(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142960
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】落石防護及び雪崩予防共用柵
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
E01F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043257
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】小関 和廣
(72)【発明者】
【氏名】今井 真実
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001PA05
2D001PA06
2D001PB04
2D001PC03
2D001PD06
2D001PD11
(57)【要約】
【課題】落石のエネルギーを効率的に吸収することができ、落石防護と雪崩予防の両方の機能を併せ持つ防護柵としてより好適な、落石防護及び雪崩予防共用柵の提供。
【解決手段】両端部において立設される端末支柱11と、端末支柱11に対して固定されて端末支柱11間において展開される金網13と、端末支柱11の間に配される中間支柱12と、中間支柱12との間で金網13を摺動可能に配置させる面材摺動保持部材14と、を備えることを特徴とする、落石防護及び雪崩予防共用柵1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部において立設される端末支柱と、
前記端末支柱に対して固定されて前記端末支柱間において展開される面材と、
前記端末支柱の間に配される中間支柱と、
前記中間支柱との間で前記面材を摺動可能に配置させる面材摺動保持部材と、
を備えることを特徴とする、落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項2】
前記面材摺動保持部材が、前記面材に対する摺動力を調整する、摺動力調整機構を備えることを特徴とする、請求項1に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項3】
前記摺動力調整機構が、前記面材摺動保持部材と前記中間支柱との間で前記面材を押圧する押圧力を調整することを特徴とする、請求項2に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項4】
前記落石防護及び雪崩予防共用柵が斜面若しくはその近傍に設けられ、前記面材摺動保持部材が、前記中間支柱に対して斜面上方側に配されていることを特徴とする、請求項3に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項5】
前記摺動力調整機構が、積雪による雪圧を受けた際に弾性変形する弾性部材で前記面材摺動保持部材が形成されることによって構成され、前記面材摺動保持部材が弾性変形することによって前記面材摺動保持部材と前記中間支柱との間で前記面材を押圧することを特徴とする、請求項4に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項6】
前記摺動力調整機構が、前記面材摺動保持部材が前記中間支柱に対して摺動可能に取り付けられることによって構成され、前記面材摺動保持部材が積雪による雪圧を受けた際に移動し、前記中間支柱との間で前記面材を押圧することを特徴とする、請求項4に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項7】
前記中間支柱と前記面材摺動保持部材の間の間隔を広げる方向への付勢力を生じさせる付勢部材を備えることを特徴とする、請求項6に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項8】
前記面材摺動保持部材に、積雪との接触面積を増加させる雪圧力受け面部材が取り付けられていることを特徴とする、請求項5から7の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項9】
前記面材摺動保持部材の前記面材と対向する面に、凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1から8の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【請求項10】
