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  • 特開-ヴェイパーチャンバー用シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143780
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ヴェイパーチャンバー用シート
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20220926BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F28D15/02 102A
F28D15/02 102H
F28F21/08 E
F28D15/02 101H
F28D15/02 102G
F28D15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044475
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】西辻 清明
(72)【発明者】
【氏名】相澤 弘康
(57)【要約】
【課題】取り扱いが容易であり、簡便にヴェイパーチャンバーを構成できるヴェイパーチャンバー用シートを提供する。
【解決手段】ヴェイパーチャンバー用シート1は、基材10と、基材上に形成された粘着層20と、複数の穴31を有し、粘着層上に形成された銅層30とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された粘着層と、
複数の貫通孔を有し、前記粘着層上に形成された金属層と、
を備える、
ヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項2】
前記金属層が銅からなる、
請求項1に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項3】
前記貫通孔の内径は、開口する第一面の側から前記粘着層に接する第二面の側に向かって徐々に縮小している、
請求項1に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項4】
前記貫通孔において、最も内径の小さい最小径部は、前記第二面から離間し、かつ前記第一面よりも前記第二面に近い位置にある、
請求項3に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項5】
前記最小径部の内径が20μm以上である、
請求項4に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項6】
前記最小径部と前記第二面との距離が5μm以下である、
請求項4に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項7】
前記粘着層の厚さが0.3μm~2.0μmの範囲にある、
請求項1に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【請求項8】
前記複数の貫通孔において、周縁間の最短距離が50μm以上である、
請求項1に記載のヴェイパーチャンバー用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヴェイパーチャンバーの構成部材として使用可能な、ヴェイパーチャンバー用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器においては、性能向上に伴う電子部品の発熱への対応がますます重要になっている。
これまでは、材料自体の熱伝導を利用した放熱が行われてきたが、これには限界があるため、蒸発と凝縮に伴う潜熱を利用して放熱を行うヴェイパーチャンバーが今後の放熱構造として期待されている。
【0003】
小型の通信機器等にヴェイパーチャンバーを組み込むためには、薄型化が欠かせない。
これに関連して、特許文献1には、ヴェイパーチャンバーに適用できるシートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-128144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シートを用いてヴェイパーチャンバーを構成する場合、他の部品との接合のしやすさや、取り扱いやすさなどが求められる。
発明者らは、このような観点で特許文献1に記載のシートに改善点を見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、取り扱いが容易であり、簡便にヴェイパーチャンバーを構成できるヴェイパーチャンバー用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材と、基材上に形成された粘着層と、複数の貫通孔を有し、粘着層上に形成された金属層とを備えるヴェイパーチャンバー用シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヴェイパーチャンバー用シートは、取り扱いが容易であり、使用することで簡便にヴェイパーチャンバーを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るヴェイパーチャンバー用シートの部分平面図である。
図2図1のI-I線における模式断面図である。
図3】同ヴェイパーチャンバー用シートの製造に用いる積層体の模式断面図である。
