(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143752
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】切削加工監視システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044437
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 涼太
(72)【発明者】
【氏名】今井 康晴
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029DD06
3C029DD08
3C029DD20
(57)【要約】
【課題】切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる切削加工監視システムを提供する。
【解決手段】撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具21に対して位置決めされ、工具刃先を連続的に撮影するカメラ23と、カメラ23が撮影した複数の画像を、各画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する分類部33と、複数のパターンのうち所定のパターンに分類された画像から、工具刃先および被削材Wの加工面の少なくとも一方の状態を解析する解析部34と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具に対して位置決めされ、前記工具刃先を連続的に撮影するカメラと、
前記カメラが撮影した複数の画像を、各前記画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する分類部と、
前記複数のパターンのうち所定のパターンに分類された前記画像から、前記工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態を解析する解析部と、を備える、
切削加工監視システム。
【請求項2】
前記分類部は、所定刃長以上の刃先稜線が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第1のパターンに分類し、
前記解析部は、前記第1のパターンに分類された前記画像の前記刃先稜線の形状に基づいて、前記工具刃先の損傷状態を解析する、
請求項1に記載の切削加工監視システム。
【請求項3】
前記分類部は、前記工具刃先に溶着が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第2のパターンに分類し、
前記解析部は、前記第2のパターンに分類された前記画像の出現頻度の変化に基づいて、前記工具刃先の損傷状態を解析する、
請求項1または2に記載の切削加工監視システム。
【請求項4】
前記分類部は、前記被削材の加工面が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第3のパターンに分類し、
前記解析部は、前記第3のパターンに分類された前記画像から、前記加工面の加工状態を解析する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の切削加工監視システム。
【請求項5】
前記分類部は、ディープラーニングによる画像分類を実行する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の切削加工監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、切削加工におけるトラブルを防止するために用いられる切削加工監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤加工では一般に、工具刃先の摩耗や欠損などの発生をいち早く察知し、工具を交換するなどの対応が必要となる。このため従来、工具刃先をカメラで撮影し、その画像から刃先の状態を調べる方法が知られている。例えば、特許文献1では、切削前後の待機状態にて工具刃先をカメラで撮影し、二値画像から摩耗量を判定している。また、特許文献2では、切削中の工具刃先を赤外線カメラでとらえ、それをニューラルネットワークで学習することで異常判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-114694号公報
