(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014330
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法、及び浸水シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
E02B 3/00 20060101AFI20220112BHJP
G01W 1/10 20060101ALI20220112BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20220112BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
E02B3/00
G01W1/10 P
G16Z99/00
G08B31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116604
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】591091087
【氏名又は名称】株式会社建設技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】矢神 卓也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 達也
【テーマコード(参考)】
5C087
5L049
【Fターム(参考)】
5C087AA03
5C087AA09
5C087DD02
5C087EE18
5C087FF04
5C087FF19
5C087GG14
5C087GG66
5L049DD02
(57)【要約】
【課題】実際の浸水リスクにより則したシミュレーションを行うことが可能な浸水シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】浸水シミュレーション装置10は、複数の観測点での河川水位の観測データを取得する観測データ取得部(ステップS1)と、観測データ取得部で取得した河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、観測点間の河川水位を、河川水位の観測データとして取得する補間処理部(ステップS2)と、河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、氾濫原に設定する仮想水面設定部(ステップS3)と、仮想水面設定部で設定した仮想水面と、氾濫原の地盤高との差を水位差として演算する水位差演算部(ステップS4)と、水位差演算部で演算した水位差を浸水ポテンシャルとして氾濫原と対応させて表示する表示処理部(ステップS5)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得する観測データ取得部と、
前記観測データ取得部で取得した前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得する補間処理部と、
前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定する仮想水面設定部と、
前記仮想水面設定部で設定した仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算する水位差演算部と、
前記水位差演算部で演算した水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示する表示処理部と、を備えることを特徴とする浸水シミュレーション装置。
【請求項2】
前記補間処理部は、前記河川の縦断方向の特性も用いて前記補間を行うことを特徴とする請求項1に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項3】
前記観測データ取得部は、海岸に設定された複数の観測点での潮位の観測データも取得し、
前記補間処理部は、前記潮位の観測データを用いた補間を行って、前記海岸に設定された複数の観測点間の前記潮位を前記潮位の観測データとして取得し、
前記仮想水面設定部は、前記河川水位の観測データで特定される河川水位と、前記潮位の観測データで特定される潮位とから特定される水位を有する仮想水面を、前記河川及び海により浸水の影響を受ける氾濫原に設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項4】
前記表示処理部は、前記氾濫原の縦断面図に、前記仮想水面の位置を表示することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項5】
前記観測データ取得部は、予め設定した所定時間後の前記河川水位の予測データを取得し、
前記補間処理部、前記仮想水面設定部、前記水位差演算部及び前記表示処理部は、前記予測データを前記観測データとして各処理を行い、前記予測データに基づく前記浸水ポテンシャルを表示することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項6】
河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得するステップと、
