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特開2022-143138積層型歯科切削加工用レジン系ブランク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143138
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】積層型歯科切削加工用レジン系ブランク
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/15 20200101AFI20220926BHJP
   A61K 6/78 20200101ALI20220926BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20220926BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20220926BHJP
   A61K 6/878 20200101ALI20220926BHJP
   A61C 13/087 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
A61K6/15
A61K6/78
A61K6/887
A61K6/831
A61K6/878
A61C13/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043493
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】曽雌 杏南
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA02
4C089BA05
4C089BA13
4C089BD02
4C089BE03
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】
【課題】生産性に優れた方法で歯頚部近傍から切端部にかけての色調変化を再現可能とする積層型歯科切削加工用レジン系ブランクを提供すること。
【解決手段】 歯科切削加工用レジン系ブランクの被切削加工部を、顔料等を配合し、着色されたハイブリッドレジンからなる第一層と第二層の間に、顔料等を実質的に含まず、光の入射角度に依存せず特定色調の構造色を発現することで周囲の色調に適合させることができるという特長を有する構造色系ハイブリッドレジンからなる中間層が配置された3層の積層構造を有する多層構造とし、且つ中間層の厚みを0.1~3mmの範囲とすると共に各層間の色の差である色差で表したときに、第一層・第二層間の色差が2~30となり、第一層・中間層間の色差が2~25となり、更に第二層・中間層の色差が5~30となるように調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用レジン系ブランクにおいて、
前記被切削加工部は、第一層、第二層及びこれら層の間に介在する中間層を含む多層構造を有し、
前記第一層、前記第二層及び前記中間層を構成する前に複合材料を、夫々、第一複合材料、第二複合材料及び中間複合材料としたときに、
前記第一複合材料及び前記第二複合材料は、顔料及び/又は染料を含むと共に、互いに異なる所定の色調を有し、
前記中間複合材料は、光の入射角度によらない所定の色調の構造色を発現する複合材料からなり、
前記中間層の厚さは、0.1mm~3mmであり、
前記複合材料の色を厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計を用いた背景色白での測定によって得られるL値、a値及びb値で表し、2種類の前記複合材料の色の差を、両者の上記各パラメータの差であるΔL、Δa及びΔb用いて下記式:
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
で定義される色差:ΔEで表したときに、
前記第一層の色と前記第二層の色との差を表す色差:ΔE 1-2が2~30の範囲内であり、
前記第一層の色と前記中間層の色との差を表す色差:ΔE 1-Mが2~25の範囲内であり、
前記第二層の色と前記中間層の色の差を表す色差:ΔE 2-Mが5~30の範囲内である、
ことを特徴とする積層型歯科切削加工用レジン系ブランク。
【請求項2】
前記被切削加工部における前記多層構造が、前記第一層、前記第二層及び前記中間層からなる三層構造である、請求項1に記載の積層型歯科切削加工用レジン系ブランク。
【請求項3】
前記複合材料の透明性を、厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計による色差測定を行ったときに得られる、白背景でのY値:Yと、黒背景でのY値:Yと、を用いて、両者の比の値:Y/Y値で定義されるコントラスト比:CRを指標として表したときに、
前記第一複合材料のコントラスト比:CR及び前記第二複合材料のコントラスト比:CRが、共に0.50~0.65であり(但し、CRとCRとは、互いに異なる値でもよい。)、前記中間複合材料のコントラスト比:CRが0.28~0.46である、請求項1又は2に記載の積層型歯科切削加工用レジン系ブランク。
【請求項4】
前記第一複合材料が切端部色系統の色を有し、前記第二複合材料が歯頚部色系統の色を有し、前記中間複合材料は、顔料及び/又は染料を実質的に含まず、波長が550~770nmである構造色を発現する、請求項1~3の何れか一項に記載の積層型歯科切削加工用レジン系ブランク。
【請求項5】
前記第一複合材料における顔料及び/又は色素の合計配合量が当該第一複合材料の総質量に対して100質量ppm以下であり、前記第二複合材料における顔料及び/又は色素の合計配合量が当該第二複合材料の総質量に対して500~7000質量ppmである、
請求項1~4の何れか一項に記載の積層型歯科切削加工用レジン系ブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレジン系材料層が積層された積層体からなる被切削加工部を有する積層型歯科切削加工用ミルブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造体などの歯科用修復物(或いは歯科用補綴物)の作製において、デジタル化技術の利用が進んでいる。たとえば、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科切削加工用ブランクに切削加工を施して歯科用修復物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科切削加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。なお、歯科切削加工用ブランクには、これを切削加工機に固定するための保持ピンが接合されることも多く、このような形態においては保持ピンと一体化したものを歯科切削加工用ブランクと呼ぶこともある。本発明では、このような保持ピンと一体化した形態を含めて歯科切削加工用ブランクと称する。そして、被切削体本体(歯科切削加工用ブランク本体)を被切削加工部と称することもある。
【0003】
歯科切削加工用ブランクの被切削加工部となる材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。これらの中でも、シリカ等の無機充填材、メタクリレート樹脂などの重合性単量体、重合開始剤を含有する硬化性組成物の硬化体からなるレジン系材料(ハイブリッドレジンとも呼ばれる。)は、その作業性(切削加工性)の高さ、高審美性、強度等の点から注目を集めている。
【0004】
ところで、歯科治療では、天然歯牙の色調に可能な限り近い外観を付与する事が要求されるが、このような審美的要求を満たすために、顔料物質や染料物質を、その種類や配合量を変えて添加し、色調が調整された単一成分からなる単層構造の歯科切削加工用レジン系ブランクや、異なる色調の成分を積層して構成される多層構造の歯科切削加工用レジン系ブランクが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、汎用性と生産性に優れ、なおかつ天然歯の美観の再現性が高いとする歯科切削加工用レジン系ブランクとして、象牙質修復用レジン層とエナメル質修復用レジン層とが積層された歯科CAD/CAM用レジン系ブロックであって、少なくとも象牙質修復用レジン層は光拡散性粒子を含有し、特定の拡散比を有する歯科CAD/CAM用レジンブロックが提案されている。また、特許文献3には、より天然歯と同様の色調及び透明性を有する歯科用補綴物を切削加工により提供できる、歯科用ミルブランクとして、前記積層体が、最上層、少なくとも1層の中間層、及び最下層の少なくとも3層を含み、前記積層体を構成する各層が、充填材(A)及び重合体(B)を含み、各層の前記充填材(A)が、少なくとも1種の無機粒子(a)及び少なくとも1種の顔料(C)を含み、前記最上層と前記最下層の色度差ΔE Tが5.0以上15.0以下であり、前記最上層と前記最下層の透明性差ΔΔL Tが5.0以上15.0以下であり、全ての隣接する層の色度差ΔEが1.0以上5.5以下であり、全ての隣接する層の透明性差ΔΔLが1.0以上5.0以下であり、最上層の透明性ΔL Hが13.5以上25.0以下であり、最下層の透明性ΔL*Lが7.0以上13.0以下である、歯科用ミルブランクが提案されている。
