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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143612
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】汚染水浄化用吸着材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20220926BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20220926BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220926BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20220926BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20220926BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/02 A
B01J20/06 A
B01J20/10 A
B01J20/18 A
G21F9/12 501D
G21F9/12 501F
G21F9/12 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044223
(22)【出願日】2021-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Web配信(オンデマンド形式)開始日 令和2年12月1日(公開日)(配信期間 令和2年12月1日~12月31日) 集会名、開催場所 令和2年度 創立70周年記念 火力原子力発電大会 一般社団法人 火力原子力発電技術協会 主催 Web配信(オンデマンド形式)によるオンライン研究発表(Web配信ログインページURL:https://www.tenpes.or.jp/competition/detail/ ) <資 料>火力原子力発電大会 開催概要 <資 料>火力原子力発電大会 研究発表(Web配信)題目一覧 <資 料>火力原子力発電大会 研究発表 資料(スライド)
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】梅田 陽子
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA12B
4G066AA15B
4G066AA22B
4G066AA23B
4G066AA27B
4G066AA61B
4G066AA62B
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA38
4G066CA12
4G066CA21
4G066CA31
4G066CA45
4G066CA46
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】処理対象物質を含む汚染水の浄化処理にかかる費用を低減する汚染水浄化用吸着材を提供する。
【解決手段】汚染水に含まれる処理対象物質を吸着する汚染水浄化用吸着材であって、使用態様に応じた形状に形成された芯材と、前記芯材の表面において前記処理対象物質を吸着する吸着物質により形成され、前記汚染水における前記処理対象物質の濃度に応じて所定の層厚に形成された吸着層と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着する汚染水浄化用吸着材であって、
使用態様に応じた形状に形成された芯材と、
前記芯材の表面において前記処理対象物質を吸着する吸着物質により形成され、前記汚染水における前記処理対象物質の濃度に応じて所定の層厚に形成された吸着層と、
を備える汚染水浄化用吸着材。
【請求項2】
前記濃度は2ppm以下であり、前記層厚は、0.1μm以上500μm以下である、
請求項1に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項3】
前記芯材は、所定の粒径の粒子状に形成されている、
請求項1または2に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項4】
前記粒径は2mm以下である、
請求項3に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項5】
前記汚染水が流通する容器に充填される、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項6】
前記芯材は、前記汚染水を濾過する膜状に形成されている、
請求項1または2に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項7】
前記芯材により膜状に形成された吸着膜を備え、
複数の前記吸着膜が積層されている、
請求項6に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項8】
積層された前記複数の吸着膜は、前記汚染水が流通する流路に取り付けられる、
