(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143030
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】駆動回路、半導体装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20220926BHJP
H03K 17/04 20060101ALI20220926BHJP
H03K 17/0412 20060101ALI20220926BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20220926BHJP
H03K 17/567 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/04 Z
H03K17/0412
H03K17/04 E
H03K17/687 A
H03K17/567
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043352
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安達 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 裕久
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB04
5H740BB05
5H740BB09
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH06
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5H740KK01
5H740NN17
5J055AX04
5J055AX12
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5J055AX66
5J055BX16
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5J055EZ50
5J055EZ63
5J055GX01
5J055GX02
5J055GX04
5J055GX05
(57)【要約】
【課題】 スイッチング素子のスイッチング損失を低減するための駆動回路を提供する。
【解決手段】 駆動回路は、第1駆動信号に基づいて、スイッチング素子をオンするオン回路と、第2駆動信号に基づいて、前記スイッチング素子の制御電極の寄生容量を定電流で放電し、前記スイッチング素子をオフするオフ回路と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動信号に基づいて、スイッチング素子をオンするオン回路と、
第2駆動信号に基づいて、前記スイッチング素子の制御電極の寄生容量を定電流で放電し、前記スイッチング素子をオフするオフ回路と、
を備える駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動回路であって、
前記オフ回路は、
前記第2駆動信号に基づいて、前記寄生容量を第1定電流で第1期間放電した後、前記寄生容量を前記第1定電流より小さい第2定電流で第2期間放電する、
駆動回路。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動回路であって、
前記第2期間は、前記第1期間より短い、
駆動回路。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の駆動回路であって、
前記オフ回路は、
前記第2駆動信号に基づいて、時間を計時するタイマと、
前記タイマの出力に基づいて、前記第1定電流を生成すべく前記第1期間において動作し、前記第2期間において動作を停止する第1定電流回路と、
前記第1及び第2期間のうち少なくとも前記第2期間において、前記第2定電流を生成すべく動作する第2定電流回路と、
を含む駆動回路。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動回路であって、
前記第1定電流回路は、前記第2期間が経過してから前記スイッチング素子がオフされる期間が終了するまでの第3期間において前記動作する、
駆動回路。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動回路であって、
前記第2定電流回路は、前記第3期間において動作する、
駆動回路。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の駆動回路であって、
