(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143652
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】複合磁性熱硬化成型体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220926BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044288
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元己
(72)【発明者】
【氏名】川原井 貢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一央
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041BB05
5E041BB06
5E041CA02
5E041HB05
5E041HB15
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】金型への供給時には流動性を有する粉状であり、熱成型の圧縮時には流動性を有する液状となる複合磁性材料を用いた複合磁性熱硬化成型体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、融点が25℃以上100℃未満であり且つ沸点が160℃以上である高融点化合物と、を、熱硬化性樹脂の質量に対して高融点化合物の質量が3.0wt%以上100wt%以下となるように混合して粉状の複合磁性材料を得る材料調製工程と、この複合磁性材料を100℃以上に調整された金型に供給して液状とし、1000kgf/cm
2以下の成型圧力により圧縮成型して複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、この複合磁性成型体を熱処理し、高融点化合物を揮発させて除去しながら熱硬化性樹脂を熱硬化させて複合磁性熱硬化成型体を得る熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法により、前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料調製工程と、圧縮成型工程と、熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法であって、
前記材料調製工程が、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、融点が25℃以上100℃未満であり且つ沸点が160℃以上である高融点化合物と、を、前記熱硬化性樹脂の質量に対して前記高融点化合物の質量が3.0wt%以上100wt%以下となるように混合して粉状の複合磁性材料を得る工程であり、
前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料を100℃以上に調整された金型に供給して液状とし、1000kgf/cm2以下の成型圧力により圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程であり、
前記熱硬化工程が、前記複合磁性成型体を熱処理し、前記高融点化合物を揮発させて除去しながら前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて、前記複合磁性熱硬化成型体を得る工程である、
複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮成型工程において、1000kgf/cm2以下の成型圧力により、液状となった前記複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.45g/cm3以上となるように圧縮成型する、請求項1に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項3】
前記材料調製工程の前記高融点化合物は、融点が80℃以下であり且つ沸点が330℃以下である、請求項1または2に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮成型工程において、前記複合磁性材料を、100℃以上140℃以下の温度に調整された前記金型に供給する、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料にコイルを内包させて圧縮一体成型し、前記コイルが内包された前記複合磁性成型体を得る工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁性熱硬化成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などに用いられるコイル部品は種々の形態が知られているが、金属磁性粉末をバインダー樹脂に分散した複合磁性材料により構成された磁性コア材と、コイルあるいはコイル組立体とを一体成型したコイル部品が多く使用されている。例えば、特許文献1には、軟磁性粉末とバインダーを含む混和物により構成される粉末磁性体内に巻線コイルが封じ込められて、4.5~10.0ton/cm2の成形圧力にて加圧成形され一体化されたインダクタンス部品(コイル部品)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、複合磁性材料を用いたコイル部品などのメタルインダクタの成型方法として、金型を加熱した状態で圧縮成型する熱成型が行われることが増加している。この熱成型では、複合磁性材料を加熱によって軟化させることができるため、より低い圧力での成型が可能となり、得られるメタルインダクタの信頼性増加や低コスト化が可能となる。
【0005】
