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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143443
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】直流遮断器
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/087 20060101AFI20220926BHJP
   H02H 3/20 20060101ALI20220926BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20220926BHJP
   H01H 33/59 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H02H3/087
H02H3/20 D
H02J1/00 301D
H01H33/59 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043942
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】麻植 実
(72)【発明者】
【氏名】高野 知宏
【テーマコード(参考)】
5G004
5G028
5G165
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004AB01
5G004DC14
5G028FB02
5G028FC02
5G165BB01
5G165BB04
5G165CA01
5G165DA07
5G165EA01
5G165LA01
5G165LA02
5G165NA01
5G165NA06
(57)【要約】
【課題】1つの直流遮断器によって、直流母線の事故電流に対処する。
【解決手段】直流遮断器(1)の制御部(30)は、半導体遮断部(10)に流れる電流値をAD変換して第1デジタル電流値および第2デジタル電流値をそれぞれ導出する電流用第1ADコンバータおよび電流用第2ADコンバータと、PNクランパ(20)のコンデンサに印加される電圧値をAD変換してデジタル電圧値を導出する電圧用ADコンバータと、を備える。電流用第1ADコンバータは、電流用第2ADコンバータよりも高いAD変換速度および低い分解能を有する。制御部(30)は、第1デジタル電流値が事故電流閾値以上である場合、半導体遮断部(10)の主スイッチ素子を遮断させ、デジタル電圧値がバイパス電圧閾値以上である場合、PNクランパ(20)のバイパス用スイッチ素子を導通させ、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値未満である場合、第2デジタル電流値に応じて、PNクランパ(20)のサージエネルギー消費回路を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本線と帰線とによって構成された直流母線の前段に配置される直流遮断器であって、
上記本線と直列に接続された過電流遮断部と、
上記本線に接続された第1節点と上記帰線に接続された第2節点とに接続された過電圧保護回路と、
上記過電流遮断部および上記過電圧保護回路を制御する制御部と、を備えており、
上記過電圧保護回路は、バイパス用スイッチ素子と、上記バイパス用スイッチ素子と並列に接続されたコンデンサと、を備えており、
上記過電流遮断部は、主スイッチ素子と、当該主スイッチ素子と並列に接続されたサージエネルギー消費回路と、を備えており、
上記直流遮断器は、
上記過電流遮断部に流れる電流値をアナログ値として検出する電流センサと、
上記コンデンサに印加される電圧値をアナログ値として検出する電圧センサと、をさらに備えており、
上記制御部は、
上記電流センサによって検出された上記電流値をAD変換することにより第1デジタル電流値を導出する電流用第1ADコンバータと、
上記電流センサによって検出された上記電流値をAD変換することにより第2デジタル電流値を導出する電流用第2ADコンバータと、
上記電圧センサによって検出された上記電圧値をAD変換することによりデジタル電圧値を導出する電圧用ADコンバータと、を備えており、
上記電流用第1ADコンバータは、上記電流用第2ADコンバータよりも高いAD変換速度を有しており、
上記電流用第2ADコンバータは、上記電流用第1ADコンバータよりも高い分解能を有しており、
上記制御部は、
上記第1デジタル電流値が事故電流閾値以上である場合、上記主スイッチ素子を遮断させ、
上記デジタル電圧値がバイパス電圧閾値以上である場合、上記バイパス用スイッチ素子を導通させ、
上記第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値以上である場合、上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値よりも小さい導通停止電流閾値を下回るまで、上記サージエネルギー消費回路を連続的に導通させ、
上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値未満である場合、上記第2デジタル電流値に応じて、上記サージエネルギー消費回路を断続的に導通させる、直流遮断器。
【請求項2】
上記コンデンサを、第1コンデンサと称し、
上記過電圧保護回路は、上記バイパス用スイッチ素子と直列に接続された第2コンデンサをさらに備えている、請求項1に記載の直流遮断器。
【請求項3】
上記コンデンサを、第1コンデンサと称し、
上記第1コンデンサに印加される上記電圧値を、第1電圧値と称し、
上記電圧センサを、第1電圧センサと称し、
上記電圧用ADコンバータを、電圧用第1ADコンバータと称し、
上記電圧用第1ADコンバータによって導出された上記デジタル電圧値を、第1デジタル電圧値と称し、
上記第1デジタル電圧値に対応する上記バイパス電圧閾値を、第1バイパス電圧閾値と称し、
上記直流遮断器は、上記主スイッチ素子に印加される電圧値である第2電圧値をアナログ値として検出する第2電圧センサをさらに備えており、
上記制御部は、上記第2電圧センサによって検出された上記第2電圧値をAD変換することにより第2デジタル電圧値を導出する第2電圧用ADコンバータをさらに備えており、
上記制御部は、上記第2デジタル電圧値が第2バイパス電圧閾値以上である場合、上記バイパス用スイッチ素子を導通させる、請求項1または2に記載の直流遮断器。