【0006】
また、単層構造の歯科切削加工用レジン系ブランクにおいては、所謂構造色を発現することにより、顔料等を用いることなく天然歯牙との色調和を図ることができるものも知られている。すなわち、特許文献4には、「樹脂マトリックス(A)及び平均粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状フィラー(B)を含有する歯科切削加工用レジン系ブロックであって、前記球状フィラー(B)を構成する個々の粒子のうち90%以上が平均粒子径の前後の5%の範囲内に存在し、厚さ10mmでの、色差計を用いて測定した、黒背景下および白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5.0未満、彩度(C)が2.0未満であり、且つ厚さ1mmでの色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5.0未満であり、彩度(C)が0.05以上であり、且つ白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が6.0以上であり、彩度(C)が2.0未満であることを特徴とする歯科切削加工用レジン系ブロック」が開示されている。そして、特許文献4によれば、上記歯科切削加工用レジン系ブロックは、前記球状フィラー(B)を構成する個々の粒子のうち90%以上が平均粒子径の前後の5%の範囲内に存在し、且つ前記樹脂マトリックス(A)及び球状フィラー(B)は、前記樹脂マトリックス(A)の25℃における屈折率をnPとし、前記球状フィラー(B)の25℃における屈折率をnFとしたときに、nP<nFという条件を満足することにより、球状フィラー(B)の粒径に応じて、構造色として特定の色調の着色光を発現し、黒背景下ではその着色光に応じて特有の反射スペクトルとして明瞭に確認されるが、白背景下では、可視スペクトルの実質的な全範囲にわたり、実質的に均一な反射率を示し、可視スペクトルの光は確認されないという性質を示し、様々な周辺環境に対して幅広く調和する効果が発揮される、旨が説明されている。
【0007】
なお、特許文献4に示される上記歯科切削加工用レジン系ブロックの被切削加工部となるハイブリッドレジンに相当する、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料については、無機粒子の形状及び粒度分布、無機粒子の屈折率と樹脂マトリックスの屈折率との関係、及び無機粒子の分散状態が特定の条件を満足するときに、光の入射角の変化に左右されない一定の色調の構造色を発色することが知られている(特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2016-535610号公報
【特許文献2】特開2017-213394号公報
【特許文献3】国際公開第2018/074605号
【特許文献4】国際公開第2019/189698号パンフレット
【特許文献5】特許第6732257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
天然歯牙は、歯頚部は不透明で赤黄色みが強く、切端に向かって白色透明な色調に徐々に変化しており、天然歯牙の切端と歯頚部は色が大きく異なるばかりでなく、天然歯牙の全体の色調(シェードと呼ばれることもある)には、個人差がある。そのため、天然歯牙の色調を高度に表現するためには、歯頚部から切端部にかけての色調変化を再現する多層構造のミルブランク(多層ミルブランクともよばれる。)をシェードごとに用意する必要がある。また、歯頚部色から切端部色に移行するようシェードごとに異なる色調の中間層を調色し、さらに層数を増やすことで滑らかな色調の移行を表現することが可能であるが、シェードごとに複数の色調の中間層を製造することは、製造に労力を要する。
【0010】
そこで、本発明は、歯頚部色から切端部色に滑らかな色調移行が可能であり、生産性の高い歯科切削加工用レジン系ブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の一の形態は、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用レジン系ブランクにおいて、前記被切削加工部は、第一層、第二層及びこれら層の間に介在する中間層を含む多層構造を有し、前記第一層、前記第二層及び前記中間層を構成する前に複合材料を、夫々、第一複合材料、第二複合材料及び中間複合材料としたときに、前記第一複合材料及び前記第二複合材料は、顔料及び/又は染料を含むと共に、互いに異なる所定の色調を有し、前記中間複合材料は、光の入射角度によらない所定の色調の構造色を発現する複合材料からなり、前記中間層の厚さは、0.1mm~3mmであり、前記複合材料の色を厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計を用いた背景色白での測定によって得られるL値、a値及びb値で表し、2種類の前記複合材料の色の差を、両者の上記各パラメータの差であるΔL、Δa及びΔb用いて下記式:
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
で定義される色差:ΔEで表したときに、前記第一層の色と前記第二層の色との差を表す色差:ΔE 1-2が2~30の範囲内であり、前記第一層の色と前記中間層の色との差を表す色差:ΔE 1-Mが2~25の範囲内であり、前記第二層の色と前記中間層の色の差を表す色差:ΔE 2-Mが5~30の範囲内である、ことを特徴とする積層型歯科切削加工用レジン系ブランクである。
【0012】
上記形態の積層型歯科切削加工用レジン系ブランク(以下、「本発明のブランク」ともいう。)においては、前記被切削加工部における前記多層構造が、前記第一層、前記第二層及び前記中間層からなる三層構造であることが好ましい。
【0013】
また、前記第一複合材料が切端部色系統の色を有し、前記第二複合材料が歯頚部色系統の色を有し、前記中間複合材料は、顔料及び/又は染料を実質的に含まず、波長が550~770nmである構造色を発現することが好ましい。
【0014】
さらに、前記複合材料の透明性を、厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計による色差測定を行ったときに得られる、白背景でのY値:Yと、黒背景でのY値:Yと、を用いて、両者の比の値:Y/Y値で定義されるコントラスト比:CRを指標として表したときに、前記第一複合材料のコントラスト比:CR及び前記第二複合材料のコントラスト比:CRが、共に0.50~0.65であり(但し、CRとCRとは、互いに異なる値でもよい。)、前記中間複合材料のコントラスト比:CRが0.28~0.46である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のブランクは、歯頸部から切端部にかけて滑らかなグラデーションとなっている様子を高度に表現できるようになる。しかも、色調移行層となる中間層は1層だけでよく、さらに顔料や染料を用いた色調調整を必要としない。また、中間層の両端に配置される第一層及び第二で、異なる“切端部色系統の色と歯頚部色系統の色との組み合わせ”を採用した場合でも、中間層を変更する必要は無い。そのため、特許文献3に開示された方法のように3層間の色度差や透明性差を高度に調整して積層する場合と比べて、汎用性と生産性が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、歯頚部色と切端部色に調色したハイブリッドレジン層(以下、「調色レジン層」ともいう。)の間に、中間層として構造色を発現するハイブリッドレジン層(以下、「構造色レジン層」ともいう。)を介在させることで、構造色レジン層の有する“様々な周辺環境に対して幅広く調和可能となる効果”が発揮され、構造色レジン層が歯頚部近傍では歯頚部色に、切端部近傍では切端部色に調和され、歯頚部色から切端部色にかけて滑らかな色調移行が発揮されるのではないかと考え、検討を行った。その結果、所期の効果が得られる場合と得られない場合があることが判明した。そこで、確実に前記効果を得られる条件ついて検討を行った結果、中間層の厚さと各層間の色の差(色差)を特定の範囲とした場合には、確実に前記硬化を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0017】
本発明は、何ら論理に拘束されるものではないが、中間層の厚みを制御することにより滑らかな色調移行が可能のとなったのは、次のような理由によるものと考えている。すなわち、中間層(構造色レジン層)の厚みが上限値を越えて厚くなった場合には、第一層や第二層(調色レジン層)の色を反映した光が中央部分に届かないため、白背景下の場合と同様に、構造色による色の調整効果が得られずに本来の構造色レジン層の色が発現してしまい不自然に見えるようになってしまい、逆に中間層の厚みが下限値を越えて薄くなった場合には、中間層中において第一層の色を反映した光と第二層の色を反映した光が(減衰されずに)直接ぶつかるため、色調移行層としての機能を発揮することができないと考えられる。これに対し、中間層の厚みが本発明で規定する範囲内にある場合には、第一層の色を反映した光と第二層の色を反映した光が減衰されながら(これらの色が徐々に弱められながら)中間層中を進行して中央付近で衝突すると考えられる。このとき、中間層を進行する夫々の色を反映した光は、中間層に由来する構造色を反映する光と合成されるため、中間層内では自然なグラデーションが見られるようになる。さらに第一層と第二層の色との差を表す色差:ΔE 1-2と第一層の色と前記中間層の色との差を表す色差:ΔE 1-Mと前記第二層の色と前記中間層の色の差を表す色差:ΔE 2-Mの値が夫々一定の範囲内であることによって、各層間が適度に暈けて、全体として滑らかな色調移行が起こるようになったと考えられる。
