(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143794
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】艶消しコーティング膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/00 20060101AFI20220926BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08F2/00 C
C08F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044506
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】河田 はるか
(72)【発明者】
【氏名】福島 利雄
(72)【発明者】
【氏名】尾薗 圭一
(72)【発明者】
【氏名】奥平 匠
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011AC04
4J011CA01
4J011CA02
4J011CA03
4J011CA04
4J011CA05
4J011CA08
4J011CC10
4J011PA13
4J011PA69
4J011PA95
4J011PB06
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA13
4J011QA24
4J011SA02
4J011SA14
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA02
(57)【要約】
【課題】
本発明が解決しようとする課題は、微粒子を含有した活性エネルギー線硬化型組成物を使用し、所望の意匠性を有したコーティング膜を得る製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明の解決手段は、基材上に設けた粒径が50μm以下の微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)と、酸素濃度21%未満の雰囲気下で電子線照射あるいは紫外線照射する工程(2)とをこの順に有することを特徴とする艶消しコーティング膜の製造方法によるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けた、粒径が50μm以下の微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)と、酸素濃度21%未満の雰囲気下で電子線照射あるいは紫外線照射する工程(2)とをこの順に有することを特徴とする、艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性組成物が、
活性エネルギー線硬化性化合物として多官能(メタ)アクリレートを含有し、
平均粒子径50μm以下の微粒子を0.5~50質量%含有し、
光重合開始剤を、0.5質量%~30質量%含有する、請求項1に記載の艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)における紫外線照射の積算光量が20mJ/cm2~1000mJ/cm2である請求項1又は2に記載の艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)における紫外線照射の積算光量が20mJ/cm2~1000mJ/cm2あるいは電子線照射の線量が10~230kGyである請求項1~3のいずれかに記載の艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項5】
前記微粒子が、平均粒子径25μm以下のシリカである請求項1に記載の艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項6】
前記微粒子が、平均粒子径50μm以下の樹脂ビーズである請求項1に記載の艶消しコーティング膜の製造方法。
【請求項7】
基材上に設けた、微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)と、
電子線照射あるいは酸素濃度21%未満の雰囲気下で紫外線照射する工程(2)とをこの順に有することを特徴とする、コーティング膜表層の艶消しを発現させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型組成物を使用した艶消しコーティング膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、艶消し(低光沢化とも称されることがある)等の美観を付与することを目的に、基材上に、電子線硬化型(EB硬化型と称されることもある)や紫外線硬化型(UV硬化型と称されることもある)の艶消し剤を添加したコーティング剤を塗工することは知られている。(例えば特許文献1参照)
また、艶消し剤を添加したコーティング剤を硬化させる際に、酸素含有不活性ガス雰囲気下において含有酸素濃度を多段階に変化させて電子線を照射し、電子線硬化型クリヤーを硬化させることで、十分な艶消し効果が得られ、かつ、耐候性の格段に優れた高耐候性艶消し化粧板を得る方法も知られている。(例えば特許文献2参照)
しかしながらこれらの方法であっても、所望する艶消し効果が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-69332号公報
