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特開2022-143262強化ガラス板および強化ガラス板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143262
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】強化ガラス板および強化ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20220926BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20220926BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C19/00 Z
C03C15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043689
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】稲山 尚利
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
4G059AB11
4G059AC16
4G059AC30
4G059BB04
4G059BB14
4G059BB16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB23
(57)【要約】
【課題】
厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板を実現すること。
【解決手段】
可撓性を有するガラス板を化学強化することで表裏両側にそれぞれ圧縮応力層5,6が形成された強化ガラス板1を得る強化工程、を含んだ強化ガラス板の製造方法であって、強化ガラス板1が、表裏面2,3の一方が凸となるように反った反り部4を含み、反り部4における表面2側(凸面側)の圧縮応力層5の表層部を除去することで反りを小さくする除去工程、を更に含むようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するガラス板を化学強化することで表裏両側にそれぞれ圧縮応力層が形成された強化ガラス板を得る強化工程、を含んだ強化ガラス板の製造方法であって、
前記強化ガラス板が、表裏面の一方が凸となるように反った反り部を含み、
前記反り部における凸面側の前記圧縮応力層の表層部を除去することで反りを小さくする除去工程、を更に含むことを特徴とする強化ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記反り部における前記凸面上の一部の領域のみにエッチング又は研磨加工を施すことにより、前記一部の領域に対応する前記圧縮応力層の表層部を除去することを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記強化ガラス板を縦姿勢で吊り下げ支持した状態でエッチングを施すことを特徴とする請求項2に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記反り部における前記凸面の頂点を含んだ領域にエッチングを施すことを特徴とする請求項2又は3に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記強化ガラス板が前記反り部を複数含み、
前記複数の反り部の中には、前記強化ガラス板の表面が凸となった前記反り部と、裏面が凸となった前記反り部と、が含まれることを特徴とする請求項3又は4に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項6】
エッチング液を保持可能な平坦面を備えたエッチング部材を用いて、
前記反り部における前記凸面上の前記一部の領域と、前記エッチング部材の前記平坦面と、を接触させてエッチングを施すことを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記エッチング部材の前記平坦面の面積を、前記強化ガラス板の面積以上にすることを特徴とする請求項6に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング部材が、前記エッチング液を含浸させたスポンジ状部材であり、
前記エッチング液が、HF又はHFを含んだ混酸、を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記強化ガラス板の全体が単一の前記反り部からなり、
前記反り部における前記凸面の全領域にエッチング又は研磨加工を施すことにより、前記全領域に対応する前記圧縮応力層の表層部を除去することを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程前における前記凸面側の前記圧縮応力層の最大深さをDOCとし、前記除去工程で除去される前記圧縮応力層の表層部の厚みをΔtとしたとき、
Δt≦0.8×DOCを満たすことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項11】
