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特開2022-142944ろう付用アルミニウムブレージングシートおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142944
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ろう付用アルミニウムブレージングシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20220926BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20220926BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220926BHJP
   B23K 35/40 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22C21/00 E
C22C21/00 J
C22C21/00 D
B23K35/40 340J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043229
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一
(57)【要約】
【課題】本発明はフラックスフリーろう付け用のアルミニウムブレージングシートおよびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のろう付用アルミニウムブレージングシートは、少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、Al-Si-Mg-Bi系ろう材が前記心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置し、ろう付後の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で1.0%以上となることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、前記複層構造の最表面に位置するAl-Si-Mg-Bi系ろう材を含み、ろう付後の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で1.0%以上となることを特徴とするろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項2】
前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材が、質量%で、Siを1.5~14.0%、Mgを0.01~2.0%、Biを0.005~0.5%含有することを特徴とする請求項1に記載のろう付け用アルミニウムブレージングシート。
【請求項3】
前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物であり、圧延方向に平行な断面(RD-ND)の観察において、円相当径で0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物が、ろう材最表面から10μm深さ以内の10000μm視野あたり10個以上存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムろう付用ブレージングシート。
【請求項4】
ろう付昇温過程のろう溶融開始温度(固相線温度)に到達した前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で0.08%以上となることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項5】
前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の平均酸化皮膜厚さが20nm以下であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項6】
前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれる不純物Caが質量ppmで50ppm以下である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のろう付け用アルミニウムブレージングシート。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のろう付け用アルミニウムブレージングシートにおいて、少なくともSi粒子および、Mg-Bi化合物の一部が最表面に露出したエッチング面であることを特徴とするろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のろう付け用アルミニウムブレージングシートを用いてろう付を行うまでの間に、アルカリまたは酸を用いて前記アルミニウムブレージングシートの表面をエッチングすることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のろう付用アルミニウムブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラックスフリーによる接合がなされるフラックスフリーろう付用アルミニウムブレージングシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジエータなどのアルミニウム製自動車用熱交換器は、これまでの小型軽量化と共にアルミニウム材料の薄肉高強度化が進んできている。アルミニウム製熱交換器の製造では、継手を接合するろう付が行われるが、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法では、フラックスが材料中のMgと反応して不活性化し、ろう付不良を生じ易いため、Mg添加高強度部材の利用が制限される。このため、フラックスを使用せずにMg添加アルミニウム合金を接合するろう付方法が望まれている。
【0003】
Al-Si-Mgろう材を用いるフラックスフリーろう付では、溶融して活性となったろう材中のMgが接合部表面のAl酸化皮膜(Al)を還元分解することで接合が可能となる。閉塞的な面接合継手などにおいては、Mgによる酸化皮膜の分解作用によりろう材を有するブレージングシート同士を組み合わせた継手や、ブレージングシートとろう材を有さない被接合部材(ベア材)を組み合わせた継手で良好な接合状態が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-50861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、チューブとフィン接合部など、雰囲気の影響を受け易い継手形状では、Mg添加ろう材の表面でMgO皮膜が成長し易くなるが、MgO皮膜は分解され難い安定な酸化皮膜であるため、接合が著しく阻害される。このため、開放部を有する継手で安定した接合状態が得られるフラックスフリーろう付方法が強く望まれている。
【0006】
フラックスフリーろう付の接合状態を安定させる方法として、例えば特許文献1に示すAl-Si-Mg-Bi系ろう材を用い、ろう材中のBi粒子やBi-Mg化合物の分布状態を制御する技術が提案されている。この技術によれば、円相当径5.0~50μmの単体BiあるいはBi-Mg化合物をろう材中に分散させておくことで、これら単体BiあるいはBi化合物を材料製造時にろう材表面に露出させることができる。そして、単体BiあるいはBi化合物の存在により露出部における酸化皮膜形成を抑制することができ、短時間のろう付加熱により、フラックスフリーろう付性を向上できるとしている。
しかし、従来技術では、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法を代替できるほどに安定した接合性が得られているとは言い難く、一般的な熱交換器に広く適用するためには、さらなる技術の向上が必要である。
【0007】
そこで本発明者らは前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、Bi添加Al-Si-Mg系ろう材において、ろう付性をさらに向上させるためには、ろう溶融後の表面Bi濃度を均一で一定値以上に調整し、Biによる酸化皮膜の分断作用を促進させることが重要であることを見出した。さらに、ろう溶融開始時に接合が開始されるが、継手に溶融ろうを十分に充填するためには、ろう溶融開始時の表面Bi濃度を一定値以上に設定し、酸化皮膜が分断される起点を増やすことが重要であることを見出した。
【0008】
