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特開2022-143364バインダー組成物、電極合剤、および非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143364
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】バインダー組成物、電極合剤、および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20220926BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220926BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08L27/16
C08L91/00
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043833
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 正孝
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AE05X
4J002BD14W
4J002GQ00
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB13
5H050CB15
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA26
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】非水二次電池の電極等に用いた際、活物質や集電体に対する高い接着性と、屈曲に耐え得る高い柔軟性と、を実現可能なバインダー組成物の提供を目的とする。
【解決手段】バインダー組成物は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位、およびカルボキシ基を有する構成単位、を含むフッ化ビニリデン系重合体と、テルペンに由来する構成単位、および芳香族性を有する化合物に由来する構成単位、を含むテルペン系重合体と、を含有する。前記フッ化ビニリデン系重合体および前記テルペン系重合体の合計100質量部に対する、前記テルペン系重合体の含有量は6質量部以上15質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンに由来する構成単位、およびカルボキシ基を有する構成単位、を含むフッ化ビニリデン系重合体と、
テルペンに由来する構成単位、および芳香族性を有する化合物に由来する構成単位、を含むテルペン系重合体と、
を含有し、
前記フッ化ビニリデン系重合体および前記テルペン系重合体の合計100質量部に対する、前記テルペン系重合体の含有量が6質量部以上15質量部以下である、
バインダー組成物。
【請求項2】
前記芳香族性を有する化合物に由来する構成単位中の炭素原子の数が、6以上20以下である、
請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項3】
前記芳香族性を有する化合物に由来する構成単位が、スチレン系モノマーおよび/またはフェノール系モノマー由来の構成単位である、
請求項1または2に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
前記カルボキシ基を有する構成単位が、下記一般式(1)または(2)で表される化合物由来の構成単位である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダー組成物。
(一般式(1)および(2)において、
は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、または炭素数1~5のアルキル基を有するエステル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、
Xは主鎖の原子数が1~20である、分子量500以下の原子団を表す)
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン系重合体が、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレンから選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のバインダー組成物。
【請求項6】
非水溶媒をさらに含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載のバインダー組成物。
【請求項7】
導電助剤をさらに含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載のバインダー組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のバインダー組成物と、
活物質と、
を含む、電極合剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のバインダー組成物の固形分を含む、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー組成物、電極合剤、および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の電極の合剤層等には、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)が広く使用されている。電池の性能向上の観点から、バインダーには、活物質および集電体との高い接着性が求められており、ポリフッ化ビニリデン中にカルボキシ基を有する構成単位を含めること等が検討されている。例えば、特許文献1には、フッ化ビニリデンおよびカルボキシエチルアクリレートを共重合して得られるフッ化ビニリデン系重合体が、集電体に対して優れた接着性を有することが示されている。
【0003】
