(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014378
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】環状ハロシラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116673
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA05
4G072AA08
4G072AA11
4G072AA15
4G072AA16
4G072GG03
4G072HH05
4G072HH07
4G072HH09
4G072HH10
4G072HH11
4G072HH33
4G072JJ28
4G072KK07
4G072LL02
4G072LL15
4G072MM01
4G072MM06
4G072MM22
4G072QQ20
4G072RR04
4G072RR12
4G072UU01
4G072UU02
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との接触で生じる残渣を安全かつ簡便に取り扱うことができる、環状ハロシラン化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を残渣と共に生成し、生成した残渣を、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む溶媒(E)とアルカリ水溶液(F)に接触させ、残渣の少なくとも一部を溶解することを特徴とする環状ハロシラン化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を残渣と共に生成し、
生成した残渣を、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む溶媒(E)とアルカリ水溶液(F)に接触させ、残渣の少なくとも一部を溶解することを特徴とする環状ハロシラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒(C)と前記残渣を分離した後、前記残渣を前記溶媒(E)及び前記アルカリ水溶液(F)と接触させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記残渣を、前記溶媒(E)、前記アルカリ水溶液(F)の順に接触させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒(E)が、ハロゲン化炭化水素系溶媒である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液(F)が、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒(C)が炭化水素系溶媒である請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ハロシラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、半導体等には薄膜シリコンが用いられており、従来、該薄膜シリコンはモノシラン等を原料とする気相成長製膜法(CVD法)によって製造されている。近年、より簡便な薄膜シリコンの製造方法として、基材に水素化ポリシラン溶液を塗布し、焼成する方法も注目されている。
【0003】
前記水素化ポリシランは、シクロペンタシラン、シクロヘキサシランなどの環状水素化シラン化合物から製造され(非特許文献1など)、環状水素化シラン化合物の製造方法として、例えば、特許文献1には環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)とを接触させて環状ハロシラン化合物を得、得られた環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させて還元する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Shimoda et al., “Solution-processed silicon films and transistors”, Nature, vol.440, p.783 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)とを接触させることによって環状ハロシラン化合物を製造する方法が記載されているが、所定の反応溶媒を用いた場合、反応後に副生するハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)の塩が分離しにくくなっていた。さらに、当該ハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)の塩は、固体残渣として空気中の水分と反応して塩酸ガスを発生させる虞があり、当該ハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)の塩を安全かつ簡便に取り扱うことが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、本発明の目的は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との接触で生じる残渣を安全かつ簡便に取り扱うことができる、環状ハロシラン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を残渣と共に生成し、生成した残渣を、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む溶媒(E)とアルカリ水溶液(F)に接触させ、残渣の少なくとも一部を溶解することを特徴とする環状ハロシラン化合物の製造方法。
[2] 前記溶媒(C)と前記残渣を分離した後、前記残渣を前記溶媒(E)及び前記アルカリ水溶液(F)と接触させる[1]に記載の製造方法。
[3] 前記残渣を、前記溶媒(E)、前記アルカリ水溶液(F)の順に接触させる[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記溶媒(E)が、ハロゲン化炭化水素系溶媒である[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記アルカリ水溶液(F)が、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液である[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記溶媒(C)が炭化水素系溶媒である[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との接触によりハロゲン化アルミニウム化合物の塩(残渣)が生成しても、塩素ガスを発生させることなく、安全かつ簡便に取り扱うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物とを接触させて環状ハロシラン化合物を製造するにあたり、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を固液分離することなく、また、塩酸ガスを発生させることなく、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を安定的かつ簡便に取り扱うために、鋭意検討を重ねてきた。
