(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143798
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20220926BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61K8/64
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044511
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坪田 往子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 優夏
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA082
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB172
4C083AB212
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB372
4C083AB432
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC172
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC342
4C083AC422
4C083AC432
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD162
4C083AD172
4C083AD222
4C083AD451
4C083AD452
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC12
4C083DD17
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE01
4C083EE13
(57)【要約】
【課題】本発明は、大気汚染物質の付着を抑制し、大気汚染物質から皮膚を保護することができるアンチポリューション用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】加水分解セリシンを有効成分として含有するアンチポリューション用皮膚外用剤。さらに植物由来ポリフェノールを含んでなることが好ましい。さらに発酵エキスを含んでなることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解セリシンを有効成分として含有するアンチポリューション用皮膚外用剤。
【請求項2】
さらに植物由来ポリフェノールを含んでなる、請求項1に記載のアンチポリューション用皮膚外用剤。
【請求項3】
さらに発酵エキスを含んでなる、請求項1または2に記載のアンチポリューション用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤に関する。より詳細には、アンチポリューション用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、紫外線や大気汚染物質といった外的刺激に常に晒されている。紫外線については、古くから皮膚に影響を与える要因として研究がなされており、紫外線によるダメージを緩和する素材も多く知られている。
【0003】
大気汚染物質は、皮膚に付着・浸透することにより細胞を損傷させると言われている。大気汚染物質は様々な化学物質の混合物であるためか、細胞損傷のメカニズムは酸化、炎症、細胞の代謝や遺伝子発現の異常など極めて多様である。大気汚染物質が皮膚に与える影響については、近年、研究が深められている。大気汚染物質が皮膚に付着しダメージを受けた皮膚は、バリア機能が乱れ、水分が蒸散し、水分量が低下することが知られている。大気汚染物質から皮膚を保護する方法として、ダメージの原因となり得る物質を皮膚に付着させないこと、および/または付着した物質による影響を緩和(酸化防止又は中和)することが提案されている。大気汚染物質から皮膚を保護する成分も見出されており、その成分を配合した皮膚外用剤も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有するアンチポリューション用皮膚外用組成物が開示されている。
【0005】
絹タンパク質であるセリシンは、親水性アミノ酸を多く含み、その優れた生体親和性から、食品、化粧品、医薬品などへの応用が検討され、一部は実用化されている。
【0006】