また、本発明者らの研究により、ろう付昇温過程では、Mg-Bi化合物粒子が溶融して生成する金属Biがろう材表面に濃化することがわかっている。更に、研究の結果、材料作製時にろう材表面から10μm深さ以内に分布する円相当径0.01μm以上5.0μm未満の微細なMg-Bi化合物粒子を所定の数密度以上に分散させることで前記一定値以上の表面Bi濃度が実現することを確認し、本発明に至った。
【0009】
本願発明は、以上説明の背景に鑑みなされたもので、フラックスフリーろう付けにおいて良好な接合性が得られるろう付け用アルミニウムブレージングシートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ろう付前のAl-Si-Mg-Bi系ろう材の表層部に着目し、Mg-Bi系化合物粒子を微細かつ密に分散させることで、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中のフラックスフリーろう付で優れた接合状態が得られることを見出した。
【0011】
(1)第1の形態のアルミニウムブレージングシートは、フラックスを使用せずに減圧を伴わない非酸化性雰囲気でろう付に供されるフラックスフリーろう付用アルミニウムブレージングシートであって、少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、前記複層構造の最表面に位置するAl-Si-Mg-Bi系ろう材を含み、ろう付後の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で1.0%以上となることを特徴とする。
【0012】
(2)第2の形態のアルミニウムブレージングシートは、前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材が、質量%で、Siを1.5~14.0%、Mgを0.01~2.0%、Biを0.005~0.5%含有することを特徴とする。
【0013】
(3)第3の形態のアルミニウムブレージングシートは、前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物粒子であって、圧延方向に平行な断面(RD-ND)の観察において、円相当径で0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物粒子が、ろう材最表面から10μm深さ以内の10000μm視野あたり10個以上存在することを特徴とする。
【0014】
(4)第4の形態のアルミニウムブレージングシートは、ろう付昇温過程のろう溶融開始温度(固相線温度)に到達した前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で0.08%以上となることを特徴とする。
【0015】
(5)第5の形態のアルミニウムブレージングシートは、ろう付前の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の平均酸化皮膜厚さが20nm以下であることを特徴とする。
(6)第6の形態のアルミニウムブレージングシートは、ろう付前の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれる不純物Caが質量ppmで50ppm以下であることを特徴とする。
(7)第7の形態のアルミニウムブレージングシートは、(1)~(6)のいずれかに記載のろう付け用アルミニウムブレージングシートにおいて、少なくともSi粒子および、Mg-Bi化合物の一部が最表面に露出したエッチング面であることを特徴とする。
(8)第8の形態のアルミニウムブレージングシートの製造方法は、(1)~(7)のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシートを用いてろう付を行うまでの間に、アルカリまたは酸を用いて前記アルミニウムブレージングシートの表面をエッチングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好で安定したフラックスフリーろう付接合を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態におけるフラックスフリーろう付用のアルミニウムブレージングシートとろう付対象部材を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施例におけるろう付モデルを示す図である。
図4】実施例試料におけるグロー放電表面分析結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
第1実施形態のフラックスフリーろう付用アルミニウムブレージングシートは、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、シート状の心材とこの心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置するAl-Si-Mg-Bi系ろう材を具備する。
本実施形態のブレージングシートは、心材の片面にAl-Si-Mg-Bi系ろう材をクラッドし、心材の他面に犠牲材をクラッドした三層構造のアルミニウムブレージングシートであっても良い。
本実施形態のアルミニウムブレージングシートは、ろう材/心材/犠牲材/ろう材の四層構造でも良いし、ろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の五層構造であっても良い、また、第1のろう材/第2のろう材/心材/ろう材の四層構造、あるいは、第1のろう材/第2のろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の六層構造など、クラッド構成は特に限定されるものではない。
本実施形態のアルミニウムブレージングシートは、シート状の心材と上述のろう材、犠牲材などとのクラッド圧延によりシート状に製造される。
【0019】
本実施形態のアルミニウムブレージングシートにおいて、ろう付後の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で1.0%以上であることが好ましい。また、前記ろう材は、質量%で、Siを1.5~14.0%、Mgを0.01~2.0%、Biを0.005~0.5%含有し、残部Alの組成を有するAl-Si-Mg-Bi系ろう材であることが好ましい。
以下、本実施形態のブレージングシートにおいて、含有量の記載はいずれも質量比で示され、質量比の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、例えば、1.5~14.0%は、1.5質量%以上14.0質量%以下を意味する。
【0020】
前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物粒子であって、圧延方向に平行な断面(RD-ND)の観察において、円相当径で0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物粒子が、ろう材最表面から10μm深さ以内において、10000μm視野あたり10個以上存在することが好ましい。
また、後述するろう付昇温過程のろう溶融開始温度(固相線温度)に到達した前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の酸化皮膜において、グロー放電発光分析で取得される厚さ方向の各種元素濃度分布内でのBi濃度が最も高い部位が質量%で0.08%以上であることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態のブレージングシートにおいて、ろう付前の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材表面の平均酸化皮膜厚さが20nm以下であることが好ましい。
また、また、本実施形態のブレージングシートにおいて、ろう付前の前記Al-Si-Mg-Bi系ろう材に含まれる不純物Caが質量ppmで50ppm以下であることが好ましい。
【0022】
「ろう材(ろう材層)」
Mg:0.01~2.0%
Mgは、Al酸化皮膜(Al)を還元分解する。但し、Mgの含有量が過小であると、効果が不十分であり、一方、過剰に含有すると、ろう付雰囲気中の酸素と反応して接合を阻害するMgOが生成することや、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。このため、本形態のろう材におけるMgの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でMg含有量を、下限で0.05%、上限で1.5%とするのが一層望ましい。
【0023】