【特許文献2】特開2001-87703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、微粒子を含有した活性エネルギー線硬化型組成物を使用し、所望の意匠性を有したコーティング膜を得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、基材上に設けた特定サイズの微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、特定の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)及び工程(2)とを有する艶消しコーティング膜の製造方法が、前記課題を解決することを見出した。
【0006】
即ち本発明は、基材上に設けた粒径が50μm以下の微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)と、酸素濃度21%未満の雰囲気下で電子線照射あるいは紫外線照射する工程(2)とをこの順に有することを特徴とする艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0007】
また本発明は、前記活性エネルギー線硬化性組成物が、活性エネルギー線硬化性化合物として多官能(メタ)アクリレートを含有し、平均粒子径50μm以下の微粒子を0.5~50質量%含有し、光重合開始剤を、0.5質量%~30質量%含有する艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0008】
また本発明は、前記工程(1)における紫外線照射の積算光量が20mJ/cm2~1000mJ/cm2である艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0009】
また本発明は、前記工程(2)における紫外線照射の積算光量が20mJ/cm2~1000mJ/cm2あるいは電子線照射の線量が10~230kGyである艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0010】
また本発明は、前記微粒子が、平均粒子径25μm以下のシリカである艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記微粒子が、平均粒子径50μm以下の樹脂ビーズである艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、基材上に設けた微粒子を含有した活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)と、電子線照射あるいは酸素濃度21%未満の雰囲気下で紫外線照射する工程(2)とをこの順に有することを特徴とするコーティング膜表層の艶消しを発現させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法により、従来よりも容易に、低光沢化したコーティング膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(基材)
本発明で使用する基材は、艶消し意匠を所望される基材であれば特に限定なく使用できる。例えば建材用の化粧シートであれば、化粧シートに使用する汎用の基材シートを基材として使用することができる。
基材シートとしては特に限定はなく、一般的な化粧シートに汎用の熱可塑性樹脂により形成されたシート(フィルム)や紙を使用する。
熱可塑性樹脂により形成されたシート(フィルム)としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、アイオノマー、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体等が挙げられる。前記基材シートは、これら樹脂を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることにより形成されていてもよい。
【0015】
前記基材シートは着色されていてもよく、また必要に応じて、充填剤、艶消し剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等の各種の添加剤が含まれていてもよい。また基材シートの厚みは、最終製品の用途、使用方法等により適宜設定できるが、一般には20~300μmが好ましい。
【0016】
基材シートの片面又は両面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。例えば、コロナ放電処理を行う場合には、基材シート表面の表面張力が30dyne以上、好ましくは40dyne以上となるようにすればよい。表面処理は、各処理の常法に従って行えばよい。
【0017】
また化粧シート向け紙基材の種類としては、例えば、薄葉紙、普通紙、強化紙、樹脂含浸紙等の紙質シート、チタン紙、等が挙げられる。
【0018】
また化粧板に汎用される木質化粧板等を基材としてもよい。木質化粧板の木質基材としては、従来から化粧板や家具、建築部材等の木質基材として使用されている合板、パーティクルボード、ハードボード、MDF等の公知のものが挙げられる。またこれらの公知基材はどのような製法で得られたものであるかは問わない。
更に、基材として使用できる不燃材としては、石膏ボード、石膏板、珪酸カルシウム板等を素材とした開孔ボード建材等、陶器、磁器、せっ器、土器、硝子、琺瑯などのセラミックス板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、ポリ塩化ビニルゾル塗布鋼板、アルミニウム板、銅板などの金属板を挙げることができる。
【0019】
(活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜)
活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜は、活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング剤のコーティング膜である。