前記端末支柱と前記中間支柱の間又は前記中間支柱間において、上部梁部材を設け、前記上部梁部材に対して前記面材が摺動可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から9の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防護柵及び雪崩予防柵として共用可能な柵に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地等において道路や家屋等を落石等から保護するために、保護対象である道路や家屋等より斜面側に設置される防護柵(落石防護柵)が用いられている。一般的な落石防護柵は、支柱、ワイヤロープ、金網で構成される上部材を、コンクリート基礎で支持する構造であり、これにより、斜面上方からの落石を受け止め、災害を防止するものである。
このような落石防護柵が、非特許文献1によって開示されている。
また、落石のエネルギーの吸収能力のレンジをより広くできるように改良された落石防護柵に関する技術が、特許文献1や特許文献2によって開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/dou_ken/ud49g700000023a8-att/splaat0000003yer.pdf
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-85691号公報
【特許文献2】特開2019-85692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積雪のある地域では、傾斜地における落石防護の他、雪崩予防も必要であり、経済性の観点等から、落石防護と雪崩予防の両方の機能を1つの防護柵に持たせることが行われる場合がある。特許文献1及び2によって開示される防護施設も、落石防護柵及び雪崩予防柵として利用し得るものである。
【0006】
本発明は、落石のエネルギーを効率的に吸収することができ、落石防護と雪崩予防の両方の機能を併せ持つ防護柵としてより好適な、落石防護及び雪崩予防共用柵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(構成1)
両端部において立設される端末支柱と、前記端末支柱に対して固定されて前記端末支柱間において展開される面材と、前記端末支柱の間に配される中間支柱と、前記中間支柱との間で前記面材を摺動可能に配置させる面材摺動保持部材と、を備えることを特徴とする、落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0008】
(構成2)
前記面材摺動保持部材が、前記面材に対する摺動力を調整する、摺動力調整機構を備えることを特徴とする、構成1に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0009】
(構成3)
前記摺動力調整機構が、前記面材摺動保持部材と前記中間支柱との間で前記面材を押圧する押圧力を調整することを特徴とする、構成2に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0010】
(構成4)
前記落石防護及び雪崩予防共用柵が斜面若しくはその近傍に設けられ、前記面材摺動保持部材が、前記中間支柱に対して斜面上方側に配されていることを特徴とする、構成3に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0011】
(構成5)
前記摺動力調整機構が、積雪による雪圧を受けた際に弾性変形する弾性部材で前記面材摺動保持部材が形成されることによって構成され、前記面材摺動保持部材が弾性変形することによって前記面材摺動保持部材と前記中間支柱との間で前記面材を押圧することを特徴とする、構成4に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0012】
(構成6)
前記摺動力調整機構が、前記面材摺動保持部材が前記中間支柱に対して摺動可能に取り付けられることによって構成され、前記面材摺動保持部材が積雪による雪圧を受けた際に移動し、前記中間支柱との間で前記面材を押圧することを特徴とする、構成4に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0013】
(構成7)
前記中間支柱と前記面材摺動保持部材の間の間隔を広げる方向への付勢力を生じさせる付勢部材を備えることを特徴とする、構成6に記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0014】
(構成8)
前記面材摺動保持部材に、積雪との接触面積を増加させる雪圧力受け面部材が取り付けられていることを特徴とする、構成5から7の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0015】
(構成9)
前記面材摺動保持部材の前記面材と対向する面に、凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする、構成1から8の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0016】
(構成10)
