IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キャタラーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143025
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】絶縁層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220926BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220926BHJP
   C09D 157/08 20060101ALI20220926BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20220926BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20220926BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220926BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20220926BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20220926BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220926BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20220926BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20220926BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
C09D201/00
C09D157/08
C09D179/08 A
C09D179/08 B
C09D123/28
C09D7/20
C09D7/40
H01B3/00 A
H01M50/46
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/403 D
H01M50/443 M
H01M50/426
H01M50/591 101
H01M4/04 A
C01F7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043347
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴規
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太
【テーマコード(参考)】
4G076
4J038
5G303
5H021
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AA30
4G076AB06
4G076AB30
4G076BA42
4G076BD02
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA29
4G076CA40
4G076DA18
4G076FA08
4J038CB171
4J038DJ021
4J038GA12
4J038HA216
4J038KA06
4J038NA21
4J038PB09
5G303AA10
5G303AB01
5G303BA07
5G303CB01
5G303CD01
5G303CD04
5H021BB12
5H021CC03
5H021EE10
5H021EE22
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH06
5H043AA04
5H043AA19
5H043BA01
5H043BA11
5H043GA22
5H043GA25
5H043HA22E
5H043KA13E
5H043KA22E
5H043KA30E
5H043LA02
5H043LA03
5H043LA35
5H043LA41
5H043LA44
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA01
5H050BA08
5H050DA09
5H050DA18
5H050DA19
5H050EA12
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】品質が安定しており、安価に製造できる、絶縁膜形成用の塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、前記ベーマイトについて、空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であり、かつ、450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下である、絶縁層形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
前記ベーマイトについて、空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であり、かつ、
450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下である、
絶縁層形成用組成物。
【請求項2】
前記ベーマイトの結晶子径(020)が100nm以上750nm以下である、請求項1に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項3】
前記ベーマイトの平均粒径D50が0.1μm以上5.0μm以下である、請求項1又は2に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項4】