【特許文献2】特開平11-267949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、切削加工時以外の待機状態(静止状態)においてカメラで工具刃先を撮影するため、切削加工中のトラブル発生には即座に対応することができない問題があった。特許文献2の方法では、温度分布からの刃先摩耗量の間接的な類推であるため、摩耗量の定量評価は難しく、また、判定精度を高めるには多くの学習を必要とした。
【0005】
本発明は、切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる切削加工監視システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削加工監視システムの一つの態様は、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具に対して位置決めされ、前記工具刃先を連続的に撮影するカメラと、前記カメラが撮影した複数の画像を、各前記画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する分類部と、前記複数のパターンのうち所定のパターンに分類された前記画像から、前記工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態を解析する解析部と、を備える。
【0007】
本発明では、旋削加工中の工具刃先および被削材の加工面(以下、単に工具刃先等と省略する場合がある)を、カメラにより連続的に、すなわちリアルタイムで撮影する。なお本発明でいう「連続的に撮影する」とは、少なくとも毎秒10コマ以上の画像を撮影することを指す。また、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具に対してカメラを位置決め固定するには、例えば、旋削工具を支持する刃物台にアーム等を介してカメラを取り付ければよい。
そして、分類部は、得られた画像情報を例えば記憶部の学習結果と照らし合わせることにより、各画像を複数のパターンのいずれかに分類する。解析部は、分類後の各画像から、工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態を解析する。
【0008】
具体的に、カメラで連続的に撮影される画像の中には、工具刃先が切屑で隠れたものや、刃先に溶着が多く付着して摩耗状態が見えないものなども含まれている。そこで、連写される多数の画像の中から、例えば切刃の輪郭(刃先稜線)、すくい面などへの溶着、または、被削材の加工面が見えるものを選別(分類)し、画像処理により切刃の摩耗や欠損の状態を解析したり、溶着の状態を解析したり、加工面の加工状態を解析したりする。上記選別にはディープラーニングを用いることができ、比較的単純な判定のため、少ない学習量で高い判定精度を得ることができる。
【0009】
以上より本発明によれば、切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる。すなわちユーザ等が、切削中の工具刃先等の状態をリアルタイムに把握できる。これにより、例えば、異常検知システムや、インプロセス(切削中)の加工寸法精度測定システムとしての実用性が高められる。
【0010】
上記切削加工監視システムにおいて、前記分類部は、所定刃長以上の刃先稜線が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第1のパターンに分類し、前記解析部は、前記第1のパターンに分類された前記画像の前記刃先稜線の形状に基づいて、前記工具刃先の損傷状態を解析することが好ましい。
【0011】
この場合、分類部が第1のパターンに分類した画像を解析部が解析することにより、工具刃先の摩耗、欠損などの損傷状態や損傷量を測定できる。具体的には、例えば、cannyフィルタ等の画像処理により刃先稜線(エッジ)を検出し、エッジのピクセル数の変化(増加量)を測定することで、刃先の損傷状態を解析する。
【0012】
上記切削加工監視システムにおいて、前記分類部は、前記工具刃先に溶着が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第2のパターンに分類し、前記解析部は、前記第2のパターンに分類された前記画像の出現頻度の変化に基づいて、前記工具刃先の損傷状態を解析することが好ましい。
【0013】
一般に、工具刃先に損傷が発生すると、この損傷に起因して溶着が生じやすくなる傾向がある。すなわち、切削中には工具刃先への溶着とその剥離(脱落)とがランダムに繰り返されるが、刃先に損傷が発生すると、損傷部分に溶着が強く付着して取れにくくなることが多く、このため画像への溶着の出現頻度が高くなる。つまり、例えばカメラの連写速度(撮影間隔)が一定である場合に、単位時間あたりに第2のパターンに分類される画像数が増加する。
