(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143719
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】銅糸、銅糸を用いた布地および銅製布地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/12 20060101AFI20220926BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20220926BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20220926BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20220926BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20220926BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220926BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20220926BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
D02G3/12
D04B1/14
D04B21/00 B
D03D15/00 D
D03D15/00 C
D03D15/00 H
D02G3/38
D06M11/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044392
(22)【出願日】2021-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年12月2日に第11回高機能素材Weekにおいて公開 〔刊行物等〕 令和3年2月12日付鉄鋼新聞第5面において公開
(71)【出願人】
【識別番号】520096172
【氏名又は名称】株式会社ピーエルジェイインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100174780
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】増田 清
【テーマコード(参考)】
4L002
4L031
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA00
4L002AA06
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC04
4L002BA00
4L002CA00
4L002DA00
4L002EA00
4L002FA01
4L031AA14
4L031AA20
4L031AA25
4L031AB01
4L031AB21
4L031CA15
4L031DA15
4L036MA04
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036RA25
4L036UA25
4L048AA04
4L048AA24
4L048AB19
4L048AC00
4L048AC19
4L048BA01
4L048CA00
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】高い抗菌性等を有する銅糸および銅糸を用いた布地、更には銅製布地の製造方法を提供する。
【解決手段】銅糸Aは、銅を主成分とする芯糸1と、芯糸1の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸2と、を備え、鞘糸2は芯糸1の長さ方向において隣り合う部分が離間するように巻かれている。また、布地Cは、少なくとも部分的に銅糸Aが用いられている。銅製布地C’は、銅を主成分とする芯糸1と、水溶性素材からなり芯糸1の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸2と、を備えた銅糸Aで布地Cを形成し、水溶性素材が溶解する温度で布地Cを洗うことにより製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする芯糸と、
前記芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸と、を備え、
前記鞘糸は前記芯糸の長さ方向において隣り合う部分が離間するように巻かれている銅糸。
【請求項2】
少なくとも部分的に請求項1記載の銅糸が用いられた布地。
【請求項3】
銅を主成分とする芯糸と、水溶性素材からなり当該芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸と、を備えた銅糸で布地を形成するステップと、
前記水溶性素材が溶解する温度で前記布地を洗うステップと、を備えた銅製布地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸、特に銅を用いた銅糸、布地および銅製布地の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅が抗菌性,抗ウイルス性等の特性を持つことが知られており、その特性は様々な分野に応用されている。特に、近年はウイルス性感染症の感染拡大等も相まって、銅が持つ特性への関心が高まっている。
【0003】
