(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143589
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】自律型飛行体及びその自律制御方法と自律制御装置
(51)【国際特許分類】
B64B 1/32 20060101AFI20220926BHJP
B64B 1/38 20060101ALI20220926BHJP
B64B 1/20 20060101ALI20220926BHJP
B64C 39/00 20060101ALI20220926BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20220926BHJP
G08G 5/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B64B1/32
B64B1/38
B64B1/20
B64C39/00 B
B64C13/18 Z
G08G5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044189
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】520021576
【氏名又は名称】武藤 康正
(71)【出願人】
【識別番号】520021495
【氏名又は名称】堀部 敏之
(71)【出願人】
【識別番号】515025815
【氏名又は名称】加藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】武藤 康正
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA26
5H181BB04
5H181BB20
5H181FF04
5H181FF14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低空における精密な姿勢制御を可能とすることにより、災害復旧等の用途において要求される安定した無人飛行ができる自律型飛行体を提供する。
【解決手段】自律制御型飛行船10は、推進機関として主翼12A、12Bの先端と本体気嚢の側面及び船尾に、正反転可能な回転翼15A、15B、15C、15D、17を備える。また主翼12A、12Bの上面と、船主側及び船尾側の方向舵23A、23Bの側面に、姿勢制御用の回転翼、本体気嚢の左右の前部と後部にバランス気嚢21A、21B、22A、22Bを備える。位置情報受信機30及び外部センサ31から得られる位置情報及び気象情報に基づいて上記回転翼、方向舵、バランス気嚢を相互に連関させつつ制御することにより、低空飛行時でも自律制御型飛行船10の姿勢を極めて高精度に保持できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の主翼と、方向舵を備えた左右の尾翼とを有する飛行体本体と、
該飛行体本体の船尾及び前記左右の主翼に設けられ正転と反転が可能な推進用回転翼と、
前記左右の主翼の上面に設けられた左右の主翼上面制御回転翼と、
前記飛行体本体の両側面に設けられ正転と反転が可能な側面推進用回転翼と、
前記飛行体本体の下面の船首側と船尾側に設けられた船首側方向舵及び船尾側方向舵と、
前記船首方向舵及び前記船尾方向舵の側面に設けられた船首制御回転翼及び船尾制御回転翼と、
前記飛行体本体の左右側面に設けられ重力バランスを調整するバランス調整体と、
該バランス調整体を制御する重力バランス制御手段と、
前記推進用回転翼、前記主翼上面回転翼、前記側面推進回転翼、船首制御用回転翼及び船尾制御用回転翼に動力を供給して回転させる動力供給源と、
該動力供給源による供給を調整して回転を制御する回転制御手段と、
前記尾翼方向舵と、前記船首及び船尾方向舵を制御する方向舵制御手段と、
を備える自律型飛行体。
【請求項2】
前記左右の主翼に設けられた推進用回転翼は、その回転軸が左右の主翼面に対して90度以上回動可能である、請求項1に記載された自律型飛行体。
【請求項3】
前記左右の主翼上面回転翼、前記船首制御回転翼及び前記船尾制御回転翼は独立して回転する複数のプロペラを有し、該複数のプロペラのうち一部のプロペラの回転による推進力が残部のプロペラの回転による推進力と逆方向である、請求項1又は2に記載された自律型飛行体。
【請求項4】
前記自律型飛行体は飛行船であって、
前記飛行体本体及び前記左右側面のバランス調整体は内部に浮揚性気体が充填された気嚢であり、
前記重力バランス制御手段は、前記飛行体本体及び前記左右の重力バランス調整体の内部の気圧を制御する、請求項1から3までのいずれか一項に記載された自律型飛行体。
【請求項5】
さらに衛星測位システムによる位置情報を受信する位置情報受信機を備え、該位置情報に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項1から4までのいずれか一項に記載された自律型飛行体。
【請求項6】
さらに外部の風向、風速及び気温を測定する外部センサを備え、該外部センサの測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項1から5までのいずれか一項に記載された自律型飛行体。
【請求項7】
さらに進行方向の風速を測定する風速測定器を備え、該風速測定器の測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項1から6までのいずれか一項に記載された自律型飛行体。
【請求項8】
さらに人工知能を利用した分析装置を備え、
前記位置情報受信機により取得した位置情報により所定間隔の3次元マトリックスを形成し、
前記分析装置を用いて飛行速度から割り出した時間軸を加えた4次元マトリックスを形成することにより、進行方向の情報を予測して最適な飛行経路を算出する、請求項1から7までのいずれか一項に記載された自律型飛行体。
【請求項9】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項8に記載された自律型飛行体。
【請求項10】
前記自律型飛行体の種類と、少なくとも1つのルートとに対応する、複数の飛行の記録された監視データを読み出すことと、前記記録された監視データから前記自律型飛行体の飛行パターンを推測することと、推測された前記飛行パターンを使用して、再構築された飛行ルートを計算することと、特定の自律型飛行体の種類及びルートに対応する飛行パターンと前記再構築された飛行ルートを含むデータセットを選択し、機械学習アルゴリズムを適用して、前記自律型飛行体の状態と動作との間の相関関数を取得することと、を含む飛行前データ取得ステップと、
前記自律型飛行体の搭載センサのデータを繰り返し読み出すことと、 前記搭載センサのデータからリアルタイムの自律型飛行体の状態を取得することと、前記相関関数を使用して前記リアルタイムの自律型飛行体の状態に関連する動作を決定することと、決定された動作を前記自律型飛行体において実行することと、を含む飛行動作実行ステップと、
を備える、請求項1から9までのいずれか1項に記載された自律型飛行体の制御方法。
【請求項11】
さらに進行方向の風速を測定する風速測定器を備え、該風速測定器の測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項10に記載された自律型飛行体の制御方法。
【請求項12】
人工知能を利用した分析装置を備え、
前記位置情報受信機により取得した位置情報により所定間隔の3次元マトリックスを形成し、
前記分析装置を用いて飛行速度から割り出した時間軸を加えた4次元マトリックスを形成することにより、進行方向の情報を予測して最適な飛行経路を算出する、請求項1から9までのいずれか1項に記載された自律型飛行体の制御装置。
【請求項13】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項12に記載された自律型飛行体の制御装置。
【請求項14】
自律型飛行体の飛行予定方向に向けて電磁波を放射し、その大気中での散乱波を受信し、前記放射した電磁波と散乱した電磁波との間の周波数のドップラーシフト量に基づき、放射軸方向の遠隔風速を計測する計測部と、
前記自律型飛行体の揚力を制御する舵と、
前記計測部での計測結果に基づき、前記自律型飛行体が突風を受けることが判明した場合に、揚力傾斜が少ない迎角を算出するとともに、揚力が変化しないような前記揚力を制御する 舵の角度を算出する制御演算部と、
を具備する、請求項1から9までのいずれか1項に記載された自律型飛行体の制御装置。