本発明の上記構成によれば、たとえ工具刃先が溶着で隠れて見えない、または見えづらい場合であっても、刃先の損傷を間接的に検知することができる。すなわち、分類部が第2のパターンに分類した画像の出現頻度の変化に基づいて、解析部で工具刃先の損傷状態を推測することができる。
【0014】
上記切削加工監視システムにおいて、前記分類部は、前記被削材の加工面が写った前記画像を、前記複数のパターンのうち第3のパターンに分類し、前記解析部は、前記第3のパターンに分類された前記画像から、前記加工面の加工状態を解析することが好ましい。
【0015】
この場合、分類部が第3のパターンに分類した画像を解析部が解析することにより、被削材の加工面の加工寸法精度、加工面品位、バリの発生状態および切屑の排出状態などを判定できる。すなわち、本発明でいう「被削材の加工面の加工状態」とは、被削材の加工面の加工寸法精度、加工面品位、バリの発生状態および切屑の排出状態のうちいずれか1つ以上を指す。
特に、本発明の上記構成では、切削直後の加工面の加工精度や品位をユーザ等がリアルタイムに把握可能であり、例えば加工状態に問題などが生じた場合の対応等が迅速に行える。
【0016】
上記切削加工監視システムにおいて、前記分類部は、ディープラーニングによる画像分類を実行することが好ましい。
【0017】
この場合、分類部による分類の判定精度が、ディープラーニング(深層学習)により安定して高められる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一つの態様の切削加工監視システムによれば、切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態の旋削装置の一例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の切削加工監視システムの一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、分類部により第1のパターンに分類される画像の一例を示す。
【
図4】
図4は、分類部により第2のパターンに分類される画像の一例を示す。
【
図5】
図5は、分類部により第3のパターンに分類される画像の一例を示す。
【
図6】
図6は、第1のパターンに分類された画像の解析(画像処理)の一例を示す。
【
図7】
図7は、第1のパターンに分類された画像の解析(画像処理)の一例を示す。
【
図8】
図8は、第2のパターンに分類された画像の出現頻度の変化の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の切削加工監視装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態の切削加工監視システム10について、図面を参照して説明する。本実施形態の切削加工監視システム10は、旋削装置20と、切削加工監視装置30と、を含む。
【0021】
図1および
図2に示すように、旋削装置20は、NC旋盤等の工作機械である。旋削装置20は、金属製等の被削材Wを旋削加工する装置である。すなわち、切削加工監視システム10は、NC旋盤等の工作機械による旋削加工(旋盤加工)に用いられる。旋削加工とは、バイト等の旋削工具による切削加工を指す。
【0022】
旋削装置20は、旋削工具21と、刃物台22と、カメラ23と、アーム24と、チャック(図示省略)と、を備える。つまり切削加工監視システム10は、カメラ23を備える。
【0023】
図1に示すように、旋削工具21は、例えば、ホルダ25の先端部に切削インサート26が着脱可能に取り付けられる刃先交換式バイト等である。すなわち、旋削工具21は、ホルダ25と、切削インサート26と、を有する。なおこの構成に限らず、旋削工具21は、例えば、工具刃先がホルダと一体に形成されたソリッドタイプのバイト等であってもよい。
【0024】
ホルダ25は、一方向に延びる柱状である。
図1に示す例では、ホルダ25が延びる一方向が、水平面Hに対して角度θで傾斜する。角度θは、例えば30°などである。ホルダ25の後端部は、刃物台22に支持される。旋削工具21と刃物台22とは、一体に固定される。
【0025】
切削インサート26は、例えば超硬合金製等である。切削インサート26は、例えば、四角形板状などの多角形板状、または円板状等である。本実施形態では切削インサート26が、例えば菱形板状である。
図3に示すように、切削インサート26は、すくい面26aと、図示されない逃げ面と、すくい面26aと逃げ面との稜線部に配置される切刃26bと、を有する。本実施形態では、切削インサート26の少なくとも一部、具体的には、少なくともすくい面26aおよび切刃26bを含む部分を、単に「工具刃先」または「刃先」と呼ぶ場合がある。
【0026】