前記バインダーが、フッ素樹脂、ポリイミド、及びポリアミドイミドより成る群から選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項5】
前記バインダーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、請求項4に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒が非プロトン性極性溶媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項7】
前記有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む、請求項6に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項8】
前記ベーマイト及び前記バインダーの合計質量に対する前記バインダーの質量の割合が、1質量%以上45質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項9】
前記絶縁層形成用組成物中の前記有機溶媒の量が、前記ベーマイト及び前記バインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項10】
電池の絶縁層を形成するための組成物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物に使用するためのベーマイトの製造方法であって、
空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10質量%超であるか、又は、
450~600℃の範囲における重量減少率が13.5質量%超である
ベーマイトを、200℃以上600℃以下の温度で加熱処理することを含む、
ベーマイトの製造方法。
【請求項12】
前記加熱処理の温度が、400℃以上500℃以下である、請求項11に記載のベーマイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の安全性を高めるために、電極に絶縁層が設けられることがある。例えば、非水電解質を用いる二次電池において、電極を構成する集電体と、活物質層との接合部分を覆うように、絶縁層を形成することにより、短絡防止を図ることが知られている(特許文献1)。
【0003】
この絶縁層は、無機粒子、バインダー又はその前駆体、及び溶媒を含有する塗料ペーストを用いて形成することができる。例えば、特許文献1には、γ-アルミナ粒子、バインダー樹脂、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用の塗料ペーストが記載されている。特許文献2には、ベーマイト、炭酸水素塩、架橋樹脂前駆体、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用の塗料溶液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-074359号公報
【特許文献2】国際公開第2013/136441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
絶縁層を形成するためのものとして公知の塗料ペースト又は塗料溶液は、経時的に品質が劣化する、塗料粘度が変化する、等の問題が生じることがある。或いは、塗料の安定性を高めるための添加剤を含有しており、コスト上の問題を有するものがある。
【0006】
本発明の目的は、品質が安定しており、安価に製造できる、絶縁膜形成用の塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
《態様1》ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
前記ベーマイトについて、空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であり、かつ、
450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下である、
絶縁層形成用組成物。
《態様2》前記ベーマイトの結晶子径(020)が100nm以上750nm以下である、態様1に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様3》前記ベーマイトの平均粒径D50が0.1μm以上5.0μm以下である、態様1又は2に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様4》前記バインダーが、フッ素樹脂、ポリイミド、及びポリアミドイミドより成る群から選択される1種以上である、態様1~3のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様5》前記バインダーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、態様4に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様6》前記有機溶媒が非プロトン性極性溶媒である、態様1~5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様7》前記有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む、態様6に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様8》前記ベーマイト及び前記バインダーの合計質量に対する前記バインダーの質量の割合が、1質量%以上45質量%以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様9》前記絶縁層形成用組成物中の前記有機溶媒の量が、前記ベーマイト及び前記バインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下である、態様1~8のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様10》電池の絶縁層を形成するための組成物である、態様1~9のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物。
