(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143401
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】摩耗量推定システム、演算モデル生成システムおよび摩耗量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220926BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20220926BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C11/24 Z
B60C19/00 H
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043883
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
(72)【発明者】
【氏名】土本 壮至
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC33
3D131EC24U
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる摩耗量推定システム、演算モデル生成システムおよび摩耗量推定方法を提供する。
【解決手段】摩耗量推定システム100は、車両情報取得部12、タイヤ過酷度生成部13および摩耗量算出部14を備える。車両情報取得部12は、走行距離および加速度を含む情報を取得する。タイヤ過酷度生成部13は、車両情報取得部12により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成する。摩耗量算出部14は、入力された情報に基づいてタイヤ7の摩耗量を算出する演算モデル14aを有し、車両情報取得部12により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部13により生成した過酷度情報を演算モデル14aに入力してタイヤ7の摩耗量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得部と、
前記車両情報取得部により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成部と、
入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記車両情報取得部により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部により生成した過酷度情報を前記演算モデルに入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
を備えることを特徴とする摩耗量推定システム。
【請求項2】
前記タイヤ過酷度生成部は、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し、積算した値を前記過酷度情報として生成することを特徴とする請求項1に記載の摩耗量推定システム。
【請求項3】
前記タイヤ過酷度生成部は、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し、積算した値を全走行距離で除算した値を前記過酷度情報として生成することを特徴とする請求項1に記載の摩耗量推定システム。
【請求項4】
前記タイヤ過酷度生成部は、加速度の二乗和、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値、および加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値を全走行距離で除算した値を含む前記過酷度情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の摩耗量推定システム。
【請求項5】
前記摩耗量算出部は、車両におけるタイヤの位置を前記演算モデルに入力してタイヤの摩耗量を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の摩耗量推定システム。
【請求項6】
走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得部と、
前記車両情報取得部により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成部と、
入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記車両情報取得部により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部により生成した過酷度情報を前記演算モデルに入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較して前記演算モデルを学習させる学習処理部と、
を備えることを特徴とする演算モデル生成システム。
【請求項7】
走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得ステップと、
前記車両情報取得ステップにより取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成ステップと、