【0018】
以下、本発明のブランクについて詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、屈折率は特に断りがない限り、ナトリウムD線で測定した25℃における屈折率を意味する。
【0019】
1.本発明のブランクの概要
本発明のブランクは、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料(ハイブリッドレジンに該当する。)からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用レジン系ブランクである。そして、前記効果を得るために、下記[1]~[3]の条件を満足する点に大きな特徴を有している。
【0020】
[1] 被切削加工部が、中間複合材料、すなわち、光の入射角度に依存しない所定の色の構造色(以下、「特定構造色」とも言う。)を発現するハイブリッドレジン(以下、「構造色系ハイブリッドレジン」ともいう。)からなる中間層(構造色レジン層)の両端に、第一複合材料及び第二複合材料、すなわち、顔料及び/又は染料を含むと共に、互いに異なる所定の色調を有する複合材料(特定構造色の発現が目視で確認できなくなったハイブリッドレジンであることから、以下、「非構造色系ハイブリッドレジン」ともいう。)からなる層(調色レジン層)が配置された3層構造を含む多層構造を有すること。
【0021】
[2] 前記中間層の厚さが特定の範囲、具体的には0.1mm~3mmであること。
【0022】
[3] 各層間の色の差:ΔE 1-2、ΔE 1-Mと及びΔE 2-Mの値が、それぞれ特定の範囲にある点。具体的には、ΔE 1-2=2~30、ΔE 1-M=2~25及びΔE 2-M=5~30の範囲内であること。
【0023】
本発明のブランクは、上記3条件を満足する点を除けば従来のハイブリッドレジン系歯科切削加工用ブランクと特に変わる点は無く、必要に応じて保持ピン等の切削加工機に固定するための保持部材を有していてもよい。また、被切削部の形状及び大きさも特に限定されず、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロックであってもよく、板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスクであってもよい。
【0024】
以下に、前記各条件について説明する。
【0025】
2.条件[1]について
第一複合材料、第二複合材料及び中間複合材料は、何れもハイブリッドレジン、すなわち樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料に該当するが、第一複合材料及び第二複合材料は、顔料及び/又は染料を配合することにより調色されている非構造色系ハイブリッドレジンであるのに対し、中間複合材料としては、単一の中間層において自然なグラデーションを得るために、特定構造色を発現する構造色系ハイブリッドレジンを使用する必要がある。
【0026】
本発明のブランクにおいて、第一複合材料及び第二複合材料の色は、ΔE 1-2=2~30を満足する限りにおいて特に限定されないが、前記第一複合材料が切端部色系統の色を有し、前記第二複合材料が歯頚部色系統の色を有していることが好ましい。ここで、切端部色系統の色及び歯頚部色系統の色は夫々広がりを有し、一概に規定することは難しいが1本の歯牙における組み合わせで定性的かつ相対的に説明すると、歯頚部色系統の色は、歯牙の歯肉部付近の色であり、切端部色系統の色と比較して赤みが強く青みが低くなっており、明度も低くなっている。また、透明性は、切端部(第一複合材料)よりも歯頚部(第二複合材料)の方が低くなっている。
【0027】
本発明のブランクの被切削加工部は、上記多層構造を有するものであれば、第一層と第二層、及び中間層の3層構造のものであってもよく、更に第一層及び/又は第二層の外側に1層以上の層が追加された4層以上の多層構造のものであってもよい。製造に要するコストや手間が少なく、且つ実用上十分な「滑らかな色調移行性」が得られるという理由から、上記3層構造からなることが好ましい。
【0028】
中間複合材料は、前記特許文献4に記載された構造色レジン系ブランクで使用される複合材料と同様に所定の平均(一次)粒子径及び所定の粒度分布を有する無機球状粒子を含み、光の入射角度に依存しない(含まれる同一粒径球状粒子群の平均粒子径に応じた)所定の色の構造色(特定構造色)を発現するものである。ここで、特定構造色を発現するとは、その硬化体(具体的には厚さ1mmの硬化体試料)について分光光度計を用いて、分光反射率を測定したときに、黒背景の測定では特定の波長域に特定構造色に由来するピーク(極大点)が観察されるのに対し、白背景の測定では、(背景による反射光の影響を受けて)特定構造色に由来するピーク(極大点)が観察されなくなる状態であることを意味する。なお、以下、このような黒背景の測定観察されるピーク波長を特定構造色の波長という。効果の観点から、中間複合材料となる構造色系ハイブリッドレジンは、特定構造色の波長が550~770nm、特に600~750nmである構造色を発現することが好ましい。
【0029】
以下に、中間複合材料として使用される、構造色系ハイブリッドレジン並びに第一複合材料及び第二複合材料として使用される非構造色系ハイブリッドレジンの概略について説明する。なお、これらハイブリッドレジンは原料となる硬化性組成物の硬化体であるので、その詳細については、本発明のブランクを製造する際に使用する原料組成物の説明として後述する。
【0030】
2-1.構造色系ハイブリッドレジンの概要
中間複合材料として使用される構造色系ハイブリッドレジンについては、特定構造色を発現するために満たすべき条件が知られており(特許文献5参照)、本発明における中間複合材料としては、前記特許文献5に記載された下記条件I~Vを満足する複合材料が特に制限なく使用できる。
【0031】
条件I: 樹脂マトリックス中にする無機粒子が1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と“超微細粒子群”(G-SFP)とを含むこと。
なお、G-PIDとは、100~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、同一粒径球状粒子群を意味する。ここでいう無機球状粒子の平均一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡によりG-PIDの写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求めた平均値を意味する。また、球状とは、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。走査型電子顕微鏡でG-PIDの写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について最大径を測定し、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであればよい。
またG-SFPとは、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる超微細粒子群を意味する。ここでいう無機粒子の平均一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡によりG-PIDの写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求めた平均値を意味する。
【0032】
条件II: 前記無機粒子に含まれる前記“同一粒径球状粒子群”の数をaとしたときの各“同一粒径球状粒子群”を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各G-PIDの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよく、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっていること。
【0033】
条件III: 前記“超微細粒子群”(G-SFP)の平均一次粒子径は、前記G-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さいこと。
【0034】
条件IV: 前記樹脂マトリックスの、屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても、下記関係が成り立つこと。
(MX)<n(G-PIDm)
【0035】