以下、本発明で使用する活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング剤を、「活性エネルギー線硬化性コーティング剤」と称する。
【0020】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物及び光重合開始剤を含有する。
なお本発明において「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基の一方または両方を指す。また「(メタ)アクリロイル基を有する化合物」を(メタ)アクリレートを称する場合もある。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの一方または両方をいう。
【0021】
((メタ)アクリロイル基を有する化合物)
本発明で使用する(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、特に限定はなく公知の活性エネルギー線で硬化しうる(以後単に「活性エネルギー線硬化性」と称する場合がある)(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することができる。
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエタノールアクリル酸多量体エステル等が挙げられる。
【0022】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
また更に、2官能以上の(メタ)アクリレートにあたるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物 (DPHAと略する場合がある)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTAと略する場合がある)、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレートであるトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート等を使用してもよい。前記トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加体トリ(メタ)アクリレートとしては、代表的なものとしてトリメチロールプロパンエチレンオキサイド(以後エチレンオキサイドを「EO」と称する場合がある)変性(n≒3)トリアクリレートが挙げられる。
【0025】
更に必要に応じて重合性オリゴマーを使用してもよい。重合性オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレートなどのアミン変性アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
また、本発明で使用する(メタ)アクリロイル基を有する化合物として(メタ)アクリロイル基を有する樹脂を用いてもよい。特に好ましくは(メタ)アクリロイル基を含有するアクリル系樹脂である。(メタ)アクリロイル基を含有するアクリル系樹脂は、特に限定はなく公知の方法で得たアクリル系樹脂を使用することができる。
【0027】
(光重合開始剤)
本発明の活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、紫外線等で硬化させる場合通常光重合開始剤を使用する。この際に使用する光重合開始剤としては、公知のものを使用すればよい。
【0028】
中でもラジカル重合タイプの光重合開始剤が好ましく、活性エネルギー線硬化性化合物溶解時に溶解液の着色が無く、経時による黄変の少ないα-ヒドロキシアルキルケトン系光重合開始剤が挙げられる。α-ヒドロキシアルキルケトン系光重合開始剤としては例えば、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。更にフェニルグリオキソレート系光重合開始剤も好ましい。フェニルグリオキソレート系光重合開始剤としては例えばメチルベンゾイルフォルマート等を挙げることができる。中でも、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0029】
また、その他のラジカル重合タイプの光重合開始剤としては紫外線の中でも長波長領域に吸収波長を有するモノアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を適宜、組合わせて使用してもよい。モノアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては活性エネルギー線硬化性化合物への溶解時に着色するビスアシルフォスフィンオキサイド類は除き、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2-メチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられ、特に、これらの中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドは、385nmや395nmに発光波長を有するUV-LEDの発光波長領域に合致するUV吸収波長を有することで、好適な硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0030】
前記した光重合開始剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記光重合開始剤の総計の添加量は、コーティング剤全量に対し0.5質量%~30質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくはコーティング剤全量に対し1質量%~25質量%の範囲である。
【0031】
