(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143216
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】デリバリー装置及び留置具付きデリバリー装置
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20220926BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20220926BHJP
A61M 25/092 20060101ALI20220926BHJP
A61F 2/962 20130101ALI20220926BHJP
【FI】
A61M25/00 624
A61M25/06 550
A61M25/092 500
A61F2/962
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043619
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉原 章仙
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA56
4C267BB07
4C267BB09
4C267BB12
4C267BB13
4C267BB38
4C267BB52
4C267CC08
4C267HH01
(57)【要約】
【課題】シースの屈曲状態を設定しやすくなり、シースのキンクを抑制可能なデリバリー装置及び留置具付きデリバリー装置を提供する。
【解決手段】デリバリー装置は、シース3と、操作線4と、を備える。シース3の遠位端部3aは、自然状態において、操作線4の配設されている径方向の一方側に対して逆側である他方側に、第1屈曲点3cを有して屈曲した状態となるように賦形されている。シース3は、第1屈曲点3cよりも近位端側にある少なくとも一部の近位端側領域(第1領域3e)の硬度よりも、第1領域3eよりも遠位端側にある少なくとも一部の遠位端側領域(第2領域f、第3領域3g)の硬度が低くなっている。シース3は、操作線4の先端部4aよりもシース3の近位端側に、操作線4を牽引したときの屈曲点となる第2屈曲点3dを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端部に開口を有し、軸線を中心として長尺に形成されたシースと、
該シースの前記遠位端部に先端部を接続されて前記シースの軸方向に配設され、前記遠位端部の屈曲量を牽引量に応じて変更する操作線と、を備えて、前記シースの内部のものを前記開口から体内に送り出すデリバリー装置であって、
前記操作線は、前記シースの径方向の一方側に配設されており、
前記シースの遠位端部は、自然状態において、前記操作線の配設されている前記径方向の前記一方側に対して逆側である他方側に、第1屈曲点を有して屈曲した状態となるように賦形されており、
前記シースは、前記自然状態における前記シースの前記第1屈曲点よりも近位端側にある少なくとも一部の近位端側領域の硬度よりも、該近位端側領域よりも遠位端側にある少なくとも一部の遠位端側領域の硬度が低くなっており、
前記シースの前記遠位端側領域であって、前記操作線の前記先端部よりも前記シースの前記近位端側に、前記操作線を牽引したときの屈曲点となる第2屈曲点を備えることを特徴とするデリバリー装置。
【請求項2】
前記第2屈曲点は、前記第1屈曲点よりも前記シースの前記近位端側に設けられている請求項1に記載のデリバリー装置。
【請求項3】
前記シースは、前記一方側において、近位端部から前記遠位端部に向かう順に、第1領域、第2領域及び第3領域を有し、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、前記第2領域の硬度は、前記第3領域の硬度よりも高く、
前記第1屈曲点は、前記第2領域よりも前記近位端部側にあり、
前記第2屈曲点は、前記第2領域内又は前記第3領域内にある請求項1に記載のデリバリー装置。
【請求項4】
前記シースは、前記一方側において、近位端部から前記遠位端部に向かう順に、第1領域、第2領域及び第3領域を有し、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、前記第2領域の硬度は、前記第3領域の硬度よりも高く、
前記第3領域は、前記第2領域よりも前記シースの長尺方向において長く形成されており、