入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルに、前記車両情報取得ステップにより取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成ステップにより生成した過酷度情報を入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、
を備えることを特徴とする摩耗量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの摩耗量を推定する摩耗量推定システム、演算モデル生成システムおよび摩耗量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ摩耗推定システムが記載されている。このタイヤ摩耗推定システムは、第1の予測変数を生成するためにタイヤに取り付けられた少なくとも1つのセンサと、第2の予測変数に関するデータを記憶するルックアップテーブルおよびデータベースの少なくとも一方と、少なくとも1つの乗物影響を含む予測変数のうちの一方と、予測変数を受け取り、少なくとも1つのタイヤに関する推定摩耗率を生成するモデルと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ摩耗推定システムは、例えばホイール位置およびドライブトレーンを乗物影響として用いてタイヤの摩耗量を推定する。本発明者は、特許文献1に記載の乗物影響が同等の条件であっても、車両の加速度に基づいて算出されるタイヤの過酷度によってもタイヤの摩耗量が変動することから、タイヤの摩耗量の推定に改善の余地があることに本発明者は気づいた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる摩耗量推定システム、演算モデル生成システムおよび摩耗量推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の摩耗量推定システムは、車両の走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得部と、前記車両情報取得部により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成部と、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記車両情報取得部により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部により生成した過酷度情報を前記演算モデルに入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は演算モデル生成システムである。演算モデル生成システムは、走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得部と、前記車両情報取得部により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成部と、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記車両情報取得部により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部により生成した過酷度情報を前記演算モデルに入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、前記タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較して前記演算モデルを学習させる学習処理部と、を備える。
【0009】
本発明の別の態様は摩耗量推定方法である。摩耗量推定方法は、走行距離および加速度を含む情報を取得する車両情報取得ステップと、前記車両情報取得ステップにより取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成するタイヤ過酷度生成ステップと、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデルに、前記車両情報取得ステップにより取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成ステップにより生成した過酷度情報を入力してタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る摩耗量推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】車載計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】タイヤ過酷度の算出について説明するための模式図である。
【
図4】演算モデルの摩耗量推定および学習について説明するための模式図である。
【