【請求項4】
上記サージエネルギー消費回路は、副スイッチ素子と抵抗素子とが直列に接続された、n個(nは、1以上の整数)のエネルギー消費ユニットを備えており、
n個の上記エネルギー消費ユニットのそれぞれは、互いに並列に接続されており、
上記制御部は、上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値未満である場合、
上記第2デジタル電流値に応じて、n個の上記副スイッチ素子のそれぞれの導通状態を制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載の直流遮断器。
【請求項5】
nは2以上である、請求項4に記載の直流遮断器。
【請求項6】
上記制御部は、上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値未満である場合、
上記第2デジタル電流値に応じて、n個の上記副スイッチ素子のそれぞれのデューティ比を設定し、
上記デューティ比に従って、n個の上記副スイッチ素子のそれぞれの導通状態を制御する、請求項4または5に記載の直流遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、直流遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
直流母線(直流線路)の事故時に生じる電気的な異常に対処するために、直流遮断器に対する様々な技術が提案されている。一例として、非特許文献1では、直流母線の前段および後段に1対の直流遮断器を設けた直流送電システムが提案されている。
【0003】
非特許文献1では、直流母線の前段に位置する直流遮断器(1次側の直流遮断器)が直流遮断器Aと、当該直流母線の後段に位置する直流遮断器(2次側の直流遮断器)が、直流遮断器Bと、それぞれ称されている。非特許文献1では、直流遮断器AをOFFする(遮断する,開放させる)とともに、直流遮断器BをONする(導通させる)ことにより、事故電流をバイパスさせるという手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】佐野憲一郎、高崎昌洋,半導体直流遮断器により直流線路事故を除去可能とした自励式電圧系変換器による直流送電システム,電力中央研究所 研究報告書,研究報告:R11018,2012年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、従来技術では、直流線路の事故電流に対処するために、2つの直流遮断器(直流遮断器A・B)を設ける必要がある。このため、直流送電システムの構成が複雑化しうる。上記の点に鑑み、本発明の一態様は、1つの直流遮断器によって、直流母線の事故電流に対処することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る直流遮断器は、本線と帰線とによって構成された直流母線の前段に配置される直流遮断器であって、上記本線と直列に接続された過電流遮断部と、上記本線に接続された第1節点と上記帰線に接続された第2節点とに接続された過電圧保護回路と、上記過電流遮断部および上記過電圧保護回路を制御する制御部と、を備えており、上記過電圧保護回路は、バイパス用スイッチ素子と、上記バイパス用スイッチ素子と並列に接続されたコンデンサと、を備えており、上記過電流遮断部は、主スイッチ素子と、当該主スイッチ素子と並列に接続されたサージエネルギー消費回路と、を備えており、上記直流遮断器は、上記過電流遮断部に流れる電流値をアナログ値として検出する電流センサと、上記コンデンサに印加される電圧値をアナログ値として検出する電圧センサと、をさらに備えており、上記制御部は、上記電流センサによって検出された上記電流値をAD変換することにより第1デジタル電流値を導出する電流用第1ADコンバータと、上記電流センサによって検出された上記電流値をAD変換することにより第2デジタル電流値を導出する電流用第2ADコンバータと、上記電圧センサによって検出された上記電圧値をAD変換することによりデジタル電圧値を導出する電圧用ADコンバータと、を備えており、上記電流用第1ADコンバータは、上記電流用第2ADコンバータよりも高いAD変換速度を有しており、上記電流用第2ADコンバータは、上記電流用第1ADコンバータよりも高い分解能を有しており、上記制御部は、上記第1デジタル電流値が事故電流閾値以上である場合、上記主スイッチ素子を遮断させ、上記デジタル電圧値がバイパス電圧閾値以上である場合、上記バイパス用スイッチ素子を導通させ、上記第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値以上である場合、上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値よりも小さい導通停止電流閾値を下回るまで、上記サージエネルギー消費回路を連続的に導通させ、上記第1デジタル電流値が上記動作モード判定電流閾値未満である場合、上記第2デジタル電流値に応じて、上記サージエネルギー消費回路を断続的に導通させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、1つの直流遮断器によって、直流線路の事故電流に対処することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1の直流遮断器を有する直流送電システムの概要を示す図である。
図2】直流遮断器におけるPNクランパの構成を例示する図である。
図3】直流遮断器における半導体遮断部の構成を例示する図である。
図4】直流遮断器における制御部の構成を例示する図である。
図5】母線電流の時間変化に応じた各電圧の時間変化と各スイッチ素子の動作の一例を示す図である。
図6】母線電流の時間変化に応じた各電圧の時間変化と各スイッチ素子の動作の一例を示す図である。
図7】チョッパ制御モードにおけるSW1およびSW2の制御手法の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1の直流送電システム1000(特に、直流遮断器1)について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、以降の各実施形態では同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。