前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得するステップと、
前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定するステップと、
設定された前記仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算するステップと、
演算された前記水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示するステップと、を備えることを特徴とする浸水シミュレーション方法。
【請求項7】
河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得するステップと、
前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得するステップと、
前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定するステップと、
設定された前記仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算するステップと、
演算された前記水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示するステップと、を、コンピュータに実行させることを特徴とする浸水シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法、及び浸水シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、現時点での河川情報を利用し、リアルタイムに氾濫解析及び河道水位予測の計算を行い、動的に破堤点毎、時系列毎の浸水想定区域を表示すると共に、その結果を、地図上やグラフに表示することで、危険地域や安全に避難可能なルートを抽出し、地域の住民に警告、連絡等を行うようにした、シミュレーションシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシミュレーションシステムにあっては、どこで発生するかわからない内外水の氾濫現象を、様々な仮定の計算条件、例えば、河道の破堤箇所の仮定、内水排水ポンプ稼働状況の仮定、水門開閉状況の仮定、下水道の管理状況の仮定等を設定して精緻な氾濫シミュレーションを実施することで、情報を提供するものである。
しかしながら、現実的には、それらの条件に関する情報の不確実性は非常に高く、また、リアルタイムでそれらの状況を全て把握することは非常に困難である。
【0005】
そのため、仮定の計算条件が実際の状況と異なっている場合には、シミュレーションによる氾濫結果と実現象での氾濫状況との乖離が、シミュレーションが精緻であるが故に、余計に大きくなる。すなわち、氾濫しないと想定された場所で氾濫が発生し、逆に、氾濫すると想定された場所で氾濫が発生しないということが生じ、シミュレーション結果を、いざというときの避難行動の判断に用いると、逆に間違った判断を与える可能性があり、被害軽減につながらない可能性がある。
また、従来の氾濫シミュレーションシステムにおいては、高潮の影響が考慮されておらず、台風時に大雨による氾濫と同時に生起する高潮による浸水を表現することができないという問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、実際の浸水リスクに則したシミュレーションを行うことが可能な浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法及び浸水シミュレーションプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る浸水シミュレーション装置は、河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得する観測データ取得部と、前記観測データ取得部で取得した前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得する補間処理部と、前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定する仮想水面設定部と、前記仮想水面設定部で設定した仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算する水位差演算部と、前記水位差演算部で演算した水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示する表示処理部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の他の実施形態に係る浸水シミュレーション方法は、河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得するステップと、前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得するステップと、前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定するステップと、設定された前記仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