(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142988
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】変位抑制装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220926BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220926BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/08 P
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043296
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC19
2E139AD04
2E139BC08
2E139CA02
2E139CA24
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA03
3J048AC01
3J048AD11
3J048AD16
3J048BA24
3J048BE12
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】設置スペースを小さくしつつ、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる変位抑制装置を提供する。
【解決手段】変位抑制装置1は、下部部材3は、平面状に形成された下部滑り面32aが上部に設けられた下部基板部31と、下部周壁部36と、を有し、上部部材4は、平面状に形成された上部滑り面42aが下部に設けられた上部基板部41と、上部周壁部46と、を有し、摺動部材5は、下部滑り面32aに対して摺動可能であって平面状に形成された下部摺動面53aが設けられた下壁部53と、上部滑り面42aに対して摺動可能であって平面状に形成された上部摺動面55aが設けられた上壁部55と、下壁部53と上壁部55とを接続する接続部51と、を有し、摺動部材5が下部部材3及び上部部材4に対して摺動した場合に、摺動部材5は、下部周壁部36及び上部周壁部46に当接可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と該下部構造体に対して相対的に移動可能な上部構造体との間に設置される変位抑制装置であって、
下部部材と、
上部部材と、
前記下部部材と前記上部部材との間に配置され、前記下部部材及び前記上部部材に対して摺動可能な摺動部材と、を備え、
前記下部部材は、
平面状に形成された下部滑り面が上部に設けられ、前記下部構造体に固定される下部基板部と、
該下部基板部から上方に延びる下部周壁部と、を有し、
前記上部部材は、
平面状に形成された上部滑り面が下部に設けられ、前記上部構造体に固定される上部基板部と、
該上部基板部から下方に延びる上部周壁部と、を有し、
前記摺動部材は、
前記下部滑り面に対して摺動可能であって平面状に形成された下部摺動面が設けられた下壁部と、
前記上部滑り面に対して摺動可能であって平面状に形成された上部摺動面が設けられた上壁部と、
前記下壁部と前記上壁部とを接続する接続部と、を有し、
前記摺動部材が前記下部部材及び前記上部部材に対して摺動した場合に、前記摺動部材は、前記下部周壁部及び前記上部周壁部に当接可能である変位抑制装置。
【請求項2】
前記接続部の外周面には、緩衝材が設けられている請求項1に記載の変位抑制装置。
【請求項3】
前記下部周壁部及び前記上部周壁部の内周面には、緩衝材が設けられている請求項1または2に記載の変位抑制装置。
【請求項4】
前記接続部は、上下方向を軸線方向とする円柱状に形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の変位抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、免震構造物は、大地震時に構造物の被害を防止するだけでなく、居住者の安心感を確保し設備を維持できるという優れた特徴をもつ。しかし、想定外の大地震が生じると、建物がクリアランス(設計上の可動範囲)を超えて揺れ、建物の一部が擁壁に衝突したり、免震装置が破損して支持能力を失ったりする恐れがある。このような状態を防止するフェールセーフ機構として、衝突緩衝ゴムを用いた過大変位抑制装置(例えば、下記の特許文献1,2参照)が用いられている。しかし、これらの過大変位抑制装置は、大きな設置スペースを要するという問題点があった。