すくい面26aは、切削インサート26の板厚方向を向く一対の板面のうち、少なくとも一方の板面に配置される。
図1に示すように、すくい面26aは、切削インサート26の上側を向く一方の板面、つまり上面に配置される。
図1に示す例では、すくい面26aが、水平面Hに対してホルダ25が傾斜する角度θと略同じ角度で、水平面Hに対して傾斜する。
【0027】
図5に示すように、本実施形態のすくい面26aは、特徴点26cを有する。特徴点26cは、すくい面26aに設けられる模様の一部を構成する。特徴点26cは、例えば、切屑Cの排出処理を円滑に行う目的、外観デザイン性を高める目的、および識別性を高める目的などですくい面26aに設けられる。本実施形態では特徴点26cが、例えば、突起状のチップブレーカ等である。
【0028】
図1に示すように、切刃26bは、旋削工具21の先端部に配置される。中心軸O回りに回転する被削材Wに対して、切刃26bが接触させられることにより、被削材Wに旋削加工が行われて、
図5に示すような加工面Waが形成される。
【0029】
本実施形態では、
図3に示すように切削インサート26の上面すなわちすくい面26aを正面に見て、切刃26bが、略V字状である。具体的に、この切刃26bは、曲線状に延びる1つのコーナ刃と、このコーナ刃の両端に接続されて直線状に延びる一対の直線刃と、を有する。
【0030】
図1に示すように、刃物台22は、旋削工具21を支持する。刃物台22は、被削材Wに対して旋削工具21を、少なくとも水平面が拡がる方向、すなわち水平面の面方向に沿って移動させる。なお刃物台22は、被削材Wに対して旋削工具21を、鉛直方向に移動させてもよい。
【0031】
カメラ23は、旋削工具21および被削材Wの上側に配置される。カメラ23は、例えば、グローバルシャッター方式のカメラである。カメラ23は、工具刃先を連続的に撮影する。なお本実施形態でいう「連続的に撮影する」とは、少なくとも毎秒10コマ以上の画像を撮影することを指す。具体的に本実施形態では、カメラ23が、例えば毎秒30コマ以上の速さで工具刃先を連写する。切削時において、カメラ23は、工具刃先とともに被削材Wの加工面Waも撮影する。
【0032】
本実施形態ではカメラ23が、すくい面26aと垂直な方向から、工具刃先を撮影する。具体的に、カメラ23は、鉛直方向に対して所定角度だけ傾斜した方向から、工具刃先を撮影する。この所定角度は、すくい面26aが水平面Hに対して傾斜する角度(角度θに相当)と、略同じ角度である。カメラ23と工具刃先との間の距離は、例えば、300mm以上である。
【0033】
カメラ23は、アーム24を介して刃物台22と固定される。このため、カメラ23は、刃物台22の移動に追随して移動可能である。カメラ23は、例えば
図3~
図5に示すように、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具21に対して位置決めされる。
【0034】
図1に示すように、アーム24は、カメラ23と刃物台22とを連結する。アーム24は、その先端部がカメラ23と接続され、後端部が刃物台22と接続される。アーム24は、少なくとも2つ以上の軸部24aと、隣り合う軸部24aの端部同士を接続する少なくとも1つ以上の関節部24bと、アーム24の後端部と刃物台22とを固定する固定台24cと、を有する。
【0035】
軸部24aは、例えばシャフトやパイプ等である。
関節部24bは、図示しないノブ等を操作することにより、軸部24aの端部同士を回動不能に固定するロックモードと、軸部24aの端部同士を回動可能に連結するフリーモードと、に切り替え可能である。関節部24bが設けられることで、アーム24は、変形可能である。アーム24の形状を変化させることにより、カメラ23は、例えば旋削工具21の工具形状や種類等に関わらず、工具刃先と正対するように位置調整可能である。なお切削時において、関節部24bはロックモードとされる。
【0036】
固定台24cは、例えば磁力等により、アーム24を刃物台22に固定する。このため、アーム24は、刃物台22に対して取り付け位置を調整可能である。すなわち本実施形態では、固定台24cの刃物台22への取り付け位置を調整することによっても、カメラ23を、工具刃先と正対するように位置調整可能である。
【0037】
特に図示しないが、チャックは、被削材Wを着脱可能に保持する。チャックは、被削材Wをその中心軸O回りに回転させる。
【0038】
また特に図示しないが、旋削装置20は、切刃26bや加工面Waの輪郭を強調するためのバックライトや、すくい面26aを照らすフロントライトを備えていてもよい。これにより、カメラ23のシャッタースピードをより高めてもよい。
【0039】
