(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143772
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】固定子及びこれを有する回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20220926BHJP
H02K 3/38 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H02K3/34 D
H02K3/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044465
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村木 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎司
(72)【発明者】
【氏名】岩城 源三
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604DA16
5H604DA19
5H604DA22
5H604DB01
5H604PB01
5H604PC01
(57)【要約】
【課題】固定子のコイルを構成する巻線において電位差が大きくなる特定の範囲について絶縁破壊を防止する。
【解決手段】回転電機を構成する固定子であって、固定子鉄心と、コイルと、を備え、コイルは、複数相の巻線と、口出し線と、複数相の巻線が電気的に接続される中性点と、を有し、巻線は、導体と、導体を覆う第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜と、を含み、第二の絶縁被膜は、第一の絶縁被膜よりも耐サージ性が高く、第二の絶縁被膜が導体を覆う範囲は、巻線の全長のうち中性点側の20~50%の部分である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機を構成する固定子であって、
固定子鉄心と、
コイルと、を備え、
前記コイルは、複数相の巻線と、口出し線と、前記複数相の巻線が電気的に接続される中性点と、を有し、
前記巻線は、導体と、前記導体を覆う第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜と、を含み、
前記第二の絶縁被膜は、前記第一の絶縁被膜よりも耐サージ性が高く、
前記第二の絶縁被膜が前記導体を覆う範囲は、前記巻線の全長のうち前記中性点側の20~50%の部分である、固定子。
【請求項2】
前記第一の絶縁被膜及び前記第二の絶縁被膜は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド及びポリエステルのいずれかを含む、請求項1記載の固定子。
【請求項3】
前記第二の絶縁被膜は、無機粒子を含む、請求項1記載の固定子。
【請求項4】
前記第二の絶縁被膜は、前記第一の絶縁被膜よりも前記無機粒子の含有量が高い、請求項3記載の固定子。
【請求項5】
前記無機粒子は、シリカ、アルミナ及びマイカのうちのいずれか一種類を含む、請求項3記載の固定子。
【請求項6】
前記巻線は、セグメントコイルで構成されている、請求項1記載の固定子。
【請求項7】
前記セグメントコイルは、前記第一の絶縁被膜及び前記第二の絶縁被膜のうちいずれか一方のみを有する、請求項6記載の固定子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の固定子と、
回転子と、を備えた、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子及びこれを有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化の進展に伴い、電気機器、特に回転電機の高出力密度化が求められている。そして、高出力密度化の手法の一つである高電圧化が各自動車メーカにおいて進められている。これに対応するため、回転電機においては、高電圧化に対応した絶縁信頼性に優れた固定子が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、スロット部とコイルエンド部の絶縁層の厚み又は絶縁材料が異なる構成とすることにより、回転電機の小型化と、高電圧、高出力化を両立する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、導体の所定の部位の絶縁被膜を厚くすることにより絶縁抵抗を大きくして、セグメント導体同士を接合する場合に、接合部と隣接するセグメント導体との絶縁性能を確保する技術が開示されている。
【0005】
