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特開2022-143674養液加熱殺菌システム及び該養液加熱殺菌システムの設置方法
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  • 特開-養液加熱殺菌システム及び該養液加熱殺菌システムの設置方法 図1
  • 特開-養液加熱殺菌システム及び該養液加熱殺菌システムの設置方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143674
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】養液加熱殺菌システム及び該養液加熱殺菌システムの設置方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220926BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044324
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西小野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 明
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA12
2B314MA46
2B314ND27
2B314PA13
2B314PB44
2B314PB55
2B314PD50
(57)【要約】
【課題】養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい加熱式であって、養液を貯留する第一タンクの近傍に十分なスペースがない場合でも設置可能な養液加熱殺菌システムを提供する。
【解決手段】養液加熱殺菌システム2は、養液を貯留する第一タンク11と、養液により植物を栽培する栽培槽12と、第一タンクと栽培槽の間で養液が流れる供給経路13と、を備え、複数の設置区域にわたって設置される植物栽培システム1に設置される、養液加熱殺菌システムであって、第一タンクの設置された設置区域と異なる設置区域に設置され、第一タンクから供給される養液を一時的に貯留する第二タンク21と、供給経路の途中と第二タンクとの間で養液が流れる連結配管22と、第二タンクに連結され、第二タンクに供給された養液を加熱殺菌する殺菌システム3と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液を貯留する第一タンクと、前記養液により植物を栽培する栽培槽と、前記第一タンクと前記栽培槽の間で前記養液が流れる供給経路と、を備え、複数の設置区域にわたって設置される植物栽培システムに設置される、養液加熱殺菌システムであって、
前記第一タンクの設置された前記設置区域と異なる前記設置区域に設置され、前記第一タンクから供給される前記養液を一時的に貯留する第二タンクと、
前記供給経路の途中と前記第二タンクとの間で前記養液が流れる連結配管と、
前記第二タンクに連結され、前記第二タンクに供給された前記養液を加熱殺菌する殺菌システムと、を備える養液加熱殺菌システム。
【請求項2】
前記殺菌システムは、前記養液を一時的に貯留できる容量を有し、貯留されている前記養液を加熱する加熱装置を備えた加熱タンクと、
前記第二タンクから前記加熱タンクに至る往路配管、及び、前記加熱タンクから前記第二タンクに至る復路配管を備え、前記第二タンクと前記加熱タンクとの間で前記養液を循環させる加熱用養液循環機構と、
前記往路配管及び前記復路配管に亘って設けられ、前記復路配管に流れる前記養液の熱を前記往路配管に流れる前記養液に伝達する熱交換器と、を備える請求項1に記載の養液加熱殺菌システム。
【請求項3】
前記連結配管は、前記養液が前記第一タンクから前記第二タンクに向かって流れる第一流路の一部と前記養液が前記第二タンクから前記栽培槽に向かって流れる第二流路の一部とを構成する請求項1又は2に記載の養液加熱殺菌システム。
【請求項4】
養液を貯留する第一タンクと、前記養液により植物を栽培する栽培槽と、前記第一タンクと前記栽培槽の間で前記養液が流れる供給経路と、を備え、複数の設置区域にわたって設置される既設植物栽培システムに、
前記第一タンクから供給される前記養液を一時的に貯留する第二タンクと、
前記第二タンクに連結され、前記第二タンクに供給された前記養液を加熱殺菌する殺菌システムと、を備える養液加熱殺菌システムを追設する設置方法であって、
前記養液加熱殺菌システムを任意の位置に設置する加熱殺菌システム設置工程と、
前記供給経路と前記第二タンクとの間に前記養液を流すことができる連結配管を設ける連結工程と、を備え、
