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  • 特開-強度試験方法 図1
  • 特開-強度試験方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143856
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】強度試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/30 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
G01N3/30 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044600
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細田 洋平
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA14
2G061AB04
2G061BA03
2G061BA04
2G061CA07
2G061CB01
2G061EA10
2G061EB07
2G061EC02
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】強度試験結果のバラつきを低減し得る強度試験方法を提供する。
【解決手段】本発明の強度試験方法は、試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の速度を評価することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の速度を評価することを特徴とする強度試験方法。
【請求項2】
試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の運動エネルギーを評価することを特徴とする強度試験方法。
【請求項3】
ヘルツ破壊の起点になるリングクラックの直径が3mm以下になるように、金属球を衝突させることを特徴とする請求項1又は2に記載の強度試験方法。
【請求項4】
5m/s以上の速度で金属球を衝突させることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の強度試験方法。
【請求項5】
直径15mm以下の金属球を用いることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の強度試験方法。
【請求項6】
ヤング率150GPa以上の金属球を用いることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の強度試験方法。
【請求項7】
試験体が、ガラス材料又はセラミック材料であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の強度試験方法。
【請求項8】
肉厚1mm以上の試験体を用いることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の強度試験方法。
【請求項9】
試験体に金属の曲率面を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属の速度を評価することを特徴とする強度試験方法。
【請求項10】
試験体に金属の曲率面を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属の運動エネルギーを評価することを特徴とする強度試験方法。
【請求項11】
ヘルツ破壊の起点になるリングクラックの直径が3mm以下になるように、金属の曲率面を衝突させることを特徴とする請求項9又は10に記載の強度試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強度試験方法に関し、特にガラス材料又はセラミック材料の強度試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料、セラミック材料等の材料は、表面の傷に引張応力が生じることによって破壊が起こる。材料の種類、材質によって傷の大きさは異なり、その分布も異なっている。
【0003】
強度試験方法として、3点曲げ試験、4点曲げ試験、リングオンリング試験等の強度試験方法が一般的に用いられている、これらの強度試験方法は、何れも材料全体が変形して全体に引張応力が生じて破壊が起こる試験である(破壊モード名:曲げ破壊)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの強度試験方法では、材料の引張応力面の一部に大きい傷が存在すると、容易に破壊が起こってしまう。強度が高い材料であっても、傷の存在によって低い強度で破壊が起こってしまうため、強度試験結果のバラつきが大きくなるという問題があった。
【0005】
強度試験結果のバラつきを低減するために、試験体を慎重に取り扱うことが考えられるが、加工工程や強度試験の作業等で、表面に傷が不可避的に入ってしまうため、根本的に対策とは言えない。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、強度試験結果のバラつきを低減し得る強度試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意努力の結果、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法を採択することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の強度試験方法は、試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の速度を評価することを特徴とする。また、本発明の強度試験方法は、試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の運動エネルギーを評価することを特徴とする。
【0008】
金属球を衝突させると、破壊モードとして曲げ破壊が生じず、ヘルツ破壊が生じることがある。ヘルツ破壊は、金属球と試験体の接触面に発生するヘルツ応力によって、極微小な接触面周辺にリング状の引張応力が生じ、その引張応力部に存在する傷からリングクラックが形成された後、クラックが進展することによりコーン形状のクラック片(以下、ヘルツコーン)が生じるという破壊モードである。また、ヘルツ破壊は、材料全体の傷がクラックの起点になる曲げ破壊に比べて、ヘルツ応力周囲の傷がリングクラックの起点になるため、極微小領域がクラックの起点になる。その結果、強度試験結果が、表面の傷の影響を受け難くなり、バラつきが小さくなる。
【0009】
図1は、従来の強度試験方法であるリングオンリング試験における強度試験結果を示すデータである。図1のX軸はサンプルの種類を表しており、Y軸は破損(曲げ破壊)が発生した時のリング荷重である。詳述すると、図1は、異なるガラス板に対して、上リング直径12.5mm、下リング直径25mmのリングを用いて、1mm/分の速度でリングオンリング試験を行い、曲げ破壊を発生させた時の強度試験結果をプロットしたものである。なお、試験体のサイズは、□50mm×8mm厚である。図1から、曲げ破壊を発生させる従来の強度試験方法では、強度試験結果のバラつきが大きいことが分かる。