Si:1.5~14.0%
Siは、ろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成する。ただし、Siの含有量が過小であると、フィレットを形成するための溶融ろうが不足する。特に、Al-Si2元系平衡状態図による最大固溶限は1.65%程度であることから、1.65%よりもSi量が少ない範囲では、ろう付温度において生成する液相量はほぼ皆無であり、接合に寄与する溶融ろうが生成しない。ただし、最大固溶限を下回っているSi量であっても、最大固溶限との差が小さい場合には、局所的にSiが濃化した箇所で部分的に溶融ろうが生成し、接合に寄与する。
一方、Siを過剰に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。このため、本形態のろう材において、Siの含有量を前記範囲に定める。なお、同様の理由でSi含有量を、下限で3.0%、上限で12.0%とするのが一層望ましい。
【0024】
Bi:0.005~0.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃化し酸化皮膜まで入り込むため、緻密な酸化皮膜の成長を阻害する。ろう溶融時には、ろう材中のMgにより酸化皮膜中のAlが還元分解されるが、Biが入り込み酸化皮膜が脆弱になっているため、酸化皮膜が破壊され易くなる。さらに、Biは溶融ろうの表面張力を低下させるため、隙間充填性が向上する。ただし、Biの含有量が過小であると、効果が不十分となる。一方、Biを過剰に含有すると、効果が飽和するだけでなく、母材Alへの固溶限が小さいBiが材料作製時の熱処理やろう付昇温過程の低温域で材料表面に偏析し、Biの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。このため、本形態のろう材においてBiの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でBi含有量を、下限で0.05%、上限で0.3%とするのが一層望ましい。
【0025】
Ca:50質量ppm以下
CaはAl母材やMg、Si母合金などの不純物として存在し、ろう材溶製時に不可避不純物として通常100質量ppm以下程度混入するが、Biと高融点化合物粒子を形成し、Biの作用を低下させるので含有量を制限するのが望ましい。Ca含有量が50質量ppmを超えると、Biの作用が低下しろう付性が不十分となるので、50質量ppmを上限とするのが望ましい。
なお、同様の理由でCa含有量を20質量ppm以下とするのが一層望ましい。
ろう材を製造する基となる母合金などの不純物量が多く、ろう材中のCa量が50質量ppmを超える場合は、ろう材溶製時のClガス吹込みやフッ化物系フラックス投入などの溶湯処理によりろう材中の不純物Ca量を所定値以下に低減することができる。
【0026】
ろう材には、ろう付け後に犠牲防食層を生成する意味で、必要量のZnを添加することができる。
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の電位を卑にすることで犠牲防食効果が得られるので、所望により含有させる。ただし、Znを含有させる場合、含有量が過小であると犠牲防食効果が不十分となり、一方、過大であると効果が飽和する。このため、本形態のろう材においてZnを含有する場合、含有量を前記範囲とすることができる。
なお、同様の理由でZn含有量を、下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。また、Znを積極添加しない場合でも、Znを不純物として0.1%未満で含有するものであってもよい。
【0027】
また、ろう材には、他の元素として、各2.0質量%以下ただし合計でも2.0質量%以下のIn、Sn、Mnの内、1種以上を含有しても良く、各1.0質量%以下ただし合計でも1.0質量%以下のFe、Ni、Ce、Seの内、1種以上を含有しても良く、各0.3%以下ただし合計でも0.3%以下のBe、Na、Sb、Ti、Zr、P、S、K、Rbなどの一種以上を含有してもよい。
【0028】
「微細Mg-Bi系化合物粒子」
本形態のろう材には、円相当径で、0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi系化合物粒子が、ろう材最表面から10μm深さ以内において、10000μm視野あたりに10個以上含まれていることが好ましい。
微細Mg-Bi系化合物粒子がろう材表層部に分散することで、ろう付昇温過程で微細Mg-Bi系化合物粒子が溶融した際に、Biが材料表面に均一に濃縮し易くなり、接合を阻害する酸化皮膜の分断作用が高まる。前記微細Mg-Bi系化合物粒子が10個未満であると、酸化皮膜の分断効果が不十分となり易く、ろう付性が低下する。同様の理由により、微細Mg-Bi系化合物粒子の数が20個以上であることが一層望ましい。
【0029】
なお、ろう材表層部の微細Mg-Bi系化合物粒子の数は、作製したアルミニウムブレージングシートの圧延方向に平行な断面(RD-ND)を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、ろう材層の最表面から10μm深さ(ろう材層厚みが10μm未満の場合はろう材層の全厚み)までの範囲をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で全自動粒子解析を行って求めることができる。さらに、1μm以下の微細Mg-Bi系化合物粒子を測定するため、切出したろう材層の圧延方向に平行な断面(RD-ND)を機械研磨、および電解研磨を施して薄膜を作製し、TEM(透過型電子顕微鏡)でろう材層の最表面から10μm深さ(ろう材層厚みが10μm未満の場合はろう材層の全厚み)までの範囲に関し、10000μm(100μm角)相当の視野を観察し、円相当径0.01~5.0μm(0.01μm以上5.0μm以下)のMg-Bi系化合物粒子数をカウントすることで求められる。
なお、前記(RD-ND)において、RDはRolling Direction(圧延方向)を示し、NDはNormal Direction(圧延面法線方向)を示す。
【0030】
また、Mg-Bi系化合物粒子を細かく密に分布させる手段として、鋳造時に、溶湯温度が高いところから早い冷却速度で鋳込むこと、熱延時には、一定以上の大きな総圧下量をとること、高温域での圧延時間を長くとること、熱延仕上り温度を一定以上低くかつその後の冷却速度を早くすること、冷延負荷1回当りの圧下量を小さくすることなどを適正に組み合わせることで調整できる。
【0031】
「ろう付前のろう材表面の平均酸化皮膜厚さ:20nm以下」
ろう付前酸化皮膜の主組成であるAlは、ろう付過程でろう材中のMgにより還元されMgAlなどに分解されるが、MgAlはろう付中に再分解し難い安定な酸化物のため、多量に生成すると活性な溶融ろう表面が減少し、溶融ろうの充填性が低下する。このため、MgAlの原料となるAlを減らすことを目的として、ろう付前のブレージングシートにおいてろう材表面の平均酸化皮膜厚さを20nm以下にすることが望ましい。
なお、同様の理由でろう付前のブレージングシートにおいて平均酸化皮膜厚さを10nm以下とするのが一層望ましい。
ただし、選択される継手形状やろう付条件などにより前記の平均酸化皮膜厚さ以上でも十分な接合性が確保できる場合には、前記の平均酸化皮膜厚さに限定されるものではない。
【0032】
なお、ろう付前のブレージングシートにおける酸化皮膜厚さは、グロー放電発光分析(GD-OES)によりブレージングシートの表面方向(RD-TD)から内部方向にスパッタしながら深さ方向の元素分布を示す図を取得し、最表面からO量を示す線と最表面からAl量を示す線が交差する点までの最表面からの距離を酸化皮膜厚さとして定義することで求められる。なお、前記(RD-TD)において、TDはTransverse Direction(圧延直角方向)を示す。
【0033】
ろう付前のブレージングシートにおける酸化皮膜の組成や厚さは、ブレージングシートの基となる材料作製時の熱処理条件により制御できる。本願発明に用いるMg添加材料では、熱処理温度が高過ぎる場合や熱処理時間が長くなり過ぎると、ろう付時に分解され難いMgO皮膜が成長し、接合が著しく阻害される。このため、例えば、冷延後の中間焼鈍や最終焼鈍で行う熱処理では、到達温度400℃以下、最高到達温度での保持時間を12時間未満にすることでろう付前酸化皮膜の主組成をAlとし、所定の厚さに制御することができる。
なお、本願発明のブレージングシートの基となる材料を得る方法としては、目的とするろう付前のブレージングシートにおける酸化皮膜組成と厚さが達成できれば良いため、その手法は前記に限定されるものではない。
【0034】
「ろう溶融開始温度到達時のろう材表面の酸化皮膜において、厚さ方向の各種元素濃度分布内でBi濃度が最も高い部位が質量%で0.1%以上」