前記加熱殺菌システム設置工程において、少なくとも、前記第二タンクを前記第一タンクの設置された前記設置区域と異なる設置区域に設置する養液加熱殺菌システムの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培で植物を栽培する際に用いる養液に係る養液加熱殺菌システム、及び、該養液加熱殺菌システムを既設の植物栽培システムに追設する設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場等の人工環境にて、養液栽培で植物を栽培する際に用いる養液は、植物の病害を防止するために殺菌(除菌)が必要である。ちなみに、養液栽培は閉鎖系と非閉鎖系(かけ流し式)とに大別される。閉鎖系には、養液の循環方式に関し、循環式(例えばNFT(薄膜水耕)、DFT(湛液型循環式水耕)、各固形培地耕、少量土壌培地耕に適用)と、非循環式(例えば毛管水耕、パッシブ水耕、保水シート耕に適用)とがある。また、非閉鎖系は例えば各固形培地耕、少量土壌培地耕に適用される。
【0003】
ここで一例として、特許文献1では、オゾン、紫外線、光触媒を用いた養液の除菌方法が提案されている。ところが、本願発明者の知見によると、これらの除菌方法では、植物の病気の原因菌の約8割を占めていると言われる養液中の「真菌」を陰性にするのは容易ではない。陰性にしようとすると、オゾン、紫外線、光触媒の濃度や強度を上げざるを得ず、今度はその影響により一部の肥料要素の不溶化や沈殿を招き、養液中の肥料要素の組成バランスを崩すという悪循環に陥っていた。また、特許文献1に記載の水処理装置は、廃液タンクに養液供給管と養液戻り管とにより接続されている。しかしながら、水処理装置、養液供給管及び養液戻り管を設置するためには、廃液タンクの近傍に十分なスペースが必要であり、十分なスペースがない場合には、水処理装置を設置できないという問題がある。
【0004】
一方、特許文献2では、加熱による養液(液肥)の殺菌装置が提案されている。このような加熱式は、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい点で有利である。
【0005】
しかし、特許文献2に記載の殺菌装置は、循環する養液の全量を加熱殺菌処理するよう構成されている。このため、加熱のために大きなエネルギーが必要になることから、殺菌装置を構成する加熱装置の能力を大きくせざるを得ないとの欠点がある。また、加熱した養液をそのまま植物に供給すると植物が熱の悪影響を受けてしまうため、加熱後に養液の冷却を行う必要がある。この際でも、特許文献2のように全量を殺菌処理する方法では、冷却に大きなエネルギーが必要になる。さらに、特許文献1と同様に、十分なスペースがない場合には、殺菌装置を設置できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/043326号
【特許文献2】特開平3-127918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい加熱式であって、養液を貯留する第一タンクの近傍に十分なスペースがない場合でも設置可能な養液加熱殺菌システム、及び、該養液加熱殺菌システムを既設の植物栽培システムに追設する設置方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の養液加熱殺菌システムは、養液を貯留する第一タンクと、前記養液により植物を栽培する栽培槽と、前記第一タンクと前記栽培槽の間で前記養液が流れる供給経路と、を備え、複数の設置区域にわたって設置される植物栽培システムに設置される、養液加熱殺菌システムであって、前記第一タンクの設置された前記設置区域と異なる前記設置区域に設置され、前記第一タンクから供給される前記養液を一時的に貯留する第二タンクと、前記供給経路の途中と前記第二タンクとの間で前記養液が流れる連結配管と、前記第二タンクに連結され、前記第二タンクに供給された前記養液を加熱殺菌する殺菌システムと、を備える。
【0009】
かかる構成によれば、供給経路の途中から連結配管を介して養液が供給されるように、第二タンクが配置されるので、養液加熱殺菌システムを任意の場所に設置することができる。
【0010】
また、前記養液を一時的に貯留できる容量を有し、貯留されている前記養液を加熱する加熱装置を備えた加熱タンクと、前記第二タンクから前記加熱タンクに至る往路配管、及び、前記加熱タンクから前記第二タンクに至る復路配管を備え、前記第二タンクと前記加熱タンクとの間で前記養液を循環させる加熱用養液循環機構と、前記往路配管及び前記復路配管に亘って設けられ、前記復路配管に流れる前記養液の熱を前記往路配管に流れる前記養液に伝達する熱交換器と、を備えることもできる。
【0011】