この熱成型を行う場合において、複合磁性材料として実用上望ましい性状は、金型への供給のし易さと熱成型のし易さとの両立という観点から、金型への供給時には流動性を有する粉状であり、熱成型の圧縮時には流動性を有する液状となる性状である。そして、これまでは、使用する熱硬化性樹脂の特徴によって上記性状を得られるように検討がされてきたが、熱硬化性樹脂の特徴だけでは上記性状の達成が難しい場合もあり、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金型への供給時には流動性を有する粉状であり、熱成型の圧縮時には流動性を有する液状となる複合磁性材料を用いた複合磁性熱硬化成型体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、複合磁性材料に所定の高融点化合物を所定量含有させることにより、金型への供給時には流動性を有する粉状であり、熱成型の圧縮時には流動性を有する液状となる複合磁性材料とすることができ、この複合磁性材料を用いることによって、金型への複合磁性材料の供給および熱成型がいずれもし易い複合磁性熱硬化成型体の製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、材料調製工程と、圧縮成型工程と、熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法であって、上記材料調製工程が、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、融点が25℃以上100℃未満であり且つ沸点が160℃以上である高融点化合物と、を、熱硬化性樹脂の質量に対して高融点化合物の質量が3.0wt%以上100wt%以下となるように混合して粉状の複合磁性材料を得る工程であり、上記圧縮成型工程が、この複合磁性材料を、100℃以上に調整された金型に供給して液状とし、1000kgf/cm2以下の成型圧力により圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程であり、上記熱硬化工程が、この複合磁性成型体を熱処理し、上記高融点化合物を揮発させて除去しながら熱硬化性樹脂を熱硬化させて、複合磁性熱硬化成型体を得る工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金型への複合磁性材料の供給および熱成型がいずれもし易い複合磁性熱硬化成型体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体(コイルが内包された複合磁性熱硬化成型体)の製造方法の一例を示す工程図(工程断面図)である。
【
図2】実施例1で作製した複合磁性材料の室温および加熱後(100℃)における性状を示した写真である(図面代用写真)。上段が所定の高融点化合物を含まない複合磁性材料、下段が所定の高融点化合物を含む複合磁性材料であり、いずれも右側が室温、左側が100℃の性状である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法では、その材料調製工程において、金属磁性粉末、熱硬化性樹脂、および所定の高融点化合物により構成された複合磁性材料を得る。つまり、少なくとも金属磁性粉末、熱硬化性樹脂、および所定の高融点化合物を含み、且つこれらが主成分(合計で90wt%以上、より好ましくは95wt%以上)である複合磁性材料を得る。
まず、この複合磁性材料を構成する各材料について詳細に説明する。
【0013】
<金属磁性粉末>
金属磁性粉末は、金属磁性材料を粉末化する方法などによって得ることができる磁性粉末であり、鉄を主成分として含むものである。金属磁性材料としては、例えば、鉄、鉄を含む合金(鉄-珪素、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル合金等)などを用いることができる。ただし、これらは一例に過ぎず、他の金属磁性材料を採用しても良い。また、この金属磁性粉末は、1種類の金属磁性材料の粉末でも、2種類以上の金属磁性材料が混合された粉末でも良い。
【0014】
例えば、磁気特性や入手のし易さなどの観点から、鉄を主成分として含み、副成分として、クロム(Cr)、珪素(Si)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、カーボン(C)、ホウ素(B)などを含む金属磁性粉末を用いても良い。また、アモルファス金属粉末や純鉄粉を用いても良い。具体的には、Fe-Ni系(パーマロイ)、Fe-Si系(ケイ素鋼)、Fe-Al系、Fe-Co系(パーメンジュール)、Fe-Si-Cr系、Fe-Al-Cr系、Fe-Si-Al系(センダスト)などの合金粉末や、Fe-Si-B-Cr系のアモルファス粉末のような非結晶性金属粉末、カルボニル鉄粉などの結晶性鉄粉などが挙げられる。そして、上記材料のうち略球形の金属磁性粉末とすることが可能な材料(例えばFe-Si-B-Cr系のアモルファス粉末やFe-Si-Cr系合金粉末など)を用いても良い。この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなるからである。
【0015】
金属磁性粉末の主成分である鉄の含有率は、85wt%以上であることが好ましく、86wt%以上であることがより好ましい。そして、上記のような副成分から選ばれる1以上を含み、残部が鉄および不可避的不純物であっても良い。
【0016】
また、この金属磁性粉末は、クロムの含有率が2wt%以上10wt%以下であっても良く、2.5wt%以上8wt%以下であっても良い。
クロムは、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Cr2O3等)を容易に生成する。このため、クロムを含む複合磁性熱硬化成型体は、耐食性に特に優れたものとなる。さらにクロムの酸化物は比抵抗が大きいため、複合磁性熱硬化成型体を構成する粒子の表面付近にクロムの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより絶縁し易くなる。
したがって、クロムの含有率を上記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な複合磁性材料を構成することができる金属磁性粉末が得られる。
【0017】