条件V: 前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、前記複合材料の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の前記無機球状粒子の平均粒子密度:〈ρ〉、及び当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数:dn、並びに前記領域の面積:da(ただし、da=2πr・drである。)に基づいて下記式(1)
g(r)={1/〈ρ〉}×{dn/da} ・・・(1)
で定義される関数:g(r)を動径分布関数としたときに、前記樹脂マトリックス中における、全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子の配列構造が下記条件1及び条件2を満たす短距離秩序構造を有していることを特徴とする前記複合材料。
【0036】
[条件1] 前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで、除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係をあらわした動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である。
【0037】
[条件2] 前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である。
【0038】
2-2.非構造色系ハイブリッドレジンの概要
一方、第一複合材料及び第二複合材料として使用される非構造色系ハイブリッドレジンは、前記特許文献5の条件を満足しないことによって、又は顔料等を多量に配合したことによって特定構造色の発現が目視で確認できなくなったハイブリッドレジンであり、顔料及び/又は染料を配合することにより、それぞれ異なる色調に調色されている。
【0039】
第一層及び/又は第二層の外側に1層以上の層を追加する場合の追加層も非構造色系ハイブリッドレジンからなり、第一層の外側に追加される層は、切端部色系統の色調で第一層の色調よりも薄い色調(追加層が複数の場合は、外側に向かって順次より薄い色調)であることが好ましく、第二層の外側に追加される層は、歯頚部色系統の色調で第二層の色調よりも濃い色調(追加層が複数の場合は、外側に向かって順次より濃い色調)であることが好ましい。
【0040】
3.条件[2]について
前記したように、第一層の色調を反映した光と第二層の色調を反映した光が減衰されながら(これらの色調が徐々に弱められながら)中間層中を進行して中央付近で衝突して滑らかな色調移行が起こるようになるために、中間層の厚さは、0.1mm~3mmである必要がある。この範囲外の場合には、本発明の効果を得ることが困難である。効果の観点から、中間層の厚みは0.1mm~2mmであることが好ましく、0.3mm~1.5mmであることがより好ましい。なお、第一層及び第二層の厚みは、特に限定されないが、通常は、1~13mm、好ましくは2~12mmの範囲である。
【0041】
4.条件[3]について
条件[3]は、各層間の色の差:ΔEを特定するものである。そこで先ず、色及び色差:ΔEについて説明する。
【0042】
色相、明度及び彩度によって規定される色を表す色表系の一つに明度をL、色相をa、彩度bで表すL色空間(表色系)がある。そして、2つの色の異なりの程度を表す指標として、下記式で定義される色差:ΔEがあり、その値が大きいほど両者の色が異なることを意味する。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
また、本明細書における単一色を有する複合材料(ハイブリッドレジン)についてのL値、a値及びb値は、厚さ1.0±0.1mmの試料を用いた分光光度計による背景色白での測定によって得られるL、a及びbに意味するものとする。具体的には分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm)を用いた反射光0°d法(JIS Z8722)にて、測定面積の5mmφでの背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)の分光反射率を測定することによって得られるL、a及びbにより決定される。
【0043】
例えば、第一複合材料と中間複合材料との色差、すなわち第一層の色と中間層の色の差である色差:ΔE 1-Mは、第一複合材料及び中間複合材料のそれぞれについて、厚さ1.0±0.1mmの試料を用いた分光光度計による色差測定を行った場合の、第一複合材料におけるL、a及びbをL 、a 及びb とし、中間複合材料におけるL、a及びbをL 、a 及びb とすると、
ΔL=L -L
Δa=a -a
Δb=b -b
であるから、
ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2
となる。なお、上記ΔL、Δa及びΔbの値の正・負、すなわちどちらが減数(又は被減数)となるかは、ΔEの計算過程において2乗されるので影響を与えない。
【0044】
中間層としての構造色系ハイブリッドレジンが本来有する特徴を発揮することができるようになり、更に自然なグラデーションを表現することが可能となるという理由から、前記第一層の色と前記第二層の色との差を表す色差:ΔE 1-2が2~30の範囲内であり、前記第一層の色と前記中間層の色との差を表す色差:ΔE 1-Mが2~25の範囲内であり、前記第二層の色と前記中間層の色の差を表す色差:ΔE 2-Mが5~30の範囲内である必要がある。効果の観点から、ΔE 1-2は3~25の範囲内であり、ΔE 1-Mは2~20の範囲内であり、ΔE 2-Mは8~25の範囲内であることが、より好ましく、ΔE 1-2は6~20の範囲内であり、ΔE 1-Mは4~15の範囲内であり、ΔE 2-Mは10~21の範囲内であることが、特に好ましい。
【0045】
5.コントラスト比:CR=Y/Yについて
コントラスト比:CRとは、マトリックス樹脂中に無機粒子が分散した複合材料(レジン系材料)の透明性の指標であり、本発明では、厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計による色差測定を行ったときに得られる背景色白におけるY値:Yに対する背景色黒におけるY値:Y/の比:Y/Yとして決定される値を意味する。このコントラスト比:CRが小さな値であるほど透明性が高く、大きな値であるほど透明性は低くなる。
【0046】
コントラスト比は、具体的には分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm)を用いた反射光0°d法(JIS Z8722)にて、測定面積の5mmφでの背景色黒(光遮蔽状態)の分光反射率と背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)の分光反射率を測定することにより決定される。
【0047】
コントラスト比は、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる超微細粒子群(G-SFP)や、顔料や染料等の着色物質の添加量を調整することにより調整することができる。
【0048】
本発明のブランクにおいて、第一複合材料のコントラスト比:CR及び第二複合材料のコントラスト比:CRが、共に0.50~0.65であり(但し、CRとCRとは、互いに異なる値でもよい。)、中間複合材料のコントラスト比:CRが0.28~0.46であることが好ましい。CRの値が上記範囲外である場合には特定構造色が観測され難なり、また周囲の色調との調和を図ることが困難となる傾向がある。またCR又はCRの値が上記範囲外である場合には、下地層に天然歯牙が存在しない部分を含む歯科用補綴物を作製した場合に、“様々な周辺環境に対して幅広く調和可能地なる効果”を発揮し難くする傾向がある。効果の観点から、CRは0.28~0.46、特に0.28~0.43であり、CR及びCRは0.50~0.65、特に0.55~0.63であることが好ましい。また、CRとCR(又はCR)のコントラスト比との差:CR-CR(又はCR)=ΔCR=ΔY/Yは、0.10以上、特に0.12~0.27であることが好ましい。
【0049】
6.本発明のブランクの製造方法
本発明のブランクは、前記積層構造を有するハイブリッドレジンの積層体を得、これを適宜加工して被切削加工部とすることにより製造することができる。ハイブリッドレジンは、何れも樹脂マトリックスの原料となる重合性単量体中に無機粒子が分散し、更に重合開始剤を含んだ硬化性組成物からなる原料組成物を硬化させることにより得ることができ、重合性単量体の硬化体が樹脂マトリックスとなり、重合硬化の際に重合開始剤が消費されるだけで他の成分は硬化後も変化しない。各ハイブリッドレジンの原料組成物である「構造色系原料組成物」及び「非構造色系原料組成物」について以下に説明する。
【0050】
6-1.構造色系原料組成物
構造色系ハイブリッドレジンは、特許文献5の請求項1に記載された複合材料と特に変わる点は無く、その原材料及び調製方法についても、特許文献5に記載された原材料及び調製方法と特に変わる点は無い。すなわち、重合性単量体、特定の条件を満足する無機粒子、及び重合開始剤を含有する硬化性組成物である構造色系原料組成物中における前記無機粒子の分散状態を特定の分散状態としてから硬化させることにより、中間複合材料となる構造色系ハイブリッドレジンを製造することができる。