【0003】
一方、比較的設置サイズの小さいすべり支承として、球面すべり支承(FPS,SSB)が知られている。これは、球面状の凹みが形成されたすべり面を有する上下のコンケイプレート(すべり面を有するプレート)の間にスライダー(又は可動子)を挟んだ構造である。スライダーの上下面とコンケイプレートのすべり面との間ですべりが生じるため、スライダーと上下コンケイプレートとの間に生じる相対すべり量は免震層変位の半分ですむという特徴を有している。また、すべり面が1つだけの場合と比較すると、免震装置の設置に必要とされるスペースが小さくなる特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-77229号公報
【特許文献2】特開2020-193672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の球面すべり支承において、上下の球面状のすべり面に挟まれて摺動するスライダーや可動子は、軸力(鉛直荷重)を円滑に伝達しつつ、すべり面で生じる摩擦力が水平せん断力として作用する部材となる。すべり面で生じる摩擦係数μ=0.01~0.05程度と小さく、軸力でサイズが決定される(すべり面に作用する面圧から必要平面寸法が求まる)。このように、球面すべり支承では、スライダーや可動子に大きなせん断力を負担するシアキーのような使い方をすることはなかった。
【0006】
特許文献1に記載の建物の一部が擁壁に衝突する仕様では、1方向にしか変位抑制できない。特許文献2に記載の免震上部構造から束材を延長してリング状のストッパーに衝突する仕様では、大きな設置スペースを要する問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、設置スペースを小さくしつつ、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる変位抑制装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る変位抑制装置は、下部構造体と該下部構造体に対して相対的に移動可能な上部構造体との間に設置される変位抑制装置であって、下部部材と、上部部材と、前記下部部材と前記上部部材との間に配置され、前記下部部材及び前記上部部材に対して摺動可能な摺動部材と、を備え、前記下部部材は、平面状に形成された下部滑り面が上部に設けられ、前記下部構造体に固定される下部基板部と、該下部基板部から上方に延びる下部周壁部と、を有し、前記上部部材は、平面状に形成された上部滑り面が下部に設けられ、前記上部構造体に固定される上部基板部と、該上部基板部から下方に延びる上部周壁部と、を有し、前記摺動部材は、前記下部滑り面に対して摺動可能であって平面状に形成された下部摺動面が設けられた下壁部と、前記上部滑り面に対して摺動可能であって平面状に形成された上部摺動面が設けられた上壁部と、前記下壁部と前記上壁部とを接続する接続部と、を有し、前記摺動部材が前記下部部材及び前記上部部材に対して摺動した場合に、前記摺動部材は、前記下部周壁部及び前記上部周壁部に当接可能である。
【0009】
このように構成された変位抑制装置では、摺動部材が下部部材及び上部部材に対して摺動した場合に、摺動部材が下部周壁部及び上部周壁部に当接して、免震層の変位が抑制される。摺動部材は水平面内の任意の方向に摺動可能であるため、免震層の水平面内の任意の方向に対して、過大な変位を抑制することができる。
また、摺動部材は下部部材及び上部部材と相対変位するため、摺動部材と下部部材との相対変位及び摺動部材と上部部材との相対変位が免震層変位の半分ですむため、変位抑制装置の平面サイズや設置スペースを小さくすることができる。
【0010】
また、本発明に係る変位抑制装置は、前記接続部の外周面には、緩衝材が設けられていてもよい。
【0011】
このように構成された変位抑制装置では、摺動部材の接続部の外周面には緩衝材が設けられている。よって、摺動部材が下部周壁部及び上部周壁部に衝突する際には、摺動部材の接続部の外周面に設けられた緩衝材が下部周壁部及び上部周壁部に衝突することになり、衝突する際の衝撃荷重が緩和され、上部構造体に生じる加速度を低減することができる。
【0012】
また、本発明に係る変位抑制装置は、前記下部周壁部及び前記上部周壁部の内周面には、緩衝材が設けられていてもよい。
【0013】