かかる構成によれば、第二タンクとは別に加熱タンクを設け、加熱用養液循環機構を介して養液を循環させるように構成したので、植物を栽培するための養液を全量加熱する構成に比べ、加熱装置の能力を小さくできる。
【0012】
また、前記連結配管は、前記養液が前記第一タンクから前記第二タンクに向かって流れる第一流路の一部と前記養液が前記第二タンクから前記栽培槽に向かって流れる第二流路の一部とを構成することもできる。
【0013】
かかる構成によれば、連結配管が第二流路の一部を構成するため、養液加熱殺菌システムで加熱殺菌された養液を直接的に栽培槽に送れるので、殺菌の効果が失われないままの養液を植物に供給することができる。
【0014】
また、本発明の養液加熱殺菌システムの設置方法は、養液を貯留する第一タンクと、前記養液により植物を栽培する栽培槽と、前記第一タンクと前記栽培槽の間で前記養液が流れる供給経路と、を備え、複数の設置区域にわたって設置される既設植物栽培システムに、前記第一タンクから供給される前記養液を一時的に貯留する第二タンクと、前記第二タンクに連結され、前記第二タンクに供給された前記養液を加熱殺菌する殺菌システムと、を備える養液加熱殺菌システムを追設する設置方法であって、前記養液加熱殺菌システムを任意の位置に設置する加熱殺菌システム設置工程と、前記供給経路と前記第二タンクとの間に前記養液を流すことができる連結配管を設ける連結工程と、を備え、前記加熱殺菌システム設置工程において、少なくとも、前記第二タンクを前記第一タンクの設置された前記設置区域と異なる設置区域に設置する。
【0015】
かかる構成によれば、養液加熱殺菌システムを任意の位置に設置して、第一タンクと供給経路の間を連結配管で連結するので、既設の植物栽培システムの近傍に十分なスペースがない場合でも、養液加熱殺菌システムを追設することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい加熱式であって、養液を貯留する第一タンクの近傍に十分なスペースがない場合でも設置可能な養液加熱殺菌システム、及び、該養液加熱殺菌システムを既設の植物栽培システムに追設する設置方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】既設の植物栽培システムを示す図である。
図2】本発明の一実施形態の養液加熱栽培システムを組み込んだ植物栽培システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態の養液加熱殺菌システム2について図1及び図2を参照して説明する。養液加熱殺菌システム2は、図1に記載のような植物栽培システム1に組み込まれる。本実施形態では、既設の植物栽培システム1に、養液加熱殺菌システム2を追設する場合について説明する。まず、養液加熱殺菌システム2を追設するための設置方法の説明に先立って、各構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、植物栽培システム1は、栽培槽12で養液により植物を栽培するシステムである。具体的に、植物栽培システム1は、養液を貯留する第一タンク11と、養液により植物を栽培する栽培槽12と、第一タンク11と栽培槽12の間で養液が流れる供給経路13と、を備える。本実施形態の植物栽培システム1は、システム内で養液が循環する循環式を採用している。本実施形態で用いられる養液は、植物を成長させるための養分や、植物が病気にならないようにするための薬剤等、植物に有用な水溶性成分が溶かされた水溶液であって、植物栽培システム1の各部を循環する。このような植物栽培システム1は、例えば、建物の中に設けられる。また、植物栽培システム1は、建物の複数の設置区域に亘って設置される。本実施形態の植物栽培システム1は、建物の複数の階層に亘って設置され、例えば、建物の1階から2階に亘って設置される。なお、植物栽培システム1を、建物の一階層に設けられる複数の部屋(区画)に亘って設置してもよいし、複数の建物に亘って設置してもよい。
【0020】
栽培槽12は植物を栽培する部分であって、養液が植物の根に接するように一定の容量を有している。栽培槽12には、矢印を図示したように、養液が一方向に出入りする供給経路13(供給配管131及び排水配管132)が接続されている。図示しないが、栽培槽12には、栽培対象である植物の根を支持するための支持部が設けられている。また、図示しないが、完全人工光型植物工場の場合には、栽培槽12の周囲(例えば栽培槽12の上方)には照明装置が設けられており、植物を成長させるための光を照射する。本実施形態では、3台の栽培槽12が並列して設けられている。しかし、栽培槽12の数量はこれに限定されない。また、複数の栽培槽12が設けられる場合には、各栽培槽12を上下方向や水平方向に並べることができる。また、栽培槽12で栽培される植物は、葉物野菜等、養液栽培に適した種々の植物とできる。本実施形態の栽培槽12は、建物の2階に設けられている。