銅の応用の一つとして、銅を用いた布地が提案されている。例えば、特許文献1の布地では、織布地を構成する経糸と緯糸との少なくとも一方に、芯糸の周囲に銅線を螺旋状に巻いた交撚カバー糸を用いている。この構成では、布地を構成する糸の一部に銅を含んだものを用いることにより、布地自体に銅の特性である抗菌性等を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-179146号公報
【特許文献2】特開2019-123948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1の布地では、銅を含んだ糸を用いることにより、布地に抗菌性等を付与している。この抗菌性等の強さは布地が発生する銅イオン濃度の依存し、その銅イオン濃度は銅の露出面積に依存していると考えられる。
【0006】
そのため、特許文献2の布地に用いられている銅撚糸は、芯糸の周囲に芯糸よりも細い銅線を螺旋状に巻き、さらに、その周囲に銅線よりも細いカバー糸を螺旋状に巻いている。また、カバー糸の螺旋ピッチを銅線の螺旋ピッチよりも大きくしている。このような構成とすることにより、銅線の露出面積を大きくするとともに可織性を向上させている。
【0007】
上述したように、銅イオン濃度は銅の露出面積に依存するものであるが、糸や布地に含まれる銅の量にも依存すると考えられる。特許文献2の布地では、銅線の露出面積を大きくする工夫をしているが、銅線の直径は芯糸の直径よりも小さいため、銅の量は芯糸の直径によって制限を受けてしまう。そのため、布地が発生する銅イオン濃度を十分に高めることができず、十分な抗菌性等を発揮できないおそれがある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い抗菌性等を有する銅糸および銅糸を用いた布地、更には銅製布地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る銅糸の好適な実施形態の一つでは、銅を主成分とする芯糸と、前記芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸と、を備え、前記鞘糸は前記芯糸の長さ方向において隣り合う部分が離間するように巻かれている。
【0010】
この構成では、芯糸部分が銅を主成分とする金属からなっており、その周囲に鞘糸を螺旋状に巻きつけることにより、銅糸の強度を向上させている。また、鞘糸は隣り合う部分が離間するように、すなわち、疎らに巻き付けられているため、鞘糸が芯糸を覆っている部分を少なくすることができ、芯糸の露出面積を大きくすることができる。これにより、芯糸の主成分である銅の露出面積が増大することにより芯糸から生成される銅イオン濃度を高めることができ、その抗菌力等の効果を高めることができる。
【0011】
本発明は、少なくとも部分的に上述の銅糸が用いられた布地をも権利範囲としており、このような布地も当然に高い抗菌性等の効果を奏する。
【0012】
また、本発明は、銅製布地の製造方法をも権利範囲としており、そのような銅製布地の製造方法は、銅を主成分とする芯糸と、水溶性素材からなり当該芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた鞘糸と、を備えた銅糸で布地を形成するステップと、前記水溶性素材が溶解する温度で前記布地を洗うステップと、を備えている。
【0013】
この方法では、上述の銅糸において鞘糸を水溶性素材とし、そのような銅糸を使用して布地を形成し、その後、鞘糸を溶解させることにより、芯糸、すなわち、銅(銅を主成分とする金属)のみからなら布地を製造することができる。このようにして製造された布地は、当然ながら、銅のみからなっているため、非常に高い抗菌性等を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態における銅糸を用いた織布地の部分を表す図である。
【
図3】銅製布地の製造方法の処理の流れを表すフローチャートである。
【
図4】銅製布地の製造過程における布地の構造を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る銅糸、銅糸を用いた布地および布地の製造方法の実施形態を説明する。
【0016】
〔銅糸〕
図1は、本実施形態における銅糸の斜視図である。図に示すように、銅糸Aは、芯糸1と芯糸1の周囲に巻かれた鞘糸2とを備えている撚糸である。なお、図は模式的に表したものであり、芯糸1や鞘糸2の太さと、鞘糸2の巻ピッチP(芯糸1の長さ方向において隣り合う部分の間の距離)の大きさと、の比率や鞘糸2の巻の強さ等は実際のものとは異なっている。
【0017】
芯糸1は銅を主成分とする金属製の細線である。本実施形態では芯糸1は丹銅(銅80%,亜鉛20%)製であり、その直径は0.05mmである。なお、以下の説明における「銅」は銅を主成分とする金属を意味している。
【0018】
本実施形態における銅糸Aはダブルカバーリングヤーン(ダブルカバードヤーン)であるため、鞘糸2は第1鞘糸21と第2鞘糸22とを備えている。なお、これらを区別する必要がない場合には、鞘糸2と総称する。
【0019】
本実施形態では、鞘糸2はナイロン製であり、その太さは直径0.046mm(132デニール)である。したがって、鞘糸2は芯糸1よりも若干小径となっている。第1鞘糸21は芯糸1に対してZ撚となるように巻かれ、第2鞘糸22は第1鞘糸21の上からS撚となるように巻かれている。本実施形態では、鞘糸2の撚り数は400巻/mである。
【0020】
このように、丹銅からなる芯糸1の周囲を鞘糸2で巻いているため、銅糸Aの強度を高めることができる。また、銅糸Aは織り機や編み機を通りやすくなり、可織性等の生産際を高めることができる。なお、鞘糸2の撚り数は抗菌力等の大きさと強度や生産性等を考慮して適宜変更可能である。
【0021】
鞘糸2は上述したような直径および撚り数となっているため、鞘糸2の巻ピッチPは2.5mm弱である。この巻ピッチPの大きさは、鞘糸2の直径と比べて非常に大きな値となっている。そのため、