その結果、生成する環状ハロシラン化合物と副生するハロゲン化アルミニウム化合物の塩とが良好に溶解し得る溶媒とアルカリ性水溶液を用いることにより、安全かつ簡便に取り扱うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の環状ハロシラン化合物の製造方法は、環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を残渣と共に生成し、生成した残渣を、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む溶媒(E)とアルカリ水溶液(F)に接触させ、残渣の少なくとも一部を溶解することを特徴とする。
【0012】
環状ハロシラン化合物の塩(A)
環状ハロシラン化合物の塩は、ケイ素原子が連なって単素環を形成し、該単素環を構成する少なくとも1つのケイ素原子にハロゲン原子が結合した構造を有しており、塩を形成している化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0013】
上記単素環を構成するケイ素原子の数は特に限定されないが、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0014】
環状ハロシラン化合物は、単素環を構成しないケイ素原子を含むものであってもよく、例えば、単素環を構成するケイ素原子に、ケイ素原子を含む置換基(例えば、シリル基など)が結合していてもよい。但し、単素環を構成しないケイ素原子が含まれると、環状ハロシラン化合物の塩や環状ハロシラン化合物の保管時や、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を製造する工程において、シランガスの発生量が増加したり、環状水素化シラン化合物の収率が低下する傾向にあるので、単素環を構成しないケイ素原子は極力含まないことが好ましい。
【0015】
ケイ素原子から形成された単素環には、少なくとも1つのハロゲン原子が結合していることが好ましく、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が1つまたは2つ結合していることがより好ましく、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が2つ結合していることが更に好ましい。
【0016】
上記環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0017】
【0018】
上記式(1)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として-2~-1の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として+1~+2の整数を表し、nは0~5の整数を表し、aとbとcはそれぞれ0~2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0~3の整数(ただし、aとdは同時に0ではない)、eは0~3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは1~2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
【0019】
上記式(1)中、nは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、その値は0~5の整数であり、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、また4以下が好ましく、3以下がより好ましい。nは特に3であることが好ましく、すなわち式(1)で表される化合物は6員のケイ素単素環であることが好ましい。
【0020】
上記式(1)中、X1は環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子を表し、X2は環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子を表す。X1とX2のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。上記X1が複数ある場合は、複数のX1は同一であっても異なっていてもよい。上記X2が複数ある場合は、複数のX2は同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
上記式(1)中、aは環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子の数を表し、bは環を構成するケイ素原子に結合する水素原子の数を表し、cは環を構成するケイ素原子に結合するシリル基の数を表す。また、dは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子の数を表し、eは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基の水素原子の数を表す。cが2以上のとき、環を構成するケイ素原子に結合した複数のシリル基は同一であっても異なっていてもよい。aとbとcは0~2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、aは1~2n+6の整数で、bとcは0~n+5の整数であることが好ましく、aはn+6~2n+6の整数で、bとcは0~nの整数であることがより好ましい。
【0022】
なお、上記式(1)中、cが0であれば、ハロゲン化アルミニウム化合物と反応させた際にカップリング反応等の副反応が起こることが抑えられたり、環状ハロシラン化合物の塩やそれから製造される環状ハロシラン化合物の保管安定性が向上したり、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を製造する工程においてシランガスの発生が抑制されたり、環状水素化シラン化合物の収率を高めることができる点で、さらに好ましい。また、aが2n+6であり、bとcが0であることが特に好ましい。
【0023】
上記式(1)中、Lは環を構成するケイ素原子に配位したアニオン性の配位子を表し、pは配位子Lの価数(-2~-1の整数)を表し、mは配位子Lの数(+1~+2)を表す。アニオン性の配位子としては、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。
【0024】
上記式(1)中、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数(+1~+2の整数)を表し、配位子Lの価数と数および対カチオンKの価数に応じて、sとtの値がそれぞれ定められる。
【0025】
上記対カチオンKとしては、オニウム類(例えば、ホスホニウムイオンやアンモニウムイオンなど)、ポリアミン・SiH2Cl+(例えば、ペデタ・SiH2Cl+、テエダ・SiH2Cl+など)等が挙げられる。なお、上記対カチオンKがオニウム類である場合、環状ハロシラン化合物の塩と接触させて環状ハロシラン化合物を製造するときの環状ハロシラン化合物の収率が向上する点から好ましい。
【0026】
上記対カチオンKのオニウム類としては、下記式(2)で表されるホスホニウムイオンまたは下記式(3)で表されるアンモニウムイオンが好ましい。
【0027】
【0028】
【0029】
