(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143584
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】動力伝達軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 3/02 20060101AFI20220926BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20220926BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20220926BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20220926BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20220926BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20220926BHJP
B60K 17/22 20060101ALI20220926BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
F16C3/02
B29C70/16
B29C70/32
B29C70/48
B29C70/68
B29C39/10
B60K17/22 Z
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044173
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍弥
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 明香
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 史也
【テーマコード(参考)】
3D042
3J033
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AB01
3D042DA05
3D042DA09
3D042DA14
3J033AA01
3J033AB02
3J033AB03
3J033AC01
3J033BA03
3J033BA07
4F204AC05
4F204AD03
4F204AD16
4F204AG14
4F204AH12
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB12
4F204EF05
4F204EF27
4F205AC05
4F205AD03
4F205AD16
4F205AG14
4F205AH12
4F205HA02
4F205HA12
4F205HA29
4F205HA37
4F205HB01
4F205HB12
4F205HC02
4F205HF05
4F205HL02
4F205HM02
4F205HT16
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】 繊維の径方向外側への移動を規制することが可能な動力伝達軸の製造方法を提供する。
【解決手段】 動力伝達軸の製造方法は、第一の金属部材30の外周面に炭素繊維層23の少なくとも一部を設置する繊維設置工程と、繊維設置工程の後に、繊維固定部材50を用いて、第一の金属部材30に設置された炭素繊維層23を、第一の金属部材30の径方向への移動を規制するように固定する繊維固定工程と、繊維固定工程の後に、炭素繊維層23に樹脂を含浸させることによって繊維強化樹脂管体を形成するとともに、繊維強化樹脂管体及び第一の金属部材を一体成型する成型工程と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの外周面に繊維の少なくとも一部を設置する繊維設置工程と、
前記繊維設置工程の後に、繊維固定部材を用いて、前記シャフトに設置された前記繊維を、前記シャフトの径方向への移動を規制するように固定する繊維固定工程と、
前記繊維固定工程の後に、前記繊維に樹脂を含浸させることによって繊維強化樹脂管体を形成するとともに、前記繊維強化樹脂管体及び前記シャフトを一体成型する成型工程と、
を含む動力伝達軸の製造方法。
【請求項2】
前記繊維固定工程において、前記繊維固定部材は、前記繊維を前記径方向の外側から押さえつけることによって、前記繊維を前記シャフトに固定する
請求項1に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項3】
前記繊維固定部材は、シール材である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項4】
前記繊維固定部材は、前記シャフトに設置された前記繊維の径方向外側に設けられる環状の弾性部材である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項5】
前記繊維固定部材は、前記シャフトに設置された前記繊維の径方向外側に設けられる環状の金属部材である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項6】
前記繊維固定部材は、接着剤である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項7】
前記繊維固定部材は、シャフトに設置された前記繊維に編み込まれることによって当該繊維を固定する固定用繊維である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項8】