算するステップと、演算された前記水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示するステップと、を備えることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の他の実施形態に係る浸水シミュレーションプログラムは、河川に設定された複数の観測点での河川水位の観測データを取得するステップと、前記河川水位の複数の観測データを用いた補間を行って、前記観測点間の前記河川水位を、前記河川水位の観測データとして取得するステップと、前記河川水位の観測データで特定される河川水位と同一位置を仮想水面として、前記河川により浸水の影響を受ける氾濫原に設定するステップと、設定された前記仮想水面と、前記氾濫原の地盤高との差を水位差として演算するステップと、演算された前記水位差を浸水ポテンシャルとして前記氾濫原と対応させて表示するステップと、を、コンピュータに実行させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、より実際の浸水リスクに則したシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る浸水シミュレーション装置の一例を示す構成図である。
【
図2】浸水シミュレーション時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】シミュレーション結果の他の表示方法の一例である。
【
図8】シミュレーション結果の他の表示方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
<実施形態>
<浸水シミュレーション装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る浸水シミュレーション装置10の一例を示すブロック図である。浸水シミュレーション装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ等で構成され、制御部11と、入力部12と、表示部13と、入力インタフェース部14と、記憶部15と、を備える。
【0014】
制御部11は、河川に沿って設置された複数の河川水位観測所20で観測された河川水位データを、例えば定周期等の予め設定されたタイミングで入力し、記憶部15に格納する。河川水位観測所20は、例えば河川水位を計測する水位計20aと、水位計20aの検出信号を無線通信等により送信する通信部20bとを備える。制御部11は、入力インタフェース部14を介して各通信部20bと通信を行い、河川水位データを収集する。
また、制御部11は、海岸線に沿って設置された複数の潮位観測所30で観測された潮位データを、例えば定周期等の予め設定されたタイミングで入力し、記憶部15に格納する。潮位観測所30は、例えば、潮位を測定する測定器30aと、測定器30aの検出信号を無線通信等により送信する通信部30bとを備える。制御部11は、入力インタフェース部14を介して各通信部30bと通信を行い、潮位データを収集する。
【0015】
なお、ここでは、河川水位観測点における観測データとして河川水位観測所20で観測した河川水位データを取得し、同様に、潮位観測点における観測データとして潮位観測所30で観測した潮位データを取得する場合について説明するが、予め設定した河川水位観測点における河川水位データと、予め設定した潮位観測点における潮位データと、を取得することができればよい。例えば、公的機関が配信する河川水位データ及び潮位データを含む情報、或いは、一般市民により、ソーシャルメディアやインターネットを通じて拡散された河川水位データ及び潮位データ、放送局等の民間事業者が発信する情報等から取得するようにしてもよい。また、これら各部から得られる河川水位データ及び潮位データを用いて河川水位データ及び潮位データの代表値を取得し、取得した代表値を用いて後述の浸水ポテンシャルを演算するようにしてもよい。また、例えば、河川水位観測所20で得られた河川水位データ及び潮位観測所30で得られた潮位データを、民間事業者が発信する情報等から取得した河川水位データ及び潮位データを用いて重み付けするようにしてもよい。
【0016】
そして、制御部11は、記憶部15に格納された各河川水位観測所20における現時点での河川水位データと、記憶部15に格納された各潮位観測所30における現時点での潮位データとをもとに、氾濫原における浸水ポテンシャルを算出し、推測結果を、表示部13に表示する。
【0017】