(有機溶剤)
また本発明の活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、希釈剤として有機溶剤を添加することもできる。
有機溶剤としては、使用する(メタ)アクリロイル基を有する化合物を溶解する溶剤であればいずれも使用できる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等が挙げられる。
ただし環境対応を目的として、大気中への有機溶剤の蒸散量の徹底的な低減、即ち揮発性有機化合物(VOC)の削減をする場合は、上記の有機溶剤を含まない方がより好ましい。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、塗工性の観点から、後述の本発明の建材用化粧シートの製造方法において塗工可能な粘度に調整しておくことが好ましい。粘度としては40~3000mPa・sに調整するのが好ましい。前記(メタ)アクリロイル基を有する化合物は総じて低分子量のものが多く有機溶剤で希釈しなくても該粘度に調整できる場合は有機溶剤で希釈する必要はない。一方、高分子量で粘度の高い重合性オリゴマーを併用する場合は、有機溶剤で希釈または加熱することで該粘度に調整することができる。
【0033】
(平均粒子径50μm以下の微粒子)
本発明で使用する平均粒子径50μm以下の微粒子は、公知のものであれば、有機系及び/又は無機系特に限定なく単独もしくは併用して使用することができる。具体的には例えばシリカ、酸化チタン、アルミナ粒子(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウムや硫酸バリウム、ガラスなどの無機粒子、あるいはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂などの有機粒子、シリコーンビーズ等を使用することができる。高い艶消し効果を期待できるものとして、無機微粒子としてシリカやアルミノケイ酸塩ビーズ等、有機微粒子としてアクリル樹脂ビーズやウレタン樹脂ビーズ等の他、シリコーンビーズ等が好ましい。前記艶消し剤としてのシリカに、更にビーズを添加することで、適度な低艶・触感等の意匠性に加えて塗工表面の耐傷性を向上させることが出来る利点もある。
【0034】
(シリカ)
本発明で使用するシリカは、平均粒径が、平均粒子径25μm以下の範囲であるシリカであるならば特に限定はなく公知のシリカを使用することができる。本発明において平均粒子径はレーザー回折法により測定した値とする。
シリカとして具体的には、非晶性シリカがより好ましい。前記非晶性シリカとしては、珪藻土、活性白土等が挙げられ、非晶性シリカの中でも合成非晶性シリカとしては乾式シリカ、湿式シリカ、シリカゲル等が使用できる。中でもケイ酸ソーダ水溶液の酸またはアルカリ金属塩による中和、分解反応によって製造された湿式シリカが好ましい。前記湿式シリカは表面処理されたものを使用することもできる。シリカ粒子を表面処理する方法は、特に制限は無く公知の方法であれば良い。ワックスやシランカップリング剤で表面処理されたものが挙げられる。湿式シリカは、前記表面処理されたものと表面処理されていないものとを複数混合して用いてもよい。
【0035】
前記艶消し剤として用いる湿式シリカの平均粒子径としては平均粒子径25μm以下、より好ましくは15μm以下である。平均粒子径が25μmより大きいと、粒子の脱落による艶変化・傷付が発生し易くなる。
【0036】
シリカの含有率は、コーティング剤全量の固形分換算にて0.5~50質量%が好ましく、1~30質量%であればより好ましい。該含有率が0.5質量%未満であると充分な艶消し効果が見られず、50質量%を超えるとシリカ塗膜表面から脱落しやすくなる傾向にあり好ましくない。
【0037】
前記艶消し剤として用いるビーズの平均粒子径は平均粒子径50μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。平均粒子径が50μmより大きいと、ビーズの脱落・埋没による艶変化・傷付が発生し易くなる。
【0038】
ビーズの含有率は、コーティング剤全量の固形分換算にて0.5~50質量%が好ましく、て0.5~30質量%であればより好ましい。質量50%を超えるとビーズが塗膜表面から脱落しやすくなる傾向にあり好ましくない。
【0039】
(添加剤)
その他本発明の活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、重合禁止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、ワックス、乾燥剤、増粘剤、垂れ止め剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を含有することが可能である。
【0040】
(活性エネルギー線硬化性コーティング剤の製造)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、光重合開始剤、微粒子、その他各種添加剤などを混合練肉・分散することにより製造することができる。
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性コーティング剤のフィラーの粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間などを適宜調節することにより、調整することができる。分散機としては、一般に使用される、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。
コーティング剤中に気泡や予期せずに粗大粒子などが含まれる場合は、塗工物品質を低下させるため、濾過などにより取り除くことが好ましい。濾過器は従来公知のものを使用することができる。
【0041】