前記除去工程前における前記強化ガラス板の厚みが100μm以下であり、
前記除去工程後における前記強化ガラス板の反り量が1mm以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項12】
厚みが100μm以下の強化ガラス板であって、
表裏面の一方が凸となるように反った反り部を含み、
前記反り部における凸面上の少なくとも一部の領域にエッチングが施された処理領域を有し、
当該強化ガラス板の反り量が1mm以下であることを特徴とする強化ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、強化ガラス板および強化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の携帯用電子デバイスにおいて、画面の大型化が推進されている。しかしながら、画面を大型化させるとデバイス全体が大きくなって携帯性が悪化してしまう。そこで、大画面と良好な携帯性とを両立させるべく、折り畳みが可能なフォルダブルデバイスが提案されている。
【0003】
フォルダブルデバイス用のカバーガラスとしては、例えば、特許文献1に開示されるような超薄型の強化ガラス板(一例として厚みが100μm以下)が採用される。当該強化ガラス板は、可撓性を有する超薄型のガラス板を化学強化することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-188360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のごとくガラス板を化学強化する場合、強化の対象となるガラス板の厚みが薄いほど、強化ガラス板に大きな反り(表裏面の一方が凸となる反り)が発生しやすいという問題があった。このような事情に鑑みて解決すべき技術的課題は、厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意研究の結果、強化の対象となるガラス板の厚みが薄いほど、強化ガラス板に大きな反りが発生しやすくなる要因として、以下の理由を知見するに至った。すなわち、化学強化に際してガラス板の表面側と裏面側との間では強化の程度に差(以下、「表裏間強化差」と表記する)が生じる場合がある。表裏間強化差が生じる原因の一例としては、化学強化に用いる溶融塩(強化液)からガラスを引き上げる際の溶融塩の付着状態のむらや、強化時の温度分布のばらつき等が挙げられる。そして、強化の対象となるガラス板の厚みが薄いほど、その曲げ剛性も小さくなることから、表裏間強化差により強化ガラス板に大きな反りが発生しやすくなる。
【0007】
さらに、発明者は鋭意研究の結果、(1)表裏間強化差は、化学強化に伴ってガラス板の表裏両側にそれぞれ形成される圧縮応力層の深さの差、或いは最大圧縮応力値の差となって表れ、表裏間で強化の程度が大きい側において圧縮応力層がより深く、或いは最大圧縮応力値が大きくなること、(2)表裏間で強化の程度が大きい側が発生した反りの凸側となること、を知見するに至った。
【0008】
上記の知見に基づいて、上記の課題を解決するための強化ガラス板の製造方法は、可撓性を有するガラス板を化学強化することで表裏両側にそれぞれ圧縮応力層が形成された強化ガラス板を得る強化工程、を含んだ方法であって、強化ガラス板が、表裏面の一方が凸となるように反った反り部を含み、反り部における凸面側の圧縮応力層の表層部を除去することで反りを小さくする除去工程、を更に含むことを特徴とする。
【0009】
本方法においては、除去工程の実行に伴って、反り部における凸面側の圧縮応力層の表層部を除去する。つまり、表裏間で強化の程度が大きい側の圧縮応力層の深さ、或いは表面最大圧縮応力値を減じるように処置を施す。これにより、表裏間での圧縮応力層の深さ或いは最大圧縮応力値の差を小さくでき、ひいては表裏間強化差を小さくすることが可能となる。その結果、厚みが薄くて曲げ剛性が小さい強化ガラス板であっても、その反りを小さくすることができる。以上のことから、本方法によれば、厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板が得られる。
【0010】
上記の方法では、反り部における凸面上の一部の領域のみにエッチング又は研磨加工を施すことにより、一部の領域に対応する圧縮応力層の表層部を除去してもよい。
【0011】
このようにすれば、凸面上の全領域ではなく、一部の領域のみにエッチング又は研磨加工を施せばよいことから、その分だけ迅速に除去工程を完了させることが可能となる。また、除去工程に要するコストについても抑制できる。
【0012】
上記の方法では、強化ガラス板を縦姿勢で吊り下げ支持した状態でエッチングを施すことが好ましい。
【0013】
このようにすれば、強化ガラス板を縦姿勢で吊り下げ支持したことにより、平置き姿勢で水平面上に載置するような場合とは異なり、重力の影響で反りの形状が本来の形状から変形してしまうような恐れを排除できる。つまり、反りの本来の形状を露わにした状態で除去工程を実行することが可能となる。これにより、除去工程を的確に実行する上で有利となる。
【0014】