前記第2屈曲点は前記第3領域内にある請求項1に記載のデリバリー装置。
【請求項5】
前記遠位端部は、前記一方側と前記他方側とで同じ硬度であり、前記第2領域及び前記第3領域より高い硬度である請求項3又は4に記載のデリバリー装置。
【請求項6】
前記シースは、近位側の外径と遠位側の外径とを異ならせる異径段差部を有し、
前記シースの外径は、前記異径段差部を境として近位側より遠位側が大きく形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載のデリバリー装置。
【請求項7】
前記異径段差部は、前記第2領域よりも近位側に配設されている請求項3又は4を引用する請求項6に記載のデリバリー装置。
【請求項8】
前記遠位端側領域において、前記シースにおける前記径方向の前記他方側の領域の硬度は、前記一方側の領域の硬度よりも高い請求項1から7のいずれか一項に記載のデリバリー装置。
【請求項9】
前記シースの径方向の前記他方側には、前記一方側の硬度よりも高い硬度を有して、前記シースの軸線方向に延在している領域があり、
該領域は、前記シースの前記遠位端部と一体的に形成されている請求項8に記載のデリバリー装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のデリバリー装置と、
前記シースの内部の収容された留置具と、を備える留置具付きデリバリー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用に用いられ、シースの内部のものを体内に送り出すデリバリー装置、及び留置具を体内に送り出す留置具付きデリバリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療行為において、体内にステントやステントグラフト等の留置具を送り出したり、薬液等を送り出したりするためにデリバリー装置が用いられる。このようなものを体菅内の所望の位置に送り出すために、デリバリー装置のシースが体内に挿入される。このようなデリバリー装置によれば、シース内に保持され、あるいはシース内を通って、所望の位置に留置具等が送り出されることになる。
【0003】
例えば体管のうち血管にシースを通して、ステントグラフトや薬液等を送り出すためには、曲がりくねった血管走行時の指向性が重要となる。この指向性を高めるため、シースの剛性を低くする必要がある。また、シースのキンクを防止するためにある程度の剛性が必要であった。
しかし、シースの剛性を低く設定すると、シースが屈曲した後に永久たわみ(曲げ方向の永久変形であり、屈曲するシースの曲げの中心軸よりも外側にある部位の永久ひずみ)により元の形状に戻らない場合があった。このように永久たわみが残ったシースを屈曲させようとすると、たわみが残った部位から変形することになり、「コブ」を有するいびつな変形となることがあり、血管走行時の指向機能等の機能確保をするために改善の余地があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、ステントを体内にデリバリーするシースとして、剛性を高めるブレードとして周回方向に一様に形成された網組体と、網組体が埋設された樹脂層と、を備えるシースが開示されている。このようにして、シースの剛性を高めることで、樹脂部に永久たわみが残っても復元可能なように補強していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のシースを備えるデリバリー装置によると、周回方向に一様に形成された網組体がシースに設けられていることから、その剛性により、シースを所望の形状に変形させることが困難であった。つまり、シースの屈曲状態の設定操作に関して改善の余地があった。
【0007】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、シースの屈曲状態を設定しやすくなり、シースのキンクを抑制可能なデリバリー装置及び留置具付きデリバリー装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のデリバリー装置は、遠位端部に開口を有し、軸線を中心として長尺に形成されたシースと、該シースの前記遠位端部に先端部を接続されて前記シースの軸方向に配設され、前記遠位端部の屈曲量を牽引量に応じて変更する操作線と、を備えて、前記シースの内部のものを前記開口から体内に送り出すデリバリー装置であって、前記操作線は、前記シースの径方向の一方側に配設されており、前記シースの遠位端部は、自然状態において、前記操作線の配設されている前記径方向の前記一方側に対して逆側である他方側に、第1屈曲点を有して屈曲した状態となるように賦形されており、前記シースは、前記自然状態における前記シースの前記第1屈曲点よりも近位端側にある少なくとも一部の近位端側領域の硬度よりも、該近位端側領域よりも遠位端側にある少なくとも一部の遠位端側領域の硬度が低くなっており、前記シースの前記遠位端側領域であって、前記操作線の前記先端部よりも前記シースの前記近位端側に、前記操作線を牽引したときの屈曲点となる第2屈曲点を備えることを特徴とする。