前記端末支柱と前記中間支柱の間又は前記中間支柱間において、上部梁部材を設け、前記上部梁部材に対して前記面材が摺動可能に取り付けられていることを特徴とする、構成1から9の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【0017】
(構成11)
前記面材が金網であることを特徴とする、構成1から10の何れかに記載の落石防護及び雪崩予防共用柵。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、落石防護と雪崩予防の両方の機能を併せ持つ防護柵としてより好適な落石防護及び雪崩予防共用柵を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵の概略を示す正面図
【
図2】実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵の概略を示す側面図
【
図3】実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵の落石を受け止める状態を説明する概略平面図
【
図4】実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵が積雪を受け止める際の面材摺動保持部材の機能を説明する説明図
【
図5】実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵が積雪を受け止める際の面材摺動保持部材の機能を説明する説明図
【
図7】落石防護及び雪崩予防共用柵の別の例の概略を示す図
【
図8】落石防護及び雪崩予防共用柵の別の例の概略を示す図
【
図9】実施形態2の落石防護及び雪崩予防共用柵の、面材摺動保持部材の取り付け構造を示す図
【
図10】落石防護及び雪崩予防共用柵の、面材摺動保持部材の取り付け構造の別の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0021】
<実施形態1>
図1は、実施形態1の落石防護及び雪崩予防共用柵(以下、単に「共用防護柵」という)の概略を示す正面図(斜面下方側からみた図)である。
図2は、共用防護柵1の中間支柱12がある箇所における構成を側面側から見た図であり、その上端部付近と下端部付近を拡大した拡大図も示している。
本実施形態の共用防護柵1は、傾斜地等(斜面若しくはその近傍)において、道路や家屋等を落石等から保護するために、保護対象である道路や家屋等より斜面側に設けられる落石防護柵として機能し、同時に、雪崩の発生を抑止する雪崩予防柵としても機能するものである。
本実施形態の共用防護柵1は、両端部において立設される端末支柱11と、端末支柱11に対して固定されて両端の端末支柱間において展開される面材である金網13と、端末支柱11の間に配される中間支柱12と、中間支柱12との間で金網13を摺動可能に配置させる面材摺動保持部材14と、を備える。
【0022】
端末支柱11は、例えば、H形鋼等によって構成され、コンクリート基礎によって支持される。なお、端末支柱自体は必要な強度を有する任意のものを使用することができ、それを支持する構成(基礎)も必要な支持力を発生する任意のもの(例えばアンカーで支柱を支持するもの等)を使用することができる。
本実施形態では、端末支柱11に、支持部材111と、金網13を固結するための取り付け部材112が設けられている。
支持部材111は、落石を受け止めた際の衝撃によって金網13が引っ張られ、これにより端末支柱11が内側に倒れるように働く力に対して抗するための支持部材である。端末支柱自体(及び基礎)によって得られる強度が十分なものである場合には、必ずしも必要ない。
取り付け部材112は、H形鋼である端末支柱11のウェブに対してボルト止めされた鋼材であり、取り付け部材112に対して金網13の端部が固結される。本実施形態では、金網13が横展開(金網を構成する列線が垂直方向になるような配置)で、取り付け部材112を介して端末支柱11に対して取り付けられる。なお、取り付け部材112は、端末支柱に対して必要な強度を持って金網を固結することができる任意の構成を用いることができ、また、端末支柱に対して直接金網を固結するもの(別途の取り付け部材を設けないもの)であってもよい。
【0023】
中間支柱12は、本実施形態では角鋼管によって形成され、端末支柱11の間に、所定間隔(例えば、3m~10m毎)で配される。
図2に示されるように、中間支柱12は、金網13に対して斜面下方側に配される。以下でも説明するように、中間支柱12に対して金網13は固定されない。
なお、端末支柱と同様に、中間支柱自体は必要な強度を有する任意のものを使用することができ、それを支持する構成(基礎)も必要な支持力を発生する任意のもの(例えばコンクリート基礎や、アンカーで支柱を支持するもの等)を使用することができる。中間支柱は、共用防護柵1の全幅と、スパン(支柱間の間隔)に応じて定められる本数が設けられる。
【0024】
面材摺動保持部材14は、中間支柱12に対して斜面上方側に、中間支柱12と並列的に設けられ、
