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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143213
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】光学部品
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/08 20060101AFI20220926BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08G61/08
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043615
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】和佐 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 春佳
(72)【発明者】
【氏名】中島 真実
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA35
4J032CA38
4J032CA43
4J032CB04
4J032CB05
4J032CC03
4J032CD03
4J032CD08
4J032CE03
4J032CF03
4J032CG02
(57)【要約】
【課題】屈折率が高く、かつ、高温環境下における光学性能の長期信頼性に優れた光学部品を提供するもの。
【解決手段】環状オレフィン系開環重合体(A)を含む光学部品であって、前記環状オレフィン系開環重合体(A)は、特定の一般式(I)で表される一種の構造単位(a)と、特定の一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)と、を有し、上記構造単位(a)と上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量が20mol%以上90mol%以下であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系開環重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上であり、上記環状オレフィン系開環重合体(A)の波長589nmにおける屈折率(n)が1.5340以上であり、上記環状オレフィン系開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの、加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)が0.0020以下である、光学部品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系開環重合体(A)を含む光学部品であって、
前記環状オレフィン系開環重合体(A)は、
下記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)と、
下記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)と、
を有し、
前記構造単位(a)と前記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、前記構造単位(a)の含有量が20mol%以上90mol%以下であり、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系開環重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上であり、
前記環状オレフィン系開環重合体(A)の波長589nmにおける屈折率(n)が1.5340以上であり、
前記環状オレフィン系開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの、加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)が0.0020以下である、光学部品。
【化1】
前記式(I)中、R~R10は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~R10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化2】
前記式(II)中、R~Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~Rは、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の光学部品であって、
前記構造単位(a)がテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを由来とする、光学部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学部品であって、
前記構造単位(b)が、インデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物を由来とする、光学部品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学部品であって、
fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である、光学部品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光学部品であって、
車載カメラレンズまたは携帯機器用カメラレンズである、光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系共重合体は光学性能に優れるため、例えば、光学レンズ等の光学部品として用いられている。光学部品に用いられる環状オレフィン系樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1,2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、分子内に、脂環式構造を含む繰り返し単位を有し、重量平均分子量(Mw)が、15,000超150,000以下、かつ、環構造を有する繰り返し単位の炭素原子数と水素原子数の比の値(炭素原子数/水素原子数)が、0.60~0.70の環状オレフィン樹脂と、環状オレフィン単量体をカチオン重合して得られる、重量平均分子量(Mw)が、500超15,000以下の環構造含有炭化水素オリゴマーとを、重量比(環状オレフィン樹脂:環構造含有炭化水素オリゴマー)で、99:1~30:70の範囲で含有する樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、芳香環を有する環状オレフィン共重合体であって、特定の構造単位(A)を含む、環状オレフィン共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-69448号公報
【特許文献2】特開2020-105323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズの需要が高まっている。車載カメラレンズや携帯機器用のカメラレンズには高い耐熱性が要求される。環状オレフィン系共重合体は、その優れた光学特性ならびに機械特性からカメラレンズ等の光学部品に広く利用されている。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、環状オレフィン系共重合体を含む光学部品は、高温環境下に長時間曝されると、屈折率が変化して光学性能に影響を及ぼしてしまう場合があることを見出した。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、屈折率が高く、かつ、高温環境下における光学性能の長期信頼性に優れた光学部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す光学部品が提供される。