同様の理由により、この金属磁性粉末は、ニッケルの含有率が2wt%以上10wt%以下であっても良く、2.5wt%以上8wt%以下であっても良い。そして、同様に、この金属磁性粉末は、アルミニウムの含有率が2wt%以上10wt%以下であっても良く、2.5wt%以上8wt%以下であっても良い。
【0018】
さらに、この金属磁性粉末は、珪素の含有率が2wt%以上10wt%以下であっても良く、3wt%以上8wt%以下であっても良い。
珪素は、金属磁性粉末を含む複合磁性熱硬化成型体を用いて得られるコイル部品等の比透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末が珪素を含むと比抵抗が高くなるため、粒子間渦電流損失を抑制し得る成分でもある。したがって、珪素の含有率を上記範囲内とすることにより、比透磁率が高く且つ渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な複合磁性材料を構成することができる金属磁性粉末が得られる。
【0019】
そして、この金属磁性粉末は、上記成分より含有率の小さい成分として、ホウ素(B)、チタン(Ti)、V(バナジウム)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、Ga(ガリウム)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、およびタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいても良い。その場合、これらの成分の含有率の総和は、5wt%以下とするのが好ましい。
また、製造過程で不可避的に混入するリン(P)、硫黄(S)等の成分を含んでいても良いが、その場合、それらの成分の含有率の総和は、1wt%以下であるのが好ましい。
【0020】
なお、金属磁性粉末の平均粒子径(D50)は、1μm以上30μm以下であるのが好ましく、2μm以上25μm以下であるのがより好ましい。さらに、金属磁性粉末の粒子形状は、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなることから、略球形(例えば、長径を短径で除した値が2以下、さらには1.5以下の略球体である形状)であるのが好ましい。
【0021】
ここで、この「平均粒子径(D50)」とは、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)による粒子径分布測定装置を用いて求めた体積基準粒度分布における積算値50%での粉子径(メディアン径)を意味する。粒子が凝集している場合には、その凝集体の粒子径を意味する。なお、平均粒子径(D50)の具体的な測定機器としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を挙げることができる。
【0022】
また、この金属磁性粉末として、金属磁性材料が水アトマイズ法やガスアトマイズ法により粉末化されたものを用いるのが好適である。
ここで、「水アトマイズ法」とは、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。
そして、「ガスアトマイズ法」とは、溶湯の流れに周囲から不活性ガスや空気などのジェット気流を吹き付けて溶湯の流れを粉化し、擬固させて金属粉末とする方法である。
【0023】
水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が略球形となる(球形に近くなる)ため、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料を用いて複合磁性熱硬化成型体を製造する際に、その充填率を容易に高めることができる。また、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなる。その結果、より高密度・高比透磁率の複合磁性熱硬化成型体が得られ易い。
【0024】
さらに、この金属磁性粉末として、粉末表面の吸着水を除去するために乾燥処理が施されたもの、つまり粉末を乾燥処理して得られた金属磁性乾燥粉末を用いても良い。粉末の乾燥処理方法としては、熱風処理や乾熱処理などが例示され、乾燥処理条件としては、100℃以上150℃以下の温度で30分間以上120分間以下処理する条件などが例示される。
【0025】
また、この金属磁性粉末として、熱硬化性樹脂との濡れ性を向上させるためにシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理が施されたもの、つまり粉末をシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理して得られた表面処理金属磁性粉末を用いても良い。シラン系またはチタン系のカップリング剤としては、後述する熱硬化性樹脂との親和性などの観点から、エポキシ基、アミノ基、またはイソシアネート基を官能基として有するシラン系またはチタン系のカップリング剤を用いるのがより好ましい。そして、粉末の表面処理方法としては、粉末をミキサー等により攪拌させながらカップリング剤を含む溶液を滴下または噴霧する乾式処理法や、粉末に溶媒を加えてスラリー状とし、このスラリーにカップリング剤を含む溶液を加えて攪拌した後、濾過および乾燥する湿式処理法などが例示される。なお、この表面処理は、前述した乾燥処理と組み合わせて行っても良い。
【0026】
さらには、この金属磁性粉末として、表面を絶縁膜でコーティングするためにリン酸塩処理が施されたもの、つまり粉末をリン酸塩によりリン酸塩処理して得られたリン酸塩処理金属磁性粉末を用いても良い。リン酸塩としては、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛-カルシウム、リン酸マンガン、リン酸鉄などが例示され、特に、鉄を主成分とする磁性粉末での絶縁膜形成のし易さという観点から、リン酸亜鉛を用いるのがより好ましい。そして、粉末のリン酸塩処理方法としては、粉末を必要に応じて酸洗浄または水洗浄した後にリン酸塩処理し、その後に水洗浄および乾燥を行う方法などが例示される。なお、このリン酸塩処理も、前述した乾燥処理と組み合わせて行っても良い。