図2に示されるように、面材摺動保持部材14と中間支柱12との間に金網13が通される構成となる。
面材摺動保持部材14は、
図2に示されるように、本実施形態では中間支柱12に対して取り付けられている。中間支柱12に対する取り付けは、上端側の固定金物15Tと、下端側の固定金物15Bとによって行われる。固定金物15Tと固定金物15BはそれぞれL字状の金物であり、一端側が中間支柱に対して固定され、他端側に面材摺動保持部材14が固定され、面材摺動保持部材14と中間支柱12との間に間隔Sを形成する。間隔Sは金網13の厚さに対して同等以上に形成される。
端末支柱11に対して固結される金網13は、面材摺動保持部材14と中間支柱12との間を通され、面材摺動保持部材14と中間支柱12の何れに対しても金網13は固定されない。固定的な支持はされないが、金網13が面材摺動保持部材14と中間支柱12との間に配置される構成となるため、金網13が倒れることに対する支持はなされ、金網13の面材としての展開が十分になされる。
なお、本実施形態では、固定金物15T、15Bと、面材摺動保持部材14や中間支柱12との接合がボルト接合であるものを例としているが、それぞれの接合は必要な強度を有して接合できる任意の方法(例えば溶接等)を用いることができる。
【0025】
図3は、共用防護柵1において、落石を受け止める状態を説明する概略平面図である。
金網13は中間支柱12や面材摺動保持部材14に固定されておらず、間隔Sは金網13の厚さ以上に形成されているため、金網13が落石を受け止めた際、金網13は中間支柱12や面材摺動保持部材14に対してスライドすることができる。
即ち、金網13の全長に渡って効率的に落石の衝撃エネルギーが伝搬し、金網13の全長で衝撃エネルギーを吸収することができる(なお、衝突エネルギーによっては、必ずしも金網の全長にまで渡ってエネルギーが伝搬するものではない)。金網は、落石の衝撃エネルギーを受けた際に、その構造的な変形(目合いの変形等)や、金網を構成する素線自体の伸び等により、伸びが生じる。この際に生じる塑性変形や部材間の摩擦等によってエネルギーが消費され、これらによって衝突エネルギーが吸収されるものであるが、この効果を、金網の幅方向の全長に渡って発生させることができるものである。
従来の防護柵では、通常、中間支柱に対しても金網が直接または間接的に固定される構成であり、落石が当たった特定のスパンにのみ衝突エネルギーが集中するため、これに耐え得るだけの強度が各部材に必要になるものであるが、本実施形態の共用防護柵1によれば、柵全体でエネルギーを吸収すること(エネルギーを分散すること)が可能であるため、各部材のスペックを抑えることも可能になるという、優れた効果を得られる。
【0026】
一方で、雪崩予防柵として、積雪を留め置くようにする場合においては、金網13が自由にスライドすると、不都合が生じる場合がある。
自然環境における積雪は、地形等の影響によって必ずしも均一ではない。例えば吹き溜まりによって局所的に積雪量が多くなる場合がある。このような偏りが生じると、
図4(a)に概念的に示したように、降雪の初期段階で特定のスパンのみに荷重が加わり、これにより該当スパンにおいて、金網が大きく撓む場合がある。更に降雪が進むと、先に大きく撓んだスパンに更に積雪荷重を受けることで部材の破損に繋がるおそれがある。
このような問題に対し、本実施形態の共用防護柵1では、面材摺動保持部材14が、中間支柱12との間で金網(面材)13を押圧する押圧力を調整することで、金網13に対する摺動力を調整する、摺動力調整機構を備えることで、積雪の偏りによって特定スパンで金網が大きく撓むことを低減することができるようにしている。
【0027】
図4(b)及び
図5は、面材摺動保持部材14の摺動力調整機構について説明するための概略図である。
本実施形態の面材摺動保持部材14は、積雪時の雪圧によって弾性変形する弾性部材で形成されており、中間支柱12との間で金網13を押圧することで、金網13のスライド(特定スパンで金網が大きく撓むこと)を低減させる機能を有する。なお、面材摺動保持部材14は弾性的に撓むものであればよく、例えば角パイプやフラットバー及び丸棒等であってよい。
図5に示されるように、降雪により積雪SCが増加する課程で、面材摺動保持部材14に雪圧による荷重が徐々に伝わる。面材摺動保持部材14の中間部は固定されていないため、荷重を受けた面材摺動保持部材14の中央部に撓みが発生し、金網13を挟み込む形となって中間支柱12に金網13を押し付ける。金網13を固定する力は、積雪SCが多くなるにつれて強くなり、
図4(b)に示されるように、金網13の各スパンでの撓みを均一化させる機能となる。
面材摺動保持部材14は、弾性部材であり、積雪SCがなくなれば撓みが元に戻るため、積雪SCが無い状態において落石や土砂などの荷重が発生した際、金網13がスライドする機能を妨げない構造となっている。即ち、落石防護と雪崩予防の両方をうまく機能させることができる。