【0009】
[1]
環状オレフィン系開環重合体(A)を含む光学部品であって、
上記環状オレフィン系開環重合体(A)は、
下記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)と、
下記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)と、
を有し、
上記構造単位(a)と上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量が20mol%以上90mol%以下であり、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系開環重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上であり、
上記環状オレフィン系開環重合体(A)の波長589nmにおける屈折率(n)が1.5340以上であり、
上記環状オレフィン系開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの、加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)が0.0020以下である、光学部品。
【化1】
(上記式(I)中、R~R10は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~R10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化2】
(上記式(II)中、R~Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~Rは、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[2]
上記[1]に記載の光学部品であって、
上記構造単位(a)がテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを由来とする、光学部品。
[3]
上記[1]または[2]に記載の光学部品であって、
上記構造単位(b)が、インデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物を由来とする、光学部品。
[4]
上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の光学部品であって、
fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である、光学部品。
[5]
上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の光学部品であって、
車載カメラレンズまたは携帯機器用カメラレンズである、光学部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈折率が高く、かつ高温環境下における光学性能の長期信頼性に優れた光学部品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」はとくに断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
<光学部品>
まず、本実施形態に係る光学部品について説明する。
本実施形態に係る光学部品は、環状オレフィン系開環重合体(A)を含む光学部品であって、
上記環状オレフィン系開環重合体(A)は、
下記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)と、
下記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)と、
を有し、
上記構造単位(a)と上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量が20mol%以上90mol%以下であり、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系開環重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上であり、
上記開環重合体(A)の波長589nmにおける屈折率(n)が1.5340以上であり、
上記開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの、加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)が0.0020以下である、光学部品である。
【0013】
【化3】
【0014】
上記式(I)中、R~R10は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~R10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
上記式(II)中、R~Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~Rは、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0017】
本発明者らの検討によれば、環状オレフィン系開環重合体を含む光学部品は、高温環境下に長時間曝されると、屈折率が変化して光学性能に影響を及ぼしてしまう場合があることを見出した。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、上記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)と、上記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)とを有し、上記構造単位(a)と上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量が20mol%以上90mol%以下であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記開環重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上であり、上記開環重合体(A)の波長589nmにおける屈折率(n)が1.5340以上であり、上記開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの、加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)が0.0020以下である光学部品は、屈折率が高く、かつ、高温環境下に長時間曝しても屈折率の低下が起き難く、光学性能の長期信頼性に優れることを見出した。
【0018】
すなわち、本実施形態の光学部品によれば、屈折率が高く、かつ高温環境下における光学性能の長期信頼性に優れる。
【0019】
本実施形態に係る光学部品中の環状オレフィン系開環重合体(A)の含有量の下限は、光学部品全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本実施形態に係る光学部品中の環状オレフィン系開環重合体(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
本実施形態に係る光学部品中の環状オレフィン系開環重合体(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0020】