【0051】
6-1-1.構造色系原料組成物の原材料となる重合性単量体
前記構造色系原料組成物における重合性単量体は、その硬化体が構造色系ハイブリッドレジンの樹脂マトリックスとなるものである。当該重合性単量体としては、ラジカル重合性単量体、特に(メタ)アクリル化合物からなる重合性単量体を使用することが好ましい。なお、「(メタ)アクリル」との用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味する。
【0052】
好適に使用できる(メタ)アクリル化合物を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0053】
重合性単量体としては、構造色系ハイブリッドレジンの樹脂マトリックスとなる硬化体の物性(機械的特性や歯科用途では歯質に対する接着性)調整のため、一般に、複数種の重合性単量体が使用されるが、この際、重合性単量体組成物(混合物)の25℃におけるナトリウムD線を用いて測定した屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが、前記屈折率に関する条件を満足し易いという観点から望ましい。なお、重合性単量体や重合性単量体の硬化体の屈折率は、アッベ屈折率計を用いて求めることができる。
【0054】
6-1-2.構造色系原料組成物の原材料となる無機粒子
前記構造色系原料組成物は、前記重合性単量体100質量部に対して、通常100~900重量部、好ましくは150~700質量部の無機粒子を含む。構造色系原料組成物に含まれる無機粒子は、構造色系ハイブリッドレジンの樹脂マトリックスに分散する無機粒子でもあり、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を含んでなる。なお、G-PIDを構成する無機球状粒子が、前記条件を満足する短距離秩序構造を有するように、マトリックス材料中に分散するために、無機粒子は、G-PID以外に、平均一次粒子径が100~1000nmの範囲内にある無機粒子(その形状に拘わらない)を含まないことが好ましい。但し、平均一次粒子径が100nm未満の超微細粒子群(G-SFP)は、前記短距離秩序構造に影響を与えに難く、また、その配合量によって構造色系原料組成物の粘度や構造色系ハイブリッドレジンのコントラスト比を制御する機能を有するため、重合性単量体100質量部に対して、0.1~40質量部、特に0.2~30質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0055】
構造色系原料組成物が染料や顔料等の着色物質を実質的に含まず(例えば、着色物質の濃度が100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下である場合には)、G-SFPの配合量をこの範囲とすることにより、得られる構造色系ハイブリッドレジンのコントラスト比を0.28~0.46とすることができる。
【0056】
前記同一粒径球状粒子群:G-PIDの配合量は、通常、含まれる全G-PIDの総量(すなわち無機球状粒子の総量)で、重合性単量体100質量部に対して、100~900質量部である。構造色系ハイブリッドレジンが適度な透明性を有し、構造色の発現効果も高いという理由から、G-PIDの前記配合量は、構造色系原料組成物が超微細粒子群(G-SFP)を含まない場合には、重合性単量体100質量部に対して100~900質量部であることが好適であり、150~700質量部であることが特に好適である。また、G-SFPを含む場合には、上記配合量からG-SFPの量を差し引いた量とすることが好ましい。
【0057】
なお、複数種のG-PIDを含む場合の各G-PIDの配合量は、各G-PIDによる構造色の色調と、歯科切削加工用ブランクにおいて所望する色調とを勘案して、総量が上記範囲内となる量で適宜配分すればよい。
【0058】
以下に、無機粒子を構成する無機球状粒子、G-PID、G-SFP等の詳細について説明する。
【0059】
(1)無機球状粒子
G-PIDを構成する無機球状粒子及びG-SFPを構成する無機粒子の材質としては、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニアなど)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等が使用できる。これらの中でも屈折率の調整が容易であることから、シリカとチタン族元素(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物であるシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物、特に25℃における屈折率を1.45~1.58程度の範囲で変化させることができる。シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の具体例としては、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等を挙げることができる。
【0060】
無機球状粒子は、シランカップリング剤により表面処理されても良い。
【0061】
(2)同一粒径球状粒子群:G-PID
効果の観点から、中間複合材料となる構造色系ハイブリッドレジンは、前記した特定構造色の波長(黒背景で測定されるピークの波長)が550~770nmである構造色を発現することが好ましく、そのために、G-PIDの平均一次粒子径は、230~800nm、特に240~500nmであることが好ましく、260~350nmであることが特に好ましい。構造色系原料組成物に含まれる(第一複合材料などの構造色系ハイブリッドレジンにおいて樹脂マトリックス中に分散する)無機粒子に含まれるG-PIDは1種であっても複数種であってもよい。含まれるG-PIDの数:aは、1~5であることが好ましく、1~3であることが特に好ましく、1又は2であることが最も好ましい。
【0062】
複数のG-PIDを用いる場合、各G-PIDの平均一次粒子径dは、それぞれ互いに30nm以上、特に40nm以上異なっている(すなわちdとdm―1との差は30nm以上、特に40nm以上である)ことが好ましい。また、dとdm―1との差は、100nm以下、特に60nm以下であることが好ましい。
【0063】
なお、構造色系ハイブリッドレジンに複数のG-PIDが含まれる場合、各G-PIDは、極めてシャープな粒度度分布を有し、且つ平均一次粒子径には上記したような差があるため、各G-PIDの粒度分布は重なり難く、一部重なった場合でも各G-PIDの粒度分布を確認することが可能である。すなわち、無機粒子の粒度分布は、各G-PIDの粒度分布は、100nm~1000nmの範囲では、含まれるG-PIDの数と同数の独立したピークを有するものとなり、各ピークの一部が重なった場合でも波形処理を行うことにより、各G-PIDの平均一次粒子径及び個数基準粒度分布を確認することができる。また、第一複合材料などの構造色系ハイブリッドレジンに含まれる無機粒子の粒度分布は、たとえば、その内部表面の電子顕微鏡写真を画像処理することなどにより確認することができる。
【0064】
前記1又は複数の各“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の少なくとも一部は、1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、25℃における屈折率が当該1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子の屈折率よりも小さい樹脂とを含んでなり、前記1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)以外の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を含まない有機―無機複合フィラー(Organic-Inorganic Hybrid Filler)、別言すれば“単一のG-PIDしか含まない有機―無機複合フィラー”として配合されることが好ましい。ここで、有機-無機複合フィラーとは、(有機)樹脂マトリックス中に無機フィラーが分散した複合体から成る紛体又は、無機フィラーの一次粒子どうしが(有機)樹脂で結着された凝集体からなるフィラーを意味する。
【0065】
有機無機複合フィラーの平均粒子径は、特に制限されるものではないが、硬化体の機械的強度や硬化性ペーストの操作性を良好にする観点から、2~100μmであることが好ましく、5~50μm、特に5~30μmであることが好ましい。
【0066】
原料組成物における有機―無機複合フィラーの配合量は原料組成物中に含まれる、有機―無機複合フィラー化されていない同一粒径球状粒子群:G-PIDの配合量を勘案し、含まれる全G-PIDの総量(すなわち無機球状粒子の総量)が、前記した量となるように、有機―無機複合フィラー中に含まれる無機球状粒子の量から換算して決定すればよい。
【0067】
(3)超微細粒子群:G-SFP