上記式(2)におけるR1~R4および上記式(3)におけるR5~R8は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。上記式(2)において、R1~R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。上記式(3)において、R5~R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
【0030】
上記R1~R4および上記R5~R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1~16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0031】
上記R1~R4および上記R5~R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6~12のアリール基がより好ましい。なお、上記R1~R4および上記R5~R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましい。
【0032】
上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、具体的には、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Cl14
2-])の塩や、テトラデカブロモシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Br14
2-])の塩等が挙げられる。また、その対イオンとしては、ホスホニウムイオンまたはアンモニウムイオンが好ましい。
【0033】
上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(4)または下記式(5)で表される化合物を用いることが好ましい。環状ハロシラン化合物の塩としてこのような化合物を用いれば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物と反応させる際に、副生物の生成や自然発火性ガスであるシランガスの生成が抑えられるため、環状ハロシラン化合物を容易に製造できる。また、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を効率よく製造できる。
【0034】
【0035】
【0036】
上記式(4)および上記式(5)において、X1、R1~R4、R5~R8、nおよびaは上記と同じ意味であり、X3はハロゲン原子を表す。なお、X3は、上記式(4)および上記式(5)ではイオンの形態で存在し、ハロゲン化物イオンとなっている。
【0037】
上記X3のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0038】
上記X3が複数ある場合は、複数のX3は同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
上記X1と上記X3は同一であっても異なっていてもよい。上記式(4)および上記式(5)において、X1とX3が全て塩素原子であれば、環状水素化シラン化合物を安価に製造できる。
【0040】
上記式(4)および上記式(5)において、nは0~5の整数を表し、aは1~2n+6の整数を表すが、nは3であることが特に好ましく、この場合、aは6以上が好ましく、9以上がより好ましく、12以上が特に好ましい。
【0041】
上記環状ハロシラン化合物の塩は、ハロシラン化合物(好ましくはハロゲン化モノシラン、より好ましくはトリハロゲン化シラン、さらに好ましくはトリクロロシラン)と、第三級ポリアミンとを接触させたり、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩(好ましくは第四級ホスホニウム塩)およびアンモニウム塩(好ましくは第四級アンモニウム塩)の少なくとも一方とを接触させることによって製造してもよく、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩の少なくとも一方とを接触させること(以下、環化カップリング工程ともいう)によって製造してもよい。
【0042】
例えば、ハロシラン化合物としてトリクロロシランを用い、ホスホニウム塩を用いた場合には、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4P+]2[Si6H2Cl12]2-)、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4P+]2[Si6HCl13]2-)、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4P+]2[Si6Cl14]2-)等の、環状ハロシラン化合物のジアニオンとホスホニウムイオンとからなる塩が得られる。
【0043】
また、ハロシラン化合物としてトリクロロシランを用い、アンモニウム塩を用いた場合には、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4N+]2[Si6H2Cl12]2-)、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4N+]2[Si6HCl13]2-)、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4N+]2[Si6Cl14]2-)等の、環状ハロシラン化合物のジアニオンとアンモニウムイオンとからなる塩が得られる。
【0044】
上記環化カップリング工程は、ポリエーテル化合物(好ましくは1,2-ジメトキシエタン)、ポリチオエーテル化合物、又は多座ホスフィン化合物(好ましくは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)等のキレート型配位子の存在下で行ってもよい。
【0045】
上記環化カップリング工程は、塩基性化合物の存在下で行ってもよい。上記塩基性化合物としては、例えば、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)アミン化合物が挙げられるが、中でもモノアミン化合物が好ましく用いられる。具体的には、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチル-2-エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル-2-エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく、トリブチルアミンが特に好ましい。上記塩基性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記環状ハロシラン化合物の塩は、ハロゲン化アルミニウム化合物との反応に先立って、必要に応じて精製を行ってもよい。上記環状ハロシラン化合物の塩を精製して純度を高めることにより、ハロゲン化アルミニウム化合物との反応で副生物の生成を抑えることができる。上記環状ハロシラン化合物の塩の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の精製方法を用いればよい。この際の固液分離手段は特に限定されず、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を用いることができる。
【0047】
ハロゲン化アルミニウム化合物(B)
ハロゲン化アルミニウム化合物は、従来公知のルイス酸化合物であり、フッ化アルミニウム化合物、塩化アルミニウム化合物、臭化アルミニウム化合物、ヨウ化アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0048】