近年、電池の高エネルギー密度化に向けて、電極合剤層の高密度化が進んでいる。ここで、電池の高エネルギー密度化のためには、電極を筐体の中に密に配置する必要がある。例えば、角型や円筒型などの筐体の中に、電極を巻回して挿入すること等もあり、電極には高い柔軟性も求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5797206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば特許文献1に記載されているような、活物質や集電体に対して優れた接着性を有するバインダーは柔軟性が低いことがある。そして柔軟性が低いバインダーを含む電極を屈曲させると、合剤層が割れたり、集電体が切れたりし、電極が破断してしまうことがあることから、バインダーには、高い接着性と高い柔軟性とが求められる。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。非水電解質二次電池の電極等に用いた際、活物質や集電体に対する高い接着性と、高い柔軟性と、を両立可能なバインダー組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位、およびカルボキシ基を有する構成単位、を含むフッ化ビニリデン系重合体と、テルペンに由来する構成単位、および芳香族性を有する化合物に由来する構成単位、を含むテルペン系重合体と、を含有し、前記フッ化ビニリデン系重合体および前記テルペン系重合体の合計100質量部に対する、前記テルペン系重合体の含有量が6質量部以上15質量部以下である、バインダー組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記バインダー組成物と、活物質と、を含む、電極合剤を提供する。
【0009】
さらに本発明は、上記バインダー組成物の固形分を含む、非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバインダー組成物は、非水二次電池の電極等に用いた際、活物質や集電体に対する高い接着性と、高い柔軟性と、を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.バインダー組成物
本発明のバインダー組成物は、例えば非水電解質二次電池の電極の合剤層等のバインダーに好適である。ただし、バインダー組成物の用途はこれに限定されない。
【0012】
前述のように、非水電解質二次電池の電極の合剤層等に使用されるバインダーには、活物質や集電体に対する高い接着性と柔軟性とが求められる。しかしながら、バインダーの接着性を高めると、電極の柔軟性が低くなり、屈曲させた際に電極が破断することがあった。つまり、活物質や集電体に対するバインダーの接着性と、電極の柔軟性とは、トレードオフの関係にあった。その理由としては、以下のように考えられる。
【0013】
バインダーが、例えばカルボキシ基等、活物質、集電体等と結合可能な基を有すると、バインダーとこれらの成分とが強固に結合し、合剤層と集電体や活物質との接着強度が高まる。ただし、バインダーが、合剤層中の他の成分、例えば導電助剤等とも強固に結合してしまうと、バインダーが伸縮し難くなり、電極の柔軟性が低くなる。一方で、導電助剤等とバインダーの結合を弱めようとすると、バインダーと活物質や集電体等とも結合し難くなりがちで、電極の破断は生じ難くなるものの、合剤層が集電体から剥離しやすくなる。これらのいずれの場合においても、非水電解質二次電池の性能が低下する。
【0014】
これに対し、本発明のバインダー組成物は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位、およびカルボキシ基を有する構成単位、を含むフッ化ビニリデン系重合体と、テルペンに由来する構成単位、および芳香族性を有する化合物に由来する構成単位、を含むテルペン系重合体と、を含有する。当該バインダー組成物では、フッ化ビニリデン系重合体がカルボキシ基を有する構成単位を含むことから、カルボキシ基と、活物質や集電体の表面の極性基とが強固に結合する。したがって、合剤層と集電体や活物質との接着強度が良好になる。一方で、上記テルペン系重合体は、フッ化ビニリデン系重合体との親和性が低く、さらに合剤層中に含まれる他の成分(例えば導電助剤等)との親和性が高い。したがって、当該バインダー組成物を用いた合剤層等では、フッ化ビニリデン系重合体と、テルペン系重合体や導電助剤等とが分離した構造、すなわちフッ化ビニリデン系重合体中に、テルペン系重合体や導電助剤等が結合することなく分散された構造となる。その結果、フッ化ビニリデン系重合体本来の伸縮性が維持されやすく、電極の柔軟性が良好になる。以下、当該バインダー組成物における各成分について説明する。
【0015】
・フッ化ビニリデン系重合体
フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、カルボキシ基を有する構成単位と、を含む。当該フッ化ビニリデン系重合体はフッ化ビニリデンおよびカルボキシ基を有する化合物との共重合体であってもよく、フッ化ビニリデンおよびカルボキシ基を有する化合物と他の単量体との共重合体であってもよい。バインダー組成物は、フッ化ビニリデン系重合体を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0016】
フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン系重合体を構成する全ての構成単位の量に対して90モル%以上99.9モル%以下が好ましく、95モル%以上99.7モル%以下がより好ましい。フッ化ビニリデン由来の構成単位の量が90モル%以上であると、ポリフッ化ビニリデンの優れた電気化学的安定性を維持しやすい。。一方、フッ化ビニリデン由来の構成単位の量が99.9モル%以下であると、相対的にカルボキシ基を有する構成単位の量が十分に多くなり、フッ化ビニリデン系重合体が活物質や集電体等と強固に結合しやすくなる。上記フッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、例えば19F-NMRによる分析等によって特定可能である。
【0017】