前記繊維固定部材は、前記繊維とともに前記シャフトに設置されており、加熱される過程を経て前記繊維を固定する熱可塑性繊維である
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
【請求項9】
前記シャフトの外周面には、凹部が形成されており、
前記繊維固定工程において、前記繊維固定部材は、前記繊維を前記凹部で前記シャフトに固定する
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の動力伝達軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における動力伝達軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂製の構造物を製造する際に、土台となる物体に繊維を設置する工程を実行することが知られている。例えば、特許文献1には、繊維を巻き付得る際に、ピンが立設された土台に繊維を巻き付けることよって繊維強化樹脂製の駆動軸を製造する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の手法では、繊維をピンに巻き掛ける際のテンションによっては、製造段階において繊維が径方向外側に移動して土台から離脱するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するために創作されたものであり、径方向外側への繊維の移動を規制することが可能な動力伝達軸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、シャフトの外周面に繊維の少なくとも一部を設置する繊維設置工程と、前記繊維設置工程の後に、繊維固定部材を用いて、前記シャフトに設置された前記繊維を、前記シャフトの径方向への移動を規制するように固定する繊維固定工程と、前記繊維固定工程の後に、前記繊維に樹脂を含浸させることによって繊維強化樹脂管体を形成するとともに、前記繊維強化樹脂管体及び前記シャフトを一体成型する成型工程と、を含む動力伝達軸の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、径方向外側への繊維の移動を規制することが可能な動力伝達軸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明によって製造された動力伝達軸を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【
図9】(a)は、本発明の第一から第三の実施形態に係る動力伝達軸の中間体における一端部を模式的に示す断面図、(b)は、本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸の中間体における一端部を模式的に示す断面図、(c)は、本発明の第五の実施形態に係る動力伝達軸の中間体における一端部を模式的に示す断面図、(d)は、本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸の中間体における一端部を模式的に示す断面図である。
【
図10】本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、炭素繊維強化プラスチックによって車両の動力伝達軸(プロペラシャフト)を製造する場合を例にとり、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、参照する図面は、分かりやすさのためにデフォルメされている。
【0010】
<第一の実施形態>
第一の実施形態によって製造される動力伝達軸1は、車両において前後方向に延設され、動力源で発生した動力を軸線周りの回転として伝達する軸である。
図1に示すように、動力伝達軸1は、繊維強化樹脂管体20と、第一の金属部材30と、第二の金属部材40と、を備える。
【0011】
<繊維強化樹脂管体>
図2及び
図4に示すように、繊維強化樹脂管体20は、マンドレル10の外周面に沿うように管状に形成された樹脂含有繊維層である。
【0012】
≪マンドレル≫
図4に示すように、マンドレル10は、筒形状を呈する樹脂製部材である。本実施形態において、マンドレル10は、繊維強化樹脂管体20の内部から除去されるが、繊維強化樹脂管体20の内部に残留して繊維強化樹脂管体20の芯材として機能することも可能である。マンドレル10には、繊維強化樹脂管体20における樹脂硬化の際の加熱に耐えられる材料を用いることができる。そのような材料の例としては、PP(ポリプロピレン樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、SMP(形状記憶ポリマー)等が挙げられる。マンドレル10は、軸方向中間部の大径部11と、軸方向一端部に形成されるテーパ部12及び中径部13と、軸方向他端部に形成される段部14及び小径部15と、を一体に備える。本実施形態において、中径部13の軸方向一端部には、中径部13よりも小径な突出部16が形成されている。突出部16は、第一の金属部材30が外嵌される部位である。段部14及び突出部16の外周面には、スプライン接合用の雄スプラインが形成されている。
【0013】
図1、
図2及び
図4に示すように、繊維強化樹脂管体20は、マンドレル10の大径部11、テーパ部12及び中径部13、第一の金属部材30の軸方向一端部、並びに、第二の金属部材40の軸方向他端部位の外周面上に沿うように形成される。
図5~
図7に示すように、繊維強化樹脂管体20は、炭素繊維層として、径方向内側(マンドレル10側)から順に、第一の炭素繊維層21と、第二の炭素繊維層22と、第三の炭素繊維層23と、を備える。なお、
図5~