構造色発現に対する影響が少ないという理由から、G-SFPの平均一次粒子径は、3nm以上75nm以下、特に5nm以上50nm以下であることが好ましい。また、同様の理由から、G-PIDの平均一次粒子径(d)よりも30nm以上、特に40nm以上小さいことが好ましい。
【0068】
G-SFPを構成する無機粒子の材質としては、前記無機球状粒子と同様のものが特に制限なく使用できる。また、前記無機球状粒子と同様にシランカップリング剤による表面処理を行うこともできる。好適な態様も、平均一次粒子径及び形状を除いて、基本的には、前記無機球状粒子と同様である。
【0069】
6-1-3.構造色系原料組成物の原材料となる重合開始剤
構造色系原料組成物の原材料となる重合開始剤は、重合性単量体を重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されないが、光重合や熱重合が好ましく、光照射による重合ムラなどが生じ難く、均一に重合反応を行うことができるという理由から熱重合が特に好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0070】
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。
【0071】
重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
【0072】
熱重合開始剤を用いる場合の重合温度については、60~200℃が好ましく、70~150℃がより好ましく、80~130℃がさらに好ましい。60℃以下の温度で重合を行った場合、重合反応が不十分となり、歯科切削加工用ブランクの強度が弱くなり、クラックの発生が生じる。一方、200℃以上の温度で重合を行った場合、構造色系ハイブリッドレジンが製造時に高温にさらされることにより樹脂成分の変色が生じ、本発明の効果である天然歯牙との色調適合性が得難くなる。
【0073】
6-1-4.構造色系原料組成物の原材料となる、その他の添加剤
構造色系原料組成物には、その効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合することができる。なお、中間複合材料となる構造色系ハイブリッドレジンは、染料や顔料等の着色物質を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、構造色系原料組成物の総質量(第一複合材料の総質量でもある)を基準とする着色物質の配合量が、50質量ppm以下であること意味する。
【0074】
6-1-5.構造色系原料組成物の調製方法
原料組成物は、所定量の前記各成分を混練及び脱泡処理することにより調製することができる。特に、混練方法については、短時間で分散することができ、且つスケールアップ製造が容易であるという理由から、遊星運動型撹拌機等の混練装置を用いて混練することが好ましい。また、脱泡処理は、粘度の高い組成物中からも短時間で気泡を除去可能であるという理由から、減圧下で脱泡する方法を採用することが好ましい。
【0075】
6-2.非構造色系原料組成物
第一複合材料又は第二複合材料となる非構造色系ハイブリッドレジンは、構造色系ハイブリッドレジンではないハイブリッドレジン、又は顔料等を多量に配合したために特定構造色の発現が目視で確認できなくなったハイブリッドレジンであり、重合性単量体、無機粒子、重合開始剤、並びに顔料及び/又は染料からなる着色材料を含有する重合硬化性組成物である「非構造色系原料組成物」を硬化させることによって得られる。
【0076】
非構造色系原料組成物は、構造色系原料組成物に着色材料を(特定構造色が目視確認できなくなるような量)添加したものであってもよく、重合性単量体及び重合開始剤としては構造色系原料組成物と同様のものが使用できる。無機粒子としては、構造色系原料組成物におけるような制約は特になく、従来の歯科切削加工用レジン系ブランクで使用できるとされているものが特に制限なく使用できる。なお、無機粒子の総配合量は、通常、重合性単量体100質量部に対して、100~900重量部であり好ましくは150~700質量部である。非構造色系原料組成物に含まれる着色物質の量は、通常、非構造色系原料組成物の総質量(その硬化体である複合材料の総質量でもある)を基準として、500~7000質量ppmであり、600~6500質量ppmであることが好ましい。また、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を含んでいても良い。
【0077】
着色物質(着色剤)は、顔料であってもよく、染料であってもよい。顔料としては、無機顔料が代表的であり、このような無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、酸化鉄、銅クロマイトブラック、酸化クロムグリーン、クロムグリーン、バイオレット、クロムイエロー、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、チタン酸カドミウム、ニッケルチタンイエロー、ウルトラマリーンブルー、コバルトブルー、ビスマスバナデート、カドミウムイエロー、カドミウムレッド等を例示することができる。なお、本発明において無機顔料は、無機充填材にも該当する。また、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ジアゾ縮合顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料等の有機顔料も使用することができる。また、染料としては、KAYASET RED G(日本化薬)、KAYASET REDB(日本化薬)等の赤色染料;KAYASET Yellow 2G、KAYASET Yellow GN等の黄色染料;KAYASET Blue N、KAYASET Blue G、KAYASET Blue B等の青色染料;などを挙げることができる。口腔内での色調安定性を考慮すると、水溶性の染料よりも不水溶性の顔料を使用することが好ましい。
加することにより、このような要求にも対応することが可能となる。
【0078】
6-3.注型重合及び後工程
前記ハイブリッドレジンの積層体は、各層を構成するハイブリッドレジン(複合体)の原料となる硬化性原料組成物を用いた注型重合により、好適に製造することができる。ここで、注型重合とは、所定形状の成形型に重合硬化性組成物を充填した後に重合硬化を行うことを意味する。成形型の容積は目的とする形状に応じて適宜選択すればよい。成形型の形状についても同様に、角柱状、円柱状、角板状、円板状、その他の不規則形状であってもよく、特に制限はない。重合の際は、必要に応じて、窒素等の不活性ガスによる加圧を行ってもよい。被切削加工部と同一又は実質的に同一の形状を有した成形型を準備し、この内部に各層となる硬化性原料組成物を順次所定の厚さとなるように充填してから重合硬化して、得られたバルク体(ハイブリッドレジンの積層体)をそのまま被切削加工部としてもよいし、これより大きいサイズを有する型に充填してバルク体を製造し、これを抜き打ち加工や切削加工することにより被切削加工部としてもよい。充填の方法は公知の技術を用いることができ特に制限されないが、例えば、射出、押し出し、プレス等によって成形型に充填を行うことができる。
【0079】
成形型の材質としては、金属、セラミックス、樹脂等を目的に応じて使用することができ、実施する重合温度よりも耐熱性が高い材質を用いることが好ましい。成形型の材質としては、例えば、SUS、高速度工具鋼、アルミニウム合金、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等が挙げられる。
【0080】
また、得られたバルク体に対して、必要に応じて、熱処理、研磨、切削、保持具の取り付け、印字等の後工程を行うことができる。さらに、必要に応じて、歯科切削加工用ブランクを切削加工機に固定するための保持ピンを接合してもよい。保持ピンの形状は、切削加工機に歯科切削加工用ブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、歯科切削加工用ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。保持ピンの材質としては、ステンレス、真鍮、アルミニウム等が挙げられる。保持ピンの被切削加工部(歯科切削加工用ブランク本体)への固定方法は、接着に限定されず、はめ込み、ネジ止め等の方法であってもよい。接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
【実施例0081】
次に、本発明の多層ミルブランクついて、実施例により具体的に説明する。なお、後述する各実施例及び比較例では、各種の構造色系原料組成物及び非構造色系原料組成物を調製し、得られた各組成物及びその硬化体について評価を行うと共に、これら組成物を所定の組み合わせで積層してから硬化させることによって、歯科切削加工用ブランクの切削加工部となるハイブリッドレジン積層体を得、その評価を行っている。
【0082】
1.構造色系原料組成物及び非構造色系原料組成物の原材料について
実施例及び比較例で用いた構造色系原料組成物及び非構造色系原料組成物の原材料並びに、その物性等について以下に説明する。
【0083】
1-1.重合性単量体成分