請求項7に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項9】
前記芯材の表面において、複数の前記吸着層が重層に形成されている、
請求項1から8のうちいずれか1項に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項10】
前記重層における表層は、前記吸着層の吸着性能が低下した際に剥離される、
請求項9に記載の汚染水浄化用吸着材。
【請求項11】
前記処理対象物質はセシウムイオン及びストロンチウムイオンであり前記吸着物質はケイチタン酸塩である、あるいは前記処理対象物質はセシウムイオンであり前記吸着物質はゼオライトもしくはフェロシアン化物の組み合わせである、あるいは前記処理対象物質はヨウ化物イオンであり前記吸着物質は銀含有ゼオライトの組み合わせである、あるいは前記処理対象物質はヨウ素酸イオン及び/又はアンチモンイオン性化合物であり前記吸着物質は水酸化セリウム系吸着材の組み合わせのうち少なくとも一つである、
請求項1から10のうちいずれか1項に記載の汚染水浄化用吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含む汚染水を浄化するための汚染水浄化用吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力設備から発生した汚染水には、放射性ストロンチウムや放射性セシウム等の処理対象物質が含まれる場合があり、処理対象物質を除去する浄化処理が行われている。浄化処理において、処理対象物質を吸着する吸着材を用いて汚染水を浄化する方法が知られている。例えば、特許文献1には、所定の粒径に形成された吸着材を集合し、吸着材に汚染水を流通させて処理対象物質を吸着させ、汚染水を浄化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-018971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
汚染水の処理に用いられる吸着材はチタンや銀などの高価な物質が材料として使用されている場合があり、膨大な量の汚染水を浄化する場合、吸着材の使用量が増加し費用が増大する虞がある。
【0005】
本発明は、処理対象物質を含む汚染水の浄化処理にかかる費用を低減する汚染水浄化用吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着する汚染水処理用吸着材であって、使用態様に応じた形状に形成された芯材と、前記芯材の表面において前記処理対象物質を吸着する吸着物質により形成され、前記汚染水における前記処理対象物質の濃度に応じて所定の層厚に形成された吸着層を有する吸着材と、を備える。
【0007】
本発明によれば、芯材の表面において、吸着層が処理対象物質の濃度に応じて処理対象物質を吸着可能な層厚に形成されているため、最小限の吸着物質を使用した吸着材を形成でき、汚染水の浄化にかかるコストを大幅に低減することができる。
【0008】
また、本発明の一態様は、前記濃度が2ppm以下であり、前記層厚は、0.1μm以上500μm以下である。
【0009】
本発明によれば、吸着材が想定される処理対象物質の所定濃度の汚染水の浄化に必要な所定の膜厚に形成されているため、最小限の吸着物質を使用した吸着材を形成でき、汚染水の浄化にかかるコストを大幅に低減することができる。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記芯材が所定の粒径の粒子状に形成されている。
【0011】
本発明によれば、粒子状の吸着材が用いられる設備に適用することができる。
【0012】
また、本発明の一態様は、前記粒径が2mm以下である。
【0013】
本発明によれば、芯材が所定の粒径に形成されていることにより、汚染水が流通しつつ吸着材に処理対象物質を効率的に吸着させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様は、前記汚染水が流通する容器に充填される。
【0015】
本発明によれば、粒子状に形成された汚染水浄化用吸着材を収容した容器を用いて処理対象物質を除去する使用態様の設備に適用することができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る前記芯材は、汚染水を濾過する膜状に形成されている。
【0017】
本発明によれば、芯材が膜状に形成されていることにより、汚染水浄化用吸着材が散逸せず取り扱いが容易となる。
【0018】
また、本発明の一態様は、前記芯材により膜状に形成された吸着膜を備え、複数の前記吸着膜が積層されている。
【0019】
本発明によれば、複数の膜状の吸着膜が積層されていることにより、所望の期間に吸着性能を発揮する吸着材を構成することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る積層された前記複数の吸着膜は、前記汚染水が流通する流路に取り付けられる。
【0021】
本発明によれば、流路の方向によらず吸着材を使用することができる。
【0022】
また、本発明の一態様は、前記芯材の表面において、複数の前記吸着層が重層に形成されている。
【0023】