図7において、炭素繊維層21,22,23は、一部のみが図示されている。また、第一の金属部材30の軸方向一端部(マンドレル10とは反対側に位置する端部)の外周面、及び、第二の金属部材40の軸方向他端部(マンドレル10とは反対側に位置する端部)の外周面は、繊維強化樹脂管体20によって被覆されておらず、当該繊維強化樹脂管体20から露出している。
図4に示すように、繊維強化樹脂管体20は、第一の金属部材30の接続部における凹部30bの底部まで満たすように形成されている。
【0014】
≪第一の炭素繊維層≫
図5に示すように、第一の炭素繊維層21は、マンドレル10等の外周面に対して、当該マンドレル10を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第一の炭素繊維層21における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して平行に延設されている。すなわち、第一の炭素繊維層21に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、0°である。
【0015】
≪第二の炭素繊維層≫
図6に示すように、第二の炭素繊維層22は、第一の炭素繊維層21の径方向外側に設けられており、第一の炭素繊維層21を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第二の炭素繊維層22における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第二の炭素繊維層22に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、45°である。
【0016】
≪第三の炭素繊維層≫
図7に示すように、第三の炭素繊維層23は、第二の炭素繊維層22の径方向外側に設けられており、第二の炭素繊維層22を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第三の炭素繊維層23における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して-45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第三の炭素繊維層23に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、-45°である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、繊維強化樹脂管体20は、軸方向一端部側に、軸方向中央側の大径部20aから軸方向一端部の小径部20cに向かうにつれて縮径するテーパ部20bが形成されている。大径部20aは、マンドレル10の大径部11の外周面に倣う形状を呈する本体部である。テーパ部20bは、マンドレル10のテーパ部12の外周面に倣う形状を呈する。小径部20cは、マンドレル10の中径部13及び第一の金属部材30の一部の外周面に倣う形状を呈する端部である。
【0018】
<第一の金属部材>
第一の金属部材30は、略円柱形状を呈する部材(シャフト)である。
図5等に示すように、製造途中段階において、マンドレル10から離れた側に位置する第一の金属部材30の軸線方向一端部は、マンドレル10から露出しており、マンドレル10側に位置する第一の金属部材30の軸方向他端部は、マンドレル10に嵌合(内嵌)されている。
【0019】
図2及び
図3に示すように、第一の金属部材30の軸方向他端部には、マンドレル10の突出部16が挿入可能な有底の孔部30aが形成されている。また、
図4に示すように、第一の金属部材30の軸方向他端部側の外周面には、環状の凹部30bが形成されている。
【0020】
第一の金属部材30は、動力伝達軸1におけるフランジジョイント組立体の一部材である。フランジジョイント組立体は、かかる第一の金属部材30に対して、ブーツ、プランジョイントを組み付けることによって形成される。
【0021】
<第二の金属部材>
第二の金属部材40は、略円筒形状を呈する部材である。
図7等に示すように、製造途中段階において、マンドレル10から離れた側に位置する第二の金属部材40の軸線方向他端部は、マンドレル10から露出しており、マンドレル10側に位置する第二の金属部材40の軸方向一端部は、マンドレル10に嵌合(外嵌)されている。
【0022】
第二の金属部材40は、動力伝達軸1におけるヨーク組立体の一部材である。ヨーク組立体は、かかる第二の金属部材40に対して、スパイダー、ニードルベアリング、ヨークを組み付けることによって形成される。
【0023】
<繊維固定部材>
図7に示すように、動力伝達軸1を製造する途中段階において、炭素繊維層21~23は、繊維固定部材50によって、第一の金属部材30に対して当該第一の金属部材30の径方向への移動を規制するように固定されている。
図9(a)に示すように、本実施形態において、繊維固定部材50は、シール材50Aである。シール材50Aは、例えば炭素繊維層21~23の外周面に巻回されるテープであり、繊維強化樹脂管体20のうち、樹脂24が含浸された炭素繊維層21~23と、その外周面上に形成される樹脂24の層と、の間を塞ぐことによって、これらの間に水分等が進入することを防止する。ここで、樹脂24が含浸された炭素繊維層21~23の樹脂24と、その外周面に形成される樹脂24の層とは、後記する成型工程においてまとめて形成され、シール材50Aはその中に埋設されるため、離脱しにくい。なお、本実施形態では、凹部30bは省略可能である。
【0024】
<製造方法>
続いて、本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法について、