《態様11》態様1~10のいずれか一項に記載の絶縁層形成用組成物に使用するためのベーマイトの製造方法であって、
空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10質量%超であるか、又は、
450~600℃の範囲における重量減少率が13.5質量%超である
ベーマイトを、200℃以上600℃以下の温度で加熱処理することを含む、
ベーマイトの製造方法。
《態様12》前記加熱処理の温度が、400℃以上500℃以下である、態様11に記載のベーマイトの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、品質が安定しており、例えば、経時的な粘度変化が抑制された、絶縁膜形成用の塗料組成物が提供される。本発明の塗料組成物は、品質の安定化のために、ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒以外の成分を含有する必要がない、したがって、本発明の塗料組成物は、製造コストが安価である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《絶縁層形成用組成物》
本発明の絶縁層形成用組成物は、
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を含有する、絶縁層形成用組成物であって、
ベーマイトについて、空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であり、かつ、
450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下である。
【0010】
〈ベーマイト〉
ベーマイトは、一般的には、組成式AlOOHで表されるアルミナ1水和物である。しかしながら、本発明におけるベーマイトは、AlOOHの組成よりも水和の程度が高いもの、及び低いものも包含する概念である。
【0011】
ただし、本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトは、空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であり、かつ、450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下であるとの条件を満たすことを要件とする。
【0012】
(熱重量分析における重量減少率)
本発明におけるベーマイトについて、200~450℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以下であるとは、ベーマイト中に、脱離し易い水和水が少ないことを意味する。この要件を満たすことにより、絶縁層形成用組成物中の成分が、遊離の水と反応して劣化することが抑制されると考えられる。
【0013】
また、450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上であるとは、ベーマイト中に、ある程度脱離し難い水和水が一定量存在することを意味すると考えられる。この要件を満たすことにより、絶縁層形成用組成物中のベーマイト粒子が、好ましくは非プロトン性極性化合物である溶媒と溶媒和し易くなり、ベーマイト粒子の凝集による絶縁層形成用組成物の粘度低下を抑制することができると考えられる。
【0014】
この点、例えばアルミナ等のように、450~600℃の範囲における重量減少率が実質的に0であると、粒子同士の凝集が起こり易くなり、絶縁層形成用組成物が粘度低下を来たすことになると考えられる。
【0015】
一方、450~600℃の範囲における重量減少率が13.5質量%以下であるとは、ベーマイト中において、脱離し難い官能基の存在量が制限されていることを意味すると考えられる。この要件を満たすことにより、官能基とバインダーとの反応が制限され、当該反応に起因する組成物の劣化を抑制することができると考えられる。
【0016】
ただし、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0017】
脱離し易い水和水を少なくするとの観点から、ベーマイトの熱重量分析における、200~450℃の範囲における重量減少率は、低い方が好ましく、8.0質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、若しくは0.1質量%以下であってよく、又は0.0質量%であってもよい。
【0018】
一方、ある程度脱離し難い水和水を一定量確保するとの観点から、ベーマイトの熱重量分析における、450~600℃の範囲における重量減少率は、6.0質量%以上、7.0質量%以上、8.0質量%以上、9.0質量%以上、10.0質量%以上、11.0質量%以上、又は12.0質量%以上であってよく、13.0質量%以下、12.5質量%以下、12.0質量%以下、11.5質量%以下、又は11.0質量%以下であってよい。
【0019】
ベーマイトの熱重量分析は、市販の熱重量分析装置を用い、ベーマイト約10mgを精秤して、白金パンに充填したものを試料とし、流量200mL/分の空気気流下、10℃/分の昇温速度にて、室温~700℃の範囲で行われてよい。そして得られたTGチャートから、200~450℃の範囲における重量減少率、及び450~600℃の範囲における重量減少率を、それぞれ算出してよい。
【0020】
(結晶子径)
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの結晶子径(020)は、100nm以上750nm以下であってよい。
【0021】
本発明の絶縁膜形成用組成物は、優れた経時的安定性を示す。ここで、ベーマイトの結晶子径(020)が100nm以上750nm以下であると、絶縁膜形成用組成物の経時的安定性は更に向上し、特に、組成物粘度の経時的な低下が効果的に抑制される。