上記の方法では、反り部における凸面の頂点を含んだ領域にエッチングを施すことが好ましい。
【0015】
反り部における凸面の頂点は、表裏間強化差が最大になっている部位に対応している傾向が強い。そのため、凸面の頂点を含んだ領域にエッチングを施すようにすれば、効果的に反りを小さくできる。
【0016】
上記の方法では、強化ガラス板が反り部を複数含み、複数の反り部の中には、強化ガラス板の表面が凸となった反り部と、裏面が凸となった反り部と、が含まれていてもよい。
【0017】
この場合、除去工程の実行に伴い、表面が凸となった反り部と、裏面が凸となった反り部との双方において、その反りを小さくする。これにより、強化ガラス板の全体の反りを小さくすることが可能となる。
【0018】
上記の方法では、エッチング液を保持可能な平坦面を備えたエッチング部材を用いて、反り部における凸面上の一部の領域と、エッチング部材の平坦面と、を接触させてエッチングを施すことが好ましい。
【0019】
このようにすれば、凸面上の全領域ではなく、一部の領域のみにエッチングを施す上で、当該処置を簡易かつ確実に行うことができる。
【0020】
上記の方法では、エッチング部材の平坦面の面積を、強化ガラス板の面積以上にすることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、強化ガラス板に含まれたエッチングの対象となる各領域に対し、確実に同時進行でエッチングを施すことが可能となるため、より迅速に除去工程を完了させることができる。
【0022】
上記の方法では、エッチング部材が、エッチング液を含浸させたスポンジ状部材であり、エッチング液が、HF又はHFを含んだ混酸、を含むことが好ましい。
【0023】
このようにすれば、スポンジ状部材にエッチング液が含浸されているため、除去工程を実行する度に、逐一エッチング部材に対してエッチング液を供給するような手間を省くことが可能となる。また、エッチング液が、HF又はHFを含んだ混酸、を含むことにより、エッチングを効率よく行うことができる。
【0024】
上記の方法では、強化ガラス板の全体が単一の反り部からなる場合には、反り部における凸面の全領域にエッチング又は研磨加工を施すことにより、全領域に対応する圧縮応力層の表層部を除去してもよい。
【0025】
この場合、強化ガラス板の全体において表裏面の一方が凸となっている状態の下、凸面の全領域にエッチング又は研磨加工を施せばよいことから、除去工程における処置を簡易にすることが可能となる。
【0026】
上記の方法では、除去工程前における凸面側の圧縮応力層の最大深さをDOCとし、除去工程で除去される圧縮応力層の表層部の厚みをΔtとしたとき、Δt≦0.8×DOCを満たすことが好ましい。
【0027】
このようにすれば、圧縮応力層を不当に消失させることなく、除去工程による反りを小さくする効果を享受することが可能となる。
【0028】
上記の方法では、除去工程前における強化ガラス板の厚みが100μm以下であり、除去工程後における強化ガラス板の反り量が1mm以下であることが好ましい。
【0029】
上述のとおり、厚みが薄いほど強化ガラス板に大きな反りが発生しやすい。従って、除去工程前における厚みが100μm以下であるような超薄型の強化ガラス板を対象として除去工程を実行すれば、その効果を好適に享受できる。そして、除去工程後における強化ガラス板の反り量が1mm以下であれば、フォルダブルデバイスのカバーガラス等として好適な強化ガラス板とすることが可能である。
【0030】
さらに、上記の課題を解決するための強化ガラス板は、厚みが100μm以下の強化ガラス板であって、表裏面の一方が凸となるように反った反り部を含み、反り部における凸面上の少なくとも一部の領域にエッチングが施された処理領域を有し、当該強化ガラス板の反り量が1mm以下であることを特徴とする。
【0031】
本強化ガラス板は、厚みが100μm以下の超薄型の強化ガラス板であるにも関わらず、反り量が1mm以下に抑制されている。このため、フォルダブルデバイスのカバーガラス等として好適に採用することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本開示に係る強化ガラス板の製造方法によれば、厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板が得られる。また、本開示に係る強化ガラス板は、厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】強化ガラス板の製造方法における除去工程を模式的に示す側面図である。
図2】除去工程後の強化ガラス板を模式的に示す側面図である。
図3】強化ガラス板の製造方法における除去工程を模式的に示す側面図である。
図4】強化ガラス板の製造方法における除去工程を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施形態に係る強化ガラス板の製造方法および強化ガラス板について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0035】
<第一実施形態>
第一実施形態に係る強化ガラス板の製造方法は、強化工程と除去工程とを含んでいる。
【0036】
[強化工程]