また、インバータの高速化により、モータに対する入力電圧の立ち上がり速度も高速化が進展している。入力電圧の立ち上がり速度が速まることにより、同一コイル内においても電位差が生じるため、絶縁に対する新たな課題となっている。
【0006】
非特許文献1には、インバータ駆動モータにおけるサージの発生原理、サージのモータ進入とターン間電圧等についての解説が記載されている。非特許文献1には、モータコイルにサージが進入するとコイルの第一ターンにサージ電圧の大半が加わること、電圧立ち上がり時間が50ns以下になる場合があること、第一ターンでの電圧パルスとターン通過後の遅れ電圧パルスとの差が生じることにより隣接ターン間電圧が生じること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-236924号公報
【特許文献2】国際出願第2019/107515号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEJ Journal, Vol. 126, No. 7, pp. 419-422 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に記載の技術では、絶縁被膜の厚さを変えることにより絶縁性の向上を図っている。しかしながら、コイルの絶縁性を高める必要がある範囲、すなわち、コイルを構成する巻線のうちどの部分について絶縁性を高める必要があるのかについては明確にされていない。
【0010】
また、非特許文献1に記載されているように、隣接ターン間電圧が生じることについては一般に知られているが、具体的に隣接ターン間電圧の影響で絶縁対策が必要となるコイル内の範囲については明確にされていない。
【0011】
よって、従来の例においては、不必要な範囲にまで絶縁対策を施すことになっていたと考えられる。
【0012】
本発明の目的は、固定子のコイルを構成する巻線において電位差が大きくなる特定の範囲について絶縁破壊を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、回転電機を構成する固定子であって、固定子鉄心と、コイルと、を備え、コイルは、複数相の巻線と、口出し線と、複数相の巻線が電気的に接続される中性点と、を有し、巻線は、導体と、導体を覆う第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜と、を含み、第二の絶縁被膜は、第一の絶縁被膜よりも耐サージ性が高く、第二の絶縁被膜が導体を覆う範囲は、巻線の全長のうち中性点側の20~50%の部分である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固定子のコイルを構成する巻線において電位差が大きくなる特定の範囲について絶縁破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る回転電機を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る回転電機の固定子を示す斜視図である。
【
図3】スター結線を有するコイルを示す模式構成図である。
【
図4】四往復の巻線を有するコイルを示す模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、絶縁性に優れた構造を有する固定子及びこれを有する回転電機に関する。
【0017】
本発明者は、固定子の電圧分担率の測定などを進め、鋭意研究を重ねた結果、電位の伝播遅延により、固定子のコイルを構成する巻線のうち中性点から特定の範囲においては、その電位が口出し線の電位に比べ、大きく異なることを見出した。
【0018】
この結果から、当該範囲に適用する絶縁被膜の耐サージ性を高めることが効果的であるとの着想に至った。
【0019】
具体的には、当該巻線を構成する導体を覆う第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜のうち、第二の絶縁被膜の耐サージ性を第一の絶縁被膜よりも高くし、第二の絶縁被膜が導体を覆う範囲を、巻線の全長のうち中性点側の20~50%の部分とすることが望ましいことを見出した。
【0020】
以下、本開示の固定子を構成する巻線に用いる絶縁被膜について詳細に説明する。
【0021】
(絶縁被膜の構成)