なお、積雪時の金網を固定する力は、降雪初期~中期までの金網の撓みを均一に保つまでの強さ程度で、その後、降雪が多くなると各スパンの降雪がバランスを保つため、強固に固定する必要はない。
【0028】
以上のごとく、本実施形態の共用防護柵1によれば、落石のエネルギーを効率的に吸収することができ、また、積雪量に偏りが生じるような環境においても、特定のスパンで金網が大きく撓んでしまうことを低減できるため、落石防護と雪崩予防の両方の機能を併せ持つ防護柵としてより好適な、落石防護及び雪崩予防共用柵を提供することができる。
また、比較的部品点数が少なく、設置のための作業量も減少するため、低コストにて落石防護及び雪崩予防共用柵を提供することができる。
【0029】
なお、積雪時における面材摺動保持部材の金網に対するスライド抑制力を高めるために、面材摺動保持部材の金網(面材)と対向する面に、凸部又は凹部を形成するようにしてもよい。
図6には、そのようなものの例を示した。
図6(a)に示される面材摺動保持部材14-1は、金網13の目合いに合わせるように形成された凸部141を有している。これにより、面材摺動保持部材14-1が金網13に押し付けられた際に両者に係合力が生じ、金網13のスライドがより抑制される。
図6(b)に示される面材摺動保持部材14-2は、金網13の目合いに合わせるように形成された凹部142を有している。これにより、面材摺動保持部材14-2が金網13に押し付けられた際に両者に係合力が生じ、金網13のスライドがより抑制される。
図6(a)、(b)に例示したように、金網の目合いに応じた凹凸とすることがより好ましいが、金網の目合いに対応していないものであっても、金網のスライドに対する抑制力を得ることはできる。このようなものの例として、
図6(c)に、面材摺動保持部材を異形棒鋼によって形成したものを示した。このような面材摺動保持部材14-3によっても、その凹凸によって金網のスライドに対する抑制力を向上することができる。
【0030】
また、積雪時における面材摺動保持部材の金網に対するスライド抑制力を高めるために、面材摺動保持部材に、積雪との接触面積を増加させる雪圧力受け面部材が取り付けるようにしてもよい。
例えば鋼板を面材摺動保持部材に取り付けて、正面視若しくは背面視(斜面下方側若しくは上方側からみた方向)の面積を増大させ、面材摺動保持部材により大きな雪圧による荷重がかかるようにすることで、金網のスライドに対する抑制力を高めるものである。
【0031】
面材摺動保持部材によって、金網の倒れに対する支持はなされるが、スパンを長くすると、金網自体の重さ若しくは金網に対する積雪による重さによって撓みが生じ、スパンの中央部において柵高が低下する場合がある。
これを抑止するために、端末支柱と中間支柱の間又は中間支柱間において、上部梁部材を設け、上部梁部材によって金網を支持(上部から吊るす)ようにしてもよい。
図7にはこのようなものの一例を示した。
図7に示される共用防護柵1-2では、端末支柱11と中間支柱12の間及び中間支柱12同士の間において、上部梁部材16がそれぞれ設けられ、この上部梁部材16に対して、金網(面材)13が、結合コイルCによって摺動可能に取り付けられている。
結合コイルCは、上部梁部材16と金網13を巻き付けて、金網13が自重や積雪の重さで撓んでしまうことを防止するだけの強度を有するが、落石による衝突エネルギーが加わった際には、結合コイルCの巻き付けが延びて解けたり破断したりする強度に構成される。これにより、落石時の金網13のスライド時に、中間支柱12と上部梁部材16が結合されている部分において、結合コイルCが引っかかってしまうことによって、落石時の金網13のスライドが制限されてしまうことが抑制される。
【0032】
金網13としては、落石防護柵及び雪崩予防柵としての仕様に応じて、それに応え得る任意の金網やその他面材を用いることができる。特許文献1や特許文献2によって開示されているエネルギー吸収面材やエネルギー吸収装置を利用することもできる。また、必要に応じて面材の上部や下部を補強する補強部材を設けるようにしてもよい。
図8にはこのようなものの一例を示した。
図8の共用防護柵1-3では、特許文献2で示されるエネルギー吸収構造を有する面材13-1を用いており、また、上部金網13-2と下部金網13-3を備えている。上部金網13-2と下部金網13-3は、上記説明した金網13と同様に、端末支柱に対して固結され、中間支柱や面材摺動保持部材に対しては固結されない。
【0033】
本実施形態では、面材摺動保持部材の上下端が中間支柱に対して取り付けられているものを例としているが、本発明をこれに限るものでは無く、例えば、上下端の何れか一方のみが中間支柱に対して固定されているようなものであってもよい。
また、本実施形態では、面材摺動保持部材が中間支柱に対して取り付けられるものを例としているが、本発明をこれに限るものでは無い。例えば、面材摺動保持部材が、中間支柱と並ぶようにして打設される支柱によって構成されてもよい。
【0034】
<実施形態2>