図3のフローチャートを用いて説明する。動力伝達軸1の製造方法は、マンドレル形成工程(ステップS1)と、マンドレル形成工程の後に実行される第一連結工程(ステップS2)と、第一連結工程の後に実行される第二連結工程(ステップS3)と、を含む。また、動力伝達軸1の製造方法は、第二連結工程の後に実行される繊維設置工程(ステップS4~S6)と、繊維設置工程の後に実行される繊維固定工程(ステップS7)と、繊維固定工程の後に実行される金型内設置工程(ステップS8)と、を含む。また、動力伝達軸1の製造方法は、金型内設置工程の後に実行される成型工程(ステップS9)と、成型工程の後に実行される取出工程(ステップS10)と、取出工程の後に実行されるジョイント組付工程(ステップS11)と、を含む。
【0025】
ステップS1は、
図4に示される樹脂製のマンドレル10を図示しない成形装置を用いて形成する工程である。ステップS1に続いて、マンドレル10の軸線方向一端部に第一の金属部材30を設ける(ステップS2)。
【0026】
ステップS2では、まず、第一の金属部材30の軸方向他端部を、マンドレル10の突出部16に嵌合(外嵌)させる。続いて、第一の金属部材30の軸方向他端部の外周面上に接着層(図示せず)を設ける。ステップS2において、第一の金属部材30は、マンドレル10の突出部16に外嵌されてスプライン接合される。
【0027】
ステップS2に続いて、ステップS3で、マンドレル10の軸線方向他端部に第二の金属部材(カラー)40を設ける。ステップS3において、第二の金属部材40は、マンドレル10の段部14に外嵌されてスプライン接合される。ここで、ステップS2,S3の順番は、適宜変更可能であり、ステップS3が先でもよく、同時でもよい。
【0028】
ステップS3に続いて、ステップS4で、
図5に示すように、第一の炭素繊維層21がマンドレル10、第一の金属部材30における凹部30b及び第二の金属部材40の軸方向他端部の外周面上に形成される。ステップS4に続いて、ステップS5で、
図6に示すように、第二の炭素繊維層22がマンドレル10、第一の金属部材30及び第二の金属部材40における第一の炭素繊維層21の外周面上に形成される。ステップS5に続いて、ステップS6で、
図7に示すように、第三の炭素繊維層23がマンドレル10、第一の金属部材30及び第二の金属部材40における第二の炭素繊維層22の外周面上に形成される。ステップS4~S6において、第一の金属部材30及び第二の金属部材40のそれぞれの軸方向におけるマンドレル10とは反対側に位置する端部には、それぞれの繊維が配置されないように炭素繊維層21~23が形成される。
【0029】
ステップS4~S6において、炭素繊維層21~23は、樹脂が含浸された繊維ではなく、いわゆる生糸である。また、炭素繊維層21~23は、それぞれ多給糸フィラメントワインド法によってマンドレル10、第一の金属部材30におけるフランジ部30a及び第二の金属部材40の軸線方向他端部の外周面上に配置される。多給糸フィラメントワインド法によって給糸された炭素繊維層21~23は、互いに織り込まれることなく層として独立した、いわゆるノンクリンプ構造を呈する。
【0030】
ステップS6に続いて、ステップS7で、
図7に示すように、シール材50Aを、炭素繊維層23の径方向外側から押さえつけることによって、炭素繊維層21~23を第一の金属部材30に固定する。
【0031】
ステップS7に続いて、ステップS8で、
図8に示すように、マンドレル10、第一の金属部材30、第二の金属部材40、各炭素繊維層21~23及び繊維固定部材50の組立体を、成形装置(金型)100内に設置する。
【0032】
ステップS8に続いて、当該成形装置100内に樹脂24が供給される。これにより、マンドレル10の外周面に配置された炭素繊維層21~23に樹脂24が含浸される。さらに、成形装置100に熱を加えることによって樹脂24を硬化させ、繊維強化樹脂管体20が形成されるとともに、繊維強化樹脂管体20及び第一の金属部材30が一体成型される(ステップS9、成型工程)。樹脂24は、例えば熱硬化性樹脂である。本実施形態において、成形装置100の金型は、複数に分割されている。ステップS9では、前記組立体に熱が加えられるとともに、成形装置100の金型を閉じる型閉じ操作を行い、続いて、閉じた金型に圧力を印加する型締め操作を行うことにより、金型内の圧力を上昇させることで、樹脂24の硬化が促進される。なお、本実施形態では金型が複数に分割されている構成で説明しているため、型閉じ操作及び型締め操作が行われているが、型締め操作は、必須ではない。また、金型が複数に分割されていない場合には、かかる型閉じ操作及び型締め操作は、必須ではない。成形装置100内において、溶融状態の樹脂24が導入されるゲート101の出口側には空間(樹脂だまり102)が形成されている。成形装置100内に導入された樹脂24は、炭素繊維層21~23の軸方向一端部の側方に位置する当該樹脂だまり102に貯留される。樹脂だまり102に貯留された樹脂24は、炭素繊維層21~23の配列方向においてゲート101とは反対側(炭素繊維層21~23の軸方向他端部の外周面側)に形成された吸引口103からの真空吸引によって、マンドレル10の軸線方向に移動し、炭素繊維層21~23に含浸する。樹脂24が炭素繊維層21~23に含浸した状態で、成形装置100に熱が加えられ、さらに、成形装置100内に圧力が加えられることによって、シール材50Aを内部に有する繊維強化樹脂管体20が形成される。
【0033】
ステップS9に続いて、ステップS10で、成形された組立体すなわち中間体が成形装置100から取り出される。ステップS10に続いて、ステップS11で、中間体の第一の金属部材30にフランジジョイント組立体を取り付けるとともに、第二の金属部材40にヨーク組立体を取り付ける。
【0034】