図5】演算モデル生成システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図6】演算モデル生成システムによる演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施例による摩耗量推定の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図7を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る摩耗量推定システム100の機能構成を示すブロック図である。摩耗量推定システム100は、車両に搭載された車載計測装置70と、気象情報サーバ装置80と、車両に装着された各タイヤ7の摩耗量を推定する摩耗量推定装置10とを備える。
【0014】
摩耗量推定装置10は、例えばインターネット等の通信ネットワーク9を介して車両に搭載された車載計測装置70から車両の速度、加速度および位置情報等の車両計測情報、並びにタイヤ7で計測されるタイヤ計測情報を取得する。また摩耗量推定装置10は、気象情報サーバ装置80から気象情報を取得する。摩耗量推定装置10は、取得した情報に基づいて学習型の演算モデルによる演算を行って各タイヤ7の摩耗量を推定する。
【0015】
図2は、車載計測装置70の機能構成を示すブロック図である。車載計測装置70は、車両計測部71、タイヤ計測部72、情報取得部73および通信部74を備える。車載計測装置70における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
車両計測部71は、車両に搭載された速度メータ71a、GPS受信機71bおよび加速度センサ71cを有する。速度メータ71aは、車両の速度を計測する。GPS受信機71bは、車両の現在の位置情報(緯度、経度および高度)を計測する。加速度センサ71cは、車両の3軸方向の加速度を計測する。
【0017】
タイヤ計測部72は、温度センサ72aおよび圧力センサ72bを有する。温度センサ72aおよび圧力センサ72bは、車両に装着されたタイヤ7のエアバルブ等に配設されていたり、あるいはベルト等でホイールに強固に巻き付け固定されており、タイヤ7の温度および空気圧を計測する。温度センサ72aは、タイヤ7のインナーライナー等に配設されていてもよい。尚、加速度センサ71cがタイヤ7のインナーライナーに配設されていてもよい。
【0018】
情報取得部73は、車両計測部71で計測された車両計測情報(速度、位置情報、加速度等)、タイヤ計測部72で計測されたタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)および後述するタイヤ識別情報等を取得する。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報に含まれる各計測データに対して、計測された時刻情報、または取得した時刻情報を対応付ける。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報を各計測データに対応付けられた時刻情報とともに通信部74から摩耗量推定装置10へ送信する。
【0019】
情報取得部73は、車両の電子制御装置または車両にデジタルタコメータ等の装置が搭載されている場合には、当該装置において収集した車両の速度、加速度および位置情報等を取得するようにしてもよい。通信部74は、例えばWiFi(登録商標)等の無線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、情報取得部73が取得した車両計測情報、タイヤ計測情報および時刻情報を通信ネットワーク9を介して摩耗量推定装置10へ送信する。
【0020】
図1に戻り、気象情報サーバ装置80は各地における気象情報を提供する。気象情報サーバ装置80が提供する気象情報は、各地における降水量、積雪量、降雪量、気温および日照時間等を含む情報である。摩耗量推定装置10は、気象情報サーバ装置80から車両が走行している場所における気象情報を取得する。
【0021】
摩耗量推定装置10は、通信部11、車両情報取得部12、タイヤ過酷度生成部13、摩耗量算出部14および記憶部15を備える。摩耗量推定装置10における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0022】
通信部11は、無線または有線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、車載計測装置70の通信部74との間で通信する。また通信部11は、通信ネットワーク9を介して気象情報サーバ装置80との間で通信する。
【0023】
車両情報取得部12は、車両に搭載された車載計測装置70から送信された車両計測情報(速度、位置情報、加速度等)およびタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を取得する。車両情報取得部12は、車両計測情報に基づいて車両の走行距離を算出して取得する。
【0024】
車両情報取得部12は、車両計測情報の位置情報に基づいて走行距離を算出して取得することができる。また、車両の走行距離は、車両計測情報における速度のデータと、当該データに対応付けられた時刻のデータに基づいて算出してもよい。即ち、時系列的に並んだ速度データに、次の時点までの時間差分を乗算することによって車両の走行距離を算出することができる。車両の速度は、時系列的に並んだ位置情報に基づく車両の走行距離と位置情報の取得間隔から算出したものを使用してもよい。
【0025】