【請求項15】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行される、請求項14に記載された自律型飛行体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低空での精密な姿勢制御を実現するとともに進路の飛行条件を予測することにより安定した無人飛行を可能とした、自律制御型飛行船を始めとする自律型飛行体及びその自律制御方法と自律制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震、津波、洪水、落雷、火災等の自然災害や人為的事故によって、移動通信システムの基地局の一部が通信不能になる事態が起こり得る。これにより稼働基地局が減少して、端末装置が基地局と通信できるエリア(カバレッジエリア)が縮小する。また、基地局あたりの端末装置数の増加により通信回線が輻輳して基地局の負荷が増大する。このような場合には、災害発生地域における端末装置の通信を確保するために、基地局を迅速に復旧させる必要がある。
【0003】
このような復旧作業における運送手段として、ヘリウムガス等の浮揚性気体により飛行し、装置類を積載して災害発生地点に接近できる飛行船が有効となる。災害復旧の用途においては、飛行船を無人で飛行させることが要求される場合が多い。無人飛行を可能にするためには、低空においても飛行船の姿勢を自動で保持しつつ飛行させる必要がある。
【0004】
飛行船の姿勢を保持する方法として、船体の内部に空気を供給する空気供給手段と、その空気供給手段を駆動する圧力制御手段とを用いる技術が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載された技術においては、これらの圧力制御手段と空気供給手段とを飛行船の外部に移動自在に配置している。これによって、船体の内部空気情報と外気情報とに基づいて船体の内部圧力を制御できるため、飛行船の圧力が管理されて姿勢を保持できるとしている。
【0005】
さらに、飛行船外部の気流等は絶えず変化しており、飛行船の姿勢を制御するためには、このような気象条件の変動にも対応しなければならない。そこで、飛行船の周囲の風速と風向を推定し、それらの情報に応じて操縦装置を制御する技術が開発されている(例えば、特許文献2を参照)。これによって、無風時及び強風時の双方において、対地定点を中心とした滞空飛行を自動的に行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-280438号公報
【特許文献2】特開2005-145090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、飛行船が災害現場等に接近する際には低空を飛行することになるため、より精密な姿勢制御が要求される。特許文献1に記載された技術は浮揚ガスの圧力だけを制御するものであり、低空において飛行船の精密な姿勢制御を行うのは困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載された技術では、その時点における周囲の風速と風向を推定して、その情報に基づいて飛行船を制御している。しかしながら、飛行船が低空を進む際には地形の変化等の影響を受けるため、周囲の気流は目まぐるしく変化する。現時点の情報のみに基づく制御では、そのような急激な変化に応じて適切な飛行ルートを選択することができない。
【0009】
このように、従来の技術を用いた飛行船では、精密に姿勢を制御することや、絶えず変化する周囲の気流等に対応して飛行ルートを選択することは極めて困難である。このため、災害発生時等の種々の用途において要求される、高度なレベルでの飛行船の無人飛行を実現することはできなかった。
【0010】
本発明は上述の事情の下になされたもので、低空における精密な姿勢制御及び適切な飛行ルートの選択を可能とすることにより、災害発生時等の用途において要求される安定した無人飛行が実現できる自律型飛行体を提供することを目的とする。さらに本発明は、所定時間経過後の飛行地点における気象状態を予測することによって、より精密な姿勢制御ができる自律型飛行体を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、自律型飛行体について低空における精密な姿勢制御及び適切な飛行ルートの選択を可能として、安定した無人飛行をさせることができる自律型飛行体の自律制御方法及び自律制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る自律型飛行体は、
左右の主翼と、方向舵を備えた左右の尾翼とを有する飛行体本体と、
該飛行体本体の船尾及び前記左右の主翼に設けられ正転と反転が可能な推進用回転翼と、
前記左右の主翼の上面に設けられた左右の主翼上面制御回転翼と、
前記飛行体本体の両側面に設けられ正転と反転が可能な側面推進用回転翼と、
前記飛行体本体の下面の船首側と船尾側に設けられた船首側方向舵及び船尾側方向舵と、
前記船首方向舵及び前記船尾方向舵の側面に設けられた船首制御回転翼及び船尾制御回転翼と、
前記飛行体本体の左右側面に設けられ重力バランスを調整するバランス調整体と、
該バランス調整体を制御する重力バランス制御手段と、
前記推進用回転翼、前記主翼上面回転翼、前記側面推進回転翼、船首制御用回転翼及び船尾制御用回転翼に動力を供給して回転させる動力供給源と、
該動力供給源による供給を調整して回転を制御する回転制御手段と、
前記尾翼方向舵と、前記船首及び船尾方向舵を制御する方向舵制御手段と、
を備える。
【0013】
前記左右の主翼に設けられた推進用回転翼は、その回転軸が左右の主翼面に対して90度以上回動可能であることとしてもよい。
【0014】
前記左右の主翼上面回転翼、前記船首制御回転翼及び前記船尾制御回転翼は独立して回転する複数のプロペラを有し、該複数のプロペラのうち一部のプロペラの回転による推進力が残部のプロペラの回転による推進力と逆方向であることとしてもよい。
【0015】
前記自律型飛行体は飛行船であって、
前記飛行体本体及び前記左右の重力バランス調整体は内部に浮揚性気体が充填された気嚢であり、
前記重力バランス制御手段は、前記飛行体本体及び前記左右の重力バランス調整体の内部の気圧を制御することとしてもよい。
【0016】
さらに衛星測位システムによる位置情報を受信する位置情報受信機を備え、該位置情報に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0017】
さらに外部の風向、風速及び気温を測定する外部センサを備え、該外部センサの測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0018】
さらに進行方向の風速を測定する風速測定器を備え、該風速測定器の測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0019】
さらに人工知能を利用した分析装置を備え、
前記位置情報受信機により取得した位置情報により所定間隔の3次元マトリックスを形成し、
前記分析装置を用いて飛行速度から割り出した時間軸を加えた4次元マトリックスを形成することにより、進行方向の情報を予測して最適な飛行経路を算出することとしてもよい。
【0020】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0021】
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る自律型飛行体の制御方法は、
前記自律型飛行体の種類と、少なくとも1つのルートとに対応する、複数の飛行の記録された監視データを読み出すことと、前記記録された監視データから前記自律型飛行体の飛行パターンを推測することと、推測された前記飛行パターンを使用して、再構築された飛行ルートを計算することと、特定の自律型飛行体の種類及びルートに対応する飛行パターンと前記再構築された飛行ルートを含むデータセットを選択し、機械学習アルゴリズムを適用して、前記自律型飛行体の状態と動作との間の相関関数を取得することと、を含む飛行前データ取得ステップと、
前記自律型飛行体の搭載センサのデータを繰り返し読み出すことと、 前記搭載センサのデータからリアルタイムの自律型飛行体の状態を取得することと、前記相関関数を使用して前記リアルタイムの自律型飛行体の状態に関連する動作を決定することと、決定された動作を前記自律型飛行体において実行することと、を含む飛行動作実行ステップと、
を備える。
【0022】
さらに進行方向の風速を測定する風速測定器を備え、該風速測定器の測定値に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0023】
さらに、上記目的を達成するために、本発明の第3の観点に係る自律型飛行体の制御装置は、