一方、カルボキシ基を有する構成単位は、カルボキシ基を有する化合物から得られる構成単位である。なお、本明細書における「カルボキシ基」との記載には、カルボキシ基だけでなく、カルボキシ基が酸無水物になった状態も含む。フッ化ビニリデン系重合体は、カルボキシ基を有する化合物由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0018】
カルボキシ基を有する化合物の例には、不飽和二重結合と、2つのカルボキシ基または酸無水物基とを含む不飽和二塩基酸等が含まれる。不飽和二塩基酸の炭素数は、5~8が好ましく、その具体例には、フマル酸、(無水)マレイン酸、シトラコン酸およびフタル酸等が含まれる。
【0019】
また、カルボキシ基を有する化合物の例には、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物も含まれる。
【化1】
上記一般式(1)および(2)において、Rは水素原子、炭素数1~5のアルキル基、または炭素数1~5のアルキル基を有するエステル基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。重合反応の観点から、特にRおよびRは立体障害の小さな置換基であることが好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0020】
また、上記式(2)におけるXは、主鎖の原子数1~20である、分子量500以下の原子団を表し、当該分子量は200以下がより好ましい。当該原子団の分子量の下限値は通常14である。Xで表される原子団の分子量が500以下であると、バインダ組成物を合剤層に用いた際、フッ化ビニリデン系重合体と活物質や集電体との接着性が良好になりやすい。なお、Xで表される原子団の主鎖の原子数とは、炭素-炭素二重結合に結合するXの一方の端部から、カルボキシ基に結合するXの他方の端部までを構成する鎖のうち、最も短い鎖の原子数を意味する。Xは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0021】
なお、Xは炭化水素鎖に限定されず、硫黄原子や窒素原子、酸素原子等を含んでいてもよい。Xは特に、-COOX-で表される原子団であることが好ましい。当該原子団中のXは、主鎖の原子数が1~18であり、かつ分子量が456以下の原子団であればよく、主鎖の原子数は1~13がより好ましく、1~8がさらに好ましい。またXの分子量は156以下が好ましく、通常下限値は14である。
【0022】
上記一般式(1)または(2)で表される化合物の例には、(メタ)アクリル酸;2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸;(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸;(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、フタル酸モノメチル、フタル酸モノエチル等の不飽和二塩基酸モノエステル;等が含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、メタクリレート、アクリレート、またはこれらの混合物を表し、(メタ)アクリルとは、メタクリル、アクリル、またはこれらの混合物を表し、(メタ)アクリロイルとは、メタクリロイル、アクリロイル、またはこれらの混合物を表す。
【0023】
カルボキシ基を有する構成単位は、上記の中でも、アクリル酸、アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、マレイン酸モノメチル由来の構成単位が、フッ化ビニリデンとの共重合性の観点で好ましい。
【0024】
フッ化ビニリデン系重合体中のカルボキシ基を有する構成単位の量は、フッ化ビニリデン系重合体を構成する全ての構成単位の量に対して0.1モル%以上10モル%以下が好ましく、0.3モル%以上5モル%以下がより好ましい。カルボキシ基を有する構成単位の量が0.1モル%以上であると、フッ化ビニリデン系重合体と活物質や集電体との接着強度が高まったりする。一方で、カルボキシ基を有する構成単位の量が10モル%以下であると、フッ化ビニリデン系重合体が、過度に活物質や集電体等と結合し難く、得られる電極の柔軟性が高まる。フッ化ビニリデン系重合体中のカルボキシ基を有する構成単位の量は、フッ化ビニリデン系重合体を19F-NMRによって分析したり、FT-IRで分析したりして特定できる。
【0025】
また、フッ化ビニリデン系重合体は、カルボキシ基を含まず、かつフッ化ビニリデンと共重合可能な化合物(以下、「他の化合物」とも称する)由来の構成単位を含んでいてもよい。他の化合物の例には、フッ化ビニリデン以外の含フッ素単量体、エチレンおよびプロピレン等の炭化水素系単量体等が含まれる。
【0026】
含フッ素単量体の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル等のパーフルオロアルキルビニルエーテル等が含まれる。これらの中でも、フッ化ビニリデン系重合体と活物質や集電体との接着強度が高まるとの観点で、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、またはトリフルオロエチレンが好ましい。
【0027】
他の化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン系重合体を構成する全ての構成単位の量に対して5モル%以下が好ましく、2モル%以下がさらに好ましい。他の化合物由来の構成単位の量が5モル%以下であると、フッ化ビニリデン系重合体の物性が所望の範囲に収まりやすくなり、フッ化ビニリデン系重合体が活物質や集電体等と結合しやすくなる。フッ化ビニリデン系重合体中の他の化合物由来の構成単位の量は、19F-NMRにより特定できる。
【0028】
上記フッ化ビニリデン系重合体の融点は、100℃以上175℃以下が好ましく、120℃以上175℃以下がより好ましい。フッ化ビニリデン系重合体の融点が、100℃以上であると、バインダー組成物を用いた電極の耐熱性が良好になりやすい。当該フッ化ビニリデン系重合体の融点は示差走査熱量計(DSC)による熱量測定によって特定できる。具体的には、フッ化ビニリデン系重合体を、30℃から230℃まで、10℃/分で昇温(1回目の昇温)し、230℃から30℃まで10℃/分で降温(1回目の冷却)し、さらに30℃から230℃まで、10℃/分で昇温(2回目の昇温)して、DSCにより融解ピークを特定する。そして、2回目の昇温で観察される最大融解ピーク温度を、フッ化ビニリデン系重合体の融点として特定する。