【0027】
そして、材料調製工程において得られる複合磁性材料におけるこの金属磁性粉末の含有率は90wt%以上98.5wt%以下であることが好ましく、92wt%以上98wt%以下であることがより好ましく、94wt%以上97.5wt%以下であることがより好ましい。
【0028】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂は、官能基を持つプレポリマーを主成分とする反応性の樹脂組成物であり、加熱により軟化および流動し、次第に三次元網目構造を形成する架橋反応を起こして硬化する樹脂組成物である。なお、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法により得られた複合磁性熱硬化成型体に含まれているのは熱硬化された樹脂組成物であるが、本発明ではこの熱硬化された樹脂組成物も「熱硬化性樹脂」と称する場合がある。そして、この熱硬化性樹脂としては、バインダー樹脂としての役割を果たし且つ加熱により硬化可能なもの(例えば半導体の封止材料に使用されている樹脂など)であれば特に限定されず、熱硬化型の、エポキシ系樹脂(ビスフェノール型、ナフタレン型、ノボラック型、脂肪族型、グリシジルアミン型など)、シリコン系樹脂(メチルフェニルシリコン樹脂など)、フェノール系樹脂(ノボラック型、レゾール型など)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を用いることができる。そして、2種類以上の熱硬化性樹脂が混合されたものを用いても良い。特に、熱耐性などの観点から、エポキシ系樹脂を用いるのがより好ましい。
また、この熱硬化性樹脂は、限定されるものではないが、50~140℃の温度帯において所定の時間(例えば10~120秒間程度)保持することにより軟化させることができるものであると好適である。そして、これも限定されるものではないが、この熱硬化性樹脂は、150℃以上の温度帯において所定の時間(例えば0.1~5時間程度)保持することにより硬化させることができるものであると好適である。
【0029】
さらに、この熱硬化性樹脂は、熱硬化のし易さなどの観点から、硬化剤が混合されたものであるのが好ましい。硬化剤としては、フェノールノボラック型の硬化剤(フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂など)、ポリアミド系硬化剤(ポリアミド樹脂など)、無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、イミダゾール等の潜在性アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン類などを用いることができる。これらの硬化剤は、単独で使用しても、2種類以上併用しても良い。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、さらに希釈剤、充填剤、離型剤などの他の添加剤が混合されたものであっても良い。
【0030】
なお、複合磁性材料を調製するにあたり、熱硬化性樹脂を含む溶液とするために、熱硬化性樹脂に溶剤を混合しても良い。この溶剤は、後述する各工程(例えば材料調製工程)などにおいて乾燥等により除去されるものであるが、除去のし易さという観点から、溶剤の使用量は少ない方が好ましい(例えば、溶剤を除く複合磁性材料に用いる原材料の合計体積に対する溶剤の体積の比率が5.0vol%未満、さらには0.5vol%以上2.0vol%以下など)。溶剤としては、後述する各工程などにおいて乾燥等により除去可能なものであるのが好ましく、アルコール、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒が好適例として示される。
【0031】
そして、材料調製工程において得られる複合磁性材料におけるこの熱硬化性樹脂の含有率は1.5wt%以上5.0wt%以下であるのが好ましく、2.0wt%以上4.5wt%以下であるのがより好ましく、2.5wt%以上4.0wt%以下であるのがより好ましい。
【0032】
<高融点化合物>
高融点化合物は、融点が25℃以上100℃未満であり且つ沸点が160℃以上の化合物である。この高融点化合物は室温(20±5℃)では固体のため、この高融点化合物を所定量含む複合磁性材料は、金型への供給時には粉としての流動性が良いものとなる。つまり、流動性を有する粉状となる。また、この高融点化合物は100℃以上では液状となり、且つ加熱により軟化する熱硬化性樹脂の質量に対して後述するような質量範囲となるように含まれるため、複合磁性材料が熱成型の圧縮時において流動性を有する液状となる。そして、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の特徴にかかわらず、このような高融点化合物を複合磁性材料に所定量含ませることによって、上記したような性状とすることができる。さらに、この高融点化合物は沸点が160℃以上であるため、40℃以下では揮発し難く、これを所定量含む複合磁性材料の40℃以下(例えば10℃以上40℃以下)での保存性も確保される。また、後述する材料調製工程や圧縮成型工程などの作業中においても、この高融点化合物の揮発を抑制することができる。
【0033】
なお、限定されるものではないが、この高融点化合物の融点は、35℃超であるとより好ましく、45℃以上であるとさらに好ましく、49℃以上であるとさらに好ましい。また、融点の上限は、80℃以下であるとより好ましく、75℃以下であるとさらに好ましい。そして、これも限定されるものではないが、沸点は、170℃以上であるのがより好ましく、180℃以上であるのがさらに好ましく、200℃以上であるのがさらに好ましく、210℃以上であるのがさらに好ましい。また、沸点の上限は、後述する熱硬化工程での高融点化合物除去のし易さなどから、330℃以下であるとより好ましく、310℃以下であるとさらに好ましく、300℃以下であるとさらに好ましい。
【0034】