【0022】
ベーマイトの結晶子径(020)は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、又は600nm以上であってよく、700nm以下、650nm以下、600nm以下、550nm以下、又は500nm以下であってよい。
【0023】
ベーマイトの結晶子径は、XRD分析から求めたベーマイトの(020)面に相当する2θ=14.48°のピークの半値幅βを用いて、下記数式で示されるシェラーの式から、K=0.94として計算されてよい。
D=Kλ/βcosθ
{数式中、Dは結晶子サイズであり、Kはシェラー定数であり、λはX線の波長であり、Bは半値幅であり、θはブラッグ角である。}
【0024】
XRD分析は、市販のX線回折装置を用いて、例えば、以下の条件によって行われてよい。
線源:CuKα(波長1.5418Å)
管球電圧:40kV
管球電流:250mA
走査角度:2θ=5~85°
走査速度:4°/分
【0025】
(平均粒径D50)
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの平均粒径D50は、得られる絶縁層の電気絶縁性を高くする観点からは、大きい方が好ましく、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの分散性を高くする観点からは、小さい方が好ましい。
【0026】
上記の2つの観点を考慮すると、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの平均粒径D50は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、又は0.8μm以上であってよく、4.0μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、又は1.0μm以下であってよい。
【0027】
本明細書において、平均粒径D50は、レーザー光を用いた光散乱法によって得られた粒径分布において、累積体積分率が50%のときの粒径として求められてよい。絶縁層形成用組成物は、適当な溶媒(例えばNMP等)によって希釈したうえで、この粒径分布測定に供してよい。
【0028】
(比表面積)
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの比表面積は、得られる絶縁層の電気絶縁性と、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの分散性とを両立する観点から、適宜に設定されてよい。このような観点から、本発明の絶縁層形成用組成物中ベーマイトの比表面積は、1m/g以上、3m/g以上、5m/g以上、7m/g以上、10m/g以上、15m/g以上、又は20m/g以上であってよく、150m/g以下、100m/g以下、80m/g以下、50m/g以下、30m/g以下、20m/g以下、15m/g以下、10m/g以下、又は8m/g以下であってよい。
【0029】
本発明の絶縁層形成用組成物に含まれているベーマイトの比表面積は、吸着質として窒素を用いたBET法によって測定された値であってよい。
【0030】
〈バインダー〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、バインダーを含有する。
【0031】
本発明の絶縁層形成用組成物に含有されるバインダーとしては、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等が例示でき、これらより成る群から選択される1種以上であってよい。
【0032】
フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等から選択されてよい。
【0033】
バインダーは、フッ素樹脂を含むものであってよく、PVDFを含むものであってよく、特に、PVDFから成るものであってよい。
【0034】
本発明の絶縁層形成用組成物中のバインダーの割合は、組成物の経時的安定性、得られる絶縁層の電気絶縁性、得られる絶縁層の機械的強度等を総合考慮したうえで、適宜に設定されてよい。絶縁層形成用組成物中のバインダーの割合は、ベーマイト及びバインダーの合計質量に対するバインダーの質量の割合として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上であってよく、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
【0035】
〈有機溶媒〉
本発明の絶縁層形成用組成物に含有される溶媒は、有機溶媒である。絶縁層形成用組成物の溶媒を有機溶媒とすると、バインダーの吸着水の量を増加させずに維持することができるから、絶縁層形成用組成物の保存安定性の点で有利である。
【0036】
本発明の絶縁層形成用組成物に含有される溶媒はバインダーの分散性を高くする観点から、非プロトン性極性溶媒であってよい。非プロトン性極性溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等から選択されてよく、NMPを含むものであってよく、NMPから成るものであってよい。
【0037】
本発明の絶縁層形成用組成物における有機溶媒の量は、絶縁層形成用組成物の、塗布性及び保存安定性を考慮して適宜に設定されてよい。
【0038】
絶縁層形成用組成物中の有機溶媒の量は、ベーマイト及びバインダーの合計100質量部に対して、50質量部以上、100質量部以上、150質量部以上、200質量部以上、250質量部以上、又は300質量部以上であってよく、500質量部以下、450質量部以下、400質量部以下、350質量部以下、又は300質量部以下であってよい。
【0039】