【0029】
上記フッ化ビニリデン系重合体の重量平均分子量は、5万~120万が好ましく、10万~100万がより好ましく、15万~100万がさらに好ましい。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算値である。フッ化ビニリデン系重合体の重量平均分子量が上記範囲であると、バインダー組成物の塗布性等が良好になり、さらには得られる合剤層の強度が良好になりやすい。
【0030】
上記フッ化ビニリデン系重合体の調製方法は特に制限されず、フッ化ビニリデンと、カルボキシ基を有する化合物と、必要に応じて他の化合物と、を公知の方法で共重合させればよい。これらを共重合する方法の例には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が含まれる。
【0031】
また、バインダー組成物中のフッ化ビニリデン系重合体の量は、バインダー組成物の固形分量に対して、85質量%以上94質量%以下が好ましく、90質量%以上94質量%以下がより好ましい。バインダー組成物の固形分量とは、バインダー組成物中の揮発成分(例えば溶媒)を除いた成分の総量をいう。バインダー組成物中のフッ化ビニリデン系重合体の量が当該範囲であると、当該バインダー組成物を用いて合剤層等を形成した際、合剤層と集電体との接着強度が高まる。
【0032】
・テルペン系重合体
テルペン系重合体は、テルペンに由来する構成単位、および芳香族性を有する化合物に由来する構成単位を含む重合体であればよく、その例には、テルペンと芳香族性を有する化合物とを反応させて得られる重合体が含まれる。
【0033】
テルペンとは、一般に植物の葉、樹、根等から得られる植物精油に含まれる化合物であり、イソプレン(C)の重合体であるモノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C2032)等を基本骨格とする化合物の総称である。
【0034】
テルペン系重合体中のテルペンに由来する構成単位は、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、ミルセン、アロオシメン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-ターピネオール、β-ターピネオール、γ-ターピネオール、4-ターピネオール、サビネン、カンフェン、トリシクレン、パラメンテン-1、パラメンテン-2、パラメンテン-3、パラメンテン-8、パラメンタジエン類、Δ2-カレン、Δ3-カレン、カリオフィレン、ロンギフォーレン等、炭化水素環または複素環を有する化合物由来の構成単位であることが好ましい。テルペン系重合体は、これら由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、リモネンに由来する構成単位が好ましい。
【0035】
テルペン系重合体中のテルペン由来の構成単位の量は、テルペン系重合体を構成する全構成単位の量に対して、10モル%以上90モル%以下が好ましく、50モル%以上85モル%以下がより好ましい。テルペン由来の構成単位の量が10モル%以上であると、テルペン系重合体と、例えば導電助剤等、炭素系成分との親和性が高まる。その結果、上述のように、バインダー組成物を用いた合剤層や電極の柔軟性が高まる。一方、テルペン由来の構成単位の量が90モル%以下であると、相対的に、芳香族性を有する化合物由来の構成単位の量が十分に多くなり、テルペン系重合体とフッ化ビニリデン系重合体との親和性が低くなる。その結果、フッ化ビニリデン系重合体と導電助剤等とを十分に分離し、バインダー組成物を用いた合剤層や電極の柔軟性が高まる。テルペン系重合体中のテルペン由来の構成単位の量は、NMR、質量分析法、酸-塩基滴定などにより特定可能である。
【0036】
一方、テルペン系重合体中の芳香族性を有する化合物に由来する構成単位は、テルペンと重合可能な構造を有し、かつ芳香環を有する化合物由来の構成単位である。芳香環は、炭化水素環であってもよく、複素環であってもよい。芳香族性を有する化合物に由来する構成単位の構造は特に制限されないが、構成単位中の炭素原子の数は6以上20以下が好ましく、6以上10以下がより好ましい。芳香族性を有する化合物の例には、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、クマロン、インデン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、2-フェニル-2-ブテン、ビニルナフタレン等のスチレン系モノマー;が含まれる。テルペン系重合体は、これら由来の構成単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。芳香族性を有する化合物に由来する構成単位は、上記の中でも、フェノール、スチレンに由来する構成単位が好ましく、特にフェノールに由来する構成単位が好ましい。
【0037】
テルペン系重合体中の芳香族性を有する化合物に由来する構成単位の量は、テルペン系重合体を構成する全構成単位の量に対して、10モル%以上90モル%以下が好ましく、15モル%以上50モル%以下がより好ましい。芳香族性を有する化合物に由来する構成単位の量が10モル%以上であると、テルペン系重合体と、フッ化ビニリデン系重合体との親和性が十分に低くなり、上述のように、バインダー組成物を用いた合剤層や電極の柔軟性が高まる。一方、芳香族性を有する化合物に由来する構成単位の量が90モル%以下であると、相対的にテルペン由来の構成単位の量が十分になり、テルペン系重合体と、例えば導電助剤等、炭素系成分との親和性が高まる。テルペン系重合体中の芳香族性を有する化合物に由来する構成単位の量は、NMR、質量分析法、酸-塩基滴定等により特定可能である。
【0038】