本出願人は、これまで、加水分解シルク蛋白質(加水分解セリシン)の皮膚への作用としてフィラグリン産生促進作用(特許文献2)、抗酸化作用(特許文献3)、皮膚炎症防止作用(特許文献4)、チロシナーゼ活性阻害作用(特許文献5)、界面活性能(特許文献6)、コラーゲン産生促進作用(特許文献7)、紫外線照射後の細胞保護作用、紅斑抑制作用、色素沈着抑制作用、しわ形成抑制作用および皮膚障害に対する治療作用(特許文献8)などを見出し、特許出願している。また、加水分解シルク蛋白質(加水分解セリシン)を細胞賦活剤として皮膚外用剤に含有させる試みも報告されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-186276号公報
【特許文献2】特開2014-159389号公報
【特許文献3】特開平10-150154号公報
【特許文献4】特開平10-245345号公報
【特許文献5】特開平10-265403号公報
【特許文献6】特開平11-276876号公報
【特許文献7】特開平10-226653号公報
【特許文献8】特開2003-252744号公報
【特許文献9】特開2003-335619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のアンチポリューション用皮膚外用剤は、大気汚染物質の付着を防ぐことにより大気汚染物質による皮膚の損傷を緩和する効果はあるが、その効果は十分とは言えない。また、加水分解シルク蛋白質(加水分解セリシン)を含有する皮膚外用剤は、色素沈着や乾燥、肌荒れなどの症状に対し一応の効果を発揮するものの、より優れた皮膚外用剤が求められているのが現状である。
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、大気汚染物質の付着を抑制し、大気汚染物質から皮膚を保護することができるアンチポリューション用皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係るアンチポリューション用皮膚外用剤は、有効成分として加水分解セリシンを含んでなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、大気汚染物質の付着を抑制し、大気汚染物質から皮膚を保護することができるアンチポリューション用皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るアンチポリューション用皮膚外用剤(以下、単に「皮膚外用剤」ということもある)は、加水分解セリシンを有効成分として含んでなる。
【0014】
本発明において、アンチポリューションとは、大気汚染物質による皮膚の損傷を緩和する効果を指す。より詳細には、例えば、大気汚染物質が皮膚に付着することを抑制することのみにとどまらず、大気汚染物質が皮膚に付着、浸透することにより生じる細胞の代謝異常や炎症、酸化などを総合的に抑制することで皮膚の損傷を緩和することも含む。
【0015】
本発明において、大気汚染物質とは、皮膚に悪影響を及ぼすものを指す。例えば、自動車、火力発電所、焼却炉、暖炉、タバコなどの排煙、火山噴火による噴出物、土壌粒子などが由来の粒子状物質、花粉、粉塵、燃焼などが由来の一酸化炭素、硫黄酸化物(二酸化硫黄など)、窒素酸化物(二酸化窒素など)などの排出ガス、炭化水素と窒素酸化物などが光化学反応を起こして生じるオゾン(O3)や多環芳香族炭化水素(PAHs)などの光化学オキシダント、燃焼や石油製品からの揮発などが由来の揮発性有機化合物(VOC)(ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、PAH、ダイオキシン類など)などの排出ガス・微粒子、鉱物や工業製品などが由来の石綿などの微粒子などの化学物質や生体異物などが挙げられるが、これに限定されない。
【0016】
本発明に用いられる加水分解セリシンは、蚕繭や生糸等から加水分解物として容易に入手可能である。すなわち、本発明において用いられる加水分解セリシンは、蚕繭、生糸等の原料を、例えば、高温高圧水による加水分解法、塩酸、硫酸もしくはリン酸等を使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム等を使用したアルカリ加水分解法、または、微生物や植物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法により、原料中のセリシンを部分加水分解して溶出し、得ることができる。これを公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することによって、高純度のセリシン加水分解物の水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥等の処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。