構造色系原料組成物及び非構造色系原料組成物における重合性単量体成分としては、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン(UDMAと略記されることもある。):60質量%及びトリエチレングリコールジメタクリレート(3Gと略記されることもある。):40質量%の組成を有する重合性単量体混合物:M1を使用した。
【0084】
また、M1の粘度を、E型粘度計(東京精機:VISCONIC ELD)を用いて25℃の恒温室にて測定したところ、150.14(mPa・s)であった。また、M1(硬化前)及びその硬化体の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定したところ、硬化前の屈折率は1.474であり、硬化後の屈折率は1.509であった。なお、硬化体試料は、重合性単量体100質量部あたり(光重合開始剤としての)カンファーキノン(CQ)0.2質量%、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)0.3質量%及びヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)0.15質量%を添加して均一に混合したものを、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した後に、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射し硬化させてから型から取り出すことにより作成した。なお、硬化体試料をアッベ屈折率計にセットする際に、硬化体試料と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、かつ試料よりも屈折率の高い溶媒であるブロモナフタレンを試料に滴下した。
【0085】
1-2.同一粒径球状粒子群:G-PID
特許文献5の実施例に開示されている方法に従い、ゾルゲル法によりSiO/ZrO/NaOモル比組成が89.8/9.0/1.2である複合酸化物からなる球状フィラーを調整し、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理することにより、同一粒径球状粒子群であるG-PID1及びG-PID2を調製した。得られたG-PID1について、特許文献5の実施例に記載されている方法と同様に、以下のようにして、平均一次粒子径、±5%内粒子割合〔個数基準粒度分布において平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子数の全粒子数に占める割合(%)〕、平均均斉度及び屈折率を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
(1)平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)および一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき(その総和を粒子数で除した値を)数平均一次粒子径を算出した。
【0087】
(2)±5%内粒子割合
上記写真の単位視野内における全粒子(30個以上)のうち、上記で求めた平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲外の一次粒子径(最大径)を有する粒子の数を計測し、その値を上記全粒子の数から減じて、上記写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数を求め、下記式に従って算出した。
【0088】
±5%内粒子割合(%)=[(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数)/(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における全粒子数)]×100
【0089】
(3)平均均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される同一粒径球状粒子群(G-PID)の粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径を長径(Li)と該長径に直交する方向の径を短径(Bi)との比(Bi/Li)を求め、当該比の総和を粒子数で除した値を平均均斉度とした。
【0090】
(4)屈折率
アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて液浸法によって測定した。すなわち、25℃の恒温室において、100mlサンプルビン中、同一粒径球状粒子群(G-PID)を無水トルエン50ml中に分散させる。この分散液をスターラーで攪拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を同一粒径球状粒子群(G-PID)の屈折率とした。
【0091】
【表1】
【0092】
1-3.有機-無機複合フィラー(CF)
有機-無機複合フィラー(CF)も特許文献5の実施例と同様に、表1に示すG-PID2を用いて次のように調製した。すなわち、先ず、循環型粉砕機SCミル(日本コークス工業社製)を用いて水:200gにG-PID2:100gが分散した分散液を得た。次いで、別途調製したγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン:4g、酢酸:0.003g及び水:80gの混合溶液(pH4)を上記分散液に添加し、均一になるまで混合した後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により造粒した後に60℃で真空乾燥し、略球形状の凝集体を得た。その後、重合性単量体成分M1:10g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.025g、有機溶媒であるメタノール:5.0g混合した重合性単量体溶液に、上記凝集体50g浸漬させ、十分撹拌してから有機溶媒を除去してから減圧度10ヘクトパスカル、100℃の条件下で、1時間加熱することにより上記重合性単量体成分を重合硬化させることにより略球形状で平均粒子径が12μmである有機-無機複合フィラー(CF)を得た。
【0093】
1-4.超微細粒子(G-SFP)
G-SFPとしては、レオロシールQS-102(平均一次粒子径12nm、株式会社トクヤマ製)を使用した。
【0094】
1-5.重合開始剤
ベンゾイルパーオキサイド(BPO)からなる熱重合開始剤を用いた。
【0095】
1-6.顔料
・赤色顔料(ピグメントレッド166)
・黄色顔料(ピグメントイエロー95)
・青色顔料(ピグメントブルー60)。
【0096】
2.構造色系原料組成物及び非構造色系原料組成物の調製と硬化体の評価について
2-1.構造色系原料組成物(P1~P4)の調製
以下に示すようにして、構造色系原料組成物:P1を調製した。すなわち、M1:100質量部、BPO1.0質量部を混合した後に、G-PID1とG-SFPとを、両者の質量比がG-PID1:G-SFP=95:5となり、且つ構造色系原料組成物全体の質量占める無機粒子全体の質量の割合で定義される無機充填率が72質量%になるように添加し、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合することでペースト化し、構造色系原料組成物:P1を調製した。
【0097】
また、無機充填率を表2に示す無機充填率とする他は上記と同様の方法で構造色系原料組成物:P2~4を調製した。
【0098】
なお、M1の硬化体の屈折率:n(MX)は1.509であり、G-PID1の屈折率は夫々n(G-PID1)=1.515であり、n(MX)より大きな値となっているので、前記条件IVを満足している。したがって、これら構造色系原料組成物:P1~P4の硬化体からなるハイブリッドレジンは、いずれも前記条件I~IVを満足している{P1~P4で配合されるG-PIDは1種類であり、前記条件IIも満足しているとした。}といえる。
【0099】
【表2】
【0100】
2-2.非構造色系原料組成物(L1~L8)の調製
M1:100質量部、BPO1.0質量部を混合した後に、G-PID2:50質量%と、CF(有機-無機複合フィラー):50質量%の混合物を、無機充填率が76%になるようにして添加すると共に、各種顔料を表3に示した添加量で添加した他は、P1の調製と同様にして、非構造色系原料組成物:L1~L8を調製した。
【0101】
【表3】
【0102】
2-3.各原料組成物の硬化体の評価
2-3-1.構造色系原料組成物(P1~P4)の硬化体が構造色系ハイブリッドレジンであることの確認
特許文献5に記載された方法に準じて、下記(1)~(3)に示す方法で、各構造色系原料組成物(P1~P4)の硬化体について、目視による着色光の評価、着色光のピーク波長測定、無機球状粒子の動径分布関数評価を行った。結果を表4に示す。
【0103】
(1)目視による着色光の評価方法
構造色系原料組成物(P1~P4)を真空脱泡し、10mm×12mm×14mmの金型に充填し、填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、12時間の条件で加熱加圧重合を行った。取り出した硬化体から1mm×12mm×14mmの固体試料を切り出し、光沢研磨して作製した着色光測定用固体試料を作製した。各着色光測定用固体試料に10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に対して垂直になるように載せ、目視にて着色光の色調を評価した。