前記第3期間は、前記第1期間および前記第2期間より長い、
駆動回路。
【請求項8】
請求項5から請求項7の何れか一項に記載の駆動回路であって、
前記第1定電流回路は、
前記制御電極と、接地との間に設けられる第1トランジスタと
前記第1及び前記第3期間において、前記第1トランジスタをオンし、前記第2期間において前記第1トランジスタをオフする第1制御回路と、
を含む駆動回路。
【請求項9】
請求項8に記載の駆動回路であって、
前記第2定電流回路は、
前記制御電極と、接地との間に設けられる第2トランジスタと、
少なくとも前記第2及び第3期間において、前記第2トランジスタをオンする第2制御回路と、
を含む駆動回路。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の駆動回路であって、
前記スイッチング素子は、IGBTまたはMOSトランジスタであり、
前記制御電極は、ゲート電極である、
駆動回路。
【請求項11】
スイッチング素子と、
第1駆動信号に基づいて、スイッチング素子をオンするオン回路と、
第2駆動信号に基づいて、前記スイッチング素子の制御電極の寄生容量を定電流で放電し、前記スイッチング素子をオフするオフ回路と、
を備える半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回路、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子(例えば、IGBT)のスイッチング損失を低減するための駆動回路がある(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-199821号公報
【特許文献2】特開2012-039460号公報
【特許文献3】特開2016-174455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイボーラトランジスタ)が定電圧駆動でオフされる場合、ミラー期間中に、コレクタ―エミッタ間の電圧の変化によりコレクタ電極からゲート電極にミラー容量を介して電流が流れるが、その際ゲート電極に流れる電流を制御することは困難である。そのため、IGBTが定電圧駆動される場合、ミラー期間を短くするのは困難である。また、ミラー期間が長いと、コレクタ―エミッタ間の電圧の時間当たりの変化量が小さくなるため、スイッチング素子(例えば、IGBT)のスイッチング損失が大きくなってしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、スイッチング素子のスイッチング損失を低減するための駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する本発明にかかる駆動回路は、第1駆動信号に基づいて、スイッチング素子をオンするオン回路と、第2駆動信号に基づいて、前記スイッチング素子の制御電極の寄生容量を定電流で放電し、前記スイッチング素子をオフするオフ回路と、を備える。
【0007】
前述した課題を解決する本発明にかかる半導体装置は、スイッチング素子と、第1駆動信号に基づいて、スイッチング素子をオンするオン回路と、第2駆動信号に基づいて、前記スイッチング素子の制御電極の寄生容量を定電流で放電し、前記スイッチング素子をオフするオフ回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スイッチング素子のスイッチング損失を低減するための駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】モータ制御システム10の構成の一例を示す図である。
【
図2】(A)は、IGBT43を駆動する回路構成の簡略図である。(B)は、IGBT43を定電圧駆動する場合に、IGBT43がオフされる際の電圧Vgeと、ゲート電流Igとの関係を示す図である。
【
図3】駆動回路30xの構成の一例を示す図である。
【
図4】(A)は、タイマ64の構成の一例を示す図である。(B)は、タイマ64のタイミングチャートと、タイマ64の動作に伴う定電流Ioffの変化とを示す図である。
【
図5】IGBT43をオフする際に定電流駆動した場合の電圧Vge,Vce、コレクタ電流Icの変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
=====本実施形態=====
<<<モータ制御システム10>>>
図1は、本発明の一実施形態であるモータ制御システム10の構成の一例を示す図である。モータ制御システム10は、モータ(例えば、三相モータ14)を制御するシステムであり、ECU(Electronic Control Unit:エレクトロニック・コントロール・ユニット)11、電力変換装置12、直流電源13を含んで構成される。