ろう材表面に濃化したBiは、酸化皮膜に入り込み、酸化皮膜を分断することでろう付接合性を向上させる。ろう付過程では、Biによる酸化皮膜分断作用と、ろう材中のMgによるAl皮膜の還元分解作用との相乗効果により優れたろう付接合性が得られる。このとき、ろう溶融開始時の酸化皮膜中のBi濃度が0.1%未満であると、酸化皮膜を分断する起点が不十分になり、ろう付接合性が低下するため、Bi濃度を0.1%以上にすることが望ましい。
同様の理由で、ろう溶融開始時の表面Bi濃度は0.5%以上にすることが一層望ましい。
【0035】
図4は、後述する実施例において得られたアルミニウムブレージングシート試料に関し、ろう付相当熱処理を施し、ろう溶融開始温度となった試料をろう付炉から取り出し、急冷した後、元素分析した結果を示す。
ろう材の溶融開始温度は、ろう材を構成するアルミニウム合金の固相線温度-5℃と定義する。アルミニウム合金の固相線温度は、熱力学計算ソフト(Jmat Pro)を利用し、合金組成から算出することができる。
図4は、炉から試料を取り出して急冷した後、試料に対しグロー放電発光分析により試料表面から深さ方向に元素濃度の分布を求めた結果の一例を示すグラフである。
図4に示すようにこの試料では、試料表面(材料表面)側において酸素濃度(酸素含有量)が高く、Al濃度(Al含有量)が低いが、分析位置が深くなるにつれてAlの濃度が徐々に上昇し、酸素の濃度は逆に徐々に減少する。本願明細書では、深さ方向へのグロー放電発光分析結果におけるO原子濃度を示すプロファイルとAl原子濃度を示すプロファイルの交点までの深さを酸化皮膜の厚さと定義した。図4の例では酸化皮膜厚さ4nmと見積もることができる。
【0036】
図4に示すグラフから明らかなように、酸化皮膜にはBiの濃度勾配が形成されており、酸化皮膜の厚さ方向中心領域にピーク濃度を有し、ピーク濃度位置から表面側とその反対側(奥側)に向かってBi濃度が順次減少する山型のBi濃度勾配が形成されていることがわかった。
本願明細書において、厚さ方向の元素濃度分布内におけるBi濃度が最も高い部位とは、この山型のBi濃度勾配のピーク位置のBi濃度(質量%)を意味する。
なお、図4に示すグラフでは、Biの濃度プロファイルのみ濃度を20倍に拡大して表示しているので、Biの濃度ピークは0.68原子%(at%)と読み取ることができるが、このピーク位置におけるBi含有量は質量%に換算すると6.7質量%となる。
以上説明のように、ろう付昇温過程のろう溶融開始温度(固相線温度)に到達した時点における、ろう材表面の酸化皮膜におけるBi濃度が最も高い部位のBi濃度とは、炉から取り出して急冷した試料表面のBiのピーク濃度を意味する。
【0037】
「ろう付後のろう材表面の酸化皮膜において、厚さ方向の各種元素濃度分布内でBi濃度が最も高い部位が質量%で1.0%以上」
前記の表面濃化したBiによる酸化皮膜の分断作用は、ろう溶融温度以上になるとBiの表面濃化が促進することで作用が強くなるが、材料やろう付条件を適切に選択し、ろう付後のろう材表面のBi濃度を1.0%以上にすることで良好なろう付接合状態となる。材料の一例としては、本形態のブレージングシートが好適に選択でき、ろう付条件の一例として、ろう付昇温時間が3~60分、最高到達温度が580~610℃、最高到達温度から5℃低い温度からの昇温中の保持時間が3~10分などが挙げられる。
同様の理由でろう付後の表面Bi濃度は5.0%以上に調整することが一層望ましい。
【0038】
前記の表面Bi濃度は、ろう溶融直後にろう付炉から取り出したブレージングシート、または、ろう付後のブレージングシートについて、グロー放電発光分析(GD-OES)によりブレージングシートの表面方向(RD-TD)から内部方向にスパッタしながら深さ方向の元素分布を取得し、前記酸化皮膜中のBi濃度分布で最も高い濃度を示す部位を表面Bi濃度と定義する。
【0039】
「心材(心材層)」
本実施形態のブレージングシートにおける心材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
心材は、一例として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~ 0.5%およびZn:0.1~9.0%の内、1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成できる。
【0040】
Si:0.05~1.2%
Siは、固溶により材料強度を向上させる他、MgSiやAl-Mn-Si化合物として析出し材料強度を向上させる効果がある。但し、Siの含有量が過小であると、効果が不十分となる。一方、Siの含有量が過大であると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にSiを含有させる場合、Si含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Si含有量を下限で0.1%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Siを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%未満含有するものであってもよい。
【0041】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、Siなどとの化合物が析出することで材料強度を向上させる。一部はろう材に拡散し、酸化皮膜(Al)を還元分解する。ただし、Mgの含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、Mgを過大に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、心材にMgを含有させる場合、Mg含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mg含有量を、下限で0.05%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Mgを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0042】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、金属間化合物として組織に析出し、材料強度を向上させる。さらに固溶により材料の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、Mnの含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、Mgを過大に含有すると、材料が硬くなり素材圧延性が低下する。これらのため、Mnを含有させる場合、Mn含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mn含有量を下限で0.3%、上限で1.8%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えばMnを0.1%未満含有するものであってもよい。
【0043】
Cu:0.01~2.5%
Cuは、Alに固溶して材料強度を向上させる。ただし、Cuの含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、Cuを過大に含有すると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にCuを含有させる場合、Cu含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Cu含有量を下限で0.02%、上限で1.2%とするのが望ましい。なお、Cuを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0044】
Fe:0.05~1.5%
Feは、金属間化合物として組織に析出し、材料強度を向上させる。さらに、ろう付時の再結晶を促進させ、ろう侵食を抑制する。ただし、Feの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、ろう付後の腐食速度が速くなる。これらのため、心材にFeを含有させる場合、Fe含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Fe含有量を下限で0.1%、上限で0.6%とするのが望ましい。なお、Feを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%未満含有するものであってもよい。