なお、ステップS10とステップS11との間に、マンドレル抜き取り工程を実行することが考えられる。このマンドレル抜き取り工程は、第二の金属部材40の端部開口側から繊維強化樹脂管体20の外側にマンドレル10を取り出す工程である。この際、マンドレル10は、使用される材料に応じた方法にしたがって、例えば変形され、溶融され、分解され、破壊され、又は溶出されることによって繊維強化樹脂管体20の内側から取り出される。これにより、動力伝達軸1の軽量化が達成されることとなる。
【0035】
また、マンドレル10を変形させて第二の金属部材40の端部開口側から取り出す場合には、例えばマンドレル10の中空部を減圧することで前記の端部開口よりもマンドレル10を小さくなるように収縮させて繊維強化樹脂管体20から抜き取る方法を採用することができる。
【0036】
図8に示すように、第一実施形態での金型100においては、マンドレル10の内側に連通するように、連通路104が設けられている。マンドレル抜き取り工程を行う際には、不図示の真空ポンプに連結された連通路104を介して、マンドレル10の中空部を減圧することができる。
【0037】
このような抜き取り工程は、例えば熱可塑性樹脂からなるマンドレル10を加熱等により可塑化することでより好適に実施することができる。また、例えばダイヤカットを施したアルミニウム薄板からなるマンドレル10についても好適に実施することができる。
【0038】
本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法は、シャフト(第一の金属部材30)の外周面に繊維(炭素繊維層21~23)の少なくとも一部を設置する繊維設置工程と、前記繊維設置工程の後に、繊維固定部材50を用いて、前記シャフトに設置された前記繊維を、前記シャフトの径方向への移動を規制するように固定する繊維固定工程と、前記繊維固定工程の後に、前記繊維に樹脂24を含浸させることによって繊維強化樹脂管体20を形成するとともに、前記繊維強化樹脂管体20及び前記シャフトを一体成型する成型工程と、を含む。
かかる構成によると、動力伝達軸1の製造段階において、繊維固定部材50によって繊維の径方向外側への移動を規制することができる。
また、このようにして製造された動力伝達軸1は、製造段階における繊維の離脱が防止されるので品質が向上するとともに、繊維強化樹脂管体20内に繊維固定部材50が内設されるので、完成品からの繊維固定部材50の離脱を防止することができる。
【0039】
前記繊維固定工程において、前記繊維固定部材50は、前記繊維を前記径方向の外側から押さえつけることによって、前記繊維を前記シャフトに固定する。
かかる構成によると、繊維の径方向外側への移動を好適に規制することができる。
【0040】
前記繊維固定部材50は、シール材50Aである。
かかる構成によると、繊維強化樹脂管体20内にシール材50Aが内設されるので、水分等の進入を好適に防止することができる。
【0041】
前記シャフトの外周面には、凹部30bが形成されており、前記繊維固定工程において、前記繊維固定部材50は、前記繊維を前記凹部30bで前記シャフトに固定する。
かかる構成によると、繊維固定部材50による繊維強化樹脂管体20の厚み増加を抑えることができる。
【0042】
<第二の実施形態>
続いて、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸及びその製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸1及びその製造方法との相違点を中心に説明する。
【0043】
図9(a)に示すように、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸1において、繊維固定部材50は、環状の弾性部材50Bである。弾性部材50Bは、拡径方向に弾性変形させて炭素繊維層21~23の径方向外側に配置された後に復元することによって、炭素繊維層21~23に外嵌される。弾性部材50Bは、繊維強化樹脂管体20のうち、樹脂24が含浸された炭素繊維層21~23と、その外周面上に形成される樹脂24の層と、の間を塞ぐことによって、これらの間に水分等が進入することを防止する。なお、本実施形態では、凹部30bは省略可能である。
【0044】
本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法において、前記繊維固定部材50は、前記シャフトに設置された前記繊維の径方向外側に設けられる環状の弾性部材50Bである。
かかる構成によると、弾性部材50Bから炭素繊維層21~23へと付与される力によって、径方向外側への繊維の移動を好適に規制することができる。また、繊維強化樹脂管体20内に弾性部材50Bが内設されるので、水分等の進入を好適に防止することができる。
【0045】
<第三の実施形態>
続いて、本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸及びその製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸1及びその製造方法との相違点を中心に説明する。
【0046】
図9(a)に示すように、本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸1において、繊維固定部材50は、環状の金属部材50Cである。環状の金属部材50Cは、成型工程における熱の影響を受けにくい。金属部材50Cは、複数の部品を、繊維を抑えつけるように嵌め合わせる構成であってもよい。金属部材50Cは、凹部30bの軸方向側壁部と協働して炭素繊維層21から23を挟持することができる。
【0047】