また、留置具付きデリバリー装置は、前記デリバリー装置と、前記シースの内部の収容された留置具と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
シースが、自然状態において屈曲していることで屈曲状態を設定しやすくなり、硬度の異なる領域を有して2つの屈曲点を備えることで、シースのキンクを抑制可能なデリバリー装置及び留置具付きデリバリー装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】デリバリー装置(留置具付きデリバリー装置)により、ステントグラフトを大動脈弓に留置している状態を示す模式図である。
【
図2】賦形された本実施形態に係るシースを示す模式図である。
【
図3】操作線により真っ直ぐに変形されたシースを示す模式図である。
【
図4】(a)は、
図3のIVA-IVA断面を示す図である。(b)は、
図3のIVB-IVB断面を示す図である。
【
図5】材質が同一構成であるシースと、異種構成のシースとの操作前後の変位を比較した図である。
【
図6】第1変形例に係る構成のシースを示す模式図である。
【
図7】第2変形例に係る構成のシースを示す模式図である。
【
図8】第3変形例に係る構成のシースを示す模式図である。
【
図9】材質が同一構成であるシースと、異種構成である各種シースと、について、操作線を牽引したときのシース形状を比較した図である。
【
図10】第4変形例に係る異径段差部を備えるシースを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るデリバリー装置1(留置具付きデリバリー装置1S)について説明する。
なお、本実施形態で用いる図面は、本発明のデリバリー装置の構成、形状、各部材の配置を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
また、図面は、デリバリー装置1(留置具付きデリバリー装置1S)の長さ、幅、高さといった寸法比を必ずしも正確に表すものではない。
なお、近位側(基端側)は、施術時に術者の近くに配置される側をいい、遠位側(先端側)は、施術時に術者の遠くに配置される側をいう。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0012】
<概要>
本実施形態の説明に先立って、先ず、本実施形態に係る留置具付きデリバリー装置(デリバリー装置1)の概要について説明する。
本実施形態に係るデリバリー装置1及び留置具付きデリバリー装置1Sの概要を、
図1及び
図2を主に参照して説明する。
図1は、デリバリー装置1(留置具付きデリバリー装置1S)により、ステントグラフト2を大動脈弓に留置している状態を示す模式図である。
図2は、賦形された本実施形態に係るシース3を示す模式図である。
【0013】
本実施形態に係るデリバリー装置1は、
図1及び
図2に示すように、遠位端部3aに開口3bを有し、軸線を中心として長尺に形成されたシース3と、シース3の遠位端部3aに先端部4aを接続されてシース3の軸方向に配設され、遠位端部3aの屈曲量を牽引量に応じて変更する操作線4と、を備えて、シース3の内部のもの(ステントグラフト2や薬液等)を開口3bから体内に送り出すものである。
操作線4は、シース3の径方向の一方側に配設されている。
シース3の遠位端部3aは、自然状態において、操作線4の配設されている径方向の一方側に対して逆側である他方側に、第1屈曲点3cを有して屈曲した状態となるように賦形されている。
シース3は、自然状態におけるシース3の第1屈曲点3cよりも近位端側にある少なくとも一部の近位端側領域(第1領域3e)の硬度よりも、第1領域3eよりも遠位端側にある少なくとも一部の遠位端側領域(第2領域f、第3領域3g)の硬度が低くなっている。
