(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143054
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/76 20060101AFI20220926BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220926BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20220926BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220926BHJP
F16J 15/12 20060101ALI20220926BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16C33/76 Z
F16C19/38
F16C33/58
F16J15/10 T
F16J15/12 A
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043385
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 雄兵
【テーマコード(参考)】
3J040
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J040BA03
3J040EA01
3J040EA15
3J040EA17
3J040EA42
3J040FA01
3J040FA06
3J040FA13
3J040HA03
3J040HA05
3J117HA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA23
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CA07
3J216CB03
3J216CB06
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC18
3J216CC33
3J216DA01
3J216DA11
3J216FA02
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA56
3J701BA73
3J701DA16
3J701EA03
3J701EA41
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA46
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】1対の内輪の突き合わせ部の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置の構造を実現する。
【解決手段】第1の内輪18aを、軸方向内側の端面に、第1突き合わせ面26aと第1環状凹溝27aとを有するものとし、第2の内輪18bを、軸方向外側の端面に、第2突き合わせ面26bと第2環状凹溝27bとを有するものとする。シール部材20を、第2環状凹溝27bにはみ出すことなく、第1環状凹溝27aに取り付けられるシール基部34と、先端部を第2環状凹溝27bの軸方向底面に接触させたサイドリップ35とを有するものとし、シール基部34に、サイドリップ35が径方向に曲げ変形した際に、サイドリップ35を収容可能なリップ収容部36を設ける。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有する1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
前記1対の内輪の突き合わせ部を密封するシール部材と、
前記1対の内輪を連結する連結環と、を備え、
前記1対の内輪のうち、軸方向一方側に配置された第1の内輪は、軸方向他方側の端面に、軸方向他方側に配置された第2の内輪の軸方向一方側の端面に突き合わせられる第1突き合わせ面と、前記第1突き合わせ面よりも径方向内側に配置され、かつ、前記第1の内輪の内周面及び軸方向他方側の端面のそれぞれに開口した第1環状凹溝と、を有し、
前記第2の内輪は、軸方向一方側の端面に、前記第1突き合わせ面に突き合わせられる第2突き合わせ面と、前記第2突き合わせ面よりも径方向内側に配置され、かつ、前記第2の内輪の内周面及び軸方向一方側の端面のそれぞれに開口した第2環状凹溝と、を有し、
前記シール部材は、前記第2環状凹溝にはみ出すことなく、前記第1環状凹溝に取り付けられたシール基部と、前記シール基部から軸方向他方側に向けて伸長し、先端部を前記第2環状凹溝の軸方向底面に接触させたサイドリップと、を有し、
前記シール基部は、径方向に曲げ変形した前記サイドリップを収容可能なリップ収容部を有し、
前記連結環は、前記シール部材を径方向内側から覆っており、径方向に貫通した開口窓を有する、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記開口窓は、複数備えられており、
複数の前記開口窓は、円周方向に離隔し、かつ、円周方向に隣り合う1対の前記開口窓の軸方向位置をずらすように千鳥配置されている、
請求項1に記載した転がり軸受装置。
【請求項3】
前記シール基部は、全体が弾性材製であり、
前記シール基部の内周面は、前記連結環の外周面によって支承されている、
請求項1~2のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【請求項4】
前記シール基部は、芯金を有しており、
前記芯金は、前記第1環状凹溝の内周面に内嵌されている、
請求項1~3のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持するために、ハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置が使用されている。トラックやバスなどの重量が嵩む車両の車輪(駆動輪)を、回転自在に支持しかつ回転駆動するために、アクスルシャフトに荷重がかからない全浮動式アクスルが知られている。
図6及び
図7は、かかるアクスルに用いられる転がり軸受装置の1例として、特開2008-75837号公報(特許文献1)に記載された構造を示している。
【0003】