【0017】
加水分解セリシンは、アミノ酸組成としてセリンを20~40モル%含有することが好ましい。セリン含有量が20モル%以上であることにより、セリシンの有する様々な作用効果、特に保水性が十分に得られる。また、加水分解セリシンは、親水性アミノ酸を55~75モル%含有することが好ましい。親水性アミノ酸の含有量が55~75モル%であることにより、空気中の水分を吸湿し、肌表面に導電性の帯電防止膜を形成することにより、大気汚染物質が皮膚に付着することを抑制する。なお、アミノ酸組成は、高速液体クロマトグラフアミノ酸分析システムLC-10(株式会社島津製作所製)を用いたポストカラム誘導体化-蛍光検出法により測定し、求めることができる。
【0018】
加水分解セリシンの重量平均分子量は、通常、1,000~200,000の範囲に分布しており、本発明においては、そのいずれのものも使用可能である。本発明の好ましい態様によれば、加水分解セリシンの重量平均分子量は、3,000~50,000であることが好ましく、10,000~30,000であることがより好ましい。重量平均分子量が3,000以上であることにより、抗酸化等の生理活性を発揮し、大気汚染物質から皮膚を保護する上で有利であると考えられる。また、重量平均分子量が10,000以上であることにより、皮膚上に高分子膜が形成されやすくなり、大気汚染物質が皮膚に付着することを抑制する上で有利であると考えられる。また、重量平均分子量が50,000以下であることにより、それ自身の水溶性低下に起因する取り扱い性の低下や、経時的な加水分解セリシンの析出を防ぎ、皮膚外用剤の安定性を保つ上で有利であると考えられる。なお、重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフCLASS-LC10(株式会社島津製作所製)を用いたGPC分析により測定し、求めることができる。
【0019】
本発明に用いられる加水分解セリシンは、天然保湿因子のアミノ酸組成と類似のアミノ酸組成を有し、かつ、ヒドロキシル基を有するアミノ酸およびカルボキシル基を有するアミノ酸の割合が高いため、親水性が高く、皮膚との密着性を高めると共に、角質層の肌環境(水分量)を改善する高い効果が期待できる。
【0020】
また、本発明に用いられる加水分解セリシンは、高い保水性と両親媒様作用を持つことから、皮膚表面に導電性の帯電防止膜を形成し帯電防止効果を発揮すると考えられる。また、本発明の加水分解セリシンは高分子膜(皮膜)を形成するため、大気汚染物質の皮膚への付着を物理的に阻害すると考えられる。大気汚染物質の付着抑制効果が得られると、皮膚の損傷を緩和する上で有利であると考えられる。また、加水分解セリシン自身が抗炎症効果及びバリア機能改善効果を有することから、大気汚染物質に起因する炎症や肌荒れを抑制・改善することが期待できる。なお、これら作用メカニズムに関する説明は、一つの理論的考察であって、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明の皮膚外用剤において、加水分解セリシンの含有量(固形分)は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。
【0022】
例えば、皮膚外用剤全体に対し、0.001~10質量%であることが好ましく、0.01~2質量%であることがより好ましい。含有量が0.001質量%以上であることにより、皮膚表面で十分に加水分解セリシンの高分子膜が形成され、加水分解セリシンの帯電防止効果により大気汚染物質が皮膚に付着することを抑制したり、大気汚染物質から皮膚を保護したりする上で有利であると考えられる。また、保湿効果が充分に発揮されるため、皮膚のバリア機能改善効果に優れる。含有量が10質量%以下であることにより、皮膚外用剤の経時安定性および皮膚外用剤調合時の取り扱い性に優れる。
【0023】
本発明の実施形態に係る皮膚外用剤は、さらに植物由来ポリフェノールを含んでなることが好ましい。
【0024】
前記植物由来ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を有する化合物であり、フラボノール、イソフラボン、タンニン、カテキン、ケルセチン、アントシアニンなど、植物が光合成を行うときにできる物質の総称を表わす。糖分の一部が変化したもので、植物の葉や花、樹皮などに成分として含有されている。植物の色素や苦味の成分であり、植物細胞の生成、活性化などを助ける働きを有することが知られており、人の身体の中に入っても、抗酸化物として有効に働くことが明らかになっている。