【0021】
第一タンク11は、植物を栽培する養液を貯留する一定の容量を有する槽である。第一タンク11の容量は、養液が栽培槽12に滞留する分及び供給経路13(供給配管131及び排水配管132)を循環する分に対し、余裕を持たせた容量とされている。本実施形態の第一タンク11の容量は、例えば500リットルである。また、本実施形態の第一タンク11は、建物の1階に設けられている。
【0022】
供給経路13は、第一タンク11と栽培槽12との間で養液を循環させるための機構である。供給経路13は、第一タンク11から栽培槽12に至る供給配管131と、栽培槽12から第一タンク11に至る排水配管132と、を備える。供給配管131の途中には、第一栽培用養液循環ポンプ133が設けられている。図示はしていないが、栽培槽12で植物に吸収されたり蒸発したりすることで減少した分の養液または養液中の成分を補充するための補充機構が、第一タンク11または供給経路13に設けられている。本実施形態の供給配管131は、1階に設けられる第一タンク11から第一栽培用養液循環ポンプ133で2階に設けられる栽培層に養液を供給する。また、排水配管132は、2階に設けられる栽培槽12から例えばオーバーフローによって排水された養液を重力に従って落下させ、第一タンク11まで誘導する。
【0023】
養液加熱殺菌システム2は、第一タンク11から供給される養液を一時的に貯留する第二タンク21と、供給経路13及び第二タンク21を養液が流れるように連結する連結配管22と、第二タンク21に連結され、第二タンク21に供給された養液を加熱殺菌する殺菌システム3と、を備える。また、本実施形態の養液加熱殺菌システム2は、第二タンク21に貯留された養液を冷却する冷却装置23及び冷却用養液循環機構24を備える。
【0024】
第二タンク21は、養液を貯留する一定の容量を有する槽である。第二タンク21の容量は、養液が栽培槽12に滞留する分及び供給経路13(供給配管131及び排水配管132)を循環する分に対し、余裕を持たせた容量とされている。本実施形態の第二タンク21の容量は、例えば500リットルである。また、第二タンク21の容量は、第一タンク11の容量と略等しい。そのため、第一タンク11に貯留された養液の全量が第二タンク21に供給されたとしても、養液が第二タンク21から溢れる(貯留しきれない)ことを抑制できる。
【0025】
本実施形態の第二タンク21は、第一タンク11と異なる設置区域に設置される。本実施形態の第二タンク21は、第一タンク11と同じ建物内の異なる階層に設置される。なお、第二タンク21を第一タンク11と同じ建物内の同一階層で異なる部屋に設置することもできるし、第一タンク11と第二タンク21を異なる建物に設置することもできるし、第一タンク11を屋外に、第二タンク21を屋内に設置することもできる。
【0026】
連結配管22は、供給経路13の途中と第二タンク21とを連結し、供給経路13と第二タンク21の間で養液が流れる配管である。本実施形態の連結配管22は、供給配管131の途中に連結される。また、連結配管22は、供給配管131から第二タンク21に養液を流す第一連結配管221と、第二タンク21から供給配管131に養液を流す第二連結配管222と、を備える。第一連結配管221と供給配管131との連結点は、第二連結配管222と供給配管131との連結点よりも、供給配管131の養液が流れる方向において第一タンク11側の位置である。即ち、第一連結配管221は、第一タンク11から第二タンク21に向かって養液が流れる第一流路R1の一部を形成し、第二連結配管222は、第二タンク21から栽培槽12に向かって養液が流れる第二流路R2の一部を形成する。また、第二連結配管222の途中には、第二栽培用養液循環ポンプ223が設けられる。第二栽培用養液循環ポンプ223は、第二タンク21側の養液を栽培槽12側に移送する。このような構成の連結配管22によれば、後述するように、加熱殺菌及び温度調整(冷却)がされた第二タンク21内の養液を、直接的に栽培槽12に送ることができるので、殺菌の効果が失われないままの養液を栽培槽12の植物に供給することができる。
【0027】
殺菌システム3は、養液を殺菌するために設けられる。殺菌対象の菌は、例えば真菌である。殺菌システム3は、主に、加熱タンク31、加熱用養液循環機構32、熱交換器33、を備える。なお、殺菌システム3は、このような構成に限定されず、養液を加熱殺菌可能な種々の構成を採用することができる。
【0028】