図2に示すように、切削加工監視装置30は、画像取得部31と、記憶部32と、分類部33と、解析部34と、表示部35と、を備える。つまり切削加工監視システム10は、分類部33と、解析部34と、を備える。
【0040】
画像取得部31は、カメラ23が撮影した画像つまり画像データを取得する。画像取得部31は、取得した画像情報を記憶部32に記憶させる。なお、切削加工監視装置30は、例えば、取得した画像情報と、工具ID、装置IDおよびユーザID等とを対応付けて、記憶部32に記憶させてもよい。
【0041】
記憶部32は、切削加工監視装置30が利用する各種情報を記憶する。記憶部32は、取得した画像情報を記憶する。記憶部32は、例えば、分類部33が画像を分類するために用いるディープラーニングの教師データや学習結果等を記憶する。
【0042】
分類部33は、例えば、記憶部32に記憶された学習結果に基づいて、ディープラーニングによる画像分類を実行する。すなわち、分類部33は、カメラ23が撮影した複数の画像を、各画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する。本実施形態では、複数のパターンが、第1のパターン(刃先稜線)と、第2のパターン(溶着)と、第3のパターン(被削材の加工面)と、を含む。
【0043】
具体的に、分類部33は、
図3に示すように、撮像視野内に切刃26bの所定刃長以上の刃先稜線が写った画像を、複数のパターンのうち第1のパターンに分類する。
図3に示す一例では、切刃26bが被削材Wと接触しておらず、撮像視野内において刃先稜線全体が明確に写っている。
【0044】
また、分類部33は、
図4に示すように、工具刃先に溶着TAが写った画像を、複数のパターンのうち第2のパターンに分類する。
図4に示す一例では、工具刃先に付着した溶着TAによって、すくい面26aの少なくとも一部と、切刃26bの少なくとも一部とが隠されている。
【0045】
また、分類部33は、
図5に示すように、被削材Wの加工面Waが写った画像を、複数のパターンのうち第3のパターンに分類する。
図5に示す一例では、切刃26bにより切削された直後の加工面Waの表面および輪郭が明確に写っている。
なお
図3~
図5に示す各画像は、
図1に示すように、板状の被削材Wを旋削加工した際に撮影された工具刃先の画像である。この際の被削材Wの材質はステンレスであり、被削材Wの回転数は毎分100回であり、切削はドライ環境にて行った。
【0046】
分類部33による画像の分類は、例えば下記の方法により行われる。
まず、被削材Wを本切削加工する前に行うテスト切削加工にて、カメラ23により複数の画像を撮影する。これにより取得した複数の画像を、切刃26bが被削材Wに接触しておらず刃先稜線が明確に見える第1のパターン(刃先稜線)と、切刃26bが被削材Wに接触していないがすくい面26aに溶着TAが載っている第2のパターン(溶着)と、切刃26bが被削材Wと接触した瞬間を捉えた第3のパターン(被削材の加工面)と、に分類して記憶し(教師データ)、この分類方法をディープラーニングによって学習する。すなわち、記憶部32の教師データに基づいて、第1~第3のパターンの分類を推定する機械学習を実行し、その学習結果を記憶部32にフィードバックするなどにより、画像分類の判定精度を高める。
なお、この分類は一例であり、どのような分類の方法が適切かは、切削条件や被削材Wの種類、形状などによって異なる。
また、上述した画像データの分類(選別)には、画像自動認識ソフトウェアであるHALCON(株式会社リンクス製)などを用いることができる。
【0047】
解析部34は、複数のパターンのうち所定のパターンに分類された画像から、工具刃先および被削材Wの加工面Waの少なくとも一方の状態を解析する。解析部34としては、例えば、画像処理プログラムなどを用いることができる。
【0048】
具体的に、解析部34は、第1のパターンに分類された画像の切刃26bの刃先稜線の形状に基づいて、工具刃先の損傷状態を解析する(以下、第1の解析と呼ぶ場合がある)。本実施形態では解析部34が、例えば、cannyフィルタ等の画像処理により切刃26bの刃先稜線(エッジ)を検出し、エッジのピクセル数の変化(増加量)を測定することで、刃先の損傷状態を解析する。
【0049】
図6および
図7は、解析部34により切刃26bの刃先稜線を画像処理した一例を示している。所定の切削過程において、
図7の画像(元画像)は、
図6の画像よりも後に撮影されたものである。
図6に比べて
図7では、刃先稜線に溶着TAによる凸部やチッピングCPによる凹部が形成されており、凹凸のため、エッジのピクセル数つまり刃先稜線の輪郭長が長くなっている。すなわち、エッジのピクセル数を比較することにより、刃先の損傷状態を推定できる。
このようにして、解析部34は工具刃先の損傷状態を解析する。なお上記解析は一例であり、第1のパターンの解析に他の解析方法を用いてもよい。
