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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143704
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】補強パネルの取付構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220926BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220926BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04G23/02 E
F16F15/02 K
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044364
(22)【出願日】2021-03-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】521115258
【氏名又は名称】株式会社ムーサ研究所
(71)【出願人】
【識別番号】521114239
【氏名又は名称】笠井 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】磐田 正晴
【テーマコード(参考)】
2E139
2E176
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA08
2E139BD22
2E176AA07
2E176BB28
3J048AB02
3J048AC06
3J048BC09
3J048BE10
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】補強パネルに過度の力が入力しないように構成することで、建築構造物が崩壊することが無いように継続して地震力を受け持つことが可能な補強パネルの取付構造を提供する。
【解決手段】矩形状の枠部材(11)の内側に鋼製部材(12又は13)を設置してなる補強パネル(10)の上枠及び下枠(11a,11b)が建物の上梁及び下梁(31a,31b)それぞれに直接又は他の部材を介して固定されると共に、左右の枠(11c,11d)が建物の左右の柱(31c,31d)又は隣接する他の補強パネル(10)の左右の枠(11c,11d)に固定されることで、該補強パネル(10)が建物の上下の梁(31a,31b)の間に設置される構造であり、補強パネル(10)の下枠(11b)を建築構造物の下梁(31b)に支持する脚部材(50)を備え、該脚部材(50)は、低降伏点鋼からなるウェブ(52)を有するダンパー部材である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に取り付ける補強パネルの取付構造であって、
前記補強パネルは、矩形状の枠部材の内側に鋼製部材を設置してなる鋼製パネルであり、
前記補強パネルの上枠及び下枠が前記建築構造物の上梁及び下梁それぞれに直接又は他の部材を介して固定されると共に、前記補強パネルの左右の枠が前記建築構造物の左右の柱又は隣接する他の補強パネルの左右の枠に固定されることで、該補強パネルが前記建築構造物の前記上下の梁の間に設置される構造であり、
前記補強パネルの下枠を前記建築構造物の前記下梁に支持する脚部材を備え、該脚部材は、低降伏点鋼からなるウェブを有するダンパー部材である
ことを特徴とする補強パネルの取付構造。
【請求項2】
前記補強パネルの座屈耐力と前記脚部材の降伏耐力の関係が、
補強パネルの座屈耐力>脚部材の降伏耐力
となるように構成した
ことを特徴とする請求項1に記載の補強パネルの取付構造。
【請求項3】
前記脚部材は、前記ウェブの上端に固定した上プレートを備え、前記ウェブの下端を前記下梁に溶接で固定し、前記上プレートを前記補強パネルの下枠にボルトの締結で固定する構造である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の補強パネルの取付構造。
【請求項4】
前記補強パネルは、矩形状の枠内に多数の透孔を略格子状に設けた鋼鈑を設置してなる有孔鋼板、又は、矩形状の枠内に鋼製のブレースを格子状に配してなる格子型ブレースである
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の補強パネルの取付構造。
【請求項5】
前記補強パネルは、前記建築構造物の外面に設置する補強パネルである