人工知能を利用した分析装置を備え、
前記位置情報受信機により取得した位置情報により所定間隔の3次元マトリックスを形成し、
前記分析装置を用いて飛行速度から割り出した時間軸を加えた4次元マトリックスを形成することにより、進行方向の情報を予測して最適な飛行経路を算出する。
【0024】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【0025】
自律型飛行体の飛行予定方向に向けて電磁波を放射し、その大気中での散乱波を受信し、前記放射した電磁波と散乱した電磁波との間の周波数のドップラーシフト量に基づき、放射軸方向の遠隔風速を計測する計測部と、
前記自律型飛行体の揚力を制御する舵と、
前記計測部での計測結果に基づき、前記自律型飛行体が突風を受けることが判明した場合に、揚力傾斜が少ない迎角を算出するとともに、揚力が変化しないような前記揚力を制御する 舵の角度を算出する制御演算部と、
を具備することとしてもよい。
【0026】
算出した前記最適な飛行経路に基づいて前記重力バランス制御手段及び/又は前記回転制御手段及び/又は前記方向舵制御手段による制御が実行されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低空における精密な姿勢制御と適切な飛行ルートの選択が可能となり、災害発生時等の用途において要求される安定した無人飛行ができる自律型飛行体を実現することができる。また、本発明によれば、所定時間経過後の飛行地点における気象状態を予測することによって、より精密な姿勢制御ができる自律型飛行体が実現される。また、本発明によれば、自律型飛行体について低空における精密な姿勢制御及び適切な飛行ルートの選択を可能として、安定した無人飛行をさせることができる自律型飛行体の自律制御方法及び自律制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の自律型飛行体の実施例1に係る自律制御飛行船の長所と応用について説明する模式図である。
【
図2】実施例1に係る自律制御飛行船の全体構造を示す平面図(a)及び左側面図(b)である。
【
図3】実施例1に係る自律制御飛行船を船首側から見た正面図(a)と、船尾側から見た背面図(b)である。
【
図4】実施例1の左右の主翼に設けられたEV翼の拡大図(a)とEV翼による気流の発生を示す説明図(b)である。
【
図5】実施例1の自律制御飛行船の主翼に設けられたEV翼による気流の発生をさらに詳細に示す説明図である。
【
図6】実施例1のEV翼を遮蔽する遮蔽板の位置を示す拡大図(a)及び遮蔽の方法を示す拡大図(b)である。
【
図7】実施例1の自律制御飛行船の主翼先端に設けられた推進翼による前進気流(a)及び停止気流(b)を示す平面図である。
【
図8】実施例1の自律制御飛行船の主翼先端に設けられた推進翼を90度回転させることによる上昇気流(a)及び下降気流(b)を示す正面図である。
【
図9】実施例1の自律制御飛行船の前後の方向舵に設けられたEV翼の拡大を示す左側面図である。
【
図10】実施例1の自律制御飛行船の本体気嚢の下面に設けられた左右4個のバランス調整気嚢を示す底面図(a)及びバランス調整の方法を示す説明図(b)である。
【
図11】実施例1に係る自律制御飛行船における周辺データの収集に基づいた飛行ルートの選択方法を説明する模式図である。
【
図12】実施例1に係る自律制御飛行船における姿勢制御の第1の例を示す説明図である。
【
図13】実施例1の自律制御飛行船における第2の姿勢制御を示す図である。
【
図14】実施例1の自律制御飛行船における第3の姿勢制御を示す図である。
【
図15】実施例1の自律制御飛行船の人工知能を用いた制御に用いられるマトリックスを示す模式図である。
【
図16】実施例1のマトリックスを形成するために用いられる影響度の数値化について説明する模式図である。
【
図17】実施例1のマトリックスを形成するために用いられる影響度の数値化について説明する模式図である。
【
図18】実施例1のマトリックスを形成するために用いられる気象衛星データについて説明する模式図である。
【
図19】実施例1において取得した飛行影響度レベルを縦軸マトリックスに適用する手順を示す模式図である。
【
図20】実施例1において取得した飛行影響度レベルを縦軸マトリックスに適用する手順を示す模式図である。
【
図21】実施例1における観測エリア内及び観測エリア外における縦軸方向のデータの取得を示す模式図である。
【
図22】実施例1において取得した飛行影響度レベルを横軸マトリックスに適用する手順を示す模式図である。
【
図23】実施例1の自律制御飛行船における飛行ルート選定に用いられる三次元マトリックスを示す図である。
【
図24】実施例1の自律制御飛行船における飛行ルート選定に用いられる三次元マトリックスを示す図である。
【
図25】実施例1において収集された種々の情報値の解析手順をまとめて示す模式図である。
【
図26】本発明の自律型飛行体の実施例2に係る自律制御飛行船の内部構造を示す縦断面図及び横断面図である。
【
図27】実施例2に係る自律制御飛行船を構成する浮揚体ブロックを示す説明図である。
【
図28】実施例2の自律制御飛行船の内部構造を示す縦断面図である。
【
図29】実施例2の自律制御飛行船の3か所における横断面図である。
【
図30】実施例2の自律制御飛行船のブロック構成を示す説明図である。
【
図31】本発明の自律型飛行体の実施例3に係る自律制御飛行船の全体構成を示す正面図である。
【
図32】実施例3の自律制御飛行船の本体部分のみを示す(a)平面図及び(b)正面図である。
【
図33】実施例3の自律制御飛行船の全体構成を示す平面図である。
【
図34】実施例3の自律制御飛行船の全体構成を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態に係る自律型飛行体は、主翼と尾翼とを有する飛行体本体において、船尾と主翼と飛行体本体の両側面とに推進用の回転翼が設けられ、尾翼及び飛行体本体の下面船首側と船尾側には方向舵が取付けられている。さらに、主翼の上面と飛行体本体の下面の方向舵とには、飛行体本体の姿勢を制御するための回転翼を備え、左右側面には重力バランスを調整するバランス調整体が設けられている。
【0030】
本実施の形態に係る自律型飛行体は、これらの回転翼と、方向舵と、バランス調整体とを同時に制御することにより、低空を飛行する際にも安定した姿勢を保持することができる。ここで、バランス調整体は、飛行体本体の重力バランスを調整することによって飛行体本体の姿勢が乱れるのを防ぐために用いられる。バランス調整体は飛行体本体の左右に設けられ、さらに左右の前方(船主側)及び後方(船尾側)にそれぞれ設けられることが好ましい。
【0031】
バランス調整体としては、例えば浮揚性の気体を充填した左右一対の気嚢を用いることができる。また、バランス調整体として、重量を有する容器の位置を調整体の中で移動させることにより、重心の位置を変化させる方式を用いることもできる。重量を有する容器としては、例えば液体を充填した容器が考えられる。液体としては、水や、等の不燃性液体、高圧で液化した水素や酸素、窒素等をボンベ充填したもの等が考えられる。
【0032】
本実施の形態に係る自律型飛行体は、例えば、浮揚性の気体を用いる飛行船を主体とすることができる。自律型飛行体としての飛行船は、浮揚性の気体を収容する気嚢からなる本体と、本体気嚢に取付けられた主翼及び尾翼と、船尾と主翼と本体の両側面に設けられた推進用の回転翼と、尾翼及び本体気嚢の下面船首側と船尾側に取付けられた方向舵を備えている。主翼の上面と本体気嚢の下面の方向舵とには、飛行船の姿勢を制御するための回転翼を備え、左右側面には重力バランスを調整するバランス調整体として、バランス調整用気嚢を備えている。
【0033】
このような構成を有する飛行船は、回転翼、方向舵、バランス調整用気嚢を同時に制御することにより、低空を飛行する際にも安定した姿勢を保持することができる。さらに、この飛行船は、種々のセンサや測定機を用いて情報を集め、それらの情報を解析する解析手段を装備することによって、自律的に姿勢を制御するとともに適切な飛行ルートを選択することができる。すなわち、かかる飛行船は、姿勢と方向の自動制御により無人飛行が可能な自律制御飛行船となる。
【0034】