【0010】
本明細書において述べる各構成および各数値は、特に明示されない限り、単なる一例であることに留意されたい。従って、特に明示されない限り、各部材の位置関係は、各図の例に限定されない。本明細書では、2つの数AおよびBに関する「A~B」という記載は、特に明示されない限り、「A以上かつB以下」を意味する。また、本明細書における「接続されている」という文言は、特に明示されない限り、「電気的に接続されている」ことを意味する。
【0011】
(直流送電システム1000の概要)
図1は、直流送電システム1000の概要を示す図である。直流送電システム1000は、P線(本線)とN線(帰線)とによって構成された直流母線を介して、1次側から2次側へと直流電力を送電する。直流送電システム1000は、直流遮断器1を備える。
【0012】
図1に示されるように、直流遮断器1は、直流母線の前段に配置されている。すなわち、直流遮断器1は、非特許文献1の直流遮断器Aと同様の位置に配置されている。このように、直流遮断器1は、直流送電システム1000の1次側に配置されている。図1に示される通り、直流送電システム1000は、直流母線の後段(すなわち2次側)には直流遮断器を有していない。このように、直流送電システム1000では、非特許文献1の直流送電システムとは異なり、直流遮断器Bに対応する直流遮断器は設けられていない。
【0013】
直流遮断器1は、端子TA1・TA2・TB1・TB2、半導体遮断部10、PNクランパ20、制御部30、および電流センサ410を備える。また、後述の図2図3に示す通り、直流遮断器1は、電圧センサ420・430をさらに備える。以下では、例えば端子TA1を、単にTA1と略記する。その他の部材(要素)についても、適宜同様に略記する。また、以下では、例えば後述する電流Iinの電流値についても、Iinと表記する。その他の信号値についても、同様に略記する。
【0014】
TA1およびTA2は、直流遮断器1の入力側の端子である。一例として、直流遮断器1は、TA1およびTA2を介して、不図示の電力変換器(例:AC/DCコンバータ)と接続されている。TB1およびTB2は、直流遮断器1の出力側の端子である。直流遮断器1は、TB1およびTB2を介して、直流母線と接続されている。より具体的には、直流遮断器1のP線において、半導体遮断部10は、TB1を介して、直流母線のP線と直列に接続されている。また、直流遮断器1のN線は、TB2を介して、直流母線のN線と接続されている。
【0015】
図1に示される通り、TB1は、半導体遮断部10を介して、TA1と接続されている。そして、TB2は、TA2と同電位であるように、TA2と接続されている。図1の節点N1およびN2はそれぞれ、直流遮断器1のP線およびN線における節点である。N1およびN2はそれぞれ、第1節点および第2節点とも称される。N1は、TA1と同電位の節点である。N2は、TB2と同電位の節点である。PNクランパ20は、N1とN2とに接続されている。N1は、半導体遮断部10およびTB1を介して、直流母線のP線と接続されている。N2は、TB2を介して、直流母線のN線と接続されている。直流送電システム1000では、後述するSWmがONされている場合、PNクランパ20には、PN母線電圧(直流母線のP線-N線間の電圧)と等しい電圧が印加されると近似的に見なすことができる。以下、PN母線電圧を、Vpnと表記する。
【0016】
制御部30は、直流遮断器1の各部を統括的に制御する。特に、実施形態1では、制御部30は、電流FB(feedback,フィードバック)制御および電圧FB制御によって、半導体遮断部10およびPNクランパ20を制御する。制御部30の具体的な構成および動作については、後述する。
【0017】
電流センサ410は、直流遮断器1に流れる(より具体的には、直流遮断器1のP線に流れる)電流Iinを検出する。より具体的には、電流センサ410は、Iinをアナログ値として検出するアナログ電流センサである。電流センサ410は、検出したIinを、制御部30に供給する。直流送電システム1000では、Iinは、直流母線に流れる電流と等しいと見なすことができる。このため、Iinは、母線電流と称されてもよい。
【0018】
(PNクランパ20の構成)
図2は、PNクランパ20の構成を例示する図である。PNクランパ20は、直流母線を過電圧から保護するための回路である。PNクランパ20は、本発明の一態様に係る過電圧保護回路の一例である。PNクランパ20は、端子TC1・TC2、コンデンサCm・Cpn、抵抗素子Rc、スイッチ素子SWp、およびダイオードDcを備える。TC1は、N1に接続されている。TC2は、N2に接続されている。本開示の一態様に係るスイッチ素子はいずれも、公知の半導体スイッチ素子であってよい。
【0019】
SWpのON/OFFは、制御部30によって制御される。後述する通り、SWpをONすることにより、事故電流をバイパスさせることができる。このことから、SWpは、バイパス用スイッチ素子と称されてもよい。Cpnは、SWpと並列に接続されたコンデンサである。Cpnは、第1コンデンサと称されてもよい。Cmは、SWpと直列に接続されたコンデンサである。Cmは、第2コンデンサと称されてもよい。PNクランパ20において、DcとRcとCpnとは、PNクランパ20におけるスナバ回路を形成するように接続されている。
【0020】
電圧センサ420は、Cpnに印加される電圧(以下、電圧Vcpnと表記する)を検出する。より具体的には、電圧センサ420は、Vcpnをアナログ値として検出するアナログ電圧センサである。Vcpnは、Vpnに対応する電圧の一例である。電圧センサ420は、検出したVcpnを、制御部30に供給する。図3の電圧センサ430との区別のため、電圧センサ420は、第1電圧センサと称されてもよい。このことから、Vcpnは、第1電圧(あるいは、第1電圧値)と称されてもよい。なお、PNクランパ20における各素子のパラメータが既知である場合、電圧センサ420によって検出されたVcpnと当該パラメータとを用いて、制御部30においてVpnを算出することもできる。
【0021】
(半導体遮断部10の構成)
図3は、半導体遮断部10の構成を例示する図である。半導体遮断部10は、直流母線に流れる過電流を遮断するための回路である。半導体遮断部10は、本発明の一態様に係る過電流遮断部の一例である。半導体遮断部10は、端子TD1・TD2、スイッチ素子SWm、コンデンサCsw、ダイオードDsw、およびSWクランパ(スイッチングクランパ)110を備える。TD1は、N1に接続されている。TD2は、TB1に接続されている。