強化工程では、可撓性を有するガラス板を化学強化することで表面側および裏面側にそれぞれ圧縮応力層(圧縮応力が作用した層)が形成された強化ガラス板を得る。強化工程を実行するに際しては、まず、化学強化用のガラス板を準備する。
【0037】
ガラス板は、オーバーフローダウンドロー法により成形したガラスリボンを切断、加工して得る。ガラス板の種類を限定するものではないが、本実施形態のガラス板は、化学強化に適したアルカリアルミノシリケートガラスである。また、ガラス板は、アルカリアルミノシリケートガラスの中でも特に高い圧縮応力値を得られる組成でなり、さらにオーバーフローダウンドロー法による成形を可能にするために高い液相粘度を実現できる組成でなる。なお、本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を利用してガラス板を得ているが、この他、スロットダウンドロー法、フロート法、リドロー法等を利用してガラス板を得てもよい。
【0038】
ガラス板の端面に対しては、研磨、熱処理、エッチング等により面取りや強度向上のための処理を施すことが好ましい。ガラス板の表裏面は研磨処理してよいが、例えば、オーバーフローダウンドロー法により表裏面が予め平滑に成形されている場合や、厚みが均一且つ精度よく成形されている場合には、表裏面には研磨処理を施さず、非研磨面のままとしてよい。なお、オーバーフローダウンドロー法により成形し、非研磨とした場合、ガラス板の表裏面は火造り面となる。ガラス板には、さらにエッチングにより厚みを減少させるスリミング処理を施してもよい。
【0039】
ガラス板は、ガラス組成の一例として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、LiO+NaO 1~20%、KO 0~10%を含有する。なお、0%を含めて範囲を記載した各成分は任意成分であることを示す。つまり、当該成分を含有していなくともよい。また、ガラス板は、上記の各成分の他に下記の各成分を含有していてもよい。モル%で、MgO 0.1~12%、CaO 0~10%、SrO 0~5%、BaO 0~5%、ZnO 0~6%、ZrO 0.001~10%、P 0~10%。この他、清澄剤として、As、Sb、SnO、F、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0~3%含有していてもよい。なお、環境面の配慮から、実質的にAs、F、PbO、Biを含有しないことが好ましい。
【0040】
ガラス板の形状は特に限定されないが、本実施形態では、長辺および短辺を有する矩形状をなす。ガラス板の長辺の長さは、例えば、50mm以上500mm以下、好ましくは60mm以上450mm以下、より好ましくは65mm以上400mm以下、更に好ましくは70mm以上300mm以下、75mm以上200mm以下、80mm以上160mm以下である。ガラス板の短辺の長さは、例えば、40mm以上400mm以下、好ましくは45mm以上350mm以下、より好ましくは50mm以上300mm以下、さらに好ましくは55mm以上120mm以下、60mm以上80mm以下である。
【0041】
ガラス板は可撓性を付与できる程度の厚みを有し、本実施形態では、ガラス板の最大厚さは、例えば、100μm以下であり、好ましくは5μm以上95μm以下であり、より好ましくは10μm以上85μm以下、更に好ましくは15μm以上75μm以下である。更なる薄板化のために、ガラス板の厚みは、65μm以下、55μm以下とすることもできる。一方、ガラス板の厚みの下限は、20μm以上、25μm以上とすることが好ましい。ガラス板を薄くしすぎると強度を確保し難くなり、また過度にガラス板を薄くしすぎると、強化により圧縮応力値を高くすることが困難になり、かえって可撓性を損なう恐れがある。本実施形態においてガラス板の厚みは一定であることが好ましく、厚みの偏差が3μm以内であることが好ましい。
【0042】
ここで、本実施形態におけるガラス板は、成膜処理が行われていない非成膜のガラス板である場合を一例として示す。つまり、表裏面がガラス面からなるガラス板である場合を例示する。なお、本発明は成膜処理が行われた成膜ガラス板へも適用し得る。
【0043】
次に、上述のように準備したガラス板をイオン交換処理により化学強化する。具体的には、ガラス板をイオン交換処理用の溶融塩(強化液)に浸漬させて処理する。
【0044】
溶融塩は、ガラス板中の成分とイオン交換可能な成分を含む塩であり、典型的にはアルカリ硝酸塩である。アルカリ硝酸塩としては、NaNO、KNO、LiNO等が挙げられ、これらを各々単独で(100質量%で)、或いは、複数種を混合して用いることができ、典型的にはKNO 100質量%とすることができる。複数種のアルカリ硝酸塩を混合する場合における混合比率は任意に定めてよいが、例えば、質量%で、NaNO 5~95%且つKNO 5~95%、NaNO 30~80%且つKNO 20~70%、または、NaNO 50~70%且つKNO 30~50%等の比率とすることができる。
【0045】