飛行船の本体を構成する気嚢としては、浮揚性の気体を閉じ込められる気密性素材からなる袋状の容器が使用される。従来の飛行船の気嚢は、浮揚性の気体を充填すると飛行船本体の形状に膨らむ袋状に形成されている。気嚢は内部に隔壁のない一体の袋状でもよく、内部が隔壁によって複数の部屋に分割されていてもよい。気体を閉じ込められる気密性素材としては、気密性の合成樹脂(プラスチック)シート、合成樹脂フィルム、又は合成繊維(プラスチックファイバー)の編織物等を用いることができる。自律制御飛行船の長距離飛行を可能にする観点から、気密性と軽量性と強度を兼ね備えた素材を用いることが好ましい。かかる素材としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム(例えば、株式会社クラレの商品名「エバール」等)、ポリエステルファイバーからなる合成繊維布等がある。このような気嚢に充填される浮揚性の気体としては、例えばヘリウムを用いることができる。
【0035】
また、飛行船本体の形状を有する外側膜の内部に、気密性素材から構成され浮揚性の気体が充填されたブロックを複数収納することによって、気嚢が形成される構造としてもよい。このようなブロックは、上述した気嚢と同様に、EVOHフィルム等の気密性と軽量性と強度を兼ね備えた膜状素材を用いて構成される。このような構造においては、飛行船本体の形状を有する外側膜の内部に複数のブロックを三次元的に配置する必要があるため、膜状素材を剛性線状部材で補強して、略直方体(立方体を含む)の形状を保持させることが好ましい。このような剛性線状部材としては、軽量性と強度を兼ね備えた金属製パイプ、例えばアルミニウム合金製パイプやチタン合金製パイプ等が好ましく用いられる。
【0036】
このように複数のブロックを組み合わせて飛行船本体を形成する構造の利点として、飛行船の運搬が容易になることと、製造工程が簡略化されることが挙げられる。特に、飛行船の運搬に関しては、一体型の気嚢からなる飛行船本体に浮揚性の気体が充填された状態では、大きさの点から離陸地点まで搬送することが困難であった。しかし、このように飛行船本体を複数の小型のブロックに分割することによって、トラック等で容易に搬送することができる。また、このような小型のブロックは浮揚性の気体が充填された状態でも容積が小さいため、一体型の飛行船本体と比較して保管場所の確保も容易である。さらに、飛行船の大きさが変化しても、同じブロックを用いて使用する個数を変えるだけで、飛行船本体を形成できる。すなわち、飛行船の大きさに関わらず同一のブロックで対応できるので、製造工程が統一されて製造コスト低減の効果も得られる。
【0037】
このような自律制御飛行船においては、長距離の無人飛行を可能にするために、浮揚性の気体を充填する気嚢を構成する材料として、気密性と軽量性と強度を兼ね備えた合成樹脂シート等の素材を用いることが好ましい。かかる素材は本体気嚢だけでなく、バランス調整用気嚢にも用いられることが好ましい。バランス調整用気嚢は、本体気嚢の左右だけでなく、左右の船主側及び船尾側にもそれぞれ設けられることが好ましい。これらの本体気嚢及びバランス調整用気嚢に充填される浮揚性気体としては、例えばヘリウムを用いることができる。
【0038】
本実施の形態に係る自律型飛行体は、浮力の飛行船と揚力の航空機とを合体した新しい航空機物流システムとなる。このような自律型飛行体には、垂直離着陸飛行・水平飛行・定点飛行を実現するために、電気エネルギーを大量に生産できる空間発電所を搭載する必要がある。この機能を安定させるために、気象を予測して危険を及ぼす自然現象を避け自律的に安全な航路に導く気象解析人工知能(以下「飛行体AI」という。)を搭載する。飛行体AIに判断されるデータにより、飛行体の稼働部を制御することを「飛行体AI姿勢制御」という。飛行体AI姿勢制御によって気象データを事前に把握し予測することで、危険を察知して安全で安心な自律型飛行が可能となる。このようにして、本実施の形態に係る自律型飛行体は、無人航空機産業に寄与する。
【0039】
飛行体の無線は2系統に分かれており、本船外部無線システム及び本船内部無線システムとなっている。本船外部無線システムは、気象衛星データ直接受信(地上ネットワーク上障害発生時バックアップ機能)、GNSS(QZS:日本のみちびき準天頂衛星・GPS:アメリカ位置情報衛星・GALILEO:EU位置情報衛星・GLONASS:ロシア位置情報衛星)受信にて空間移動型基準点を構成する、衛星通信送受信(本船補足位置情報バックアップ回線・遠隔操縦バックアップ回線、画像バックアップ回線)、陸上無線双方回線(許可された無線回線、Wi-Fi回線、ラジオコントロール回線、携帯回線 などは、自律型であっても遠隔操縦を行える環境が必要)、無人航空機監視回線(地上特定回線)とし、送受信を行う場合には、生態認証&識別スクランブル通信によりハッキングを阻止する。
【0040】
本船内部無線回線システムは、自己修復を行わせるために、制御部と稼働部を結ぶ回線・センサと中枢部、本船外部無線システム装置と制御部を結ぶ回線が3通り(電力供給線併設通信、信光ファイバーネットワーク通信、無線ネットワーク通信)用意される。基本は、電力供給併設通信、光ファイバー2系統(電力供給を分ける方法と故障対策)、無線回線とする場合にも、生態認証&識別スクランブル通信によりハッキングを阻止する。
【実施例0041】
以下、本発明に係る自律型飛行体の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は本発明をさらに具体的な例によって説明するためのものであり、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係る自律型飛行体としての自律制御飛行船について、その具体的な構造と各部の動作及び姿勢制御方法を
図1から
図14までを参照して説明する。本実施例1に係る自律制御飛行船10は、無人による低空飛行における精密な姿勢制御と適切な飛行ルートの選択が可能な自律型飛行体である。
【0043】
最初に、本実施例1に係る自律制御飛行船10を従来の飛行船と比較した長所とその応用について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施例1の自律制御飛行船10の長所と応用について説明する模式図である。重量物の運搬手段として飛行船を用いる技術は、従来から開発されている。しかし、従来の飛行船は、離着陸の際に飛行機と同様に水平方向にも移動しながら上昇及び降下を行うことから、一定の長さ以上の滑走路を備えた飛行場が必要であった。
【0044】
これに対して、実施例1の自律制御飛行船10は、以下に説明するように、浮揚性の気体が充填された気嚢だけでなく主翼の上面及び先端に上昇及び下降用の回転翼を備えている。これによって、より大きな上昇力が得られるとともに、回転翼により下降力を発生させて垂直に着陸することが可能となる。したがって、
図1に示されるように、まず搬送物W1を積載した後に垂直に上昇して飛行高度に達した後、水平飛行して目的地の上空に到達する。そして、回転翼の下降力を用いて垂直に降下して、目的地に搬送物W1を降ろす。このようにして、実施例1の自律制御飛行船10は、滑走路を用いることなく上昇、目的地までの水平飛行、及び降下を行うことができる。加えて、回転翼を制御することによってホバリングを行うことができ、空中で姿勢を保ちつつ位置を保持することが可能である。したがって、定点飛行を行うこともできる。このような優れた特徴は、後述する実施例2及び3の自律制御飛行船100及び150も共通して備えている。
【0045】
次に、本実施例1に係る自律制御飛行船について、その具体的な構造を
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本発明の実施例1に係る自律型飛行体としての自律制御飛行船10の全体構造を示す(a)平面図及び(b)左側面図である。
図3は、本実施例1に係る自律制御飛行船10を(a)船首側から見た正面図と、(b)船尾側から見た背面図である。
【0046】
図2(a)の平面図に示されるように、本実施例1に係る自律制御飛行船10は、飛行体本体としての、浮揚性の気体を充填した本体気嚢11と、本体気嚢11の左右に設けられた主翼12A及び12Bと、左右の尾翼16A及び16Bを含む4枚の尾翼とを有する。本体気嚢11の船尾と、左右の主翼12A及び12Bの先端部14A、14Bには、正転と反転が可能な推進用回転翼17、15A、15Bが設けられている。
【0047】
ここで、先端部14A、14Bは、主翼12A、12Bに対して本体気嚢11の左右方向に伸びる水平軸の回りに360度回転可能に取り付けられている。したがって、後で
図8を参照して説明するように、先端部14A、14Bが主翼12A、12Bに対して90度回転することによって、推進用回転翼15A、15Bの噴出口を真上方向又は真下方向に向けることができる。なお、先端部14A、14Bは、主翼12A、12Bに対して360度回転可能でなくてもよく、推進用回転翼15A、15Bの噴出口が真上方向及び/又は真下方向に向くまで、どちらか一方又は両方向に90度回転可能であってもよい。
【0048】