記憶部15には、制御部11での演算処理に必要な浸水シミュレーションプログラムや、演算の処理過程で取得した各種パラメータが格納される。また、記憶部15には、シミュレーション対象の氾濫原の地盤高データが格納される。地盤高データとしては、例えば、数値標高モデルの地盤高データを適用することができる。さらに、記憶部15には、河川の縦断方向における特性として、河川の勾配を表す情報が格納されている。河川の勾配を表す情報としては、例えば、平均河床高、計画高水位等がある。さらに記憶部15には、不定流解析に必要となる情報として、横断面座標、河道粗度係数、樹木情報等が格納されている。例えば、縦断方向に概ね等間隔で設置されている距離標を利用し、各距離標に予め設定されている平均河床高又は計画高水位を標高情報とし、距離標の設置位置と標高情報とを対応付けて記憶部15に格納しておく。同様に、横断面座標、河道粗度係数、樹木情報等と距離標の設置位置とを対応づけて記憶部15に格納しておく。また、河川水位観測所20A及び20Bの設置位置と標高情報とを対応付けて記憶部15に格納しておく。なお、河川水位観測所20A及び20Bの設置位置における標高情報は、例えば、河川水位観測所20A及び20Bの各水位計20aを、距離標の設置位置に配置することで、距離標の標高情報から取得するようにしてもよく、また、複数の距離標の設置位置における標高情報から河川水位観測所20A及び20Bの設置位置における標高情報を推測するようにしてもよい。また、河川水位データを取得すべき所望の地点、また、河川水位観測所20A及び20Bの設置地点について、平均河床高又は計画高水位を予め取得し、標高情報として記憶部15に格納するようにしてもよい。
【0018】
また、後述の観測所間の水位を補間する方法として、計画高水位や平均河床高等から内挿する方法及び不定流解析による補間方法のいずれか一方を用いる場合には、補間方法に合わせて、下線の勾配を表す情報又は不定流解析に必要となる情報のいずれか一方を記憶部15に格納しておけばよい。
【0019】
<動作>
次に、制御部11で実行される浸水シミュレーションプログラムの一例を示す、
図2のフローチャートを伴って、浸水シミュレーション装置10の動作の一例を説明する。
【0020】
制御部11は、まず、例えば、
図3に示すように、河川に沿って設置された複数の河川水位観測所20と、海岸線に沿って設置された複数の潮位観測所30とに対して、測定データの送信を要求し、各河川水位観測所20で観測した河川水位データと、各潮位観測所30で観測した潮位データとを取得する。そして、取得した河川水位データ及び潮位データを記憶部15に格納する(ステップS1、観測データ取得部)。なお、
図3では、2つの河川水位観測所20が設けられており、例えば河川の上流側に河川水位観測所20Aが設置され、河口付近に河川水位観測所20Bが設置されている。また、2つの潮位観測所30が河口を挟んで設置され、一方の側に潮位観測所30Aが設置され、他方の側に潮位観測所30Bが設置されている。なお、
図3では、便宜的に、河川水位観測所20を河道中心に記載し、潮位観測所30を海上に記載している。
【0021】
制御部11は、続いてステップS2に移行し、各河川水位観測所20における河川水位データを用いて河川水位データを補間する(補間処理部)。例えば、各河川水位観測所20における河川水位データを用いて内挿を行い、河川に沿った、より短い間隔となる地点での河川水位データを取得する。同様に、各潮位観測所30における潮位データを用いて潮位データを補間する。例えば、各潮位観測所30における潮位データを用いて内挿を行い、海岸線に沿った、より短い間隔となる地点での潮位データを取得する。これにより、例えば
図4のラインL1上の地点について、河川水位観測所20A及び20Bの設置間隔よりも短い間隔で、河川水位データを取得することができる。同様に、
図4のラインL2上の地点について、潮位観測所30A及び30Bの設置間隔よりも短い間隔で、潮位データを取得することができる。
【0022】
ここで、河川水位データの補間は、河川の縦断方向の特性を考慮して行う。具体的には、まず、記憶部15に格納されている、河川水位観測所20A及び20Bの設置位置に対応する、河川の勾配を表す情報としての標高情報を読み出す。また、河川水位データの補間値を取得すべき所望の地点に対応する標高情報を、記憶部15から読み出す。
そして、次式(1)にしたがって、補間値を取得すべき所望の地点における河川水位データの補間値を取得する。なお、(1)式は、計画高水位に基づき補間値を取得する場合の演算式である。標高情報として平均河床高を用いる場合には、(1)式において、計画高水位に替えて平均河床高を用いればよい。
【0023】
(1)式において、cは、所望の地点Tyにおける河川水位データの補間値である。所望の地点Tyは、河川水位観測所20Aの設置位置から距離yだけ河川水位観測所20B側の地点に設定される。また、aは河川水位観測所20Aにおける現在の河川水位データ、bは河川水位観測所20Bにおける現在の河川水位データ、Haは河川水位観測所20Aにおける計画高水位、Hbは河川水位観測所20Bにおける計画高水位、Hyは所望の地点Tyにおける計画高水位である。
c=b+(a-b)×{Hy-Hb/(Ha-Hb)} ……(1)
【0024】
(1)式にしたがって、河川水位観測所20A及び20B間の、計画高水位が既知である任意の既知の地点について、河川水位データの補間値を任意数取得する。例えば、距離標は、小河川では50m、大河川では500m毎に設置されており、距離標の設置地点における標高情報、つまり平均河床高又は計画高水位は予め設定されている。そこで、河川水位観測所20A及び20B間に設置された距離標の設置地点における現在の河川水位データの補間値を取得するようにしてもよい。また、複数の距離標の設置地点における標高情報から、河川水位観測所20A及び20B間の任意の地点における標高情報を推測し、推測した標高情報を利用して、河川水位データの補間値を取得するようにしてもよい。また、記憶部15から不定流解析に必要となる情報を呼び出し、不定流解析を行うことで、距離標設置地点における現在の河川水位データの補間値を取得するようにしてもよい。また、複数の補間方法により取得した補間値に重み付けを行うこと等により、複数の補間方法を加味した補間値を取得するようにしてもよい。