【0045】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、Zrの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にZrを含有させる場合、Zr含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zr含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Zrを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0046】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、Tiの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、Tiの含有量が過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にTiを含有させる場合、Ti含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Ti含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Tiを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0047】
Cr:0.01~0.5%
Crは、微細な金属間化合物を形成し、材料強度を向上させる。ただし、Crの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、Crの含有量が過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にCrを含有させる場合、Cr含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Cr含有量を下限で0.05%、上限で0.3%とするのが望ましい。なお、Crを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0048】
Bi:0.005~0.5%
Biは、一部がろう材層に拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させる。また、Biはろう付昇温過程で材料表面に濃化し、酸化皮膜の内部まで入り込むため、緻密な酸化皮膜の成長を阻害する。ろう溶融時には、ろう材中のMgにより酸化皮膜中のAlが還元分解するが、Biが入り込み酸化皮膜が脆弱になっているため、酸化皮膜が破壊され易くなる。ただし、Biの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、Biの含有量が過大であると効果が飽和するとともに、ろう材表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、心材にBiを含有させる場合、Bi含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.3%とするのが望ましい。なお、Biを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%未満含有するものであってもよい。
【0049】
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮する。ただし、Znの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、Znの含有量が過大であると効果が飽和する。これらのため、心材にZnを含有させる場合、Zn含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zn含有量を下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。なお、Znを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%未満含有するものであってもよい。
【0050】
「犠牲材(犠牲材層)」
本実施形態では、心材に犠牲材をクラッドしたアルミニウムブレージングシートとすることができる。本願発明における犠牲材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
犠牲材は、一例として、質量%で、Zn:0.1~9.0%、および、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~ 0.5%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
【0051】
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の自然電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮させ、クラッド材の耐孔食性を向上させるために犠牲材に添加される。Znの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、Znの含有量が上限超えであると電位が卑となりすぎて犠牲材の腐食消耗速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。
なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZn量を下限で1.0%、上限で8.0%とするのが望ましい。
【0052】
Si:0.05~1.2%
Siは、Al-Mn-Si、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織に析出し、腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。Siの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、Siの含有量が上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。
なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるSi量を下限で0.3%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Siを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%未満含有するものであってもよい。
【0053】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、酸化皮膜を強固にすることで耐食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると材料が硬くなりすぎて圧延性が低下する。
なお、同様の理由で、Mg含有量を下限で0.05%、上限で1.5%とするのが望ましい。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMg量を下限で0.1%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Mgを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0054】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、Al-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。
なお、同様の理由で、下限で0.4%、上限で1.8%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%未満含有するものであってもよい。
【0055】
Fe:0.05~1.5%
Feは、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織に析出し、腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。Feの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、Feの含有量が上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。
なお、同様の理由で、Feの含有量に関し、下限で0.1%、上限で0.7%とするのが望ましい。なお、Feを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%未満含有するものであってもよい。