テルペン系重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記以外の構成単位(その他の構成単位)を含んでいてもよい。その他の構成単位の例には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、シクロペンタジエン、ヘキセン、酢酸ビニル、塩化ビニル等由来の構成単位が含まれる。ただし、その他の構成単位の量は、テルペン系重合体を構成する全構成単位の量に対して、80モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0039】
上記テルペン系重合体は、テルペンと芳香族性を有する化合物とを、触媒の存在下、公知の方法で反応させて調製してもよい。一方で、テルペン系重合体は、市販品であってもよい。
【0040】
バインダー組成物中のテルペン系重合体の量は、フッ化ビニリデン系重合体およびテルペン系重合体の合計100質量部に対して、6質量部以上15質量部以下であればよく、6質量部以上12質量部以下がより好ましく、6質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。テルペン系重合体の量が、フッ化ビニリデン系重合体およびテルペン系重合体の合計100質量部に対して、6質量部以上であると、バインダー組成物を用いた合剤層や電極の柔軟性が良好になりやすい。一方、テルペン系重合体の量が過度に多くなると、バインダー組成物を用いた合剤層や電極の強度が低くなり、破断しやすくなるが、フッ化ビニリデン系重合体およびテルペン系重合体の合計100質量部に対してテルペン系重合体の量が15質量部以下であると、このような破断が生じ難い。
【0041】
・導電助剤
バインダー組成物は、必要に応じて導電助剤をさらに含んでいてもよい。導電助剤は、バインダー組成物を合剤層の形成に用いた際、合剤層の導電性を向上させることが可能な物質であればよい。導電助剤の例には、カーボンブラック、黒鉛微粉末、炭素繊維等の炭素系物質や、ニッケル、アルミニウム等の金属微粉末あるいは、金属繊維が含まれる。これらの中でも、上述のテルペン系重合体との親和性が高いとの観点で、炭素系物質が好ましい。
【0042】
導電助剤の量は、所望の合剤層の性能に応じて適宜選択されるが、上述のテルペン系重合体の量1質量部に対して、5質量部以上40質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。導電助剤の量が当該範囲であると、導電助剤とテルペン系重合体とを十分に結合させることができ、フッ化ビニリデン共重合体と導電助剤とを十分に分離できる。その結果、得られる合剤層の柔軟性が高まる。
【0043】
・バインダー組成物の調製方法
バインダー組成物の調製方法は特に制限されず、上記フッ化ビニリデン系重合体を調製し、当該フッ化ビニリデン系重合体とテルペン系重合体、および導電助剤等とを混合することによって製造できる。
【0044】
なお、バインダー組成物の形態は特に限定されず、粉状であっても、液状であってもよい。また、バインダー組成物は、溶媒を含んでいてもよいし、溶媒に溶解していてもよいし、溶媒に分散していても良い。
【0045】
溶媒は、非水溶媒であってもよいし、水であってもよい。非水溶媒の例には、N―メチルピロリドン、N,N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n―ブチル、nブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびシクロヘキサノン等が含まれる。バインダー組成物は、非水溶媒を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0046】
2.電極合剤
上述のバインダー組成物と、活物質とを混合し、電極合剤とすることができる。電極合剤は、導電助剤や、溶媒、分散媒、その他の添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0047】
電極合剤が含む活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の負極用の活物質(負極活物質)または正極用の活物質(正極活物質)を用いることができる。
【0048】
負極活物質の例には、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、またはフェノール樹脂およびピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、ZrおよびY等の金属・合金材料;ならびにGeO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO等の金属酸化物等が含まれる。また、これら活物質表面にコーティングを施したもの等も含まれる。負極活物質は、市販品であってもよい。
【0049】
一方、正極活物質の例には、リチウムを含むリチウム系正極活物質が含まれる。リチウム系正極活物質の例には、LiCoO、LiMn等のスピネル構造をとる複合金属酸化物;およびLiFePO等のオリビン型リチウム化合物;一般式Li1+xMY(-0.15≦x≦0.15、MはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Cr、およびV等の遷移金属のうち1種または2種以上、YはOおよびS等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物;等が含まれる。また、これら活物質表面にコーティングを施したものも含まれる。正極活物質は、市販品であってもよい。
【0050】
電極合剤が含む活物質の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、電極合剤の固形分の総量に対して、50質量%以上99.9質量%以下が好ましい。活物質の量が当該範囲であると、例えば十分な充放電容量が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0051】