(コーティング膜の形成方法)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性コーティング剤は、公知の塗布・印刷方式でコーティング膜を形成することができる。具体的な例としては、コーティング方法としては、たとえばロールコーター、グラビアコーター、グラビアオフセットコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等を適宜採用することができる。
【0042】
前記形成方法で形成したコーティング膜は、使用するコーティング剤が有機溶剤を含有する場合は溶剤を乾燥炉等で乾燥させた後、活性エネルギー線で硬化させて硬化させたコーティング膜を得る。
【0043】
(工程(1))
本発明の製造方法における工程1は、前述の基材上に設けた、活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング膜に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程である。
酸素濃度21%以上の雰囲気下とは、酸素を含有する不活性ガスを充満させた雰囲気下であって、その酸素濃度が21%以上である雰囲気下である。不活性ガスとしては窒素ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス等のガスを1種または複数種混合して使用してもよい。またその他空気が含有する二酸化酸素等のガスは少々含まれていても問題ない。具体的にはこれらのガス及び酸素ガスを酸素濃度21%以上となるように調整したガスを充満させた環境下で前記コーティング膜に紫外線を照射する。
【0044】
工程1における酸素濃度は、中でも40%以上が好ましく、50%以上がなお好ましい。一方工程1における酸素濃度の上限は、特に限定はないが、耐傷性等の表面部物性が低下するおそれがあることから、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがなお好ましい。より好ましくは70%以下である。
【0045】
ここで紫外線照射は公知の方法で行うことができる。例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、紫外線発光ダイオード(UV-LED)、カーボンアーク、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等を光源とする紫外線を照射する。硬化の際の紫外線光量は20mJ/cm2以上であれば硬化効率がよい。
【0046】
工程(1)における紫外線の積算光量は、20mJ/cm2~1000mJ/cm2の範囲であることが、本発明の効果を最大限に発揮でき好ましい。なかでも積算光量が40mJ/cm2~800mJ/cm2の範囲であることがなお好ましい。
【0047】
このようにして得たコーティング膜の膜厚は、0.1~100μmの範囲であることが好ましく0.5~50μmの範囲が最も好ましい。この膜厚の範囲であることで、本発明の効果を最大限に発揮できる。
【0048】
(工程(2))
前記工程(1)後、酸素濃度21%未満の雰囲気下でコーティング膜に更に電子線照射あるいは紫外線照射する(工程(2))。
電子線照射、紫外線照射共に酸素濃度21%未満の雰囲気下で構わないが、紫外線照射では酸素濃度15%以下であればより好ましい。
ここで酸素濃度15%未満の雰囲気下とは、酸素を含有する不活性ガスを充満させた雰囲気下であって、その酸素濃度が15%未満である雰囲気下である。不活性ガスとしては窒素ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス等のガスを1種または複数種混合して使用してもよい。またその他空気が含有する二酸化酸素等のガスは少々含まれていても問題ない。
【0049】
尚、紫外線照射条件および積算光量は前記工程(1)と同様で構わない。
【0050】
一方電子線を使用する場合は、電子線照射装置を使用する。照射量は10~230kGy程度が好ましく10~100kGy程度がより好ましい。
【0051】
本発明の製造方法により、所望の艶消しコーティング膜を効率よく得ることができる理由については定かではないが次のように推定している。
即ち工程(1)では、酸素濃度が高い状態で紫外線を照射するが、その際に活性エネルギー線硬化性コーティング剤の塗膜表面の硬化反応が阻害される一方で塗膜内部から反応が進行し硬化収縮が進行すると推定される。その際、艶消し剤等の微粒子が押し上げられると推定され、膜表面に効率よく微粒子が移動するため、膜の艶が低下すると推定している。
【0052】
また、本発明の製造方法は、前述の化粧シート等建築材料用途のみならず、家具、楽器、事務用品、スポーツ用品、玩具等の表面塗装用途に幅広く展開され得る。
【実施例0053】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。尚、以下実施例中にある部、質量部とは、質量%を表す。
尚、微粒子の平均粒子径は日機装株式会社製ナノ粒子粒度分布測定器Nanotrac UPA EX-150を使って測定した。
【0054】
(調整例1 活性エネルギー線硬化性組成物 )
MIWON社製3官能アクリレートモノマー「MiramerM3130」60質量部、BASF社製1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン「Omnirad184」5質量部、東ソー・シリカ株式会社製シリカ「ニップシールE170」を5質量部を混合、撹拌機で約1時間攪拌し総計70質量部である、実施例1で使用する調整例1の活性エネルギー線硬化性組成物を作製した。
【0055】
各々調整例、及び各々比較調整例の活性エネルギー線硬化性組成物も、使用する原料や使用量が異なる以外は調整例1と同様にして各々組成物を得た。原料や使用量等、組成の詳細は表に示す通りである。また表にある原料は次のものを使用した。