図9は、実施形態2の共用防護柵1-4の、面材摺動保持部材の取り付け構造(上部)を示す図である。
なお、共用防護柵1-4における、面材摺動保持部材の取り付け構造以外の部分については、実施形態1と同様の概念であるため、ここでの説明を簡略化若しくは省略する。
【0035】
本実施形態の共用防護柵1-4では、面材摺動保持部材14-1の取り付け構造として、中間支柱12に溶接などによって固定された摺動受容部15T-1を有する。
摺動受容部15T-1は、下部が解放されたボックス状の部材であり、
図9に示されるように、内部に面材摺動保持部材14-1の端部を収納して、これを保持する。摺動受容部15T-1は、面材摺動保持部材14-1が中間支柱12に近づく/離れる方向に摺動可能となるように、面材摺動保持部材14-1の端部を遊嵌する。なお、図示は省略しているが、面材摺動保持部材14-1の下端側の端部においても、同様の構成であり、摺動受容部15T-1を上下逆にした摺動受容部15B-1が中間支柱12に固定されている。
これにより、面材摺動保持部材14-1が、中間支柱12に近づく/離れる方向に摺動可能となるように中間支柱12に対して取り付けられ、積雪による雪圧によって面材摺動保持部材14-1が移動し、中間支柱12との間で金網13を押圧することで、金網13のスライドを抑制する。
【0036】
以上のごとく、本実施形態の共用防護柵1-4によれば、実施形態1と同様の作用効果を得られる。また、面材摺動保持部材として弾性部材(雪圧によって適切に撓む部材)に限らず、任意の部材を利用することができる(勿論、弾性部材を用いてもよい)。
【0037】
面材摺動保持部材14-1は、中間支柱12に近づく/離れる方向にフリーに摺動可能であり、積雪がなくなれば金網13を押さえつける力は無くなるため、積雪が無い状態において落石や土砂などの荷重が発生した際、金網13がスライドする機能を妨げることは基本的にないが、中間支柱と面材摺動保持部材の間の間隔を広げる方向への付勢力を生じさせる付勢部材を備えさせることで、積雪がなくなった際に、より積極的に面材摺動保持部材を中間支柱から離すようにしてもよい。
図10には、このようなものの一例を示した。
図10の共用防護柵1-5では、実施形態2の共用防護柵1-4の面材摺動保持部材の取り付け構造において、スプリング151によって、中間支柱と面材摺動保持部材の間の間隔を広げる方向への付勢力を生じさせるように構成している。
より具体的には、面材摺動保持部材14-2の摺動方向に沿って延在する軸部材152(ここでは例としてボルト部材によって構成)を設けている。面材摺動保持部材14-2には穴が形成されており、この穴に軸部材152が挿通されている。スプリング151は、中間支柱12と面材摺動保持部材14-2の間となる位置において、軸部材152を挿通して配されている。なお、摺動受容部15T-2の構成は、軸部材152であるボルトを締結させるためのボルト穴が形成されている以外は、基本的に摺動受容部15T-1と同様である。下端側の端部においても、上端側と同様の構成であり、摺動受容部15T-2を上下逆にした摺動受容部15B-2が中間支柱12に固定され、軸部材152やスプリング151が同様に配されている(なお、必ずしも付勢部材を上下両方に設ける必要は無く、何れか一方のみに設けるものであってもよい)。
上記構成を有する共用防護柵1-5は、雪圧を受けている場合には、スプリング151の弾性力を雪圧による荷重が上回り、金網13を挟み込む。一方、雪圧が無くなると、スプリング151の弾性力によって、面材摺動保持部材14-2が中間支柱12から離れるように摺動するため、金網13のスライドに対する抵抗がなくなるものである。
【0038】
なお、実施形態2においても、実施形態1で説明した各種の変形例(面材摺動保持部材への凹凸部の形成や、雪圧力受け面部材の取りつけ、上部梁部材の取り付け、面材としてのバリエーション等)を適用してよいことは勿論である。
【0039】
実施形態では、金網13が横展開(金網を構成する列線が垂直方向になるような配置)で端末支柱11に対して取り付けられるものを例としているが、金網が縦展開(列線が水平方向になるような配置)されるものであってもよい。
また、金網(面材)に加えて、適宜索体(ワイヤロープ等)が追加的に設けられるものであってもよい。
【0040】
面材摺動保持部材は、全ての中間支柱に対応して設けることが必要という訳では無い。例えば、端末支柱11に近い中間支柱に対しては、面材摺動保持部材を設けないようにするなどしてもよい。また、共用防護柵の設置環境において、予め積雪量が多くなる箇所がわかっているような場合には、その付近に設置される中間支柱に対してのみ面材摺動保持部材を設ける等してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1...落石防護及び雪崩予防共用柵
11...端末支柱
12...中間支柱
13...金網(面材)
14...面材摺動保持部材
141...凸部
142...凹部
16...上部梁部材
151...スプリング(付勢部材)