車両情報取得部12は、車両の走行距離に関する情報が、車両または車両管理用の外部装置等から提供されていれば、自ら走行距離を算出する必要はなく、車両または外部装置から走行距離に関する情報を取得してもよい。
【0026】
車両情報取得部12は、取得した走行距離を摩耗量算出部14へ出力する。車両情報取得部12は、取得したタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を摩耗量算出部14へ出力する。車両情報取得部12は、車両計測情報における加速度の情報、および車両の走行距離の情報をタイヤ過酷度生成部13へ出力する。
【0027】
車両情報取得部12は、摩耗量算出部14において車両の加速度を入力要素として用いる演算モデルに基づくタイヤの摩耗量推定を行う場合、車両計測情報における加速度のデータを摩耗量算出部14へ出力する。
【0028】
また車両情報取得部12は、車両仕様データ15a、タイヤ仕様データ15bおよびタイヤ位置データ15cのうちタイヤ7の摩耗量の推定に用いるデータを記憶部15から取得し、摩耗量算出部14へ出力する。記憶部15は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置であり、予め各種の車両およびタイヤ7の仕様に関して提供されているデータを記憶している。
【0029】
車両仕様データ15aには、例えばメーカー、車両名、車両型式、車体重量、ドライブトレーン、全長、車幅、車高、最大積載荷重などの車両の性能等に関する情報が含まれる。また、タイヤ仕様データ15bには、例えばメーカー、商品名、タイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、耐摩耗性能、タイヤ強度、静的剛性、動的剛性、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤ7の性能に関する情報が含まれる。また、タイヤ位置データ15cには、摩耗予測するタイヤの車両における位置、タイヤ識別情報や取り付けられている車軸に関する情報が含まれる。タイヤ識別情報は、各タイヤを特定するために各タイヤに付された例えば製造番号などの一連番号である。タイヤ識別情報、タイヤの配置位置および車軸に関する情報は、例えば車両へのタイヤ装着時などに作業者が入力操作することによって記憶部15に記憶させるようにするとよい。
【0030】
タイヤ過酷度生成部13は、車両の加速度の二乗和に基づいて算出される値を、タイヤ摩耗に対する過酷度情報(以下、タイヤ過酷度情報と表記する。)として生成する。タイヤ過酷度生成部13は、車両の加速度として、車両の前後方向、左右方向および上下方向の3軸方向における加速度を用い、これらの加速度の二乗和を求める。
【0031】
タイヤ過酷度生成部13は、3軸方向の加速度のうち、任意の1軸方向または2軸方向の加速度について二乗和を求めるようにしてもよい。タイヤ過酷度生成部13は、3軸方向の加速度のうち、任意の1軸方向の加速度を用いる場合、当該1軸方向の加速度の二乗を求める。タイヤ過酷度生成部13において1軸方向の加速度を用いて、その二乗を求めることも、加速度の二乗和を求めることに含まれるものである。
【0032】
タイヤ過酷度生成部13は、3軸方向の車両の加速度のうち、車両の前後方向の加速度のみを用いてもよい。また、タイヤ過酷度生成部13は、3軸方向の車両の加速度のうち、車両の前後方向の加速度と、他の2軸方向のうちの一方とを用いるようにしてもよい。
【0033】
図3は、タイヤ過酷度情報の生成について説明するための図表である。
図3に示すように、タイヤ過酷度生成部13は、加速度の二乗和(V1)、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値(V2)、および加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値を全走行距離で除算した値(V3)をタイヤ過酷度情報として生成する。タイヤ過酷度生成部13は、これらの3つの値のうち、任意の一つ、または二つの値をタイヤ過酷度情報として生成してもよい。
【0034】
タイヤ7の摩耗において車両の加速度が大きくなることによって、顕著に摩耗が進行する傾向にあることから、加速度の二乗和の値(V1)を求めてタイヤ過酷度情報の一つの指標としている。
【0035】
V2は、時々刻々変化する加速度で、車両がどれだけの距離を移動したかを考慮している。大きな加速度が発生した状態で、車両の走行距離が大きい場合に摩耗量は多くなることに対して、大きな加速度が発生した状態であっても、車両の走行距離が小さい場合には摩耗量は少ないと考えられる。
【0036】
V3は、V2の値を全走行距離で除算して得られる。摩耗量推定は、一時点における推定から次の時点における推定まで期間を空けて行うが、当該期間内における車両の全走行距離でV2の値を除算することで、各期間におけるV2の値を走行距離に関して平準化して評価する。
【0037】
摩耗量算出部14は、演算モデル14aを有し、タイヤ7の摩耗量を推定する。演算モデル14aは、入力された情報に基づいてタイヤ7の摩耗量を算出する学習型モデルである。
図4は、演算モデル14aの摩耗量推定および学習について説明するための模式図である。演算モデル14aへの入力データは、概ね車両計測情報、タイヤ計測情報、タイヤ過酷度情報およびその他情報の各系統に分類される。
【0038】