【0012】
ECU11は、三相モータ14を制御するためのコンピュータであり、三相モータ14の回転数を制御するための信号PWMu,PWMv,PWMw,PWMx,PWMy,PWMzを出力する。
【0013】
電力変換装置12は、信号PWMu~PWMzに基づいて、直流電源13が出力する直流電圧Vdc(例えば、400V)を三相交流電圧Vu,Vv,Vwに変換する装置である。そして、電力変換装置12は、三相交流電圧Vu,Vv,Vwにより三相モータ14を駆動する。また、電力変換装置12は、制御モジュール20、IGBTモジュール21を含んで構成される。なお、電力変換装置12は、「半導体装置」に相当する。
【0014】
制御モジュール20は、信号PWMu~PWMzのそれぞれに応じて、後述するIGBTモジュール21内のIGBT40~45のそれぞれを駆動するモジュールである。
【0015】
また、制御モジュール20は、駆動回路(DRV)30u,30v,30w,30x,30y,30z、抵抗31u,31v,31w,31x,31y,31zを含んで構成される。なお、本実施形態では、制御モジュール20が駆動回路30u~30z及び抵抗31u~31zを含むが、他に電源電圧Vcc(後述)を出力するDC/DCコンバータ(不図示)を含む。
【0016】
駆動回路(DRV)30uは、信号PWMuに応じて、IGBT40を駆動する回路である。具体的には、駆動回路30uは、IGBT40をオンする場合、ハイレベル(以下、“H”レベルとする。)の信号PWMuに応じて、駆動電圧Vdruで抵抗31uを介してIGBT40を駆動する。一方、駆動回路30uは、IGBT40をオフする場合、ローレベル(以下、“L”レベルとする。)の信号PWMuに応じて、定電流Ioffで抵抗31uを介してIGBT40の寄生容量を放電する。なお、駆動回路30v~30zのそれぞれについても同様である。
【0017】
また、駆動回路30u~30zのそれぞれは同様の回路で構成される。そのため、以下、本実施形態では駆動回路30u~30zのうち接地側のIGBT43を駆動する駆動回路30xについて、詳細を後述する。
【0018】
IGBTモジュール21は、IGBT40~45のそれぞれのゲート抵抗である抵抗31u~31zを介して制御モジュール20によって駆動され、直流電圧Vdcから三相交流電圧Vu~Vwを生成する。また、IGBTモジュール21は、IGBT40~45と、FWD(Free Wheeling Diode:還流ダイオード)50~55とを含んで構成される。また、IGBT40~45のそれぞれは、駆動電圧Vdru~Vdrzのそれぞれによってスイッチングされる。また、FWD50~55のそれぞれは、IGBT40~45に逆並列に接続される。
【0019】
IGBT40,43は、U相のスイッチング素子であり、電圧Vuを生成し、IGBT41,44は、V相のスイッチング素子であり、電圧Vvを生成する。また、IGBT42,45は、W相のスイッチング素子であり、電圧Vwを生成する。
【0020】
なお、本実施形態では、IGBT40は、FWD50と組み合わされ、1つであるように描いている。しかしながら、より大きな電流を流すためにIGBT及びFWDの組み合わせが複数個並列に接続され、例えば、駆動電圧Vdruで駆動されることとしてもよい。また、IGBT41~45のそれぞれと、FWD51~55のそれぞれとの組み合わせについても同様である。
【0021】
三相モータ14は、三相交流電圧Vu~Vwに応じて動力を発生させるモータである。三相モータ14は、例えば、車載用モータ、エアコン用のモータである。
【0022】
<<<定電圧駆動されるIGBT46がオフされる際の電圧Vgeとゲート電流Igの関係>>>
本実施形態では、駆動回路30xは、IGBT43をオンする際に、駆動電圧Vdrxで駆動し、IGBT43をオフする際に、定電流IoffでIGBT43の寄生容量を放電する。以下では、比較対象として、IGBT46を駆動電圧Vdraでオン、オフする駆動回路30aについて説明する。
【0023】
図2の(A)は、IGBT46を駆動する比較対象の回路構成の簡略図である。また、
図2の(B)は、IGBT46を定電圧駆動によりIGBT46がオフされる際の電圧Vgeと、ゲート電流Igとの関係を示す図である。
【0024】
また、
図2の(A)において、ECU11は、信号PWMaを出力する。そして、駆動回路30aは、IGBT46を定電圧駆動する回路であり、信号PWMaに基づいて、抵抗31aを介して駆動電圧VdraをIGBT46のゲート電極Gに印加する。なお、IGBT46は、IGBT40~45と同様のIGBTである。