本発明においては、植物抽出物から精製または合成したポリフェノールを使用することも可能であるが、ポリフェノールを含有する植物エキスが好ましい。ポリフェノールを含有する植物エキスとしては、クリサンテルムインジクムエキス、ビルベリー葉エキス、カカオエキス、ブドウ種子エキス、クダモノトケイソウ果皮エキス、チャ葉エキス、コーヒー種子エキス、ダイズ種子エキス、カリンエキス、バナナ果実エキス、クロフサスグリ果実エキス、ゴボウ根エキス、ラッカセイ種皮エキス、リンゴ果実エキス、セイヨウミザクラ果実エキス、カキ果実エキス等が挙げられる。なかでも、大気汚染物質の付着抑制の観点から、クリサンテルムインジクムエキス、ビルベリー葉エキス、カカオエキスが好ましく、大気汚染物質に起因する炎症や肌荒れを抑制・改善の観点から、より好ましくは数種のポリフェノールを含んでいるクリサンテルムインジクムエキスが好ましい。
【0025】
上記ポリフェノールを含有する植物エキスは、公知の方法により得ることができ、また市販品を使用することができる。
【0026】
植物由来ポリフェノールの含有量(固形分)は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。例えば、皮膚外用剤全体に対し、0.001~2質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。含有量が0.001質量%以上であることにより、抗酸化や抗炎症効果を得ることができる。含有量が2質量%以下であることにより、皮膚外用剤の経時安定性に優れる。
【0027】
本発明の実施形態に係る皮膚外用剤は、さらに発酵エキスを含んでなることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられる発酵エキスは、細菌や真菌等による発酵物からの抽出物である。発酵エキスとしては、アスペルギルス/コメ発酵エキス、アスペルギルス/クリ渋皮発酵エキス、ガノデルマアンボイネンセ/リンゴ発酵エキス液、サッカロミセス/オオムギ種子発酵エキス、アルテロモナス発酵エキス、ダイズ発酵エキス、バチルス/ダイズ発酵エキス、ビフィズス菌培養溶解質、酵母発酵エキス等が挙げられる。なかでも、大気汚染物質の付着抑制の観点から、サッカロミセス/オオムギ種子発酵エキス、アルテロモナス発酵エキス、ビフィズス菌培養溶解質が好ましく、大気汚染物質に起因する炎症や肌荒れを抑制・改善の観点から、アルテロモナス発酵エキスが好ましい。
【0029】
上記発酵エキスは、公知の方法により得ることができ、また市販品を用いることができる。
【0030】
発酵エキスの含有量(固形分)は特に限定されず、皮膚外用剤の剤型や他の成分の構成割合等によって適宜調整することができる。例えば、皮膚外用剤全体に対し、0.001~2質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。含有量が0.001質量%以上であることにより、肌荒れの改善効果を得ることができる。含有量が2質量%以下であることにより、皮膚外用剤の経時安定性に優れる。
【0031】
加水分解セリシンと植物由来ポリフェノール(固形分質量比)は、1:0.0001~1:0.1であることが好ましい。配合比がこの範囲であることにより、植物由来ポリフェノールの大気汚染物質の皮膚への付着抑制効果を向上させることができる。また、植物由来ポリフェノールの大気汚染物質による炎症や肌荒れの抑制効果を向上させることができる。
【0032】
加水分解セリシンと発酵エキスの配合比(固形分質量比)は、1:0.0001~1:0.1あることが好ましい。配合比がこの範囲であることにより、発酵エキスの大気汚染物質の皮膚への付着抑制効果を向上させることができる。
【0033】
本発明による皮膚外用剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、油剤、保湿剤、紫外線吸収剤、乳化剤、増粘剤、界面活性剤、キレート剤、油性成分、多価アルコール、アルコール類、色材、粉末成分、ビタミン類、抗酸化剤、抗炎症剤、pH調整剤、抗菌剤、防腐剤、動物・植物・魚貝類・微生物由来の抽出物、香料等を適宜配合することができる。
【0034】
本発明の皮膚外用剤に、上述のような種々の成分を添加することにより、それらの成分に応じて、保湿作用、細胞賦活作用、抗老化作用及び肌荒れ改善作用などの効果を付与することが期待できる。
【0035】