ことを特徴とする請求項4に記載の補強壁の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物に取り付ける補強パネルの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の建築構造物(建物)に耐震部材を設置する補強構造として、例えば特許文献1に示すように、建物の梁と柱の間に補強部材を設置する構造がある。また、上記のような耐震部材を設置する補強工事(改修工事)として、建物の外面などに鋼鈑や鋼製の格子状ブレースを用いた補強パネル(鋼製パネル)を取り付けることが行われる。このような補強パネルは、建物の外面における左右の柱と上下の梁で囲まれた部分などに設置され、地震発生時に比較的大きなせん断力を負担する役割を担うことで、建物の倒壊を未然に防止する機能を有する。
【0003】
上記のような鋼製パネルは剛性が大きいので、地震力に対して最初に力を受ける。その際に、過度に大きな力が作用すると鋼製パネルを構成する鋼板やブレース(筋違)が座屈するおそれがある。すなわち、鋼製の補強パネルは、負担せん断力が大きいほど、鋼板などが早期に座屈し易くなる。万一、補強パネルが座屈すると、補強パネルの耐震機能が失われてしまい、建物の崩壊を防止する機能を十分に発揮することができないおそれがある。
【0004】
補強パネルの座屈を未然に防止するために、従来構造では、鋼板の厚さを厚く形成することや鋼製ブレースの断面積を大きくする必要があった。しかしながら、鋼板の厚さを厚く形成したり鋼製ブレースの断面積を大きしたりすると、補強パネルの重量増やコスト増につながるおそれがあり、また、補強パネルの施工の際の作業負担が増加するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-127405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、補強パネルに過度の力が入力しないように構成することで、建築構造物が崩壊することが無いように継続して地震力を受け持つことを可能とする補強パネルの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、建築構造物に取り付ける補強パネル(10)の取付構造であって、補強パネル(10)は、矩形状の枠部材(11)の内側に鋼製部材(12又は13)を設置してなる鋼製パネルであり、補強パネル(10)の上枠及び下枠(11a,11b)が建築構造物の上梁及び下梁(31a,31b)それぞれに直接又は他の部材を介して固定されると共に、補強パネル(10)の左右の枠(11c,11d)が建築構造物の左右の柱(31c,31d)又は隣接する他の補強パネル(10)の左右の枠(11c,11d)に固定されることで、該補強パネル(10)が建築構造物の上梁(31a)と下梁(31b)との間に設置される構造であり、補強パネル(10)の下枠(11b)を建築構造物の下梁(31b)に支持する脚部材(50)を備え、該脚部材(50)は、低降伏点鋼からなるウェブ(52)を有するダンパー部材であることを特徴とする。
【0008】
そしてここでは、補強パネル(10)の座屈耐力と脚部材(50)の降伏耐力の関係が、補強パネルの座屈耐力>脚部材の降伏耐力となるように構成するとよい。
【0009】
本発明にかかる補強パネルの取付構造によれば、補強パネルの下枠を建築構造物の下梁に支持する脚部材を備え、この脚部材は、低降伏点鋼からなるウェブを有するダンパー部材であることで、地震による大きな力が建築構造物に作用する場合、建築構造物の梁や柱から補強パネルにかかる力で補強パネルの鋼製部材が降伏する前に低降伏点鋼からなる脚部材のウェブが塑性変形することで、鋼製部材に所定以上の過大な力がかかることを防止できる。したがって、建築構造物が崩壊することが無いように補強パネルで継続して地震力を受け持つことが可能となる。
【0010】
また、本発明の補強パネルの取付構造では、脚部材(50)は、ウェブ(52)の上端に固定した上プレート(51)を備え、ウェブ(52)の下端を下梁(31b)に溶接で固定し、上プレート(51)を補強パネル(10)の下枠(11b)にボルト(56)の締結で固定する構造であってよい。
【0011】
この構成によれば、脚部材(詳細には脚部材のウェブの下端)をあらかじめ建築構造物の下梁に溶接で固定しておくことで、補強パネルを上枠と左右の柱と下枠で囲まれた内部に配置し、該補強パネルの下枠と脚部材の上プレートとをボルトの締結で固定するだけで、建築構造物への補強パネルの取り付けが可能となる。したがって、脚部材を設けたことによる取付工数の大幅な増加や作業時間の増加を招くことなく、補強パネルの取付作業を容易かつ迅速に行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明の補強パネルの取付構造では、補強パネル(10)は、矩形状の枠(11)内に多数の透孔を略格子状に設けた鋼鈑(12)を設置してなる有孔鋼板(10A)、又は、矩形状の枠(11)内に鋼製のブレース(13)を格子状に配してなる格子型ブレース(10B)であってよい。