図4】同ヴェイパーチャンバー用シートを用いたヴェイパーチャンバーの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態のヴェイパーチャンバー用シート(以下、「VCシート」と称することがある。)1を示す部分平面図である。図2は、図1のI-I線における模式断面図である。図1および図2に示すように、VCシート1は、基材10と、基材10上に形成された粘着層20と、粘着層20上に形成された銅層(金属層)30とを備えている。基材10と銅層30とは、粘着層20により接合されている。銅層30には、多数の微細な穴が開口している。
【0011】
基材10としては、各種のプラスチックフィルムを使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレ-ト(PEN)等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0012】
基材10の厚さは、例えば75マイクロメートル(μm)以上100μm以下の範囲とできる。基材10が厚すぎると後述する剥離時に大きな力量が必要となる結果、銅層30に変形等を生じる可能性が高まる。また、基材10が薄すぎると、銅層30に穴を形成する工程(後述)における耐久性が不十分となる可能性がある。
【0013】
粘着層20の材質としては、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等の公知の各種粘着剤及び接着剤を使用できる。硬化する材料、硬化せずに粘着性を保持する材料のいずれも粘着層20に採用できる。
粘着層20の厚さは、例えば6μm以上20μm以下の範囲とできる。
本実施形態に係るVCシート1の製造にあたっては、粘着層20と銅層30との接合強度が重要である。この点については後述する。
【0014】
本実施形態において、銅層30に設けられた微細な穴(貫通孔)31は、VCシート1の平面視における形状が略正円形であり、所定のピッチで二次元マトリクス状に並んでいる。
図2に示すように、各穴31は銅層30を貫通しており、粘着層20が穴31の底面を構成している。各穴31の内径は、銅層30において粘着層20と接しない側の第一面30a側から粘着層20と接する側の第二面30bに向けて徐々に小さくなっている。
各穴31の内側面の断面形状は、略円弧状となっている。
【0015】
各穴31において、最も内径が小さい最小径部32は、第二面30bよりも少し第一面30a寄りの位置にある。穴31においては、第二面30b上の内縁31aから最小径部32の内縁にかけて徐々に内径が減少しており、内縁31aと最小径部32とが斜面33により接続されている。
各穴31の断面形状において、第一面30a側の内縁と最小径部とを結んだ線と第一面30aとがなすテーパー角は、50°~70°程度である。テーパー角は、3次元形状測定装置等により自動算出できる。
【0016】
上記の構成を有するVCシート1の製造手順の一例について説明する。
まず、図3に示すように、基材10と、粘着層20と、穴31のない銅層30Aとを備える積層体50を準備する。積層体50は、自ら製造してもよいし、市場から調達してもよい。
【0017】
次に、フォトリソグラフィにより穴31に対応した開口を形成したマスクを銅層30A上に設けて、銅層30Aの第一面側からウェットエッチングを行う。エッチング液は、第一面側から徐々に銅層30Aを溶かしていき、やがて銅層30Aを貫通する穴31が銅層30Aに形成される。このエッチングは等方性であるため、穴31の内側面の断面形状は、上述したように概ね円弧状となる。
【0018】
穴31が銅層30Aを貫通した後もエッチングを継続すると、エッチング液は、穴31内に露出した粘着層20と銅層30Aとの間に入り込む。入り込んだエッチング液は、銅層30Aの第二面側から穴31の周縁部を溶かしていく。これにより、最小径部32および斜面33が形成される。
最小径部32および斜面33が形成された後に、洗浄等によりエッチング液を除去すると、VCシート1が完成する。
【0019】
VCシート1において、最小径部32における内径寸法や第二面30bとの距離(図2に示すD1)、斜面33の第二面30b側からの立ち上がり角度(図2に示すθ1)等は、使用するエッチング液やエッチング時間等の諸条件を変更することにより適宜設定できる。
【0020】
VCシート1は、様々な形でヴェイパーチャンバーの構成部材として使用できる。
図4にVCシート1を用いたヴェイパーチャンバーの一例の模式断面図を示す。図4に示すヴェイパーチャンバー100は、金属等からなる第一部材101および第二部材106を有する筐体110と、筐体110内に配置されて毛細管現象を促進するウィック120とを備えている。
【0021】
第一部材101は深絞り加工がされており、筐体110の内面となる側の面に内部空間を保持する複数の柱102を有する。第二部材106は平坦であり、筐体110の内面となる側の面に基材10を剥離したVCシート1が粘着層20(不図示)を介して接合されている。ウィック120は、メッシュや不織布等からなり、第一部材101とVCシート1との間に配置されている。
【0022】
ウィック120を挟みつつ、VCシート1を貼り付けた第二部材106と第一部材101とを対向させた状態で、各穴31内に作動液を充填し、減圧しながら溶接等により第一部材101と第二部材106とを接合し、筐体110の内部空間を封止すると、ヴェイパーチャンバー100が完成する。完成したヴェイパーチャンバー100は、フレーム等の支持体を介して対象機器の発熱部付近に配置することにより、発熱部を効率よく放熱および冷却できる。
【0023】
ヴェイパーチャンバー100を薄く構成する場合、第二部材106の厚みが数十μm程度になる場合もある。
一般に、第一面側から片面エッチングで貫通穴を形成する場合、反対側の第二面側における貫通孔の内縁は、鋭いエッジとなる。このような状況で、接合するVCシートに鋭いエッジがあると、接合される側の第二部材106を傷めたり、穴を開けてしまったりする可能性がある。