加熱タンク31は、養液を一時的に貯留できる容量を有する。加熱タンク31は、貯留されている養液を加熱する加熱装置311を備える。本実施形態の加熱装置311は電気ヒータである。ただし、これに限定されず、種々の形式の加熱装置311を使用できる。他の形式の加熱装置311としては、石油ボイラやガスボイラが例示できる。本実施形態の養液加熱殺菌システム2では、一時的に貯留されている養液を加熱することから、第一タンク11と栽培槽12との間で循環する養液の量よりも、加熱する養液の量を小さくできる。つまり、従来の、養液全量を殺菌処理するやり方に比べて、加熱する対象の養液の量を少なくできる場合がある。このため、省エネルギーに貢献できる。これに伴い、加熱タンク31の容量は第二タンク21の容量よりも小さく設定できる。本実施形態の加熱タンク31の容量は例えば200リットルであり、第二タンク21の容量(例えば500リットル)よりも小さい。よって、加熱タンク31の設置スペースを小さくでき、養液加熱殺菌システム2(植物栽培システム1全体)の省スペース化に貢献できる場合がある。また、加熱タンク31には温度センサ(図示しない)が設けられていて、接続された制御装置(図示しない)により加熱が制御される。
【0029】
加熱用養液循環機構32は、第二タンク21から加熱タンク31に至る往路配管321と加熱タンク31から第二タンク21に至る復路配管322とを備える。加熱用養液循環機構32は、第二タンク21と加熱タンク31との間で、往路配管321及び復路配管322を介して養液を循環させる。この循環のため、往路配管321には加熱用往路ポンプ323が設けられており、復路配管322には加熱用復路ポンプ324が設けられている。本実施形態の加熱用養液循環機構32では、各ポンプにより、例えば1分間に20リットルの養液を移動させられる。
【0030】
第二タンク21の養液は、往路配管321、加熱タンク31、復路配管322を経て第二タンク21に戻る。このように養液は加熱のために循環する。循環は切れ目なく連続してなされてもよいし、バッチ処理として間欠的になされてもよい。本実施形態では後者を採用している。後者の場合、加熱タンク31に貯留し、出入りを止めた分の養液を加熱できるので、温度管理がしやすいメリットがある。
【0031】
熱交換器33は、往路配管321と復路配管322とに亘って設けられる。熱交換器33は、復路配管322に流れる養液の熱を往路配管321に流れる前記養液に伝達する。本実施形態の熱交換器33はプレート型熱交換器33である。ただし、これに限定されず、種々の形式の熱交換器33を使用できる。熱損失を無視した場合、熱交換器33における往路配管321側の養液の温度上昇と復路配管322側の養液の温度下降は同じである。温度変化の具体例は後述する。このような構成の熱交換器33によれば、加熱タンク31に供給される直前の養液を加熱し、また、第二タンク21に戻される前の養液を冷却できるので、加熱及び冷却の効率をよくすることができる。
【0032】
冷却装置23は、第二タンク21に貯留された養液を冷却する。本実施形態の冷却装置23はチラーである。ただし、これに限定されず、種々の形式の冷却装置23を使用できる。冷却用養液循環機構24は冷却用ポンプを備えていて、第二タンク21と冷却装置23との間で養液を循環させる。冷却用養液循環機構24は、加熱用養液循環機構32とは別に設けられている。このため、熱交換器33により温度が低下して第二タンク21に戻った養液に対し、過剰(冷やし過ぎ)でない適切な冷却が可能である。本実施形態で冷却装置23は、冷却用養液循環機構24と共に常時運転されているが、間欠的な運転であってもよい。冷却装置23により、第二タンク21の養液の温度を適度に低下させることができるので、養液の熱により、栽培槽12の植物に悪影響が生じることを抑制できる。即ち、本実施形態の養液加熱殺菌システム2は、第二タンク21の養液について、加熱殺菌及び温度調整をすることができる。
【0033】
以上のような養液加熱殺菌システム2を、既設の植物栽培システム1に追設する設置方法について説明する。養液加熱殺菌システム2の追設は、加熱殺菌システム設置工程と、連結工程と、によって行われる。
【0034】
加熱殺菌システム設置工程は、養液加熱殺菌システム2を任意の位置(養液加熱殺菌システム2を設置するための十分なスペースがある位置)に設置する工程である。本実施形態では、養液加熱殺菌システム2を、建物の2階(栽培槽12が設けられる階層と同じ階層)に設置する。また、加熱殺菌システム設置工程では、第一タンク11が設置された設置区域と異なる設置区域に第二タンク21を設置する。
【0035】