車両計測情報関連の入力データは、車両の加速度および走行距離を含む。走行距離は、上述のように車両情報取得部12において取得される。タイヤ計測情報関連の入力データは、タイヤ7の温度および空気圧を含む。尚、車両の加速度は、適宜演算モデルへの入力データとして用いられるものとする。
【0039】
タイヤ過酷度情報関連の入力データは、タイヤ過酷度生成部13において算出されたタイヤ過酷度情報である。タイヤ過酷度情報は、上述のように車両の加速度と走行距離に基づいて算出される。
【0040】
その他情報による入力データは、気象情報に基づいて推定される路面状態、気温および降水量等、車両仕様データ15aに含まれる車両の最大積載荷重、並びにタイヤ仕様データ15bに含まれるタイヤ7の耐摩耗性能等である。タイヤ7の耐摩耗性能は、例えばランボーン摩耗試験に基づき標準配合を100として各種トレッド配合の耐摩耗性能を指標化したタイヤ摩耗指標値等を用いる。また、その他情報による入力データは、タイヤ位置データ15cに含まれるタイヤ7の位置、タイヤ識別情報や車軸に関する情報である。尚、車両仕様データ15aに含まれる車両の最大積載荷重は、計算の簡易化のために用いられている。タイヤ7ごとに掛かる荷重は荷物の積み方などによって変化するものであるが、例えば車軸ごとの空車重量と最大積載荷重が車両の重心位置に掛かるものと仮定し、重心位置と車軸の距離等に基づいて重量配分してタイヤ7ごとに掛かる荷重を算出する。また、例えば車体のサスペンションに専用のセンサーを取り付けて、各車軸に掛かる荷重や、総重量、積載荷重を常時計測する構成とすることによって、最大積載荷重に拠らず、リアルタイムで変化するタイヤ7ごとに掛かる荷重を計算してもよい。
【0041】
演算モデル14aは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル14aは、例えばDNN(Deep Neural Network)や、決定木などの手法を用いて構築される。また演算モデル14aは、例えば入力情報に対する多重線形回帰モデルとし、学習によってモデル生成されるものであってもよい。
【0042】
図5は、演算モデル生成システム110の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成システム110は、摩耗量推定システム100の構成に加えて、タイヤ摩耗量計測装置60、および学習処理部21を有する演算モデル生成装置20を備える。
【0043】
タイヤ摩耗量計測装置60は、タイヤ7のトレッドに設けられた溝の深さを直接計測し、タイヤ7の摩耗量を取得する。作業者が計測器具やカメラ、目視等によって各溝の深さを計測し、タイヤ摩耗量計測装置60は、作業者が入力する計測データを記憶するものであってもよい。また、タイヤ摩耗量計測装置60は、機械的あるいは光学的な方法によって溝の深さを計測して摩耗量を記憶する専用の装置であってもよい。
【0044】
具体的には、タイヤ摩耗量計測装置60は、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測する。これにより、タイヤの幅方向または周方向での偏摩耗データもタイヤ摩耗量計測装置60に記憶される。なお、タイヤ摩耗量計測装置60は、タイヤの摩耗で直径が変わるため、走行距離とタイヤの回転数・速度の情報から計算によって溝の深さを間接的に計測してもよい。加えて、溝の深さを直接計測するものに、走行距離とタイヤの回転数・速度から計算によって予測するもの、とを併用してもよい。
【0045】
演算モデル生成装置20は、摩耗量推定装置10の各構成に加えて学習処理部21を有する。演算モデル生成装置20における摩耗量推定装置10の各構成に相当する部分は、摩耗量推定装置10のそれらと同等の機能を有するが、演算モデル14aは学習前または学習中のものとなる。
【0046】
学習処理部21は、通信部11を介してタイヤ摩耗量計測装置60からタイヤ7の摩耗量を取得する。
図4を参照し、演算モデル14aの学習過程では、入力情報に基づいて演算モデル14aによって出力データとしてのタイヤ7の摩耗量を推定し、教師データと比較する。教師データは、タイヤ摩耗量計測装置60によって計測されたタイヤ7の摩耗量を用いる。
【0047】
学習処理部21は、演算モデル14aによって推定したタイヤ7の摩耗量と教師データとを比較し、重みづけ等の演算過程における各種係数を演算モデル14aに新たに設定し、モデルの更新を繰り返すことで学習を実行する。摩耗量推定システム100は、演算モデル生成システム110によって学習済みの演算モデル14aを用いてタイヤ7の摩耗量を推定する。尚、学習処理部21は、勾配ブースティングなどの公知の学習方法を用いることができる。また演算モデル14aの検証には、ランダムデータサンプリングや交差検証などの公知の検証方法を用いることができる。
【0048】
次に摩耗量推定システム100および演算モデル生成システム110の動作を説明する。
図6は、演算モデル生成システム110による演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。車両情報取得部12は、車両計測情報およびタイヤ計測情報の取得を開始する(S1)。また、演算モデル生成装置20の車両情報取得部12は、ステップS1において、その他情報として車両仕様、タイヤ仕様、タイヤ位置、車両の最大積載荷重、およびタイヤの耐摩耗性能など必要な情報を記憶部15から読み出す。車両情報取得部12は、走行距離の算出を開始する(S2)。