【0013】
本発明にかかる補強パネルの取付構造によれば、既述のように、脚部材を設けたことで補強パネル(鋼製部材)に所定以上の過大な力がかかることを防止できるので、補強パネルを上記のような有孔鋼板又は格子型ブレースとすることができる。これにより、補強パネルの軽量化や薄型化を図ることができ、かつ、デザイン(意匠)の自由度の確保が可能となるので、必要な耐震性能を確保しながらも補強パネルに高い機能性・美観性を持たせることが可能となる。
【0014】
また、本発明の補強パネルの取付構造では、補強パネル(10)は、建築構造物の外面に設置する補強パネルであってよい。
【0015】
上記のように補強パネルを有孔鋼板又は格子型ブレースとすることで、パネル面の光の通過や視界の確保が可能となる。したがって、そのような補強パネルを建築構造物の外面に設置することで、簡単な施工工程で必要な耐震性能を確保しながらも、建築構造物の居住空間の快適性や美観の確保が可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる補強パネルの取付構造によれば、補強パネルに過度の力が入力しないように構成することで、建築構造物が崩壊することが無いように継続して地震力を受け持つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態にかかる補強パネルの取付構造を用いて補強パネルを取り付けた建物の外観の一部を示す図である。
図2図1のA部分の部分拡大図である。
図3】補強パネルの取付構造の各部の詳細を示す図で、(a)~(e)はそれぞれ、図2のa~e部分の拡大図((i)正面図、(ii)側面図)である。
図4】補強パネル及び脚部材を示す図で、(a)は、補強パネル(鋼製部材)が有孔鋼板の場合、(b)は、補強パネル(鋼製部材)が格子型ブレースである場合を示す図である。
図5】脚部材の詳細構造を示す図で、(a)は、図4のB部分の部分拡大図(正面図)、(b)は、(a)の側面図、(c)は、(a)のC-C矢視図、(d)は、(a)のD-D矢視図である。
図6】補強パネル(有孔鋼板)と脚部材の耐力関係を説明するためのグラフである。
図7】補強パネル(有孔鋼板)、脚部材、建物の梁に作用する地震力による応力を示す応力図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる補強パネルの取付構造を用いて補強パネルを取り付けた建築構造物(建物)の外観の一部を示す図、図2は、図1のA部分を示す部分拡大図である。また、図3は、補強パネルの取付構造の各部の詳細を示す図で、(a)~(e)はそれぞれ、図2のa~e部分の拡大図((i)正面図、(ii)側面図)である。また、図4は、補強パネル及び脚部材を示す図で、(a)は、補強パネルが有孔鋼板の場合、(b)は、補強パネルが格子型ブレースである場合を示す図である。
【0019】
これらの図に示すように、本発明の一実施形態にかかる補強パネルの取付構造を用いた建物の外面には、多数の補強パネル10(10A,10B)が取り付けられている。補強パネル10は、既存の建物に対して、耐力の向上、偏心の改善を目的とした外部補強のために取り付けられるものである。
【0020】
図4などに示すように、補強パネル10は、矩形状の枠部材11の内側に鋼製部材を設置してなる鋼製パネルであり、具体的には、図4(a)に示すように、矩形状の枠部材11内に多数の透孔を略格子状に設けた鋼鈑12を設置してなる有孔鋼板10A、あるいは、図4(b)に示すように、矩形状の枠部材11内に鋼製のブレース13を格子状に配してなる格子型ブレース10Bである。
【0021】
これら有孔鋼板10A又は格子型ブレース10Bからなる補強パネル10は、図2に示すように、上枠11a及び下枠11bが建物の上梁31a及び下梁31bそれぞれに直接又は他の部材を介して固定されると共に、補強パネル10の左右の枠11c,11dが建物の柱31c,31d又は隣接する他の補強パネル10の左右の枠11c,11dに固定されることで、該補強パネル10がこれら上下の梁31a,31bと左右の柱31c,31dとで囲まれた内側に設置される。
【0022】
図2及び図3(a),(b)に示すように、補強パネル10は、その上枠11aが建物の上梁31a(詳細には上梁31aから下方に延伸するフランジ部31a1の前面)にハイテンションボルト41の締結で固定されている。また、図2及び図3(c),(d)に示すように、補強パネル10は、その左右の枠11c,11dが建物の左右の柱31c,31d(詳細には柱31c,31dから横方に延伸するフランジ部31c1,31d1の前面)にハイテンションボルト42,43の締結で固定されている。あるいは、図2及び図3(e)に示すように、隣接する補強パネル10の左右の枠11c,11d同士がハイテンションボルト44の締結で固定されている。
