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特開2022-143375抗体又はその抗原結合性断片、及びその作製方法、並びに抗体又はその抗原結合性断片の安定化方法
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  • 特開-抗体又はその抗原結合性断片、及びその作製方法、並びに抗体又はその抗原結合性断片の安定化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143375
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】抗体又はその抗原結合性断片、及びその作製方法、並びに抗体又はその抗原結合性断片の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220926BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220926BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220926BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C07K16/18
C07K16/46
C07K19/00
C12P21/08
C12N15/63 Z
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043850
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 恭平
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い熱安定性を有する抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【解決手段】それぞれ特定のアミノ酸配列からなる4種類の軽鎖フレームワーク領域を有する抗体又はその抗原結合性断片、前記特定の軽鎖フレームワーク領域を有するようアミノ酸配列を改変して前記抗体又はその抗原結合性断片を作製する方法、および、前記改変により前記抗体又はその抗原結合性断片を安定化する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又は
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有し、
ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基は、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基に置換された、抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基が、リシン残基又はイソロイシン残基に置換された、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基が、リシン残基に置換された、請求項2に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
カバット番号付けシステムによる軽鎖の59位のアミノ酸残基が、セリン残基に置換され、
カバット番号付けシステムによる軽鎖の71位のアミノ酸残基が、フェニルアラニン残基に置換された、請求項3に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
抗体がウサギ抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片を作製する方法であって、
抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を、該軽鎖フレームワーク領域が、
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなり、又は
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、
ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基となるように、
改変することを含む、方法。
【請求項7】
抗体又はその抗原結合性断片を安定化する方法であって、
抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を、該軽鎖フレームワーク領域が、
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなり、又は
それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、
ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基となるように、
改変することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体又はその抗原結合性断片、及びその作製方法、並びに抗体又はその抗原結合性断片の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウサギ由来の抗体は、抗原との親和性の高さから、診断薬及び医薬品への応用が期待されている。抗体を診断薬及び医薬品として利用するためには、抗体の熱安定性が重要な要素となる。特に、抗体を診断薬として用いる場合は、センサー又は粒子への抗体の固相化が必要となることがあるため、高い熱安定性が求められる。
【0003】
抗体の熱安定性を向上させる方法として、例えば、特許文献1に記載される技術が報告されている。特許文献1に記載される技術では、カバット法に基づく可変領域の80番目のアミノ酸残基と、カバット法に基づく定常領域の171番目のアミノ酸残基とがシステインではない抗体において、上記可変領域の80番目のアミノ酸残基と、上記定常領域の171番目のアミノ酸残基とをシステインに置換することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-30321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される技術は、特定のウサギ抗体に特有のジスルフィド結合(上記可変領域の80番目及び上記定常領域の171番目のシステイン残基間のジスルフィド結合)を他の抗体に導入する技術にすぎず、かかる技術によって得られる抗体は、必ずしも熱安定性が十分ではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、高い熱安定性を有する抗体又はその抗原結合性断片を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、軽鎖の可変領域と定常領域との間にジスルフィド結合を有する特定のウサギ抗体のフレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換することで、抗体の構造安定性が高まり、それによって抗体の熱安定性が向上することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有し、ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基は、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基に置換されている。カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基は、リシン残基又はイソロイシン残基に置換されていることが好ましく、リシン残基に置換されていることがより好ましい。カバット番号付けシステムによる軽鎖の59位のアミノ酸残基は、セリン残基に置換されていることが好ましく、カバット番号付けシステムによる軽鎖の71位のアミノ酸残基は、フェニルアラニン残基に置換されていることが好ましい。抗体はウサギ抗体であってよい。
【0009】
本発明の一側面に係る、上記抗体又はその抗原結合性断片を作製する方法は、抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を、該軽鎖フレームワーク領域が、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなり、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基となるように、改変することを含む。
【0010】
本発明の一側面に係る、抗体又はその抗原結合性断片を安定化する方法は、抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を、該軽鎖フレームワーク領域が、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなり、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基となるように、改変することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い熱安定性を有する抗体又はその抗原結合性断片が提供される。本発明により提供される抗体又はその抗原結合性断片は熱安定性が高いため、培養時における該抗体又はその抗原結合性断片の失活及び凝集、並びにそれらに起因する該抗体又はその抗原結合性断片のロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】抗体の熱安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<抗体又はその抗原結合性断片>
本発明の一側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域(FR)1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有し、ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基(K)、イソロイシン残基(I)、セリン残基(S)、又はフェニルアラニン残基(F)に置換されている。カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基は、上記軽鎖FR2における5番目のアミノ酸残基に対応し、カバット番号付けシステムによる軽鎖の59位及び71位のアミノ酸残基は、それぞれ上記軽鎖FR3における3番目及び15番目のアミノ酸残基に対応する。以下、便宜上、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基に置換された上記軽鎖フレームワーク領域を、「安定化された軽鎖フレームワーク領域」と呼ぶ。
【0014】
本側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、上記安定化された軽鎖フレームワーク領域を有することにより、上記安定化された軽鎖フレームワーク領域を有さない抗体又はその抗原結合性断片と比較して、高い熱安定性を有する。より具体的には、本側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有し、かつ、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基がトレオニン残基(T)であり、59位のアミノ酸残基がプロリン残基(P)であり、71位のアミノ酸残基がチロシン残基(Y)である、抗体又はその抗原結合性断片と比較して、高い熱安定性を有する。本明細書において、熱安定性は、凝集温度(Tagg)を指標として評価することができる。
【0015】
配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域は、軽鎖の可変領域と定常領域との間にジスルフィド結合を有する特定の野生型ウサギ抗体の軽鎖フレームワーク領域である。このフレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基はトレオニン残基であり、59位のアミノ酸残基はプロリン残基であり、71位のアミノ酸残基はチロシン残基である。
【0016】
本明細書において、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列は、具体的には、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有してよい。それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基はトレオニン残基であり、59位のアミノ酸残基はプロリン残基であり、71位のアミノ酸残基はチロシン残基であることが好ましい。
【0017】
本明細書において、可変領域(すなわち、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4からなる領域)におけるアミノ酸の位置は、Kabat E.A. et al.. (1991) Sequences of Proteins of ImmunologicalInterest. 5th Edition. NIH Publication No. 91-3242にて報告されたカバット番号付けシステムに従う。カバット番号付けシステムでは、保存されたアミノ酸を基準にしてアミノ酸の番号付が行われる。
