することができる。
【0054】
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)の製造に用いるフッ素原子含有化合物としては、フッ素原子を有するものであればよいが、フッ素原子と、アミノ基と反応性を有する官能基とを有するものであることが好ましい。フッ素原子含有化合物がアミノ基との反応性官能基を有しない場合、触媒等を用いてポリエチレンイミンと反応させてもよい。
上記フッ素原子含有化合物としては、アミノ基と反応性を有する官能基を有する炭化水素基にフッ素原子が結合しているものがより好ましい。
アミノ基と反応性を有する官能基、炭化水素基の具体例及び好ましい形態は上述のとおりである。
【0055】
上記フッ素原子含有化合物として具体的には、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイルクロリド、2-フルオロベンゾイルクロリド、3-フルオロベンゾイルクロリド、4-フルオロベンゾイルクロリド、2-フルオロ-4-メチルベンゾイルクロリド、2-フルオロ-5-メチルベンゾイルクロリド、3-フルオロ-4-メチルベンゾイルクロリド、3-フルオロ-6-メチルベンゾイルクロリド、4-フルオロ-2-メチルベンゾイルクロリド、4-フルオロ-3-メチルベンゾイルクロリド、2,3-ジフルオロベンゾイルクロリド、2,4-ジフルオロベンゾイルクロリド、2,5-ジフルオロベンゾイルクロリド、2,6-ジフルオロベンゾイルクロリド、3,4-ジフルオロベンゾイルクロリド、3,5-ジフルオロベンゾイルクロリド、2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、2-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、2-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、3-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、4-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、4-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、2,3,4-トリフルオロベンゾイルクロリド、2,3,5-トリフルオロベンゾイルクロリド、2,3,6-トリフルオロベンゾイルクロリド、2,4,5-トリフルオロベンゾイルクロリド、2,4,6-トリフルオロベンゾイルクロリド、3,4,5-トリフルオロベンゾイルクロリド、2,3,4,5-テトラフルオロベンゾイルクロリド、2,3,5,6-テトラフルオロベンゾイルクロリド、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチル-ベンゾイルクロリド、2-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、3-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、4-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、3-トリフルオロメチル-4-エトキシベンゾイルクロリド、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、4-(ペンタフルオロエチル)ベンゾイルクロリド、4-(3-テトラフルオロプロピル)ベンゾイルクロリド、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロビニル)ベンゾイルクロリド、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(ペンタフルオロアリル)ベンゾイルクロリド
【0056】
2,3,4,5,6-ペンタフルオロ安息香酸、2-フルオロ安息香酸、3-フルオロ安息香酸、4-フルオロ安息香酸、2-フルオロ-4-メチル安息香酸、2-フルオロ-5-メチル安息香酸、3-フルオロ-4-メチル安息香酸、3-フルオロ-6-メチル安息香酸、4-フルオロ-2-メチル安息香酸、4-フルオロ-3-メチル安息香酸、2,3-ジフルオロ安息香酸、2,4-ジフルオロ安息香酸、2,5-ジフルオロ安息香酸、2,6-ジフルオロ安息香酸、3,4-ジフルオロ安息香酸、3,5-ジフルオロ安息香酸、2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)安息香酸、2-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)安息香酸、2-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)安息香酸、3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)安息香酸、3-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)安息香酸、3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)安息香酸、4-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)安息香酸、4-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)安息香酸、2,3,4-トリフルオロ安息香酸、2,3,5-トリフルオロ安息香酸、2,3,6-トリフルオロ安息香酸、2,4,5-トリフルオロ安息香酸、2,4,6-トリフルオロ安息香酸、3,4,5-トリフルオロ安息香酸、4-クロロ-2,4-ジフルオロ安息香酸、2,3,4,5-テトラフルオロ安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチル-安息香酸、2-(トリフルオロメチル)安息香酸、3-(トリフルオロメチル)安息香酸、4-(トリフルオロメチル)安息香酸、3-トリフルオロメチル-4-エトキシ安息香酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)安息香酸、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)安息香酸、4-(ペンタフルオロエチル)安息香酸、4-(3-テトラフルオロプロピル)安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロビニル)安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(ペンタフルオロアリル)安息香酸及びこれらの塩等の芳香族系フッ素原子含有化合物;
【0057】