【0010】
図2は、本発明の強度試験方法の一例における強度試験結果を示すデータである。図2のX軸は、サンプルの種類を表しており、Y軸はヘルツ破壊が発生した時の金属球の衝突速度である。詳述すると、図2は、各種ヤング率を有するガラス板に対して、各種速度で直径2.5mmの金属球(質量115g)を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させた時の強度試験結果をプロットしたものである。なお、試験体のサイズは、□50mm×8mm厚である。図2から、ヘルツ破壊を発生させる本発明の強度試験方法では、強度試験結果のバラつきが小さいことが分かる。参考までに、図1、2において同一表記のガラス板の組成はそれぞれ同一である。
【0011】
また、本発明の強度試験方法では、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックの直径が3mm以下になるように、金属球を衝突させることが好ましい。このようにすれば、ヘルツ破壊が生じ易くなり、強度試験を行い易くなる。
【0012】
また、本発明の強度試験方法では、2m/s以上の速度で金属球を衝突させることが好ましい。このようにすれば、ヘルツ応力が大きくなり、ヘルツ破壊が生じ易くなる。
【0013】
また、本発明の強度試験方法では、直径15mm以下の金属球を用いることが好ましい。このようにすれば、ヘルツ応力が大きくなり、ヘルツ破壊が生じ易くなる。
【0014】
また、本発明の強度試験方法では、ヤング率150GPa以上の金属球を用いることが好ましい。このようにすれば、ヘルツ応力が大きくなり、ヘルツ破壊が生じ易くなる。
【0015】
また、本発明の強度試験方法では、試験体が、ガラス材料又はセラミック材料であることが好ましい。これらの材料は、表面に傷が付き易いため、本発明の強度試験方法が有効になる。
【0016】
また、本発明の強度試験方法では、肉厚1mm以上の試験体を用いることが好ましい。このようにすれば、厚み方向に変形し難くなるため、ヘルツ破壊が生じ易くなる。
【0017】
本発明の強度試験方法は、試験体に金属の曲率面を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属の速度又は運動エネルギーを評価することを特徴とする。なお、金属の曲率面には、金属球の球面以外にも、試験体に接触する面が曲率面である棒状の金属も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の強度試験方法によれば、ヘルツ破壊を利用しているため、引張応力面全体がクラックの起点になる曲げ破壊に比べて、クラックの起点が小さく、且つ表面の傷によるバラつきの影響が小さいため、強度試験結果のバラつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の強度試験方法であるリングオンリング試験における強度試験結果を示すデータである。
図2】本発明の強度試験方法の一例における強度試験結果を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の強度試験方法は、試験体に金属球を衝突させて、ヘルツ破壊を発生させる強度試験方法であって、ヘルツ破壊の起点になるリングクラックが形成される時の金属球の速度又は運動エネルギーを評価することを特徴とする。金属球の速度又は運動エネルギーを評価する際のリングクラックの直径は、好ましくは3mm以下、2mm以下、特に0.1~1mmである。リングクラックの直径が大き過ぎると、ヘルツ応力が小さくなり、ヘルツ破壊が発生し難くなる。つまり曲げ破壊が発生して、強度試験結果のバラつきが大きくなり易い。
【0021】
本発明の強度試験方法において、衝突させる金属球の速度は、好ましくは2m/s以上、より好ましくは5m/s以上、7m/s以上、特に好ましくは10m/s以上である。衝突させる金属球の速度が遅過ぎると、ヘルツ応力が小さくなり、ヘルツ破壊が発生し難くなる。つまり曲げ破壊が発生して、強度試験結果のバラつきが大きくなり易い。
【0022】
本発明の強度試験方法において、衝突させる金属球の直径は、好ましくは15mm以下、より好ましくは14mm以下、特に好ましくは13mm以下である。金属球の直径が大き過ぎると、ヘルツ応力が小さくなり、ヘルツ破壊が発生し難くなる。つまり曲げ破壊が発生して、強度試験結果のバラつきが大きくなり易い。
【0023】
本発明の強度試験方法において、衝突させる金属球のヤング率は、好ましくは150GPa以上、より好ましくは170GPa以上、特に好ましくは200GPa以上である。金属球のヤング率が小さ過ぎると、衝突時に試験体よりも金属球が変形してしまい、ヘルツ応力が小さくなり、ヘルツ破壊が発生し難くなる。つまり曲げ破壊が発生して、強度試験結果のバラつきが大きくなり易い。なお、ガラス材料、セラミック材料のヤング率は100GPa前後である。
【0024】
金属球として、高炭素クロム鋼材が好ましく、例えば、SUJ-2(ヤング率:207GPa)等が好ましい。
【0025】
本発明の強度試験方法において、試験体の肉厚は、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは3mm以上、特に好ましくは4mm以上である。試験体の肉厚が小さ過ぎると、金属球の衝突時に金属球が変形して、ヘルツ破壊が発生し難くなる。つまり曲げ破壊が発生して、強度試験結果のバラつきが大きくなり易い。
【0026】
試験体は、平板形状が好ましい。このようにすれば、試験体の取り扱いが容易になると共に、強度試験結果のバラつきを低減し易くなる。
【0027】
試験体は、セラミック材料又はガラス材料が好ましく、ガラス材料が特に好ましい。ガラス材料は、脆性材料であり、また表面の傷により破損し易いため、強度試験結果がバラつき易いという特徴がある。よって、ガラス材料であれば、本発明の効果が的確に享受することができる。
【実施例0028】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0029】
表1は、本発明の実施例(条件No.1~4)と比較例(条件No.5,6)を示している。
【0030】
まず市販の窓板ガラス(ソーダ石灰ガラス:板厚2、4、8mm)の原板を使用し、50mm×50mmのサイズに切り出し、試験体とした。次に、試験体の4辺を金属製の枠(枠幅5mm)で4辺支持した後、表中の速度で表中のSUJ-2製の金属球を衝突させて、ヘルツ破壊の発生有無を確認した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から分かるように、条件No.1~4では、直径1mmのリングクラックよりコーン形状のクラック片が生じたため、ヘルツ破壊が発生した。クラックの起点が直径1mmのリングクラックであった。条件No.5、6では、リングクラックが生じておらず、コーン形状のクラック片が生じなかった。そして、条件No.5、6では、ラジアルクラックのみが発生し、曲げ破壊であった。クラックの起点はソーダ石灰ガラスの引張応力面全面であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の強度試験方法は、ガラス材料、セラミック材料の強度試験方法として好適であり、窓板ガラス、ディスプレイ用ガラス基板、電子部品用ガラス基板等の強度試験方法として特に好適である。
図1
図2