〈任意成分〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、上記のベーマイト、バインダー、及び有機溶媒のみから構成されていてもよいし、これら以外の任意成分を含有していてもよい。このような任意成分としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、分散剤、着色剤、消泡剤等が挙げられる。
【0040】
しかしながら、本発明の絶縁層形成用組成物は、このような任意成分を含有していなくても、本発明が所期する効果が発現する。したがって、本発明の絶縁層形成用組成物は、ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒以外の任意成分を、実質的に含有していなくてよい。絶縁層形成用組成物が任意成分を実質的に含有しないとは、絶縁層形成用組成物の全質量に対する任意成分の質量の割合が、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、若しくは0.1質量%以下であることをいい、又はこの値が0質量%であってもよい。
【0041】
〈用途〉
本発明の絶縁層形成用組成物は、プリント基板、多層配線基板、半導体装置、表示装置、電池等の絶縁層を形成するために好適である。本発明の絶縁層形成用組成物は、特に、電池の絶縁層を形成するための組成物として好適であり、とりわけ、二次電池の絶縁層を形成するための組成物として最適である。
【0042】
《絶縁層形成用組成物の製造方法》
本発明の絶縁層形成用組成物は、例えば、所定のベーマイト、所定のバインダー、及び所定の有機溶媒を混合し、適当な分散機を用いて湿式分散しながら混合することにより、製造されてよい。
【0043】
湿式分散のための分散機は、公知のものから適宜選択して使用してよい。分散機としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ等を使用してよい。
【0044】
ベーマイト、バインダー、及び有機溶媒を混合して湿式分散することにより、ベーマイトの結晶系、結晶子径、及び比表面積を実質的に変更させずに、分散性のよい絶縁層形成用組成物を得ることができる。
【0045】
ただし、ベーマイトの平均粒径D50は、湿式分散によっても少し小さくなる。したがって、分散に供する原料ベーマイトの平均粒径D50は、絶縁層形成用組成物中のベーマイトの平均粒径D50の所望値よりも、少し大きい値に調整することが適切である。
【0046】
《ベーマイトの製造方法》
本発明では、ベーマイトとして、熱重量分析において所定の重量減少を示すものを使用する。
【0047】
本発明におけるベーマイトとしては、入手可能なものの中から、本発明の要件に適合するものを選択して使用しもよいし、本発明の要件に適合しないものを原料として、熱重量分析における重量減少の態様を、所望の態様に調整したうえで使用してもよい。
【0048】
本発明は、別の観点において、本発明の絶縁層形成用組成物に使用するための、ベーマイトの製造方法を提供する。
【0049】
本発明のベーマイトの製造方法は、
空気気流下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析において、
200~450℃の範囲における重量減少率が10質量%超であるか、又は、
450~600℃の範囲における重量減少率が13.5質量%超である
ベーマイトを、200℃以上600℃以下の温度で加熱処理することを含む、方法である。
【0050】
得られるベーマイトの、200~450℃の範囲における重量減少率を少なくする観点から、加熱処理の温度は、200℃超であってよく、250℃以上、300℃以上、350℃以上、又は400℃以上であってよい。一方で、得られるベーマイトの、450~600℃の範囲における重量減少率を5.0質量%以上に維持する観点から、加熱処理の又は460℃以下であってよい。加熱処理の温度は、典型的には、400℃以上500℃以下であってよい。
【0051】
加熱処理の時間は、原料ベーマイトの重量減少の態様、得られるベーマイトの重量減少の所望の態様、加熱処理の温度等を考慮して適宜に設定されてよい。加熱処理の時間は、10分以上、20分以上、30分以上、45分以上、又は1時間以上であってよく、12時間以下、8時間以下、6時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、又は1.5時間以下であってよい。
【0052】
加熱処理の雰囲気は、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、及び不活性雰囲気の何れであってもよい。加熱処理は、典型的には、空気中、又は窒素雰囲気下で行われてよい。
【実施例0053】
《熱重量分析》
ベーマイトの熱重量分析は、市販の熱重量分析装置((株)リガク製、型式「Thermo plus EVO2」)を用いて行った。ベーマイト約10mgを精秤して、白金パンに充填したものを試料とし、流量200mL/分の空気気流下、10℃/分の昇温速度にて、室温~700℃の範囲で測定を行った。得られたTGチャートから、200~450℃の範囲における重量減少率、及び450~600℃の範囲における重量減少率を、それぞれ算出した。
【0054】
《XRD分析》
ベーマイトの結晶系、XRD分析から求めた。
【0055】
ベーマイトの結晶子径Dは、XRD分析から求めたベーマイトの(020)面に相当する2θ=14.48°のピークの半値幅βを用いて、下記数式で示されるシェラーの式から、K=0.94として計算した。
D=Kλ/βcosθ
{数式中、Dは結晶子サイズであり、Kはシェラー定数であり、λはX線の波長であり、Bは半値幅であり、θはブラッグ角である。}
【0056】
ベーマイトの結晶系及び結晶子径を求めるためのXRD分析は、以下の条件によって行った。
測定装置:(株)リガク製、型式名「RINT TTR III」
線源:CuKα(波長1.5418Å)
管球電圧:40kV
管球電流:250mA
走査角度:2θ=5~85°
走査速度:4°/分
【0057】
《比表面積》
ベーマイトの比表面積は、吸着質として窒素を用いたBET法によって測定した。
【0058】
《粒径測定》