また、導電助剤は、上述のバインダー組成物が含んでいてもよい導電助剤と同様である。上述のバインダー組成物が導電助剤を含む場合には、電極合剤を調製する際に導電助剤を別途混合しなくてもよい。電極合剤が含む導電助剤の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、その種類や電池の種類に応じて任意に設定できる。導電性の向上および導電助剤の分散性をともに高める観点から、一例において、電極合剤の固形分の総量に対して、0.1質量%15質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
また、電極合剤は溶媒等を含んでいてもよい。溶媒の種類は、乾燥によって除去できる媒体であることが好ましく、上述のバインダー組成物が水や非水溶媒を含む場合には、これらをそのまま使用してもよい。一方で、無極性溶媒や低極性溶媒、極性溶媒、イオン液体等を別途混合してもよい。
【0053】
溶媒の例には、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール、トリプロピレングリコール等のアルコール;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン化合物;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物;エチルメチルイミダゾリウム塩、アセトン、酢酸エチル、ブチルメチルイミダゾリウム塩等のイオン性液体等が含まれる。
【0054】
電極合剤における溶媒の量は、特に限定されないが、上述の活物質100質量部に対して20質量部以上150質量部以下が好ましい。
【0055】
電極合剤はさらに、分散媒、分散剤、接着補助剤、増粘剤等を含んでいてもよく、これらは、公知の化合物を用いることができる。これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、活物質およびバインダー組成物の合計量に対して、15質量%以下が好ましい。
【0056】
電極合剤は、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;上述のフッ化ビニリデン系重合体以外のフッ化ビニリデン系重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、およびポリアクリロニトリル(PAN)等の樹脂;等の添加剤をさらに含んでいてもよい。これらは、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、活物質およびバインダー組成物の合計量に対して、15質量%以下が好ましい。
【0057】
上記電極合剤は、全ての成分を一度に混合して調製してもよく、一部の成分を先に混合し、後から残りの成分を混合して調製してもよい。
【0058】
電極合剤の粘度は、電極合剤を塗工して合剤層を得るときの液だれ・塗工ムラ・塗工後の乾燥遅延を防止でき、電極作製の作業性や塗布性が良好な粘度であれば特に限定されない。一例において、0.1Pa・s以上100Pa・s以下が好ましい。電極合剤の粘度は、E型粘度計等によって測定される。
【0059】
3.電極
上述の電極合剤は、各種非水電解質二次電池等の電極の合剤層の形成に使用できる。非水電解質二次電池の電極は、例えば、集電体と、当該集電体上に配置された合剤層とを含む。このとき、合剤層の形成に、上述の電極合剤を用いることができる。なお、当該電極は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。
【0060】
・集電体
負極および正極用の集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属網等を施したものであってもよい。
【0061】
・合剤層
合剤層は、上述の電極合剤を集電体上に塗布し、乾燥させた層である。合剤層は、上記集電体の一方の面のみに形成されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0062】
合剤層中の成分は、非水電解質二次電池の種類に応じて適宜選択される。合剤層は通常、上述のバインダー組成物および活物質を含んでいればよいが、導電助剤や、分散剤、接着補助剤、増粘剤等の各種添加剤等をさらに含んでいてもよい。これらは、電極合剤で説明したものと同様とすることができる。
【0063】
ここで、合剤層の厚みは特に限定されるものではないが、一例において、1μm以上1000μm以下が好ましい。また、集電体の一方の面に形成された合剤層の目付量は、特に限定されるものではなく、任意の目付量とすることができるが、一例において、50~1000g/mが好ましく、100~500g/mがより好ましい。
【0064】
・合剤層の形成
上記合剤層は、上述の電極合剤を集電体上に塗布する工程と、これを乾燥させる工程と、を行うことで形成できる。
【0065】
また、電極合剤の塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用することができる。
【0066】
また、電極合剤の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒(分散媒)を乾燥させる。乾燥温度は、一例において、60℃以上500℃以下が好ましく、80℃以上200℃以下がより好ましい。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。このとき、大気圧下、加圧下、減圧下で乾燥してもよい。乾燥後にさらに熱処理を行ってもよい。
【0067】
上記電極合剤の塗布および乾燥後、さらにプレス処理を行ってもよい。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。プレス圧力は、一例において、1kPa以上10GPa以下が好ましい。
【0068】
4.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、上述のバインダー組成物の固形分を含んでいればよい。上述のバインダー組成物や電極合剤は、上述のように、各種非水電解質二次電池の電極に使用可能であり、通常、電極の合剤層が上述のバインダー組成物の固形分を含む。ただし、非水電解質二次電池の他の層が、上述のバインダー組成物の固形分を含んでいてもよい。
【実施例0069】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