シース3の遠位端側領域(第2領域3f、第3領域3g)であって、操作線4の先端部4aよりもシース3の近位端側に、操作線4を牽引したときの屈曲点となる第2屈曲点3dを備える。
【0014】
上記構成によれば、シース3が自然状態において屈曲していることで、屈曲状態を設定しやすくなり、シース3が硬度の異なる領域を有して2つの屈曲点(第1屈曲点3c及び第2屈曲点3d)を備えることで、シース3のキンクを抑制できる。
なお、「遠位側領域」の範囲には、近位側領域と遠位側領域の境目の部分が含まれるものとする。
また、第1領域3eの硬度が高く永久ひずみが小さい材料を使用して復元力を高めることで、操作線4の操作により直線状態にシース3を変形させたのち、自然状態(賦形状態)に戻しやすくなる。
【0015】
留置具付きデリバリー装置1Sは、
図1に示すように、デリバリー装置1と、シース3の内部の収容された留置具(ステントグラフト2等)と、を備える。
留置具としては、ステント部2aとグラフト部2bとを備えるステントグラフト2の他に、ステント部2aのみの不図示のステントや医療用鉗子等、体内に留置されるものである。
上記構成によれば、留置具付きデリバリー装置1Sにおいても上記の効果を享受することができる。
【0016】
(留置具付きデリバリー装置)
図1に示すように、本実施形態に係る留置具付きデリバリー装置1Sは、例えば、下行大動脈51を通って大動脈弓50に形成された大動脈瘤55の内壁50aに当接するようにステントグラフト2を留置するためのものである。
シース3は、先端部に先端チップ5を備えるインナーシース3Xと、アウターシース3Yと、から構成されている。本実施形態に係るステントグラフト2は、インナーシース3Xに取り付けられ、施術者によってアウターシース3Yがインナーシース3Xに対して相対的に近位側に移動させられることにより、シース3から露出することになる。
なお、例えば薬剤のみをデリバリーする装置であれば、インナーシース3Xを備えずに、アウターシース3Yのみを備えるものであってもよい。
【0017】
(シース形状)
次に、
図2に加え、
図3及び
図4を参照して、シース3(アウターシース3Y)の形状について説明する。
図3は、操作線4の牽引により真っ直ぐに変形されたシース3を示す模式図である。
図4(a)は、
図3のIVA-IVA断面を示す図である。
図4(b)は、
図3のIVB-IVB断面を示す図である。
【0018】
本実施形態に係るシース3(アウターシース3Y)は、硬度の異なる複数の熱可塑性樹脂によって構成されている。熱可塑性樹脂の一例としてポリアミドエラストマーを挙げることができるが、ウレタン系エラストマーなど他の熱可塑性樹脂を用いてもよい。硬度の異なる複数の熱可塑性樹脂には、主成分の化学構造が互いに共通し硬度が異なる同種の樹脂材料を用いるとよい。これにより後述する各領域が良好に密着する。
シース3は、径方向の一方側(操作線4が配設されている側)において、近位端部から遠位端部に向かう順に、第1領域3e、第2領域3f、第3領域3gを有する。
第1領域3eの硬度は、第2領域3fの硬度よりも高く、第2領域3fの硬度は、第3領域3gの硬度よりも高い。
第1屈曲点3cは、第2領域3fよりも近位端部側にある。ここで、第2領域3fよりも近位端部側には、第1領域3eの全周回状に形成された部位における第2領域3fとの境界近傍を含むものである。
【0019】
上記構成によれば、近位側にある第1領域3eの硬度が第2領域3fの硬度よりも高いことでシース3の近位端部側の振れを抑制できる。また、第2屈曲点3dが第1領域3eよりも硬度の低い第2領域3f又は第3領域3g内にあることで、柔軟性を確保することができる。
【0020】
また、特に本例に係る第3領域3gは、第2領域3fよりもシース3の長尺方向において長く形成されている。第2屈曲点3dは、第1領域3eよりも硬度の低い領域に設けられていればよく、例えば第2屈曲点3dは第3領域3g内にあってもよい。
上記構成によれば、硬度の低い第3領域3gを長くすることによって、第3領域2g内にある第2屈曲点3dで変形しやすくできる。
【0021】
図4に示すように、シース3(アウターシース3Y)は、軸方向全体に延在する内層3hを備え、内層3hの周りに、第1領域3eの樹脂、内層3hの断面半円弧部分(操作線4側の半円弧部分)に第3領域3g(第2領域3f)の樹脂が設けられている。
例えば、シース3の自然状態における第1屈曲点3cは、第1領域3eにおいて全周回状に形成された部位と第2領域3fとの境界部分にある。