【0023】
そして、本実施形態の補強パネル10の取付構造では、図2及び図4に示すように、補強パネル10と建物の下梁31bとの間には、補強パネル10を下梁31b上に支持する脚部材(リンク材)50が設置されている。すなわち、補強パネル10の下枠11bと建物の下梁31bとの間に脚部材50が介在しており、補強パネル10はこの脚部材50によって下梁31bの上に支持されている。
【0024】
図5は、脚部材の詳細構造を示す図で、(a)は、図4(a)のB部分の部分拡大図(正面図)、(b)は、(a)の側面図、(c)は、(a)のC-C矢視図、(d)は、(a)のD-D矢視図である。図5に示すように、脚部材50は、補強パネル10の下枠11bの下面に固定された平板状の上プレート51と、上プレート51と下梁31bとの間に設置された平板状の低降伏点鋼からなるウェブプレート(ウェブ)52と、ウェブプレート52の幅方向(横方向)に所定間隔で設置した複数のリブプレート53と、ウェブプレート52の幅方向(横方向)の両側に設置した端部プレート54とを有するダンパー部材である。なお、ウェブプレート52の低降伏点鋼には、一例としてBT-LYP235(商品名)あるいはその同等品を用いることができる。なお、脚部材50を構成するウェブプレート52以外の部材である上プレート51、リブプレート53、端部プレート54は、低降伏点鋼ではない通常の鋼材で構成されている。
【0025】
上プレート51は、その面がウェブプレート52の面と直交する方向(水平方向)に配置され、補強パネル10の下枠11bの下面(詳細には、当該下面に溶接で接合されているプレート部材11b1の下面)にハイテンションボルト56の締結で固定されている。ウェブプレート52は、その面が上プレート51の面と直交する方向(垂直方向)に配置され、上端辺が上プレート51の下面に固定されており、下端辺が下梁31bの上面に溶接で固定されている。リブプレート53は、その面がウェブプレート52の面と直交する方向(前後方向)に配置され、ウェブプレート52の幅方向(横方向)に沿って所定の等間隔で複数枚(図では2枚)が設置されている。端部プレート54は、その面がウェブプレート52の面と直交する方向(前後方向)に配置され、ウェブプレート52の幅方向の両端部にそれぞれ1枚ずつが設置されている。
【0026】
建物への補強パネル10の取り付けは以下の手順で行われる。すなわち、上記構成の上プレート51、ウェブプレート52、リブプレート53、端部プレート54を一体に固定してなる脚部材50をあらかじめ組み立てておき、この脚部材50をまず建物の下梁31bに固定する。この固定は、脚部材50におけるウェブプレート52の下端辺を下梁31bの上面に溶接することによって行われる。図4に示すように、脚部材50は各補強パネル10の下枠11bの両端部の近傍それぞれに対応する位置に一個ずつ設置することで、一枚の補強パネル10を二個の脚部材50で支持するように配置する。
【0027】
その後、補強パネル10を建物の上梁31aと左右の柱31c,31dと下梁31b(下梁31b上の脚部材50)とで四方を囲まれた部分の内側に設置する。その際、図2の符号a及び図3(a),(b)に示すように、補強パネル10の上枠11aを上梁31aにハイテンションボルト(高張力鋼からなるボルト)41の締結で固定する。また、補強パネル10が柱31c又は31dに隣接している場合は、図2の符号c、符号d及び図3(c),(d)に示すように、柱31c又は31dに隣接する補強パネル10の左枠11c又は右枠11dをハイテンションボルト42(43)の締結で当該柱31c又は31dに固定する。この場合、補強パネル10を上梁31a又は柱31c,31dに固定するハイテンションボルト41,42,43は、補強パネル10の前面側から締結して取り付けるため、締結作業を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0028】
なお、隣接する補強パネル10の間に柱が無い場合は、図2の符号e及び図3(e)に示すように、隣接する補強パネル10の左右の枠11c,11d同士を固定する。この固定もハイテンションボルト44の締結で行う。そして、図5に示すように、補強パネル10の下枠11bを脚部材50の上プレート51に固定する。この固定は、下枠11bと上プレート51をハイテンションボルト56で締結することで行う。
【0029】
ここで、補強パネル10の有孔鋼板10Aと脚部材50の耐力関係について説明する。図6は、補強パネル10(有孔鋼板10A)と脚部材50の耐力関係を説明するためのグラフである。同図のグラフでは、横軸が水平変位Lであり、縦軸が地震力Fである。本実施形態の補強パネルの取付構造では、補強パネル10(有孔鋼板10A)の破壊機構は脚部材50の接合部のせん断降伏(Qju)となる計画とする。また、補強パネル(有孔鋼板10A)のせん断座屈(Qcr)・せん断降伏(Qsu)は許容しない設計とする。そして、有孔鋼板10Aは常に弾性を維持できるように、有孔鋼板10Aと脚部材50の耐力関係は、