このような高融点化合物としては、シクロヘキサノール、p-クレゾール、フェノール、L-メントール(メントール)、ベンゾフェノン、α,α´-ジクロロ-o―キシレン、ステアリルアルコール、3,5-ジメチルフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、クマリンなどが例示される。そして、これらからなる群から選ばれる1以上を用いることができ、2以上を併用することもできる。特に、製造適性やコストなどの観点から、この高融点化合物としてブチルヒドロキシトルエンおよび/またはクマリンを用いるのが好ましい。
【0035】
そして、材料調製工程において得られる複合磁性材料におけるこの高融点化合物の質量は、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の質量に対して3.0wt%以上100wt%以下となるようにする。なお、この下限は、5.0wt%以上であるのがより好ましく、7.0wt%以上であるのがさらに好ましく、10wt%以上であるのがさらに好ましい。また、上限は、80wt%以下であるのがより好ましく、60wt%以下であるのがさらに好ましく、50wt%以下であるのがさらに好ましく、33wt%以下であるのがさらに好ましい。
材料調製工程において得られる複合磁性材料の全質量におけるこの高融点化合物の含有率としては、0.05wt%以上5.0wt%以下であって良く、さらには0.1wt%以上3.0wt%以下であって良く、さらには0.3wt%以上1.0wt%以下であって良い。
【0036】
なお、複合磁性材料を調製するにあたり、この高融点化合物に、前述した熱硬化性樹脂に用いるものと同様の溶剤を混合しても良い。また、溶剤に、熱硬化性樹脂と高融点化合物とをあわせて混合しても良い。そして、この溶剤の種類や混合比率などについては、前述と同様であって良い。
【0037】
このような金属磁性粉末、熱硬化性樹脂、および所定の高融点化合物を用いて粉状の複合磁性材料を調製するが、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、これら以外の成分(例えば分散剤、可塑剤、滑剤など)を混合して複合磁性材料を調製しても良い。
そして、この粉状の複合磁性材料は、金型への供給がよりし易くなることから、造粒された造粒粉(複合磁性材料の造粒粉)としても良い。
【0038】
<複合磁性熱硬化成型体の製造方法>
次に、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0039】
本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法は、少なくとも、以下のような材料調製工程、圧縮成型工程、および熱硬化工程を含む。なお、この製造方法により製造される複合磁性熱硬化成型体には、内部にコイル等を埋め込んでいない非埋め込みタイプの磁性コア材だけでなく、内部にコイルが埋め込まれたコイル部品も包含される。
以下、上記各工程について詳細に説明する。
【0040】
[材料調製工程]
材料調製工程は、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、所定の高融点化合物と、により構成された粉状の複合磁性材料を得る工程である。具体的には、前述したような金属磁性粉末、熱硬化性樹脂、および高融点化合物を用意し、熱硬化性樹脂および高融点化合物(例えばこれらに溶剤を添加した溶液)に、ミキサー等を用いて金属磁性粉末を混合分散し、必要であれば造粒し、さらに乾燥を行って粉状の複合磁性材料(複合磁性材料の粉末あるいは造粒粉)を調製する。ここで、必要に応じてさらに分散剤、可塑剤などを適宜配合してから混合分散を行っても良い。そして、複合磁性材料におけるこの高融点化合物の質量が、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の質量に対して3.0wt%以上100wt%以下となるようにする。
【0041】
なお、この金属磁性粉末、熱硬化性樹脂、高融点化合物、および溶剤の混合の順番は限定されるものではないが、混合分散のし易さという観点から、高融点化合物および熱硬化性樹脂と溶剤とを混合して得られた溶液に金属磁性粉末(および他の材料)を混合するのがより好ましい。そして、上記の混合は、混錬造粒であっても良い。また、造粒により複合磁性材料の造粒粉を得る場合、造粒後や乾燥後に分級を施しても良い。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。溶剤を用いている場合には、混合後に乾燥を行って溶剤含有率をほぼ0vol%としておくことが好ましい。また、この材料調製工程は、雰囲気温度が室温(20±5℃)の環境下で行うのが好適である。
【0042】
[圧縮成型工程]
圧縮成型工程は、材料調製工程において得られた複合磁性材料を所定の条件により圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程である。具体的には、まずプレス機械の金型を、100℃以上(複合磁性材料に含まれる高融点化合物の融点を超える温度)に調整しておき、この金型の開口から複合磁性材料をインジェクターなどによって金型内に供給し、これを液状とする。なお、金型の形状や大きさは特に限定されない。また、複合磁性材料を金型内に投入する際に、金型内部で複合磁性材料が十分に充填されない箇所を生じにくくするために、振動を加えながら投入を行っても良い。ここで、複合磁性材料を「液状」とするとは、液体またはペーストを含んだ流動性を有する性状とすることであり、この液状とした複合磁性材料に固形分(例えば金属磁性粉末など)は含まれている。
【0043】
そして、100℃以上に調整された金型内に複合磁性材料を供給した後、圧縮成型を行う前に10~120秒間程度保持しても良い。これにより、金型に供給された複合磁性材料が液状となり易くなる。
【0044】
さらに、この金型は、圧縮成型前および圧縮成型中において複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応を進行させ難くし、且つ高融点化合物の揮発もより抑制することができることから、140℃以下に調整されたものであるのがより好適である。
【0045】