【0022】
SWmは、直流母線のP線と直列に接続されている。SWmのON/OFFは、制御部30によって制御される。このため、SWmをOFFすることにより、直流母線に流れる過電流を遮断できる。このことから、SWmは、主スイッチ素子と称されてもよい。
【0023】
CswおよびSWクランパ110はそれぞれ、SWmと並列に接続されている。DswとCswとSWクランパ110とは、半導体遮断部10におけるスナバ回路を形成するように接続されている。
【0024】
SWクランパ110は、直流母線の異常電流(例:短絡電流)発生時におけるサージエネルギーを消費するための回路である。SWクランパ110は、本開示の一態様に係るサージエネルギー消費回路の一例である。SWクランパ110は、スイッチ素子SW1・SW2および抵抗素子R1・R2を備える。SW1・SW2は、副スイッチ素子と称されてもよい。
【0025】
SWクランパ110は、副スイッチ素子と抵抗素子とが直列に接続された、n個のエネルギー消費ユニットを備えていてよい。nは、1以上の整数である。但し、後述する通り、nは2以上であることが好ましい。そこで、図3では、n=2の場合が例示されている。図3の例におけるSW1・SW2およびR1・R2はそれぞれ、副スイッチ素子および抵抗素子の一例である。
【0026】
図3の例において、互いに直列に接続されているSW1とR1とによって構成されたエネルギー消費ユニットを、第1エネルギー消費ユニット111と称する。同様に、互いに直列に接続されているSW2とR2とによって構成されたエネルギー消費ユニットを、第2エネルギー消費ユニット112と称する。第1エネルギー消費ユニット111と第2エネルギー消費ユニット112とは、互いに並列に接続されている。SWクランパ110におけるn個の副スイッチ素子のそれぞれ(図3の例では、SW1およびSW2のそれぞれ)のONのON/OFFは、制御部30によって制御される。
【0027】
電圧センサ430は、SWmに印加される電圧(以下、電圧Vswmと表記する)を検出する。より具体的には、電圧センサ430は、Vswmをアナログ値として検出するアナログ電圧センサである。電圧センサ430は、検出したVswmを、制御部30に供給する。図2の電圧センサ420との区別のため、電圧センサ430は、第2電圧センサと称されてもよい。このことから、Vswmは、第2電圧(あるいは、第2電圧値)と称されてもよい。
【0028】
(制御部30の構成)
図4は、制御部30の構成を例示する図である。制御部30は、端子TEin1~TEin3、端子TEout、AD(Analogue/Digital)コンバータ311~314、増幅器320、ホールド回路330、マイコン(マイクロコンピュータ)340、およびOR回路350を備える。図4の例における増幅器320は、2入力1出力のアナログ差動増幅器である。図4の例におけるOR回路350は、2入力1出力の論理ゲート(論理回路)である。説明の便宜上、OR回路350の2つの入力端子を、第1入力端子および第2入力端子と称する。
【0029】
図4では、ADコンバータ311~314のそれぞれの区別のため、(i)ADコンバータ311はAD1と、(ii)ADコンバータ312はAD2と、(iii)ADコンバータ313はAD3と、(iv)ADコンバータ314はAD4と、それぞれ表記されている。AD1~AD4はそれぞれ、第1ADコンバータ~第4ADコンバータと称されてもよい。
【0030】
ADコンバータ311は、ADコンバータ312~314に比べて、より高いAD変換速度(以下、単に変換速度と略記する)を有している。但し、ADコンバータ311は、ADコンバータ312~314に比べて、より低い分解能を有している。このため、ADコンバータ311は、ADコンバータ312~314に比べて、より高速にデジタルデータを出力できる。
【0031】
一例として、ADコンバータ311は、8ビットの分解能を有する一括出力型のIC(Integrated Circuit,集積回路)によって実現されてよい。他方、ADコンバータ312~314はそれぞれ、12~16ビットの分解能を有する順次出力型のICによって実現されてよい。
【0032】
この場合、ADコンバータ311は、ADコンバータ312~314に比べて、(i)12~16倍の変換速度を有しており、かつ、(ii)1/64~1/16倍の分解能を有している。言い換えれば、ADコンバータ312~314は、ADコンバータ311に比べて、(i)1/16~1/12倍の変換速度を有しており、かつ、(ii)16~64倍の分解能を有している。以上のことから、ADコンバータ311は、高速型のADコンバータ(あるいは、高速・低分解能型のADコンバータ)と称されてもよい。他方、ADコンバータ312~314は、高分解能型のADコンバータ(あるいは、高分解能型・低速型のADコンバータ)と称されてもよい。
【0033】
TEin1~TEin3は、制御部30における入力端子である。TEin1は、電流センサ410と接続されている。そして、ADコンバータ311・312はそれぞれ、TEin1と接続されている。従って、ADコンバータ311・312はそれぞれ、TEin1を介して、アナログ値としてのIinを取得する。ADコンバータ311・312は、Iinに基づく電流FBのためのADコンバータである。
【0034】
ADコンバータ311は、アナログ値としてのIinをAD変換することにより、デジタル電流値としてのIinを導出する。ADコンバータ311によるAD変換によって得られたデジタル電流値は、第1デジタル電流値と称されてもよい。ADコンバータ311は、電流用第1ADコンバータと称されてもよい。ADコンバータ311は、第1デジタル電流値を、マイコン340に供給する。
【0035】
ADコンバータ312は、アナログ値としてのIinをAD変換することにより、デジタル電流値としてのIinを導出する。ADコンバータ312によるAD変換によって得られたデジタル電流値は、第2デジタル電流値と称されてもよい。ADコンバータ312は、電流用第2ADコンバータと称されてもよい。ADコンバータ312は、第2デジタル電流値を、マイコン340に供給する。
【0036】
なお、実施形態1では、ADコンバータ311の変換値のフルスケール(以下、単にフルスケールと称する)は、ADコンバータ312のフルスケールに比べて大きく設定されている。一例として、ADコンバータ311のフルスケールは、直流遮断器1の定格電流(以下、Irと表記する)の10~20倍程度に設定されてよい。この場合、ADコンバータ312のフルスケールは、Irの5~10倍程度に設定されてよい。