【0025】
なお、潮位データの補間は、潮位観測所30A及び30Bの設置地点における現在の潮位データと、潮位観測所30A及び30B間の既知の地点とから、既知の地点における現在の潮位データを補間する。
【0026】
続いて、制御部11は、ステップS3に移行し、
図5に示すように、河川の両側に存在する氾濫原それぞれの側に、河川水位データを延伸して仮想水面M1を設定する(仮想水面設定部)。つまり、河川水位データで特定される水面の位置と同一位置を水面とする仮想水面を、氾濫原に設定する。同様に、潮位データを氾濫原側に延伸して仮想水面M2を設定する。つまり、潮位データで特定される水面の位置と同一位置を水面とする仮想水面を、氾濫原に設定する。
図5は、河川の上流側の領域F1aと下流側の領域F1bとに対して、仮想水面M1を設定し、海岸の、河口を挟んで左側の領域F2aと右側の領域F2bとに対して、仮想水面M2を設定した場合を示す。
【0027】
仮想水面M1は、例えば、次の手順で設定する。まず、河川水位データの測定値及び測定地点と、河川水位データの補間値及び対応する地点とをもとに、測定地点又は補間値に対応する地点に相当する河道の中心から、河道の中心線に対して垂直に氾濫原側に延伸して、河道の中心線から氾濫原に延びる直線を複数取得する。そして、取得した直線と重なる氾濫原内の地点の水面の位置は、同一直線と重なる地点間で同一であると仮定し、取得した複数の直線で特定される位置を水面とする仮想水面M1を設定する。
仮想水面M2は、予め氾濫原内にメッシュを設定しておき、それぞれのメッシュについて、各メッシュの近傍に位置する潮位測定地点を複数(最大3点程度)選び、その潮位の距離重み付き平均をもってそのメッシュの水位を算出する。なお、潮位測定地点は、潮位データの測定地点及び潮位データの補間値に対応する地点の中から選択すればよい。
【0028】
なお、仮想水面M1は、上述のように河川水位データを氾濫原側に延伸することで設定する方法に限るものではない。例えば、予め氾濫原内にメッシュを設定しておき、それぞれのメッシュについて、メッシュ近傍の複数(最大5点程度)の河川水位(縦断的に距離標毎に補間された水位)を選び、その距離重み付き平均をもってそのメッシュの水位を算出する。この処理を各メッシュで行うことで、仮想水面M1を設定してもよい。また、仮想水面M1及びM2の各メッシュの水位の演算方法は、距離重み付き平均をそのメッシュの水位とする逆距離加重法に限るものではなく、クリギング法、或いはスプライン法等、その他の空間補間方法を用いることも可能である。
【0029】
次いで、ステップS4に移行し、記憶部15に格納されている氾濫原の地盤高データをもとに、地盤高と、仮想水面M1、M2と、の水位差を演算する(水位差演算部)。例えば、延伸して得た直線間を補間すること等により、数値標高モデルのメッシュに対応した仮想水面を取得し、数値標高モデルのメッシュ単位で水位差を演算する。
【0030】
次いで、
図6に示すように、水位差の大きさに応じて濃淡を変化させ、浸水シミュレーションの対象とする河川及び氾濫原を含む地形図に重ねて表示する(ステップS5、表示処理部)。以後、ステップS1からステップS5の処理を繰り返し行う。
なお、河川水位データに基づく仮想水面と潮位データに基づく仮想水面とが重なる領域については、例えば、仮想水面の位置が高い方をこの領域の仮想水面として設定してもよく、また、河川水位データに基づく仮想水面と潮位データに基づく仮想水面とに重み付けをして双方の仮想水面を考慮した水面を、この領域の仮想水面として設定してもよい。
【0031】
また、水位差は、その大きさに応じて異なる濃淡で表す場合に限るものではない。例えば、水位差の大きさに応じて異なる表示色で表示するようにしてもよく、浸水ポテンシャルを表示することは避難行動につながることから、視覚的に水位差の大小を容易に判別できる表示形態であることがより望ましい。
【0032】
<効果>
図2のステップS4で算出される水位差は、地盤高と仮想水面との差分である。つまり、水位差は、地面から仮想水面までの高さであり、現時点で仮に堤防が破堤し、氾濫原が浸水したときの地面から水面までの高さを意味し、すなわち、浸水の被害の対象となる領域における浸水の度合を示す、潜在的な氾濫原の浸水ポテンシャルを表すことになる。また、水位差は、潮位データにも基づいて設定されるため、河川水位だけでなく潮位も考慮した水位差となる。
そのため、
図2に示す一連の処理を予め設定した所定周期で繰り返し実行することにより、時々刻々と変化する河川水位データと潮位データとに応じた現時点での浸水ポテンシャルがリアルタイムで表示されることになる。
【0033】
したがって、このように浸水ポテンシャルが表示された画面を見ることによって、河川や海岸周辺のユーザは、洪水時や高潮時における、ユーザの現在位置近傍に存在する河川の河川水位を、直感的に把握することができる。つまり、浸水ポテンシャルが表示された画面を見ることによって、ユーザは、自己の浸水リスクを視覚的に認識することができ、さらには、リアルタイムで時々刻々と変化する浸水リスクの変化状況を、容易に認識することができる。そのため、ユーザは避難するに当たりその緊急度合を容易に認識することができ、結果的に、現在の河川水位や潮位の変化に伴って、ユーザの的確な避難行動に資することができる。