このように構成された変位抑制装置では、下部部材の下部周壁部の内周面及び上部部材の上部周壁部の内周面には緩衝材が設けられている。よって、摺動部材が下部周壁部及び上部周壁部に衝突する際には、摺動部材が下部周壁部の内周面及び上部周壁部の内周面に設けられた緩衝材に衝突することになり、衝突する際の衝撃荷重が緩和され、上部構造体に生じる加速度を低減することができる。
【0014】
また、本発明に係る変位抑制装置では、前記接続部は、上下方向を軸線方向とする円柱状に形成されていてもよい。
【0015】
このように構成された変位抑制装置では、摺動部材の接続部は上下方向を軸線方向とする円柱状に形成されている。よって、円柱状に形成された摺動部材は、水平面内のあらゆる方向(任意の方向)に摺動することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る変位抑制装置によれば、設置スペースを小さくしつつ、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す模式的な図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す鉛直断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の地震時の最大変位を示す鉛直断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置において、下部周壁部及び上部周壁部の耐力及び剛性が大きい場合の免震層変位と変位抑制装置の反力との関係を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置において、下部周壁部及び上部周壁部のいずれか一方がP1で先行降伏し塑性変形する場合の免震層変位と変位抑制装置の反力との関係を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態の変形例1に係る変位抑制装置を示す鉛直断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態の変形例2に係る変位抑制装置の下部部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る変位抑制装置について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す模式的な図である。
図1に示すように、基礎(下部構造体)11と建物(上部構造体)16との間に、変位抑制装置1及び免震装置2が設置されている。基礎11と建物16との間は、免震層12とされている。
【0019】
免震層12に、変位抑制装置1と免震装置2とは並列配置されている。平面視で、変位抑制装置1は、建物16の略中央に配置されている。平面視で、免震装置2は、変位抑制装置1の外側に複数配置されている。なお、変位抑制装置1及び免震装置2の配置位置は適宜設定可能である。
【0020】
免震装置2の下部は基礎11の上部に固定され、免震装置2の上部は建物16の下部に固定されている。免震装置2は、積層ゴムは滑り支承等の周知の構成である。基礎11と建物16とは、相対的に水平方向に移動可能とされている。
【0021】
変位抑制装置1は、免震層12の水平方向の過大な変位を抑制するものである。変位抑制装置1は、下部受材(下部部材)3と、上部受材(上部部材)4と、摺動部材5と、を備えている。
【0022】
図2は、変位抑制装置1を示す分解斜視図である。
図2に示すように、下部受材3は、シャーレ状に形成されている。下部受材3は、下部基板部31と、下部周壁部36と、を有している。下部受材3は、例えば鋼材で構成されている。
【0023】
下部基板部31は、平板状に形成されている。下部基板部31の板面は、上下方向を向いている。平面視で、下部基板部31は、略円形状をしている。
【0024】
図3は、変位抑制装置1を示す鉛直断面図である。
図3に示すように、下部基板部31は、例えばアンカーボルト等によって基礎11の上面11aに固定されている。
【0025】
下部基板部31の上面には、下部滑り材32が固定されている。下部滑り材32は、平板状に形成されている。下部滑り材32の板面は、上下方向を向いている。平面視で、下部滑り材32は、略円形状をしている。下部滑り材32は、下部基板部31の上面の略全面に配置されている。なお、下部滑り材32は、下部基板部31の上面の略全面に配置されていなくてもよい。下部滑り材32は、例えばステンレス鋼板で構成されている。
【0026】
下部滑り材32の上面は、平面状に形成された下部滑り面32aである。下部滑り材32の下部滑り面32aと摺動部材5の下部摺動面53aとの摩擦係数は、0.01~0.1程度である。下部基板部31の下面と基礎11の上面11aとの摩擦係数は、0.4以上である。