本発明の皮膚外用剤としては、化粧料、医薬部外品、医薬品などが好適に例示でき、日常的に使用できることから、化粧料、医薬部外品がより好ましく、スキンケア化粧料やメークアップ化粧料がさらに好ましい。また、その剤型としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、皮膚、頭皮、毛髪等に塗布または噴霧または貼付できる剤型であればよい。例えば、ローション、美容液、乳液、クリーム、ジェル、パック、スプレー、ロールオン、スティック、ソープ、シート、ムース、軟膏、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、洗顔料、ボディシャンプー等、適宜選択することができる。
【0036】
本発明の皮膚外用剤の使用方法としては、大気汚染物質の付着を抑制したい対象物にあらかじめ塗布または噴霧または貼付しておくことにより、対象物への大気汚染物質の付着を抑制することができる。対象物としては、皮膚、頭皮等が挙げられる。
【0037】
本発明の皮膚外用剤は、日常的に使用することが可能であり、有効成分である加水分解セリシンの働きによって、大気汚染物質の皮膚への付着を抑制するものである。そのため、本発明の皮膚外用剤は、大気汚染物質に起因する皮膚損傷の発生の抑制ができるとともに、加水分解セリシン自身の抗炎症効果により、大気汚染物質に起因する炎症を抑制することが期待できる。さらには、大気汚染物質の付着防止効果、抗炎症効果に加え、加水分解セリシンにはバリア機能改善効果が認められることから、それぞれ異なるメカニズムで皮膚への有用な効果を示すことが期待でき、皮膚外用剤として用いることにより、例えば、大気汚染物質によって引き起こされる炎症に起因する乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎、乾癬など、様々な皮膚症状の予防・改善を効果的に行えるようになることが期待される。また、本発明の皮膚外用剤は、加水分解セリシンを有効成分とするものであり、安全性に優れる点でも有利である。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、配合量は特に指定しない限り、質量%で記載した。
【0039】
<実施例において使用した材料>
本実施例においては、下記の方法で調製された加水分解セリシンを用いた。
[加水分解セリシンの調製]
生糸からなる絹織物を、0.15質量%炭酸ナトリウム水溶液(pH11~12)で95℃にて2時間処理し、加水分解セリシンを抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を透析膜により脱塩し、濃度0.9質量%のセリシン加水分解物抽出液を得た。この抽出液を、凍結乾燥して、加水分解セリシンの粉末を得た。この加水分解セリシンの分子量分布は3,000~200,000、重量平均分子量は25,000で、アミノ酸組成としてセリンを32モル%、親水性アミノ酸を71モル%含有していた。
【0040】
[その他]
・サッカロミセス/オオムギ種子発酵エキス(発酵エキス、商品名「オルジュライド」、片倉コープアグリ株式会社製)
・アルテロモナス発酵エキス(発酵エキス、商品名「Abyssine PF」、Lucas Meyer Cosmetics社製)
・ビフィズス菌培養溶解質(発酵エキス、商品名「カルチャーB.B(PF)」、株式会社寿ケミカル製)
・クリサンテルムインジクムエキス(植物由来ポリフェノール、商品名「LANACHRYS2B-PF」、Lucas Meyer Cosmetics株式会社製)
・ビルベリー葉エキス(植物由来ポリフェノール、商品名「POLYNEKTARS-Myrti‘lla」、Berkem社製)
・カカオエキス(植物由来ポリフェノール、商品名「カカオエキス-PC」、オリザ油化株式会社製)
・BG(1,3-ブチレングリコール、商品名「ハイシュガーケインBG」、高級アルコール工業株式会社製)
【0041】
[実施例1~16、比較例1~11]
精製水に、加水分解セリシンを溶解させた後、1,3-ブチレングリコール、各種エキスを添加、混合し、均一に溶解させて、実施例1~16、比較例1~11の皮膚外用剤を得た。
【0042】
[疑似花粉の付着防止効果]