【0049】
タイヤ過酷度生成部13は、車両の加速度および走行距離に基づいてタイヤ過酷度情報を生成する(S3)。タイヤ過酷度情報は、上述のように、V1、V2およびV3の各値を算出することによって生成される。
【0050】
摩耗量算出部14は、車両情報取得部12およびタイヤ過酷度生成部13からの入力データを取得し、演算モデル14aによってタイヤ7の摩耗量を算出して推定する(S4)。尚、路面状態等を演算モデル14aの入力データとする場合には、路面状態を推定する処理部(図示略)を設け、当該処理部から摩耗量算出部14へ推定した路面状態を入力する。
【0051】
学習処理部21は、演算モデル14aによって算出されたタイヤ7の摩耗量と、タイヤ摩耗量計測装置60によって計測された教師データとしてのタイヤ7の摩耗量とを比較する(S5)。学習処理部21は、ステップS7による比較結果に基づいて演算モデル14aを更新し(S7)、処理を終了する。演算モデル生成装置20は、これらの処理を繰り返すことによって、演算モデル14aを更新し、タイヤ摩耗量の推定の精度が高められる。
【0052】
摩耗量推定システム100は、演算モデル生成装置20によって生成された学習済みの演算モデル14aを利用して、タイヤ7の摩耗量を推定する。摩耗量推定システム100は、
図6に示したフローチャートにおけるステップS1からステップS4までの処理を実行することによって、タイヤ7の摩耗量を推定する。
【0053】
摩耗量推定システム100は、走行距離、および車両の加速度の二乗和に基づくタイヤ過酷度情報を演算モデル14aの入力データとして用いることにより、タイヤ7の摩耗量推定の精度を向上することができる。同様に、演算モデル生成システム110は、走行距離、および車両の加速度の二乗和に基づくタイヤ過酷度情報を演算モデル14aの入力データとして用いることで、タイヤ7の摩耗量を精度良く推定する演算モデル14aを生成することができる。
【0054】
摩耗量算出部14は、車両の走行距離が時々刻々計測されて車載の装置等から提供される場合には、車両情報取得部12による算出に代えて、提供される走行距離を用いてもよい。また、摩耗量推定システム100は、タイヤ7の偏摩耗量を出力する演算モデル14aを構築し、偏摩耗量の推定をすることも可能である。この場合、摩耗量推定システム100は、走行距離、および車両の加速度の二乗和に基づくタイヤ過酷度情報に基づいてタイヤ7の偏摩耗を推定する。摩耗量推定システム100は、車両の急発進、急減速などの加速度の変化によって生じるタイヤ7に生じる部分的な摩耗である偏摩耗を推定することができる。また、演算モデル生成システム110は、タイヤの各溝で計測された摩耗量を偏摩耗の教師データとして演算モデル14aを学習させることによって、偏摩耗量を推定する演算モデル14aを生成することができる。
【0055】
摩耗量推定システム100のタイヤ過酷度生成部13は、V1、V2およびV3の各値を算出してタイヤ過酷度情報を生成することによって、時々刻々変化する加速度で車両が走行した距離を加味して、タイヤ摩耗に寄与する過酷度情報を得ることができる。
【0056】
摩耗量推定システム100および演算モデル生成システム110において、摩耗量算出部14は、V1、V2およびV3の各値をすべて用いてもよいし、いずれか一つまたは任意の二つの組み合わせによるタイヤ過酷度情報を用いてもよい。
【0057】
またタイヤ過酷度生成部13は、車両の3軸方向における加速度のすべてを用いてもよいし、いずれか1軸方向の加速度または任意の2軸方向の加速度の組み合わせを用いてもよい。タイヤ過酷度生成部13は、車両の3軸方向における加速度のうち、車両の前後方向における加速度を含めてタイヤ過酷度情報を生成することが好ましい。
【0058】
(実施例)
実施例では、実際の車両において計測したデータに基づいて、演算モデル14aを生成してタイヤ7の摩耗量を推定し、推定精度の検証を行った。実施例において使用した車両はトラック車両17台であり、4か月に亘って取得した各月ごとにタイヤの摩耗量を計測して教師データとした。演算モデル14aは、回帰分析と決定木分析によって構築した。また、タイヤ過酷度生成部13は、車両の3軸方向の加速度を用いてタイヤ過酷度情報を生成している。
【0059】
図7は、実施例による摩耗量推定の結果を示す図表である。
図7に示すように、摩耗量の推定を5つのケースで行っている。ケースC1では、摩耗量算出部14は、GPS受信機による位置情報に基づいて算出した走行距離に基づいてタイヤ7の摩耗量を推定している。ケースC2では、摩耗量算出部14は、走行距離に加えて、タイヤ過酷度生成部13で生成したV1の値をタイヤ過酷度情報として用い、タイヤ摩耗量を推定している。
【0060】
ケースC3では、摩耗量算出部14は、走行距離に加えて、タイヤ過酷度生成部13で生成したV2の値をタイヤ過酷度情報として用い、タイヤ摩耗量を推定している。ケースC4では、摩耗量算出部14は、走行距離に加えて、タイヤ過酷度生成部13で生成したV3の値をタイヤ過酷度情報として用い、タイヤ摩耗量を推定している。ケースC5では、摩耗量算出部14は、走行距離に加えて、タイヤ過酷度生成部13で生成したV1,V2およびV3の値をタイヤ過酷度情報として用い、タイヤ摩耗量を推定している。
【0061】