本発明によれば、表層を剥離可能な吸着材を構成することができる。
【0024】
また、本発明の一態様は、前記重層における表層は、前記吸着層の吸着性能が低下した際に剥離される。
【0025】
本発明によれば、表層の吸着層において処理対象物質の吸着性能が低下するまで使用し、表層の吸着層を剥離することで、吸着性能を複数回において回復可能とし、水の浄化コストを大幅に低減することができる。
【0026】
また、本発明の一態様は、前記処理対象物質はセシウムイオン及びストロンチウムイオンであり前記吸着物質はケイチタン酸塩である、あるいは前記処理対象物質はセシウムイオンであり前記吸着物質はゼオライトもしくはフェロシアン化物の組み合わせである、あるいは前記処理対象物質はヨウ化物イオンであり前記吸着物質は銀含有ゼオライトの組み合わせである、あるいは前記処理対象物質はヨウ素酸イオン及び/又はアンチモンイオン性化合物であり前記吸着物質は水酸化セリウム系吸着材の組み合わせのうち少なくとも一つである。
【0027】
本発明によれば、処理対象物質である放射性物質のセシウムイオン及びストロンチウムイオンをケイチタン酸塩等の吸着物質により吸着することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、処理対象物質を含む汚染水の浄化処理にかかる費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る汚染水浄化用吸着材が適用される浄化施設の構成を概略的に示す図である
図2】吸着材の吸着性能を評価するための試験装置の構成を示す図である。
図3】吸着材の吸着性能の試験結果を示す図である。
図4】測定結果に基づいて算出された、汚染水の濃度と吸着材に必要な層厚との関係を示す図である。
図5】実施形態に係る吸着材の構成を示す断面図である。
図6】実施形態に係る吸着材と従来の吸着材との吸着性能の差を示す図である。
図7】実施形態に係る吸着材と従来の吸着材との吸着性能の差を示す図である。
図8】膜状に形成された吸着材の構成を示す断面図である。
図9】膜状に形成された吸着材が複数の層に積層されている図である。
図10】吸着層が重層に形成された吸着剤の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る汚染水浄化用吸着材について説明する。
【0031】
図1に示されるように、汚染水の浄化施設1は、例えば、汚染水Wを貯留する貯留部2と、貯留部2から流入する汚染水Wを浄化する浄化部4とを備える。貯留部2は、汚染水Wを貯留するタンクである。浄化部4は、汚染水Wが流通した際に汚染水Wに含まれる処理対象物質を吸着して浄化する。貯留部2と浄化部4とは、例えば、配管Hにより接続されている。配管Hの途中には、ポンプPが設けられている。ポンプPは、貯留部2内に貯留された汚染水Wを浄化部4に圧送する。
【0032】
貯留容器5の内部には、原子力設備等から汚染水Wが流入し、貯留される。貯留容器5の上部には、配管Hが接続されている。配管Hの上流側の吸入口は、貯留容器2の底部からやや上方に離間して配置されている。貯留された汚染水Wは、ポンプPが稼働することにより、浄化部4に排出される。
【0033】
浄化部4は、例えば、汚染水Wを一時的に貯留する貯留容器5(容器)と、貯留容器5内に充填された吸着材6と、吸着材6を流通して浄化処理された処理水を排出する排水管H3とを備える。貯留容器5は、タンク状に形成されている。貯留容器5の上部には、配管Hの下流側の吐出口H2が設けられている。吐出口H2から貯留容器5内に汚染水Wが吐出される。吐出口H2は、例えば、貯留容器5の径方向に拡大されたシャワーヘッド状に形成されている。
【0034】
貯留容器5の内部には、例えば、処理対象物質を吸着する粒子状の吸着材6が充填されている。貯留容器5の底部には、排水管H3の排水口H4が配置されている。排水口H4には、吸着材6の排出を防止するフィルタFが設けられている。排水管H3には、排水ポンプ(不図示)が設けられている。排水ポンプが稼働することにより、排水口H4に陰圧が生じ、貯留容器5の上層の汚染水Wが吸着材6を流通して排水口H4方向に移動する。汚染水Wが吸着材6を流通する間に汚染水W内に含まれる処理対象物質が吸着材6に吸着され浄化され、排水口H4からは、浄化水が貯留容器5外に排出される。
【0035】
汚染水Wは、例えば、放射性セシウムイオン(Cs)及び放射性ストロンチウムイオン(Sr2+)の処理対象物質が含まれている。
【0036】
以下、吸着材6の特性について説明する。
【0037】
図2に示されるように、吸着材6の性能を評価するための試験装置20は、浄化施設1を模して構成されている。試験装置20は、例えば、貯留部2を模した第1容器21と、ポンプPを模したポンプQと、浄化部4を模した第2容器30と、第2容器30から排出される洗浄水を収容する第3容器40とを備える。
【0038】
第1容器21の内部には、汚染水模擬液W‘が貯留されている。汚染水模擬液W’には、原子力設備等から排出される実際の汚染水に含まれる処理対象物質と同じ原子番号の非放射性の物質が含まれている。汚染水模擬液W‘において、処理対象物質は、実際の汚染水の濃度の数百倍から数千倍高い濃度を模して調整されている。汚染水Wは、例えば、処理対象物質の濃度を0.2ppm、2ppm、20ppmに調整されたものが測定に用いられる。ポンプQは、第1容器21から第2容器30に汚染水模擬液W’を圧送する。ポンプQは、例えば、実際の浄化施設1における流速(線速)に合わせた流速において汚染水模擬液W‘を連続的に流通させる。