具体的には、第2領域3f及び第3領域3gのそれぞれは、シース3の軸線方向に垂直な断面において、操作線4の中心と、シース3の中心とを含む仮想直線に対して、線対称に設けられている。
【0022】
シース3の遠位端部3aは、径方向の一方側と他方側とで同じ硬度であり、第2領域3f及び第3領域3gより高い硬度である。
上記構成によれば、シース3の遠位端部3aの硬度が高いことで、遠位端部3aに先端部4aが固定された操作線4の取付状態を安定させることができる。
なお、操作線4の先端部4aは、シース3に取り付けられた不図示のリング状のマーカーを介してシース3の遠位端部3aに固定されていてもよく、高い硬度を有する遠位端部3aに埋設されるようにして固定されていてもよい。
【0023】
遠位端側領域(第2領域3f及び第3領域3gを含む、軸方向の領域)において、シース3における径方向の他方側(つまり、操作線4が配置されていない側)の領域の硬度は、一方側(操作線4が配置されている側)の領域の硬度よりも高い。
上記構成によれば、シース3の径方向他方側(操作線4が配設されていない側)の硬度が高いことで、賦形時に大きな永久ひずみが生じることを抑制でき、操作線4の牽引時に直線的にシース3を変形させやすくなり、指向性が向上する。このため、操作線4の牽引時に、シース3に生じる「コブ」部分をより先端側に生じさせ、もしくは見かけ上無くすことにより、シース3を直線的に変形させやすくなり、賦形されたシース3の血管走行性を向上させる。
また、シース3の径方向一方側(操作線4が配設されている側)の硬度が低いことで、操作線4を牽引したときにシース3を変形しやすくすることができる。
【0024】
より具体的には、シース3の径方向における操作線4が配設されている側に対して、その逆側である操作線4が配設されていない側の樹脂硬度を異ならせる(異なるヤング率の材料を用いる)ことで、圧縮ひずみ、引張りひずみを調整することができる。
つまり、賦形されたシース3に対して、操作線4を牽引したときに、シース3の径方向において、操作線4側には圧縮荷重が加わり、操作線4とは逆側には、引張荷重がかかることになる。操作線4の牽引時に加わるこれらの荷重に応じた材料を選定することで、永久たわみが生じることを抑制できる。
【0025】
本実施形態においては、
図4(a)に示すように、シース3の断面において、第3領域3g(及び第2領域3f)と第1領域3eとは、半円弧状に形成されているものとして説明したが、本発明はこのような構成に限定されない。
シース3の断面において、低硬度の第2領域3f及び第3領域3gの面積と、高硬度の第1領域3eの面積との比率を異なるようにしてもよい。
例えば、低硬度側の第2領域3f及び第3領域3gの面積を、高硬度の第1領域3eの面積よりも大きな比率となるように(換言すると、第2領域3f及び第3領域3gの断面が180度よりも大きな中心角を有する円弧となるように)形成してもよい。このようにすると、シース3の剛性が低くなることにより、操作線4を牽引したときにシース3をより直線化しやすくすることができる。
【0026】
シース3の径方向の他方側(操作線4が配設されていない側)には、一方側(操作線4が配設されている側)の硬度よりも高い硬度を有して、シース3の軸線方向に延在している領域がある。本実施形態においては、他方側には、第1領域3eの樹脂が延在して、当該領域に位置している。この領域は、シース3の遠位端部3aと一体的に形成されている。
上記構成によれば、遠位端部3aと一体的に形成されて、高い硬度を有する領域が軸線方向に延在していることで、シース3を自然状態(賦形された形状の状態)に復元しやすくできる。
【0027】
(操作線牽引前後のシース形状の比較)
次に、
図5を参照して、上記構成のシース3と、同一の樹脂構成の不図示のシースとについて、操作線4の牽引前後のシースの形状を説明する。
図5は、材質が同一構成である不図示のシースと、異種構成の上記のシース3との操作前後の変位を比較した図である。xは、操作線牽引前後で変位のない基端側の部位を基準とした距離を示すものであり、yは、操作線4による屈曲方向の変位を示すものである。
図5において、同一構成のシースにおける、操作前の形状曲線は、複数の四角形の検出点に基づく曲線であり、操作後の形状曲線は、複数の菱形の検出点に基づく曲線である。また、異種構成のシース3における、操作前の形状曲線は、複数の三角形の検出点に基づく曲線であり、操作後の形状曲線は、複数の丸形の検出点に基づく曲線である。
【0028】