【0104】
(2)着色光のピーク波長測定方法
(1)と同様に作製した黒いテープを付着の着色光測定用固体試料に関して、分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm)を用いて、背景色黒で分光反射率を測定し、反射率の極大点を着色光の波長とした。
【0105】
(3)無機球状粒子の動径分布関数評価方法
構造色系原料組成物(P1~P4)を5mmφ×10mmの金型に充填する他は(1)と同様の方法で硬化体を作成し、当該硬化体中の球状粒子の分散状態を走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)により観察することにより動径分布関数を求め、評価を行った。具体的には、イオンミリング装置((株)日立製作所製、「IM4000」)を用いて硬化体の断面ミリングを2kV、20分間の条件にて行い、観察平面とした。当該観察面について走査型電子顕微鏡により平面内に1000個の球状粒子を含有している領域の顕微鏡画像を取得し、得られた走査型電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(「Simple Digitizer ver3.2」フリーソフト)により解析し、上記領域内の球状粒子の座標を求めた。得られた座標データから任意の球状粒子の座標を1つ選択し、選択した球状粒子を中心に少なくとも200個以上の球状粒子が含まれる距離rを半径とする円を描き、円内に含まれる球状粒子の個数を求め、平均粒子密度<ρ>(単位:個/cm)を算出した。drは、r/100~r/10(rは球状粒子の平均粒子径を示す。)程度の値であり、中心の球状粒子から距離rの円と距離r+drの円との間の領域内に含まれる粒子の数dn、及び上記領域の面積da(ただし、da=2πr・drである。)を求めた。このようにして求めた<ρ>、dn、daの値を用いて、
式:g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}
で定義される動径分布関数g(r)を求めた。そして、動径分布関数とr/r(rは円の中心からの任意の距離を示し、rは球状粒子の平均粒子径を示す。)との関係を示すグラフを作成し、前記条件Vにおける動径分布関数の条件1及び条件2について、条件を満足するものを「S」、満足しないものを「N」として評価した。
【0106】
表4に示されるように、構造色系原料組成物(P1~P4)の硬化体は球状無機粒子の分散状態が前記条件Vを満足し、特定構造色を発現することが確認された。
【0107】
【表4】
【0108】
2-3-2.各原料組成物硬化体の明度をL、色相をa及び彩度b並びにコントラスト比(CR)評価
構造色系原料組成物(P1~P4)及び非構造色系原料組成物(L1~L8)の硬化体について、下記(4)及び(5)に示す方法によりL、a及びb並びにCRの測定を行った。結果を表5に示す。
【0109】
(4)明度をL、色相をa及び彩度bの測定
各原料組成物を真空脱泡し、10mm×12mm×14mmの金型に充填し、填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、12時間の条件で加熱加圧重合を行った。取り出した硬化体から14mm×12mm×1mmの固体試料を切り出し、色差測定用固体試料を作製した。この固体試料について、分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」」、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm)を用いた反射光0°d法(JIS Z8722)にて、測定面積の5mmφでの背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)の分光反射率を測定してL値、a値及びb値を求めた。
【0110】
(5)コントラスト比(CR)の測定
上記試料について上記色差計を用い、背景色黒(光遮蔽状態)の分光反射率におけるY値であるYと、背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)の分光反射率におけるY値であるYに基づきコントラスト比CR=Y/Yを算出した。
【0111】
【表5】
【0112】
3.実施例及び比較例
上記のP1~P4、L1~L8ペーストを表6及び7に示す組み合わせで用い、同じ層厚の第一層用の原料組成物の硬化体からなるハイブリッドレジン層と第二層用の原料組成物の硬化体からなるハイブリッドレジン層の間に中間層用の原料組成物の硬化体からなるハイブリッドレジン層を表6及び7に示す層厚で接合し、次のようにして3層構造のハイブリッドレジン積層体からなる被切削加工部を作製した。
【0113】
すなわち、第一層用の原料組成物を金型内における中間層用の原料組成物を充填する厚みを差し引いた金型の半分の高さ(中間層用の原料組成物を1mm充填する場合は、4.5mm)迄充填して表面が平面となるまで静置した後に、界面を乱さないように注意しながら中間層用の原料組成物を表7に示す層厚になるように充填後、再び表面が平面となるまで静置した後に、第二層用の原料組成物を、金型内を満たすように充填する他は、前記L、a及びb測定用の試料作製と同様にして硬化を行い、上記被切削加工部を作製した。
【0114】
得られた被切削加工部について積層界面の評価を行うとともに、当該被切削加工部に保持ピンを接着して歯科切削加工用レジン系ブランクとし、これを用いて作製した歯科用修復物(歯冠)の積層界面状態、および積層界面の色調変化状態を評価した。具体的な評価方法を以下に示す。また評価結果を、中間層の厚み、第一層と第二層の色差:ΔE、第一層及び第二層と中間層の色差:ΔEと合わせて表6及び7に示す。
【0115】
(1)積層界面の評価(ブランク界面評価)
目視にて観察し、積層界面が見えるか、確認した。評価基準を以下に示す。
5:中間層と上層又は下層の積層界面が全く見えない。
4:中間層と上層又は下層の積層界面が見えない。
3:中間層と上層又は下層の積層界面がほとんど見えない。
2:中間層と上層又は下層の積層界面が僅かに見える。
1:中間層と上層又は下層の積層界面が明瞭に見える。
【0116】
(2)歯科用模擬修復物の積層界面評価(修復物界面評価)
右上1番の歯冠を切削加工機(ローランド製、「DWX-50」)にて切削加工して歯科用修復物(修復物)を作製した後、エステセムII(トクヤマデンタル社製、接着性レジンセメント)を用いてレジン支台歯(A3色相当)に接着し、研磨し、模擬修復を行った。修復後の積層界面状態を目視にて確認した。評価基準を以下に示す。
5:中間層と上層又は下層の積層界面が全く見えず、自然な色調である。
4:中間層と上層又は下層の積層界面がほとんど見えず、自然な色調である。
3:中間層と上層又は下層の積層界面が見えにくい。
2:中間層と上層又は下層の積層界面がうっすら見える。
1:中間層と上層又は下層の積層界面が明瞭に見え、不自然な色調である。
【0117】
(3)歯科用模擬修復物の連続的な色調移行性評価(修復物移行性評価)
(2)と同様に作製した模擬修復物の歯頚部から切端部まで連続的に色調変化しているか、目視にて確認した。評価基準を以下に示す。
5:上層の色調から徐々に下層の色調に変化しており、自然で非常に滑らかな変化である。
4:上層の色調から徐々に下層の色調に変化しており、非常に滑らかな変化である。
3:上層の色調から徐々に下層の色調に変化しており、滑らかな変化である。
2:上層の色調から下層の色調にかけて色調が変化しているが不自然である。
1:上層の色調から下層の色調にかけて連続的に色調変化していない。
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
表6に示されるように、実施例1~26の「修復物移行性評価」は、3以上となっている。なかでも中間層の層厚、ΔEが共に特に好適な範囲(中間層の厚さ:0.3~1.5mm、ΔE 1-2=6~20、ΔE 1-M=4~15、ΔE 2-M=10~21)である実施例3、10、13、16、17及び19における「修復物移行性評価」は、最高評価の5であり、実施例17の「ブランク界面評価」は1ランク低い4であるものの、その他の「ブランク界面評価」及び「修復物界面評価」は全て5となっている。
【0121】
これに対し、比較例1~6の「修復物移行性評価」は、1~2となっている。比較例1では中間層が厚いため、白背景下の場合と同様に、構造色による色調調整効果が得られず、中央部で構造色レジン層の色調が発現してしまい、連続的な色調変化が得られなかった。第一層と第二層の色差が大きい比較例2、及び中間層と第二層の色差が大きい比較例3は、色差が大きいことにより積層界面が目視で確認でき、修復物移行性評価も夫々2及び1であった。第一層と第二層が同じ色調である比較例4では中間層で連続的な色調変化は確認されず全体として単一色と認識された。第1層にも構造色レジンを用いた比較例5では、構造色レジン層の色調が発現してしまい、連続的な色調変化が得られなかった。また、中間層を有しない比較例6では歯頚部が濃く切端部が薄い色調の間にくっきりと界面が確認された。