ジフルオロ酢酸、ドデカフルオロスベリン酸、4,4-ジフルオロシクロヘキサンカルボン酸、2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸、ヘプタフルオロ酪酸、ヘキサフルオログルタル酸、ヘプタデカフルオロノナン酸、ヘキサデカフルオロセバシン酸、ヘンエイコサフルオロウンデカン酸、2-アミノ-4,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)酪酸、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-ヘプタデカフルオロウンデカン酸、ノナフルオロ吉草酸、ノナデカフルオロデカン酸、オクタフルオロアジピン酸、ペンタデカフルオロオクタン酸、ペンタフルオロプロピオン酸、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸、4-(トリフルオロメチル)シクロヘキサンカルボン酸、トリコサフルオロドデカン酸、2-ヒドロキシ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)酢酸、4,4,4-トリフルオロ酪酸等の脂肪族系フッ素原子含有化合物等が挙げられる。
【0058】
上記フッ素原子含有化合物の中でも好ましくは芳香族系フッ素原子含有化合物であり、より好ましくは、フッ化アリール基を含有する化合物であり、さらに好ましくはフッ素原子含有ベンゾイルクロリドであり、特に好ましくは2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイルクロリドである。
【0059】
上記フッ化ポリエチレンイミン(1)の製造に用いるフッ素原子含有化合物としては、フッ化アリール基含有化合物が挙げられ、好ましくはフッ素原子含有ベンゾイルクロリドであり、更に好ましくは2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイルクロリドである。
【0060】
上記ポリエチレンイミンとフッ素原子含有化合物との反応工程では溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、ポリエチレンイミンとフッ素原子含有化合物を溶解できるものであれば特に制限されないが、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6のアルコール類等が挙げられる。好ましくは炭素数1~3のアルコール類であり、より好ましくはメタノールである。
【0061】
上記ポリエチレンイミンとフッ素原子含有化合物との反応工程における反応温度は特に制限されないが、0~150℃であることが好ましい。より好ましくは10~100℃である。
上記反応工程における反応時間は特に制限されないが、0.1~10時間であることが好ましい。より好ましくは0.2~8時間である。
【0062】
<濾過膜>
本発明は、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミン由来の構造を有する濾過膜、すなわち、上記フッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造を有する濾過膜でもある。
上記フッ化ポリエチレンイミン(2)は、耐溶媒性に優れるため、上記構造を有する濾過膜は有機溶媒中で好適に使用することができる。
【0063】
上記濾過膜を構成するフッ化ポリエチレンイミン(2)以外の材料としては特に制限されないが、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン等のポリマーが挙げられる。これらのポリマーを濾過膜の主材として用いることができる。好ましくはポリイミドである。
【0064】
上記濾過膜の形式としては、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラ膜、平膜等が挙げられ、好ましくは中空糸膜である。
【0065】
上記濾過膜は、1層からなる膜であっても2層以上有するものであってもよいが、2層以上有するものであることが好ましい。
上記濾過膜が2層以上有するものである場合、いずれの層に上記フッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造を有していてもよい。
上記濾過膜が表層のスキン層と基材層とを有する場合、スキン層に上記フッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造を有する形態が好ましい。
【0066】
上記濾過膜におけるフッ化ポリエチレンイミン(2)由来の構造の割合は特に制限されないが、濾過膜100質量%に対して0.001~50質量%であることが好ましい。より好ましくは0.002~40質量%であり、更に好ましくは0.003~30質量%である。
【0067】
<濾過膜の製造方法>
本発明の濾過膜の製造方法は、フッ化ポリエチレンイミン(2)を用いて製造する限り特に制限されないが、フッ化ポリエチレンイミン(2)を含む原料を反応させて製造することが好ましい。
本発明は、フッ素原子を有するフッ化ポリエチレンイミンを含む原料を反応させる工程を含む濾過膜の製造方法でもある。
【0068】
上記反応工程における原料はフッ化ポリエチレンイミン(2)と上述の主材とを含むことが好ましい。
フッ化ポリエチレンイミンと上述の主材とを含む原料を反応させることにより主剤に架橋構造を形成することができる。
上記原料中のフッ化ポリエチレンイミン(2)の割合としては特に制限されないが、主材100質量%に対して0.01~50質量%であることが好ましい。より好ましくは0.02~40質量%であり、更に好ましくは0.03~30質量%である。
【0069】
上記反応工程は、フッ化ポリエチレンイミン(2)を含む原料を反応させる限り特に制限されないが、例えば上記濾過膜がスキン層と基材層とを有するものであって、スキン層にフッ化ポリエチレンイミン(2)を用いて架橋構造を形成する場合、基材層上にフッ化ポリエチレンイミン(2)と上述の主材とを含む溶液をキャストすることにより形成することが好ましい。
【実施例0070】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0071】
<NMR測定>
得られたフッ化ポリエチレンイミン含有組成物について下記の条件でNMR測定を行い、原料の減少に基づき、フッ化ポリエチレンイミンの合成を確認した。
得られたフッ化ポリエチレンイミンをジメチルスルホキシド-d6に溶解させ、Bruker社製400MHzの装置を用いて測定を行った。
【0072】
<実施例1>
ポリエチレンイミン(日本触媒製SP-003)30mg(0.017mmol)のメタノール溶液2gとペンタフルオロベンゾイルクロリド(東京化成製)17mg(0.05mmol)のメタノール溶液0.5gを混合した後、メタノールをロータリーエバポレーターにて留去することにより1時間攪拌することで、フッ化ポリエチレンイミンを得た。
得られたポリマーについてNMR測定を行い、結果を
図1に示した。NMRのチャートにおいて、8.3ppmにアミド結合に帰属されるピークを観測した。該アミド結合は、原料のポリエチレンイミンとペンタフルオロベンゾイルクロリドが反応して生成するため、アミド結合の生成により、フッ化ポリエチレンイミンの合成を確認した。