【0027】
下部周壁部36は、下部基板部31の周縁部から上方に延びている。平面視で、下部周壁部36は、環状に形成されている。本実施形態では、下部周壁部36は下部基板部31の周縁部の略全周に設けられているが、下部基板部31の周縁部に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。あるいは、下部周壁部36が下部基板部31の周縁部よりも径方向の内側の部分から上方に延びる構成であってもよい。
【0028】
上部受材4は、下部受材3を上下反転させた構成である。通常の状態で、上部受材4は、下部受材3と対向するように下部受材3の鉛直上方に、下部受材3と離間して配置されている。
【0029】
上部受材4は、シャーレ状に形成されている。上部受材4は、上部基板部41と、上部周壁部46と、を有している。上部受材4は、例えば鋼材で構成されている。
【0030】
上部基板部41は、平板状に形成されている。上部基板部41の板面は、上下方向を向いている。平面視で、上部基板部41は、略円形状をしている。
【0031】
上部基板部41は、例えばアンカーボルト等によって建物16の下面16aに固定されている。
【0032】
上部基板部41の下面には、上部滑り材42が固定されている。上部滑り材42は、平板状に形成されている。上部滑り材42の板面は、上下方向を向いている。平面視で、上部滑り材42は、略円形状をしている。上部滑り材42は、上部基板部41の下面の略全面に配置されている。なお、上部滑り材42は、上部基板部41の下面の略全面に配置されていなくてもよい。上部滑り材42は、例えばステンレス鋼板で構成されている。
【0033】
上部滑り材42の下面は、平面状に形成された上部滑り面42aである。上部滑り材42の上部滑り面42aと摺動部材5の上部摺動面55aとの摩擦係数は、0.01~0.1程度である。上部基板部41の上面と建物16の下面16aとの摩擦係数は、0.4以上である。
【0034】
上部周壁部46は、上部基板部41の周縁部から下方に延びている。平面視で、上部周壁部46は、環状に形成されている。本実施形態では、上部周壁部46は上部基板部41の周縁部の略全周に設けられているが、上部基板部41の周縁部に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。あるいは、上部周壁部46が上部基板部41の周縁部よりも径方向の内側の部分から下方に延びる構成であってもよい。
【0035】
上部周壁部46の下端部46aは、下部周壁部36の上端部36aの上方に間隔を有して配置されている。
【0036】
摺動部材5は、下部受材3の下部滑り材32と上部受材4の上部滑り材42との間に配置されている。摺動部材5は、下部受材3の下部基板部31上に載置されている。摺動部材5は、下部受材3及び上部受材4に対して水平方向に摺動可能である。
【0037】
図4は、
図3のA-A線断面図である。
図4に示すように、通常の状態で、平面視で、摺動部材5は、下部受材3(及び上部受材4)の略中央に配置されている。
【0038】
図3に示すように、摺動部材5は、円柱部(接続部)51を有している。円柱部51は、上下方向を軸線方向とする円柱状に形成されている。円柱部51は、例えば、鋼材で構成されている。
【0039】
円柱部51の下端部には、下部摺動板部(下壁部)53が設けられている。下部摺動板部53は、平板状に形成されている。下部摺動板部53の板面は、上下方向を向いている。平面視で、下部摺動板部53は、略円形状をしている。平面視で、下部摺動板部53の外周形状は、円柱部51の外周形状と略同一である。下部摺動板部53は、例えば樹脂製のテフロン(登録商標)系(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)等の材料で構成されている。
【0040】
下部摺動板部53の下面は、平面状に形成された下部摺動面53aである。下部摺動面53aは、下部受材3の下部滑り面32aに接触して、下部滑り面32aに対して摺動可能である。
【0041】
円柱部51の上端部には、上部摺動板部(上壁部)55が設けられている。下部摺動板部53と上部摺動板部55とは、円柱部51によって接続されている。上部摺動板部55は、平板状に形成されている。上部摺動板部55の板面は、上下方向を向いている。平面視で、上部摺動板部55は、略円形状をしている。平面視で、上部摺動板部55の外周形状は、円柱部51の外周形状と略同一である。上部摺動板部55は、例えば樹脂製のテフロン(登録商標)系(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)等の材料で構成されている。