【0024】
本実施形態のVCシート1は、第二面30b側に斜面33が形成されていることにより、エッジとなる最小径部32の内縁が、上述した距離D1だけ第二面から離間している。その結果、最小径部32の内縁が接合対象と強く接触することが好適に抑制され、接合対象である第二部材106にダメージを与えにくい。その結果、ヴェイパーチャンバーを薄型化する際にも好適に使用できる。
【0025】
VCシート1を用いたヴェイパーチャンバーは、筐体を用いずに構成することもできる。
例えば、各穴31内に作動液を充填して密閉する。密閉後にVCシート1の基材10を剥離すると、粘着層20が露出し、ヴェイパーチャンバーとして冷却したい電子部品等に直接簡便に貼り付けることができる。
【0026】
電子部品が発熱すると、この熱により密閉された穴31内で作動液が気化し、第一面30a側に移動する。移動した気体は熱源である電子部品から離間するため、冷却されて徐々に凝縮する。凝縮した作動液は、穴31の内側面を伝って再び第二面30b側に移動する。この繰り返しによって、電子部品の放熱・冷却が行われる。
【0027】
この場合も、最小径部32の内縁が接合対象と強く接触することが好適に抑制され、接合対象にダメージを与えにくい。
【0028】
上述したいずれの例においても、第二面30b側に形成された斜面33が粘着層20から離間しているため、銅層30と粘着層20との密着力が適度に減少されている。その結果、セパレータとしての基材10を剥離する際に必要な力量が大きくなりすぎず、剥離時に銅層30が変形することを好適に防止できる。
【0029】
さらに、穴31がエッチングにより形成されているため、穴31の内側面が適度な表面粗さを有している。これにより、凝縮した作動液が毛細管現象により円滑に第二面側に移動でき、VCシート1の姿勢によらず安定した冷却効果が発揮される。
発明者らの検討では、処理前の銅層の表面粗さ(主に圧延によるものと推測される)がRaとして0.02μmであるのに対し、エッチングされた穴31の内側面では、Raとして0.12μmと6倍程度になっており、表面における毛細管現象が増強されると推測された。
【0030】
加えて、銅層30は、薄い箔であるため、単体では穴31を含む形状保持が困難であるが、VCシート1は基材10を備えるため、使用時に基材10を剥離するまでは、基材10の剛性により、穴31を含めて銅層30の形状を好適に保持することができる。
【0031】
VCシート1において、上述の距離D1は、5μm以下とでき、3μm以下が好ましい。D1が小さすぎると、上述した効果を十分に奏しないことがある。D1が大きくなりすぎると、接合対象に取り付ける際に斜面33と粘着層20とが再接合する領域が小さくなり、接合力が低下する可能性がある。
VCシート1における上述の角度θ1は、10°以下とできる。10°以下であると、VCシート1を接合対象に取り付けた際に、粘着層20の変形により、離間していた斜面33と粘着層20とが再度接合しやすく、接合対象に対する接合強度を十分に確保できる。角度θ1が大きくなりすぎると、上述の接合が起こりにくくなるほか、第二面上における穴31の内縁がエッジとして機能しやすくなり、上述した効果が低減することがある。
なお、一般的な両面エッチングでは、θ1を10°以下にすることは極めて困難である。
【0032】
上述したVCシート1の製造過程においては、積層体50における粘着層20と銅層30Aとの接合強度が大きく影響する。接合強度が大きすぎると、エッチング液が粘着層20と銅層30Aとの間に進入しにくく、第二面側のエッチングが進まない結果、斜面33が形成されにくい。
発明者らの検討では、積層体50における粘着層20と銅層30Aとの接合強度が1N/25mm以下であると、良好に斜面33が形成されることがわかった。
【0033】
本実施形態のVCシート1において、穴31の寸法は適宜設定できるが、一例を挙げると、内径20μm~100μm程度、例えば、最大内径50μm程度、最小径部32の内径35μm程度とできる。
ここで、穴31の径に対して、隣接する穴の中心間の距離であるピッチが小さすぎると、銅層30と粘着層20との間に進入したエッチング液により、粘着層20において銅層30から離間した領域の比率が高くなり過ぎる可能性がある。粘着層20が銅層30から離間した領域の比率が高くなり過ぎると、銅層30と粘着層との接合が著しく低下し、粘着層20が完全に剥離してしまう可能性や、穴31の寸法精度を低下させる可能性が生じる。
このような観点からは、隣接する穴31の周縁間における最短距離が50μm以上となるようにピッチが設定されることが好ましい。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0035】
・穴は、上述した平面視円形のものに限られず、平面視において一方向に延びる溝状であってもよい。穴の平面視形状は、エッチングに用いるマスクにより自由に設定できる。形成される穴の断面形状は、エッチング条件が同一であれば平面視形状の如何にかかわらず上述したような略円弧状となる。
・銅層に形成される穴は、上述のように規則的に配列されなくてもよい。この場合、上述のピッチは、隣接する穴の中心間距離のうち最小の値と定義する。
【0036】
・穴が形成される金属層の材質は、上述の銅には限られない。銅の他に、加工が容易で熱伝導性に優れる銀やアルミニウム等も使用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ヴェイパーチャンバー用シート
10 基材
10a 第一面
10b 第二面
20 粘着層
30 銅層(金属層)
31 穴(貫通孔)
32 最小径部
図1
図2
図3
図4