さらに、主翼12A及び12Bの上面には、主翼上面制御回転翼13A及び13Bが設けられている。後で
図6を参照して説明するように、主翼上面制御回転翼13A及び13Bには、それらをカバーする回転翼遮蔽版が設けられている。また、本体気嚢11の上面には、気象衛星から発信される気象情報等の通信電波を受信する受信機30が取り付けられ、本体気嚢11の船首部分には、前方の気象データを収集するためのセンサ33が取り付けられている。
【0049】
また、本実施例1の自律制御飛行船10は、
図2(b)の左側面図と、
図3(a)の正面図及び(b)の背面図に示されるように、本体気嚢11の左右の側面14C、14Dにも側面推進用回転翼15C、15Dを備えている。これらの側面推進用回転翼も、上記の推進用回転翼17、15A、15Bと同様に、正転と反転が可能となっている。これらの回転翼を正転させることによって後方に風圧が生じ、自律制御飛行船10は前方に進む。一方、これらの回転翼を反転させると前方に向かって風圧が生じ、航行している自律制御飛行船10にブレーキを掛けることができる。
【0050】
さらに、
図2及び
図3(b)に示される船尾の推進用回転翼17は、図示しない屈曲構造により、風圧の噴出口を垂直方向に向けることが可能な構成を有している。したがって、推進用回転翼17の噴出口を垂直に上方向又は下方向に向けて回転させることによって、本体気嚢11の船尾を上下させることができる。この船尾を上下させる制御が加わることにより、自律制御飛行船10の姿勢制御をより精密に行うことが可能になる。
【0051】
図2(b)及び
図3(a)、(b)に示されるように、自律制御飛行船10の本体気嚢11の下面には、船首側と船尾側に、それぞれ船首方向舵23A及び船尾方向舵23Bが設けられている。船首方向舵23Aと船尾方向舵23Bの側面には、船首制御回転翼24Aと船尾制御回転翼24Bがそれぞれ設けられている。方向舵23A、23Bを作動させることによって、自律制御飛行船10の進行方向が調整される。また、回転翼24A、24Bを回転させることによって、自律制御飛行船10の水平方向の位置ずれが補正される。
【0052】
また、
図2(b)及び
図3(a)、(b)に示されるように、本体気嚢11の左右の側面下方には、重力バランスを調整する左右4個のバランス調整用気嚢21A、21B、22A、22Bが設けられている。これらのバランス調整用気嚢21A、21B、22A、22Bは、本体気嚢11の下面に取付けられた制御装置31によって、本体気嚢11の重力バランスを調整するように制御される。これによって、自律制御飛行船10の姿勢制御の精度がさらに向上する。
【0053】
推進用回転翼、主翼上面回転翼、側面推進回転翼、船首制御用回転翼及び船尾制御用回転翼には、動力供給源としての蓄電池32から電力が供給されて、各回転翼が回転する。また、制御装置31は、バランス調整体としてのバランス調整用気嚢21A、21B、22A、22Bを制御するだけでなく、蓄電池32からの電力の供給をも制御して、各回転翼の回転を制御する。さらに、制御装置31によって、尾翼方向舵、船首及び船尾方向舵の作動も制御される。
【0054】
以上の説明より、自律制御飛行船10の本体気嚢11は、本発明における、左右の主翼12A及び12Bと方向舵を備えた左右の尾翼16A及び16Bとを有する、飛行体本体に相当する。また、推進用回転翼17、15A、15Bは、本体気嚢11の船尾と、左右の主翼12A及び12Bの先端14A、14Bに設けられた、正転と反転が可能な推進用回転翼に相当する。さらに、推進用回転翼15A、15Bは、その回転軸が左右の主翼面に対して90度以上回動可能な、左右の主翼12A及び12Bに設けられた推進用回転翼に相当する。
【0055】
さらに、主翼上面制御回転翼13A及び13Bは、本発明における、左右の主翼12A、12Bの上面に設けられた主翼上面制御回転翼に相当し、側面推進用回転翼15C、15Dは、本体気嚢11の両側面に設けられ、正転と反転が可能な側面推進用回転翼本体に相当する。また、船首方向舵23A及び船尾方向舵23Bは、本発明における本体気嚢11の下面の船首側と船尾側に設けられた船首側方向舵及び船尾側方向舵に相当する。
【0056】
また、船首制御回転翼24Aと船尾制御回転翼24Bは、本発明における、船首方向舵23Aと船尾方向舵23Bの側面に設けられた船首制御回転翼及び船尾制御回転翼に相当する。4個のバランス調整用気嚢22A、22B、22C、22Dは、本体気嚢11の左右側面に設けられて、重力バランスを調整するバランス調整体に相当する。そして、制御装置31は、本発明におけるバランス調整体を制御する重力バランス制御手段に相当する。
【0057】
さらには、蓄電池32は、本発明における推進用回転翼、主翼上面回転翼、側面推進回転翼、船首制御用回転翼及び船尾制御用回転翼に動力を供給して回転させる動力供給源に相当する。また、制御装置31は、動力供給源による供給を調整して回転を制御する回転制御手段に相当する。そして、制御装置31は、尾翼方向舵と、船首及び船尾方向舵を制御する方向舵制御手段に相当する。
【0058】
次に、本実施例1の自律制御飛行船10における姿勢制御の方法について、
図4から
図14までを参照して説明する。
図4は、本実施例1に係る自律制御飛行船の左右の主翼に設けられた(a)EV翼の拡大図と(b)EV翼による気流の発生を示す説明図である。
図5(a)~(d)は、本実施例1に係る自律制御飛行船の主翼に設けられたEV翼による気流の発生をさらに詳細に示す説明図である。
【0059】
図4(a)の拡大図に示される主翼上面制御回転翼13A及び13Bのうち、右舷の主翼上面制御回転翼13Aをさらに拡大して示したものが
図4(b)である。
図4(b)に示されるように、主翼上面制御回転翼13Aは3基の右舷前部回転翼40Aaと3基の右舷後部回転翼40Abから構成されている。そして、右舷前部回転翼40Aa及び右舷後部回転翼40Abのプロペラ41Aa、41Abは水平面に対して僅かに傾斜している。その傾斜方向は、6個のプロペラのうちプロペラ41Aaとプロペラ41Abとで交互に逆になっている。すなわち、プロペラ41Aaの水平面に対する傾斜方向は、プロペラ41Abの傾斜方向とは逆である。
【0060】
このように主翼上面制御回転翼13A、13Bにおいて、それらを構成するプロペラ(右舷においてはプロペラ41Aa、41Ab)の水平面に対する傾斜が1つおきに反対になっていることによって、主翼12A、12Bに風が当たった場合の風の流れが姿勢を制御する方向にコントロールされる。すなわち、
図4(b)に示されるように、主翼上面制御回転翼13Aに風が当たると、プロペラ41Aaにおいては下向きの気流42Aaが生じ、プロペラ41Abにおいては上向きの気流42Abが生じる。
【0061】
図5を参照してより詳細に説明すると、
図5(a)に示されるように、プロペラ41Aaが水平面に対して角度αだけ傾斜している右舷前部回転翼40Aaにおいては、
図5(b)に示されるように主翼前方から風を受けた場合、主翼上部気流の速度が主翼下部気流の速度を上回るため、下向きの気流が生じて、プロペラ41Aaが主翼を上昇させる方向に回転する。
【0062】
これに対して、
図5(c)に示されるように、プロペラ41Abが水平面に対して角度βだけ逆方向に傾斜している右舷後部回転翼40Abにおいては、
図5(d)に示されるように主翼前方から風を受けた場合、主翼上部気流の速度が主翼下部気流の速度を下回るため、上向きの気流が生じて、プロペラ41Abは主翼を下降させる方向に回転する。
【0063】
すなわち、主翼上面回転翼13A、13Bにおいては、プロペラ41Abの回転による推進力がプロペラ41Abのプロペラの回転による推進力と逆方向である。したがって、主翼上面回転翼13A、13Bは、独立して回転する複数のプロペラを有し、該複数のプロペラのうち一部のプロペラの回転による推進力が残部のプロペラの回転による推進力と逆方向である左右の主翼上面回転翼に該当する。船首制御回転翼24Aと船尾制御回転翼24Bも、これらの主翼上面回転翼13A、13Bと同様に、3枚のプロペラの回転による推進力が他の3枚のプロペラの回転による推進力と逆方向である構成を有している。
【0064】
これらの主翼上面回転翼13A、13Bは、特に自律制御飛行船10の水平航行時において風圧がかかるため、抵抗によるエネルギー消費が多くなる場合がある。そこで、
図6に示されるように、必要に応じて主翼上面回転翼13A、13Bを遮蔽することができる回転翼遮蔽版が設けられている。具体的には、
図6(a)に示されるように、右舷においては、右舷前部回転翼遮蔽版44Aaと右舷後部回転翼遮蔽版44Abとが設けられている。これらの右舷前部回転翼遮蔽版44Aaと右舷後部回転翼遮蔽版44Abとは、