図5に示す形状曲線でもわかるように、同一構成のシースにおいては、異種構成のシース3と比較して、自然状態(賦形状態)から操作線4を牽引した後に、大きな山形の「コブ」が生じた。
このような、「コブ」の発生は、例えば、操作線4を牽引したときに、例えば径方向屈曲側が6mm伸びた場合に、径方向の屈曲側に対する逆側が4mmしか縮まないときに生じる。
このような「コブ」の発生を抑制するために、本実施形態に係るシース3では、径方向の屈曲側に対する逆側(他方側)の永久ひずみが、屈曲側(一方側)の永久ひずみよりも小さい材料が用いられている。
図5に示すように、本位実施形態に係るシース3のように、円周上で(径方向一方側と他方側とで)硬度を変化させたものは、すべて同じ硬度の樹脂を使用した樹脂の素材が同一構成であるシースと比較すると、操作線4の牽引後により直線状態に近づけることができる。
【0029】
<第1変形例>
上記実施形態に係るシース3においては、第1領域3e、第1領域3eよりも硬度の低い第2領域3f、第2領域3fよりも硬度の低い第3領域3gを有するものとして説明したが、本発明はこのような構成のシース3に限定されない。
次に、
図6を参照して、第1変形例に係るシース13について説明する。
図6は、第1変形例に係る構成のシース13を示す模式図である。なお、
図6は、シース13において操作線4を牽引した状態を模式的に示すものである。
【0030】
シース13は、第1領域13eと、第1領域13eよりも硬度の低い第2領域13fと、第2領域13fよりも硬度の低い第3領域13gと、を備える。
そして、第2領域13f及び第3領域13gは、第1領域13eよりも遠位端側にある。第2領域13fは、径方向において、操作線4が配設されている側の断面半円弧部分にある。第3領域13gは、操作線4が配設されている側とは逆側の断面半円弧部分にある。
具体的には、第2領域13f及び第3領域13gのそれぞれは、シース13の軸線方向に垂直な断面において、操作線4の中心と、シース13の中心とを含む仮想直線に対して、線対称に設けられている。
【0031】
このような構成のシース13においても、第1領域13eよりも硬度の低い第2領域13f及び第3領域13gに、
図2に示す第2屈曲点3dが設けられており、操作線4が径方向において第3領域13g側に配設されていれば、シース13のキンクを抑制しやすくなる。
【0032】
<第2変形例>
次に、
図7を参照して、第2変形例に係るシース23を説明する。
図7は、第2変形例に係る構成のシース23を示す模式図である。
シース23は、径方向の一方側において、近位端部から遠位端部に向かう順に、第1領域23e、第2領域23f及び第3領域23gを有する。
第1領域23eの硬度は、第2領域23fの硬度よりも高く、第2領域33fの硬度は、第3領域23gの硬度よりも高い。
第1屈曲点23cは、第2領域23fよりも近位端部側にある。なお、
図7に示すように、第2屈曲点23dは、第1領域23eよりも硬度の低い領域に設けられていればよく、第1屈曲点23cとの境界近傍の第2領域23f内にあってもよく、第2領域23fとの境界近傍の第3領域23g内にあってもよい。
【0033】
上記構成によれば、近位側にある第1領域23eの硬度が第2領域23fの硬度よりも高いことでシース23の近位端部側の振れを抑制できる。また、第2屈曲点23dが第1領域23eよりも硬度の低い第2領域23f又は第3領域23g内にあることで、柔軟性を確保することができる。
【0034】
また、特に本例に係る第3領域23gは、第2領域23fよりもシース23の長尺方向において長く形成されており、例えば第2屈曲点23dは第3領域23g内にある。
上記構成によれば、硬度の低い第3領域23gを長くすることによって、第3領域23g内にある第2屈曲点23dで変形しやすくできる。
【0035】
<第3変形例>
次に、第3変形例に係るシース33について、
図8を参照して説明する。
図8は、第3変形例に係る構成のシース33を示す模式図である。
本例に係るシース33において、第2屈曲点33dは、第1屈曲点33cよりもシース33の近位端側に設けられている。
第1屈曲点33cは、賦形された自然状態における屈曲点である。第2屈曲点33dは、軸線方向において剛性が変化する部位による屈曲点であり、第1領域33eと第1領域33eよりも硬度の低い第2領域33fの境界部分(より具体的には、第2領域33fにおける第1領域33eとの境界近傍)にある。