上記ハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)は、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムであることが好ましく、反応性や反応の制御の容易性の点から、塩化アルミニウム化合物であることがより好ましい。
【0049】
本発明の効果を奏する限り、ハロゲン化アルミニウム化合物の代りに、以下の化合物を使用してもよい。
具体的には、塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;等が挙げられる。
【0050】
上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)の使用量は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロシラン化合物の塩1molに対して0.5mol以上が好ましく、1.5mol以上がより好ましく、また20mol以下が好ましく、10mol以下がより好ましい。
【0051】
溶媒(C)
環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との接触は、溶媒または分散媒(これらを、以下、単に溶媒という)中で行う。
溶媒(C)(以下、反応溶媒ということがある)は、有機溶媒であることが好ましい。
溶媒(C)としては、例えば、炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
【0052】
溶媒(C)は、炭化水素系溶媒であることがより好ましい。炭化水素系溶媒を用いることによって、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させた後の残渣溶解処理が行いやすくなる。上記炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;が挙げられる。
中でも、溶媒(C)は、脂肪族炭化水素系溶媒であることが特に好ましく、ヘキサンであることが最も好ましい。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、事前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
【0053】
溶媒(C)の使用量は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物の総量100質量部に対し、好ましくは1~10000質量部、より好ましくは10~5000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部である。
【0054】
換言すれば、溶媒(C)の使用量は、通常、環状ハロシラン化合物の塩の濃度が0.005mol/L以上、10mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.01mol/L以上、さらに好ましい濃度は0.05mol/L以上であり、より好ましい濃度は5mol/L以下、さらに好ましい濃度は1mol/L以下である。
【0055】
上記反応溶媒中で環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、(1)環状ハロシラン化合物の塩およびルイス酸化合物のそれぞれを予め溶媒中に溶解または分散させることによって、環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)とルイス酸化合物の溶液(または分散液)を調製した後、これらの溶液(または分散液)を混合する方法、(2)溶媒に、環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物を同時にまたは順次加える方法、(3)環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)にルイス酸化合物を加える方法、(4)環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを仕込み、そこに溶媒を加える方法;等が挙げられる。
【0056】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応を行うときの温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、-80℃以上が好ましく、-50℃以上がより好ましく、-30℃以上がさらに好ましく、また200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0057】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との接触を行うときの時間は、反応温度、反応の進行の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。上記時間は、例えば、24時間以下とすることができる。上記時間は、20時間以下がより好ましく、15時間以下が更に好ましい。
【0058】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との反応を促進させるために、加熱および/または撹拌を行ってもよい。
【0059】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応を行うときの雰囲気は特に限定されないが、環状ハロシラン化合物およびその塩の酸化を抑制するために、当該雰囲気の酸素濃度は9体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましく、3体積%以下がさらに好ましく、1体積%以下が特に好ましい。
【0060】
また、環状ハロシラン化合物およびその塩の加水分解を抑えるために、上記雰囲気の水分濃度は2000ppm(体積基準)以下が好ましく、1500ppm(体積基準)以下がより好ましく、1000ppm(体積基準)以下がさらに好ましく、500ppm(体積基準)以下がさらにより好ましく、150ppm(体積基準)以下が特に好ましく、10ppm(体積基準)以下が最も好ましい。
【0061】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガスなど)雰囲気下で行うことも好ましく、また遮光下で行うことも好ましい。
【0062】
環状ハロシラン化合物(D)
上記環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応させることによって、フリーの環状ハロシラン化合物(非錯体型の環状ハロシラン化合物)を残渣と共に得ることができる。このような非錯体型の環状ハロシラン化合物は、錯体型の環状ハロシラン化合物と比べて高い溶媒溶解性を有するものとなる。そのため得られた非錯体型の環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させて還元する際に、環状ハロシラン化合物の還元反応を高濃度下で行うことができ、環状水素化シラン化合物を効率的に製造できる。
【0063】
上記環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物とを接触させる工程では、例えば、上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩から下記式(6)で表される環状ハロシラン化合物を得ることができる。