【0025】
また、
図2(B)に示すゲート電流Igは、IGBT46の入力容量Ciesを充電する際に流れる電流の方向を正の方向とする。すなわち、IGBT46の入力容量Cies及び帰還容量Cresを放電するゲート電流Igは、負の方向の電流であり、入力容量Cies、帰還容量Cresを放電するゲート電流Igが大きいほど、負の方向に大きくなる。
【0026】
また、以下では、
図2の(A)を参照しつつ、IGBT46が定電圧駆動される場合の動作について
図2の(B)を用いて説明する。
【0027】
時刻t0において、ECU11がIGBT46をオフするため信号PWMaをON信号からOFF信号に変化させる。この時、ゲート電流IgによりIGBT46の入力容量Ciesから電荷が放電され始め、IGBT46の電圧Vgeは低下し始める。
【0028】
時刻t1において、電圧Vgeが低下し、IGBT46のオン抵抗が増大し、IGBT46の電圧Vceが上昇し始めると、IGBT46の帰還容量Cres(すなわち、ミラー容量)、IGBT43のゲート電極、抵抗31aを介して、駆動回路30aへと電流が流れる。そのため、電圧Vgeの低下が抑制され始め、ゲート電流Igは、電圧Vgeの変化に応じて決まるため、おおよそ一定となる。結果として、電圧Vgeは、時刻t1~t2の間のように変化しない。
【0029】
時刻t2において、電圧Vceが定電圧に近づき、帰還容量Cresを介した電流が減少すると、再度、電圧Vgeは低下し始める。なお、時刻t1~t2の間の期間をミラー期間と呼ぶ。
【0030】
時刻t3において、入力容量Ciesの電荷がほぼ放電されると、電圧Vgeはほぼ0Vとなり、IGBT46は完全にオフされる。
【0031】
ところで、IGBT46が信号PWMaにより定電圧駆動される場合、電流Igを制御することは困難である。具体的には、帰還容量Cresを介した電流が抵抗31a及び駆動回路30aに流れるため、電圧Vgeがほぼ一定となるミラー期間を短くするのは困難である。
【0032】
そこで、本実施形態の駆動回路30xは、IGBT43を定電圧駆動してオフする代わりに、IGBT43を定電流駆動してオフする。これにより、本実施形態の駆動回路30xは、IGBT43のターンオフ開始時のdVce/dtを大きくしてミラー期間を短縮するとともに、di/dtの低減及びスイッチング損失の低減を実現する。なお、以下、本実施形態では、入力容量Cies及び帰還容量Cresを、「寄生容量Cp」と称する。
【0033】
<<<駆動回路30xの構成>>>
図3は、駆動回路30xの構成の一例を示す図である。駆動回路30xは、抵抗31xを介して、駆動電圧Vdrx又は定電流IoffでIGBT43を駆動する。具体的には、駆動回路30xは、ECU11が、“H”レベルの信号PWMxを出力すると、IGBT43をオンするための駆動電圧Vdrxを出力する。一方、駆動回路30xは、ECU11が“L”レベルの信号PWMxを出力すると、IGBT43をオフするため定電流IoffでIGBT43の寄生容量Cpを放電する。
【0034】
駆動回路30xは、インバータ60、オン回路61、オフ回路62を含んで構成される。
【0035】
インバータ60は、ECU11が出力する信号PWMxの論理レベルを反転させる。具体的には、インバータ60は、“H”レベルの信号PWMxに基づいて、“L”レベルの信号S1を出力する。また、インバータ60は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、“H”レベルの信号S1を出力する。
【0036】
===オン回路61===
オン回路61は、“H”レベルの信号PWMxに基づいて、IGBT43をオンするための駆動電圧Vdrxを出力し、IGBT43をオンする。具体的には、オン回路61は、“L”レベルの信号S1に基づいて、IGBT43をオンするための駆動電圧Vdrxを出力する。一方、オン回路61は、“H”レベルの信号S1に基づいて、出力をハイ・インピーダンス状態とする。
【0037】
オン回路61は、PMOSトランジスタ70、抵抗71を含んで構成される。PMOSトランジスタ70は、DC/DCコンバータ(不図示)が生成する電源電圧Vccが印加されるノードと、抵抗71との間に設けられ、信号S1に応じてオンまたはオフされる。
【0038】
抵抗71は、IGBT43をオンする際にノイズを抑制するための、いわゆるゲート抵抗である。また、抵抗71は、PMOSトランジスタ70と、IGBT43のゲート電極との間に設けられ、PMOSトランジスタ70がオンした際に、IGBT43をオンするために電源電圧Vccを駆動電圧Vdrxとして、IGBT43のゲート電極に印加する。