図6(b)に示される方向にしたがって開閉が行われる。これによって、自律制御飛行船10の水平航行時において、風圧によるエネルギー消費を大幅に低減することができる。
【0065】
次に、自律制御飛行船10を航行時に加速及び減速させる方法について、
図7を参照して説明する。
図7は、本実施例1に係る自律制御飛行船の主翼先端に設けられた推進翼による(a)前進気流及び(b)停止気流を示す平面図である。
図7(a)に示されるように、左右の主翼12A、12Bの先端の推進翼15A及び15Bを正転させると、後方に風圧45Aが発生して、自律制御飛行船10の航行は加速される。これに対して、
図7(b)に示されるように左右の主翼12A、12Bの先端の推進翼15A及び15Bを反転させると、前方に風圧45Bが発生して、自律制御飛行船10の進行にブレーキがかかり、航行速度は低下する。
【0066】
次に、自律制御飛行船10を航行時に上昇及び下降させる方法について、
図8を参照して説明する。
図8は、本実施例1に係る自律制御飛行船の主翼先端に設けられた推進翼を垂直方向に向けて(a)上昇及び(b)下降を行うことを示す正面図である。上述したように、先端部14A、14Bは、主翼12A、12Bに対して水平軸の回りに360度回転させることが可能である。したがって、先端部14A、14Bが主翼12A、12Bに対して90度回転することによって、推進用回転翼15A、15Bの噴出口を真上方向又は真下方向に向けることができる。
図8(a)に示されるように、推進用回転翼15A、15Bの噴出口を真下に向けて正転させると、下方に風圧が発生して、自律制御飛行船10を上昇させることができる。これに対して、
図8(b)に示されるように、推進用回転翼15A、15Bの噴出口を真上に向けて正転させると、上方に風圧が発生して、自律制御飛行船10を下降させることができる。
【0067】
次に、自律制御飛行船10の左右の航行方向を制御する方法について、
図9を参照して説明する。
図9は、本実施例1に係る自律制御飛行船の前後の方向舵に設けられたEV翼の拡大を示す左側面図である。
【0068】
図9に示されるように、自律制御飛行船10の本体気嚢11の下面には、船首側に船首方向舵23Aが、船尾側に船尾方向舵23Bが設けられている。さらに拡大図に示されるように、船首方向舵23Aの側面には船首制御回転翼24Aが設けられ、船首方向舵23Aの後端にはフラップ28Aが回動可能に取り付けられている。同様に、船尾方向舵23Bの側面には船尾制御回転翼24Bが設けられ、船尾方向舵23Bの後端にはフラップ28Bが回動可能に取り付けられている。これらの方向舵23A、23Bのフラップ28A、28Bを左右方向に回動させることによって、自律制御飛行船10の進行方向を変えることができる。また、これらの方向舵23A、23B側面の回転翼24A、24Bを回転させることによって、本体気嚢11の側面方向に風圧が生じるため、自律制御飛行船10の左右の位置や進行方向を微調整することができる。これによって、自律制御飛行船10の水平方向の位置ずれが補正され、姿勢制御がなされる。
【0069】
さらに、これらの回転翼24A、24Bにおいては、上記の
図4(a)の拡大図で説明した主翼上面制御回転翼13A、13Bと同様に2種類のプロペラが回転するだけでなく、6基のプロペラを有する回転翼24A、24Bの全体が、方向舵23A、23Bの側面の面内で左右にそれぞれ90度ずつ回転する。それだけでなく、回転翼24A、24Bは、その全体が自律制御飛行船10の左右の主翼と平行になるように、方向舵23A、23Bの側面に対しても回転する。このように回転翼24A、24Bの全体が方向舵23A、23Bの側面の面内で、又は側面から外れる方向に回転することによって、自律制御飛行船10に対して下向きの力をかけることができる。これによって、自律制御飛行船10に過大な揚力が働いて高度がずれるのを防いで、位置及び姿勢を制御することができる。
【0070】
次に、自律制御飛行船10の本体気嚢11のバランスを制御する方法について、
図10を参照して説明する。
図10は、本実施例1に係る自律制御飛行船の本体気嚢の下面に設けられた左右4個のバランス調整気嚢を示す(a)底面図及びバランス調整の方法を示す(b)説明図である。
【0071】
図10(a)の底面図に示されるように、自律制御飛行船10の本体気嚢11の下面には、左右4個のバランス調整気嚢21A、21B、22A、22Bが取り付けられている。これらのバランス調整気嚢21A、21B、22A、22B内のヘリウムガスの充填量を調整することによって、外部気流や外部気温や気圧の変化等に起因する本体気嚢11のバランスの崩れを解消させることができる。
図10(b)に示されるように、バランス調整気嚢21A、21B、22A、22B内のヘリウムガスの充填量は、制御装置31によって制御される。
【0072】
次に、自律制御飛行船10が無人飛行において自動的に飛行ルートを選択する方法の概略について、
図11を参照して説明する。
図11は、本実施例1に係る自律制御飛行船における周辺データの収集に基づいた飛行ルートの選択方法を説明する模式図である。
図11に示されるように、自律制御飛行船10は、航行にしたがってその周囲に収集した種々の情報からマトリックスを形成する。情報としては、自律制御飛行船10の上部に搭載された受信機30が、「みちびき」を始めとする気象衛星から発信される気象情報や位置情報と、本体気嚢11の船首部分に取り付けられたセンサ33による前方の気象データ等が用いられる。センサ33による前方の気象データとしては、気流、気温、気圧、湿度、等がある。
【0073】
このようにセンサ33によってリアルタイムで収集したデータに基づいて、自律制御飛行船10の周辺情報が形成される。また、自律制御飛行船10の位置情報から、実線で示される基準位置情報マトリックスが形成される。一方、受信機30が気象衛星から取得した位置情報に基づいて、1点鎖線で示される気象衛星情報マトリックスが形成される。これらの周辺情報、基準位置情報マトリックス、及び気象衛星情報マトリックスを分析することによって、安全な航路が予測される。このようにして、自律制御飛行船10は、搭載している種々の進路制御機能を用いて予測された、安全な航路に沿って航行する。そして、この予測処理を一定時間間隔で行って、自律制御飛行船10の航路を修正しつつ航行することによって、安定した無人飛行が可能となる。搭載している種々の進路制御機能の具体的な内容については、
図15から
図25までを用いて後述する。
【0074】
次に、自律制御飛行船10の本体気嚢11のバランスを制御する方法の具体例について、
図12から
図14までを参照して説明する。
図12は、本実施例1に係る自律制御飛行船における姿勢制御の第1の例を示す説明図である。
図13は、本実施例1の自律制御飛行船における姿勢制御の第2の例を示す説明図である。
図14は、本実施例1の自律制御飛行船における姿勢制御の第3の例を示す示す説明図である。
【0075】
図12は、本実施例1に係る自律制御飛行船10の情報処理装置によって、左舷から風圧Xm/Sの風が吹くことが予測された場合を示している。左舷から風圧を受けることによって右舷が傾斜するのを防ぐため、
図12に示されるように、右舷の主翼上面回転翼13Aを、下向きの推進風を発生させる方向に回転させるとともに、左舷の主翼上面回転翼13Bを、上向きの推進風を発生させる方向に回転させる。これによって、
図12に示されるように、左舷から風圧Xm/Sの風が吹いても、右舷に上昇する力が作用して、風圧に起因する右舷の傾斜が相殺され、左右の主翼が水平に保たれる。このようにして、自律制御飛行船10の姿勢を安定に保持することができる。
【0076】
図13は、本実施例1に係る自律制御飛行船10の情報処理装置によって、船主の斜め下方から風圧Xm/Sの風が吹くことが予測された場合を示している。船首の下方から風圧を受けることによって船尾が傾斜するのを防ぐため、
図13に示されるように、船尾の推進回転翼17を90度回動して噴出口を下に向けて、下向きの推進風を発生させる方向に回転させる。これによって、
図13に示されるように、船主の斜め下方から風圧Xm/Sの風が吹いても、船尾を上昇させる力が作用して、風圧に起因する船尾の傾斜が相殺され、本体気嚢11の前後が水平に保たれる。このようにして、自律制御飛行船10の姿勢を安定に保持することができる。
【0077】
図14は、本実施例1に係る自律制御飛行船10の情報処理装置によって、自律制御飛行船10の周囲の気圧又は温度の変化によって、本体気嚢11が降下することが予測された場合を示している。気圧温度変化によって本体気嚢11が降下するのを防ぐため、
図14に示されるように、左右の主翼上面回転翼13A及び13Bを、下向きの推進風を発生させる方向に回転させる。これによって、