【0037】
TEin2は、電圧センサ420と接続されている。そして、ADコンバータ314は、TEin2と接続されている。従って、ADコンバータ314は、TEin2を介して、アナログ値としてのVcpnを取得する。ADコンバータ314は、Vcpnに基づく電圧FBのためのADコンバータである。
【0038】
ADコンバータ314は、アナログ値としてのVcpnをAD変換することにより、デジタル電圧値としてのVcpnを導出する。ADコンバータ314によるAD変換によって得られたデジタル電圧値は、第1デジタル電圧値と称されてもよい。ADコンバータ314は、電圧用第1ADコンバータと称されてもよい。ADコンバータ314は、第1デジタル電圧値を、マイコン340に供給する。
【0039】
TEin3は、電圧センサ430と接続されている。そして、ADコンバータ313は、TEin3と接続されている。従って、ADコンバータ314は、TEin3を介して、アナログ値としてのVswmを取得する。ADコンバータ314は、Vswmに基づく電圧FBのためのADコンバータである。
【0040】
ADコンバータ314は、アナログ値としてのVswmをAD変換することにより、デジタル電圧値としてのVswmを導出する。ADコンバータ314によるAD変換によって得られたデジタル電圧値は、第2デジタル電圧値と称されてもよい。ADコンバータ314は、電圧用第2ADコンバータと称されてもよい。ADコンバータ314は、第2デジタル電圧値を、マイコン340に供給する。
【0041】
増幅器320の+端子は、TEin3と接続されている。従って、増幅器320の+端子には、TEin3を介して、電圧センサ430からVswmが供給される。増幅器320の-端子は、参照電圧ref-aが入力されている。
【0042】
増幅器320は、Vswmとref-aとの差を増幅した信号である作動増幅信号を生成する。そして、増幅器320は、当該作動増幅信号をホールド回路330に供給する。Vswmがref-aよりも大きい場合、作動増幅信号の符号は正となる。他方、Vswmがref-aよりも小さい場合、作動増幅信号の符号は負となる。また、Vswmがref-aと等しい場合、作動増幅信号の信号値は0となる。このため、ref-aは、Vswmの基準値として用いられてよい。
【0043】
ホールド回路330は、増幅器320から、アナログ信号としての作動増幅信号を取得する。ホールド回路330は、当該作動増幅信号の信号値を、所定の一定時間に亘り保持することにより、当該作動増幅信号を、デジタル信号に変換する。以下、ホールド回路330から出力されるデジタル信号としての作動増幅信号を、デジタル作動増幅信号と称する。
【0044】
マイコン340は、(i)ADコンバータ311から第1デジタル電流値を、(ii)ADコンバータ312から第2デジタル電流値を、(iii)ADコンバータ314から第1デジタル電圧値を、(iv)ADコンバータ313から第2デジタル電圧値を、それぞれ取得する。マイコン340は、第1デジタル電流値、第2デジタル電流値、第1デジタル電圧値、および第2デジタル電圧値に基づき、デジタル信号としての制御信号を生成する。
【0045】
OR回路350において、(i)第1入力端子にはマイコン340から制御信号が、(ii)第2入力端子にはマイコン340からデジタル作動増幅信号が、それぞれ入力される。OR回路350は、制御信号とデジタル作動増幅信号との論理和を、出力制御信号として生成する。OR回路350は、出力制御信号を、TEoutに出力する。TEoutは、制御部30の出力端子である。このように、OR回路350は、TEoutを介して、出力制御信号を制御部30の外部へと出力する。
【0046】
出力制御信号は、直流遮断器1の各スイッチ素子のON/OFFを制御するための信号を総称的に表す。一例として、出力制御信号は、各スイッチ素子のゲートを駆動するゲート駆動信号であってよい。制御部30は、所望のタイミングで各スイッチ素子をON/OFFできるように、出力制御信号を生成する。より具体的には、マイコン340は、所望の出力制御信号が得られるように、第1デジタル電流値、第2デジタル電流値、第1デジタル電圧値、および第2デジタル電圧値に基づき、制御信号を生成する。このように、直流遮断器1では、電流FBおよび電圧FBによって、直流遮断器1の各スイッチ素子のON/OFFが制御される。
【0047】
(直流遮断器1の動作の一例)
図5は、Iinの時間変化に応じた各電圧の時間変化と各スイッチ素子の動作の一例を示すタイミングチャートである。図5の例では、時刻t1において直流母線の短絡事故が発生したものとする。このため、図5の例では、t1において、Vpnが0に低下している。なお、短絡事故の発生前には、(i)SWmはONに、(ii)SWp、SW1、およびSW2はOFFに、それぞれ設定されている。
【0048】
なお、図2の回路構成によれば、Vcpnは、常にVpn以上となる。また、Vpnが0でない場合、VcpnはVpnと概ね等価である。このため、Vpnが0でない場合、Vcpnは、Vpnの近似値であると理解されてよい。
【0049】
多くの場合、短絡事故の発生後、Iinは増加する。特に、Iinが過大となる場合、直流送電システム1000において、直流遮断器1の前段および後段に配置される各装置の保護のために、このような過大なIin(事故電流)は速やかに遮断されることが好ましい。
【0050】
そこで、実施形態1では、制御部30は、第1デジタル電流値(ADコンバータ311によって導出されたデジタル値としてのIin)に基づく電流FBによって、半導体遮断部10のSWmを制御する。上述の通り、ADコンバータ311は、高速型のADコンバータである。それゆえ、ADコンバータ311は、第1デジタル電流値を高速に出力できる。このため、第1デジタル電流値に基づく電流FBによれば、SWmを速やかにOFFすることができるので、事故電流を速やかに遮断できる。
【0051】
実施形態1では、制御部30は、第1デジタル電流値を所定の事故電流閾値(図5では不図示)と比較する。事故電流閾値は、異常電流閾値と称されてもよい。事故電流閾値(および、以下に述べるその他の閾値)は、予めマイコン340において設定されていてよい。制御部30は、第1デジタル電流値が事故電流閾値以上である場合、SWmをOFFする。図5の例では、時刻t2において、制御部30によって、SWmがONからOFFへと切り替えられている。