有孔鋼板10Aの座屈耐力(Qcr)>脚部材50の降伏耐力(Qju)
となるように設計されている。また、有孔鋼板10Aのせん断座屈に対する安全率は1.5(Qcr=Qju×1.5)を確保している。
【0030】
図7は、補強パネル10(有孔鋼板10A)、脚部材50、建物の上梁31a及び下梁31bに作用する地震力による応力を示す図である。同図に示すように、地震力Fによる水平反力Qは、脚部材50を介して建物の下梁31bに伝達される。このとき、先に述べたように、有孔鋼板10Aの座屈耐力(Qcr)と脚部材50の降伏耐力(Qju)との関係が、「有孔鋼板10Aの座屈耐力(Qcr)>脚部材50の降伏耐力(Qju)」となるように設計されていることで、地震力による大きな力(地震力F)が建物に作用する場合、建物の梁31a,31bや柱31c,31dから補強パネル10にかかる力で補強パネル10(有孔鋼板10A)が降伏する前に低降伏点鋼からなる脚部材50のウェブプレート52が塑性変形することで、補強パネル10に所定以上の過大な力がかかることを防止できる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の補強パネルの取付構造では、補強パネル10は、矩形状の枠部材11の内側に鋼製部材である有孔鋼鈑12又は鋼製ブレース13を設置してなる鋼製パネルであり、補強パネル10の上枠11a及び下枠11bが建築構造物の上梁31a及び下梁31bそれぞれに直接又は他の部材を介して固定されると共に、補強パネル10の左右の枠11c,11dが建物の柱31c,31d又は隣接する他の補強パネル10の左右の枠11c,11dに固定されることで、該補強パネル10が建物の上梁31aと下梁31bの間に設置される構造である。そして、補強パネル10の下枠31bを下梁31bに支持する脚部材50を備え、該脚部材50は、低降伏点鋼からなるウェブプレート52を有するダンパー部材である。これにより、地震による大きな力が建物に作用する場合、建物の梁や柱から補強パネル10にかかる力で該補強パネル10の鋼製部材である有孔鋼板10Aや格子型ブレース10Bが降伏する前に低降伏点鋼からなる脚部材50のウェブプレート52が塑性変形することで、有孔鋼板10Aや格子型ブレース10Bに所定以上の過大な力がかかることを防止できる。したがって、建物が崩壊することが無いように補強パネル10で継続して地震力を受け持つことが可能となる。
【0032】
また、この補強パネルの取付構造によれば、脚部材50(詳細にはウェブプレート52の下端)をあらかじめ建築構造物の下梁31bに溶接で固定しておくことで、補強パネル10を上梁31aと左右の柱31c,31dと下梁31bとで囲まれた部分の内側に配置し、補強パネル10の下枠11bと脚部材50の上プレート51とをボルト(ハイテンションボルト)56の締結で固定するだけで建物への補強パネル10の取り付けが可能となる。したがって、脚部材50を設けたことによる取付工数や作業時間の大幅な増加を招くことなく、補強パネル10の取付作業を容易かつ迅速に行うことが可能となる。
【0033】
また、本実施形態の補強パネルの取付構造によれば、既述のように、脚部材50を設けたことで補強パネル10に所定以上の過大な力がかかることを防止できるので、補強パネル10を上記のような有孔鋼板10A又は格子型ブレース10Bとすることができる。これにより、補強パネル10の軽量化や薄型化を図ることができ、かつ、デザイン(意匠)の自由度の確保が可能となるので、必要な耐震性能を確保しながらも補強パネル10に高い機能性・美観性を持たせることが可能となる。
【0034】
また、上記のように補強パネル10を有孔鋼板10A又は格子型ブレース10Bとすることで、パネル面の光の透過や視界の確保が可能となる。したがって、そのような補強パネル10を建築構造物の外面に設置することで、簡単な施工工程で建築構造物に必要な耐震性能を確保しながらも、建築構造物の居住空間の快適性や美観の確保が可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 補強パネル(鋼製パネル)
10A 有孔鋼板(鋼製部材)
10B 格子型ブレース(鋼製部材)
11 枠部材
11a 上枠
11b 下枠
11c ,11d 左右の枠
31a 上梁
31b 下梁
31c,31d 左右の柱
41,42,43,44 ハイテンションボルト(ボルト)
50 脚部材
51 上プレート
52 ウェブプレート(低降伏点鋼からなるウェブ)
53 リブプレート
54 端部プレート
56 ハイテンションボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7