【0039】
なお、“H”レベルの信号PWMxは、「第1駆動信号」に相当し、“L”レベルの信号PWMxは、「第2駆動信号」に相当する。また、IGBT43は、「スイッチング素子」に相当する。また、IGBT43のゲート電極は、「制御電極」に相当する。
【0040】
===オフ回路62===
オフ回路62は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、IGBT43のゲート電極の寄生容量である寄生容量Cpを定電流Ioffで放電し、IGBT43をオフする。具体的には、オフ回路62は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、定電流Ioffで期間T1の間に寄生容量Cpを放電した後、期間T1の際の定電流Ioffより小さい定電流Ioffで期間T2の間に寄生容量Cpを放電する。オフ回路62は、遅延回路63、タイマ64、第1定電流回路65、第2定電流回路66を含んで構成される。
【0041】
===遅延回路63===
遅延回路63は、IGBT43がオンからオフへ変化する際にオン回路61及びオフ回路62の両方が動作しないデッドタイムを生成する回路である。具体的には、遅延回路63は、ECU11が“L”レベルの信号PWMxを出力すると、“所定期間D”遅延させて、“L”レベルの信号S2を出力する。一方、遅延回路63は、ECU11が“H”レベルの信号PWMxを出力すると、“H”レベルの信号S2を出力する。
【0042】
===タイマ64===
タイマ64は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、時間(例えば、期間T1及び期間T2)を計時する。具体的には、タイマ64は、後述の第1定電流回路65及び第2定電流回路66が動作する期間である期間T1と、第2定電流回路66のみ動作する期間である期間T2とを計時する。なお、以下では、タイマ64の詳細を説明する前に、タイマ64により制御される第1定電流回路65と、第1定電流回路65と同様の構成である第2定電流回路66とを先に説明する。
【0043】
===第1定電流回路65===
第1定電流回路65は、信号S3に基づいて、電流IHを生成すべく動作し、又は動作を停止する。具体的には、第1定電流回路65は、“L”レベルの信号S3に基づいて、電流IHを生成し、IGBT43のゲート電極の寄生容量Cpを電流IHで放電する。一方、第1定電流回路65は、“H”レベルの信号S3に基づいて、電流IHの生成を停止する。
【0044】
第1定電流回路65は、定電流源80、NMOSトランジスタ81~84を含んで構成される。定電流源80は、基準電圧回路(不図示)が電源電圧Vccから生成した電圧Vddを受けて、定電流I0を流す。
【0045】
NMOSトランジスタ81は、ドレイン電極と、ゲート電極が接続され、定電流I0を流すダイオードとして機能する。
【0046】
NMOSトランジスタ82は、“L”レベルの信号S3に基づいて、NMOSトランジスタ81をオンする。これにより、第1定電流回路65は、電流IHを生成する。一方、NMOSトランジスタ82は、“H”レベルの信号S3に基づいて、NMOSトランジスタ81をオフする。これにより、第1定電流回路65は、電流IHの生成を停止する。
【0047】
NMOSトランジスタ83,84は、NMOSトランジスタ81に電流I0が流れる際のNMOSトランジスタ81のゲート電圧に応じて、電流I0に比例した電流IHを流す。具体的には、NMOSトランジスタ83,84は、“L”レベルの信号S3に基づいて、NMOSトランジスタ81に電流I0が流れる際のNMOSトランジスタ81のゲート電圧に応じて電流IHを流す。一方、NMOSトランジスタ83,84は、“H”レベルの信号S3に基づいて、NMOSトランジスタ81がオフされると、電流IHを停止する。また、NMOSトランジスタ83,84は、IGBT43のゲート電極と、接地との間に設けられる。
【0048】
なお、定電流Ioffは、第1定電流回路65が流す電流IHと、後述の第2定電流回路66が流す電流ILとを合計した電流である。また、本実施形態では、NMOSトランジスタ81に流れる電流I0に比例した電流IHを生成するNMOSトランジスタとして、NMOSトランジスタ83,84を示した。しかしながら、電流I0と、電流IHとの関係から、NMOSトランジスタ83,84が電流IHを生成することに限られず、異なる数のNMOSトランジスタが、電流I0に比例した電流IHを生成してもよい。また、本実施形態では、電流I0は定電流であることとしたが、外部からの信号等により、電流I0が可変するようにしてもよい。
【0049】
===第2定電流回路66===