また、洪水時や高潮時に、その水面位置がわかるため、河川堤防や高潮堤防が如何に河川や海岸周辺のユーザに対して役立っているかを周知させることができる。
【0034】
また、現時点における実際の河川水位データで特定される河川の水面の位置を、氾濫原における河川の水面とみなして、浸水ポテンシャルを演算するようになっている。つまり、破堤が生じた場合等、現時点で浸水した氾濫原の水位がとり得る最大値を用いて氾濫原の浸水ポテンシャルを演算している。そのため、浸水ポテンシャルを不確実性も考慮して示すことができ、言い換えれば、実際に浸水した場合の氾濫原の水面が浸水ポテンシャルから特定される水位とは異なり、実際の状況と浸水ポテンシャルとが一致しない場合については許容しつつ、生じ得ると予測される浸水については取りこぼすことなく浸水ポテンシャルを提示することができる。つまり、浸水ポテンシャルから、かなり浸水すると予測された場所で実際にはそれほど浸水しなかったという状況は生じる可能性があるものの、浸水しないと予測された場所で浸水が生じたという状況が生じることを抑制することができ、ユーザの避難判断に対し、浸水ポテンシャルが誤判断する方向に作用することを回避することができる。
【0035】
また、仮想水面は、河川水位データの実測値及び潮位データの実測値を用いてそれぞれ補間した値に基づいて設定している。そのため、実際の河川水位及び実際の潮位により則したデータ値を得ることができる。そのため、この補間したデータ値を用いて仮想水面を設定することによって、より実施に則した仮想水面を想定することができる。
【0036】
<変形例>
上記実施形態において、浸水ポテンシャルを表示する際に、
図7に示すように、氾濫原を含む地形
図7(a)と共に、地形図に対応する領域の縦断面
図7(b)を、地形図と対応させて表示すると共に仮想水面M1を明示してもよい。このように、ユーザの身近な建物と浸水平面とを共に表示することによって、浸水平面の高さがどの程度の高さであるかを、ユーザに対し、より直感的に認識させることができ、ユーザはより適切な避難判断を行うことができる。
【0037】
また、上記実施形態において、さらに、所定時間後の河川水位の予測値(予測データ)と潮位の予測値とを取得し、取得した河川水位の予測値と潮位の予測値とに基づき、
図2のステップS2からステップS5の処理を実行し、今後予測される浸水ポテンシャルを表示するようにしてもよい。すなわち、所定時間後の河川水位の予測値と潮位の予測値とに基づき、予測される仮想水面を設定する(ステップS3)。続いて、地盤高と仮想水面との水位差を演算し(ステップS4)、浸水ポテンシャルとして水位差の大きさに応じて異なる表示形態で表示部13に表示する(ステップS5)ようにしてもよい。
【0038】
これにより、所定時間後の予測される浸水ポテンシャルが表示されることになる。また、このとき、例えば、
図7(b)に示す現時点における仮想水面M1と共に、所定時間後の予測される仮想水面M1を並べて表示するようにしてもよい。さらに、
図8に示すように、河川水位が、氾濫原が浸水することがないと予測される状態から、所定時間が経過する毎の浸水ポテンシャルを予測し、現在の河川水位及び仮想水面M1(0)、所定時間ΔT後の予測される河川水位及び予測される仮想水面M1(ΔT)、所定時間2×ΔT後の予測される河川水位及び予測される仮想水面M1(2×ΔT)、というように、予測される所定時間毎の仮想水面M1を並べて表示するようにしてもよい。なお、
図8では河川水位が、氾濫原が浸水する水位ではないため、氾濫原に対して仮想水面は設定されていない。
【0039】
このように、現時点の仮想水面と所定時間後の予測される仮想水面とを並べて表示することによって、仮想水面の水位の変化状況を容易に認識することができ、ユーザは、仮想水面の変化状況も考慮して避難判断を行うことができる。
なお、河川水位の予測値は、例えば、河川上流に設置された河川水位観測所(図示せず)で計測した河川水位と予測雨量とにより、算出すればよい。また、潮位の予測値は、予測天文潮位に、偏差(原時刻の実績潮位と天文潮位との差)を加えることで算出すればよい。予測雨量及び天文潮位は、例えば、通信回線を介して他の装置から入力すればよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、河川水位と潮位とをもとに、浸水ポテンシャルを演算する場合について説明したが、氾濫原が、高潮の影響をうけない河川の周辺に位置する場合には、河川水位の観測データのみを用いて浸水ポテンシャルを演算すればよい。同様に、河川のそばではなく、高潮の影響のみを受ける氾濫原の場合には、潮位の観測データのみを用いて浸水ポテンシャルを演算すればよい。
また、上記実施形態においては、浸水シミュレーション装置において浸水予測を行う場合について説明したが、他の装置と組み合わせてもよく、例えば、災害が生じたときに避難経路を提示する装置と組み合わせ、浸水が予測される区域からの避難経路も提示するようにしてもよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 浸水シミュレーション装置
11 制御部
12 入力部
13 表示部
14 入力インタフェース部
15 記憶部
20 河川水位観測所
20a 水位計
30 潮位観測所
30a 測定器