各ケースにおいて、実測した摩耗量と、演算モデル14aによって予測した摩耗量をプロットして求めたRMSE(二乗平均平方根誤差)は、回帰分析よりも決定木分析で良好となった。また、ケースC1に対して、ケースC2の場合に走行距離に加えて、V1の値をタイヤ過酷度情報として用いることで、少なくとも回帰分析においては推定精度が向上する結果が得られた。また、ケースC3、C4およびC5でも推定精度が向上する結果となった。
【0062】
次に各実施形態に係る摩耗量推定システム100、および演算モデル生成システム110の特徴について説明する。
摩耗量推定システム100は、車両情報取得部12、タイヤ過酷度生成部13および摩耗量算出部14を備える。車両情報取得部12は、走行距離および加速度を含む情報を取得する。タイヤ過酷度生成部13は、車両情報取得部12により取得した加速度の二乗和(V1)により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成する。摩耗量算出部14は、入力された情報に基づいてタイヤ7の摩耗量を算出する演算モデル14aを有し、車両情報取得部12により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部13により生成した過酷度情報を演算モデル14aに入力してタイヤ7の摩耗量を算出する。これにより、摩耗量推定システム100は、車両の加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として用いて、摩耗量推定の精度を向上することができる。
【0063】
またタイヤ過酷度生成部13は、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し、積算した値(V2)を過酷度情報として生成する。これにより、摩耗量推定システム100は、時々刻々変化する加速度で車両が走行した距離を加味してタイヤ過酷度情報を生成し、摩耗量推定の精度を向上することができる。
【0064】
またタイヤ過酷度生成部13は、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し、積算した値(V2)を全走行距離で除算した値(V3)を過酷度情報として生成する。これにより、摩耗量推定システム100は、摩耗量推定の各期間におけるV2の値を走行距離に関して平準化して用いることができる。
【0065】
またタイヤ過酷度生成部13は、加速度の二乗和(V1)、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値(V2)、および加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値を全走行距離で除算した値(V3)を含む過酷度情報を生成する。これにより、摩耗量推定システム100は、タイヤ過酷度情報としてV1、V2およびV3を用いて摩耗量推定の精度を向上することができる。
【0066】
摩耗量算出部14は、車両におけるタイヤの位置を演算モデル14aに入力してタイヤ7の摩耗量を算出する。これにより、摩耗量推定システム100は、車両におけるタイヤ7の位置に応じたタイヤ7の摩耗量を推定することができる。
【0067】
演算モデル生成システム110は、車両情報取得部12、タイヤ過酷度生成部13、摩耗量算出部14および学習処理部21を備える。車両情報取得部12は、走行距離および加速度を含む情報を取得する。タイヤ過酷度生成部13は、車両情報取得部12により取得した加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成する。摩耗量算出部14は、入力された情報に基づいてタイヤ7の摩耗量を算出する演算モデル14aを有し、車両情報取得部12により取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成部13により生成した過酷度情報を演算モデル14aに入力してタイヤの摩耗量を算出する。学習処理部21は、タイヤ7で計測される摩耗量と摩耗量算出部14により算出された摩耗量とを比較して演算モデル14aを学習させる。これにより、演算モデル生成システム110は、タイヤ7の摩耗量を精度良く推定する演算モデル14aを生成することができる。
【0068】
摩耗量推定方法は、車両情報取得ステップ、タイヤ過酷度生成ステップおよび摩耗量算出ステップを備える。車両情報取得ステップは、走行距離および加速度を含む情報を取得する。タイヤ過酷度生成ステップは、車両情報取得ステップにより取得した加速度の二乗和(V1)により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として生成する。摩耗量算出ステップは、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する演算モデル14aに、車両情報取得ステップにより取得した走行距離、およびタイヤ過酷度生成ステップにより生成した過酷度情報を入力してタイヤの摩耗量を算出する。この方法によれば、車両の加速度の二乗和により算出される値をタイヤ摩耗に対する過酷度情報として用いて、摩耗量推定の精度を向上することができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0070】
7 タイヤ、12 車両情報取得部、 13 タイヤ過酷度生成部、
14 摩耗量算出部、 14a 演算モデル、 21 学習処理部、
100 摩耗量推定システム、 110 演算モデル生成システム。