連結工程は、供給経路13と第二タンク21を連結配管22で連結する工程である。連結工程では、第一連結配管221及び第二連結配管222を、それぞれ供給経路13と第二タンク21との間に亘って設置する。また、連結工程では、連結配管22(第一連結配管221及び第二連結配管222)を供給配管131と第二タンク21の間に設置する。また、連結工程では、供給経路13及び連結配管22の所定の位置に開閉弁134を設置する。具体的に、開閉弁134は、供給配管131のうち、第一連結配管221が連結される連結点及び第二連結配管222が連結される連結点の間の位置、並びに、第一連結配管221及び第二連結配管222のそれぞれの中途部分の位置に配置される。このように開閉弁134を配置することで、養液を、第一タンク11から養液加熱殺菌システム2を介して栽培槽12に供給するか、養液加熱殺菌システム2を介さずに第一タンク11から直接的に栽培槽12に供給するかを適宜選択できる。このような連結工程によれば、供給経路13への加工で既設の植物栽培システム1に養液加熱殺菌システム2を追設できるので、第一タンク11に加工をする場合に比べて容易に養液加熱殺菌システム2を設置できる。
【0036】
以上の工程によれば、養液加熱殺菌システム2を任意の位置に設置して、第二タンク21と供給経路13の間を連結配管22で連結するので、既設の植物栽培システム1の第一タンク11の近傍に十分なスペースがない場合でも、養液加熱殺菌システム2を追設することができる。
【0037】
次に、養液加熱殺菌システム2の動作について一例を挙げて説明する。
【0038】
初回(第二タンク21及び加熱タンク31が空の場合)においては、第一栽培用養液循環ポンプ133を稼働させ、第一タンク11内の養液を第二タンク21に移動させ、第二タンク21に一定量の養液を貯留する。第二タンク21に一定量の養液が貯留されると、加熱用往路ポンプ323を動作させ、加熱タンク31に一度に殺菌処理する量の養液を貯める。このとき、加熱タンク31に養液を供給するのに並行して第一タンク11から第二タンク21に養液を供給してもよい。次に、加熱用往路ポンプ323を停止し、加熱装置311(電気ヒータ)を作動させ、加熱タンク31内の養液を60~70℃まで加熱する。
【0039】
2回目以降(加熱タンク31に既に養液が貯まっている場合)は、加熱用往路ポンプ323と加熱用復路ポンプ324を同時に動作させて、熱交換器33において、高温と低温の養液同士で熱交換を行う。その結果、加熱タンク31には45~55℃の養液が入り、第二タンク21には35~45℃の養液が戻る。次に、加熱用往路ポンプ323と加熱用復路ポンプ324を停止し、加熱装置311(電気ヒータ)を作動させ、加熱タンク31内の45~55℃の養液を60~70℃まで加熱する。加熱後、加熱装置311を継続して作動させることで、60~70℃を数分~30分間維持する(保温する)。次に、第二タンク21内の約25℃の養液に、第二タンク21に戻ってきた35~45℃の養液が混合され、第二タンク21内の養液は約25℃より数℃上昇する(上昇温度は混合割合によって異なる)。戻ってきた容量の混合量が第二タンク21の容量に比べて小さいため、第二タンク21内の養液の温度上昇を小さく抑えられる。温度上昇した分、冷却装置23(チラー)によって約25℃まで冷却する。これらを繰り返すことで、殺菌処理を順次行っていく。
【0040】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、既設の植物栽培システム1に養液加熱殺菌システム2を追設する場合について説明したが、新設の植物栽培システム1に本養液加熱殺菌システム2を適用することもできる。具体的に、植物栽培システム1を新設する場合にも、第一タンク11の近傍に養液加熱殺菌システム2を設置するための十分なスペースがない場合でも、本養液加熱殺菌システム2を設置することができる。
【0042】
また、連結配管22が供給配管131に連結される場合について説明したが、循環式の植物栽培システム1においては、連結配管22が排水配管132に連結されるように構成してもよい。このような構成の場合には、加熱殺菌された養液が第一タンク11に供給されてから栽培槽12に流れるので、養液が栽培槽12に供給されるまでに、放熱される。よって、養液加熱殺菌システム2が冷却装置23を備えない場合や、冷却装置23の能力が小さい場合でも、養液の熱が植物に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【符号の説明】
【0043】
1…植物栽培システム、11…第一タンク、12…栽培槽、13…供給経路、131…供給配管、132…排水配管、133…第一栽培用養液循環ポンプ、134…開閉弁、2…養液加熱殺菌システム、21…第二タンク、22…連結配管、221…第一連結配管、222…第二連結配管、223…第二栽培用養液循環ポンプ、23…冷却装置、24…冷却用養液循環機構、3…殺菌システム、31…加熱タンク、311…加熱装置、32…加熱用養液循環機構、321…往路配管、322…復路配管、323…加熱用往路ポンプ、324…加熱用復路ポンプ、33…熱交換器、R1…第一流路、R2…第二流路
図1
図2