【0039】
第2容器30の内部には、吸着材6が充填されている。吸着材6は、例えば、ケイチタン酸塩系の材料により粒子状に形成されている。測定においては、例えば5種類のケイチタン酸塩系の材料が用いられる。第2容器30において、汚染水模擬液W’は、下部から流入し、吸着材6を通過し、洗浄水となって上部から排出される。排出された洗浄水は、第3容器40に貯留される。吸収物質と処理対象物質との組み合わせは、以下のものがある。処理対象物質がセシウムイオン及びストロンチウムイオンである場合、吸着物質はケイチタン酸塩である。あるいは、処理対象物質がセシウムイオンである場合、吸着物質はゼオライトもしくはフェロシアン化物の組み合わせである。あるいは処理対象物質がヨウ化物イオンである場合、吸着物質は銀含有ゼオライトの組み合わせである。あるいは処理対象物質がヨウ素酸イオン及び/又はアンチモンイオン性化合物(例えば、ヘキサヒドロキソアンチモン酸イオン)である場合、吸着物質は水酸化セリウム系吸着材である。吸収物質と処理対象物質との組み合わせは、上記の組み合わせのうち少なくとも一つである。
【0040】
第2容器30から排出される浄化水は、例えば、0、2、6時間の定時毎に毎日、サンプリングされ濾過された後、処理対象物質の濃度が測定される。第2容器30においては、吸着材6が処理対象物質を吸着する限界まで汚染水模擬液W’が流通される。第2容器30の入口における汚染水模擬液W’の濃度と、第2容器30の出口における汚染水模擬液W’の濃度とが一致した場合、吸着材6が吸着性能の限界に達したと判断され、測定を終了する。吸着材6は、吸着性能の限界まで使用された後に、第2容器30から取り出され、乾燥させた後、断面における処理対象物質の分布が観察される。
【0041】
図3には、吸着性能の限界まで使用された吸着材6の観察結果が示されている。図示するように、吸着材6は、20ppmの汚染水模擬液W’を浄化した場合、内部まで処理対象物質を吸着した。吸着材6は、2ppmの汚染水模擬液W’を浄化した場合、表層の所定の層厚において処理対象物質を吸着した。吸着材6は、0.2ppmの汚染水模擬液W’を浄化した場合、2ppmの場合に比して薄い表層の所定の層厚において処理対象物質を吸着した。計測結果より、汚染水模擬液W’の濃度が2ppm以下であれば、吸着材6の表層の所定の層厚より深い中心部は、処理対象物質を吸着しないことが判明した。*なお、図3のSr分布パターンのうち、0.2ppmおよび2ppm条件で、吸着材断面の中央部に薄く見えている部分は、Srではなく、Siによる干渉である。(SEM-EDXによるSr分析では、Siの検出ピークと干渉するため、Si分が薄く見えている。)
【0042】
図4には、測定結果に基づいて算出された、汚染水模擬液W’の濃度と吸着材6に必要な層厚との関係が示されている。図示するように、汚染水模擬液W’における処理対象物質の濃度と、吸着材6の表層における処理対象物質を吸着する層厚とは、比例関係を有する。そして、ケイチタン酸系の材料を用いた吸着材6により処理対象物質を吸着する場合、表層において所定の層厚があれば吸着性能を実現することができる。例えば、福島第一原子力発電所における汚染水は、放射性セシウムイオンの濃度が0.01ppm程度であるため、吸着材6は、数μm程度の層厚があれば吸着性能を確保することができる。
【0043】
図5に示されるように、実施形態の吸着材7(汚染水浄化用吸着材)は、所定の形状に形成された芯材8と、芯材の表面において処理対象物質を吸着する吸着物質により形成された吸着層9とを備える。吸着材7は、浄化施設1の浄化部4等の粒子状の吸着材が用いられる設備に適用することができる。芯材8は、粒子状に形成されている。芯材8は、例えば、2mm以下の粒径の粒子状に形成されている。芯材8が所定の粒径に形成されていることにより、汚染水が流通した際に吸着層9に処理対象物質を効率的に吸着させることができる。
【0044】
芯材8は、粒子状に形成されているだけでなく、浄化部4以外の装置における使用態様に応じた他の形状に形成されてもよい。芯材8は、例えば、砂、岩石、セラミック、樹脂、天然ゼオライト等、吸着物質に比して安価な素材により形成されている。
【0045】
吸着層9は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着する。吸着層9は、例えば、ケイチタン酸系の吸着物質により形成されている。吸着層9は、汚染水Wにおける処理対象物質の濃度に応じて所定の層厚に形成されている。実施形態において、例えば、浄化される汚染水Wにおける処理対象物質の濃度は、2ppm以下に設定されている。吸着層9の層厚は、例えば、汚染水Wの2ppmの処理対象物質の濃度に応じて0.1μm以上500μm以下に形成されている。
【0046】
吸着材7は上記構成により、浄化施設1(図1参照)における汚染水Wが流通する貯留容器5に充填される。即ち、吸着材7は、吸着材6の代替として浄化施設1の浄化部4等の粒子状に形成された吸着材を収容した容器を用いて処理対象物質を除去する使用態様の設備に適用することができる。