第2定電流回路66は、“L”レベルの信号S2に基づいて、電流ILを生成すべく動作する。具体的には、第2定電流回路66は、“L”レベルの信号S2に基づいて、電流ILを生成し、IGBT43の寄生容量Cpを定電流ILで放電する。一方、第2定電流回路66は、“H”レベルの信号S2に基づいて、電流ILの生成を停止する。なお、電流ILは、電流IHよりも小さい電流である。
【0050】
第2定電流回路66は、定電流源90、NMOSトランジスタ91~94を含んで構成される。定電流源90は、基準電圧回路(不図示)が電源電圧Vccから生成した電圧Vddを受けて、定電流I1を流す。NMOSトランジスタ91~94は、第1定電流回路65のNMOSトランジスタ81~84に対応し、信号S2に基づいてNMOSトランジスタ81~84と同様に動作する。なお、NMOSトランジスタ92は、“L”レベルの信号S2に基づいて、NMOSトランジスタ91をオンする。
【0051】
なお、第1定電流回路65と同様に、本実施形態では、NMOSトランジスタ91に流れる電流I1に比例した電流ILを生成するNMOSトランジスタとして、NMOSトランジスタ93,94を示した。しかしながら、電流I1と、電流ILとの関係から、NMOSトランジスタ93,94が電流ILを生成することに限られず、異なる数のNMOSトランジスタが、電流I1に比例した電流ILを生成してもよい。また、本実施形態では、電流I1は定電流であることとしたが、外部からの信号等により、電流I1が可変するようにしてもよい。
【0052】
なお、電流IHと電流ILを合計した電流は、「第1定電流」に相当し、電流ILは、「第2定電流」に相当する。また、NMOSトランジスタ83,84は、「第1トランジスタ」に相当し、NMOSトランジスタ82は、「第1制御回路」に相当する。また、NMOSトランジスタ93,94は、「第2トランジスタ」に相当し、NMOSトランジスタ92は、「第2制御回路」に相当する。
【0053】
以上、第1定電流回路65及び第2定電流回路66について説明した。第1定電流回路65及び第2定電流回路66が生成する実際の電流IH,ILは、IGBT43のゲート電極の電圧レベルに応じて変化する。具体的には、ゲート電極の電圧が高くNMOSトランジスタ83,84,93,94が飽和領域で動作している場合には、電流IH,ILは定電流となる。一方、ゲート電極の電圧が低くなると、NMOSトランジスタ83,84,93,94は線形領域で動作するため、電流IH,ILは、定電流とはならない。
【0054】
本実施形態では、第1定電流回路65及び第2定電流回路66が寄生容量Cpを「電流IH,ILで放電する」とは、電流IH,ILで放電することのみならず、第1定電流回路65及び第2定電流回路66が一定の電流IH,ILで放電すべく動作している状態も含む。
【0055】
以下では、
図4を参照して、タイマ64の構成、及びタイマ64の動作に伴う定電流Ioffの変化について説明する。
【0056】
図4の(A)は、タイマ64の構成の一例を示す図である。タイマ64は、第1定電流回路65の動作を制御する。具体的には、タイマ64は、期間T1及び期間T3において第1定電流回路65を動作させ、期間T2において第1定電流回路65の動作を停止させる。タイマ64は、タイマ回路100,101、AND素子102を含んで構成される。
【0057】
タイマ回路100は、第1定電流回路65及び第2定電流回路66が動作する期間である期間T1を計測する。具体的には、タイマ回路100は、“H”レベルの信号S2に基づいて、リセットされ、“H”レベルの信号Aを出力する。一方、タイマ回路100は、“L”レベルの信号S2に基づいて、期間T1をカウントし、“L”レベルの信号Aを出力する。タイマ回路100は、期間T1のカウントを完了すると、“H”レベルの信号Aを出力する。
【0058】
タイマ回路101は、第2定電流回路66のみ動作する期間である期間T2を計測する。具体的には、タイマ回路101は、“H”レベルの信号S2または“L”レベルの信号Aに基づいて、リセットされ、“H”レベルの信号Bを出力する。一方、タイマ回路101は、“L”レベルの信号S2及び“H”レベルの信号Aに基づいて、期間T2をカウントし、“H”レベルの信号Bを出力する。タイマ回路101は、期間T2のカウントを完了すると、“L”レベルの信号Bを出力する。
【0059】
AND素子102は、信号A及びBの論理積をとり、信号S2として出力する。
【0060】
図4の(B)は、タイマ64のタイミングチャートと、タイマ64の動作に伴う定電流Ioffの変化とを示す図である。なお、時刻t10より前において、定電流Ioffは0Aである。
【0061】