【0052】
SWmがOFFされたことを契機として、Iinは増加から減少へと転じる。すなわち、t2において、直流遮断器1の減流動作が開始する。図5に示される通り、時刻t3において、Iinは0となる。Iinが0となったことにより、直流遮断器1の減流動作は終了する。このように、t2~t3の期間に亘り、直流遮断器1による減流動作が行われる。t2~t3の期間は、直流遮断器1による減流動作期間と称されてもよい。
【0053】
加えて、t2において、制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値(図5では不図示)以上であるか否かを判定する。図5では、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値以上である場合が例示されている。制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値である場合、第1デジタル電流値がON停止電流閾値(導通停止電流閾値)を下回るまで、SWクランパ110(より具体的には、SWクランパ110内の副スイッチ素子のそれぞれ)を連続的にONする。なお、ON停止電流閾値は、動作モード判定電流閾値よりも小さく設定されている。図5のIthは、ON停止電流閾値の一例である。
【0054】
図5の例では、時刻tm3において、第1デジタル電流値がON停止電流閾値と等しくなる。図5の例では、t2において、制御部30によって、SW1およびSW2は、OFFからONへと切り替えられている。そして、t2~tm3の期間に亘り、制御部30は、SW1およびSW2をON状態のまま維持する。そして、tm3の直後、制御部30は、SW1およびSW2を、ONからOFFへと切り替える。図5の例におけるtm3は、後述する時刻tm1およびtm2よりも後の時刻である。その後、t3に至るまで、制御部30は、SW1およびSW2を、OFF状態のまま維持する。
【0055】
直流遮断器1による減流動作期間に亘り、SWクランパ110内の各副スイッチ素子(例:SW1およびSW2)をこのように制御するモードは、2値制御モードと称されてもよい。以上の通り、制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード電流判定閾値以上である場合、SWクランパ110を2値制御モードによって制御してよい。
【0056】
2値制御モードによれば、SWクランパ110(より具体的には、SWクランパ110の各エネルギー消費ユニット)によって、サージエネルギーを速やかに消費できる。それゆえ、Iinを速やかに減衰させることができる。Iinがある程度大きい場合、Iinを速やかに減衰させることが好ましいと言える。そこで、実施形態1では、上述の通り、t2において第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値以上である場合に、SWクランパ110が2値制御モードによって駆動される。
【0057】
ところで、図5に示される通り、直流送電システム1000では、SWmをONからOFFに切り替えたことに伴い、Vpnが一時的に増加しうる。このため、減流動作の開始に伴って、一時的な異常電圧(例:過電圧)が1次側に発生しうる。このように、異常電圧の発生は、異常電流の発生と関係性が高いと言える。この点を踏まえ、実施形態1では、制御部30は、電圧FBによってSWクランパ110のSWpを制御するように構成されている。
【0058】
制御部30は、第1デジタル電圧値(デジタル値としてのVcpn)に基づく電圧FBによって、SWpを制御してよい。一例として、制御部30は、第1デジタル電圧値を所定の第1バイパス電圧閾値と比較する。制御部30は、第1デジタル電圧値が第1バイパス電圧閾値以上である場合、SWpをONする。図5のVthは、第1バイパス電圧閾値の一例である。
【0059】
図5の例では、t2以降にVcpnが増加し、時刻tm1において、VcpnがVthと等しくなる。このため、制御部30は、tm1において、SWpを、OFFからONへと切り替える。SWpをONに切り替えたことに伴い、Vpnは低下する。従って、Vcpnも低下する。図5の例では、時刻tm2において、VcpnがVthと等しくなる。このため、制御部30は、tm2の直後に、SWpを、ONからOFFへと切り替える。
【0060】
直流遮断器1では、SWpをONすることにより、1次側から流れ込む過大なIin(過電流)の一部を、Cm側にバイパスさせることができる。すなわち、過電流の一部を、Cmによって吸収できる。これにより、Iinをより速やかに低下させることができる。加えて、1次側に印加される過電圧を速やかに除去することもできる。このように、PNクランパ20によれば、1次側を過電圧から保護できる。
【0061】
加えて、上述の通り、実施形態1のPNクランパ20では、Cmは、SWmと直列に接続されている。このため、SWpをONした場合に、SWpに流れる電流をCmによって吸収できるので、SWpを保護できる。同様に、PNクランパ20における他の素子を保護することもできる。このように、Cmを設けることにより、PNクランパ20の各部材の破損を防止できる。
【0062】
なお、制御部30は、第2デジタル電圧値(デジタル値としてのVswm)に基づく電圧FBによって、SWpを制御してもよい。例えば、制御部30は、第2デジタル電圧値を所定の第2バイパス電圧閾値(図5では不図示)と比較してもよい。制御部30は、第2デジタル電圧値が第2バイパス電圧閾値以上である場合、SWpをONする。
【0063】
直流送電システム1000における事故発生時には、SWmに高い電圧が印加される場合もある。このような場合にも、1次側を過電圧から保護する必要性が高いと考えられる。そこで、第2デジタル電圧値が第2バイパス電圧閾値以上である場合に、SWpをONすることにより、上記のような場合にも、PNクランパ20によって、1次側を過電圧から保護できる。
【0064】
(直流遮断器1の動作の別の例)
以下、図6を参照して、直流遮断器1の動作の別の例について述べる。図6は、Iinの時間変化に応じた各電圧の時間変化と各スイッチ素子の動作の別の例を示すタイミングチャートである。図6は、図5と対になる図である。図6では、電流FBによるSW1およびSW2の制御の別の例について説明する。
【0065】