イオン交換処理における溶融塩の温度および浸漬時間等の条件は、所望の応力特性を得られる範囲で、組成等に応じて設定してよい。溶融塩の温度は、例えば、350℃~500℃、好ましくは355℃~470℃、360℃~450℃、365℃~430℃、370℃~410℃である。また、浸漬時間は、例えば、3分~300分、好ましくは5分~120分、より好ましくは7分~100分である。
【0046】
上述のイオン交換処理を経て強化ガラス板を得る。イオン交換処理後の強化ガラス板は、洗浄および乾燥することが好ましい。なお、イオン交換処理は、一回のみに限らず、複数回を行うようにしてもよい。
【0047】
なお、強化ガラス板の圧縮応力層の最大深さDOCは、15.0μm以下であり、好ましくは0.5μm以上12.0μm以下、好ましくは1.0μm以上10.0μm以下、好ましくは1.0μm以上8.5μm以下、より好ましくは2.0μm以上8.0μm以下、より好ましくは2.5μm以上7.5μm以下、2.5μm以上5.5μm以下である。強化ガラス板の破壊時に危険な破壊様態とならない圧縮応力値、圧縮応力層の最大深さの閾値について発明者らが種々検討の結果、厚みが100μm以下の薄いガラスでは、圧縮応力層の最大深さを9.0μm以下とすることが効果的であることを見出した。こうすることで曲げに対する十分な強度を持ちながら、安全性も確保できる。なお、本発明におけるDOCは、強化ガラス板内の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さであり、応力がゼロとなる深さである。
【0048】
強化ガラス板の圧縮応力層における最大圧縮応力CSは、例えば、520MPa以上2000MPa以下であり、好ましくは650MPa以上1800MPa以下であり、より好ましくは700MPa以上1700MPa以下とすることができる。最大圧縮応力CSをこのような範囲とすることで、高い曲げ強度を得ることができる。なお、さらなる曲げ強度の向上を図る場合、最大圧縮応力CSは、より好ましくは760MPa以上1600MPa以下、さらに好ましくは820MPa以上1550MPa以下とすることができる。一方、破損時の粉砕の抑制を重視し、最大引張応力CTの抑制を優先する場合、最大圧縮応力CSの上限値は、1000MPa以下、900MPa以下、800MPa以下、740MPa以下に制限することもできる。
【0049】
[除去工程]
上述の強化工程が完了すると、図1に示すように、強化工程で得られた強化ガラス板1に対して除去工程を実行する。
【0050】
強化工程で得られた強化ガラス板1は、表裏面2,3の一方が凸となるように反った反り部4を含んでいる。なお、ここでは表面2が凸となっている場合を例示する。すなわち、表面2側が表裏間で強化の程度が大きい側となっている。本実施形態では、強化ガラス板1の全体が単一の反り部4からなる。つまり、強化ガラス板1の全体において表面2のみが凸となっている(裏面3に凸部を有しない)。強化ガラス板1の表面2側および裏面3側にはそれぞれ圧縮応力層5,6が形成されている。強化の程度が大きい側である表面2側の圧縮応力層5は、強化の程度が小さい側である裏面3側の圧縮応力層6に比べて、平均的に層が深くなっている。図1にてクロスハッチングを施した箇所は、強化ガラス板1における表裏の圧縮応力層5,6を含め、圧縮応力層が形成された箇所である。
【0051】
なお、強化ガラス板1(反り部4)の反りは、強化ガラス板1の長辺方向および短辺方向のいずれか一方のみに沿って発生している場合もあれば、両方向に沿って発生している場合もあるし、両方向と交差する方向(例えば、対角方向)に沿って発生している場合もある。ここで、定盤に備わった水平な支持面上に強化ガラス板1を平置き姿勢で載置(凸となった表面2を支持面に接触させた状態で載置)した場合に、強化ガラス板1の端部が支持面から浮き上がった寸法を反り量と規定する。この場合、除去工程の実行前において、厚みが100μm以下の強化ガラス板1に発生する反り量は、一例として5mm~15mmである。
【0052】
除去工程では、強化ガラス板1における表面2側(凸面側)の圧縮応力層5の表層部を除去することで反りを小さくする。具体的には、強化ガラス板1の表面2上における一部の領域のみにエッチングを施すことにより、当該一部の領域に対応する圧縮応力層5の表層部を除去する。すなわち、表裏間で強化の程度が大きい側の圧縮応力層5の深さを減じるように処置を施し、両圧縮応力層5,6の深さの差を小さくする。以下の説明では、強化ガラス板1においてエッチングを施す領域を「エッチング対象領域」と表記する。ここで、エッチング対象領域の面積は、強化ガラス板1の面積のうちの20%以上とすることが好ましく、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、最も好ましくは50%以上である。また、エッチング対象領域の面積は、強化ガラス板1の面積のうちの100%未満、好ましくは90%以下である。
【0053】
エッチング対象領域は、強化ガラス板1における表面2の頂点、つまり凸面上で強化ガラス板1の厚み方向に最も突出した箇所、を含んだ領域である。表面2の頂点は、強化ガラス板1において表裏間強化差(表面2側と裏面3側との間での強化の程度の差)が最大になっている部位に対応している傾向が強い。本実施形態では、除去工程の実行前において、表面2の頂点にて最大圧縮応力CSが発生している。なお、表面2上における頂点以外の箇所で最大圧縮応力CSが発生している場合には、当該箇所を含んだ領域をエッチング対象領域としても構わない。