絶縁被膜は、第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜ともに、電気絶縁性を有する樹脂を含む。樹脂の具体例としては、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ナイロン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらのうち、耐熱性、加工性及び接着性の観点から、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリイミドが好ましい。また、樹脂は、単体で用いても、複数の樹脂を複層して用いてもよい。複層手段は、焼き付け塗布や多層押し出しなどの既存の手法を用いることができ、特に限定されるものではない。なお、これらの樹脂は、溶接前の1個のセグメントコイル内では同一であることが望ましい。言い換えると、セグメントコイルは、第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜のうちいずれか一方のみを有することが望ましい。
【0022】
(耐サージ性を向上する成分)
耐サージ性向上の手法としては、無機粒子の添加や低誘電率化が挙げられる。
【0023】
無機粒子としては、電気絶縁性を有すればよく、シリカ、アルミナ、マイカなどが挙げられる。これらは単体でも、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
無機粒子の添加の例としては、第一の絶縁被膜にポリアミドイミドを、第二の絶縁被膜にナノシリカ粒子添加ポリアミドイミドを用いる手法などが挙げられる。
【0025】
基材となる樹脂については、上記の樹脂群から選択され、単体でも、複数種類用いてもよい。
【0026】
低誘電率化の例としては、第一の絶縁被膜に誘電率4のポリアミドイミドを、第二の絶縁被膜に誘電率3.5のポリイミドを用いる手法などが挙げられる。これらの樹脂の組み合わせは、第二の絶縁被膜の誘電率が第一の絶縁被膜の誘電率より低ければよく、特に限定されるものではない。
【0027】
(第二の絶縁被膜の適用部位)
第二の絶縁被膜の適用部位は、電源の入力部位である口出し線と、口出し線と中性点との間であって周回巻線を構成する周回巻線部の前記中性点に隣接する側であって当該周回巻線部の全長に対し20~50%の部分であることが好ましい。この部位は、電源入力時のパルス立ち上がりにより、電位差が大きくなる部位である。また、焼き付け塗布により絶縁被膜を形成する場合、第二の絶縁被膜の耐サージ性を向上させる樹脂厚は、全体の5%以上100%未満であることが好ましく、さらに好ましいのは、20%以上60%未満である。20%より薄い場合は耐サージ性が不十分である可能性となり、60%より厚い場合は導体や被膜間の接着力が弱まる可能性がある。また、第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜ともに、その被膜厚さは電源電圧に対して適した厚さを選定すればよく、特に制限はされない。
【0028】
(回転電機の構成)
つぎに、回転電機の構成を説明する。以下で説明する実施形態は、あくまでも一例であり、これらの例に限定されるものではない。なお、以下の説明では、回転電機の一例として、ハイブリット自動車に用いられる電動機を用いる。以下の説明において、「軸方向」は、回転電機の回転軸に沿った方向を指すものとする。また、「周方向」は、回転電機の回転方向に沿った方向を指すものとする。「径方向」は、回転電機の回転軸を中心としたときの動径方向(半径方向)を指すものとする。「内周側」は径方向内側(内径側)を指し、「外周側」はその逆方向、すなわち径方向外側(外径側)を指すものとする。
【0029】
図1は、実施形態に係る回転電機の一例を示す断面図である。
【0030】
本図においては、回転電機10は、回転子11と、固定子20と、ハウジング50と、を備えている。回転子11は、回転子鉄心12と、回転軸13と、を含む。回転子11には、永久磁石18と、エンドリング(図示せず)が設けられている。固定子20は、固定子鉄心21(固定子コア)を含む。
【0031】
ハウジング50の内周側には、コイル40を有する固定子20が固定されている。固定子20の内周側には、回転子11が回転可能に設置されている。ハウジング50は、炭素鋼など鉄系材料の切削により、鋳鋼やアルミニウム合金の鋳造により、または、プレス加工により、円筒状に成形した、回転電機10の外被を構成している。ハウジング50は、枠体或いはフレームとも称されている。
【0032】
ハウジング50の外周側には、液冷ジャケット130が設置されている。液冷ジャケット130の内周壁とハウジング50の外周壁との間に設けられた隙間は、油などの液状の冷媒157の冷媒通路153である。冷媒通路153は、液漏れしないように構成されている。液冷ジャケット130は、軸受144、145を有し、「軸受ブラケット」とも呼ぶことができる。
【0033】
直接液体冷却の場合、冷媒157は、冷媒通路153を通り、冷媒出口154、155から固定子20へ向けて流出し、固定子20を冷却する。その後、冷媒157は、冷媒貯留部150に一時的に貯留され、外部に設置されたポンプにより循環される。