時刻t10において、遅延回路63が“L”レベルの信号S2を出力すると、タイマ回路100は、“L”レベルの信号Aを出力し、期間T1をカウントする。この結果、AND素子102は、“L”レベルの信号S3を出力する。この時、IGBT43の寄生容量Cpは、第1定電流回路65が流す電流IHと、第2定電流回路66が流す電流ILとを合計した定電流Ioffで放電される。なお、
図3で示した定電流Ioff、IL、IHの矢印の方向に流れる電流を負の電流とする。
【0062】
時刻t10から期間T1が経過した時刻t11において、タイマ回路100は、期間T1のカウントを完了し、“H”レベルの信号Aを出力する。この時、タイマ回路101は、遅延回路63が“L”レベルの信号S2を出力し、かつタイマ回路100が“H”レベルの信号Aを出力すると、期間T2のカウントを開始し、“H”レベルの信号Bを出力する。この結果、AND素子102は、“H”レベルの信号S3を出力する。この時、第1定電流回路65は、電流IHの生成を停止する。したがって、定電流Ioffは電流ILとなり、期間T1の際の定電流Ioffより小さい電流となる。
【0063】
時刻t11から期間T2が経過した時刻t12において、タイマ回路101は、期間T2のカウントを完了し、“L”レベルの信号Bを出力する。この結果、AND素子102は、“L”レベルの信号S3を出力する。この時、第1定電流回路65は、動作し、電流IHの生成を開始する。第2定電流回路66も、動作し、電流ILの生成を開始する。したがって、定電流Ioffは電流ILと電流IHとを合計した電流となり、期間T1の際の定電流Ioffと同じ電流となる。なお、期間T2は、期間T1より短い。
【0064】
しかしながら、この時、NMOSトランジスタ83,84,93,94のドレイン電極に印加されるIGBT43の駆動電圧Vdrxは、ほぼ0Vとなっている。したがって、実際に定電流Ioffはほぼ流れず、第1定電流回路65及び第2定電流回路66は、駆動電圧Vdrxを0Vに維持するようIGBT43のゲート電極をプルダウンする。なお、
図4では、時刻t12~t13の期間T3において、便宜上、定電流Ioffが流れているよう記載しているが、これは、第1定電流回路65及び第2定電流回路66のそれぞれが定電流を生成すべく、動作していることを表している。
【0065】
IGBT43がオフされる期間が終了する時刻t13において、遅延回路63が“H”レベルの信号S2を出力すると、タイマ回路100,101は、“H”レベルの信号A及びBを出力し、AND素子102は、“H”レベルの信号S3を出力する。この時、第1定電流回路65は電流IHの生成を停止し、第2定電流回路66は電流ILの生成を停止する。したがって、定電流Ioffは0Aとなる。なお、期間T1は、「第1期間」に相当し、期間T2は、「第2期間」に相当し、期間T2が経過してからIGBT43がオフされる期間が終了するまでの期間T3は「第3期間」に相当する。また、期間T3は、期間T1,T2より長い。
【0066】
<<<IGBT43をオフする際に定電流駆動した場合の電圧Vge,Vce、コレクタ電流Ic>>>
図5は、IGBT43をオフする際に定電流駆動した場合の電圧Vge,Vce、コレクタ電流Icの変化を示した図である。
図5において、
図4の(B)で示した時刻t10~t12を示しているため、
図4の(B)を参照しつつ、以下に説明する。
【0067】
遅延回路63が“L”レベルの信号S2を出力する時刻t10において、タイマ64が期間T1のカウントを開始すると、寄生容量Cpが放電されるためIGBT43の電圧Vgeが徐々に低下する。そして、IGBT43のオン抵抗が大きくなり始めると、電圧Vceは上昇し始める。また、電流ILと電流IHとを合計した定電流Ioffによって、IGBT43の寄生容量Cpが放電されると、電圧Vceの時間当たりの変化率dVce/dtは、一定の値となり、電圧Vceは上昇する。
【0068】
これにより、IGBT43のゲート電極への帰還容量Cresを介した電流は瞬間的に多くなり、入力容量Ciesが充電されるが、帰還容量Cresを介した電流が流れ始めてから電圧Vceが安定するまでの期間(すなわち、ミラー期間)は、オフ回路62が定電流Ioffで寄生容量Cpを放電し、それにより電圧Vceが早く上昇するため短くなる。
【0069】
そして、遅延回路63が“Lレベルの信号S2を出力し、かつタイマ回路100が“H”レベルの信号Aを出力する時刻t11において、タイマ64が期間T2のカウントを開始し、コレクタ電流Icの時間当たりの変化率(すなわち、di/dt)が大きくなると、電圧Vceのピーク電圧Vcepeakも高くなる。
【0070】