【0018】
上記安定化された軽鎖フレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位のアミノ酸残基は、好ましくはリシン残基又はイソロイシン残基に置換されており、より好ましくはリシン残基に置換されている。
【0019】
上記安定化された軽鎖フレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の59位のアミノ酸残基は、好ましくはセリン残基に置換されている。
【0020】
上記安定化された軽鎖フレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の71位のアミノ酸残基は、好ましくはフェニルアラニン残基に置換されている。
【0021】
本側面に係る抗体において、軽鎖フレームワーク領域以外の領域のアミノ酸配列は特に限定されない。軽鎖フレームワーク領域以外の領域のアミノ酸配列は、ウサギ抗体に由来するアミノ酸配列であってもよく、ウサギ以外の動物の抗体に由来するアミノ酸配列であってもよい。いいかえれば、本側面に係る抗体は、ウサギ抗体又はキメラ抗体であってよい。本明細書において、キメラ抗体とは、ウサギ以外の動物の抗体に由来する定常領域を有する抗体を指す。ウサギ以外の動物は、例えば、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ又はウマであってよい。本側面に係る抗体は、好ましくはヒト抗体、マウス抗体、又はウサギ抗体であり、より好ましくはウサギ抗体である。本側面に係る抗体の軽鎖は、カッパ鎖又はラムダ鎖であってよく、カッパ鎖が好ましい。ウサギ抗体のカッパ鎖は、可変領域と定常領域との間にジスルフィド結合を有するため、より高い熱安定性を有する。また、本側面に係る抗体における相補性決定領域(CDR)は限定されず、該抗体は、どのようなタンパク質又はペプチドに対する抗体であってもよい。
【0022】
本側面に係る抗体において、重鎖のフレームワーク領域は、例えば、ウサギ抗体に由来してよい。重鎖のフレームワーク領域は、例えば、それぞれ配列番号5~8で示されるアミノ酸配列からなる重鎖FR1~4、又はそれぞれ配列番号5~8で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖FR1~4からなってよい。あるいは、重鎖のフレームワーク領域は、例えば、それぞれ配列番号5~8で示されるアミノ酸配列からなる重鎖FR1~4からなる重鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなってもよい。配列番号5~8で示されるアミノ酸配列からなる重鎖FR1~4からなる重鎖フレームワーク領域は、野生型ウサギ抗体の重鎖フレームワーク領域である。
【0023】
本側面に係る抗体のクラスは、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEであってよく、好ましくはIgGである。また、抗原結合性断片は、特に限定されず、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv、又はrIgGであってよい。
【0024】
<抗体及びその抗原結合性断片の作製方法>
本発明の上記側面に係る抗体及びその抗原結合性断片は、任意の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を改変して、該軽鎖フレームワーク領域を上記安定化された軽鎖フレームワーク領域にすることにより、作製することができる。すなわち、本発明の上記側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、任意の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を、該軽鎖フレームワーク領域が、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなり、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ただし、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基となるように、改変することを含む方法により作製することができる。
【0025】
上記任意の抗体は、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有する抗体であってもよく、このようなフレームワーク領域とは異なるフレームワーク領域を有する抗体であってもよい。
【0026】
上記任意の抗体が、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、又はそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域を有する抗体である場合、本発明の上記側面に係る抗体又はその抗原結合性断片は、上記任意の抗体の軽鎖フレームワーク領域において、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基を、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基に置換することを含む方法により、作製することができる。軽鎖フレームワーク領域においてこのようなアミノ酸の置換を行うことで、抗体又はその抗原結合性断片の熱安定性を向上させることができる。
【0027】
上記任意の抗体が、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域、及びそれぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域のアミノ酸配列の全長と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖フレームワーク領域とは異なる軽鎖フレームワーク領域を有する抗体である場合、該抗体又はその抗原結合性断片における軽鎖フレームワーク領域を上記安定化された軽鎖フレームワーク領域に置換することで、本発明の上記側面に係る抗体及びその抗原結合性断片を得ることができる。軽鎖フレームワーク領域を上記安定化された軽鎖フレームワーク領域に置換することで、抗体又はその抗原結合性断片の熱安定性を向上させることができる。
【0028】
上記任意の抗体又はその抗原結合性断片の、種類及び軽鎖フレームワーク領域以外の領域のアミノ酸配列は、本発明の上記側面に係る抗体又はその抗原結合性断片と同様であってよい。
【0029】