転がり軸受装置100は、車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持する。車軸管101の内側には、駆動軸103が挿通されている。駆動軸103の端部にはフランジ104が備えられており、該フランジ104には、ハブ輪102が固定されている。ハブ輪102には、駆動輪105及び制動用回転体106がそれぞれ固定されている。このような構成により、駆動輪105及び制動用回転体106を車軸管101に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸103からのトルクを駆動輪105及び制動用回転体106に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置100は、
図7に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪107と、使用状態で回転しない1対の内輪108a、108bと、複数個の転動体109a、109bと、シール部材110と、連結環111とを備える。
なお、転がり軸受装置100に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図7の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図7の右側である。
【0005】
外輪107は、内周面に複列の外輪軌道112a、112bを有している。外輪107は、ハブ輪102に締り嵌めで内嵌されている。
【0006】
1対の内輪108a、108bのそれぞれは、外周面に単列の内輪軌道113a、113bを有している。1対の内輪108a、108bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管101に外嵌されている。
【0007】
転動体109a、109bは、円すいころであり、外輪軌道112a、112bと内輪軌道113a、113bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0008】
シール部材110は、Oリングから構成されており、1対の内輪108a、108bの突き合わせ部114の径方向内側に配置されている。シール部材110は、突き合わせ部114を通じて、車軸管101の内部に存在するデフオイルや、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止する。
【0009】
車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持するための転がり軸受装置100にあっては、車軸管101に対する転がり軸受装置100の着脱を可能とするために、1対の内輪108a、108bを、車軸管101に対して隙間嵌めで外嵌している。また、車軸管101の内部空間は、図示しないデフケースの内部空間と連通しているため、内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間には、デフオイルが侵入する可能性がある。また、泥水が、外部から内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間に流れ込む可能性もある。そこで、シール部材110を、突き合わせ部114の径方向内側に配置して、デフオイルや泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止している。
【0010】
連結環111は、全体が円環状で、U字状の断面形状を有している。連結環111は、円筒部115と、外向鍔状の1対の係止部116とを有する。連結環111は、円筒部115によりシール部材110を径方向内側から覆った状態で、1対の係止部116のそれぞれを、1対の内輪108a、108bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹部117a、117bに係止している。これにより、連結環111は、1対の内輪108a、108bを軸方向に連結している。そして、転がり軸受装置100を車軸管101に組み付ける際に内輪108a、108bに作用する摩擦によって、1対の内輪108a、108bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪108aと車軸管101の軸方向外側の端部との衝突によって、該内輪108aが車軸管101から軸方向に抜け出したりするのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開2008-75837号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置100には、次のような面で、さらなる改良の余地がある。
【0013】
従来構造の転がり軸受装置100は、突き合わせ部114の密封性を十分に確保するために、1対の内輪108a、108bの小径側端面同士の間で、Oリングにより構成されるシール部材110をある程度押し潰す必要がある。ただし、シール部材110を押し潰すには、相応の力が必要になるため、転がり軸受装置100を車両に組み付ける以前に、1対の内輪108a、108bを連結環111により連結した状態では、シール部材110の弾力に起因して、突き合わせ部114に隙間を生じる可能性がある。このため、従来から知られている測定方法により、アキシアル隙間を保証することが難しくなる。
【0014】
具体的には、複列転がり軸受のアキシアル隙間は、
図8に示すような方法により測定することが知られている。先ず、
図8の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yを互いに対向する小径側端面同士を突き合わせるとともに、1対の内輪108x、108yの周囲に転動体109x、109yを配置した状態で、一方の内輪108x(又は108y)を下側に向けかつ他方の内輪108y(又は108x)を上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを、ダイヤルゲージなどの変位計119により測定し、該測定値を基準値とする(ダイヤルを0にセットする)。
【0015】
次に、
図8の(B)に示すように、片側列の転動体109x及び内輪108xを外輪107xに対して組み付けた状態で、内輪108xを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108xの大径側端面までの軸方向高さ(Hout)を変位計119により測定する。同様に、図示は省略するが、他側列の転動体109y及び内輪108yを外輪107xに対して組み付けた状態で、内輪108yを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108yの大径側端面までの軸方向高さ(Hin)を変位計119により測定する。最後に、2つの軸方向寸法(Hin ,Hout)を合計し、合計値[-(Hin+Hout)]をアキシアル隙間とする。