また、期間T2において電流ILである定電流Ioffによって、IGBT43の寄生容量Cpが放電されると、電圧Vgeは、定電流Ioffの減少に応じた寄生インダクタの影響を受ける。そして、電圧Vgeは瞬時の間上昇するものの、期間T1の際の定電流Ioffより小さい定電流Ioffで寄生容量Cpが放電されているため、電圧Vceのピーク電圧Vcepeakは、低減される。
【0071】
なお、本実施形態の駆動回路30xがIGBT43をオフする際に定電流駆動する場合、IGBT43をオフする際に定電圧駆動する場合よりIGBT43をオフする際のdVce/dtが早くなる。しかしながら、小さい定電流Ioffに基づいて電圧VceのピークであるVcepeakは低減される。そして、電圧Vceと、コレクタ電流Icとで囲まれたスイッチング損失Eoffを示す領域の面積は、電圧Vceの立ち上がり時間が早まるため、小さくなる。結果として、定電流駆動の場合のスイッチング損失Eoffは、定電圧駆動の場合のスイッチング損失Eoffより小さくなる。
【0072】
===変形例===
本実施形態では、第1定電流回路65が電流IHを生成し、第2定電流回路66が電流ILを生成する。しかしながら、電流IHと、電流ILとを合計した電流を流すための定電流回路と、電流ILを流すための定電流回路を有し、信号S3等に応じて、いずれかの定電流回路が動作することとしてもよい。
【0073】
===まとめ===
以上、本実施形態のモータ制御システム10について説明した。駆動回路30xは、オン回路61と、オフ回路62とを備える。オフ回路62は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、IGBT43のゲート電極の寄生容量Cpを定電流Ioffで放電する。これにより、IGBT43の帰還容量Cresを介した電流がゲート電極に流れるミラー期間を短縮し、IGBT43がオフする際のスイッチング損失を低減することができる。したがって、スイッチング素子のスイッチング損失を低減するための駆動回路を提供することができる。
【0074】
また、オフ回路62は、“L”レベルの信号PWMxに基づいて、寄生容量Cpを定電流Ioffで期間T1放電した後、寄生容量Cpを定電流Ioffより小さい電流ILで期間T2放電する。これにより、ミラー期間を短縮しつつ、電圧Vceのピーク電圧Vcepeakを低減することができる。
【0075】
また、期間T2は、期間T1より短く設定される。これにより、電圧Vcepeakが発生する期間に、定電流Ioffを小さくすることができる。
【0076】
また、オフ回路62は、タイマ64、第1定電流回路65、第2定電流回路66を含む。これにより、第1定電流回路65と、第2定電流回路66とをそれぞれ動作させるか否か決定でき、IGBT43の寄生容量Cpを放電する定電流Ioffを変化させることができる。
【0077】
また、第1定電流回路65は、期間T2経過後の期間において動作する。これにより、IGBT43のゲート電極は、0Vにプルダウンされる。
【0078】
また、第2定電流回路66も、期間T2経過後の期間において動作する。これにより、IGBT43のゲート電極をプルダウンする能力が増大する。
【0079】
また、期間T3は、期間T1および期間T2より長い。これにより、期間T2以降でIGBT43がオフされる間、IGBT43のゲート電極はプルダウンされ続ける。
【0080】
また、第1定電流回路65は、NMOSトランジスタ83,84と、NMOSトランジスタ82とを含む。これにより、簡易な回路で、駆動回路30xに必要な機能を実現できる。
【0081】
また、第2定電流回路66は、NMOSトランジスタ93,94と、NMOSトランジスタ92とを含む。これにより、簡易な回路で、駆動回路30xに必要な機能を実現できる。
【0082】
また、スイッチング素子が、MOSトランジスタである場合、寄生容量Cpは、ゲート・ソース間容量Cgs及びゲート・ドレイン間容量Cgdである。この場合でも、駆動回路30xは、MOSトランジスタのスイッチング損失を低減できる。
【0083】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0084】
10 モータ制御システム
12 電力変換装置
13 直流電源
14 三相モータ
20 制御モジュール
21 IGBTモジュール
30u,30v,30w,30x,30y,30z 駆動回路
31u,31v,31w,31x,31y,31z,71 抵抗
60 インバータ
61 オン回路
62 オフ回路
63 遅延回路
64 タイマ
65 第1定電流回路
66 第2定電流回路
70 PMOSトランジスタ
80,90 定電流源
81,82,83,84,91,92,93,94 NMOSトランジスタ
100,101 タイマ回路
102 AND素子