図14に示されるように、周囲の気圧又は温度の変化によって、本体気嚢11が降下する力が働いても、本体気嚢11を上昇させる力が作用して、気圧温度変化に起因する本体気嚢11の降下が防止され、本来の高度に保たれる。このようにして、自律制御飛行船10の姿勢を安定に保持することができる。
【0078】
次に、本実施例1の自律制御飛行船10における具体的な自律型姿勢制御の方法について、
図15から
図25までを参照して説明する。本実施例1の自律制御飛行船10は、制御装置に人工知能を用いることによって、より高精度で安全な航路を選択しつつ航行できることを特徴とする。
【0079】
図15は、実施例1の自律制御飛行船10の人工知能を用いた制御に用いられるマトリックスを示す模式図である。
図15に示されるように、本実施例1の自律制御飛行船10においては、緯度・経度・高度・標高を示すマトリックスを用いて、人工知能を応用した飛行ルート選定を行っている。
【0080】
このようなマトリックスを形成するために用いられる種々の数値レベルについて、
図16及び
図17を参照して説明する。
図16及び
図17は、
図15に示されるマトリックスを形成するために用いられる影響度の数値化について説明する模式図である。
【0081】
図16(a)に示されるように、飛行体に影響する要因として風速のレベルを数値化するために、情報値として緯度、経度、高度、気流方向、雲、気温、雨量、風向、風速、及び気圧の測定値が用いられる。これらのデータの測定値から、風速レベルが矢印の長さとして、また東西南北及び上下方向の風向角度が矢印の向きとして表される。そして、これらの数値レベルが矢印の大きさにより「小」、「中」、「大」の3段階で表される。さらに、その結果として、自律制御飛行船10の飛行に影響する影響度レベルが、矢印の色により「小=青」、「中=黄」、「大=赤」の3段階で表される。
【0082】
また、
図16(b)に示されるように、飛行体に影響する要因として雨量のレベルを数値化するために、情報値として緯度、経度、高度、気流方向、雲、気温、雨量、風向、風速、及び気圧の測定値が用いられる。これらのデータの測定値から雨量レベルが水滴の大きさとして、また東西南北の各降雨方向を示す風向角度が水滴の向きとして表される。そして、これらの数値レベルが水滴の大きさにより白色水滴の「雨量0」、青色水滴の「小」、「中」、「大」の4段階で表される。さらに、その結果として、自律制御飛行船10の飛行に影響する影響度レベルが、水滴の色と大きさによって「小雨=青色小水滴」、「中雨=黄色中水滴」、「大雨=赤色大水滴」の3段階で表される。
【0083】
さらに、
図17(a)に示されるように、飛行体に影響する要因として気圧及び気流量の方位のレベルを数値化するために、情報値として緯度・経度、高度、気流方向、雲・気温、温、雨量・風向・風速及び風圧の測定値が用いられる。これらのデータの測定値から、気圧気流量と東西南北各方向の風向角度が矢印の大きさ及び向きとして表される。そして、これらの数値レベルが矢印の大きさとして「高気圧=小」、「中気圧=中」、「低気圧=大」の3段階で表される。さらに、その結果として、自律制御飛行船10の飛行に影響する影響度レベルが、矢印の色と大きさによって「小=青色小矢印」、「中=黄色中矢印」、「大=赤色大矢印」の3段階で表される。
【0084】
また、
図17(b)に示されるように、飛行体に影響する要因として気候(天候・気温)のレベルを数値化するために、情報値として緯度・経度、高度、気流方向、雲・気温、温、雨量・風向・風速及び風圧の測定値が用いられる。これらのデータの測定値から、天候レベルが左半円の色として、気温レベルが右半円の色として、また東西南北各方向の風向角度が矢印の向きとして表される。そして、天候レベルが左半円の色により「晴れ=青色」、「曇り=白色」、「雨雲=灰色」の3段階で表される。また、気温レベルが右半円の色により「0度以下=白色+灰色」、「0度以下=黄色+白色」の2段階で表される。
【0085】
次に、
図15のマトリックスを形成するために用いられる気象衛星データの取得について、
図18を参照して説明する。
図18は、
図15のマトリックスを形成するために用いられる気象衛星データについて説明する模式図である。気象衛星からのリアルタイムのデータは、1時間おきに発信される。したがって、
図18の左側のブロックに矢印で示されるように、気象衛星からのデータは1時間間隔でしか取得できない。しかし、これに「AI縦軸時間予測アプリ」による予測データを組み合わせることによって、
図18の右側のブロックに矢印で示されるように、5分後の気象衛星からのデータを取得することができる。
【0086】
次に、上述したようにして数値化された種々の飛行影響度レベルをマトリックスに適用する手順について、
図19から
図24までを参照して説明する。
図19及び
図20は、
図16及び
図17に示されるようにして取得した飛行影響度レベルを縦軸マトリックスに適用する手順を示す模式図である。
図19の縦方向に示されるように、上記で取得した「風速」、「雨量」、「気圧・気流」及び「天候・気温」の各飛行影響度レベルは、それぞれ「飛行データ」として相対的に蓄積される。蓄積された飛行データが、縦軸方向について「飛行体AI解析分析縦軸アプリ」で数値分析されて、その結果が安全飛行を行うための飛行データとしてマトリックスに適用される。具体的には、
図19の右端列に示されるように、縦軸方向の格子状マトリックスを構成する着色ボックスとして表示される。
【0087】
そして、
図20に示されるように、得られた着色ボックスを、
図15に示される三次元マトリックスのうち縦軸格子状マトリックスの該当する位置に挿入する。このようにして配置した着色ボックスに沿って、縦軸格子状マトリックス中に影響ラインが表示される。この影響ラインが表示されたマトリックス状態を確認して、自律制御飛行船10の進行方向の解析が行われる。さらに、
図21の左側のマトリックスに示されるように、縦軸方向について、自律制御飛行船10の飛行中に5秒間隔でリアルタイムの空間データ観測が実施されて、自律制御飛行船10の観測エリア内における測定データが取得される。一方、
図21の右側のマトリックスに示されるように、自律制御飛行船10の観測エリア外の縦軸方向については、「飛行体AI仮想領域縦軸予測アプリ」によってAI予測された測定データが取得される。
【0088】
同様に、横軸方向についても、
図22に示されるように、「風速」、「雨量」、「気圧・気流」及び「天候・気温」の各飛行影響度レベルがそれぞれ「飛行データ」として相対的に蓄積される。蓄積された飛行データが、横軸方向について「飛行体AI解析分析横軸アプリ」で数値分析されて、その結果が安全飛行を行うための飛行データとしてマトリックスに適用される。具体的には、
図22の右端列に示されるように、横軸方向の格子状マトリックスを構成する着色ボックスとして表示される。
【0089】
さらに、
図23の三次元マトリックスに示されるように、自律制御飛行船10の横軸方向の観測エリア外についても、同様にして「AI仮想領域横軸予測アプリ」によってAI予測された測定データが取得される。このようにして、
図23及び
図24に示されるように、リアルタイム観測データを基準とした、自律制御飛行船10の周辺情報を三次元化したマトリックスが形成される。
【0090】
このようにして、
図15、
図23及び
図24に示されるように、実施例1の自律制御飛行船10においては、気象衛星が正確な情報を発信することができる高度とそれ以下の低空とを分けて処理することにより、低空を飛行する場合の位置情報取得の制度を向上させる手法を用いている。さらに、
図15、
図23及び
図24に示されるように、自律制御飛行船10においては、「AI仮想領域予測アプリ」を採用して三次元マトリックスを形成し、航路の気象条件等を予測して、安全な航路を選択する手法を採用している。これによって、必要でない場合には人工知能を用いた情報処理を行うことなく、安全な航路を選択することも可能となる。以上説明した自律制御飛行船10の進行方向の制御方法において、収集された種々の情報値の解析手順をまとめて
図25に示す。
【0091】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係る自律制御飛行船の構造について、
図26から
図28までを参照して説明する。本実施例2に係る自律制御飛行船100は、基本的な機能と特性については実施例1の自律制御飛行船10と共通しているが、構造はかなり相違している。また、実施例2の自律制御飛行船100は、自律制御飛行船10と比較して重量の大きい物資等の運搬を主目的としている。したがって、飛行船本体の大きさも、運搬可能な重量、すなわちペイロード(運搬能力)もより大きくなっている。本実施例2に係る自律制御飛行船100の大きさは、飛行船の大きさを表す概略長さで言えば、20m級から40m級の範囲に相当する。