【0047】
図6に示されるように、吸着材7は、セシウムの吸着の性能試験において吸着材6に比して同等の処理対象物質を吸着する吸着性能を備えていることが分かる。性能試験において、通水当初は吸着材6のセシウムの吸着性能の方が吸吸着材7の吸着性能に比して高い傾向が見られた。通水中盤から通水最終においては、吸着材7と吸着材6との吸着性能は同等であるという結果が得られた。
【0048】
図7に示されるように、吸着材7は、ストロンチウムの吸着の性能試験において吸着材6に比して同等の処理対象物質を吸着する吸着性能を備えていることが分かる。性能試験において、通水当初から通水最終において、吸着材7と吸着材6との吸着性能は同等であるという結果が得られた。
【0049】
上述したように、吸着材7は、芯材8の表面において、吸着層9が処理対象物質の濃度に応じて処理対象物質を吸着可能な層厚に形成されているため、高価な吸着物質の使用量を最小限にし、汚染水の浄化にかかるコストを大幅に低減することができる。吸着材7によれば、吸着材が想定される処理対象物質の所定濃度の汚染水の浄化に必要な所定の膜厚に形成されているため、最小限の吸着物質を使用した吸着材を形成できる。
【0050】
[変形例1]
図8に示されるように、吸着材12は、膜状に形成されていてもよい。吸着材12は、汚染水を濾過する膜状に形成された芯材13と、芯材13の表面に層状に形成された吸着層14とを備える。吸着層14は、処理対象物質の濃度に応じて所定の層厚に形成されている。吸着材12によれば、芯材13が膜状に形成されていることにより、一体に形成された吸着膜となり、粒子状に形成されたものに比して散逸せず、流路の方向によらず取り付けることができ、交換時の取り扱いが容易となる。
【0051】
図9に示されるように、膜状の芯材13により吸着膜に形成された吸着材12は、複数の層に積層されてもよい。吸着材12の積層する層の数は、吸着性能を発揮させる期間や、設置対象物の形状等に応じて適宜調整される。複数の層は、1枚の吸着膜に形成された吸着材12を蛇腹状に折り曲げて積層して形成してもよい。複数の吸着材12は、例えば、汚染水Wが流通する流路の途中に取り付けられる交換用のフィルタとして用いられてもよい。吸着材12の各層は、表面積を増加させるために、襞状に形成されてもよい。吸着材12よれば、複数の膜状の吸着膜が積層されていることにより、所望の期間において吸着性能を発揮させることができる。
【0052】
[変形例2]
図10に示されるように、吸着材15は、芯材16の表面において複数の吸着層17が重層に形成されている。芯材16は、粒子状に形成されている。芯材16と重層に形成された吸着層17との層間及び各吸着層17の層間には、剥離層18が形成されている。芯材16は、例えば、上記同様に粒子状に形成されている。吸着層17は、例えば、直径0.005mm程度の粒径の微粒子の吸着物質により形成されている。吸着層17は、例えば、剥離層18は、吸着層17に比して大きな粒径(例えば、直径0.01 mm程度)の粒子状に形成された吸着物質により形成されている。
【0053】
吸着材15は、例えば、重層における表層は、最も外側の吸着層17の吸着性能が低下した場合、剥離され、下層に形成された吸着層17を表面に露出させることで、吸着性能を回復させる。吸着層17は、吸着性能が低下した場合、表層から順次剥離される。吸着層17は、例えば、吸着性能が低下した際に容器内で水流により撹拌されるかあるいは乾燥され、容器内において攪拌するなどして剥離層18を崩壊させ、剥離層18の下層側に形成された吸着層17を露出させる。また、剥離層18は、特定の薬液に反応して溶解、崩壊する物質により形成されていてもよく、使用後に薬液が散布されることで表層の吸着層17が剥離されてもよい。剥離した吸着層17と吸着材15とは、例えば、遠心分離により分離されてもよい。
【0054】
吸着材15によれば、表層の吸着層17において処理対象物質の吸着性能が低下するまで使用し、表層の吸着層17を剥離することで、吸着性能を複数回において回復可能とし、汚染水Wの浄化コストを大幅に低減することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、吸着材は、セシウムイオン、ストロンチウムイオンだけでなく、他のイオン性化合物を吸着するものであってもよい。その場合、吸着層は、処理対象物質の濃度に応じた層厚に形成されていてもよい。吸着材は、浄化部4において交換されるだけでなく、浄化部4ごと交換されてもよい。また、吸着材は、放射性物質に限らずイオン性化合物の吸着に用いられてもよく、汚染水の浄化に限らず水質の改善に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…浄化施設、2…貯留部、4…浄化部、5…貯留容器、6…吸着材、7…吸着材、8…芯材、9…吸着層、12…吸着材、13…芯材、14…吸着層、15…吸着材、16…芯材、17…吸着層、18…剥離層、20…試験装置、21…第1容器、30…第2容器、40…第3容器、F…フィルタ、H…配管、H2…吐出口、H3…排水管、H4…排水口、P…ポンプ、Q…ポンプ、W…汚染水、W’…汚染水模擬液
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