【0016】
以上説明したようなアキシアル隙間の測定方法では、
図8の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面を突き合わせた状態での、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを基準値として利用している。このため、従来構造の転がり軸受装置100のように、シール部材110の弾力に起因して、突き合わせ部114に隙間を生じると、アキシアル隙間を正確に測定することが困難になり、アキシアル隙間を保証できなくなる。
【0017】
また、従来構造の転がり軸受装置100では、1対の内輪108a、108bに偏心が生じた場合に、シール部材110の変形状態が変化することで、突き合わせ部114に生じる隙間の大きさが変化する可能性もある。このため、このような面からも、転がり軸受装置100のアキシアル隙間を保証することは困難になる。
【0018】
さらに、従来構造の転がり軸受装置100においては、1対の内輪108a、108bを連結環111により連結した状態で、シール部材110が、連結環111によって径方向内側から完全に覆われている。このため、連結環111を装着した状態で、シール部材110の取付状態を確認することが困難になる。シール部材110の取付状態を確認するために、たとえば、連結環111の円筒部115に貫通孔を形成することなどが考えられるが、この場合には、貫通孔を設けた部分において、シール部材110の接触面圧が低下する可能性があり、シール部材110による密封性能を確保することが難しくなる可能性がある。
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、1対の内輪の突き合わせ部の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
さらに本発明は、必要に応じて、連結環の装着後においてもシール部材の取付状態を確認することができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明にかかる転がり軸受装置は、外輪と、1対の内輪と、複数の転動体と、シール部材と、連結環とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記1対の内輪は、外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有する。
前記転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記シール部材は、前記1対の内輪の突き合わせ部を密封する。
前記連結環は、前記1対の内輪を連結する。
本発明の転がり軸受装置では、前記1対の内輪のうち、軸方向一方側に配置された第1の内輪を、軸方向他方側の端面に、軸方向他方側に配置された第2の内輪の軸方向一方側の端面に突き合わせられる第1突き合わせ面と、前記第1突き合わせ面よりも径方向内側に配置され、かつ、前記第1の内輪の内周面及び軸方向他方側の端面のそれぞれに開口した第1環状凹溝と、を有するものとする。
また、前記第2の内輪を、軸方向一方側の端面に、前記第1突き合わせ面に突き合わせられる第2突き合わせ面と、前記第2突き合わせ面よりも径方向内側に配置され、かつ、前記第2の内輪の内周面及び軸方向一方側の端面のそれぞれに開口した第2環状凹溝と、を有するものとする。
また、前記シール部材を、前記第2環状凹溝にはみ出すことなく、前記第1環状凹溝に取り付けられたシール基部と、前記シール基部から軸方向他方側に向けて伸長し、先端部を前記第2環状凹溝の軸方向底面に接触させたサイドリップと、を有するものとし、前記シール基部を、径方向に曲げ変形した前記サイドリップを収容可能なリップ収容部を有するものとする。
さらに、前記連結環を、前記シール部材を径方向内側から覆うように配置し、径方向に貫通した開口窓を有するものとする。
【0021】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記開口窓を、複数備えることができる。
【0022】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、複数の前記開口窓を、円周方向に離隔し、かつ、円周方向に隣り合う1対の前記開口窓の軸方向位置をずらすように千鳥配置することができる。
【0023】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記シール基部の全体を弾性材製とし、前記シール基部の内周面を、前記連結環の外周面によって支承することができる。
【0024】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記シール基部を、芯金を有するものとし、前記芯金を、前記第1環状凹溝の内周面に内嵌することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、1対の内輪の突き合わせ部の密封性を確保することができ、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる、転がり軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図4】
図4は、連結環を取り出して示す、部分断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第2例を示す、
図3に相当する図である。
【
図6】
図6は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図7】
図7は、従来構造の転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図8】
図8(A)及び
図8(B)は、従来から知られているアキシアル隙間の測定方法を工程順に説明するために示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図4を用いて説明する。本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。
【0028】
〔駆動輪支持装置の全体構成〕
駆動輪支持装置1は、