【0092】
本実施例2の自律制御飛行船100の具体的な構造について、
図26を参照して説明する。
図26は、本実施例2に係る自律制御飛行船100の内部構造を示す縦断面図及び横断面図である。
図26に示されるように、自律制御飛行船100の外部形状は実施例1の自律制御飛行船10に類似している。しかし、その内部は、気嚢本体に相当する船体の内部に複数の浮揚体ブロックが積層され、その全体をさらに外面気嚢で覆った二重構造となっている。浮揚体ブロックは各々独立した空間にヘリウムガスが充填されたもので、これらの浮揚体ブロックが多数収容された外面気嚢の内部にも、ヘリウムガスが充填されている。このように自律制御飛行船100の外面気嚢の内部にもヘリウムガスが充填されていることによって、船体内部の気圧を調整することができる。また、船体内部の気圧が調整されることで船体のバランス調整機能をも有するため、自律制御飛行船100の空中姿勢を保つためにも有効となる。
【0093】
本実施例2における浮揚体ブロックは、全体が気密性シート材から構成され、浮揚性の気体が充填された直方体形状のブロックである。気密性素材としては、気密性の合成樹脂シート、合成樹脂フィルム、合成繊維の編織物等を用いることができる。自律制御飛行船100の長距離飛行を可能にする観点からは、気密性と軽量性と強度を兼ね備えた素材を用いることが好ましい。かかる気密性シート材としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム等がある。本実施例2の浮揚体ブロックにおいては、EVOHフィルムの一種である株式会社クラレの商品名「エバール」(登録商標)を用いている。
【0094】
図26に示される自律制御飛行船100の外面気嚢を構成する気密性素材にも、同様な特性が要求される。したがって、外面気嚢を構成する気密性素材として、浮揚体ブロックに用いられるのと同一の気密性シート材を用いることができる。自律制御飛行船100においては、外面気嚢にもEVOHフィルムである株式会社クラレの商品名「エバール」(登録商標)を用いている。
図26に示されるように、この外面気嚢の内部には、自律制御飛行船100の船首から船尾まで、それぞれの箇所の形状に応じた外形を有する浮揚体ブロックが積載されている。具体的な配置としては、
図27に示されるように、船首部分に9ブロック、船体本体部分に27ブロック、そして船尾部分に9ブロック+1ブロックの、合計46個の浮揚体ブロックが内蔵されている。
【0095】
この浮揚体ブロックの構造について、
図28を参照してさらに説明する。
図28は自律制御飛行船100の内部に積載された複数の浮揚体ブロックの一部を示した斜視図である。上述したように、浮揚体ブロックは気密性シート材から構成されヘリウムガスが充填された直方体形状のブロックであるが、形状を保持するために、直方体の12本の稜線全てに沿って剛性線状部材で補強されている。剛性線状部材としては、チタン合金製パイプ等が用いられている。このように直方体の枠組みが剛性の線材で形成されているため、内部にヘリウムガスが充填されていても、浮揚体ブロックの形状が崩れることがない。したがって、自律制御飛行船100の内部への浮揚体ブロックの挿入や積載が容易になり、浮揚体ブロックを必要な三次元構造に配置することができる。
【0096】
このように複数の浮揚体ブロックを組み合わせて自律制御飛行船100の飛行船本体を形成する構造の利点として、自律制御飛行船100の運搬が容易になることや、コストが低減できることが挙げられる。特に運搬に関しては、実施例1のような気嚢本体11を有する自律制御飛行船10においては、気嚢本体11にヘリウムガスが充填された状態では、かなりの大きさとなる。このため、通常のトラック等には積載することができず、保管地点から離陸地点まで搬送するのは困難である。しかし、本実施例2の自律制御飛行船100のように気嚢部分を複数の小型の浮揚体ブロックで構成すれば、浮揚体ブロックに分割してトラック等で容易に搬送ができる。また、このような小型のブロックは浮揚性の気体が充填された状態でも容積が小さいため、一体型の飛行船本体と比較して保管場所の確保も容易である。
【0097】
また、自律制御飛行船100の気嚢部分を複数の浮揚体ブロックで構成したことで、飛行船の大きさが変化しても、使用個数を変えれば同じ浮揚体ブロックで飛行船を構成できる。すなわち、飛行船の大きさに関わらず同一の浮揚体ブロックを用いることができるので、製造工程が統一されて部品の保管も容易になり、製造コストを低減することができる。
【0098】
自律制御飛行船100は、
図26及び
図27に示されるように46個の浮揚体ブロックを使用しており、20m級の大きさを有する。ここで、浮揚体ブロックの長さは約5mである。よって、自律制御飛行船100の船主気嚢部分を構成する27ブロックに、さらに9個×2列分の18個のブロックを追加すれば、1列が5mであるから30m級の大きさとなる。そして、浮揚体ブロック数を18個増加させたことによって、ペイロードも大きくなる。このように、本実施例2の自律制御飛行船100は、気嚢部分を複数の浮揚体ブロックで構成したことによって、飛行船の大きさが変化してもブロックの使用個数を変えるだけで飛行船を構成することができる。
【0099】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3に係る自律制御飛行船の具体的な構造について、
図29から
図32までを参照して説明する。本実施例3に係る自律制御飛行船150は、実施例2の自律制御飛行船100よりもさらに重い物体を搬送することを目的としている。したがって、飛行船本体の大きさ及び長さがさらに拡大しており、ペイロード(搬送能力)もさらに大きくなっている。具体的な応用としては、例えば、負傷者を治療する病室(治療設備)をそのまま搬送することを想定している。
【0100】
上記実施例2の自律制御飛行船100でも、病室の構成部材を分割して搬送し、治療を行う災害現場で組み立てることによって、災害発生時に治療設備を搬送することは可能である。しかし、本実施例3の自律制御飛行船150はさらに一歩進んで、病室を分割せず直ちに使用できる状態で災害現場へ搬送することを目的としている。このため、自律制御飛行船150は、その大きさが飛行船の大きさを表す概略長さで言うと60m級に相当し、約10トンのペイロードを有している。
【0101】
この搬送能力を実現するため、自律制御飛行船150は、実施例1の自律制御飛行船10と実施例2の自律制御飛行船100とを組み合わせた構造を有している。すなわち、
図29に示されるように、自律制御飛行船150は、実施例2と同様の浮揚体ブロックを多数使用した本体部分と、その両側に取付けられる一対の飛行船部分とで構成されている。つまり、本実施例3の自律制御飛行船150は、実施例2の自律制御飛行船100に類似した浮揚本体部分を中心として、その両翼に実施例1の自律制御飛行船10に類似した飛行船を配置した構造となっている。
【0102】
図29に示されるように、自律制御飛行船150の本体部分は、本体の骨格を構成する多数の四角柱気嚢(浮揚体ブロック)と、本体上部に設けられた上部風圧抑制気嚢と、本体の中心部に設けられた制御システム空間及び格納庫空間部と、本体下部に設けられた下部風圧抑制気嚢とを有している。制御システム空間には、格納庫空間部に搬送物等を格納する際に用いられる制御装置と蓄電池等が収納されている。
【0103】
図30の(a)平面図及び(b)正面図に示されるように、自律制御飛行船150の本体部分は、多数の浮揚体ブロックを三次元方向に積み上げて構成されている。これらの浮揚体ブロックは、三次元方向に張り巡らされた剛性線状部材で形成される枠組みに取付けられている。
図31の全体平面図及び
図32の全体底面図に示されるように、これらの剛性線状部材が一対の飛行船部分の上面及び下面に接合されることによって、本体部分が一対の飛行船部分に固定されている。また、
図31の全体平面図及び
図32の全体底面図に示されるように、自律制御飛行船150の本体部分の船首部分には前部風圧抑制気嚢が、船尾部分には後部風圧抑制気嚢が、それぞれ設けられている。
【0104】
このように、本実施例3に係る自律制御飛行船150は、多数の浮揚体ブロックを三次元方向に積み上げて構成された本体部分と、推進機関を有し本体部分を水平方向に航行させる飛行船部分を備えている。これによって、自律制御飛行船150は、60m級に相当する大きさと、約10トンのペイロードとを実現させている。
【0105】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明の自律制御飛行船及び移動式基準点設定方法は、種々の応用が可能であり、特に災害時の通信設備の機能を維持し、通信手段を確保するための手段として極めて有用である。