図6の例においても、図5の例と同様に、t2においてSWmがONからOFFに切り替えられている。但し、図6では、図5とは異なり、第1デジタル電流値が動作モード判定電流未満である場合が例示されている。t2において、制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値未満である場合、第2デジタル電流値(ADコンバータ312によって導出されたデジタル値としてのIin)に応じて、SW110を制御する。このように、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値である場合、第2デジタル電流値に基づく電流FB制御が行われてもよい。
【0066】
図6の例では、制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値である場合、SW110(より具体的には、SWクランパ110内の副スイッチ素子のそれぞれ)を断続的にONする。図6の例では、直流遮断器1による減流動作期間に亘り、SW1およびSW2のそれぞれのON/OFFが、断続的に切り替えられている。
【0067】
直流遮断器1による減流動作期間に亘り、SWクランパ110内の各副スイッチ素子(例:SW1およびSW2)をこのように制御するモードは、チョッパ制御モードと称されてもよい。以上の通り、制御部30は、第1デジタル電流値が動作モード電流判定閾値未満である場合、SWクランパ110をチョッパ制御モードによって駆動してよい。
【0068】
チョッパ制御モードでは、上述の2値制御モードに比べて、SWクランパ110においてサージエネルギーが緩やかに速やかに消費される。このため、チョッパ制御モードでは、上述の2値制御モードに比べて、過電流が緩やかに減衰する。Iinがある程度大きい場合、Iinを速やかに減衰させる必要性はそれほど高くないと考えられる。そこで、実施形態1では、上述の通り、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値未満である場合に、SWクランパ110がチョッパ制御モードによって制御される。
【0069】
チョッパ制御モードでは、SWクランパ110の各エネルギー消費ユニットに電流が連続的に流れない。このため、チョッパ制御モードでは、2値制御モードに比べて、エネルギー消費ユニットの温度上昇(特に、抵抗素子の温度上昇)が低減される。それゆえ、チョッパ制御モードによれば、エネルギー消費ユニットの寿命を延ばすことができる。
【0070】
また、チョッパ制御モードでは、2値制御モードとは異なり、第2デジタル電流値に基づいて、SWクランパ110が制御される。上述の通り、第2デジタル電流値は、高分解能型のADコンバータであるADコンバータ312(電流用第2ADコンバータ)から供給されたデジタル電流値である。このため、第2デジタル電流値は、第1デジタル電流値に比べて、量子化誤差がより小さいデジタル電流値である。それゆえ、第2デジタル電流値に基づいてSWクランパ110を制御することにより、第1デジタル電流値に基づいてSWクランパ110を制御する場合に比べて、SWクランパ110の断続的なON/OFFを、より柔軟に切り替えることが可能となる。
【0071】
図7は、チョッパ制御モードにおけるSW1およびSW2の制御手法の一例について説明する図である。図7の例では、制御量CONTに基づき、SW1およびSW2のON/OFFが制御される。図7の例では、制御部30は、CONTを第2デジタル電流値に比例する量として設定する。このため、CONTは、連続量であるIinに比例する量であると近似的に見なすことができる。このことから、図7の制御手法を用いたチョッパ制御モードは、連続量制御モードと称されてもよい。なお、図7の制御手法については、例えば「特開2020-10532公報」も参照されたい。
【0072】
一例として、制御部30は、CONTに応じて(言い換えれば、第2デジタル電流値に応じて)、n個の副スイッチ素子のそれぞれのデューティ比を設定してよい。そして、制御部30は、当該デューティ比に従って、n個の上記副スイッチ素子のそれぞれのON/OFFを制御してよい。図7の例では、制御部30は、CONTに応じて、SW1およびSW2のそれぞれのデューティ比を設定する。
【0073】
制御部30は、n個の副スイッチ素子のそれぞれに対応するn個のキャリア(搬送波)を生成してよい。図7の例におけるCSW1およびCSW2はそれぞれ、SW1およびSW2に対応するキャリアである。図7の例では、三角波としてのCSW1およびCSW2が例示されている。但し、キャリアの波形は、公知の他の波形(例:矩形波または鋸波)であってよい。
【0074】
制御部30は、CONTとn個のキャリアのそれぞれとの大小関係を比較することにより、n個の副スイッチ素子のそれぞれのデューティ比を設定してよい。このように、制御部30は、n個のキャリアを用いて、n個の副スイッチ素子のそれぞれのON/OFFを設定してよい。この場合、n個のキャリアのそれぞれの位相を相違させることにより、n個の副スイッチ素子のそれぞれを異なるタイミングでON/OFFさせることができる。
【0075】
一例として、n個のキャリアのそれぞれの位相は、2π/nずつずれていることが好ましい。このようにn個のキャリアのそれぞれの位相を設定することにより、n個の副スイッチ素子のそれぞれのON期間の重なり合いを十分に少なくできる。そこで、図7の例では、CSW1およびCSW2は、互いに位相がπずれた三角波として設定されている。
【0076】
図7の例では、制御部30は、(i)CONTがCSW1以上である期間においては、SW1をONに、(ii)CONTがCSW1よりも小さい期間においては、SW1をOFFに、それぞれ設定する。同様に、制御部30は、(i)CONTがCSW2以上である期間においては、SW2をONに、(ii)CONTがCSW2よりも小さい期間においては、SW2をOFFに、それぞれ設定する。図7の例では、CONTは時間の進展に伴い小さくなる。このため、時間の進展に伴い、SW1およびSW2のそれぞれのON期間は短くなる。
【0077】
図7の制御手法によれば、n個のエネルギー消費ユニットのそれぞれの負荷率(より厳密には、n個のエネルギー消費ユニット内のそれぞれの抵抗素子の負荷率)を、CONTに応じて(言い換えれば、第2デジタル電流値に応じて)、柔軟に設定できる。
【0078】
(効果)
直流遮断器1は、電圧FBによってPNクランパ20を、電流FBによって半導体遮断部10を、それぞれ制御できるように構成されている。このため、直流遮断器1によれば、電圧FB制御と電流FB制御とを協調して、直流母線における事故電流(過大なIin)に対処できる。