【0042】
上部摺動板部55の上面は、平面状に形成された上部摺動面55aである。上部摺動面55aは、上部受材4の上部滑り面42aに接触して、上部滑り面42aに対して摺動可能である。
【0043】
変位抑制装置1を滑り支承としても利用する場合には、下部摺動面53a及び上部摺動面55aの摩擦係数μは0.1以下であることが好ましい。
【0044】
円柱部51の外周面51aには、緩衝材57が設けられている。緩衝材57は、円柱部51の上下方向の略全長に設けられている。緩衝材57は、円柱部51の外周面51aの略全周に設けられている。平面視で、緩衝材57は環状に形成されている。なお、緩衝材57は、円柱部51の上下方向の一部にのみ設けられる構成や、円柱部51の上下方向に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。緩衝材57は、円柱部51の外周面51aに周方向に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。緩衝材57は、例えば天然ゴム、高減衰ゴム、ゴムチップ等のゴム材料で構成されている。
【0045】
摺動部材5が水平方向に摺動して、摺動部材5が下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46に衝突する際には、緩衝材57が下部周壁部36及び上部周壁部46に衝突することになり、衝撃荷重が緩和される。なお、摺動部材5には緩衝材57が設けられていなくてもよい。
【0046】
次に、上記の変位抑制装置1の地震時の動きについて説明する。大地震時において免震層12の変位が生じると、変位抑制装置1の摺動部材5がシアキーのように抵抗し、過大な変位を防止する。
【0047】
図3及び
図4に示すように、通常の状態で、摺動部材5と下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46との間のクリアランス(離間距離)をδとする。
【0048】
図5は、変位抑制装置1の地震時の最大変位を示す鉛直断面図である。
図6は、
図5のB-B線断面図であり、上部受材4を二点鎖線で示している。
図5及び
図6に示すように、地震時に、免震層12の変位(=下部受材3と上部受材4との相対変位)が2δに達すると、摺動部材5が下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46に当接する。
【0049】
図6に示すように、摺動部材5の環状の緩衝材57における第一部57aが下部受材3の下部周壁部36に当接し、緩衝材57における第一部57aと径方向の反対側の第二部57bが上部受材4の上部周壁部46に当接する。緩衝材57は径方向につぶれ(圧縮変形)始めてストッパー機能が作動する。
【0050】
例えば、摺動部材5の円柱部51の外径d=600mm、緩衝材57の厚さe=50mm、通常時のクリアランスδ=300mmとすると、免震層12の変位が600mmからストッパー機能が効き始める。免震層12の変位が700mmで緩衝材57がつぶれてそれ以上の変位ができなくなり、免震層12の変位が抑制される。なお、一般的に、設計上の巨大地震で想定される免震層変位は600mm以下、免震装置の積層ゴム支承の限界変形は750mm程度である。
【0051】
図7に示すように、下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46の耐力及び剛性が大きい場合の免震層12の変位と変位抑制装置1の反力との関係を示す図である。
図8は、下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46のいずれか一方がP1で先行降伏し塑性変形する場合の免震層12の変位と変位抑制装置1の反力との関係を示す図である。下部周壁部36及び上部周壁部46のいずれか一方が緩衝材57のつぶれる前に先行降伏して塑性変形が進行する場合は、
図8のような履歴特性となる。
図8に示す履歴特性では、下部周壁部36及び上部周壁部46が十分強固で降伏しない場合(
図7参照)と比較すると、変位抑制装置1の反力が小さく且つ免震層12の変位が大きくなり、建物16に生じる加速度が軽減される。
【0052】
また、