【0054】
エッチング対象領域にエッチングを施すに際しては、強化ガラス板1を縦姿勢で吊り下げ支持した状態にする。強化ガラス板1を吊り下げ支持するにあたっては、例えば、縦姿勢にした強化ガラス板1の裏面3における上部領域を保持部材(吸着パッド等)により保持させればよい。また、縦姿勢にした強化ガラス板1における上辺部を把持部材(チャック等)により把持させてもよい。
【0055】
さらに、エッチング対象領域にエッチングを施すに際しては、エッチング液(詳細は後述)を保持可能な平坦面7を備えたエッチング部材8を用いる。具体的には、エッチング対象領域と、エッチング部材8の平坦面7との両者を接触させることでエッチングを施す。本実施形態では、両者の接触に伴い、エッチング部材8の平坦面7に倣うように強化ガラス板1の表面2を部分的に平坦化させつつ、エッチング対象領域にエッチングを施す。このとき、強化ガラス板1の表面2上におけるエッチング対象領域を除いた領域は、エッチング部材8の平坦面7から浮き上がった状態にある。
【0056】
ここで、エッチング部材8の詳細について説明する。エッチング部材8は板状の外形を有する。エッチング部材8の平坦面7は、水平面に対して略垂直な面となっている。エッチング部材8の平坦面7の面積は、強化ガラス板1の面積以上とされており、本実施形態では、平坦面7の面積が、強化ガラス板1の面積よりも大きくなっている。エッチング部材8は、エッチング液を含浸させたスポンジ状部材であり、本実施形態ではPVAスポンジである。なお、平坦面7にエッチング液を保持可能なものであれば、エッチング部材8としてスポンジ状部材以外の部材を用いても構わない。ただし、平坦面7が変形し難いものを用いることが好ましい。例えば、エッチング部材8としては、ポリウレタンスポンジ等を用いることが可能である。
【0057】
なお、本実施形態においては、エッチング部材8の平坦面7に倣うように強化ガラス板1の表面2を部分的に平坦化させつつ、エッチング対象領域にエッチングを施しているが、この限りではない。エッチング対象領域と、エッチング部材8の平坦面7との両者の接触に伴い、強化ガラス板1の反り(表面2の湾曲)に倣うようにエッチング部材8の平坦面7を凹湾曲面に変形させつつ、エッチング対象領域にエッチングを施してもよい。
【0058】
エッチング液としては、ガラスをエッチング可能な酸性またはアルカリ性の液を使用できる。本実施形態においては、酸性のエッチング液を使用している。酸性のエッチング液としては、例えば、HFを含む水溶液を用いることができる。HFを含む水溶液を用いた場合、ガラスに対するエッチングレートが高く、エッチングを効率よく行うことができる。
【0059】
HFを含む水溶液は、例えば、HFのみ、或いは、HFとHCl、HFとHNO、HFとHSO、HFとNHF、の組み合わせ、を含有した水溶液である。HF、HCL、HNO、HSO、NHF、各々の化合物の濃度は、0.1~30mol/Lであることが好ましい。HFを含む水溶液を用いたエッチングにおいては、ガラス成分を含むフッ化物が副産物として生成され、エッチングレートの低下や欠陥の要因となり得るが、上述のようにHCL、HNO、或いは、HSO等の他の酸との混酸とすることで、当該副産物を分解して生産性の低下を抑制できる。酸性のエッチング液を用いてエッチングを行う場合、エッチング液の温度は、例えば10℃~30℃であり、処理時間は、例えば0.1分~60分間であることが好ましく、0.5分~30分であることがより好ましく、1分~10分であることが更に好ましい。
【0060】
ここで、本実施形態においては、除去工程の実行前における表面2側の圧縮応力層5の最大深さをDOCとし、除去工程で除去される圧縮応力層5の表層部の厚み(すなわち除去量)をΔtとしたとき、Δt≦0.8×DOCを満たすように除去工程を実行する。なお、好ましくはΔt≦0.85×DOC、より好ましくはΔt≦0.9×DOC、更に好ましくはΔt≦0.95×DOC、最も好ましくはΔt≦0.97×DOCを満たすように除去工程を実行する。より具体的な例示として、Δtは、0.01~2μm、好ましくは0.03~1.5μm、より好ましくは0.05~1.2μm、さらに好ましくは0.07~1μmである。除去される圧縮応力層5の表層部の厚みをこのような範囲とすることで、除去工程の前後における最大圧縮応力CSや圧縮応力層の最大深さDOCの変動量を可及的に小さくし、制御し易くする。
【0061】
なお、最大圧縮応力CS、最大引張応力CT、圧縮応力層の最大深さDOC等の数値は、例えば、折原製作所製FSM-6000やSLP-1000等の測定装置によりガラスの応力分布を測定することにより導出可能である。
【0062】
ここで、本実施形態では、除去工程において圧縮応力層5の表層部を除去するにあたり、エッチング部材8を用いてエッチング対象領域にエッチングを施している。しかしながらこの限りではなく、強化ガラス板1の裏面3の全領域、及び、表面2上におけるエッチング対象領域を除いた領域、をマスキングした上で、強化ガラス板1をエッチング液に浸漬させてエッチング対象領域にエッチングを施してもよい。さらには、エッチングの代わりに、強化ガラス板1の表面2上における一部の領域(表面2の頂点を含む領域)のみに研磨加工を施すことで、当該一部の領域に対応する圧縮応力層5の表層部を除去してもよい。