【0050】
また、解析部34は、第2のパターンに分類された画像の出現頻度の変化に基づいて、工具刃先の損傷状態を解析する(以下、第2の解析と呼ぶ場合がある)。
図8は、第2のパターンに分類された画像の出現頻度の変化の一例を示している。
図8のグラフにおいてハッチングを付した箇所は、分類部33によって画像が第2のパターン(溶着)に分類されたことを表している。
【0051】
具体的に、切削中には工具刃先への溶着とその剥離(脱落)とがランダムに繰り返されるが、刃先に損傷が発生すると、損傷部分に溶着が強く付着して取れにくくなることが多く、このため溶着の発生頻度が高くなる。このことから、
図8では、横軸(切削時間)の符号P付近において、刃先損傷が発生したものと推測される。
このようにして、解析部34は工具刃先の損傷状態を解析する。なお上記解析は一例であり、第2のパターンの解析に他の解析方法を用いてもよい。
【0052】
また、解析部34は、第3のパターンに分類された画像から、被削材Wの加工面Waの加工状態を解析する(以下、第3の解析と呼ぶ場合がある)。なお、本実施形態でいう「被削材Wの加工面Waの加工状態」とは、被削材Wの加工面Waの加工寸法精度、加工面品位、バリの発生状態および切屑Cの排出状態のうちいずれか1つ以上を指す。
【0053】
図5において、解析部34は、画像処理により、例えばすくい面26a上の特徴点26cと加工面Waとの間の距離Lを計測することで、加工寸法精度を判定する。すなわち本実施形態では、例えば、切削時の振動等によりカメラ23にブレ(原点位置のずれ)が発生しても、加工寸法を高精度に計測できる。また解析部34は、例えば、加工面Waの表面や輪郭に表れる凹凸形状の寸法を計測することにより、加工面品位を判定する。また解析部34により、例えば、加工面Waのバリ発生の有無や、切屑Cの長さやカールの状態、切屑Cの排出方向などを解析してもよい。
このようにして、解析部34は被削材Wの加工面Waの加工状態を解析する。なお上記解析は一例であり、第3のパターンの解析に他の解析方法を用いてもよい。
【0054】
表示部35は、切削加工監視システム10の各種情報を表示する。表示部35には、例えば、上述した解析部34の解析結果などが表示される。
【0055】
図9は、切削加工監視装置30の処理の一例を示すフローチャートである。
図9に示すように、まず、画像取得部31が、カメラ23から出力される画像情報を取得する(ステップS1)。
次に、分類部33は、記憶部32に記憶された学習結果に基づいて、各画像を第1~第3のパターンに分類する(ステップS2)。すなわち、分類部33は、取得した画像情報を学習結果と照らし合わせることにより、各画像を第1~第3のパターンのいずれかに分類する。
【0056】
次に、解析部34は、第1~第3のパターンに分類された画像から、工具刃先および被削材Wの加工面Waの少なくとも一方の状態を解析する(ステップS3)。具体的に、解析部34は、第1のパターン(刃先稜線)に分類された画像に対して、上述したような第1の解析を行う。また解析部34は、第2のパターン(溶着)に分類された画像に対して、上述したような第2の解析を行う。また解析部34は、第3のパターン(被削材の加工面)に分類された画像に対して、上述したような第3の解析を行う。
次に、表示部35が、解析部34から出力された解析結果を表示する(ステップS4)。ステップS4の処理後に、切削加工監視装置30は、上記一例の処理を終了する。
【0057】
以上説明した本実施形態の切削加工監視システム10では、旋削加工中の工具刃先および被削材Wの加工面Wa(以下、単に工具刃先等と省略する場合がある)を、カメラ23により連続的に、すなわちリアルタイムで撮影する。またカメラ23は、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように、旋削工具21に対して位置決め固定されている。
そして、分類部33は、得られた画像情報を記憶部32の学習結果と照らし合わせることにより、各画像を複数のパターンのいずれかに分類する。解析部34は、分類後の各画像から、工具刃先および被削材Wの加工面Waの少なくとも一方の状態を解析する。
【0058】
具体的に、カメラ23で連続的に撮影される画像の中には、工具刃先が切屑Cで隠れたものや、刃先に溶着TAが多く付着して摩耗状態が見えないものなども含まれている。そこで本実施形態では、連写される多数の画像の中から、切刃26bの輪郭(刃先稜線)、すくい面26aなどへの溶着TA、または、被削材Wの加工面Waが見えるものを選別(分類)し、画像処理により切刃26bの摩耗や欠損の状態を解析したり、溶着TAの状態を解析したり、加工面Waの加工状態を解析したりする。上記選別にはディープラーニングを用いることができ、比較的単純な判定のため、少ない学習量で高い判定精度を得ることができる。