2cm×2cmの人工皮革を準備した。表1~3記載の実施例1~16、比較例1~11の皮膚外用剤15mLを入れたスクリュー管瓶(30mL)に人工皮革を60秒間浸漬させ、シャーレに取り出した後、室温約25℃、湿度約40%の環境下で一晩放置して乾燥させたものを試験片とした。擬似花粉(商品名「石松子」、一般社団法人日本粉体工業技術協会)を0.5g入れたアイボーイ(100mL)に、試験片を投入し、手動で30秒振って攪拌させた後、取り出した。試験片を高さ20cmから5回落下させて余分な擬似花粉を除去した後、試験片の表面を刷毛(TRUSCO ダスター刷毛356 1インチ(TPB-356-1))でなでるように3回刷いた後、試験片の表面をマイクロスコープ(例えば、USBマイクロスコープM3(スカラ株式会社製))にて倍率30倍で観察した。得られたマイクロスコープ画像を、画像解析ソフト(Image J、アメリカ国立衛生研究所(NIH))にて数値化することにより、花粉付着面積を求めた。試験はN=3で行い、その平均値を花粉付着面積として、下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:花粉付着率 20%以下
○:花粉付着率 21~35%
△:花粉付着率 36~50%
×:花粉付着率 51%以上
【0043】
[経時安定性]
表1~3記載の実施例1~16、比較例1~11の皮膚外用剤20mLをスクリュー管瓶(30mL)に充填し、40℃にて3ヶ月保存し、保存後の外観を目視観察した。なお、遮光下かつ25℃にて3ヶ月保存したものを標準品として用い、下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:標準品と比較し、着色・析出等の変化を認めない
△:標準品と比較し、僅かに着色を認める
×:標準品と比較し、着色・析出等の変化を認める
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
表1から明らかなように、加水分解セリシンを配合した皮膚外用剤は、疑似花粉の付着を抑制することが示された(実施例1~7、比較例1,2)。また、加水分解セリシンの含有量が多くなるにつれ、優れた付着抑制効果が認められた(実施例1~7)。
また、表1~3から明らかなように、加水分解セリシンに加えて、発酵エキスおよび/または植物由来ポリフェノールを配合することで、疑似花粉の付着防止効果が向上した(実施例3,6,8~16)。
【0048】
[ヒト皮膚の大気汚染物質からの保護効果(水分量、水分蒸散量)]
加水分解セリシンによる大気汚染物質からの保護効果を調べるために、皮膚(顔面)への連用試験を行った。顔面左側(セリシン区)には加水分解セリシン0.5%水溶液を、顔面右側(対照区)にはRO水(逆浸透膜を通した水)を、1日2回、朝と夜に適量塗布し、連用4週間後に、角質水分量および水分蒸散量を測定した。なお、塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に石鹸にて測定部位を洗浄した。各被験部につき任意の5カ所を測定し、平均値を算出した。
・測定機器:
角質水分量 SKICON-200(アイ・ビイ・エス株式会社製)
水分蒸散量 Tewameter TM300(Courage + Khazaka Electronic社製)
・測定環境:室温23℃、湿度55%の恒温恒湿室内
【0049】
結果を
図1および
図2に示す。対照区と比較して、セリシン区では、角層水分量は増加しており、水分蒸散量は減少していた。大気汚染物質が皮膚に付着しダメージを受けた皮膚は、バリア機能が乱れ、水分が蒸散し、水分量が低下することが知られている。つまり、得られたデータは、加水分解セリシンが大気汚染物質の付着抑制し、大気汚染物質によるダメージを抑制したことを示している。
【0050】
その他の実施例を下記に記す。なお、加水分解セリシン、植物由来ポリフェノール、発酵エキスの配合量は固形分配合量として記載している。
【0051】
[実施例17] クリームファンデーション
配合成分 配合量(質量%)
(1)シクロペンタシロキサン 22
(2)トリエチルヘキサノイン 9
(3)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 5
(4)PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 3
(5)ジメチコン 2
(6)シア脂油 1
(7)グリセリン 3
(8)ペンチレングリコール 1
(9)水 残量
(10)酸化チタン 13
(11)タルク 2
(12)酸化鉄 1
(13)加水分解セリシン 0.05
(14)アルテロモナス発酵エキス 0.001
(15)クリサンテルムインジクムエキス 0.001
製造方法:(1)~(6)を加熱混合し、加熱混合した(7)~(9)を混ぜ合わせ、(10)~(12)を加えた後、(13)~(15)を順次混合攪拌した。
【0052】
[実施例18] パウダーファンデーション
配合成分 配合量(質量%)
(1)合成金雲母 20
(2)酸化チタン 15
(3)酸化亜鉛 5
(4)マイカ 2
(5)シリカ 1
(6)酸化鉄 1