図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪6及び制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、駆動輪6及び制動用回転体7に駆動トルクを伝達するものであり、全浮動型の構成を有する。
【0029】
なお、駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側である。
【0030】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0031】
車軸管3は、アクスルハウジングとも呼ばれており、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。車軸管3は、外周面の軸方向外側部に、円筒面状の円筒面部8を有する。また、車軸管3は、外周面のうち、円筒面部8の軸方向内側に隣接する部分に軸方向外側を向いた段差面9を有し、円筒面部8の軸方向外側に隣接する部分に、円筒面部8よりも小径の雄ねじ部10を有する。雄ねじ部10には、転がり軸受装置2に予圧を付与するためのナット11が螺合されている。
【0032】
駆動軸5は、アクスルシャフトとも呼ばれており、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないデファレンシャルギヤに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ12を備えている。フランジ12には、複数本のボルト13によりハブ輪4が固定されている。
【0033】
ハブ輪4は、円環形状を有している。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の嵌合面14を有しており、外周面の軸方向中間部に回転フランジ15を有している。回転フランジ15には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材16により、駆動輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト13により固定されている。
【0034】
駆動輪支持装置1は、上記構成により、駆動輪6及び制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを駆動輪6及び制動用回転体7に伝達可能としている。また、全浮動型の駆動輪支持装置1においては、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0035】
以下、本例の転がり軸受装置2の具体的な構造について、
図2~
図4を参照して説明する。
なお、転がり軸受装置2に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図2~
図4の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図2~
図4の右側である。また、本例では、軸方向外側が、軸方向一方側に相当し、軸方向内側が、軸方向他方側に相当する。
【0036】
〈転がり軸受装置〉
転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪回転型である。転がり軸受装置2は、使用状態で回転する外輪17と、使用状態で回転しない1対の内輪18a、18bと、複数個の転動体19a、19bと、シール部材20と、連結環21とを備える。
【0037】
《外輪》
外輪17は、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。外輪17は、外周面に円筒面を有しており、内周面に円すい凹面状の複列の外輪軌道22a、22bを有している。外輪17は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた嵌合面14に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪17は、ハブ輪4とともに回転する。
【0038】
《内輪》
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、内周面に円筒面を有しており、外周面の軸方向中間部に円すい凸面状の単列の内輪軌道23a、23bを有する。1対の内輪18a、18bは、内輪軌道23a、23bの軸方向両側に、大鍔部24a、24bと小鍔部25a、25bとをそれぞれ有する。1対の内輪18a、18bは、互いの小径側端面同士を突き合せた状態で、外輪17の径方向内側に、外輪17と同軸に配置されている。1対の内輪軌道23a、23bは、複列の外輪軌道22a、22bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。
【0039】
1対の内輪18a、18bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた円筒面部8に対し隙間嵌めで外嵌されている。また、1対の内輪18a、18bは、車軸管3の外周面に備えられた段差面9とナット11との間に、軸方向に挟持されている。これにより、転がり軸受装置2には、所定の予圧が付与される。たとえば、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ又は若干量の正もしくは負の値になるように、ナット11の螺合量(螺合位置)を設定している。
【0040】
本例では、1対の内輪18a、18bは、同一部材によって構成されており、軸方向に関して反対向きに配置されている。このため、1対の内輪18a、18bは、軸方向に関する向きが反対である点を除いて、各部の形状及び寸法は互いに同じである。ただし、本発明を実施する場合に、1対の内輪として、各部の形状及び寸法が互いに異なる部材を使用することもできる。
【0041】
図3に示すように、1対の内輪18a、18bのうち、軸方向外側に配置された第1の内輪18aは、軸方向内側の端面である小径側端面に、第1突き合わせ面26aと、第1環状凹溝27aとをそれぞれ有する。
【0042】
第1突き合わせ面26aは、第1の内輪18aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、第1の内輪18aの軸方向内側の端面の径方向外側半部に備えられている。
【0043】
第1環状凹溝27aは、第1突き合わせ面26aよりも径方向内側に位置しており、第1の内輪18aの軸方向内側の端面の径方向内側半部に備えられている。第1環状凹溝27aは、第1の内輪18aの内周面及び軸方向内側の端面のそれぞれに開口しており、略矩形状の断面形状を有している。第1環状凹溝27aの内周面は、円筒面である。第1環状凹溝27aの軸方向底面(軸方向側面)は、第1の内輪18aの中心軸に直交する仮想平面と平行な平坦面である。第1環状凹溝27aの内周面と軸方向底面とは、断面円弧状の隅角部を介してつながっている。