【0064】
【0065】
上記式(6)において、X1、X2、a~e、nは上記と同じ意味を表す。
【0066】
好ましくは前記溶媒(C)と前記残渣を分離した後、前記残渣を前記溶媒(E)及び前記アルカリ水溶液(F)と接触させる。
当該残渣には、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩及び環状ハロシラン化合物が含まれる。
溶媒(C)と残渣の分離は、好ましくは遠心分離、濾過等の固液分離、より好ましくは濾過である。係る工程により、溶媒(C)を除去する。
【0067】
次に、生成した残渣を、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む溶媒(E)とアルカリ水溶液(F)に接触させ、残渣の少なくとも一部を溶解する。
【0068】
溶解とは、固体であるハロゲン化アルミニウム化合物の塩及び環状ハロシラン化合物の一方又は両方が溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)と混合される結果、均一な液相を形成する現象をいい、固体がほぼ消失して透明な混合物(溶液)を形成している状態と言い換えることができる。
【0069】
残渣の少なくとも一部を溶解するとは、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩及び環状ハロシラン化合物の一方又は両方が溶解することを意味し、例えば、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩が、総量100質量%当たり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは99.99質量%以上の量で溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)に溶解することが望ましい。
ハロゲン化アルミニウム化合物の塩は、ほぼ100質量%溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)に溶解していることが望ましいが、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は1質量%以上程度溶解していない場合も、本発明でいう溶解の範疇に含まれる。
【0070】
溶媒(E)
溶媒(E)は、アルコール系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒の一方又は両方を含む。
【0071】
アルコール系溶媒は、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等である。中でも、メタノール、エタノールが特に好ましい。
【0072】
ハロゲン化炭化水素系溶媒は、ハロゲン化芳香族系溶媒、ハロゲン化非芳香族系溶媒であることが好ましい。
ハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
中でも、フッ素原子、塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0073】
ハロゲン化芳香族系溶媒としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、フルオロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン、1-クロロナフタレン、1-ブロモナフタレン、塩素化ナフタレン、ヘキサフルオロベンゼン等が挙げられる。
【0074】
ハロゲン化非芳香族系溶媒としては、クロロホルム、ブロモホルム、臭化エチル、塩化プロピル、臭化プロピル、塩化イソプロピル、臭化イソプロピル、塩化ブチル、1-クロロペンタン等の1ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒;ジクロロメタン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジブロモエタン、1,2-ジクロロプロパン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン等の2ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒;1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、1,2,3-トリクロロプロパン等の3ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒;テトラクロロエチレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラブロモエタン、四塩化炭素等の4ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン等の5ハロゲン原子以上含有芳香族系溶媒等が挙げられる。
【0075】
溶媒(E)は、好ましくはアルコール系溶媒又はハロゲン化炭化水素系溶媒であり、より好ましくはハロゲン化炭化水素系溶媒であり、さらに好ましくはハロゲン化芳香族系溶媒又はハロゲン化非芳香族系溶媒である。
中でも、ハロゲン化非芳香族系溶媒であることが好ましく、1ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒、2ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒であることがより好ましく、2ハロゲン原子含有非芳香族系溶媒であることがさらに好ましく、1,1-ジクロロメタンであることがさらにより好ましい。
【0076】
溶媒(E)の量は、環状ハロシラン化合物(D)100質量部に対し、好ましくは1~10000質量部、より好ましくは10~5000質量部、さらに好ましくは100~3000質量部である。
【0077】
アルカリ水溶液(F)
アルカリ水溶液(F)は、アルカリ金属を含む塩基性水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液であることがより好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることがさらに好ましい。
アルカリ水溶液(F)の濃度は、例えば1~30質量%、好ましくは2~25質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0078】
アルカリ水溶液(F)の量は、環状ハロシラン化合物(D)100質量部に対し、好ましくは1~10000質量部、より好ましくは10~5000質量部、さらに好ましくは100~3000質量部である。
【0079】
残渣を溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)と接触させることにより、残渣に含まれるハロゲン化アルミニウム化合物の塩及び環状ハロシラン化合物を、溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)に溶解させるが、前記残渣を、前記溶媒(E)、前記アルカリ水溶液(F)の順に接触させることが好ましく、前記残渣を前記溶媒(E)に分散した後、残渣と溶媒(E)との混合物をアルカリ水溶液(F)と接触させることがより好ましい。
【0080】