塗料ペースト(絶縁層形成用組成物)の調製に用いたベーマイト(又はアルミナ)の平均粒径(D50)は、粉体をNMPに分散させたものを試料として、レーザー光を用いた光散乱法によって得られた粒径分布において、累積体積分率が50%のときの粒径として求めた。測定装置としては、(株)堀場製作所の形式名「LA-960」を用い、屈折率としては、ベーマイト及びアルミナについては1.660、NMPについては1.468を採用した。
【0059】
塗料ペースト中のベーマイトの平均粒径(D50)は、塗料ペーストをNMPで希釈したものを試料として、上記と同様の方法により測定した。
【0060】
《粘度測定》
塗料ペーストの粘度は、ペースト調製直後の初期粘度、及び得られた塗料ペーストを、密閉状態にて、貯蔵温度60℃にて4日間貯蔵した後の貯蔵後粘度の双方について、E型粘度計によって測定した。測定条件は、以下のとおりとした。なお、60℃4日間の貯蔵は、室温90日間の貯蔵に相当する加速試験である。
測定装置:東機産業(株)製、型式名「TVE-33H」
コーン・ロータの種類:1°34’×R24
ペースト投入量:約1mL
ずり速度:21.5S-1
測定温度:20℃
【0061】
粘度維持率は、貯蔵後粘度を初期粘度で割った値を百分率で示した値である。本実施例において、粘度維持率が低い場合、塗料ペーストの品質が劣化していることを示す。
【0062】
《実施例1》
ベーマイトとして市販のベーマイトB1 80質量部、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)20質量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)317質量部を混合し、分散機として大流量循環式ビーズミル(循環式ミル)を用い、循環流量10L/分にて湿式分散することにより、塗料ペースト(絶縁層形成用組成物)を得た。
【0063】
ここで用いたベーマイト、及び得られた塗料ペーストについて、上記の手法によって行った各種評価の結果を、表1に示す。
【0064】
《実施例2》
NMPの配合量を257質量部に変更し、分散機として、大流量循環式ビーズミルの代わりに、バッチ式ビーズミル(バッチ式ミル)を用い、仕込み量を100mLとして、25分湿式分散した他は、実施例1と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0065】
《実施例3》
ベーマイトとして、市販のベーマイトB1を、空気中、450℃において1時間加熱処理したものを用いた他は、実施例2と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0066】
《比較例1》
ベーマイトとして、ベーマイトB1の代わりに市販のベーマイトB2を80質量部使用した他は、実施例1と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0067】
《実施例4》
ベーマイトとして、市販のベーマイトB2を、空気中、475℃において1時間加熱処理したものを用い、NMPの配合量を257質量部に変更し、かつ、分散機として、プラネタリミキサ(Pミキサー)を用い、仕込み量を約500mLとして、3時間湿式分散した他は、比較例1と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0068】
《比較例2》
ベーマイトとして、市販のベーマイトB3を、空気中、110℃において20時間加熱処理したものを用い、かつ、NMPの配合量を317質量部に変更した他は、実施例4と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0069】
《比較例3》
ベーマイトに代えて、市販のアルミナA1(α-アルミナ)を用いた他は、実施例4と同様にして、塗料ペーストを得た。各種評価の結果を、表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
上記の実施例及び比較例から、以下のことが理解される。
【0072】
先ず、200~450℃の範囲における重量減少率が13.1質量%のベーマイトを用いた比較例2は、塗料ペーストの貯蔵後の粘度維持率が64.7%と低かったのに対し、200~450℃の範囲における重量減少率が10質量%以下のベーマイトを用いた実施例1~4及び比較例1、並びにこの値が0のα-アルミナを用いた比較例3では、塗料ペーストの粘度維持率は、比較例2よりも高い値を示した。これらの中でも、450~600℃の範囲における重量減少率が5.0質量%以上13.5質量%以下のベーマイトを用いた実施例1~4は、塗料ペーストの粘度維持率が78%以上と、より高い値を示した。特に、450~600℃の範囲における重量減少率が10.0質量%以上12.5質量%以下のベーマイトを用いた実施例3及び4では、塗料ペーストの粘度維持率が90%を超え、極めて高い値を示した。
【0073】
実施例2と実施例3との比較、及び比較例1と実施例4との比較から、ベーマイトを加熱して、上記の温度範囲における重量減少率を調整することによって、塗料ペーストの粘度維持率を向上できることが検証された。
【0074】
しかしながら、450~600℃の範囲における重量減少率が0のα-アルミナを用いた比較例3では、塗料ペーストの貯蔵後の粘度維持率が66.4%であり、比較例2の64.7%からの向上が僅かであった。このことから、塗料ペーストの粘度維持率を向上するためには、450~600℃の範囲における重量減少率が、5.0質量%以上であることを要することが理解される。
【0075】
更に、結晶子径(020)が100nm以上750nm以下であるベーマイト、及び平均粒径D50が0.1μm以上5.0μm以下であるベーマイトを用いて調製された塗料ペーストが、優れた粘度維持率を示すことが検証された。
【0076】
《分析例》
上記の実施例1及び2、並びに比較例1でそれぞれ調製した塗料ペースト中のベーマイトの平均粒径D50を、上述の方法によって測定した。結果を、熱重量減少率及び粉体時の平均粒径D50、並びに塗料ペーストの粘度維持率とともに、表2に示す。
【0077】
【表2】