【0044】
第1の内輪18aは、内周面のうち、第1環状凹溝27aよりも軸方向外側に位置する部分に、略矩形状の断面形状を有する係止凹部28aを有する。係止凹部28aは、第1の内輪18aの内周面にのみ開口している。第1の内輪18aの内周面は、係止凹部28aよりも軸方向外側に小径面部29aを有しており、係止凹部28aよりも軸方向内側に、小径面部29aよりも内径の大きい大径面部30aを有している。このため、第1環状凹溝27aは、大径面部30aに開口している。
【0045】
1対の内輪18a、18bのうち、軸方向内側に配置された第2の内輪18bは、軸方向外側の端面である小径側端面に、第2突き合わせ面26bと、第2環状凹溝27bとをそれぞれ有する。
【0046】
第2突き合わせ面26bは、第2の内輪18bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、第2の内輪18bの軸方向外側の端面の径方向外側半部に備えられている。第2突き合わせ面26bの外径寸法及び内径寸法は、第1突き合わせ面26aの外径寸法及び内径寸法と同じである。
【0047】
第2環状凹溝27bは、第2突き合わせ面26bよりも径方向内側に位置しており、第2の内輪18bの軸方向外側の端面の径方向内側半部に備えられている。第2環状凹溝27bは、第2の内輪18bの内周面及び軸方向外側の端面のそれぞれに開口しており、略矩形状の断面形状を有している。第2環状凹溝27bの内周面は、円筒面である。第2環状凹溝27bの軸方向底面(軸方向側面)は、第2の内輪18bの中心軸に直交する仮想平面と平行な平坦面である。第2環状凹溝27bの径方向深さ及び軸方向深さは、第1環状凹溝27aの径方向深さ及び軸方向深さと同じである。第2環状凹溝27bの内周面と軸方向底面とは、断面円弧状の隅角部を介してつながっている。
なお、本発明を実施する場合に、第1環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さと、第2環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さとを、互いに異ならせることもできる。
【0048】
第2の内輪18bは、内周面のうち、第2環状凹溝27bよりも軸方向内側に位置する部分に、略矩形状の断面形状を有する係止凹部28bを有する。係止凹部28bは、第2の内輪18bの内周面にのみ開口している。第2の内輪18bの内周面は、係止凹部28bよりも軸方向内側に小径面部29bを有しており、係止凹部28bよりも軸方向外側に、小径面部29bよりも内径の大きい大径面部30bを有している。このため、第2環状凹溝27bは、大径面部30bに開口している。第2の内輪18bの小径面部29bの内径寸法は、第1の内輪18aの小径面部29bの内径寸法と同じであり、第2の内輪18bの大径面部30bの内径寸法は、第1の内輪18aの大径面部30aの内径寸法と同じである。
【0049】
転がり軸受装置2は、第1の内輪18aの第1突き合わせ面26aと第2の内輪18bの第2突き合わせ面26bとを、面接触させるように軸方向に突き合わせることで、突き合わせ部31を構成している。また、突き合わせ部31を構成した状態で、第1の内輪18aの第1環状凹溝27aと第2の内輪18bの第2環状凹溝27bとが軸方向につながり、略矩形状の断面形状を有し、径方向内側が開口するシール空間32が形成される。
【0050】
《転動体》
複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、円すいころであり、たとえば軸受鋼製又はセラミック製である。複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、外輪軌道22a、22bと内輪軌道23a、23bとの間に、保持器33a、33bにより転動自在に保持された状態で配置されている。また、軸方向外側列の転動体19aのそれぞれは、軸方向外側の端面の一部を大鍔部24aに接触対向させ、かつ、軸方向内側の端面の一部を小鍔部25aに近接対向させている。軸方向内側列の転動体19bのそれぞれは、軸方向内側の端面の一部を大鍔部24bに接触対向させ、かつ、軸方向外側の端面の一部を小鍔部25bに近接対向させている。
【0051】
《シール部材》
シール部材20は、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部31を密封するためのもので、突き合わせ部31の径方向内側に位置するシール空間32に配置されている。
【0052】
図3に示すように、本例の転がり軸受装置2においては、シール部材20を、特開2008-75837号公報に記載されたようなOリングではなく、リップ接触式のシール構造としている。シール部材20は、全体がアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの弾性材製であり、シール基部34と、1本のサイドリップ35とを備える。
【0053】
シール基部34は、円環形状を有しており、略L字形の断面形状を有する。シール基部34は、第2環状凹溝27bにはみ出すことなく、第1環状凹溝27aに取り付けられている。具体的には、シール基部34は、第1環状凹溝27aの内周面に対し締め代を有する状態で内嵌(圧入)されている。また、シール基部34の軸方向外側面は、第1環状凹溝27aの軸方向底面に対し隙間なく当接(密接)している。
【0054】
シール基部34は、自由状態で、第1環状凹溝27aの内周面の直径よりもわずかに大きい外径寸法を有し、かつ、大径面部30aの内径寸法と同じか又は該内径寸法よりもわずかに小さい内径寸法を有する。このため、シール基部34の径方向幅寸法は、第1環状凹溝27aの径方向幅寸法よりも少しだけ大きい。また、シール基部34の軸方向幅寸法は、第1環状凹溝27aの軸方向幅寸法とほぼ同じか又は該軸方向幅寸法よりもわずかに小さい軸方向寸法を有する。このため、シール基部34は、第1環状凹溝27aに取り付けた状態で、第2環状凹溝27bにはみ出すことはないが、径方向内側に少しだけはみ出す。
【0055】