より具体的には、本発明の上記側面に係る抗体及びその抗原結合性断片は、例えば、以下の方法により作成することができる。まず、公知の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖及び重鎖の塩基配列を公知のデータベースから取得する。次いで、軽鎖の塩基配列における、フレームワーク領域に対応する部分が、上記安定化された軽鎖フレームワーク領域をコードするように、軽鎖の塩基配列を改変する。改変後の軽鎖の塩基配列を有するDNA、及び上記重鎖の塩基配列を有するDNAを合成する。あるいは、公知の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖及び重鎖をコードするDNAを合成又は購入し、PCR等を用いる公知の手法により、軽鎖DNAのフレームワーク領域に対応する部分が、上記安定化された軽鎖フレームワーク領域をコードするように、上記軽鎖DNAを改変する。これらの方法により得られた軽鎖DNA及び重鎖DNAを、同じ又は異なる公知の発現用ベクターにクローニングし、該ベクターで哺乳動物細胞、大腸菌等の任意の宿主細胞をトランスフェクション又は形質転換する。細胞内で発現された抗体又はその抗原結合性断片を、公知の方法により回収及び精製することで、本発明の上記側面に係る抗体又はその抗原結合性断片を得ることができる。また、抗原結合性断片は、上記の方法により得られた抗体を、パパイン、ペプシン等の適切なタンパク質分解酵素で分解することにより、得ることもできる。
【0030】
<抗体及びその抗原結合性断片の安定化方法>
上述のとおり、本発明によれば、上記任意の抗体又はその抗原結合性断片を安定化させることができる。しがたがって、本発明の一側面は、抗体又はその抗原結合性断片を安定化する方法を提供するといえる。抗体又はその抗原結合性断片を安定化する方法は、上記任意の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域を改変して、該軽鎖フレームワーク領域を上記安定化された軽鎖フレームワーク領域にすることを含む。上記任意の抗体又はその抗原結合性断片の軽鎖フレームワーク領域の改変の詳細は、上述したとおりである。
【実施例0031】
<抗体発現用ベクターの作成>
ウサギ抗体の軽鎖及び重鎖をコードする鋳型DNAを、PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×)(タカラバイオ株式会社製)を用いて、PCRにより増幅した。PCRの反応液の組成を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
PCR反応液を5μL分注し、2μLのCloning Enhancer(タカラバイオ株式会社製)と混合した。混合液を、37℃で15分、次いで80℃で15分加熱した。混合液(1.0μg/mL)を、pcDNA 3.4 TOPOベクター(0.6μg/mL)(ライフテクノロジーズ社)、In-Fusion(登録商標) HD Master Mix(1.0μg/mL)(タカラバイオ株式会社製)、及びMilli-Q水と混合した。得られた反応液を50℃で15分間インキュベートした後、氷上で冷却した。DH5aケミカルコンピテントセルの懸濁液20μLに1.0μLのIn-Fusion反応液を加え、氷上で30分静置した。次いで、細胞懸濁液を42℃で1分加熱した後、氷上で2分静置し、SOC培地を180μL加えて振とう培養した。培養液150μLをアンピシリン入りLBプレートに播種し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーをLB培地で一晩培養した。培養液をQiaprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)で精製した。得られたプラスミドの中から目的の軽鎖又は重鎖配列が正しく挿入されたプラスミドを選択した。
【0034】
<ウサギ抗体の発現及び精製>
ExpiFectamine(登録商標)トランスフェクションキット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて、以下のとおり、動物細胞中で抗体を発現させた。まず、ExpiCHO-S細胞(ライフテクノロジーズ社製)を8%CO雰囲気下、37℃、125rpmにて振とう培養し、培養液を用いて6.0×10細胞/mLの細胞培懸濁液を調製した。上述の軽鎖プラスミド及び重鎖プラスミドとOptiPRO mediumとを混合し、ExpiFectamine CHO Reagentを加えて5分間インキュベートした。得られたExpiFectamine CHO/プラスミドDNA混合液を上記細胞懸濁液に加え、8%CO雰囲気下、37℃、125rpmにて振とう培養した。トランスフェクションの1日後、ExpiFectamine CHO Enhancer及びExpiCHO(登録商標) Feedを添加し、5%CO雰囲気下、32℃、125rpmにて12日間振とう培養した。トランスフェクションの5日後に、再度ExpiCHO Feedを添加した。トランスフェクションの12日後に細胞培養液を回収し、4000×gで10分遠心した後、上清を回収した。上清を10000×gで5分間遠心した後、0.22μmフィルターで上清をろ過した。HiTrap(登録商標) MabSelect(登録商標) SuRe(サイティバ社(旧GEヘルスケアライフサイエンス社)製)を用いて、細胞中のウサギ抗体を精製した。
【0035】
<熱安定性試験>
精製したウサギ抗体のバッファーを、透析によりリン酸緩生理食塩水(PBS)に置換した。抗体濃度を1mg/mLに調整し、10000×g、4℃で5分間遠心した。上清を9μL分取し、タンパク質安定性評価装置UNcle(アンチェインドラブズ社製)を用いてウサギ抗体の凝集温度(Tagg)を測定することにより、ウサギ抗体の熱安定性を評価した。測定条件は以下のとおりである:
サンプル濃度:1.0mg/mL、
開始温度:25℃、
最終温度:95℃、
昇温速度:0.25℃/分。
【0036】
ウサギ抗体の情報を表2に示す。また、凝集温度の測定結果を表2及び図1に示す。表2中、LFRとは軽鎖のフレームワーク領域を示し、HFRとは重鎖のフレームワーク領域を示す。
【表2】
【0037】
図1に示されるように、それぞれ配列番号1~4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖FR1~4からなる軽鎖フレームワーク領域を有する比較例1のウサギ抗体と比較して、カバット番号付けシステムによる軽鎖の39位、59位、及び71位からなる群より選ばれる少なくとも一つの位置のアミノ酸残基が、リシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、又はフェニルアラニン残基に置換された実施例1~3のウサギ抗体は、高い熱安定性を有していた。
図1
【配列表】
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