【0079】
例えば、上述の通り、直流遮断器1では、第1デジタル電流値(高速型のADコンバータである電流用第1ADコンバータから供給されたデジタル電流値)が事故電流閾値以上である場合、半導体遮断部10のSWmがOFFされる。それゆえ、SWmを高速にOFFできる。そして、直流遮断器1では、第1デジタル電圧値が第1バイパス電圧閾値以上である場合、SWpがONされる。このため、SWpをONすることにより、事故電流の一部をPNクランパ20にバイパスさせることができるので、事故電流をより速やかに低下させることができる。加えて、SWpをONすることにより、SWmをOFFしたことに伴って生じる過電圧を、速やかに除去することもできる。
【0080】
以上の通り、直流遮断器1によれば、従来の直流遮断器(例:非特許文献1に開示されている直流遮断器)とは異なり、事故電流の遮断およびバイパスを、1つの直流遮断器によって実現できる。このように、直流遮断器1によれば、1つの直流遮断器によって、直流線路の事故電流に対処できる。さらに、直流遮断器1によれば、電流FBおよび電圧FBによって半導体遮断部10とPNクランパ20とを相補的に制御できる。このため、過電流または過電圧に起因する半導体遮断部10とPNクランパ20の各部の破損を効果的に防止できる。
【0081】
加えて、直流遮断器1では、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値以上である場合、SWクランパ110が2値制御モードによって駆動される。他方、第1デジタル電流値が動作モード判定電流閾値未満である場合、SWクランパ110がチョッパ制御モードによって駆動される。このように、直流遮断器1では、サージエネルギーを速やかに消費させるようSWクランパ110を駆動させるか否かが、第1デジタル電流値の大きさに応じて選択される。これにより、Iinがそれほど大きくない場合には、SWクランパ110をチョッパ制御モードによって駆動できる。それゆえ、SWクランパ110を常に2値制御モードによって駆動させる場合に比べ、SWクランパ110のエネルギー消費ユニットの寿命を延ばすことができる。
【0082】
〔補足〕
実施形態1における説明から明らかである通り、nは1であってもよい。但し、nが1の場合には、1つの副スイッチ素子がOFFされている期間において、SWクランパ110に電流を流すことができない。この期間においては、エネルギー消費ユニットにサージエネルギーが消費させることができない。
【0083】
このため、チョッパ制御モードにおいてサージエネルギーを速やかに消費するためには、nは2以上であることが好ましい。nが2以上である場合、n個の副スイッチ素子のそれぞれのON期間を相違させることにより、n個のエネルギー消費ユニット内の少なくとも1つの抵抗素子に電流を流すことができる。それゆえ、減流動作期間の全てにおいて、エネルギー消費ユニットにサージエネルギーが消費させることができる。
【0084】
〔実施形態2〕
実施形態1では、直流遮断器1の各部において検出された電流および電圧に基づいて、各スイッチ素子を制御する場合を例示した。但し、当然ながら、直流遮断器1における各スイッチ素子の制御手法は、上記の例に限定されない。例えば、直流遮断器1では、検出された電流および電圧に基づいて、直流遮断器1の各部における消費電力が、制御部30によって算出されてもよい。この場合、制御部30は、当該消費電力にさらに基づいて、各スイッチ素子が制御されてもよい。
【0085】
また、制御部30は、所定の限時特性にさらに基づいて、各スイッチ素子のON/OFFが制御されてもよい。当該限時特性は、各スイッチ素子の電気的特性および周波数特性の少なくとも一方を考慮して、予め設定されていてもよい。
【0086】
〔ソフトウェアによる実現例〕
直流遮断器1(以下では、便宜上「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部30に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0087】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0088】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0089】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0090】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0091】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1 直流遮断器
10 半導体遮断部(過電流遮断部)
20 PNクランパ(過電圧保護回路)
30 制御部
110 SWクランパ(サージエネルギー消費回路)
111 第1エネルギー消費ユニット(エネルギー消費ユニット)
112 第2エネルギー消費ユニット(エネルギー消費ユニット)
311 ADコンバータ(電流用第1ADコンバータ)
312 ADコンバータ(電流用第2ADコンバータ)
313 ADコンバータ(電圧用第2ADコンバータ)
314 ADコンバータ(電圧用ADコンバータ,電圧用第1ADコンバータ)
410 電流センサ
420 電圧センサ(第1電圧センサ)
430 電圧センサ(第2電圧センサ)
1000 直流送電システム
Cpn コンデンサ(第1コンデンサ,バイパス用スイッチ素子と並列に接続されたコンデンサ)
Cm コンデンサ(第2コンデンサ,バイパス用スイッチ素子と直列に接続されたコンデンサ)
Iin 電流(過電流遮断部に流れる電流)
N1 節点(第1節点)
N2 節点(第2節点)
SWm スイッチ素子(主スイッチ素子)
SWp スイッチ素子(バイパス用スイッチ素子)
SW1 スイッチ素子(第1エネルギー消費ユニットの副スイッチ素子)
SW2 スイッチ素子(第2エネルギー消費ユニットの副スイッチ素子)
R1 抵抗素子(第1エネルギー消費ユニットの抵抗素子)
R1 抵抗素子(第2エネルギー消費ユニットの抵抗素子)
Vcpn 電圧(バイパス用スイッチ素子に印加される電圧,第1電圧)
Vswm 電圧(主スイッチ素子に印加される電圧,第2電圧)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7