【0056】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、Al-Zr系金属間化合物として組織に析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Zrの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。Zrの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。
なお、同様の理由で、下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。なお、Zrを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0057】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、Al-Ti系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Tiの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。Tiの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。
なお、同様の理由で、下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。なお、Tiを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0058】
Cr:0.01~0.5%
Crは、Al-Cr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや固溶Crの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。Crの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、Crの含有量が上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。
なお、同様の理由で、Crの含有量は、下限で0.1%、上限で0.4%とするのが望ましい。なお、Crを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%未満含有するものであってもよい。
【0059】
Bi:0.005~0.5%
Biは、溶融ろうが犠牲材表面に接触した際に溶融ろうに拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させる。また、ろう付昇温過程で材料表面に濃化し酸化皮膜まで入り込むため、緻密な酸化皮膜の成長を阻害する。ろう付中は、犠牲材中のMg、および、または、ろう溶融時のろう材中のMgにより酸化皮膜中のAlが還元分解するが、Biが入り込み酸化皮膜が脆弱になっているため、酸化皮膜が破壊され易くなる。ただし、Biの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.3%とするのが望ましい。ただし、Biを積極的に添加しない場合でも、不可避不純物として、例えばBiを0.005%未満含有するものであってもよい。
【0060】
本実施形態に係るアルミニウムブレージングシートに用いるアルミニウム合金材は、例えば以下の方法により製造することができる。
ろう材用アルミニウム合金として、質量%で、Mgを0.01~2.0%、Siを1.5~14.0%、Biを0.005~0.5%含有し、所望により、質量%で0.1~9.0%のZnを含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成のAl-Si-Mg-Bi系ろう材を調製する。このとき、アルミニウム合金溶湯に対し、不純物Caが50質量ppm以下となるように、塩素ガス吹込みによる溶湯処理などで調整する。
【0061】
なお、ろう材用アルミニウム合金には、他の元素として各2.0%以下ただし合計でも2.0%以下のIn、Sn、Mnの少なくとも1種または2種以上、各1.0%以下ただし合計でも1.0%以下のFe、Ni、Ce、Seの少なくとも1種または2種以上、各0.3%以下ただし合計でも0.3%以下のBe、Na、Sb、Ti、Zr、P、S、K、Rbの少なくとも1種または2種以上などを含有してもよい。また、前記ろう材は、ブレージングシートの最表層に位置するものであり、その内層に、組成の異なるろう材を有するものであってもよい。すなわち、ろう材は複数層からなるものとしてもよい。
内層のろう材を有する場合、内層のろう材の組成は特に限定されるものではないが、例えば、Al-Si系ろう材、Al-Si-Zn系ろう材などを挙げることができる。
【0062】
また、心材用アルミニウム合金として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~0.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなる組成に調整する。
【0063】
なお、フッ化物系フラックスを使わないフラックスフリーろう付においては、Mgとの反応によるフラックスの不活性化が生じないため、材料の高強度化に有効なMgを心材に積極的に添加することができる。このとき、Mg単体で含有するよりもSiと共存させ、微細なMgSi粒子を時効などで析出させることで大幅な強度向上が見込めるため、Mg、Siを心材に含有させる必須元素とすることが有効である。
【0064】
さらに、犠牲材を用いる場合は、犠牲材用アルミニウム合金として、例えば、質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~0.5%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなる組成に調整する。
【0065】
本形態の組成に調製してアルミニウム合金を溶製する。該溶製は半連続鋳造法によって行うことができる。
本形態では、ろう付前時点で微細なMg-Bi化合物を分散させるため、ろう材の鋳造時に高い溶湯温度から急冷することでMgとBiを鋳塊内で過飽和に固溶させる。具体的には、溶湯温度を700℃以上とし、鋳造時の冷却速度を速くすることでMgとBiの固溶度を高めることができる。
得られたアルミニウム合金鋳塊に対し、所定条件で均質化処理を行う。均質化処理温度が低いと粗大なMg-Bi化合物が析出し、ろう付前時点で本発明のMg-Bi化合物の分布状態が得られにくくなるため、処理温度400℃以上で1~10時間行うことが望ましい。
【0066】
また、本形態では、ろう材に含まれるMg-Bi化合物粒子であって、円相当径で0.01μm以上5μm未満の径をもつMg-Bi化合物粒子が、ろう材最表面から10μm深さ以内の10000μm視野あたり10個以上有することが望ましい。
本形態のブレージングシート作製に当り、クラッド前のろう材を準備する際には、前記鋳造条件の他、熱間圧延時の一度の圧下率を大きくすることでMg-Bi化合物粒子を微細に破砕する。
【0067】
次に、前記組成のアルミニウム合金のろう材を前記組成のアルミニウム合金の心材などと組み付けて熱間でクラッド圧延するが、このとき、本形態では、熱延時の所定温度での圧延時間、熱延開始から終了までの相当ひずみ、熱延仕上げ温度、熱延後の冷却速度、冷延時の圧下率を制御し、微細Mg-Bi化合物粒子を所定のサイズと数密度に調整する。
【0068】
先ず熱延時所定の温度域での圧延時間を満たすことで、本実施形態で定義する所定サイズのMg-Bi化合物粒子の析出を動的ひずみが入る環境下で促進する。具体的には、熱延時の材料温度が400~500℃の間の圧延時間を10min以上とすることで微細なMg-Bi化合物粒子の析出を促進する。
【0069】
また、熱延開始から終了までの相当ひずみを制御することで、鋳造時に生成した粗大なMg-Bi晶出物を破砕し微細化することができる。具体的には、以下の式(1)で示す相当ひずみεが、ε>5.0となるようにスラブ厚みや仕上げ厚みを調整することでMg-Bi晶出物を十分に微細化することができる。
ε=(2/√3)ln(t/t)・・・式(1)
:熱延開始厚み(スラブ厚み)
t:熱延仕上げ厚み
【0070】
さらに、熱延の仕上げ温度が高く、動的ひずみがない状態が維持されることや、熱延後の冷却速度が遅くなると、結晶粒界などに本実施形態が目的とするよりも粗大なMg-Bi化合物粒子が析出するため、熱延仕上げ温度を所定温度まで低くし、一定以上の冷却速度を確保することで粗大なMg-Bi化合物粒子の析出を抑制する。具体的には、熱延仕上げ温度を250~350℃とし、仕上げ温度から200℃までの冷却速度を-20℃/hrよりも早くなるように制御することで粗大なMg-Bi化合物の析出を抑制する。