【0034】
固定子鉄心21は、珪素鋼板の薄板が積層された構成を有する。
【0035】
固定子20に設置されたコイル40で発生する熱は、固定子鉄心21を介してハウジング50に伝えられ、液冷ジャケット130内を流通する冷媒157により外部に移動し、放熱される。
【0036】
回転子鉄心12は、珪素鋼板の薄板が積層された構成を有する。回転子11の回転軸13は、回転子鉄心12の中心に固定されている。回転軸13は、液冷ジャケット130に取り付けられた軸受144、145により回転自在に支持されている。これにより、回転子11は、固定子20内の所定の位置で、固定子20に対向した位置で回転する。
【0037】
回転電機10の組立は、予め、固定子20をハウジング50の内側に挿入してハウジング50の内周壁に取付けておき、その後、固定子20内に回転子11を挿入する。次に、回転軸13に軸受144、145が嵌合するようにして液冷ジャケット130に組み付ける。
【0038】
つぎに、固定子20の要部の構成について説明する。
【0039】
図2は、実施形態に係る回転電機の固定子の一例を示す斜視図である。
【0040】
本図においては、固定子20は、固定子鉄心21と、固定子コイル60と、を含む。固定子コイル60は、固定子鉄心21の内周部に多数個設けられているスロット15に巻回されている。
【0041】
固定子20は、固定子鉄心21と、固定子鉄心21の内周部に多数個設けられているスロット15に巻回された固定子コイル60と、を含む。固定子コイル60は、断面が略矩形形状の導体で形成されたものであって、絶縁被膜を有する。本実施例においては、導体は、銅合金で形成されている。固定子コイル60の導体の断面形状を略矩形形状とすることにより、スロット15内における導体の占積率を向上させ、回転電機10の効率を向上させることができる。
【0042】
また、各スロット15にはスロットライナー301が、固定子鉄心21の外周部には絶縁紙300が配設され、固定子鉄心21と固定子コイル60等との電気的絶縁および接着を確実にしている。スロットライナー301は、銅線を包装するように口字形状、B字形状又はS字形状に成形されている。
【0043】
セグメント状のコイルをスロットライナー301が配設されたスロット15に挿入し、溶接することにより、固定子コイル60とする。その後、スロット15内に固着ワニスを含浸し、加熱することにより、コイルを固着する。すなわち、固定子コイル60の巻線は、セグメントコイルで構成されている。
【0044】
固定子コイル60は、口出し線26a、26b、26cと、中性点27と、を有する。口出し線26a、26b、26cと中性点27とは、近接して配置されている。
【0045】
以上の説明は、永久磁石式の回転電機についてであるが、本開示に係る回転電機の特徴は、固定子のコイル絶縁に関するものであるため、回転子は、永久磁石式以外にも、インダクション式や、シンクロナスリラクタンス、爪磁極式等にも適用可能である。また、巻線方式は、波巻方式であるが、同様の特徴を持つ巻線方式であれば、適用可能である。また、内転型について説明をしているが、外転型においても同様に適用可能である。
【0046】
図3は、スター結線を有するコイルを示す模式構成図である。
【0047】
本図に示すように、固定子のコイル40は、口出し線26a、26b、26cと、中性点27と、を有する。口出し線26a、26b、26cと中性点27とは、三相の巻線で接続されている。また、口出し線26a、26b、26cと中性点27とは、実際には近接して配置されている。
【0048】
本図においては、U相の巻線を表す口出し線26aと中性点27とを結ぶ線分の全体の長さを100とした場合に、中性点27から太い実線で示す長さ25の範囲にある巻線を第二の絶縁被膜402で覆っている。すなわち、巻線全体のうち、中性点27から25%の範囲を第二の絶縁被膜402で覆っている。一方、破線で示す巻線の残りの部分(口出し線26aから75%の範囲)は、第一の絶縁被膜401で覆っている。V相及びW相についても同様である。口出し線26a、26b、26c及び中性点27も、第二の絶縁被膜402で覆っている。
【0049】
なお、本図においては、スター結線の場合について示しているが、本開示の巻線の構成は、これに限定されるものではなく、デルタ結線等、他の結線構造を有する固定子にも適用可能である。
【0050】
図4は、四往復の巻線を有するコイルを示す模式構成図である。
【0051】
本図に示すコイル40は、巻線の往復構造を明瞭にするため、三相のうちの一相について、口出し線46及び中性点47を有する構成として模式的に表している。
【0052】
本図においては、コイル40は、口出し線46から中性点47に向かって、第一ターン41、第二ターン42、第三ターン43及び第四ターン44を含む構成を有する。これらのターンがそれぞれ、一往復の巻線を構成している。