つまり、本例においては、第1屈曲点33cよりも第2領域33f(及び第3領域33gの近位端)が近位側に設けられている。
【0036】
上記構成によれば、シース33を賦形された屈曲状態(自然状態)から直線的な形状に近づくように変形させたときに、シース33の変形の減衰位置をシース33の近位側にすることができ、シース33全体として直線的な形状により近づけることができる。
【0037】
(操作線牽引時のシース形状)
図9は、材質が同一構成であるシースと、異種構成のシースとの操作前後の変位を比較した図である。なお、
図9は、シース先端を原点とし、操作線4の牽引前を基準としたときに、シース牽引後のシースの変位量を示す図である。
具体的には、異種構成のシースとしては、
図2に示す第1実施形態に係るシース3、
図7に示す第2変形例に係るシース23、及び
図8に示す第3変形例に係るシース33である。
同一構成のシースの形状曲線は、複数の六角形の検出点に基づく曲線であり、シース3の形状は、複数の四角の検出点に基づく曲線であり、シース23の形状は、複数の菱形の検出点に基づく曲線であり、シース33の形状は、複数の三角の検出点に基づく曲線である。
【0038】
これらの形状曲線は、シース形状を下記の数式のパルス関数でフィッティングして生成したものである。
【数1】
上記のパルス関数により、pが大きいほどy(変位量)が小さくなり、t2が小さいほど、早く減衰することがわかる。つまり、pが大きく、t
2が小さいほど、操作線4を牽引した後のシースの形状が直線に近づくものとなる。
【0039】
また、フィッティングのパラメータは、下表の通りとなった。なお、下表のType Iは、シース3の形状曲線に係るパラメータ値であり、Type IIは、シース23の形状曲線に係るパラメータ値、Type IIIは、シース33の形状曲線に係るパラメータ値である。
【表1】
数式1より、pの値が大きい順番は、シース3、シース33、シース23の順となった。t
2の値が大きい順番は、シース23、シース3、シース33の順となった。
【0040】
上記の結果から、賦形による屈曲点(第1屈曲点3c、23c、33c)と、操作線4を牽引したときの屈曲点(本例においては樹脂剛性が異なることによる、第2屈曲点3d、23d、33d)のシース上の位置関係について、第2屈曲点3d、33d、が第1屈曲点3c、33cよりもシース3、33上の近位端側に設けられていると好適であることがわかった。
つまり、シース3及びシース33が、シース23よりも、操作線4を牽引したときに直線に近くなるため、指向性を高めることができ、好適である。
【0041】
<第4変形例>
次に、
図10を参照して、第4変形例に係るシース43について説明する。
図10は、第4変形例に係る異径段差部43jを備えるシース43を示す模式図である。
シース43は、近位側(小径部43h)の外径と遠位側(大径部43i)の外径とを異ならせる異径段差部43jを有する。シース43の外径は、異径段差部43jを境として近位側より遠位側が大きく形成されている。
本実施形態に係る異径段差部43jは、遠位側から近位側に向かうにつれて斜めに縮径するテーパ状に形成されている。このような構成であると、剛性の不連続部分が生じないことで、意図しない屈曲点が生じ難いため好適である。
【0042】
しかしながら、異径段差部43jは、このような構成に限定されず、意図しない屈曲点となることを防いで、遠近方向の径を異ならせることができればよく、例えば階段状に形成されていてもよい。
上記構成によれば、異径段差部43jにより、遠位側を近位側よりも大径にできることで、遠位側の形状保持性を高めることができる。
【0043】
特に、本実施形態に係る異径段差部43jは、第2領域33fよりも近位側に配設されている。
上記構成によれば、異径段差部43jにより、第2領域33fを含む遠位側を大径にできることで、当該遠位側の剛性を高めることができ、操作線4を牽引した際に、遠位側がキンクすることを防ぐことができる。
【0044】
つまり、本実施形態においては、大径部43iに、硬度の低い第2領域33f及び第3領域33gが形成されている。
したがって、第2領域33f及び第3領域33gに設けられた第1屈曲点33c及び第2屈曲点33dを基準として屈曲する形状の保持性を高めることができる。
また、大径部43iのある遠位側にステントグラフト2を内包するものであれば、ステントグラフト2の収容スペースを確保することができる。
【0045】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)