その後、可動性パンチ(プレスヘッド)などにより金型の上下両方または上下どちらか一方から1000kgf/cm2以下(9.8×103N/cm2以下)の成型圧力により圧縮成型し、複合磁性成型体を得る。なお、この成型圧力は、800kgf/cm2以下(7.84×103N/cm2以下)であるのが好適であり、500kgf/cm2以下(4.9×103N/cm2以下)であるのがさらに好適である。また、3kgf/cm2以上(2.94×10N/cm2以上)であるのが好適であり、5kgf/cm2以上(4.9×10N/cm2以上)であるのがさらに好適である。圧縮成型の時間は、限定されるものではないが、5秒間以上5分間以下であるのが好適である。
なお、金型の上下両方または上下どちらか一方から1000kgf/cm2以下の成型圧力により、液状となった複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.45g/cm3以上、より好ましくは5.50g/cm3以上となるように圧縮成型し、複合磁性成型体を得るのがより好ましい。高い密度の複合磁性成型体とし易いからである。
【0046】
ここで、「液状となった複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.45g/cm3以上となるように圧縮成型する」とは、複合磁性材料の密度が5.45g/cm3以上となるまでに、複合磁性材料が流動性を有する状態が保たれていること(例えば複合磁性材料の溶融粘度が1300Ps・s以下、さらには1100Ps・s以下であるなど)であり、つまり複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応が実質的に進行する前に密度が5.45g/cm3以上となるように圧縮成型することである。複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などによって異なるが、目安としては、例えばエポキシ系樹脂を含む場合などでは圧縮成型開始から5~120秒間、さらには5~90秒間で密度が5.45g/cm3以上となるように圧縮成型するのが好適である。
なお、密度が5.45g/cm3以上となった後においては、複合磁性材料が流動性を有さない状態(含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化反応が実質的に進行した状態)となっていても良い。
【0047】
[熱硬化工程]
熱硬化工程は、圧縮成型工程において得られた複合磁性成型体を熱処理し、複合磁性成型体に含まれる高融点化合物を揮発させて除去しながら熱硬化性樹脂を熱硬化させて、複合磁性熱硬化成型体を得る工程である。具体的には、圧縮成型工程後の複合磁性成型体を、含まれる熱硬化性樹脂の推奨されている熱硬化温度以上の温度により熱処理して熱硬化させる。この熱処理の温度は、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などに応じて適宜設定すれば良いが、例えば、150℃以上330℃以下、さらには160℃以上310℃以下の温度が例示される。熱処理時間も、例えば0.1時間以上5時間以下であって良く、さらには0.2時間以上3時間以下であって良い。そして、この熱処理は、金型内において行っても良く、金型から取り出した後に行っても良く、その両方で行っても良い。その後、得られた複合磁性熱硬化成型体は、更に必要に応じて、表面の研磨やコーティングなどの工程を選択的に施すことができる。
【0048】
なお、この熱硬化工程において、複合磁性成型体に含まれる高融点化合物を揮発させて除去し、高融点化合物が実質的に含まれない(高融点化合物の含有率が0.1wt%未満、さらには0.05wt%未満である)複合磁性熱硬化成型体を得るのが好ましいが、これに限定されるものではなく、複合磁性成型体に含まれる高融点化合物の一部が残留した(例えば高融点化合物の含有率が0.1wt%以上1.0wt%以下、さらには0.5wt%以上0.9wt%以下である)複合磁性熱硬化成型体としても良い。
【0049】
このようにして、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂とにより構成された複合磁性熱硬化成型体を製造することができる。なお、この複合磁性熱硬化成型体の密度は、5.45g/cm3以上とすることができ、さらには5.50g/cm3以上とすることもできる。また、この複合磁性熱硬化成型体の比透磁率は、24.0以上とすることができ、さらには25.0以上とすることもできる。
【0050】
そして、前述した圧縮成型工程が、複合磁性材料にコイルを内包させて圧縮一体成型し、コイルが内包された複合磁性成型体を得る工程である場合には、これも限定されるものではないが、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法の変形例として、例えば
図1に示すような工程によりコイル部品を製造することができる。
【0051】
具体的には、まず丸線等のワイヤ線から形成された空芯コイル11を用意する(
図1の(a))。この空芯コイル11は、絶縁被覆されたワイヤ線が巻回された巻回部と、この巻回部からワイヤ線が引き出されたコイル引出部12とにより構成されている。次に、プレス機械の下側パンチを含む金型21を100℃以上に調整し、空芯コイル11をこの金型21内に置き、金型21の開口からコイルの巻回部(巻回されたワイヤのループ内側およびループどうしの隙間も含む)およびその上下空間を埋設するように、前述した材料調製工程により調製された粉状の複合磁性材料22を供給する。ただし、巻線の2つのコイル引出部12は複合磁性材料22から露出させる(
図1の(b))。そして、同様に温度調整された上側パンチにより前述した成型圧力で圧縮成型し、複合磁性材料22と空芯コイル11とを圧縮一体成型して、コイル内包複合磁性成型体を得る(
図1の(c))。その後、金型からコイル内包複合磁性成型体を取り出し、所定の温度での熱処理により熱硬化を行うことにより、高融点化合物が揮発されて除去され、且つ熱硬化された複合磁性熱硬化成型体32(磁性外装体および磁心となる磁性コア材)に空芯コイル11が包埋され、2つのコイル引出部12は外部に露出して端子となっているコイル部品を得ることができる(