シール基部34は、軸方向内側部の径方向内側半部に、軸方向外側に向けて凹んだ、リップ収容部36を有する。リップ収容部36は、シール基部34の全周にわたり備えられており、略矩形状の断面形状を有する。リップ収容部36は、サイドリップ35を収容可能な形状及び大きさを有している。具体的には、リップ収容部36は、サイドリップ35の円周方向の一部分が径方向内側に曲げ変形した際に、当該曲げ変形した部分を、リップ収容部36の内側に収容できる形状及び大きさを有している。したがって、リップ収容部36の軸方向深さは、サイドリップ35の厚さよりも大きく、かつ、リップ収容部36の径方向深さは、サイドリップ35の長さよりも大きい。シール基部34は、このようなリップ収容部36を備えているため、径方向外側半部が厚肉部37により構成されており、径方向内側半部が厚肉部37よりも軸方向幅寸法の小さい薄肉部38により構成されている。
【0056】
サイドリップ35は、厚肉部37の内周面の軸方向内側の端部に、基端部がつながっている。サイドリップ35は、自由状態で、軸方向内側に向けて伸長している。具体的には、サイドリップ35は、軸方向内側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜している。このため、サイドリップ35は、部分円すい筒形状を有している。シール基部34を第1環状凹溝27aに取り付けた状態で、サイドリップ35の先端部は、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対して、全周にわたり締め代を有する状態で接触している。このため、本例の転がり軸受装置2によれば、車軸管3の内部に存在するデフオイルや外部空間からの泥水などの異物が、車軸管3の外周面と内輪18a、18bの内周面との間の隙間に侵入した後、突き合わせ部31を通じて、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止できる。したがって、転がり軸受装置2の内部に封入したグリースの劣化などを防止できる。
【0057】
サイドリップ35は、外周面の円周方向の一部分に径方向内側に向いた外力が作用した際に、径方向内側に曲げ変形しやすい構成を有している。このために、本例では、サイドリップ35を、軸方向内側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜させるとともに、厚さを十分に小さくしている。図示は省略するが、サイドリップをより小さい力で変形可能とするために、基端部にくびれ部を備えることもできる。
【0058】
本例のシール部材20は、シール基部34が第1環状凹溝27aに配置されており、サイドリップ35が第2環状凹溝27bに配置されている。また、シール基部34の厚肉部37の軸方向内側面は、第1突き合わせ面26aと同一平面上に位置するか又は第1突き合わせ面26aよりもわずかに軸方向外側に位置している。
【0059】
《連結環》
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するためのもので、金属板製である。連結環21は、全体が円環状で、略U字形の断面形状を有している。連結環21は、軸方向中間部に円筒形状を有する円筒部39を有しており、軸方向両側の端部に径方向外側に向けて折れ曲がった外向鍔状の1対の係止部40a、40bを有している。
【0060】
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に跨ぐようにして、1対の内輪18a、18bに内嵌されている。そして、連結環21は、円筒部39によりシール部材20を径方向内側から覆った状態で、1対の係止部40a、40bのそれぞれを、1対の内輪18a、18bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹部28a、28bに対し係止している。換言すれば、軸方向外側の係止部40aの軸方向内側面を、軸方向外側の内輪18aの係止凹部28aの内面のうち軸方向外側を向いた面に突き当て、かつ、軸方向内側の係止部40bの軸方向外側面を、軸方向内側の内輪18bの係止凹部28bの内面のうち軸方向内側を向いた面に突き当てている。これにより、連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結している。したがって、本例の転がり軸受装置2によれば、転がり軸受装置2を車軸管3に組み付ける際に内輪18a、18bに作用する摩擦によって、1対の内輪18a、18bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された第1の内輪18aと車軸管3との衝突によって、第1の内輪18aが車軸管3から軸方向に抜け出したりすることを防止できる。
【0061】
円筒部39は、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定であり、自由状態で、大径面部30a、30bの内径寸法と同じか又は該内径寸法よりもわずかに大きい外径寸法を有する。このため、連結環21を、1対の内輪18a、18bに装着(内嵌)した状態で、円筒部39の外周面は大径面部30a、30bの内周面に対して接触している。また、連結環21を、1対の内輪18a、18bに装着した状態で、円筒部39の外周面より、シール部材20を構成するシール基部34の内周面を径方向外側に向けて押圧している。別な言い方をすれば、円筒部39の外周面より、シール基部34の内周面を支えている。円筒部39は、小径面部29a、29bの内径寸法よりも大きい内径寸法を有する。
【0062】
図4に示すように、本例の転がり軸受装置2においては、円筒部39は、軸方向中間部の円周方向の複数箇所に、開口窓41a、41bを有する。複数の開口窓41a、41bは、円周方向に離隔して配置されており、それぞれが円筒部39を径方向に貫通している。開口窓41a、41bは、それぞれが略矩形状の開口形状を有している。
【0063】
開口窓41aと開口窓41bとは、円周方向に関して交互に配置されている。円周方向に隣り合う1対の開口窓41a、41bは、互いの軸方向位置をずらすように、千鳥配置されている。具体的には、一方の開口窓41aは、それぞれの軸方向中央部を通る中心線Aを、円筒部39の軸方向中央部を通る中心線Oよりも軸方向外側にオフセットして配置されており、他方の開口窓41bは、それぞれの軸方向中央部を通る中心線Bを、円筒部39の軸方向中央部を通る中心線Oよりも軸方向内側にオフセットして配置されている。本例では、開口窓41aと開口窓41bとの、円筒部39の軸方向中央部を通る中心線Oに対するオフセット量(X1、X2)を互いに同じとしている。
【0064】