図4に示すように、下部受材3及び上部受材4の内径(下部周壁部36及び上部周壁部46の内周面の直径)D=d+2e+2δ=1300mmとなる。一方、特開2020-193672号公報(特許文献2)に記載の過大変形制御装置20では、環状部23の内径=突出部21の直径d+2×ゴム材28の厚さe+2×クリアランスδ×2=1900mmとなる。特開2020-193672号公報に記載の過大変形制御装置20では、変位抑制装置1の2.13倍の設置面積を要することから、変位抑制装置1ではコンパクト化(省スペース化)をすることができたことが分かる。
【0053】
このように構成された変位抑制装置1では、摺動部材5が下部受材3及び上部受材4に対して摺動した場合に、摺動部材5が下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46に当接して、免震層12の変位が抑制される。摺動部材5は水平面内の任意の方向に摺動可能であるため、免震層12の水平面内の任意の方向に対して、過大な変位を抑制することができる。
【0054】
また、摺動部材5は下部受材3及び上部受材4と相対変位するため、摺動部材5と下部受材3との相対変位及び摺動部材5と上部受材4との相対変位が免震層12の変位の半分ですむため、変位抑制装置1の平面サイズや設置スペースを小さくすることができる。
【0055】
また、平面視で、変位抑制装置1は建物16中央等の建物16の内部に設置することができるため、設置場所の選定自由度を高めることができる。
【0056】
また、摺動部材5の円柱部51の外周面には緩衝材57が設けられている。よって、摺動部材5が下部周壁部36及び上部周壁部46に衝突する際には、摺動部材5の円柱部51の外周面に設けられた緩衝材57が下部周壁部36及び上部周壁部46に衝突することになり、衝突する際の衝撃荷重が緩和され、建物16に生じる加速度を低減することができる。
【0057】
また、摺動部材5の円柱部51は上下方向を軸線方向とする円柱状に形成されている。よって、円柱状に形成された摺動部材5は、水平面内のあらゆる方向(任意の方向)に摺動することができる。
【0058】
また、下部受材3の下部周壁部36及び上部受材4の上部周壁部46の耐力及び剛性を十分大きくすれば、免震層12の変位を所定範囲に留めるストッパーとなる。また、上部周壁部46及び下部周壁部36が水平力P1及びP2(P1:上部周壁部46が降伏する力、P2:下部周壁部36が降伏する力)で降伏(P1<P2)するようにしておけば、ストッパー反力がP1を超えると上部周壁部46が塑性変形して地震エネルギーを吸収することにより、免震層12の過大変位を抑制できる。この場合には上部周壁部46が損傷しているため、地震後に交換することとなる。
【0059】
また、下部受材3の下部滑り材32の下部滑り面32a及び上部受材4の上部滑り材42の上部滑り面42aは平面状に形成されているため、従来のように球面状に形成されたものよりも、製造が容易であるとともに製造コストを抑えることができる。
【0060】
(変形例1)
次に、上記に示す実施形態の変形例1に係る変位抑制装置について、主に
図9を用いて説明する。
以下の変形例において、前述した実施形態で用いた部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0061】
図9に示すように、本変形例に係る変位抑制装置1Aでは、下部緩衝材(緩衝材)37が、下部受材3Aの下部周壁部36の内周面36bに設けられている。上部緩衝材(緩衝材)47が、上部受材4Aの上部周壁部46の内周面46bに設けられている。摺動部材5Aには、緩衝材は設けられていない。なお、摺動部材5Aにも、上記に示す実施形態と同様に、円柱部51の外周面51aに緩衝材57が設けられていてもよい。
【0062】
下部緩衝材37は、下部受材3Aの下部周壁部36の上下方向の略全長に設けられている。下部緩衝材37は、下部周壁部36の内周面36bの略全周に設けられている。平面視で、下部緩衝材37は環状に形成されている。
【0063】
上部緩衝材47は、上部受材4Aの上部周壁部46の上下方向の略全長に設けられている。上部緩衝材47は、上部周壁部46の内周面46bの略全周に設けられている。平面視で、上部緩衝材47は環状に形成されている。
【0064】
なお、下部緩衝材37及び上部緩衝材47は、下部周壁部36及び上部周壁部46の上下方向の一部にのみ設けられる構成や、下部周壁部36及び上部周壁部46の上下方向に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。下部緩衝材37及び上部緩衝材47は、下部周壁部36及び上部周壁部46の内周面36b,46bに周方向に間隔を有して複数設けられる構成であってもよい。
【0065】