(7)(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー 0.5
(8)タルク 残量
(9)ジメチコン 2
(10)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 1
(11)ソルビトール 1
(12)フェノキシエタノール 適量
(13)加水分解セリシン 0.01
(14)アルテロモナス発酵エキス 0.001
(15)クリサンテルムインジクムエキス 0.001
製造方法:(1)~(8)をヘンシェルミキサーにて均一に混合攪拌し、アドマイザーにて粉砕した。加熱混合した(9)~(12)をヘンシェルミキサーにて混ぜ合わせ、冷却後(13)~(15)をヘンシェルミキサーにて混ぜ合わせ、アドマイザー粉砕した。
【0053】
[実施例19] フェイスパウダー
配合成分 配合量(質量%)
(1)(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー 15
(2)(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー 5
(3)シリカ 3
(4)水酸化Al 2
(5)合成金雲母 1
(6)マイカ 1
(7)ハイドロゲンジメチコン 1
(8)含水シリカ 0.5
(9)ステアリン酸 0.5
(10)酸化鉄 0.5
(11)酸化チタン 20
(12)酸化亜鉛 10
(13)ケイ酸Al 残量
(14)加水分解セリシン 0.01
(15)アルテロモナス発酵エキス 0.001
(16)クリサンテルムインジクムエキス 0.001
製造方法:(1)~(13)をヘンシェルミキサーにて均一に混合攪拌し、(14)~(16)を混ぜ合わせ、アドマイザーにて粉砕した。
【0054】
[実施例20] 化粧下地
配合成分 配合量(質量%)
(1)シクロペンタシロキサン 23
(2)ジメチコン 6
(3)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 5
(4)PEG-10ジメチコン 3
(5)スクワラン 1
(6)BG 5
(7)グリセリン 2
(8)フェノキシエタノール 適量
(9)水 残量
(10)酸化チタン 10
(11)酸化亜鉛 6
(12)メタクリル酸メチルクロスポリマー 5
(13)酸化Al 1
(14)酸化鉄 0.1
(15)加水分解セリシン 0.1
(16)アルテロモナス発酵エキス 0.001
(17)クリサンテルムインジクムエキス 0.001
製造方法:(1)~(5)を加熱混合し、加熱混合した(6)~(9)を混ぜ合わせ、(10)~(14)を加えた後、(15)~(17)を順次混合攪拌した。
【0055】
[実施例21] 保護クリーム
配合成分 配合量(質量%)
(1)スクワラン 5
(2)ステアリン酸水添ヒマシ油 2
(3)ステアリン酸 1
(4)ベヘニルアルコール 1
(5)パルミチン酸 0.5
(6)ホホバエステル 1
(7)ミリスチン酸オクチルドデシル 3
(8)ステアリン酸グリセリル 3
(9)ステアリン酸スクロース 0.5
(10)1,3-ブチレングリコール 10
(11)グリセリン 5
(12)フェノキシエタノール 適量
(13)水 残量
(14)加水分解セリシン 0.1
(15)アルテロモナス発酵エキス 0.005
(16)クリサンテルムインジクムエキス 0.005
製造方法:(1)~(9)を加熱混合し、加熱混合した(10)~(13)を混ぜ合わせ、(14)~(16)を順次混合攪拌した。
【0056】
[実施例22] 化粧水
配合成分 配合量(質量%)
(1)1,3-ブチレングリコール 15
(2)キサンタンガム 0.05
(3)クエン酸 0.01
(4)クエン酸ナトリウム 0.01
(5)フェノキシエタノール 適量
(6)加水分解セリシン 0.5
(7)アルテロモナス発酵エキス 0.01
(8)クリサンテルムインジクムエキス 0.01
(9)水 残量
製造方法:(9)に(1)~(8)を順次添加し、混合、均一化した。
【0057】
[実施例23] 乳液
配合成分 配合量(質量%)
(1)イソステアリン酸ヘキシルデシル 2.5
(2)ステアリン酸 0.5
(3)パルミチン酸 0.2
(4)ミツロウ 0.5
(5)ステアリン酸グリセリル 0.5
(6)ステアロイルグルタミン酸Na 0.2
(7)1,3-ブチレングリコール 10
(8)グリセリン 3
(9)フェノキシエタノール 適量
(10)水 残量
(11)加水分解セリシン 0.5
(12)アルテロモナス発酵エキス 0.01
(13)クリサンテルムインジクムエキス 0.01
製造方法:(1)~(6)を加熱混合し、加熱混合した(7)~(10)を混ぜ合わせ、(11)~(13)を順次混合攪拌した。