本例では、開口窓41a及び開口窓41bのそれぞれの少なくとも一部が、シール空間32に開口するように、開口窓41a、41bの大きさ、形状及び軸方向オフセット量を規制している。また、連結環21を1対の内輪18a、18bに装着した状態で、開口窓41bの軸方向内側の端縁部の軸方向位置が、第2環状凹溝27bの軸方向底面の軸方向位置と同じか又は該軸方向位置よりも軸方向内側に位置するように、開口窓41bの大きさ及びオフセット量を規制している。また、図示の例では、開口窓41bの軸方向外側の端縁部の軸方向位置が、シール基部34の薄肉部38の軸方向内側面の軸方向位置と略一致するように、開口窓41bの大きさ及びオフセット量を規制している。
【0065】
《密封装置》
図1及び
図2に示すように、本例の転がり軸受装置2は、外輪17の内周面と1対の内輪18a、18bの外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部を塞ぐために、1対の密封装置42a、42bをさらに備える。一方の密封装置42aは、外輪17の内周面の軸方向外側部と第1の内輪18aを構成する大鍔部24aの外周面との間に配置されている。他方の密封装置42bは、外輪17の内周面の軸方向内側部と第2の内輪18bを構成する大鍔部24bの外周面との間に配置されている。このような密封装置42a、42bにより、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が内部空間に侵入することを防止している。
【0066】
以上のような本例の転がり軸受装置2によれば、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部31の密封性を確保でき、かつ、アキシアル隙間の保証を行うことができる。
すなわち、本例では、突き合わせ部31を密封するために使用するシール部材20を、特開2008-75837号公報に記載された従来構造のように1対の内輪の小径側端面同士の間で押し潰す必要のあるOリングではなく、サイドリップ35の先端部を第2環状凹溝27bの軸方向底面に接触させる、リップ接触式のシール構造としている。このため、Oリングを用いた場合と同様に、突き合わせ部31の密封性を十分に確保できる。また、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対するサイドリップ35のシール接触圧は、前記従来構造のように、1対の内輪の小径側端面同士の間でOリングを押し潰した場合のシール接触圧に比べて十分に低くなる。このため、本例の転がり軸受装置2によれば、前記
図8に示したような従来から知れている測定方法により、アキシアル隙間を測定すべく、1対の内輪18a、18bを連結環21により連結した状態においても、シール部材20の弾力に起因して突き合わせ部31に隙間が生じることを防止できる。したがって、本例の転がり軸受装置2は、従来から知られている測定方法により、アキシアル隙間の基準値の測定を正確に行うことができる。したがって、アキシアル隙間を正確に測定でき、アキシアル隙間を保証することが可能になる。また、これにより、転がり軸受装置2に対して、適切な予圧を付与することも可能になる。
【0067】
さらに、本例の転がり軸受装置2によれば、1対の内輪18a、18bに偏心が生じた場合にも、突き合わせ部31に隙間が生じることを有効に防止できる。たとえば、
図3に示した状態から、アキシアル隙間の測定時などに、第2の内輪18bが第1の内輪18aに対して下側に相対変位するように偏心した場合、サイドリップ35の外周面の円周方向の一部分(
図3の上部)に、第2の内輪18bの軸方向外側の端部内周面から径方向内側に向いた外力が作用する。サイドリップ35は、このような外力が加わると、
図3中に破線で示すように、基端部から折れ曲がるように径方向内側に曲げ変形する。そして、サイドリップ35のうちで、曲げ変形が生じた部分は、シール基部34に備えられたリップ収容部36に収容される。このように本例では、1対の内輪18a、18bに偏心が生じた場合に、サイドリップ35を径方向内側に曲げ変形させて、サイドリップ35をリップ収容部36に収容することができる。このため、1対の内輪18a、18bに偏心が生じた場合にも、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対するサイドリップ35のシール接触圧が増大することを防止でき、突き合わせ部31に隙間が生じることを有効に防止できる。したがって、転がり軸受装置2のアキシアル隙間を保証する面で有利になる。また、1対の内輪18a、18bの偏心が解消されれば、サイドリップ35は、復元力により実線の状態に復帰する。
【0068】
また、本例の転がり軸受装置2では、連結環21を1対の内輪18a、18bに装着した状態においても、円筒部39に備えられた開口窓41a、41bからシール部材20の取付状態を確認することができる。本例では、サイドリップ35の先端部を第2環状凹溝27bの軸方向底面に接触させることにより、突き合わせ部31の密封性を確保しているため、円筒部39に開口窓41a、41bを形成した場合にも、シール部材20による密封性が低下することはない。
【0069】
本例では、開口窓41bの軸方向内側の端縁部の軸方向位置を、第2環状凹溝27bの軸方向底面の軸方向位置と同じか又は該軸方向位置よりも軸方向内側に位置させているため、開口窓41bを通じて、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対するサイドリップ35の先端部の接触状態を確認することができる。また、開口窓41bの軸方向外側の端縁部の軸方向位置を、シール基部34の薄肉部38の軸方向内側面の軸方向位置と略一致させているため、円筒部39のうちで、シール基部34の内周面を支承しない部分を少なくできる。このため、シール基部34を、第1環状凹溝27aの内周面と円筒部39の外周面との間で安定して挟持できるため、シール基部34(シール部材20)が軸方向に変位するのを有効に防止できる。
【0070】
本例では、千鳥配置した開口窓41aと開口窓41bとのオフセット量(X1、X2)を互いに同じとしているため、連結環21の取り付けの方向性をなくすことができる。このため、連結環21の取り付け作業性を向上することができる。
【0071】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図5を用いて説明する。
【0072】
本例の転がり軸受装置2aは、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部31を密封するためのシール部材20aの構造、及び、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するための連結環21aの構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0073】