本実施形態に係る光学部品は環状オレフィン系開環重合体(A)を含むため、光学性能に優れている。そのため、像を高精度に認識する必要がある光学系において、光学部品として好適に用いることができる。光学部品とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、各種センサーに用いるレンズであるセンサーレンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズムレンズ、fθレンズ、撮像レンズ、導光板等が挙げられる。本実施形態に係る効果の観点から、fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。
【0021】
本実施形態に係る環状オレフィン系開環重合体(A)は、示差走査熱量系(DSC)で測定されるガラス転移点が140℃以上である。また、ガラス転移温度の上限値は特に限定されないが、好ましくは180℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にあることで、環状オレフィン系開環重合体(A)は、高い耐熱性を有しながら耐湿熱性を満足する。そのため、環状オレフィン系開環重合体(A)を含む光学部品は、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品にとりわけ好適に用いることができる。車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズとしては、例えば、ビューカメラ、センシングカメラレンズ、ヘッドアップディスプレイの光収束用レンズ、ヘッドアップディスプレイの光拡散用レンズ等が挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る光学部品は、上記光学部品とは異なる第2の光学部品と組み合わせてもよい。
上記第2の光学部品としては特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂により構成された光学部品を用いることができる。
【0023】
本実施形態に係る光学部品の表面には、必要に応じ、反射防止層あるいはハードコート層といったコート層が設けられていても良い。反射防止層は、単層であっても多層であっても良く、有機物であっても無機物であっても良く、好ましくは無機物である。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化タンタル、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物が例示される。成膜方法としては特に限定されないが、真空蒸着やスパッタ法などの方法で光学レンズの表面に反射防止層を形成できる。
反射防止層上には、さらに、撥水層やその他の機能性層を設けてもよいし、なくてもよい。また必要に応じて、レンズ面と反射防止層の間に、緩衝層を形成することにより、熱膨張時の反射防止層のクラックを防止することもできる。
緩衝層のコーティングとしては、アモルファスシリカ、アクリル樹脂などを使用することができる。
コーティングの方法は特に限定されないが、コーティングさせる物質を溶解あるいは分散可能な溶媒に分散あるいは溶解させたコーティング液を形成し、スピンコート法などの方法で塗布する方法、あるいは、蒸着による方法を挙げることができる。
これらコート層、緩衝層の形成は、アニール処理を行う前でも、アニール処理を行った後でもよい。
【0024】
以下、各成分について具体的に説明する。
【0025】
[環状オレフィン系開環重合体(A)]
環状オレフィン系開環重合体(A)は、上記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)と、上記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)とを有する。
上記構造単位(a)と上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量は20mol%以上90mol%以下である。構造単位(a)の含有量が上記範囲内であれば、得られる光学部品の屈折率が1.5340以上でかつ、加熱試験前後の屈折率の変化を0.0020以下に抑えることができる。
【0026】
(構造単位(a))
上記一般式(I)で表される少なくとも一種の構造単位(a)は、下記一般式(III)から導かれる開環重合体である。開環重合体は、開環メタセシス重合により得ることができる。開環メタセシス重合は、例えば、特開2016-69448号公報等の公知の方法で行うことができる。
【0027】
【化5】
【0028】
上記式(III)中、R~R10は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~R10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0029】
本実施形態では、構造単位(a)はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを由来とすることが好ましい。具体的には、以下の式(a-1)で表される構造単位を意味する。すなわち、本実施形態に係る構造単位(a)は、下記一般式(a-1)で表される構造単位を含むことが好ましい。これにより、透明性、耐熱性、密度のバランスに優れた環状オレフィン系開環重合体を得ることができる。
【0030】
【化6】
【0031】
(構造単位(b))
上記一般式(II)で表される少なくとも一種の構造単位(b)は、下記一般式(IV)から導かれる開環重合体である。開環重合体は、開環メタセシス重合により得ることができる。開環メタセシス重合は、公知の方法で行うことができる。
【0032】
【化7】
【0033】
上記式(IV)中、R~Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R~Rは、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0034】
本実施形態では、構造単位(b)は、インデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物を由来とすることが好ましい。これにより、より屈折率に優れた環状オレフィン系開環重合体を得ることができる。
【0035】
上記構造単位(a)と、上記構造単位(b)との合計含有量を100mol%としたとき、上記構造単位(a)の含有量は20mol%以上90mol%以下であり、好ましくは30mol%以上80mol%以下、より好ましくは35mol%以上75mol%以下である。構造単位(a)および構造単位(b)の含有量は13C-NMRにより測定することができる。
【0036】
環状オレフィン系開環重合体(A)は、波長589nmにおける屈折率(n)が、1.5340以上である。また、環状オレフィン系開環重合体(A)の屈折率の上限値は特に限定されないが、好ましくは1.5540以下である。屈折率が上記範囲にあることにより、環状オレフィン系開環重合体(A)は高い屈折率を示す。
波長589nmの光源は、ナトリウムランプを用いることができる。具体的には、ASTM D542に準拠して測定することができる。
【0037】
また、環状オレフィレン系開環重合体(A)を125℃で168時間加熱したときの加熱前後における光学部品の屈折率の差(Δn)は0.0020以下である。125℃で加熱する際は、低酸素雰囲気下または窒素雰囲気下で行うことができる。このような加熱は、例えば、窒素を導入できるオーブン(イナートオーブン)を例示出来る。イナートオーブンを用いた場合、窒素導入により低酸素条件で加熱することができる。
【0038】
(その他成分)
本実施形態に係る光学部品は、環状オレフィン系開環重合体(A)以外に、光学部品の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