【0063】
また、本実施形態では、強化ガラス板1の表面2上における一部の領域のみをエッチング対象領域としているが、表面2の全領域(面積の100%)をエッチング対象領域として、全領域に対応する圧縮応力層5の表層部を除去してもよい。この場合、スプレー等を用いて表面2の全領域にエッチング液を噴射してもよいし、表裏面2,3のうちの表面2のみをエッチング液に浸漬させるようにしてもよい。さらに、表面2の全領域に対応する圧縮応力層5の表層部を除去する場合には、表面2の全領域に対して研磨加工を施してもよい。
【0064】
上述の除去工程が完了すると、図2に示すように、除去工程の実行前と比較して反りが小さくなった強化ガラス板1が得られる。以下の説明では、除去工程後の強化ガラス板1を「処理後強化ガラス板1」と表記して除去工程前の強化ガラス板1と区別する。
【0065】
上述の除去工程において、強化ガラス板1の表面2上における一部の領域のみをエッチング対象領域としていた場合、処理後強化ガラス板1は、表裏面2,3のうちの凸面である表面2上の一部の領域のみに、エッチングが施された処理領域を有する。すなわち、表面2の一部にエッチング面が含まれる。一方、除去工程において、強化ガラス板1の表面2の全領域をエッチング対象領域としていた場合、処理後強化ガラス板1は、表裏面2,3のうちの凸面である表面2の全領域に、エッチングが施された処理領域を有する。すなわち、表面2の全面がエッチング面となる。勿論であるが、本実施形態において処理後強化ガラス板1の裏面3上には処理領域が存在しない。すなわち、裏面3は非エッチング面となる。
【0066】
処理後強化ガラス板1の厚みは上述のΔtに応じて除去箇所において部分的に減少するが、処理後強化ガラス板1の最大厚さは、例えば100μm以下であり、好ましくは5μm以上95μm以下、より好ましくは10μm以上85μm以下、更に好ましくは15μm以上75μm以下である。
【0067】
処理後強化ガラス板1の圧縮応力深さは上述のΔtに応じて除去箇所において部分的に減少するが、処理後強化ガラス板1の圧縮応力層の最大深さDOCは、例えば、0.5μm以上であり、好ましくは0.5μm以上12.0μm以下、より好ましくは2.0μm以上8.0μm以下、より好ましくは2.5μm以上7.5μm以下、2.5μm以上5.5μm以下である。
【0068】
処理後強化ガラス板1の圧縮応力層における最大圧縮応力CSは、例えば、520MPa以上2000MPa以下であり、好ましくは650MPa以上1800MPa以下であり、より好ましくは700MPa以上1700MPa以下とすることができる。
【0069】
処理後強化ガラス板1の反りは、例えば、1.0mm以下であり、好ましくは、0.7mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下である。
【0070】
<第二実施形態>
以下、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態および後述する第三実施形態の説明において、上記の第一実施形態で説明済みの要素と実質的に同一の要素については、第二、第三実施形態の説明で参照する図面に同一符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0071】
図3に示すように、第二実施形態が第一実施形態と相違している点は、除去工程において、強化ガラス板1を縦姿勢で吊り下げ支持するのではなく、平置き姿勢にしている点である。具体的には、定盤上にエッチング部材8を平置きにした状態の下、強化ガラス板1の凸になっている表面2が下面となるように、エッチング部材8上に強化ガラス板1を載置する。これにより、エッチング対象領域と、エッチング部材8の平坦面7との両者を接触させてエッチングを施す。第二実施形態においても、第一実施形態と同様の処理後強化ガラス板1が得られる。
【0072】
<第三実施形態>
図4に示すように、第三実施形態が第一実施形態と相違している点は、強化ガラス板1の全体が単一の反り部4からではなく、複数(本実施形態では二つ)の反り部4からなる点と、除去工程において、エッチング対象領域が強化ガラス板1の表面2上および裏面3上の双方に存在している点である。
【0073】
同図に示すように、縦姿勢で吊り下げ支持された強化ガラス板1の上方側部位と下方側部位とは相互に逆向きに反っている。以下の説明では、相対的に上方に位置すると共に表面2が凸となった反り部4を第一反り部4aと表記し、相対的に下方に位置すると共に裏面3が凸となった反り部4を第二反り部4bと表記する。第一反り部4aにおいては、表面2側と裏面3側とのうち、表面2側で強化の程度が大きく、圧縮応力層5は圧縮応力層6に比べて、平均的に層が深くなっている。一方、第二反り部4bにおいては、第一反り部4aとは反対に裏面3側で強化の程度が大きく、圧縮応力層6は圧縮応力層5に比べて、平均的に層が深くなっている。
【0074】