【0053】
一般に、口出し線46にパルス電圧が印加されると、急峻な電流値の変化が生じる。この際、コイル40の巻線には、インダクタンスによる誘導起電力が発生する。このため、巻線の口出し線46から遠い中性点47側の部分には、パルス電圧が伝播しにくい。このため、口出し線46側と中性点47側とで大きな電位差が生じる場合がある。口出し線46側と中性点47側の導体が隣接している場合、電位差のため、絶縁破壊が生じやすくなる。MHzオーダーのパルス電圧の場合、電流の時間変化率も特に顕著となり、誘導起電力も大きくなる傾向がある。
【0054】
本発明者は、MHzオーダーのパルス電圧をコイルに印加する実験的検討を鋭意行った結果、巻線全体のうち、中性点から20~50%の範囲を第二の絶縁被膜で覆うことが望ましいという考えに至った。言い換えると、周回巻線において第二の絶縁被膜で覆う範囲は、周回巻線の全長のうち中性点側の20~50%の部分であることが望ましい。
【0055】
ここで、第二の絶縁被膜で覆う範囲の下限値は、後述の実施例、比較例等の絶縁破壊寿命試験の結果に基いている。一方、当該範囲の上限値については、第二の絶縁被膜で覆う範囲を広くすれば十分な寿命が得られることは言うまでもないが、密度の高い無機微粒子等を樹脂に添加するため、第二の絶縁被膜で覆う範囲を必要以上に広くすれば、コストの面だけでなく、コイルの軽量化にも反することになる。したがって、当該範囲の上限値については、50%が望ましい。更に望ましくは40%であり、特に望ましくは30%である。後述のとおり、25%としても、100%覆った場合と同程度の絶縁破壊寿命が得られたからである。
【0056】
図4においては、四往復の巻線を有するコイルについて示しているが、コイルの巻線が八往復の場合も、同様に、周回巻線において第二の絶縁被膜で覆う範囲は、周回巻線の全長のうち中性点側の20~50%の部分であることが望ましいことがわかっている。すなわち、コイルの巻線が八往復の場合は、そのうちの中性点側のおよそ二往復の巻線を第二の絶縁被膜で覆えばよい。
【0057】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0058】
実施例等の固定子においては、口出し線の端部及び中性点、並びに口出し線と中性点との間に位置するコイルを構成する巻線(周回巻線)のうち中性点側の所定の部分を第二の絶縁被膜で覆い、それ以外の周回巻線を第一の絶縁被膜で覆った構成としている。第二の絶縁被膜は、第一の絶縁被膜に比べ、耐サージ性に優れている。なお、第一の絶縁被膜及び第二の絶縁被膜の厚さ(膜厚)は等しく、70μmである。
【実施例0059】
第一の絶縁被膜としては、無機微粒子を含まないポリアミドイミドを用いた。
【0060】
一方、第二の絶縁被膜としては、総膜厚の60%がナノシリカ微粒子を含むポリアミドイミドを用いた。つまり、70μmの厚さに対し、28μmは無機粒子を含まないポリアミドイミドを用い、42μmは無機粒子を含むポリアミドイミドを用いている。周回巻線において第二の絶縁被膜で覆う範囲は、周回巻線の全長のうち中性点側の25%の部分(
図3と同様の部分)とした。
一方、第二の絶縁被膜としては、総膜厚の60%がナノシリカ微粒子を含むポリアミドイミドを用いた。周回巻線において第二の絶縁被膜で覆う範囲は、周回巻線の全長のうち中性点側の25%の部分とした。
一方、第二の絶縁被膜としては、総膜厚の60%がナノシリカ微粒子を含むポリアミドイミドを用いた。周回巻線において第二の絶縁被膜で覆う範囲は、周回巻線の全長のうち中性点側の15%の部分とした。
なお、これらの固定子は、セグメントコイルを用いているため、第一の絶縁被膜の適用部位及び第二の絶縁被膜の適用部位は、それぞれ、第一の絶縁被膜を有するセグメントコイル及び第二の絶縁被膜を有するセグメントコイルのいずれか一方をコア挿入の際に適宜選択することができるため、従来の製造装置を用いて製造することが可能である。
本表から、実施例1及び2並びに参考例の固定子は、耐サージ性に優れた第二の絶縁被膜を有さないコイルのみで作製した比較例1よりも、絶縁破壊に要する時間が1.5倍以上長くなっており、絶縁性に関して寿命が向上していることがわかる。
さらに、実施例1及び2の固定子は、耐サージ性に劣る第一の絶縁被膜を有するコイルを一部に用いているにもかかわらず、耐サージ性に優れた第二の絶縁被膜のみを有するコイルで作製した参考例と同等の絶縁破壊寿命を有している。
なお、本開示に係る固定子及びこれを有する回転電機は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は、本開示に係る固定子等の構成等を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。