アルカリ水溶液は、残渣を分散した溶媒(E)に滴下して添加することが望ましく、滴下時の反応系の温度は、適宜調節しながら操作してもよい。
残渣が溶解した溶媒(E)及びアルカリ水溶液(F)の混合物は、必要に応じて上記溶媒(C)や(E)を添加して混合、濃縮してもよく、多層に分離した場合には必要に応じて分液に供してもよく、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を含む層を取り出してもよい。
この様に、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を溶解できる為、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を含む溶液をそのまま廃棄することが可能となる。
【0081】
他方、上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ルイス酸化合物との反応により得られた環状ハロシラン化合物は、不純物を除去するために、必要に応じて精製を行ってもよい。上記環状ハロシラン化合物の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の手段を用いることができる。
【0082】
上記環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを接触させて得られた環状ハロシラン化合物は、公知の方法で金属水素化物と接触させて還元する(以下、還元工程ということがある。)ことによって、環状水素化シラン化合物を製造できる。
【0083】
上記環状水素化シラン化合物は、ケイ素原子が連なって構成される単素環を有し、ケイ素原子と水素原子から構成される化合物である。環状水素化シラン化合物は、単素環を構成するケイ素原子の全ての置換位置に水素原子が結合してもよく、単素環を構成するケイ素原子に無置換のシリル基が結合しているものであってもよい。ただし、保存安定性の観点から、単素環を構成するケイ素原子以外のケイ素原子を含まないことが好ましい。環状ハロシラン化合物の塩ではなく環状ハロシラン化合物を還元することによって、当該塩の対カチオンに由来するシランガスの発生がなく、全体としてシランガスの発生を抑制できるため、環状水素化シラン化合物を高収率かつ簡便に得ることができる。
【0084】
還元工程で得られる環状水素化シラン化合物は、下記式(12)で表される化合物が好ましい。
SizH2z (12)
【0085】
上記式(12)中、zは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、zは3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0086】
なお、薄膜シリコンの形成に有用となる点から、単素環を構成するケイ素原子の数は6(すなわちz=6)が特に好ましい。また、同様の観点から、還元工程に供する環状ハロシラン化合物は、下記式(13)で表される化合物が好ましく、下記式(14)で表される化合物がより好ましい。
SizX1
aH(2z-a) (13)
SizX1
2z (14)
【0087】
上記式(13)および上記式(14)中、X1とaの態様や好ましい態様は、特に言及する場合を除き、上記式(1)のおけるX1とaとそれぞれ同じであり、zの態様や好ましい態様は、特に言及する場合を除き、上記式(12)におけるzと同じ意味を表す。
【0088】
上記金属水素化物の種類は特に限定されず、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等の水素化アルミニウム化合物;水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛等の水素化ホウ素化合物;水素化トリブチルスズ等の水素化スズ化合物;水素化遷移金属化合物;等が挙げられる。これらの金属水素化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0089】
上記環状ハロシラン化合物の金属水素化物による還元反応は溶媒中で行うことが好ましい。ここで用いる溶媒(以下、反応溶媒ということがある)は、有機溶媒が好ましく、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、還元工程で用いる反応溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
【0090】
上記環状水素化シラン化合物は、禁酸素性物質である。そのため上記還元工程は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0091】
上記還元工程で得られた環状水素化シラン化合物は、純度を高めるために精製を行ってもよい。環状水素化シラン化合物の精製方法としては、固液分離、蒸留、晶析、抽出等の公知の精製方法を採用できる。
【0092】
以上、本発明について説明したが、上記に説明した本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例0094】
(1)環状ハロシラン化合物の塩の調製
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた2L四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、このフラスコ内に、テトラエチルアンモニウムブロミドを123.5g(0.59mol)と、トリブチルアミンを490.0g(2.64mol)と、ジクロロメタンを702.7gとを入れた。次いでフラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下において、滴下ロートよりトリクロロシラン238.1g(1.76mol)とジクロロメタン117.2gからなる溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、引き続き50℃で6時間加熱還流しながら撹拌することにより、環化カップリング反応を行った。反応後、得られた固体をろ過および精製して、環状ハロシラン化合物の塩102.7gの白色固体を得た。
【0095】
(2)環状ハロシラン化合物の製造例
窒素雰囲気下、撹拌装置を備えた300mL三つ口フラスコに、上記(1)で得られた白色固体15.0gと粉末状の塩化アルミニウム(AlCl3)4.6gを入れ、さらにヘキサン98.7gを加えた。遮光した状態で、室温条件下、3時間撹拌して反応させたのち、ろ過、濃縮を行い環状ハロシラン化合物(D)のヘキサン溶液(濃度:約40質量%)を得た。また、得られたろ過ケーキは真空下で乾燥を行い、白色固体13gを得た。
【0096】
(3)ろ過ケーキの失活
上記(2)で得られたろ過ケーキ4.6gとジクロロメタン50mLを窒素置換した100mLナスフラスコに入れ氷浴にて0度に冷却した。そこに滴下ロートから質量濃度15%の水酸化ナトリウム水溶液90mLをフラスコ内の温度が20度を超えないようにゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷浴を外し、室温にて4時間撹拌すると固体のない2層の透明な溶液が得られた。
本発明によれば、固体残渣であるハロゲン化アルミニウム化合物の塩を安全かつ簡便に取り扱うことができる。また、環状ハロシラン化合物を還元して得られる環状水素化シラン化合物は、例えば、太陽電池や半導体等に用いられるシリコン原料として有用である。また半導体分野では、Ge化合物と混合または反応させることにより、SiGe化合物の製造や、SiGe膜の製造にも利用できる。