第一反り部4aでは、当該第一反り部4aにおける表面2上の一部の領域(表面2の頂点を含む領域)のみがエッチング対象領域となる。一方、第二反り部4bでは、当該第二反り部4bにおける裏面3上の一部の領域(裏面3の頂点を含む領域)のみがエッチング対象領域となる。これらエッチング対象領域にエッチングを施すに際しては、強化ガラス板1の表面2側および裏面3側から、それぞれエッチング対象領域に対してエッチング部材8の平坦面7を接触させる。これにより、表面2上の一部の領域に対応する圧縮応力層5の表層部、及び、裏面3上の一部の領域に対応する圧縮応力層6の表層部を除去する。
【0075】
第三実施形態で得られる処理後強化ガラス板1においても、その反り量が1mm以下(好ましくは、0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下)となっている。この処理後強化ガラス板1は、第一反り部4aおよび第二反り部4bを含み、第一反り部4aにおける表面2上の一部の領域、及び、第二反り部4bにおける裏面3上の一部の領域に、エッチングが施された処理領域を有する。すなわち、第一反り部4aにおける表面2の一部、及び、第二反り部4bにおける裏面3の一部にエッチング面が含まれる。
【0076】
なお、上記の第一~第三実施形態では、強化ガラス板1において、表面2側の圧縮応力層5と裏面3側の圧縮応力層6とのうち、強化の程度が大きい側にて平均的に層が深くなっていたが、この限りではない。強化の程度が大きい側と小さい側とで層の深さが同等で、最大圧縮応力CSの値にのみ差が生じている場合もある。勿論、層の深さと最大圧縮応力CSの値との双方に差が生じている場合もある(下記の実施例を参照)。
【0077】
ここで、上記の各実施形態に対しては、以下のような変形例を適用することも可能である。上記の各実施形態においては、エッチング部材8に平坦面7が備わっているが、この限りではなく、強化ガラス板1の反り(反り部4における凸面の湾曲)に倣うような凹湾曲面がエッチング部材8に備わっていてもよい。
【実施例0078】
実施例として、上記の実施形態と同様の要領で処理後強化ガラス板1を製造すると共に、除去工程前の強化ガラス板1における反り量と、除去工程後の処理後強化ガラス板1における反り量とを比較した。その結果を下記の[表1]に示す。
【0079】
まず、強化工程として、ガラス組成としてモル%で、SiO 66.4%、Al 11.5%、B 0.5%、KO 1.4%、NaO 15.2%、LiO 0.02%、MgO 4.8%、CaO 0.1%、SnO 0.1%を含む化学強化用ガラス板(縦寸法×横寸法:200mm×100mm、厚み:50μm)の複数枚を溶融塩(KNO、430℃)に10分間浸漬させることで、複数枚の強化ガラス板1のサンプルを得た。
【0080】
次に、複数枚のサンプルの中から反りが発生しているサンプルを二枚抜き出し、洗浄した後、それぞれに対して除去工程を実行した。具体的には、二枚のサンプルの一方を実施例1、他方を実施例2とした上で、実施例1では上記の第二実施形態と同様の態様、実施例2では上記の第一実施形態と同様の態様でエッチングを施すことにより除去工程を実行して、処理後強化ガラス板1を製造した。なお、下記の[表1]における「処理方法」の項目は、除去工程を実行する際の強化ガラス板1の姿勢を示している。
【0081】
実施例1及び2の双方について、エッチングを施すにあたっては、アイオン株式会社製のPVAスポンジ(製品名:ビーファイン)をエッチング部材8として使用し、当該PVAスポンジにエッチング液(HF1wt%の水溶液)を含浸させた。実施例1及び2の各々において、サンプルとPVAスポンジとを接触させた時間は、下記の[表1]における「処理時間」の項目のとおりである。
【0082】
そして、実施例1及び2の各々において、除去工程の前後における反り量の変化について検証を行った。下記の[表1]における「処理前」の各項目「凸側CS」、「凹側CS」、「凸側DOC」、「凹側DOC」、「反り量」は、除去工程前の強化ガラス板1における、凸面側での最大圧縮応力CS、凹面側での最大圧縮応力CS、凸面側での圧縮応力層の最大深さDOC、凹面側での圧縮応力層の最大深さDOC、反り量をそれぞれ示している。また、「処理後」の各項目「凸側CS」、「凸側DOC」、「反り量」は、除去工程後の処理後強化ガラス板1における、凸面側での最大圧縮応力CS、凸面側での圧縮応力層の最大深さDOC、反り量をそれぞれ示している。
【0083】
【表1】
【0084】
[表1]に示す結果から明白なように、除去工程後においては除去工程前と比較して反り量が大きく抑制されていることが分かる。さらに、厚みが50μmである超薄型の強化ガラス板であっても、反り量を1mm以下に小さくできていることが分かる。また、[表1]に示す結果から理解できるように、除去工程後における凸側CSや凸側DOCの値は、除去工程前における凹側CSや凹側DOCと近い値が実現されている。つまり、除去工程の実行に伴って表裏間強化差を極めて小さくできている。以上のことから、本開示に係る強化ガラス板の製造方法によれば、厚みが薄くとも反りの小さい強化ガラス板を実現できるものと推認される。
【符号の説明】
【0085】
1 強化ガラス板
2 表面
3 裏面
4 反り部
4a 第一反り部
4b 第二反り部
5 圧縮応力層
6 圧縮応力層
7 平坦面
8 エッチング部材
図1
図2
図3
図4