また、熱間圧延時の圧延に関しては、なるべく低圧下での多パス圧延を行うことが好ましい。1パス当たりの圧延率を低くすることで、圧延ひずみが表層付近に集中しやすくなり、せん断ひずみが導入されやすくなる。そのため、表層付近における動的析出が促進される。また、晶出物の破砕・微細化が促進される。
【0071】
また、冷延工程では、材料板厚に対し低い圧下率による圧延を少なくとも一度は行う。圧下率を低くすると材料表層部にひずみが集中しやすくなり、その後の熱処理時にろう材表層部に微細Mg-Bi粒子が析出し易くなる。具体的には、圧下率25%以下の比較的低い冷間圧延を少なくとも1度は行い、その後、200~400℃の焼鈍を行うことでろう材最表面から10μm深さまでのMg-Bi粒子を微細に析出させる。なお、材料作製時に熱処理を行わない場合でも、ろう付昇温過程でろう材表層部に微細Mg-Bi粒子を析出できるため、低い圧下率による冷延後の材料作製工程中で熱処理を行わないものとしてもよい。
熱間圧延、冷間圧延を行って心材の一方または両方の面にろう材が重ね合わされて接合されたクラッド材を得る。
前記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金からなる心材2の一方の面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のアルミニウムブレージングシート1が得られる。なお、図1では、心材2の片面にろう材3がクラッドされているものが記載されているが、心材2の両面にろう材がクラッドされているものであってもよい。また、心材2の他の面に犠牲材10などがクラッドされているものであってもよい。
【0072】
更に、ろう材3は2層以上の複層構造であって良く、例えば図1に示すように最表面に位置する第1のろう材3Aとその下に位置する第2のろう材3Bからなる2層構造を採用しても良い。この場合、上述のBi濃度の条件を満たすAl-Si-Mg-Bi系ろう材から第1のろう材3Aを構成すれば良い。また、第1のろう材3Aと第2のろう材3Bについては、心材2の両面に形成されていても良い。例えば、犠牲材10の外側に第1のろう材3Aと第2のろう材3Bが積層された構造を採用できる。
ろう付対象部材4として、例えば、質量%で、Mg:0.1~0.8%、Si:0.1~1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成などのアルミニウム合金を調製し、適宜接合部材に加工される。なお、本発明としては、ろう付対象部材の組成が特に限定されるものではない。
【0073】
前記冷間圧延などによって熱交換機用のフィン材を得た場合には、その後、必要に応じてコルゲート加工などを施す。コルゲート加工は、回転する2つの金型の間を通すことによって行うことができ、良好に加工を行うことを可能とし、優れた成形性を示す。
【0074】
前記工程で得られたフィン材は、熱交換器の構成部材として、他の構成部材(チューブやヘッダーなど)と組み合わされた組み付け体として、ろう付に供される。
前記組み付け体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性ガスには窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa~0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5~100Pa程度陽圧としてもよい。これらの圧力範囲は、本発明における「減圧を伴わない」の範囲に含まれる。
【0075】
加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付組み付け体の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で100ppm以下が望ましい。
【0076】
前記雰囲気下で、例えば、昇温速度10~200℃/minで加熱して、組み付け体の到達温度が559~630℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくとも前述のアルミニウム合金製ろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にすると、ろう浸食が進み易く、ろう付後の組み付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0077】
図2は、前記アルミニウムブレージングシート1を用いてフィン6を形成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のチューブ7を用いたアルミニウム製熱交換器5を示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダプレート9と組み付け、上述のろう付け炉に収容し、ろう付け温度に加熱後冷却することにより、フラックスフリーろう付によって自動車用などのアルミニウム製熱交換器5を得ることができる。
【0078】
図3は、フィン11の湾曲部とチューブ12との間に形成されたフィレットからなる接合部13の幅W(フィン6の湾曲部頂点とチューブ12の接点部分を挟むようにチューブ7の長さ方向に沿って存在するフィレットの全幅)を示す。
図3は接合部10の幅Wが大きく形成された例と小さく形成された例について、左右に対比して示す。
図3に示すように接合部10の幅Wが大きいならば、良好なろう付け接合ができたこととなる。
本実施形態に係るブレージングシート1からなるフィン6を用いてろう付け接合し、製造された熱交換器5であるならば、ろう付け接合部分に十分に大きなフレットを形成できるので、良好なろう付け接合部分を有する熱交換器5を提供できる。
【0079】
なお、本実施形態のブレージングシートにおいては、必要に応じて、アルカリまたは酸を用いてその表面をエッチングしても差し支えない。エッチングすることで、熱間圧延や焼鈍などの材料製造工程中に生成した酸化皮膜を除去することができ、その結果、ブレージングシートのろう付性をさらに向上させることができる。
エッチングを行うタイミングは、熱間圧延後であれば、ブレージングシートを用いてろう付熱処理を行うまでの間であればいつでも良く、ブレージングシートの製造後にエッチングしても良いし、ブレージングシートを素材として部品加工した後に行ってもよい。
【0080】
エッチングに用いるエッチング液の組成やエッチングの条件は特に限定されることはないが、エッチングによりブレージングシートの表層が0.05~3μm程度除去されていることが望ましい。
アルカリによるエッチングの場合には水酸化ナトリウム水溶液、酸によるエッチングの場合には、硫酸、硝酸、塩酸などの水溶液を使用することができる。
ブレージングシートの表層を0.05~3μm程度除去することで、ブレージングシートの最表面に位置するAl-Si-Mg-Biろう材表面の不要な酸化皮膜を除去することができ、清浄なAl-Si-Mg-Biろう材をブレージングシートの最表面に露出させることができる。また、Mg-Bi化合物が表面に露出することで、Bi濃化が促進される。これらの効果によって、ろう付性をさらに向上させることができる。
【実施例0081】
表1~表12に示す組成(心材、ろう材、犠牲材;残部がAlと不可避不純物)の各種ブレージングシートを表13に示す鋳造条件、熱間圧延条件にて熱間圧延板から作製した。なお、犠牲材成分を「-」で示した供試材は、犠牲材を用いていないものである。
その後、中間焼鈍を含む冷間圧延によって、H14相当調質の0.30mm厚の冷間圧延板を作製した。なお、各層のクラッド率は、ろう材10%、犠牲材15%とした。また、ろう付対象部材としてA3003合金、H14のアルミニウムベア材(0.06mm厚)のコルゲートフィンを用意した。
【0082】
「ろう付前のろう材表面の酸化皮膜厚さ」
作製した各アルミニウムブレージングシートについて、グロー放電発光分析(GD-OES)によりブレージングシートの表面方向(RD-TD)から内部方向にスパッタしながら深さ方向の元素分布を示す図を取得し、最表面からO量(酸素量)を示す線と最表面からAl量を示す線が交差する点までの最表面からの距離をろう付け前のろう材表面の酸化皮膜厚さとして測定した。ブレージングシート表面の5箇所において同様に酸化皮膜の厚さを測定し、それらの平均値を表1、表4、表7、表10に示した。
【0083】
「ろう材表層部における円相当径0.01~5.0μmの微細Mg-Bi系化合物粒子の数」
作製したアルミニウムブレージングシートについて、圧延方向に平行な断面(RD-ND)を作製し、0.1μmの砥粒で鏡面処理し、ろう材層の最表面から10μm深さまでの範囲をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で全自動粒子解析を行った。EPMAは、日本電子製JXA-8530Fを用い、解析ソフトは、JXA-8530Fに付随の粒子解析プログラムを用いた。観察倍率は1000倍、加速電圧は15kVとしている。