[材料の準備]
(フッ化ビニリデン系重合体の準備)
・フッ化ビニリデン系重合体Aの調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1096g、メトローズ(登録商標)90SH-100(信越化学工業社製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液2.2g、フッ化ビニリデン(以下、「VDF」とも称する)426g、およびアクリロイロキシプロピルコハク酸(以下、「APS」とも称する)の初期添加量0.2gの各量を仕込んだ。26℃まで昇温後、26℃を維持し、6質量%のAPS水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加した。APSは、初期に添加した量を含め、全量4.0gを添加した。得られたVDF/APS共重合体の重合体スラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体A)を得た。重量平均分子量は80万であった。
【0071】
上記フッ化ビニリデン系重合体の分子量は、フッ化ビニリデン系重合体を濃度0.1重量%で溶解したN-メチルピロリドン(以下、「NMP」とも称する)溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分光社製 GPC―900 shodex KD-806Mカラム)を用い、ポリスチレン換算の重量平均分子量として測定した。
【0072】
・フッ化ビニリデン系重合体Bの調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水900g、メトローズ(登録商標)90SH-100(信越化学工業社製)0.4g、50wt%パーブチルパーピバレート-フロン225cb溶液4g、フッ化ビニリデン396g、およびアクリル酸(以下、「AA」とも称する)の初期添加量0.2gの各量を仕込んだ。50℃まで昇温後、重合中に圧力を一定に保つ条件で、3重量%AA水溶液を反応容器に連続的に供給した。AAは、初期に添加した量を含め、全量1.96gを添加した。得られたフッ化ビニリデン系重合体(VDF/AA)の重合体スラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体B)を得た。GPCで測定される重量平均分子量は80万であった。
【0073】
・フッ化ビニリデン系重合体Cの調製
内容積2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.8g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート4g、酢酸エチル1.3g、フッ化ビニリデン395g、マレイン酸モノメチルエステル(以下、「MMM」とも称する)4gの各量を仕込み、28℃で懸濁重合して、フッ化ビニリデン系重合体(VDF/MMM)の重合体スラリーを得た。得られた重合体スラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体C)を得た。GPCで測定される重量平均分子量は60万であった。
【0074】
・フッ化ビニリデン系重合体Dの調製
内容積10リットルのオートクレーブに、イオン交換水5200g、メチルセルロース2.0g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート7.1g、フッ化ビニリデン1950g、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」とも称する)81.3gの各量を仕込んだ。28℃まで昇温後、28℃を維持し、5質量%のAPS水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加し、APSは全量20.0gを添加した。得られたVDF/APS/CTFE共重合体の重合体スラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体D)を得た。重量平均分子量は80万であった。
【0075】
・フッ化ビニリデン系重合体Eの調整
内容積2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.4g、フッ化ビニリデン420g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート3.8gを仕込み、25℃で懸濁重合してフッ化ビニリデン単独重合体のスラリーを得た。得られた重合体スラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体E)を得た。GPCで測定される重量平均分子量は60万であった。
【0076】
・フッ化ビニリデン系重合体Fの調製
内容積2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.4g、フッ化ビニリデン380g、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも称する)42g、ジイソプロピルパーオキシジカ-ボネート4.0gを仕込み、25℃で懸濁重合した。得られたVDF/HFP共重合体のスラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体F)を得た。GPCで測定される重量平均分子量は60万であった。
【0077】
・フッ化ビニリデン系重合体Gの調製
内容積2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.4g、フッ化ビニリデン405g、CTFE16.9g、ジイソプロピルパーオキシジカ-ボネート3.8gを仕込み、25℃で懸濁重合した。得られたVDF/CTFE共重合体のスラリーを脱水、水洗・脱水後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末(フッ化ビニリデン系重合体G)を得た。GPCで測定される重量平均分子量は60万であった。
【0078】
(テルペン系重合体の準備)
・テルペン系重合体A:YSレジンポリスターK125、ヤスハラケミカル社製、テルペンフェノール重合体