本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法において、前記繊維固定部材50は、前記シャフトに設置された前記繊維の径方向外側に設けられる環状の金属部材50Cである。
かかる構成によると、成型工程後においてもシャフト及び金属部材50Cによって繊維を好適に挟持することができる。
【0048】
<第四の実施形態>
続いて、本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸及びその製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸1及びその製造方法との相違点を中心に説明する。
【0049】
図9(b)に示すように、本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸1において、繊維固定部材50は、接着層(接着剤)50Dである。
【0050】
<製造方法>
続いて、本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法について、
図10のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
第四の実施形態では、ステップS2及びステップS3の間に、凹部30bに接着層(接着剤)50Dが設けられる(ステップS2A)。また、ステップ7では、凹部30bの径方向外側において、炭素繊維層21~23の外周面に接着層(接着剤)50Dが設けられる。径方向内側において環状に設けられた接着層50Dは、炭素繊維層21~23を第一の金属部材30に固定する。径方向外側において環状に設けられた接着層50Dは、炭素繊維層21~23の径方向外側への移動を規制することによって、炭素繊維層21~23を第一の金属部材30に固定する。
【0052】
なお、本実施形態では、凹部30bは省略可能である。この場合には、ステップS2Aも省略される。
【0053】
本発明の第四の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法において、前記繊維固定部材50は、接着剤(接着層50D)である。
かかる構成によると、より薄い部材で繊維をシャフトに固定することができる。
【0054】
<第五の実施形態>
続いて、本発明の第五の実施形態に係る動力伝達軸及びその製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸1及びその製造方法との相違点を中心に説明する。
図9(c)に示すように、本発明の第五の実施形態に係る動力伝達軸1において、繊維固定部材50は、炭素繊維層21~23とは別の固定用繊維50Eである。固定用繊維50Eは、例えば炭素繊維層21~23と同じ材料によって形成されており、凹部30b内において、炭素繊維層23に編み込まれることによって炭素繊維層21~23を固定する。炭素繊維層23に対する固定用繊維50Eの編込角度は、適宜設定可能である。また、凹部30bの軸方向側壁部に固定用繊維50Eが係止される係止部(突起等)が設けられている構成であってもよい。かかる係止部は、固定用繊維50Eの径方向外側への移動を好適に規制することができる。
【0055】
本発明の第五の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法において、前記繊維固定部材50は、シャフトに設置された前記繊維に編み込まれることによって当該繊維を固定する固定用繊維50Eである。
かかる構成によると、固定部位における繊維強化樹脂管体20の繊維による強化を向上することができる。
【0056】
<第六の実施形態>
続いて、本発明の第五の実施形態に係る動力伝達軸及びその製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸1A及びその製造方法との相違点を中心に説明する。
【0057】
図9(d)に示すように、本発明の第六の実施形態に係る動力伝達軸1において、繊維固定部材50は、炭素繊維層21~23とともに第一の金属部材30の外周面に設置された熱可塑性繊維50Fである。熱可塑性繊維50Fは、凹部30b内において、第一の金属部材30の径方向外方から焼き鏝等によって加熱されることによって軟化し、その後、固化し、炭素繊維層21~23を固定する。
【0058】
本発明の第六の実施形態に係る動力伝達軸1の製造方法において、前記繊維固定部材50は、前記繊維とともに前記シャフトに設置されており、加熱される過程を経て前記繊維を固定する熱可塑性繊維50Fである。
かかる構成によると、繊維層の内部において当該繊維層を固定することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形可能である。例えば、ステップS9,S10の間にマンドレル10を成形された繊維強化樹脂管体20から抜き出す構成であってもよい。また、マンドレル10は、ステップS8における樹脂24や成形装置(金型)100の熱によって溶融して除去される構成であってもよい。その他の熱、電気、振動等のエネルギーによってマンドレル10を溶融して除去することも可能である。
また、各炭素繊維層21~23は、互いに織り込まれた、いわゆるクリンプ構造を呈してもよい。また、繊維体は、炭素繊維に限定されず、樹脂層を強化可能な繊維部材(例えば、ガラス繊維、セルロース繊維等)であればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 動力伝達軸
20 繊維強化樹脂管体
21,22,23 炭素繊維層(繊維)
24 樹脂
30 第一の金属部材(シャフト)
30b 凹部
50 繊維固定部材
50A シール材
50B 弾性部材
50C 金属部材
50D 接着層(接着剤)
50E 固定用繊維
50F 熱可塑性繊維