・MiramerM3130:MIWON社製の3官能アクリレートモノマー
・MiramerM202:MIWON社製の2官能アクリレートモノマー
・ニップシールE170:東ソー・シリカ株式会社製のシリカ
・サイリシア450:富士シリシア化学社製のシリカ
・Omnirad184:BASF社製の光重合開始剤
・GR-800:根上工業社製のアクリルビーズ
・C-800:根上工業社製のウレタンビーズ
・X-52-1621:信越化学工業社製シリコーンパウダー
【0056】
(コーティング膜の製造方法)
(塗工方法)
易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム、東洋紡績株式会社製 A4300 厚さ100μm)に、前記調整例で得た活性エネルギー硬化性組成物を、バーコーター塗工法により塗工し30μmの塗工層を形成した。
【0057】
(工程1)
前記得た塗工層に、酸素濃度21%以上の雰囲気下で紫外線照射する工程(1)において、紫外線照射装置は、株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーションの紫外線照射装置を使用した。また積算光量測定装置(照度計)は、株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーション製の紫外線積算光量計「工業用UVチェッカー UVR-N1」を使用した。
照射時の酸素濃度および積算光量は、実施例毎に表に記載した。
【0058】
(工程2)
前記工程1後の塗工層に、酸素濃度21%未満の雰囲気下で電子線照射あるいは紫外線照射する工程(2)において、紫外線照射装置は、株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーションの紫外線照射装置を使用した。また電子線照射装置は、岩崎電気株式会社製の「エレクトロカーテンEC250/15/180L」を使用した。工程2における紫外線照射は56mJ/cm2、電子線照射は30kGyに統一した。なお、照射時の酸素濃度実施例毎に表に記載した。
以上のようにして、コーティング膜を得た。
【0059】
(評価項目1:光沢)
得られたコーティング膜の光沢を下記の装置・条件にて測定した。光沢低下率が高いほど、艶消し効果が高いといえる。
使用装置:コニカミノルタ社製「MULTI GLOSS 268A」
測定条件:入射角60°反射角60°
光沢低下率=(基準条件(比較例)となる光沢値-実施例の光沢値)÷基準条件(比較例)となる光沢値
光沢低下率の評価基準は次の通りである。
◎:40%以上
○:20%以上40%未満
△:10%以上 20%未満
×:10%未満
【0060】
(評価項目2:耐傷性)
得られたコーティング膜の表面に、スチールウール(日本スチールウール株式会社製 「BON STAR No.0000」)を1.5Kgの荷重をかけて往復させた。コーティング膜への傷の入り方を3段階の基準を設け評価した。
耐傷性の評価基準は次の通りである。
A: 変化なし、もしくは艶に若干変化が現れるが、すじ状の傷は存在しない。
B: すじ状の傷が摩擦面の半分以下の面積に入る。
C: すじ状の傷が摩擦面ほぼ全面に入り、塗膜が白化し使用できないレベルである。
【0061】
(評価項目3:触感)
得られたコーティング膜について、無作為の3人にコーティング膜の手触りの官能評価を依頼した。ビーズの入っていない比較例1、対象と同一配合であるが硬化条件の異なる比較例13と実施例20を比較した。
触感の評価基準は次の通りである。
○:触感に大きく変化がある
△:触感にわずかに変化がある
×:全く変化なし
【0062】
結果を表に示す。なお表中空欄は未配合を表す。
【0063】
【0064】
表1は、3官能モノマーを使用し、工程1の酸素濃度を変化させた例である。
この結果、比較例1に対し、実施例1~5のコーティング膜は低い光沢値が得られ、特に酸素濃度が60%でその効果は顕著であった。一方、酸素濃度が80%を超えると、耐傷性の低下がみられた。
【0065】
【0066】
表2は、2官能モノマーを使用し、工程1の酸素濃度を変化させた例である。この結果、比較例2に対し、実施例7のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
【0067】
【0068】
表3は、工程2の酸素濃度を変化させた例である。比較例3に対し、実施例8~10のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
【0069】
【0070】
表4は、コーティング組成物中のシリカ粒径を変更した例である。比較例4,5に対し、実施例11,12のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
【0071】
【0072】
表5は、コーティング組成物中のシリカ剤量を変更した例である。比較例6,7,8に対し、実施例13,14,15のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
【0073】
【0074】
表6は、コーティング組成物中の光重合開始剤量を変更した例である。比較例9,10,11に対し、実施例16,17,18のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
【0075】
【0076】
表7、はコーティング組成物に有機微粒子を配合した例である。比較例12,13,14に対し、実施例19,20,21のコーティング膜は低い光沢値が得られた。
更にウレタンビースを使用した場合は触感の変化も感じられた。
【0077】
【0078】
表8は、工程1の積算光量を変更した例である。積算光量は150以上で、非常に高い光沢の低下が得られた。
【0079】
本発明の製造方法により、従来よりに増して容易に低光沢化したコーティング膜を得ることができる。