図1の(d))。
【0052】
なお、空芯コイルの代わりにコイルと磁心となる他の磁性コア材とからなるコイル組立体を用意し、これを用いて上記と同様の方法によりコイル部品を製造しても良い。この場合、磁性外装体(アウターコア材)は上記の複合磁性熱硬化成型体により構成されるが、磁心(インナーコア材)は上記の複合磁性熱硬化成型体とは異なる材料(例えばフェライトコアなど)により構成されるコイル部品となる。けれども、アウターコア材およびインナーコア材がいずれも上記の複合磁性熱硬化成型体により構成されたコイル部品とするのがより好適である。
【0053】
以上、本実施形態に係る複合磁性熱硬化成型体の製造方法を説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の実施態様も含む。
また、上記実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜に組み合わせることができる。
【0054】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでもなく、前述のように、本発明の技術的思想内において様々な変形等が可能である。
【実施例0055】
(実施例1)
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末として、平均粒子径(D50)が約25μmの鉄粉グレードと平均粒子径(D50)が約2μmの鉄粉グレードとの混合物を用意し、さらに、熱硬化性樹脂として硬化剤を含む熱硬化性エポキシ樹脂(硬化温度210℃)を用意した。また、複合磁性材料に用いる高融点化合物として、ベンゾフェノン(融点49℃、沸点305℃)を用意した。
【0056】
そして、まず所定量秤量したベンゾフェノンを、メチルエチルケトン(MEK)に混合した。さらに、所定量秤量した上記エポキシ樹脂を混合し、充分に溶解して溶液とし、この溶液に所定量秤量した上記金属磁性粉末を混合して、プラネタリーミキサーで充分に攪拌し、スラリーを作製した。さらに、このスラリーを造粒後に、希釈溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)を乾燥させ、複合磁性材料の造粒粉を得た。なお、この複合磁性材料の造粒粉の全質量におけるエポキシ樹脂の質量は3wt%、ベンゾフェノンの質量は0.5wt%(エポキシ樹脂の質量に対して17wt%)とした。
【0057】
また、ベンゾフェノンを配合しないこと以外は上記と同様にして、複合磁性材料の造粒粉のコントロールも作製した。なお、この複合磁性材料の造粒粉のコントロールの全質量におけるエポキシ樹脂の質量は3wt%とした。
【0058】
次に、エアシリンダーが組み込まれた温度調整制御が可能なプレス機械の、下側パンチを含む金型を100℃以上140℃以下に調整した。金型温度が安定したところで金型内に上記複合磁性材料の造粒粉のいずれかを供給し、30秒間そのまま保持してその温度を金型温度とほぼ同一とした。30秒経過後、同じ温度に調整された上側パンチを挿入し、100kgf/cm2(9.8×102N/cm2)の成型圧力を上側パンチにかけて圧縮成型を行った。そして、それぞれ圧縮した状態で5分間保持した後、得られた各複合磁性成型体を金型から取り出した。さらに、金型から取り出した複合磁性成型体を、200℃2時間熱処理を行い、熱硬化性樹脂の熱硬化(アフターキュア)を行って2種類の円盤状の複合磁性熱硬化成型体を得た。
なお、金型への供給時において、いずれの造粒粉も粉としての流動性が良いものであった。また、ベンゾフェノンを含む複合磁性材料は、圧縮成型の開始時および所定の密度(5.45g/cm3以上)となるまでにおいて流動性を有する液状となっていた。
【0059】
そして、得られた複合磁性熱硬化成型体の密度の評価には、この円盤状の複合磁性熱硬化成型体を使用した。また、この円盤状の複合磁性熱硬化成型体の中心に穴加工を施したトロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体を作製し、得られた複合磁性熱硬化成型体の比透磁率の評価には、このトロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体を使用した。
【0060】
具体的な評価方法は、密度については、円盤状の複合磁性熱硬化成型体の外径、高さ、および質量の計測値から算出して評価した。比透磁率については、トロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体に絶縁被覆銅線(エナメル線)を20ターン巻回し、LCRメーター(Agilent社製 E4980A LCR Meter)によってインダクタンス値を測定し、トロイダル形状の複合磁性熱硬化成型体の外径、内径、および厚さからコア乗数を計算して、インダクタンス値から比透磁率を算出した。
【0061】
この結果、ベンゾフェノンを含む複合磁性材料を用いて作製された複合磁性熱硬化成型体の密度は5.62g/cm3、比透磁率は26.2であり、コントロールの複合磁性材料(ベンゾフェノンを含まない複合磁性材料)を用いて作製された複合磁性熱硬化成型体の密度は5.37g/cm3、比透磁率は23.2であった。つまり、高融点化合物を含む複合磁性材料を用いることにより、低い成型圧力で高い密度および高い比透磁率の複合磁性熱硬化成型体が得られることが明らかとなった。
【0062】
さらに、上記で調製したベンゾフェノンを含む複合磁性材料の造粒粉あるいはコントロールの複合磁性材料の造粒粉について、室温(20±5℃)および100℃における性状を確認し、撮影を行った。この撮影写真を
図2に示す。この結果、ベンゾフェノンを含む複合磁性材料の造粒粉は、高融点化合物であるベンゾフェノンが室温(20±5℃)では固体のため、
図2の左側下段の写真に示されるように、金型への供給時の状態では、コントロールの複合磁性材料の造粒粉(
図2の左側上段)と同様に粉としての流動性が良いものであった。一方、100℃ではベンゾフェノンが液状化するため、熱成型時の状態ではベンゾフェノンを含む複合磁性材料の造粒粉が液状となり(