なお、X線発生領域は化合物サイズよりも広いため、マトリックスの固溶Mgを拾ってしまって、単体BiをMg-Bi系化合物と誤認してしまう懸念がある。そのため、別途、晶析出物が無い領域を分析し、固溶Mg濃度を特定し(例えば、晶析出物がない領域をN=10で分析して平均Mg濃度を算出する)、特定された固溶Mg濃度<化合物のMg濃度となっている化合物をMg-Bi系化合物と定義した。
【0084】
さらに、1μm以下の微細な化合物粒子を測定するため、切出したろう材層の圧延方向に平行な断面(RD-ND)を機械研磨し、および電解研磨を施して薄膜を作製した、
この薄膜に対し、TEM(透過型電子顕微鏡)とEDS(エネルギー分散型X線分光)分析によって、Mg-Bi化合物を計測した。
TEMにより、ろう材層の最表面から10μm深さまでの範囲を10000μm(100μm角)相当観察し、円相当径0.01~5.0μmの微細Mg-Bi系化合物粒子数をカウントした。観察倍率10000倍(特に微細なものは50000倍)としている。EDSによる成分分析でMg-Bi化合物か否かが不明確な場合は、必要に応じてSAED(制限視野電子回折)解析も併用した。
各測定はアルミニウムブレージングシートにおいて5箇所測定し、測定結果の平均値を表1、表4、表7、表10に示した。
【0085】
前記アルミニウムブレージングシートを用いて幅25mmの扁平型のチューブを製作し、該チューブとコルゲートフィンを該チューブろう材とコルゲートフィンが接するように組み合わせ、ろう付評価モデルとしてチューブ15段、長さ300mmのコアを作製した。前記コアを、窒素雰囲気中(酸素含有量20ppm)のろう付炉にて、600℃まで加熱して5分間保持し、常温まで冷却後に得られた各コア試料のろう付状態を評価した。評価の基準を以下に示す。
【0086】
「ろう付性」
フィンの接合率を以下の式で求め、各コア試料間の優劣を評価した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100
判定は以下の基準によって行い、その結果を表14~表17に示した。
ろう付後のフィン接合率
◎:98%以上、○:90%以上98%未満、△:80%以上90%未満、
×:80%未満。
【0087】
「接合部フィレット長さ」
ろう付けした各コア試料の一部を切り出し、樹脂に包埋、鏡面研磨し、光学顕微鏡を用いて接合部におけるフィレット長さを測定した。計測方法は、図3に示す接合部13の幅Wを各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。判定は以下の基準とし、表14~表17に示した。
◎:1.0mm以上、○:0.8mm以上1.0mm未満、
△:0.6mm以上0.8mm未満、×:0.6mm未満。
【0088】
「ろう付後の強度」
各ブレージングシートをドロップ形式で炉に設置し、前記ろう付条件にてろう付相当熱処理を行った。その後、サンプルを切り出し、JIS Z2241に準拠した方法により、室温にて引張試験を実施して引張強さを評価し、その結果を表14~表17にろう付後強度として示した。ろう付後強度の評価は以下の基準とし、表14~表17に示した。
◎:145MPa超、○:140~145MPa、×:140MPa未満。
【0089】
「ろう溶融開始温度、または、ろう付後のろう材表面のBi濃度」
ろう溶融直後、または、ろう付後にろう付炉から取り出した各ブレージングシートについて、グロー放電発光分析(GD-OES)によりブレージングシートの表面方向(RD-TD)から内部方向にスパッタしながら深さ方向の元素分布を取得し、前記酸化皮膜中のBi濃度分布で最も高い濃度を示す部位を表面Bi濃度として測定した。測定は各ブレージングシートにおいて5箇所について行い、平均値を求め、表14~表17に示した。
【0090】
「耐食性」
犠牲材を有するブレージングシートをドロップ形式で炉に設置し、前記ろう付条件にてろう付相当熱処理を行った。その後、各ブレージングシートを30mm×80mmのサイズに切り出し、犠牲材面以外をマスキングしたのち、SWAAT(Sea Water Acetic Acid.Test,ASTMG85-A3)に40日間供した。腐食試験後のサンプルはリン酸クロム酸によって腐食生成物を除去し、最大腐食部の断面観察を行って腐食深さを測定した。判定は以下の基準とし、表14~表17に示した。
◎:犠牲材層内、○:板厚の半分以内、△:貫通なし、×:貫通。
以上の結果を以下の表1~表17に記載する。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【0103】
【表13】
【0104】
【表14】
【0105】
【表15】
【0106】
【表16】
【0107】
【表17】
【0108】
供試材No.1~120は、表14~表16に示すようにろう付後表面Biの濃度が1.0質量%以上の実施例であるが、いずれも、ろう付けの接合率が高く、ろう付け接合部のフィレット長さも良好であった。また、これら供試材のろう付け強度も十分であると考えられる。
【0109】
供試材No.92~96、100は、表7に示すように、0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi系化合物粒子が10個未満存在する実施例の供試材であるが、他の供試材よりフィレット長さが若干短くなっている。
供試材No.98、99は、表7に示すように、ろう付け前酸化皮膜厚さが20μmを超えた供試材であるが、表16に示すように他の実施例供試材より接合率が若干低くなっている。
【0110】
供試材No.92~99は、表13に示す製造条件において、鋳造条件溶湯温度、均質化条件温度、400~500℃の圧延時間、クラッド時の熱間圧延条件としての相当ひずみ、仕上げ温度、冷却速度、最も低い圧延率、中間焼鈍温度、時間のうち、いずれかを望ましい範囲から外した条件とした場合の実施例である。
これらの供試材を表13に示す条件にて望ましい範囲から外れた場合、微細Mg-Bi系化合物粒子数が少なくなる傾向となる。
【0111】
供試材No.121、122、126は、表10に示すように、0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi系化合物粒子が10個未満であるが、表17に示すように、ろう付け後表面Bi濃度が1.0%未満の比較例であるが、表17に示すように接合率とフィレット長さのいずれかまたは両方において、必要な特性が得られなかった。
供試材No.123は、表10に示すように、Mg含有量が望ましい範囲から外れると、表17に示すように製作不可となる。
比較例127はろう付性などの特性は優れるが、Bi量が0.8%と多く含有されているため製造時の歩留まりが悪く、工業的にはNG判断となった。
【0112】
供試材No.128~136は、表11に示すように、心材組成を望ましい組成範囲から外した試料であるが、表17に示すように、製作不可となるか、接合率とフィレット長さのいずれかが目的の性能とならない。
供試材No.136~145は、表12に示すように、犠牲材組成を望ましい組成範囲から外した試料であるが、表17に示すように、製作不可となるか、目的の耐食性が得られなかった。
【0113】
次に、表1に示す実施例No.3、8、21の試料に対してエッチング処理を実施した。
具体的には最終材に対して、アルカリエッチング(50℃に加熱した5%NaOH溶液に30s浸漬し、その後デスマット処理(室温の30%HNO溶液に60s浸漬)を施した。
その結果以下に示す結果が得られた。
実施例No.3…ろう付後表面Bi濃度18%、ろう溶融開始時表面Bi濃度1.7%、フィレット長さ◎
実施例No.8…ろう付後表面Bi濃度48%、ろう溶融開始時表面Bi濃度4.5%、接合率◎
実施例No.21…ろう付後表面Bi濃度19%、ろう溶融開始時表面Bi濃度1.8%、フィレット長さ◎
実施例3、8、21の試料にエッチング処理を施すことで、フィレット長さが向上するか接合率が向上した。このため、上述の試料にエッチング処理を施すことでろう付性を更に向上できることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係るブレージングシートは、空調設備の室内機、室外機などの熱交換器あるいは自動車用熱交換器などのろう付けに広く用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1…アルミニウムブレージングシート、2…心材、3…ろう材、3A…第1のろう材、3B…第2のろう材、4…ろう付け対象部材、5…アルミニウム製熱交換器、6…フィン、7…チューブ、11…フィン、12…チューブ、13…接合部、W…接合部13の幅。
図1
図2
図3
図4