【0059】
以上より本実施形態によれば、切削中の工具刃先および被削材Wの加工面Waの少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる。すなわちユーザ等が、切削中の工具刃先等の状態をリアルタイムに把握できる。これにより、例えば、異常検知システムや、インプロセス(切削中)の加工寸法精度測定システムとしての実用性が高められる。
【0060】
また本実施形態では、分類部33が、撮像視野内に所定刃長以上の刃先稜線が写った画像を、複数のパターンのうち第1のパターンに分類し、解析部34が、第1のパターンに分類された画像の刃先稜線の形状に基づいて、工具刃先の損傷状態を解析する。
この場合、分類部33が第1のパターンに分類した画像を解析部34が解析することにより、工具刃先の摩耗、欠損などの損傷状態や損傷量を測定できる。
【0061】
また本実施形態では、分類部33が、工具刃先に溶着TAが写った画像を、複数のパターンのうち第2のパターンに分類し、解析部34が、第2のパターンに分類された画像の出現頻度の変化に基づいて、工具刃先の損傷状態を解析する。
一般に、工具刃先に損傷が発生すると、この損傷に起因して溶着TAが生じやすくなる傾向がある。すなわち、刃先に損傷が発生すると、損傷部分に溶着TAが強く付着して取れにくくなることから、画像への溶着TAの出現頻度が高くなる。つまり、例えばカメラ23の連写速度(撮影間隔)が一定である場合に、単位時間あたりに第2のパターンに分類される画像数が増加する。
本実施形態によれば、たとえ工具刃先が溶着TAで隠れて見えない、または見えづらい場合であっても、刃先の損傷を間接的に検知することができる。すなわち、分類部33が第2のパターンに分類した画像の出現頻度の変化に基づいて、解析部34で工具刃先の損傷状態を推測することができる。
【0062】
また本実施形態では、分類部33が、被削材Wの加工面Waが写った画像を、複数のパターンのうち第3のパターンに分類し、解析部34が、第3のパターンに分類された画像から、加工面Waの加工状態を解析する。
この場合、分類部33が第3のパターンに分類した画像を解析部34が解析することにより、被削材Wの加工面Waの加工寸法精度、加工面品位、バリの発生状態および切屑Cの排出状態などを判定できる。
特に、本実施形態では、切削直後の加工面Waの加工精度や品位をユーザ等がリアルタイムに把握可能であり、例えば加工状態に問題などが生じた場合の対応等が迅速に行える。
【0063】
また本実施形態では、分類部33が、ディープラーニングによる画像分類を実行する。
この場合、分類部33による分類の判定精度が、ディープラーニング(深層学習)により安定して高められる。
【0064】
また本実施形態では、カメラ23が、すくい面26aと垂直な方向から、つまりすくい面26aと正対する方向から、工具刃先を撮影する。
この場合、カメラ23が工具刃先に焦点を合わせやすく、上述した本実施形態による作用効果がより安定して得られる。
【0065】
また本実施形態では、カメラ23と工具刃先との間の距離が、300mm以上である。
上記距離が300mm以上であると、例えば、切削インサート26を新しいものに交換したり、切刃26bをインデックス(使用コーナを変更)したりする場合に、つまり刃先交換する場合において、カメラ23が作業の邪魔になりにくい。また、切削中に切屑Cが延びたり飛散したりした場合でもカメラ23に接触しにくいため、有効な画像を安定して取得できる。
【0066】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0067】
前述の実施形態では、カメラ23が、ロックモードとフリーモードとに切り替え可能なアーム24を介して刃物台22と固定される例を挙げたが、これに限らない。すなわち、カメラ23は、変形不能な剛性部材等を介して、刃物台22と固定されてもよい。また、カメラ23は、刃物台22と直接的に固定されてもよい。なお、カメラ23は、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具21に対して位置決めされていればよいことから、刃物台22以外の例えばホルダ25(旋削工具21)等の部材と固定されてもよい。
【0068】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の切削加工監視システムによれば、切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0070】
10…切削加工監視システム、21…旋削工具、23…カメラ、33…分類部、34…解析部、TA…溶着、W…被削材、Wa…加工面