図2の右側下段)、熱成型時の状態においても粉状であるコントロールの複合磁性材料の造粒粉(
図2の右側上段)とは異なる性状であることが示された。
【0063】
(実施例2)
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末および熱硬化性樹脂として実施例1と同じものを用意した。また、複合磁性材料に用いる高融点化合物として、下記表1に示す12種類の化合物を用意した。
【0064】
そして、実施例1と同様にして12種類の複合磁性材料の造粒粉を作製した(下記表1のNo.7は実施例1で作製したものと同じである)。なお、この複合磁性材料の造粒粉の全質量におけるエポキシ樹脂の質量は3wt%、高融点化合物の質量は0.5wt%(エポキシ樹脂の質量に対して17wt%)とした。さらに、これも実施例1と同様の方法により複合磁性熱硬化成型体を作製し、金型への造粒粉の供給時の流動性(給粉時流動性)、および1000kgf/cm2以下の低い成型圧力でも高密度の成型体を作製可能であるか(低成型圧化効果)について3段階で評価した。また、複合磁性材料の造粒粉に含まれる高融点化合物が造粒粉作製の作業中および40℃24hrでの保管時において残存しているか(保存性)についても3段階で評価し、これらの3項目の評価から総合判定も3段階で行った。この結果も下記表1に示す。なお、各項目の具体的な評価基準は以下の通りである。
【0065】
<給粉時流動性>
◎:流動性の変化無し
〇:流動性の変化有るが給粉可能
×:流動性が劣化する
<低成型圧化効果>
◎:低成型圧で密度の変化有り(>10%)
〇:低成型圧で密度の変化有り(≦10%)
×:低成型圧では密度の変化無し
<保存性>
◎:保管時も重量変化無し
〇:保管時に重量変化有り
×:作業中に揮発が進む
<総合判定>
◎:上記項目の評価が全て◎である
〇:上記項目の評価が全て○以上である
×:上記項目の評価に×が1以上ある
【0066】
この結果から、複合磁性材料が金型への供給時に粉としての流動性を有するためには、含まれる高融点化合物が室温で固体である必要があり、つまり融点が25℃以上であることが必要であることが示された。また、複合磁性材料の40℃以下(例えば10℃以上40℃以下)での保存性を確保するためには、含まれる高融点化合物がこの温度帯でほとんど揮発しないことが必要であり、つまり沸点が160℃以上である必要があることも示された。さらに、100℃以上での熱成型(例えば100℃以上140℃以下)を行うためには、複合磁性材料に含まれる高融点化合物の融点が100℃未満である必要があることも示された。
【0067】
【0068】
(実施例3)
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末および熱硬化性樹脂として実施例1と同じものを用意した。また、複合磁性材料に用いる高融点化合物として、クマリン(融点73℃、沸点298℃)を用意した。
【0069】
そして、配合量を下記表2に示す量とした以外は実施例1と同様にして、9種類の複合磁性材料の造粒粉を作製した(下記表2のNo.25は実施例2のNo.12と同じである)。さらに、これも実施例1と同様の方法により複合磁性熱硬化成型体を作製し、実施例2と同じ基準により給粉時流動性および低成型圧化効果について3段階で評価した。そして、これも実施例2と同様に、これらの2項目の評価から総合判定も3段階で行った。この結果も下記表2に示す。
【0070】
この結果から、複合磁性材料における高融点化合物の質量比率は、熱硬化性樹脂の質量に対して3wt%以上100wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上33wt%以下であるのが特に好ましいことが示された。
【0071】
【0072】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)材料調製工程と、圧縮成型工程と、熱硬化工程と、を含む複合磁性熱硬化成型体の製造方法であって、前記材料調製工程が、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、融点が25℃以上100℃未満であり且つ沸点が150℃以上である高融点化合物と、を、前記熱硬化性樹脂の質量に対して前記高融点化合物の質量が3.0wt%以上100wt%以下となるように混合して粉状の複合磁性材料を得る工程であり、前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料を100℃以上に調整された金型に供給して液状とし、1000kgf/cm2以下の成型圧力により圧縮成型して複合磁性成型体を得る工程であり、前記熱硬化工程が、前記複合磁性成型体を熱処理し、前記高融点化合物を揮発させて除去しながら前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて、前記複合磁性熱硬化成型体を得る工程である、複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(2)前記圧縮成型工程において、1000kgf/cm2以下の成型圧力により、液状となった前記複合磁性材料が流動性を有する状態のうちに密度が5.45g/cm3以上となるように圧縮成型する、(1)に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(3)前記材料調製工程の前記高融点化合物は、融点が80℃以下であり且つ沸点が330℃以下である、(1)または(2)に記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(4)前記圧縮成型工程において、前記複合磁性材料を、100℃以上140℃以下の温度に調整された前記金型に供給する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。
(5)前記圧縮成型工程が、前記複合磁性材料にコイルを内包させて圧縮一体成型し、前記コイルが内包された前記複合磁性成型体を得る工程である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の複合磁性熱硬化成型体の製造方法。