本例のシール部材20aは、全体がゴムなどの弾性材製ではなく、金属製の芯金43を備える。具体的には、シール部材20aは、芯金43と弾性部44とから構成されるシール基部34aと、サイドリップ35aとを備える。言い方を換えれば、実施の形態の第1例のシール基部は、弾性部のみから構成されていると表現することもできる。
【0074】
芯金43は、金属板製で、全体が円環形状を有しており、略L字形の断面形状を有する。芯金43は、嵌合筒部45と、嵌合筒部45の軸方向外側の端部から径方向内側に折れ曲がった折れ曲がり部46とを有する。シール部材20aのシール基部34aを第1環状凹溝27aに取り付けた状態で、嵌合筒部45を、第1環状凹溝27aの内周面に対し締め代を有する状態で内嵌(圧入)している。また、折れ曲がり部46の軸方向外側面を、第1環状凹溝27aの軸方向底面に対し突き当てている。
【0075】
弾性部44は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの弾性材製で、サイドリップ35aと一体に備えられている。弾性部44は、芯金43の表面に、全周にわたり、加硫接着などにより固定されている。弾性部44は、軸方向内側部の径方向中間部ないし径方向内側の端部に、軸方向外側に向けて凹んだ、リップ収容部36aを有する。リップ収容部36aは、弾性部44の全周にわたり備えられており、略矩形状の断面形状を有する。リップ収容部36aは、サイドリップ35aを収容可能な形状及び大きさを有している。弾性部44は、このようなリップ収容部36aを備えているため、径方向外側部が厚肉部37aにより構成されており、径方向中間部ないし径方向内側の端部が厚肉部37aよりも軸方向幅寸法の小さい薄肉部38aにより構成されている。
【0076】
サイドリップ35aは、厚肉部37aの内周面の軸方向内側部に、基端部がつながっている。サイドリップ35aは、軸方向内側に向けて伸長しており、軸方向内側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜している。シール基部34aを第1環状凹溝27aに取り付けた状態で、サイドリップ35aの先端部は、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対して、全周にわたり締め代を有する状態で接触している。
【0077】
本例の連結環21aは、それぞれの軸方向中央部を通る中心線が、円筒部39の軸方向中央部を通る中心線上に配置された、複数の開口窓41cを有する。開口窓41cは、円周方向に関して等間隔に配置されており、それぞれが円筒部39を径方向に貫通している。開口窓41cは、略矩形状の開口形状を有している。
【0078】
本例では、連結環21aを1対の内輪18a、18bに装着した状態で、開口窓41cの軸方向外側の端縁部の軸方向位置を、第1環状凹溝27aの軸方向底面よりもわずかに軸方向外側に位置させており、かつ、開口窓41cの軸方向内側の端縁部の軸方向位置を、第2環状凹溝27bの軸方向底面よりもわずかに軸方向内側に位置させている。つまり、開口窓41cを、シール空間32の軸方向全範囲に対して開口させている。
【0079】
以上のような本例では、シール基部34aを芯金43と弾性部44とから構成し、このうちの芯金43を利用して、シール部材20aを第1環状凹溝27aに取り付けている。このため、第1環状凹溝27aに対するシール部材20aの組み付け性を向上することができる。また、芯金43を構成する嵌合筒部45を、第1環状凹溝27aの内周面に対し締め代を有する状態で内嵌しているため、シール基部34a(シール部材20a)が軸方向に変位するのを有効に防止できる。さらに、連結環21aとして、円筒部39の軸方向中央部に配置された複数の開口窓41cを有するものを使用しているため、いずれの開口窓41cを通じても、第2環状凹溝27bの軸方向底面に対するサイドリップ35aの先端部の接触状態を確認することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0081】
上述した実施の形態の各例では、第1の内輪を軸方向外側に配置し、かつ、第2の内輪を軸方向内側に配置しているが、本発明の転がり軸受装置を、駆動輪支持装置に適用する場合、第1の内輪を軸方向内側に配置し、第2の内輪を軸方向外側に配置することもできる。また、本発明を実施する場合に、シール部材が備えるサイドリップの形状は、実施の形態の各例の構造に限定されず、突き合わせ部の密封性の確保と、径方向内側への変形性を備える限り、適宜変更することができる。また、連結環に備える開口窓についても、数、大きさ形状及び軸方向オフセット量は、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。さらに、本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 駆動輪支持装置
2、2a 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 駆動輪
7 制動用回転体
8 円筒面部
9 段差面
10 雄ねじ部
11 ナット
12 フランジ
13 ボルト
14 嵌合面
15 回転フランジ
16 結合部材
17 外輪
18a、18b 内輪
19a、19b 転動体
20、20a シール部材
21、21a 連結環
22a、22b 外輪軌道
23a、23b 内輪軌道
24a、24b 大鍔部
25a、25b 小鍔部
26a 第1突き合わせ面
26b 第2突き合わせ面
27a 第1環状凹溝
27b 第2環状凹溝
28a、28b 係止凹部
29a、29b 小径面部
30a、30b 大径面部
31 突き合わせ部
32 シール空間
33a、33b 保持器
34、34a シール基部
35、35a サイドリップ
36、36a リップ収容部
37、37a 厚肉部
38、38a 薄肉部
39 円筒部
40a、40b 係止部
41a、41b、41c 開口窓
42a、42b 密封装置
43 芯金
44 弾性部
45 嵌合筒部
46 折れ曲がり部
100 転がり軸受装置
101 車軸管
102 ハブ輪
103 駆動軸
104 フランジ
105 駆動輪
106 制動用回転体
107、107x 外輪
108a、108b、108x、108y 内輪
109a、109b、109x、108y 転動体
110 シール部材
111 連結環
112a、112b 外輪軌道
113a、113b 内輪軌道
114 突き合わせ部
115 円筒部
116 係止部
117a、117b 係止凹部
118 基準面
119 変位計