遠位端部に開口を有し、軸線を中心として長尺に形成されたシースと、
該シースの前記遠位端部に先端部を接続されて前記シースの軸方向に配設され、前記遠位端部の屈曲量を牽引量に応じて変更する操作線と、を備えて、前記シースの内部のものを前記開口から体内に送り出すデリバリー装置であって、
前記操作線は、前記シースの径方向の一方側に配設されており、
前記シースの遠位端部は、自然状態において、前記操作線の配設されている前記径方向の前記一方側に対して逆側である他方側に、第1屈曲点を有して屈曲した状態となるように賦形されており、
前記シースは、前記自然状態における前記シースの前記第1屈曲点よりも近位端側にある少なくとも一部の近位端側領域の硬度よりも、該近位端側領域よりも遠位端側にある少なくとも一部の遠位端側領域の硬度が低くなっており、
前記シースの前記遠位端側領域であって、前記操作線の前記先端部よりも前記シースの前記近位端側に、前記操作線を牽引したときの屈曲点となる第2屈曲点を備えることを特徴とするデリバリー装置。
(2)
前記第2屈曲点は、前記第1屈曲点よりも前記シースの前記近位端側に設けられている(1)に記載のデリバリー装置。
(3)
前記シースは、前記一方側において、近位端部から前記遠位端部に向かう順に、第1領域、第2領域及び第3領域を有し、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、前記第2領域の硬度は、前記第3領域の硬度よりも高く、
前記第1屈曲点は、前記第2領域よりも前記近位端部側にあり、
前記第2屈曲点は、前記第2領域内又は前記第3領域内にある(1)に記載のデリバリー装置。
(4)
前記シースは、前記一方側において、近位端部から前記遠位端部に向かう順に、第1領域、第2領域及び第3領域を有し、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、前記第2領域の硬度は、前記第3領域の硬度よりも高く、
前記第3領域は、前記第2領域よりも前記シースの長尺方向において長く形成されており、
前記第2屈曲点は前記第3領域内にある(1)に記載のデリバリー装置。
(5)
前記遠位端部は、前記一方側と前記他方側とで同じ硬度であり、前記第2領域及び前記第3領域より高い硬度である(3)又は(4)に記載のデリバリー装置。
(6)
前記シースは、近位側の外径と遠位側の外径とを異ならせる異径段差部を有し、
前記シースの外径は、前記異径段差部を境として近位側より遠位側が大きく形成されている(1)から(5)のいずれか一項に記載のデリバリー装置。
(7)
前記異径段差部は、前記第2領域よりも近位側に配設されている(3)又は(4)を引用する(6)に記載のデリバリー装置。
(8)
前記遠位端側領域において、前記シースにおける前記径方向の前記他方側の領域の硬度は、前記一方側の領域の硬度よりも高い(1)から(7)のいずれか一項に記載のデリバリー装置。
(9)
前記シースの径方向の前記他方側には、前記一方側の硬度よりも高い硬度を有して、前記シースの軸線方向に延在している領域があり、
該領域は、前記シースの前記遠位端部と一体的に形成されている(8)に記載のデリバリー装置。
(10)
(1)から(9)のいずれか一項に記載のデリバリー装置と、
前記シースの内部の収容された留置具と、を備える留置具付きデリバリー装置。
【符号の説明】
【0046】
1 デリバリー装置
1S 留置具付きデリバリー装置
2 ステントグラフト(留置具)
2a ステント部
2b グラフト部
3 シース
3a 遠位端部
3b 開口
3c 第1屈曲点
3d 第2屈曲点
3e 第1領域(近位端側領域、他方側の領域)
3f 第2領域(遠位端側領域、一方側の領域)
3g 第3領域(遠位端側領域、一方側の領域)
3h 内層
3X インナーシース
3Y アウターシース
4 操作線
4a 先端部
5 先端チップ
13 シース
13e 第1領域(近位端側領域)
13f 第2領域(遠位端側領域)
13g 第3領域(遠位端側領域)
23 シース
23c 第1屈曲点
23d 第2屈曲点
23e 第1領域(近位端側領域)
23f 第2領域(遠位端側領域)
23g 第3領域(遠位端側領域)
33 シース
33c 第1屈曲点
33d 第2屈曲点
33e 第1領域(近位端側領域)
33f 第2領域(遠位端側領域)
33g 第3領域(遠位端側領域)
43 シース
43h 小径部
43i 大径部
43j 異径段差部
50 大動脈弓
50a 内壁
51 下行大動脈
55 大動脈瘤