・テルペン系重合体B:YSレジンポリスターG125、ヤスハラケミカル社製、テルペンフェノール重合体
・テルペン系重合体C:YSレジンポリスターT130、ヤスハラケミカル社製、テルペンフェノール重合体
・テルペン系重合体D:YSレジンポリスターTO125、ヤスハラケミカル社製、スチレン変性テルペン系重合体
【0079】
[実施例1]
フッ化ビニリデン系重合体A 90質量部と、テルペン系重合体A 10質量部と、を混合した。その後、当該混合物6.5質量部と、N-メチルピロリドン(以下、「NMP」とも称する)溶液93.5質量部とを混合し、マグネティックスターラーで攪拌して、バインダー組成物を調製した。
【0080】
[実施例2~7、および比較例1~15]
表1に示すように、フッ化ビニリデン系重合体およびテルペン系重合体の種類および配合量を変更して、バインダー組成物を調製した。
【0081】
[評価]
・電極の作製
上記バインダー組成物2質量部と、正極活物質LiCoO(コバルト酸リチウム)(以下、「LCO」とも称する)100質量部と、導電助剤Super-P(イメリス・グラファイトカーボン社製)2質量部とNMP40.5質量部とを混合して電極合剤を調製した。当該電極合剤をアルミ箔の片面または両面に塗布し、乾燥させて電極を得た。以下、アルミ箔の両面に電極合剤を塗布して得られた電極を両面塗工電極と称し、アルミ箔の一方の面のみに電極合剤を塗布して得られた電極を片面塗工電極と称する。
【0082】
・剥離強度の測定
長さ50mm、幅20mmに切り出した片面塗工電極を測定サンプルとした。JIS K6854-1に準じて、引張試験機(オリエンテック社製 UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL:STB-1225)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行い、剥離強度(gf/mm)を測定した。得られた結果について、実施例1~4は、それぞれ比較例1~4と比較して評価した(比較値を「Δ剥離強度」とも称する。以下同様である)。実施例5~7は、比較例1と比較して評価した。比較例5~7は、それぞれ比較例8~10と比較して評価した。比較例11~15は、いずれも比較例1と比較して評価した。
【0083】
・破断電極密度の測定
長さ50mm、幅20mmに切り出した両面塗工電極を、ロールプレス機でプレスして、電極密度を適宜調整し、測定サンプルとした。引張試験機(オリエンテック社製 UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL:STB-1225)を使用し、ヘッド速度30mm/分で測定サンプルを折り曲げ、圧縮試験を行った。測定サンプルの折り曲げた箇所を開き、背後からの光の透過の有無で破断を判断した。破断が生じた最小の電極密度を破断電極密度とし電極柔軟性の指標とした。
【0084】
なお、電極密度は、以下の測定方法により求めた。上記両面塗工電極の重量を電子天秤で測定した。得られた電極重量と集電体重量との差から正極合剤層の重量を算出した。また上記両面塗工電極および集電体の厚みをそれぞれマイクロメーターで5点測定した。得られた電極厚み平均値と集電体厚み平均値との差を正極合剤層の厚みとし、この正極合剤層の厚みに電極面積を乗じて正極合剤層の体積を算出した。得られた正極合剤層の体積で正極合剤層の合剤層重量を除することにより、正極合剤層の電極密度を算出した。
【0085】
得られた結果について、実施例1~4は、それぞれ比較例1~4と比較して評価した。実施例5~7は、比較例1と比較して評価した(比較値を「Δ破断電極密度」とも称する。以下同様である)。比較例5~7は、それぞれ比較例8~10と比較して評価した。比較例11~15は、いずれも比較例1と比較して評価した。比較対象に対して破断電極密度が増加するほど電極柔軟性が優れるといえる。
【0086】
また、比較例1~4および比較例8~10の剥離強度および破断電極密度の結果から、剥離強度および破断電極密度の近似直線を作成した。その結果、上記実施例または比較例で作製した電極においては、電極破断密度と剥離強度との間には、以下の関係が成り立つことが明らかとなった。
電極破断密度(理論値)=-0.0719×(剥離強度)+4.1608
そこで、当該理論値と実測値との比較も行った。
【0087】
・総合評価
総合評価は、以下の基準で行った。
〇:Δ剥離強度>0、かつΔ破断電極密度>Δ破断電極密度(理論値)
×:Δ剥離強度≦0、またはΔ破断電極密度≦Δ破断電極密度(理論値)
【0088】
【表1】
【0089】
上記表1に示すように、フッ化ビニリデンに由来する構成単位およびカルボキシ基を有する構成単位を含むフッ化ビニリデン系重合体と、テルペン系重合体とを含む実施例1~7では、テルペン系重合体を含まない比較例1~4と比較して、剥離強度が良好になった。また、これらの剥離強度から算出される、破断電極密度の理論値と比較して、破断電極密度がいずれも良好になった。テルペン系重合体を混合することで、合剤層中で、フッ化ビニリデン系重合体と、テルペン系重合体や導電助剤等とが分離した状態、すなわちフッ化ビニリデン系重合体中に、テルペン系重合体や導電助剤等が結合することなく分散された状態となり、破断電極密度が高まったと考えられる。
【0090】
ただし、テルペン系重合体の量が少なすぎる場合には、破断電極密度が十分に向上しなかった(比較例11)。一方で、テルペン系重合体の量が多すぎる場合にも、破断電極密度は理論値と略同じ、もしくはこれより低くなった(比較例12~15)。合剤層の強度が低くなったと推察される。
【0091】
また、フッ化ビニリデン系重合体がカルボキシ基を有する構成単位を含まない比較例5~10においては、いずれも剥離強度を十分に高めることは難しかった。フッ化ビニリデン系重合体がカルボキシ基を有さない場合には、フッ化ビニリデン系重合体と集電体(アルミ箔)とが十分に結合できなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の非水電解質二次電池用バインダー組成物は、非水電解質二次電池に用いた際に、活物質や集電体に対する高い接着性と、屈曲に耐え得る高い柔軟性とを両立可能である。したがって、非水電解質二次電池の製造分野において、非常に有用である。