添加剤としては、例えば、親水性安定剤、親水剤、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性剤、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等が挙げられる。
親水性安定剤を含むと、高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制でき、より好ましい。
親水安定剤は、脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルが好ましく、脂肪酸とエーテル基を1つ以上有する多価アルコールとの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0039】
<光学部品の製造方法>
本実施形態に係る光学部品は、環状オレフィン系開環重合体(A)を含む環状オレフィン系樹脂組成物を所定の形状に成形することにより製造できる。
環状オレフィン系樹脂組成物を成形して光学部品を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成型、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成型法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成型方法により適宜選択される。例えば、射出成型における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230~330℃の範囲で適宜選択される。
【0040】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、例えば、環状オレフィン系開環重合体(A)および必要に応じて添加されるその他成分を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混錬装置を用いて溶融混錬する方法;環状オレフィン系開環重合体(A)および必要に応じて添加されるその他成分を共通の溶媒に溶解させた後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系共重合体(A)および必要に応じて添加されるその他の成分を溶液に加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0042】
以下、本実施形態を、実施例等を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)
内部を窒素置換した重合反応器に、単量体混合物(テトラシクロドデセン由来の構造単位36mol%、インデンノルボルネン由来の構造単位64mol%)7部、脱水シクロヘキサン1600部、1‐ヘキセン0.6部、ジイソプロピルエーテル1.3部、イソブチルアルコール0.33部、トリイソブチルアルミニウム0.84部、六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.66%)30部を入れ、全容を55℃で10分撹拌した。
次いで、撹拌を継続しながら、55℃で上記単量体混合物693部と六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.77%)72部を、各々150分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間撹拌を継続した後、イソプロピルアルコール1.0部を添加して重合反応を停止させた。重合反応溶液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、単量体の重合体への転化率は100%であった。
【0044】
次いで、上記重合体を含有する重合反応溶液300部を、撹拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン100部、珪藻土担持ニッケル触媒(日揮化学社製、製品名:T8400RL、ニッケル担持率58%)2.0部を加えた。オートクレーブ内を水素で置換した後、180℃、4.5MPaの水素圧力下で6時間、水素化反応を行った。
水素化反応終了後、珪藻土(昭和化学工業社製、製品名:ラヂオライト(登録商標)#500)を濾過床として、加圧濾過器(石川島播磨重工社製、製品名:フンダフィルター)を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、無色透明な溶液を得た。
【0045】
次いで、円筒型濃縮乾燥機(日立製作所製)を用いて、温度260℃、圧力1kPa以下の条件で、無色透明な溶液から溶媒(シクロヘキサン)及びその他揮発成分を除去した後、濃縮乾燥機に直結したダイから溶融物をストランド状に押出した。この溶融物を、水冷後、ペレタイザー(長田製作所、製品名:OSP-2)でカッティングして、環状オレフィン系開環重合体樹脂のペレットを得た。
【0046】
(製造例2)
単量体混合物を、テトラシクロドデセン由来の構造単位76mol%、インデンノルボルネン由来の構造単位12mol%、ジシクロペンタジエン由来の構造単位12mol%としたこと以外、製造例1と同様に製造を行った。
【0047】
(製造例3)
単量体混合物を、インデンノルボルネン由来の構造単位100%としたこと以外、製造例1と同様に製造を行った。
【0048】
(実施例1)
製造例1で作製したペレットを用い、射出成形機を用いて樹脂成形体を得た。これを用いて各評価を行った。
【0049】
(実施例2)
製造例2で作製したペレットを用いたこと以外、実施例1と同様に樹脂成形体を得た。これを用いて各評価を行った。
【0050】
(比較例)
製造例3で作製したペレットを用い、射出成型機を用いて樹脂成形体を得た。これを用いて各評価を行った。
【0051】
[評価]
(ガラス転移温度)
以下の条件で、示差走査熱量測定を行い求めた。
・装置:エスアイアイナノテクノロジー社製、DSC7000
・測定条件:窒素雰囲気下、室温から10℃/分の昇温速度で260℃まで昇温した後に5分保持した。次いで、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持した。その後、10℃/分の昇温速度で260℃まで昇温する過程のDSC曲線を取得した。
得られたDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度を、ガラス転移温度とした。
【0052】
(透明性)
樹脂成形体から得られた30mm×30mm×厚み2mmの角板試験片の内部ヘイズを測定し、以下の基準で透明性をそれぞれ評価した。
内部ヘイズは、ヘイズ計(日本電色工業社製NDH-20D)を用い、ベンジルアルコール中でそれぞれ測定した。
〇:内部ヘイズが5.0%未満
×:内部ヘイズが5.0%以上
【0053】
(屈折率)
上記で得られた30mm×30mm×厚み2.0mmの角板試験片について、屈折率計(島津サイエンス社製 KPR200)を用いて、ASTM D542に準じて、波長589nmにおける屈折率(n)を測定した。
【0054】
(屈折率の変化:環境試験)
上記試験片を、イナートオーブンを用いて窒素を導入しつつ、125℃で168時間加熱した。加熱後における波長589nmにおける屈折率を測定した。加熱前の屈折率と加熱後の屈折率との変化量(Δn)を算出した。
【0055】
以上の実施例1,2、比較例の組成と評価結果を表1に示す。なお、表1中におけるTDはテトラシクロドデセン、IndNBはインデンノルボルネン、DCPDはジシクロペンタジエンを意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1,2では構造単位(a)と構造単位(b)とを含み、構造単位(a)の含有量が特定の範囲内にあることで、高いガラス転移温度(Tg)、高い屈折率(n)および低い屈折率の変化量(Δn)とすることができた。また、内部ヘイズも低く抑えることができた。
一方、比較例では高いガラス転移温度、低い内部ヘイズ量、低い屈折率の変化量を示したが、高い屈折率は得られなかった。