摺動部材5Aが水平方向に摺動して、摺動部材5Aが下部受材3Aの下部周壁部36及び上部受材4Aの上部周壁部46に衝突する際には、摺動部材5が下部緩衝材37及び上部緩衝材47に衝突することによって、衝撃荷重が緩和される。
【0066】
このように構成された変位抑制装置1Aでは、摺動部材5Aが下部受材3A及び上部受材4Aに対して摺動した場合に、摺動部材5Aが下部受材3Aの下部周壁部36に設けられた下部緩衝材37及び上部受材4Aの上部周壁部46に設けられた上部緩衝材47に当接して、免震層12の変位が抑制される。摺動部材5Aは水平面内の任意の方向に摺動可能であるため、免震層12の水平面内の任意の方向に対して、過大な変位を抑制することができる。
【0067】
また、摺動部材5Aは下部受材3A及び上部受材4Aと相対変位するため、摺動部材5Aと下部受材3Aとの相対変位及び摺動部材5Aと上部受材4Aとの相対変位が免震層12の変位の半分ですむため、変位抑制装置1Aの平面サイズや設置スペースを小さくすることができる。
【0068】
また、下部受材3Aの下部周壁部36の内周面36bには下部緩衝材37が設けられ、上部受材4Aの上部周壁部46の内周面46bには上部緩衝材47が設けられている。よって、摺動部材5Aが下部周壁部36及び上部周壁部46に衝突する際には、摺動部材5Aが下部周壁部36の内周面36bに設けられた下部緩衝材37及び上部周壁部46の内周面46bに設けられた上部緩衝材47に衝突することになり、衝突する際の衝撃荷重が緩和され、建物16に生じる加速度を低減することができる。
【0069】
(変形例2)
次に、上記に示す実施形態の変形例2に係る変位抑制装置について、主に
図10を用いて説明する。
【0070】
図10に示すように、本変形例に係る変位抑制装置1Bの下部受材3Bでは、下部基板部31Bは、平面視で略矩形状に形成されている。下部基板部31Bの角部には、ボルト孔34が形成されている。ボルト孔34に挿通された不図示のボルトが、基礎11に締結されている。
【0071】
下部周壁部36は、下部基板部31Bの周縁部よりも内側から上方に延びている。下部周壁部36の内部には、下部滑り材32が配置されている。下部滑り材32は、下部基板部31Bに固定されている。上部受材4Bは、下部受材3Bを上下反転させた構成であり、説明を省略する。
【0072】
このように構成された変位抑制装置1Bでは、摺動部材5が下部受材3B及び上部受材4Bに対して摺動した場合に、摺動部材5が下部受材3Bの下部周壁部36及び上部受材4Bの上部周壁部46に当接して、免震層12の変位が抑制される。摺動部材5は水平面内の任意の方向に摺動可能であるため、免震層12の水平面内の任意の方向に対して、過大な変位を抑制することができる。
【0073】
また、摺動部材5は下部受材3B及び上部受材4Bと相対変位するため、摺動部材5と下部受材3Bとの相対変位及び摺動部材5と上部受材4Bとの相対変位が免震層12の変位の半分ですむため、変位抑制装置1Bの平面サイズや設置スペースを小さくすることができる。
【0074】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0075】
例えば、変位抑制装置1は、柱位置(柱の直下位置)に設置し、すべり支承(ストッパー機能を併せもつ)とすることもできる。ただし、摺動部材5の変位からモーメントを生じる場合もあり、小荷重に留めることが望ましい。
【0076】
また、変位抑制装置1は、柱のない位置(柱の直下ではない位置)に設置し、軸力を支持せずストッパー機能のみとしてもよい。この場合、通常時は摺動部材5の上面(上部摺動面55a)がすべり面(上部受材4の上部滑り面42a)と密着していなくて隙間があって、地震時に摺動部材5の上面がすべり面に対して摺動可能であればよい。
【0077】
また、変位抑制装置1は、新築の構造物だけでなく、既存免震構造物にも適用でき、既存免震構造物の免震層に設置することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B…変位抑制装置
3,3A,3B…下部受材(下部部材)
4,4A、4B…上部受材(上部部材)
5,5A…摺動部材
11…基礎(下部構造体)
16…建物(上部構造体)
31,31B…下部基板部
32…下部滑り材
32a…下部滑り面
36…下部周壁部
36b…内周面
37…下部緩衝材(緩衝材)
41…上部基板部
42…上部滑り材
42a…上部滑り面
46…上部周壁部
46b…内周面
47…上部緩衝材(緩衝材)
51…円柱部(接続部)
51a…外周面
53…下部摺動板部(下壁部)
53a…下部摺動面
55…上部摺動板部(上壁部)
55a…上部摺動面
57…緩衝材