図1に示すように、鞘糸2は非常に疎な状態で巻かれており、隣り合う部分同士が大きく離間している。なお、第1鞘糸21の離間部分21aに第2鞘糸22が巻かれたとしても、この離間部分の幅(巻ピッチP)は第2鞘糸22の直径に比べて非常に大きいため、離間部分21aが第2鞘糸22によって塞がれることはない。このような構成となっているため、
図1に示すように、芯糸1は離間部分21aと離間部分22aとの重複部分から露出しており、その露出面積は非常に大きくなっている。
【0022】
銅糸Aにおいて銅の抗菌効果等の効果の大きさは、銅糸Aから放出される銅イオンの濃度に依存すると考えられる。放出される銅イオンの濃度を高めるには、銅糸Aを構成する銅部分の露出を大きくしたり、銅の分量を多くしたりする必要がある。上述したように、本発明に係る銅糸Aでは、上述の構成としたことによって、丹銅からなる芯糸1の露出が非常に大きくなっている。また、この構成では、芯糸1の太さは銅糸Aの太さの制約は受けるものの、鞘糸2からの制約は小さくなるため、芯糸1を太くしやすくなっている。そのため、銅糸Aに示す銅の割合を大きくすることできる。これらにより、銅糸Aから放出される銅イオンの濃度が高くなり、抗菌効果等の効果を高めることができる。
【0023】
〔布地〕
次に、銅糸Aを用いた布地Cについて説明する。
図2は本実施形態における銅糸Aを用いた織物の布地Cの一部分を拡大した図である。
図2に示すように、織物としての布地Cでは経糸3と緯糸4とを直交するように交差させている。
図2(a)では、経糸3が本発明に係る銅糸Aであり、緯糸4は銅を含まない一般的な撚糸である。一方、
図2(b)では緯糸4が本発明に係る銅糸Aであり、経糸3が一般的な撚糸である。なお、
図2(a)において一部の経糸3のみを銅糸Aとしたり、
図2(b)において一部の緯糸4のみを銅糸Aとしたりしても構わない。また、経糸3および緯糸4の双方に本発明に係る銅糸Aを用いても構わない。
【0024】
このように、布地Cの経糸3や緯糸4の少なくとも一部に本発明に係る銅糸Aを用いることにより、布地Cに銅が持つ抗菌性等の特性を持たせることができる。
【0025】
なお、ここでは織りによって作られた布地Cを説明したが、布地Cは編みによって作ることも可能である。この場合でも、少なくとも一部の糸に本発明に係る銅糸Aを用いることにより、抗菌性等の銅の特性を持たせることができる。
【0026】
銅糸Aを用いて布地Cを作成する場合、布地Cを形成する全ての糸に対する銅糸Aの割合は適宜変更することが可能であるが、例えば、布地Cに期待する抗菌性等の強さ等を考慮して決定することができる。
【0027】
〔銅製布地の製造方法〕
上述したように、銅を含む布地の抗菌性等の強さは発生する銅イオンの濃度に依存しており、銅イオン濃度は銅の露出面積や銅の分量に依存している。本発明に係る銅糸Aを用いた布地Cでは非常に銅の露出面積が大きくなっているが、鞘糸2で覆われている部分では銅の露出面積が減少している。すなわち、銅からなる芯糸1のみで形成された布地(銅製布地)であれば、より銅の露出面積を増大させることができる。
【0028】
しかしながら、銅からなる芯糸1のみでは、強度が十分でないために布地を形成する工程で切れてしまったり、織機等を通らなかったりするため、銅製布地の実現が困難であった。そこで、本発明の発明者は研究開発を重ね、以下の銅製布地の製造方法に想到した。
【0029】
図3のフローチャートを用いて銅製布地の製造方法の流れを説明する。先ず、布地を形成するための銅糸Aを準備する(#01)。ただし、ここで使用する銅糸Aは、形状は上述したものと同様であるが、鞘糸2の素材が異なっている。具体的には、ここでは水溶性素材からなる鞘糸2を用いる。水溶性の素材としては、例えば、水溶性ビニロン,水溶性ナイロン等を用いることができる。なお、ここで用いる銅糸Aの鞘糸2の巻ピッチPは上述のものほど疎でなくても構わない。
【0030】
このような銅糸Aを用いて、織りまたは編みによって布地Cを製造する(#02,
図4(a)参照)。この例では、布地Cは織布地であり、経糸3および緯糸4は全て銅糸Aである。布地Cを編布地とする場合でも全ての糸は銅糸Aを用いる。
【0031】
次に、鞘糸2の素材が溶解するのに適した温度の水(またはお湯)でこの布地Cを水洗いする(#03)。そうすると、鞘糸2が溶解し、
図4(b)に示すように、芯糸1のみが残る。これにより、銅のみからなる銅製布地C’を製造することができる。
【0032】
このように、本発明に係る銅糸Aであれば、銅の露出面積を増大させることによる抗菌性等の効果を高めることができる。また、このような銅糸Aを用いた布地も当然ながら高い抗菌性等を有している。さらに、銅糸Aの鞘糸2を水溶性素材とすることにより、銅のみからなる銅製布地を製造することができる。
【0033】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、銅糸Aをダブルカバーリングヤーンとしたがシングルカバーリングヤーンとしても構わない。
【0034】
(2)上述の実施形態では、鞘糸2をナイロン製としたが他の素材を用いて構わない。
【0035】
(3)上述の実施形態では、第1鞘糸21の巻ピッチと第2鞘糸22の巻ピッチとは同一としたが、異なる巻ピッチとしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、抗菌力等を有する糸、布地や布地の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
A:銅糸
C:布地
C’:銅製布地
P:巻ピッチ
1:芯糸
2:鞘糸
21:第1鞘糸
21a:離間部分
22:第2鞘糸
22a:離間部分
3:経糸
4:緯糸